いつになったら主人公は出てくるんだ(困惑)
え?キリトが主人公?
……はは、そんな馬鹿な
整合騎士エルドリエ・シンセシス・サーティワンとの戦闘は熾烈を極めた。
予測可能だった鞭による攻撃は予測困難な軌道を描き、蛇のように襲いかかってくる。
「中々によく粘る。禁忌を犯していなければ良い騎士に成れただろうに」
しかし、その激闘もエルドリエが苦しみ始めたことで終わりを告げた。
ユージオの記憶から導き出されたエルドリエの過去。
そしてエルドリエの額から顔を覗かせる三角柱状の結晶。
きっとあれが、アリスが別人のように変わってしまった原因。
ユージオの呼び掛けにエルドリエ・ウールスブルーグとしての記憶を取り戻しかけたその時、空からの強襲に中断せざるおえなかった。
飛竜に跨がり弓を構える深紅の騎士。
頭上からの砲撃と見間違える程の弓撃に曝され、身を隠す場所を探しながら庭園を逃げるしかなかった。
しかし、謎の声に従い逃げた先に見えた活路。
手招きをする手が覗く光の扉のようなもの。
藁にも縋る思いで、そこに逃げ込もうとした俺に放たれた一矢。
引き延ばされた時間の中、その矢が回避も許されないほどの正確さで俺の額を貫くかと思ったがーー
「■■■■■■■■■!!!」
巨大な影が咆哮と共に俺の額を貫く筈だった矢をその左手で受け止めた。
「メガロス……?」
見間違えるはずもない。
その巨体、その威圧感、そして濃密な死の気配。
どこから現れたのか。
その疑問が頭に上ることはなく。大木を思わせる腕の一振りで扉の向こう側へと弾き飛ばされた。
扉の向こう側になんとか到達できた。
そこはまるで図書館とでも呼べる場所。
なんでもこの世界の全てがここに納められてるんだそうだ。
ユージオを風呂へと行かせた後、カーディナルと名乗る少女の口から語られたこの世界の真実。
公理協会最高司祭アドミニストレータの正体と狂気。
アイツがいたら間違いなくキレそうな事ばかりだ。
「そうじゃ。こいつをお主にやろう」
「これは……?」
彼女から手渡された一冊の手帳。
促されるまま開いてみれば、これは日記のようだ。
取り敢えず手持ちにあったこれを日記にしようと思う。
最初に感じたのは何かが肌に刺さる感覚。
それから閉じた瞼を貫く光。
鳥類の囀ずり、肌を撫でる風。
ゆっくりと目を開けば憎たらしいほどに澄んだ青空が視界一杯に広がっていた。
そして疑問。
どうして俺がここにいるのか。
俺はーーだれなのか。
あれから森を散策した。
山の麓にある洞窟の中も調べた。
洞窟の最奥、山の向こう側だろうか?まるで境目であるかのように地面の色が違う。
向こう側は、またあとで調べよう。
見た限り自然はない。つまりあちら側で食料確保が難しいってことだ
野兎を仕留め血抜きをして焼いただけの簡素な食事をしながら、森を貫く様に生える巨大な大木へ視線を向ける。
明日は向こう側を散策しようか。
頭痛が酷い。まだ日が落ちる前だが今日は休もう。
混乱の極み、とはこの事か。
眠る前まであった森が地震と嵐が同時に襲って来たかのような悲惨な有り様だった。
木々は薙ぎ倒され、狂ったように濁流が割れた大地を削りながら流れる。
眠る前と後で周りの風景が一変していた、というのは以前にもあったような気がする。
頭が痛い。
洞窟の中が騒がしい。
どうやら緑色の体をした生物が騒いでいるようだ。
どうみても友好的な生物ではない。
見付からないように隠れておくのが懸命だ。
数ページ捲り
日が落ちた後の記憶がない。ここ幾度かある現象だ。
一際大きな壁に囲まれた街を見下ろせる場所に居たはずが、気が付けば洞窟の中にいた。
洞窟から出てみれば、そこは初めて散策した山だった。
未だ戻らない記憶の手掛かりにと、あの街へ向かったというのにまた振り出しだ。
頭の奥が酷く痛む。
酷い雨だった。
叩き付けるような豪雨と落雷。
なんとか人混みに紛れ街の中へと入ったはいいが、どこから手を付ければ良いのか。
適当に歩き回れば知り合いでもいるかもしれないと、歩き回ってたのが悪かったのかもしれない。
それにしても、あの金髪優男に言った『黒』とはなんなのか。また謎が増えた。
今日は頭痛がしない。良いことだ。
今は人気のない裏路地で体を休めている。
最近は頭痛だけじゃなく、体も痛むようになってきた。
身に覚えのない傷跡もある。
俺の体に何が起きているのか。
ああ今日もまた日が落ちる。
俺はーー
ここで日記は途切れている。
この日記の持ち主は、あの日ユージオが話したローブを着た男だろうか?
「どうしてこれを俺に?」
「その日記を記したのはお主と同じ、外界から来た人間だからよ。名前までは知らぬがな」
日記の通りだとするとこれを書いた人は何かの実験を強制されているように受け取れる。
「まさか……メガロス?」
可能性は捨てきれない。
そしてこの人は記憶喪失の可能性もある。
「まぁそうであろうな。この世界の日暮れと同時に外側からの干渉が強まっておる。そして最近は昼夜問わずになりおった。メガロスが何者であれ、アドミニストレータとしてはこの世界を維持せねばならん。じゃが……」
【最終負荷実験】
人界とダークテリトリーとの戦争。
メガロスの征伐が目前に迫り、成し遂げたとしても疲弊した戦力では勝ち目はない。
「勝つにせよ負けるにせよ外界の観察者たちには望む結果であろうな」
「外で何が起きてるんだ?」
「……ふむ。ワシにも詳しいことは分からぬが、分かることがあるとすれば二つの計画が同時にこの世界で行われておるということ……いや、一つは目的が達せられずとも構わないようじゃが」
どういうことだ?
「メガロスを用いて事を進めておるようじゃが、一貫性がない。ワシの目から見ればただ闇雲に暴れさせておるだけと言える」
「それが目的だとは……?」
「ふむ……メガロスではなく、それに影響されたフラクトライトが目的か。あるいは暴れる事で得られるデータか。どちらにせよ、碌でもない計画であることに違いはあるまいて」
そう切り捨て彼女は再び口を開いた。
「ワシはこの世界の終末を仕組んだラースを……そんな神を断じて認めぬ。故にワシは唯一の結論に至ったのじゃ。アンダーワールドを人界もダークテリトリーも全て纏めて無に帰す」
俺の助力でアドミニストレータを討ち取り、カーディナルが全権限を取り戻す事ができたなら、この世界を消滅させる。
正常な世界が分からない彼女がこの世界を正す方法がそれしか思い付かないのだと。
「今はアドミニストレータが優先じゃ。メガロスに気を取られている今が最大の好機。見逃す手はない」
ワシと手を組むか否か。
提示された条件はアドミニストレータを討ち取れれば、ライトキューブに親しいフラクトライトを残したままこの世界を消去する。
つまり、ユージオやセルカたちを助けられる。
悩む必要なんてなかった。
「分かった。承けるよ。でも考えるのは止めない。最後に待ってるのが悲劇でも回避する方法があるかもしれない」
「……楽観的じゃな。この世界の残酷さを知らん。じゃがそれが人間なのかもしれんな」
「待たせたな、ユージオ」
「あ、キリト……その人は?」
「この人はカーディナル。整合騎士と戦う上で力を貸してくれる」
「戦うもなにもお主たち武器がないじゃろ」
「「あ……」」
忘れてた……。
「はぁ……お主たちの武器はセントラル・カセドラルの三階にある」
「アドミニストレータは?」
「このセントラル・カセドラルは日に日に高さを増しておる。今は百階に迫ろうと言うところかの」
ひゃ、百階……。気が遠くなりそうだな。
「お主たちの武器は確かに強力じゃ。しかしそれだけでは整合騎士には勝てん。あやつらには武器を数倍に強化する術がある」
「それって【武装完全支配術】ですよね?」
「然り」
そう言って彼女は手を叩く。
目の前に現れる羊皮紙。
びっしりと書かれた内容に目眩が起きそうだ。
「しっかりと読んでおくのじゃぞ……あぁ言い忘れておった。整合騎士は額にモジュールを埋め込まれておる」
そのモジュールが埋め込まれた人間の記憶を奪っている元凶。
そしてアリスを取り戻す為には記憶を揺さぶるだけでは足りず、アドミニストレータが寝所に隠した記憶の欠片を取り戻す必要がある。
「この短剣を使え。本当はアドミニストレータに使うために用意した予備じゃが、一度で決めれば問題あるまい」
「うっ……責任重大だな」
その短剣で刺されればカーディナルの一時的に支配下に置かれ、記憶の欠片を取り戻す間の時間稼ぎになるんだそうだ。
「分かりました。説得に失敗したときはこれを使います」
「うむ」
まずは剣を取り戻して、百階まで登りアドミニストレータを討つ。その間の整合騎士を相手取ることもあるだろう。
やることが多いなぁ……。
「メガロス征伐が近付いておるとはいえ、整合騎士は間違いなくセントラル・カドルに配置されておるじゃろう。あの女は慎重じゃからな」
扉を開き彼女は告げる。
「地獄の業火に焼かれるか、全てが無に帰すか。全てはお主たちの手に委ねられておる。行くがよいキリト、ユージオ」
「それにしてもキャスパーが懐くとはのう」
「え?知ってるのか?カーディナル」
「然り。そやつはワシの機能を一部とはいえ共有しておるからな」
「「え?」」
今回が一番の駄文かもしれない……