カセドラルが正解です。
短いですが
下品な笑い声が狭い部屋に木霊し、この部屋の主である私はそれを黙ってみていることしかできなかった。
ーー嗚呼、これは夢だ。あの人と初めて言葉を交わした日の夢。
『いい加減五月蝿ぇ!そんな馬鹿騒ぎしてぇなら他所でやりやがれ!』
お世辞にも人柄が良いとは言えなかった。
遠藤さんたちの笑い声が壁越しに響いていたらしく、不機嫌そうなのを隠そうともせず怒鳴り込んできたのだ。
連日とはいかないまでも隣から聞きたくもない笑い声が聞こえてきたらそれは怒るだろう。
私だってそうする。
遠藤さんの男友達が少しビビらせてやろうとあの人の顔へ拳を振るった。
だがそれは脅威にすらならないとばかりに受け止められ、逆に捻り上げられる結果に終わる。
『これ以上馬鹿騒ぎ続けるつもりなら家主共々ここから追い出す。なんならこいつの腕一本イっとくか?』
ドスを効かせた地を這うような声に我に帰った遠藤さんたちは、引ったくるように自分の鞄を手に我先にと逃げ出していったんだ。
『……ふん』
不機嫌そうに鼻を鳴らし、私に視線を合わせた。
『誰かを利用する馬鹿は嫌いだが、唯々諾々と利用されてる馬鹿はもっと嫌いだ』
そう言い残しあの人は自分の部屋へ戻っていった。
次の日、呼び鈴の音に部屋から出てみればあの人が工具箱片手に立っていた。
『お前独り暮らしなんだってな』
言われたことに反応出来ずに固まっていると工具箱を床に置き、扉のチェーンロックの部分にナニかを取り付け始めた。
電池ボックスとそれに繋がれた赤と黒のコード、そして何かの回路。
電池ボックスはチェーンロックの固定具へコードはドアノブへ、回路は電池ボックスの横へそれぞれ固定していく。
手慣れた手付きで20分足らずで作業を終わらせたらしくさっさと工具をしまっていく。
『簡単な防犯だ。部屋にいるときは鍵とチェーンロックを掛けてここのスイッチをオンにして、ここのランプが光ってんのを確認しろ。もし誰かが開けようとすれば電流が流れるようになってる……とは言って精々スタンガン程度だけどな』
どうして?と訪ねてみても不機嫌そうに鼻を鳴らすだけで答えてはくれなかった。
その後、『なにか問題はないか?』と何度か声を掛けられた。
目は合わせず、ぶっきらぼうに。
まるでドラマとかに出てくる不器用な父親のような物言いに小さく噴き出してみれば、また不機嫌そうに鼻を鳴らした。
ーー器用なのに不器用なヒト……。
休みの日はバイクを弄ってるか部屋にいるのか微かに物音が聞こえてくる。
リアルの姿があの人と知らずに出会ったアルトの背中を追い、信じ求めてきた強さを砕かれあの人に惹かれーー
「ーーん」
「あ、おはようシノのん」
「ええ、おはよう明日奈」
ここ数日眠れなかったことが祟ったのか、それとも少なくとも表面上は無事な彼の姿を画面越しに確認できたからか、押し寄せてきた睡魔に抗えず眠ってしまっていたようだ。
恐らくトドメはスーツケースの中に潜り込んだことだろうけど。
「人の気も知らないで貴方はアンダーワールドの中でも相変わらず、なんでしょうね」
菊岡の話では常に変態ーーキリトの位置情報を確認できているものの肝心のアルトの姿を確認できていないそうだ。
少なくとも無事でいてくれるはずだ。
「キリトの様子はどう?」
「担当医さんもいるし心配することなんてないんだろうけど……」
不安そうな様子でガラスで隔たれた向こう側で眠る、愛しの彼へと視線を這わせる明日奈へ言葉はスピーカーから鳴り響く警報が掻き消した。
『外部から侵入者!繰り返す!外部から侵入者!』
歯車は廻り始める。
『ではまず確認しておくぞ?まずユージオとキリトはセントラル・カセドラル三階に保管されたお主たちの剣を回収、そして【
整合騎士と戦いになる以上は剣は必須。
そして俺たちの切り札となる【武装完全支配術】もまた然り。
整合騎士を打ち倒しながら、セントラル・カセドラルを駆け登り、アドミニストレータを討つ。
やるべきことは明白ではあるものの、気の遠くなるような話だ。
でも膝を折る理由にはならない。
勝負は心が屈した時点で勝敗が決まる。
悪足掻きに過ぎなくても抗い続ける。
それがアイツの背中を見続けて学んだこと
『じゃがメガロスがこのセントラル・カセドラルへ侵入したことがアドミニストレータに知れた今、徴集されていた騎士たちもここへ集まってくるじゃろう。時間が経てば整合騎士だけでなく無数の騎士たちも相手取ることになる。行動はなるべく迅速にな』
『でもメガロスはどうしてここに?』
『さてな。ラースに何かしらの意図があるのか、或いはメガロス自身の意思か』
カーディナルは語った。
メガロスの元となっているフラクトライトは人間が持ちうる攻撃性や破壊衝動を極限まで引き出されているのだと。しかしその反面、常人ならば僅か数分で廃人になるほどの強い負荷が脳に掛かる。
俺よりも早くアンダーワールドに現れたことを考慮し現実での時間に置き換えて考えれば、既に手遅れの状態である可能性は高い。つまりメガロス自身の意思でセントラル・カセドラルへ侵入したとは考えにくい。
しかし、あの手帳ーー日記を読む限りでは自意識はしっかりしてる。それに深紅の騎士から俺を庇い、カーディナルの待つ扉の向こう側へ手荒ながらも送り出した。
つまり…………どういうことだ?
ああ……こんがらがってきた……。
『ラースからのバックアップがある以上、あの怪物を討ち倒すのは無理じゃろうな。傷を負い、時には死してもラースの操作ひとつで再起動しおる』
惨い……。
意思を奪われ、ただ命じられるがままに戦いを強いられる……あれ?どこかで同じようなことがあったような……?
『わしはこの部屋からは出れん。もしここから出れば、すぐさまアドミニストレータがワシを捕捉し、有無を言わさずを消しに掛かる筈じゃ。そうなればアリスという整合騎士を救う手だてもなくなる』
あの大図書から出られないカーディナルの目と耳になっているのがキャスパー、幸運の獣。
あの日記もキャスパーを通して手に入れたらしい。
「お前……もしかして凄いのか?」
「
……なんかすごい罵倒された気がする。
構成は思い付いてるのに文字に起こせない……