sword art onlineー黒と灰ー   作:戒斗

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第十三章:暴虐の化身

大気を震わせる咆哮、その手に握られた石斧剣が振るわれる度に風が逆巻き、完璧に避けた筈の体を崩される。

 

その一撃一撃が必殺であり、牽制もフェイントも読み合いも一切ない。

小手先の技は小賢しいとばかりに踏み潰し叩き潰す。

 

ようやく負わせた傷も目に見える速度で塞がり、こちらが疲弊していくばかりだ。

 

暴虐の化身《メガロス》

 

悪夢のような……いや寧ろ悪い冗談であって欲しい馬鹿げた存在。

 

「ユージオ!合わせてくれ!」

 

「分かった!」

 

うるさい羽虫でも追い払うように振るわれる腕でさえ、マトモに受ければ致命傷になりかねない。

丸太のような豪腕が屈んだ背中を掠め、振り切った左腕が虫で潰すかのように上から振り落とされる。

 

回避も防御も間に合わない。

 

でも俺は一人で戦っている訳じゃない。

 

「はあぁぁぁ!!」

 

意識外からの咆哮に顔を向けたメガロスの眼前には《蒼薔薇の剣》を掲げたユージオの姿。

 

振り下ろされた切っ先がメガロスの左目を切り裂き、一瞬の停滞を見逃さず右脇腹を切り払い距離を取る。

 

しかし傷も瞬く間に塞がり、傷を負わせる前よりも強く押し潰されんばかりの殺気をぶつけてくる。

 

「■■■■■■■■■!」

 

床に罅を走らせながら踏み締める。

 

来る……!

 

「二人とも!下がりなさい!」

 

金木犀の騎士が俺たちの前に躍り出ると同時に瞬間移動と錯覚するほどのスピードで彼女の前に出現、大きく振りかぶり放つ横凪ぎは初速で音の壁を超え、彼女諸共余波によって俺たち二人もまとめて吹き飛ばされた。

 

壁に叩き付けられ、意識が遠退く。

 

メガロスの咆哮を身で受けながら、彼女と共に奴と戦うことになったのか思い出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

セントラル・カセドラルを駆け上がり、幾度か整合騎士を破り、また駆け上がる。

完全武装術の体得も完全とは言えないが、発動させることは出来るようになった。

 

そうして辿り着いた50階。

あまりに異様な雰囲気に足を止める。

 

鼻を覆いたくなるような濃密な鉄の臭い。

 

そこにヤツは居た。

全身を血に染め、空気が震えていると錯覚するほどの殺気、濃密に漂う死の気配。

 

暴虐の化身《メガロス》

 

右目は金、左目は深紅の光を放ち口からは呼気と共に蒸気が吐き出される。

たてがみのような腰まで届く灰の髪をなびかせ、次なる哀れな獲物(犠牲者)を探すように唸り声を上げ──

 

目が合った

 

途端に空気が破裂するが如き濃密な殺気を叩きつけられ、俺もユージオも足を竦ませてしまう。

 

「キ、リト…」

 

「ああ、分かってる…」

 

先に進むには《メガロス》を打ち負かすしかない。

 

退却は出来ない。時間が無い。

 

それになりより──

 

「■■■■■■■!」

 

この死神が背を向けることを許さない。

しかし何故だろう。コイツに背を向けることを許さない自分がいることにも気付く。

 

「やるしかない、いけるか?ユージオ」

 

「う、うん」

 

お互いの愛剣を引き抜き眼前の敵へと構える。

 

俺たちの戦意を感じ取ってか僅かに《メガロス》が笑ったように見えた。

哀れな獲物への嘲笑か、新たなる闘争への歓喜か、或いは───

 

「ま、ちなさい」

 

突然、傍らから聞こえた声に眼前の敵から注意を引き剥がされる。

 

俺たちが入ってきた入口の脇、何かが叩きつけられひしゃげた壁の下に金の鎧に身を包んだ少女が(うずくま)っていた。

 

「あれはあなた達の手に負える怪物じゃない。禁忌目録を犯したお前たちは洗礼を待つ身。大人しく牢へ戻りなさい」

 

ユージオの想い人、アリスがそこにいた。

 

「アリス!」

 

「この状況でそんな悠長なことは言ってられないだろ。それにアイツはもう待てないってさ」

 

アリスに気を取られた瞬間に殺そうと思えば殺せたはずだ。しかし奴は俺たちに干渉せず、ただ戦意を滾らせたまま逸る体を抑えつけているように見える。

 

岩から削り出したかのような石斧剣を既に事切れた騎士から引き抜き、夥しい血に濡れたそれを肩に担ぐように構えた。

 

何度も見た、幾度も剣を交えたアイツと同じ構え。

 

「四の五の言ってる暇はない。共同戦線だ」

 

「仕方ないですね。しかし《メガロス》のあとはお前たちです。それを忘れないように」

 

「………■■■■■■■■■■■!

 

奴の咆哮と共に戦いの火蓋が切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キリト!」

 

ユージオの声に飛びかけた意識が戻ってくる。

 

眼前には《メガロス》の右脚が断頭斧の如く振るわれていた。

 

思考を置き去りに見てくれも構わず、身を投げ出すことで辛うじて回避に成功。

俺の背後にあった壁に激突したものの、まるで障害にもならないとばかりにそのまま振り抜かれた。

 

飛来する破片から身を守りつつアリスとユージオに合流した。

 

石斧剣による力任せな攻撃だけかと思えば、石斧剣による攻撃が間に合わないと判断した瞬間に唯一の得物を放り投げ一撃一撃が必殺の徒手空拳へと切り替わる。

 

僅かに掠めるだけでも体勢を持っていかれるというのに、それが連撃で襲ってくる。

本当にめちゃくちゃだ。

 

「【エンハンス・アーマメント】!」

 

ユージオの【武装完全支配術】が解放され《メガロス》は氷塊の中へと閉じ込められた──

 

「■■■■■■■!」

 

かに見えたが、自らを閉じ込める氷の檻を粉砕し、まるで力の差を見せつけるように咆哮。

 

「《メガロス》は1度殺した技に耐性を持ちます!同じ技は通用しないと思いなさい!」

 

そう1番厄介なのがアリスの言葉通り、死亡耐性能力とも言うべき能力。

致命傷、あるいはそれに準ずるダメージを受けた際にその攻撃に対して高い耐性を持つようになる。

 

1度はユージオの【完全武装支配術】で動きを封じ込めることに成功したが、それも今では僅かな間しか動きを止めることが叶わない。

 

戦えば戦うほどに、殺せば殺すほどにその不死性と耐性の高さによって蹂躙される。

 

「お前、【完全武装支配術】は?」

 

「辛うじて」

 

まだ完全には習得出来ていない。しかし奴を打ち倒す為にはなりふり構ってられない。

 

「合わせなさい。あの壁の向こうは外。《メガロス》を外へと押し出し、現状を打破します」

 

既にアリスの【完全武装支配術】も《メガロス》に致命傷を負わせていて、傷を負わせることは難しいらしい。

しかし傷を負わせられなくともその衝撃までは殺せない、と。

 

…やるしか、ないか。

 

「分かった。タイミングは合わせる」

 

作戦会議は終わりか?そう言わんばかりに床を踏み鳴らし、こちらへと歩み寄ってくる。

その歩みは緩慢、しかし一足飛びで彼我距離を無にするほどの脚力がある以上は気は抜けない。

 

「「「【エンハンス・アーマメント】!」」」

 

アリスの持つ金木犀の剣は刀身が花弁へと変化し、その1枚1枚が岩をも砕く威力を誇る。

そして俺が持つ剣はギガスシダーの硬さ・鋭さ・重さを攻撃力へと変換する。

 

ユージオの青薔薇の剣の【完全武装支配術】で足を止める。

一瞬でいい、その一瞬で決着をつける!

 

再び閉じ込められた氷の檻から脱却した《メガロス》の胸元目掛け俺とアリスの剣が振るわれる。

 

しかし──

 

「なっ…!」

 

「そんなのありか…!」

 

俺たちの剣はまるで児戯と言わんばかりに、振り払われた左腕に弾かれた。

 

そして果敢に挑んできた哀れな獲物へ待っていたのは断頭斧の如き回し蹴り。

《メガロス》を追いやるはずだった壁へと逆に俺たちが叩きつけられる。

 

肺の空気を全て吐き出し、咳き込みながらも見上げた先には石斧剣を振り上げた《メガロス》。

 

「バケモノめ…」

 

アリスの震える口から吐き出される恨み言も今まさに振り下ろされる石斧剣を鈍らせるには至らない。

 

石斧剣を握る右手に力が篭もるのを認め、何かないかと探るが何一つ目の前の脅威を退かせる手立てが思い浮かぶことは無かった。

 

 

突然、壁を貫き降り注ぐ雷。

 

その雷によって床が崩れ、俺とアリスそして《メガロス》はセントラル・カセドラルの外へと吐き出された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なにかに受け止められている感覚に目を開ければ、俺の横には気を失ったアリスが横たわっていて、俺たちを受け止めているのが巨大な右手だと分かりハッと顔を上げる。

 

俺たちを受け止めた手の主は先程まで殺し合っていた《メガロス》だった。しかし先程までの戦意や殺意は微塵も感じることが出来ない。

 

「お前……俺たちを助けたのか?」

 

《メガロス》は何も答えずセントラル・カセドラルの外壁へと手を近付ける。

 

「んっ…」

 

「アリス、気が付いたか」

 

「お前は…っ!《メガロス》!」

 

急に暴れるなって!

 

「とりあえず落ち着いてくれ。この状況じゃお互い満足に戦えないだろ」

 

後半は《メガロス》へと言葉だが、当の《メガロス》はセントラル・カセドラルの上へと視線を向けていた。

その横顔から読み取れるのは戦いを邪魔された憤りか、或いは俺たちよりも優先するものを見つけたのか。

 

「《メガロス》も俺たちに興味がなくなったみたいだし、俺たちも真似して剣を突き刺してぶら下がるか。アリスも《メガロス》の手の上にいたら気が気じゃないだろ?」

 

その気になればこのまま握りつぶすことも出来るが、俺は《メガロス》がそんなつまらないことはしないと確信に近い思いを抱いていた。

 

「殺し合っていた相手の温情で生かされるとは…」

 

外壁のつなぎ目へ剣を突き刺し、問題ないことを示せばアリスも難色を顕にしながらも俺と同じように剣を刺してぶら下がる。

 

俺たち2人が手から離れたことを確認すると空いた右手を外壁へと突き刺した。そして刺していた左手の石斧剣を引き抜き、右腕の腕力で壁を壊しながら上へと跳躍、そしてまた右腕を突き刺すを繰り返し、あっという間に見えなくなった。

 

「なんだというのだ、奴は…」

 

確かに。理性のない殺すためだけの存在かと思えば、まるで人間のような一面を覗かせる。

 

「とりあえずの提案なんだが、中に戻るまでは休戦ってことにしないか?」

 

「……この状況では仕方ない。だが中に戻った時、お前の天命も尽きるものと思え」

 

ユージオとは分断されてしまったけど、目下最大の危機は去った。

だけど《メガロス》の目的がなにか分からない以上、また殺し合うことになるかもしれない。

 

さっきの1戦のおかげでどう足掻いても殺される未来しか見えないけど、その時はその時だ。




こんなにも期間が空いてしまい、お待ち頂いてる読者の方には本当に申し訳ないです
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