「ーーで、いつまでそうしてるつもりだ」
「お前……いや、あなたがリアルでピトと会うと確約していただけるまで」
「お互いメリットはねぇだろ」
「メリット……つまりあなたに何かしらのメリットがあれば会っていただけると?」
「どうしても俺とあの毒鳥を引き合わせたいのか?【ミヌアーノ】としての俺じゃなく、SAO
「……っ」
見抜かれてる……。
「簡単なこったろ。男が一人の女のために頭を下げる。理由としちゃそれだけで十分だし、俺に思い当たる節はそれぐらいしかねぇしな」
そこまで言って、元々鋭かった目付きがさらに鋭利なものへと変わった。
「だかこそ断るっつってんだ。なにも知らねぇ奴が面白半分に首突っ込んでくんじゃねぇよ」
「それは違います!」
「あ?」
「SAO
「さぁな」
「彼女は元βテスターでした。ですが正式サービス開始初日、どうしても外せない用事ができてしまいました。その後の人生を左右する重要な用事が」
その後、彼女はデスゲームに参加できなかったことで自傷行為に走るまでに情緒不安定になってしまいました。
リアルでの仕事に打ち込むことで一時的には落ち着きましたが、殺人集団のギルドが存在していたこと、そしてゲーム攻略を目指すプレイヤーたちに倒されたことを知ると、それまで抑え込んでいたものが一気に吹き出しました。
そして彼女はこう考えるようになりました。
SAOに負けた。失敗したんだと。
「それで
「これです」
「SAO事件全集……【ラフコフ】征伐戦か」
彼女が何度も読み返したページ。
正義の名の元に人が人を殺すことを容認された出来事。
「あなたのことも書いてあります。作戦参加者の中でも最も多く【ラフコフ】構成員を手に掛けたと」
「人を殺した感想でも聞かせろってか?ふざけてんのか、テメェ」
「それは違います!彼女に伝えてほしいのです!人を殺すとはなにか、死とはなにかを。誰よりも死に近い場所にいたあなたの言葉なら彼女に届く筈なんです」
彼女の心の内に秘める暴力と破壊衝動、死への憧れを消し去ることができなくとも。
「…………事情は理解した。だが過去の話を蒸し返してテメェらに得があっても、俺にはなんのメリットもない」
「ピトはリアルでとあるライブハウスを経営しています。今度そこで行われる神崎エルザのシークレットライブに無償で入場できる、というのは?」
「別にライブとか興味は……待て、神崎エルザ?」
「ええ」
「…………人数制限は?」
「10人未満であればなんとか」
ウィンドウを開き、ホロウキーボードに指を走らせる。
メールだろうか?操作をやめて数秒後にウィンドウに目を走らせため息を溢した。
「そのシークレットライブのチケットを買えない奴がいてな。そいつと仲間数人の入場、それが第一条件だ」
「分かりました」
「第二条件、そいつらには一切関わらない関わらせない、引き合わせない。それが守れんなら、会ってやってもいい」
「そこのストーカー野郎に付きまとわれた挙げ句、こっちが根負けした訳だ」
彼ーー三神颯真さんはピトのリアル、神崎エルザと会うための条件を隠し、ただ私に付きまとわれて根負けした。
そう押し通すことで、彼の仲間を彼女に引き合わせないようにした。
恐らく彼の仲間もSAO帰還者。
そのことが彼女に知れれば、彼の仲間にも関心が向くだろう。それを避けるためのカバーストーリー。
「テメェの椅子になってるマゾストーカーの提案に乗ったのは、テメェの真意がどこにあるか確かめたかったからだ」
「真意?」
「テメェが求めてるのは俺と違って純粋な闘争じゃねぇ。傷付け傷付けられ、殺し殺される。破滅願望、破壊衝動……死への憧れにも似た狂気を感じる」
……この人はどこまで見抜いているんだろう。
SAOサバイバーであり、【ミヌアーノ】の異名を待つGGO界屈指の実力者。
放つ
「まぁ否定はしないよ。傷付けるのも傷付けられるのも、殺すのも殺されるのも、どれもこれも私が生きてる実感を、確かに忍び寄る死の気配を感じるためだからね」
「……あぁそうか、お前見てると無性に腹が立つのは昔の俺を見てるからか。生の実感を得る。その為に周囲の人間に牙を剥いてた頃の俺に」
「そうかもね。でも、こうして面と向かい合ってみて確信したよ。私とアンタは似ているけれど違う」
「俺は闘いの中で自分の生を実感できる。お前は生も死も感じるためだけに闘ってる。似てるどころかまったく真逆だ」
お互いが似ていると言いながら、本質は逆であるとお互いに否定し合う。
「【
「別に戦うことに狂ってる訳じゃない。戦うことでしか自分を表現できない。ただそれだけのことであって、それで繋がった絆もある」
「それがこの……攻略組最強と名高い【黒の剣士】様って訳だ。『この二人が肩を並べれば勝てない敵はいない』だってさ」
「事実だ。俺とアイツが肩並べて戦って負けたことなんざ一度もない。これまでもこれからも。例え、どんな理不尽が相手だろうとしてもだ」
三神さんの言葉から感じる揺るぎのない全幅の信頼。
「ひとつ教えといてやる。死ってのは憧れるほど良いもんじゃない。死の先にはなにもない。全くの虚無だ。それでも死に憧れるってんなら、自分のやるべきことすべてを片付けてからにしろ」
自分の信念を最後まで貫いて倒れるなら本望ってもんだろ?
そう言い残し三神さんは楽屋をあとにした。
自分の信念を最後まで貫く……SAOでもあの人は最後まで貫いていたんだろうか?自分の信念を。
「これで何回目だよ……」
「こんな美女を目の前にしてゲンナリなんて、失礼極まりないと思わない?」
「GGOに来る度、お前とエンカウントする俺の身にもなってみろ。つか、何で俺の居場所が分かるんだよ」
「私には追跡な得意な彼氏がいるからねぇ」
「追跡じゃなくストーキングの間違いだろ合法ロリ」
「ゲームに私情を持ち込むなんてナンセンス☆」
「黙れ死滅願望者」
「いやん辛辣」
言葉のナイフを容赦なく突き刺すアルトさんに対しのらりくらりと受け流すピトさん。
Mさんからアルトさんの居場所を教えてもらい文字通り飛んで会いに行く日々。
……なぜか私まで連れ回される羽目になってる。
「そこのピンク玉の顔見てみろ。お前の都合に振り回されて呆れてんぞ」
「レンちゃんと私は一心同体だからね。どこに行くにしても一緒なのさ……お泊まりはさせてくれないけど」
「両刀のお前と一晩過ごすなんざ願い下げなんだろ」
「ひっどーい」
《KTR-09》と《レミントンM870ブリーチャー》を構えるピトさんに対し、アルトさんは腰に携えた《ムラサマ》ではなく湾曲した刃を持つカランビットナイフと無骨な直剣を構えた。
「ようやく【双刃】とご対面だねぇ」
「お前がメールでうるせぇからな。取りたくもねぇ《銃剣生成》スキルまで使って用意してやったんだ……お陰であいつらに浮気だなんだと疑われる羽目になったんだが」
短剣と大剣を組み合わせて戦う様から【双刃】。それを再現した名付けるなら【擬似双刃】。
「つかおまえどんだけ同じモン持ってんだ?何回売り払ってもキリがねぇんだが?」
「リアルマネーって偉大だよねぇ」
「廃課金者が」
「それよりも前の話、考えてくれた?」
「お前とステージに立つってやつだろ?悪いが丁重に断らせてもらう」
「音痴なんて誰も気にしないってぇ」
「俺は音痴じゃねぇ」
「音程バリバリ外してたくせに」
「黙れ」
ピトさんのシークレットライブの案内をするためにMさんが事前にアルトさんと交換、そしてピトさんがMさんから連絡先を聞き出したらしい。
それからちょくちょく会っているそうだ。
まぁピトさんからの一方的なものらしいけど。
「だったらこれに私が勝ったら話を飲んで貰うからね」
「勝てたらな」
「言質は取ったからね?それじゃいざ尋常に……」
「「勝負!!」」
ピトさんこんな口調だったけ?
活動報告にアルトのFGO風ステータスを書いてみました。興味のある方は活動報告へどうぞ