夢を見た。SAO時代の夢。
剣戟の海の中、手にした大剣がプレイヤーを斬り裂きその命を奪って回る【
俺はあの日、確かに命を奪った。ゲーム内の命だけでなくリアルの命も。
ヒトとしての禁忌。赦される事のない罪。
『お前は悪くない』
そう言って誰も俺を裁くことはしなかった。
まぁそうだろう。あの混戦の中、自分の身を守るにはそうするしかなかった。あの場にいた連中全員が理解してる。
だが、俺自身は別だ。
だからこそ俺の見る夢はいつだって過去の罪。ただ暗く執拗に陰湿に過去の罪を突き付ける。
見て見ぬ振りはしない。いつだって向き合ってる。
だけどーー
「弱ぇなぁ俺」
目を覚まし天井を見上げながら呟く。
いつでも気を張って生きてれるほど人は強くない。
ふとした隙につけ込まれ、突き崩され、膝を折る。
俺だって人間だ。いつでも気を張れる訳じゃねぇ。
それでも今までは夢に見てもいつも通りに振る舞えてた筈だ。原因は恐らくーー
「【
浮遊城の亡霊、【ラフコフ】の残党。
SAOが遺した負の遺産。
そしてザザと邂逅し、改めて自覚した己の罪。
だが、それから目を背けてしまえば人として致命的なナニかから逃げることになる。
俺もアイツも己の弱さを呪い続けてきた。己の罪と向き合ってきた。受け止め背負って生きていくと決めた。
「ああ、そうだ。俺は独りじゃねぇ」
どんな過酷な道でも一人で歩いていく訳じゃない。
アイツには背中を支えてくれる奴らがいる。
そして俺の後ろを歩くヤツがいる。
なら折れる訳にはいかねぇ。
アイツらに情けねぇ姿を見せなれない。
そして過去は無かったことには出来ない。
それはあの世界で散っていった連中を無かったことにすることだ。
人は人生の中で二度死ぬ。
一度目は文字どおり肉体が死んだとき。
二度目は人の記憶から忘れ去られたとき。
あの世界の出来事を無かった事にするなら、そいつらが託した想いも意思も、そしてそいつら自身も無かった事にすると言うことだ。
それをしてしまったら、俺は俺自身を許さないだろう。
どんな過去であれ、己の一部だ。
だからこそ、過去を否定することは自分自身すら否定する事に他ならない。
地獄へ堕ちる身だからこそ、忘れてはならない。
誰よりも己を律して生きなければならない。
誰よりも己を赦さず生きなければならない。
洗面台の鏡に写る自分の顔を見る。
忘れるな。過去は罪は己の影だ。
どこでどんな風に生きたとしても絶えず付いて回る影法師。
自分の手を見る。
血にまみれた己の手。これでは触れたもの全てを血で汚してしまうだろう。
足元を見る。
凄惨な表情を浮かべた死者が奈落へ引きずり込もうと手を伸ばしている。
玄関のノック音に僅かに気を取られ、視線を戻してみれば血にまみれた手も奈落へ引きずり込もうとする死者の姿もない。
──幻覚……それもそうか。
罪の意識が作り出した虚影。
俺自身が俺自身の心を折ろうと作り出した幻。
ああ、それでいい。他の誰よりも俺は俺を許しちゃならない。大丈夫だ。いつも通り嗤えてる。
オーディナル・スケールへの伏線だったり。