sword art onlineー黒と灰ー   作:戒斗

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久々の執筆のためリハビリがてら番外編


穏やかな時間 鼠の場合

すっかり馴染みとなった宿屋の一室にてオイラの護衛役と情報の整理をしていた時、ふと思い出したことを訪ねてみる。

 

「アル坊知ってるカ?」

 

「知らねぇよ」

 

「お決まりの返しをどうもありがト。まァ、とにかく本題に入るとしテ、男女ペアでとあるNPCに話しかけるってイベントなんだケド……」

 

「なんだそれ……そういやアスナの奴が張り切ってキリトを探してたな。鬼気迫るって感じだったし、キリトの奴も本気で雲隠れしたが」

 

アーちゃん……。

 

「で?情報屋としてはそのイベント内容が気になるってか?」

 

「まぁナ、クエストであることは間違いなく確かダ」

 

「ま、だろうな。男女ペアってことは、また人生のソロプレイヤーは涙を流すな」

 

喉を鳴らす笑い方は本当に悪役のようだと思いつつも、言った本人もソロプレイヤーではないのかと脳裏を掠めるが口にはしない。

言ったところで大した情報は手に入らないだろうし、何より反応も面白くなさそうというのが大きい。

 

……決して脳裏を掠めた嫌なビジョン(彼女持ち)が真実になることが怖いわけじゃない。

 

 

 

 

 

 

 

「で、まさかの聞けた内容が『身だしなみを整えるといいことがある』なんて情報だけとはな」

 

 

「まァ情報なんて裏取りができるまでは、ただの噂程度だしナ」

 

身だしなみを整える……なんの事だかサッパリ思いつかない。

 

「身だしなみを整えるって言や、真っ先に思い浮かぶのは服装だよな」

 

「防具や服の耐久値ってことカ?だとしてモ、それが男女ペアである必要性はないシ、攻略組なら常に気を使っていることだロ?」

 

「服や防具以外の身だしなみ……髪とか髭とか……いや、だとしたら……」

 

ぶつぶつと独り言を呟き始めた護衛役。

こうなると外部からの情報を一切シャットアウトするから、話しかけるだけ無駄になる。

思考の海に潜る速さと深さが早く深すぎるせいで、集中力が全てそっちに持ってかれるのが原因なのだ。

 

一度こうなってしまうと自分から戻ってこない限り、外部から刺激を与えても一切の反応を示さなくなる。

 

「そういや、この前のドロップアイテムに…」

 

指を宙に走らせ、なにかのアイテムをオブジェクト化。

手のひらサイズのガラス瓶に入ったそれは目のケアに使うそれ。

 

「目薬カ?」

 

「おう。なにかに使うもんだと思って取っと置いたんだが使う機会もなくてな。それ以降ドロップもしねぇし」

 

躊躇いなく点眼薬を両目にさした護衛役の反応を待つが…

 

「どうダ?」

 

「なんも変わらん。クール系の目薬って訳でもねぇから特に刺激もすくねぇしな」

 

身だしなみを整える…男女ペア…もしかして……

 

「誰かにしてもらう必要があル、のカ?」

 

「可能性はあるな、てなわけで」

 

オイラの後ろに回った護衛役に上向きに顔を固定される。

 

「ア、アル坊…嘘、だよナ?」

 

「んだよその反応……まさか目薬さすのが怖いとか言わねぇよな?」

 

「顔がいじめっ子になってるゾ!」

 

落ちてくる水滴に反射的に目を瞑ってしまい、その都度目をこじ開けられる。

そうして何度目かのチャレンジで両目に点眼薬をさされた。

 

「で、どんな具合だ?」

 

「アル坊にめちゃくちゃにされた……」

 

「言い方考えろ!」

 

点眼薬が目に馴染む感覚にゆっくりと目を開くと、部屋の中がよりクリアに見える気がする。

が何が変わったのかなんと言っていいのか。

 

「ん」

 

「ン?」

 

「とりあえず片目だけさしてくれ」

 

差し出された目薬を受け取り、片目だけ開いた護衛役の目に点眼薬を落としてやる。

 

「なるほど、解像度が上がる仕様か。つっても誤差の範囲だが、しないよりはマシってレベルだ」

 

片目ずつ開き部屋を見渡した護衛役の言葉に納得する。

男女ペアで何かをしてもらう、してあげることで何かしらのバフを貰える仕様。

誤差の範囲だとしても明確な差が生まれる。

だとしても──

 

「カップル限定じゃないカ?コレ」

 

「だな、好き好んで見ず知らずの奴にすることでもねぇしな」

 

身だしなみを整えてあげる、が正解というわけだ。

確かにこれはカップル限定の仕様。

 

カップルには売れる情報だけどあまり役には立たなさそうだ。

 

「まさか目だけってことはねぇだろうし視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚の五感に関わることだろうな」

 

「目は目薬として聴覚は耳掃除ってことは予想がつくナ」

 

「味覚、嗅覚、触覚は歯磨き、鼻掃除、スキンケアか?役に立ちそうなモンは持ってねぇぞ」

 

触覚が手ではなく肌という認識であれば、エステのようにオイルとかでマッサージでも良さそうな気がする。

 

「もしかしたラ、肌じゃなく爪っていう線もないカ?」

 

「爪か……たしかに身だしなみって点で言や肌よりも爪だよな」

 

情報屋としての楽しみはこういった少ない情報から考察して議論して、こうかもしれない、ああだったかもしれないと無数にある道を辿り、予想を立てて正解に近付くことである。

アルゴとしてでは無く帆坂朋(リアルの私)としての生態なのだ。

 

こうした考察勢としての生態が情報屋としての基盤になっている。

勿論、考察という名の妄想とならないよう裏取りもしっかりと取るけど。

 

「んじゃま、試すか」

 

「何から試ス?」

 

「爪切りなんて便利なもんはねぇし、目薬はさっきやったしな。あとは口と……耳か?」

 

「だナ。歯磨きは……ちょっとハードルが高いかナ」

 

「耳かき棒なんかSAOにあったか?」

 

「似たような物ならあるゾ?」

 

「あるのか、マジか」

 

茅場は何考えてんだ、とボヤく護衛役。

インベントリから耳かき棒をオブジェクト化して渡す。

 

「ほラ、膝を貸してくレ」

 

ベッドに腰掛け横に座るよう叩く。

隣に座ったアル坊の膝に頭を乗せる。

 

あ、やば。これは中々……

 

「痛かったら、言えよ?」

 

耳の中へ耳かき棒が入ってくる感触がある。

 

「ンー、確かに耳の中を掻かれてる感触はあるナ」

 

「違和感は?」

 

「特にハ。リアルでやってるのと変わらないナ」

 

「流石SAO。こんな細かい所まで再現してんのか」

 

「意味あるのカ分からない仕様だけどナ」

 

リアルと違って爪が伸びる訳じゃないし、虫歯になる訳でもない。日常生活の再現という点では合格点以上だが、必要かと問われれば否である。

 

普段の言動に似つかない丁寧さで耳の中を掻くアル坊に少し不安を感じる。

 

「ところデ、随分慣れた感じだけド、アル坊は誰かに耳掻きをした事はあるのカ?例えバ、か、彼女とか……」

 

「はぁ?んなもんいねぇよ。妹分がいてな。そいつらにやってやった事があるだけだ。それはそれとして、あんま動くなよ?結構神経使うんだからよ」

 

良かった。何がとは言わないけど良かった。

 

「にしてもやる意味あんのかね?」

 

「確かめない事にハ、情報屋は務まらないヨ」

 

「確かに。やってる側としては特に耳垢は無いからな。耳の壁を掻いてるだけって感じだ」

 

これ気持ちいい……誰かにやってもらってるだけでこんな気持ちになるんだ。

 

「フッ」

 

「うにゃぁぁ!」

 

耳に息を吹きかけられ変な声を上げてしまう。

 

「あ、つい」

 

「やるならやるっテ、言ってくレ!」

 

「ところでどんな感じだ?音の聞こえ方に変化はあるか?」

 

「ンー片方だけ高音質イヤホンを付けてる感ジ。よりクリアに聞こえルというカ」

 

「なるほどな。音の波長をより正確に聞き取れるようになるのか……ほら次反対」

 

「え?」

 

「え?じゃねぇ。片方だけじゃ気持ち悪ぃだろ」

 

頭の位置を入れ替えると彼の腹が眼前に広がり、アンダーアーマー越しに割れた腹筋が見える。

エッチだな、これ。

 

「そんじゃ再開だ」

 

カリカリと掻かれる感触が入口から奥へと進んでいく。

 

「痒いとこはあるか?」

 

「ないヨ。むしロ気持ちいいぐらいダ」

 

「なら良かった」

 

いつもの粗暴な言動と裏腹に丁寧な指捌きで耳かきが進み、耳の奥側を掻かれた際にビクリと体を震わせてしまう。

 

「あ、そこもう少し強ク」

 

「ここか?」

 

あーやばいこれ、癖になる……何のバフがなくても定期的にして欲しくなる。

 

「んーこんなもんか?」

 

「ン、もうちょっと……」

 

「やってる側としては特に面白みはねぇんだけど?」

 

「黙って手を動かセ」

 

「横暴じゃね?」

 

うるさい、バカ、アホ、朴念仁。

 

「終わりが見えねぇしこれで終わり」

 

「エ〜」

 

「え〜、じゃねえ」

 

「仕方なイ、それじゃ今度はオネーサンがやってあげよウ」

 

「はぁ?」

 

「お礼兼報酬だヨ」

 

「俺は別に…」

 

「恥ずかしいのカ?」

 

「そういうんじゃねぇけど」

 

互いに体勢を入れ替え渋々と言った感じでアルトは私の膝に頭を乗せる。

太ももに乗せられた頭の重みと膝枕をしているという甘えられているかのような感覚。

んーこれはこれで中々…

 

男女の過分な接触と判断されたのかハラスメントコードの通報ウィンドウが表示される。ウィンドウを指を横に振って消す。

 

「どうかしたか?」

 

「ハラスメントコードの通報ウィンドウが表示されただけダ。オイラがセクハラされてルってカーディナルに判断されたみたいダ」

 

「マジか」

 

「マジだヨ。黒鉄宮に興味があるなら通報しようカ?」

 

「あんなとこに入るぐらいならお前から黒鉄宮の情報を買った方がマシだ」

 

「お得意様価格で6割増しでどうダ?」

 

「ふざけろ鼠」

 

「ニャハハ〜」

 

んー、こうしてやってみると確かに耳の中を掻いてるだけで特に面白みは……いや、あった。膝に乗ったアル坊の横顔。それを見ていると胸の奥を(くすぐ)られるような感覚。

 

「悪くない、かも?」

 

「何が悪くないって?」

 

「な、ななななんでもない!」

 

時間溶けるわ、これ。

数分か十数分か経と声をかけた。

 

「アル坊、そろそろ……あれ?」

 

目を閉じたまま穏やかな呼吸をする護衛役。

 

「もしかして寝ちゃった?」

 

他人が近い場所では寝ることはなかったとキー坊から聞いたことがあった。それってつまり……

 

「少しは心を許してくれた、ってことかな?」

 

おやすみ、アルト。いい夢を




私にイチャイチャは無理だw
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