次のフェアリィダンス編も肉付け中。
記憶喪失の少女を保護した。
そのメッセージが届いたのは、つい先日。
本当ならば、だからどうしたと一蹴するところだが、気になるのは"記憶をなくした"ということ。
そんなことあり得るのかと思うが、考えてみればこのSAOは電気信号を脳に流し込み、仮想世界に反映してるのだから、記憶が無くなればそれも反映されるのか?
「あーわっかんねぇ」
考えてみても直接会ってみないことにはなんとも言えねぇな。なによりまた弄るネタができたのだ。退屈はしねぇだろ。
場所を変えて再び二十二階層。
キリトたちの愛の巣もといログハウスに足を運び、アスナと戯れている幼女に目を向ける。
「ふーんあの子が例の?」
「あぁ。少し前にこの階層で幽霊騒ぎがあったんだけど、その正体がこの子、ユイだった」
「キリトが産んだ子か」
「話聞いてないだろお前!ていうか何で俺が子供を産んでるんだよ!!」
ギャンギャン騒ぐキリトを無視し、もう一度アスナと戯れるユイと呼ばれた少女を観察してみるが、一層にある施設で見た覚えがない。
キリトの話では他の階層でこの子の親が亡くなり、そのショックで記憶を無くしてしまったのでは?ということ。
有り得なくはないが、戦い方も知らないような幼女が、他の階層からここへ来れるか?
見た目は十歳前後。確かに年端もいかない子供が居ない訳でもないが、どうもな。
「取り合えず、一層に向かうぞ」
「一層?どうしてまた」
「あそこには子供たちを保護してる施設がある。なにかしら手掛かり位はあるかもな」
あそこには孤児院的な施設がある。あそこなら顔見知りがいるかも知れねぇ。
「先方には連絡をいれておく。四十秒で支度しな」
「もう少しくれれば嬉しいしネタが古い」
それぐらい自覚はある。
苦笑するキリトを急かしウィンドウを開いた。
一層《はじまりの街》
あのチュートリアルからもう二年になるのか。
二年掛けで七十四層。
計算上ならばあと一年掛ければクリアできるが、次のボスは最後の
どれだけの犠牲が出るかわかったもんじゃない。
「置いて行くことはないだろ」
「行き先は分かってんだ。先に行こうが行くまいか結果は同じだ」
《生命の碑》の前で落ち合おうと勝手に出て来たのだが、十分も待たないうちにお三方の姿が見えた。
相も変わらずこの街は閑散としていて、NPC達の声が寂しく響くだけだ。ユイに見たことがある景色がないか聞いていたアスナとキリトもそれを訝しんでる様子だ。
「アルト君、今この街にどれくらいの人がいるの?」
「【軍】も合わせて二千いない程度。殆どは戦うことを拒否した腰抜け。それが悪いとは言わねぇがな」
まぁ結局、と続け
「向き不向きの問題だ。荒事が得意な奴もいれば、アルゴみてぇに情報収集が上手い奴、エギルとかリズみてぇに商売に長けた奴」
閑散とした街を巡りながらキリトが見覚えがないかユイに聞いてるが、あまり進捗はねぇみたいだな。
「力の形はそれこそ千種万別。人の数だけ存在する。俺みてぇに戦う力を持つ奴、アスナみてぇな誰かを思える奴、キリトは、まぁ心が折れてもまた立ち上がれる奴になるか」
途中で疲れてしまったユイはキリトの背中で眠ってしまった。まぁユイに街の様子を見せるために止まったり、迂回したりしていたから疲れてたのか。SAOに疲労感はないから気分の問題だろ。ガキには難しい話だしな。
「ラフコフみてぇに誰かを傷付け悦に浸る奴、【軍】みてぇに自分より弱ぇ奴にしか強く出れねぇ奴」
「よく見てるんだな」
「まぁな。
そんなことを話しているうちに孤児院である教会が見えてきた。門の辺りで止まり、すこし大き目の声を張り上げた。
「サーシャ! いるかー!?」
その声が反響し、木霊すると教会の扉が開けられ眼鏡をかけた女性、サーシャが現れた。彼女はこちらに気が付き軽く頭を下げたが、なにか扉の向こうでごそごそとやっているようだ。
それに「どうかしたか?」と声をかけようと近づいたところで、扉が勢いよく開け放たれ、大勢の子供たちが俺に向かって突撃してきた。彼等はそのまま容赦なく押し倒し、上にのしかかって来る。
「アルにいひさしぶりー!」
「最近全然こなかったじゃんか!」
「ねぇねぇ新しく手に入った剣みせてー!」
「わかった! わかったから! 痛ってぇ!髪ぃ引っ張んな!!ぐぉ!?マントを引くな首が絞まる!!」
やたらめったら引っ張ってくるもんだから外套が首に絡まるわ、髪を引っ張られるわ、頬をつかまれるわ散々だ。
ガキ共を一旦落ち着かせ、何とか立ち上がり軽く体をポンポンと叩くと、申し訳なさそうにやってきたサーシャにジト目を送る。
「ごめんなさい、アルトさん。中で待っててっていって置いたんですけど、みんなアルトさんが来るって知ったら歯止めが利かなくなっちゃったみたいで・・・」
「オレそんなに人気者だったか?」
「まぁ子供たちからすると攻略組の方たちは憧れですし。それで、私に御用がある人たちというのは?」
サーシャが問うて来たので背後にいるキリトとアスナを紹介しようと振り向いたのだが、そこには子供たちに囲まれてあたふたしている二人がいた。
「はぁ」
子供たちを捌けさせるために適当な剣やらメイスやら斧やらをオブジェクト化して教会の庭に放り投げる。
「ガキ共、その剣とか好きにしていいぞ」
それを言うと子供たちは我先にと剣のほうに駆けて行った。その様子を見ていたサーシャがまたしても「ごめんなさい」と小さく謝る。
解放された二人は苦笑いを浮かべ、眠っていたユイも目を覚ましてしまったようだ。この場で紹介しようかとも思ったが、サーシャが先に中へ促してるし、ガキ共は武器で遊んでるし、あとでいいだろ。
通された部屋で椅子に座った俺達にサーシャは熱いお茶を出してくれた。
「それでお話というのは?」
「あぁそうだった。この二人はオレの友人のキリトとアスナだ。二人とも、この人がサーシャ」
それぞれを紹介すると三人は互いに頭を下げた。そのままキリトにユイのことを話すように促す。
結果的に言うとサーシャはユイのことを知らなかった。
まぁなんとなく予想はついていたのでやっぱりかと思ったが、キリトとアスナは残念そうに俯いていた。当のユイは特になにか残念がるとか悲しそうにする様子はなかったが。
「すみません、お力になれなくて」
「いえいえ。あ、そうだ。アルト君とはいつお知り合いに?」
暗くなった空気をアスナが解消しようとサーシャに尋ねた。彼女の問いにサーシャは顔色を伺う視線を送ってきたので、肩を竦めて返した。彼女もその意図を理解したのかアスナとキリトに話を始めた。
「アレは大体一年くらい前でした。うちはアレだけの子供たちがいるので生活費を圏外のモンスターを狩って稼いでいるんです」
「それはサーシャさんが?」
「いいえ、私は小さい子達の面倒を見なくてはいけないので、ここの教会の中でも年長者の子達が稼いでくれているんです。なのでここで生活しているプレイヤーの皆さんよりもそれなりに生活には余裕があるんですが、ただそのせいで目をつけられてしまって」
「目をつけられた?」
「【軍】の徴税部隊。あっちの言い分は守ってやってんだから金を払えってな。ふざけた奴らだ。街の中ならモンスターも入ってこねぇってのにな」
「そうです。最初は教会の外で騒ぐ程度だったんですけど、段々と過激になってきて・・・。その時にアルトさんが工面してくれてその場はなんとか」
「へえええ~」
キリトとアスナがなんともいえない笑みを浮かべながらこっちを見てくる。そんな目で見るんじゃねぇ。
「勘違いすんな。
行儀悪く座りながら弁明するが、アスナとキリトは相変わらずニヨニヨとしている。そんなにおもしろいか。
「私達に生活費の足しということで何度もお金をくれたんです。本当にもう感謝をしてもしきれないくらいですよ」
「なるほど~。そんなことやってたんですねぇ」
「人は見かけによらないってのはまさにこういうことだよなぁ」
「うっぜぇ」
なんで羞恥責めなんぞされなきゃならねぇんだ。
部屋の扉が何の前触れもなく大きな音を立てて開け放たれ、入って来たのは数人の子供達。
「サーシャ先生! 大変だ!」
「こら、お客様に失礼でしょ!」
「それどこじゃないって!」
赤毛の少年が目に涙を浮かべながら訴える。そして彼から出た次の言葉に全員の顔が強張ることになる。
「ギン兄ィ達が、【軍】の奴等につかまっちゃったよ!」
「場所は!?」
表情を強張らせ毅然とした態度で立ち上がったサーシャがたずねると、少年は涙を溜めたまま言う。
「東五区の道具屋裏。十人ぐらいで道をブロックしてる。コッタだけが逃げられたんだけど・・・」
少年はサーシャをもう一度見た後、俺の方を見てきた。それは彼だけではなく、その他の子供たちも頼みこむような表情をしていた。
ったく、しょーがねぇな。
俺は渋々、アイテムウインドウを展開。椅子から立ち上がってフィギュアを操作し大剣を背負った。
「おまえらはどうする?」
キリトとアスナに問うと二人は互いに頷きあった。子供たちの救出には俺、サーシャ、キリト、アスナが向かうことになった。ユイは置いていこうと思ったのだが、どうしてもついていくというのでキリトが背負う形に。
ほかの子供たちは危険だということでサーシャが止め、俺達は子供たちがいるという空き地に向かう。
その途中、サーシャは告げてきた。
「アルトさん。最初は私が交渉します」
「了解」
彼女の言葉に少し迷いつつも頷いた。交渉が通じる相手であればいいけどな。
そのまま走り、尚且つショートカットを繰り返していたのであっという間に目的の東五区にたどり着いた。前方の路地に見覚えのある装備をした奴ら。数にして十人。徴税部隊で間違いねぇな。
サーシャが最初に路地に足を踏み入れたことで連中が彼女に気が付き数人が振り向いた。
「おっと、保母さんの登場だぜ」
バイザーをしていても口元の下卑た笑みはよく見える。ああいった笑みほど胸糞悪くなるものはない。自分よりも弱ぇ奴を虐げ、優越感に浸る最悪な人種だ。
「子供たちを返してください」
拳を握り締めて言うサーシャだが、軍の連中は相変わらず笑みを浮かべたままだ
「そう睨むなって。ちょっと常識ってもんを教えてただけだよ」
「そうそう。市民には納税の義務があるからなぁ。俺達【軍】の活動のために」
甲高い声を上げて笑う男達の理不尽な言い分にサーシャの腕が震えている。相変わらず馬鹿な連中だ。
なぜコイツらは学習をしないのだろうか。しないのでなく出来ないのか?
前方ではサーシャが子供たちに呼びかけ、【軍】の連中と交渉しているが、結局そこを動くことをせず、あまつさえサーシャたちにここで滞納している税金を払えというのだ。しかも金だけでなく、装備品や衣服、アイテムも全て。
背後でアスナが一歩を踏み出そうとしていたが、それを片腕を上げて制する。
「お前らは下がってろ。」
今の俺は随分酷い顔をしているだろう。そんなことは別にどうでもいい。目の前にいる最悪な人間を排除できればそれで構わない。
サーシャを退かせ前に出る。男達のざわめきが聞こえるが、背中の【ファラン】の柄を握ると、一気に彼等に肉薄し、目の前にいた二人の男目掛け横一閃。
「え?」
マヌケな疑問符が聞こえたが、容赦なくに振り抜かれた一閃は、男達に直撃。そのまま中空に舞った奴等は子供たちがいる空き地にまで吹き飛び、壁に激突した。
圏内だからダメージはねぇが、精神的なものは別。
圏外なら死ぬかもしれねぇ攻撃を受け続ければ、精神がもたねぇだろ。
「ごあッ!?」
「ぐえッ!」
壁に叩きつけられ、短い悲鳴を上げた男達は砂煙を上げて空き地へ落下。二人を吹き飛ばしたことで【軍】の連中は大口を開けていたが、すぐに我に返ると怒鳴りつけてくる。
うるせぇなきゃんきゃん喚くな。
「な、なんだテメェ! 任務を邪魔するのか!!」
瞬間、男顔面を目掛け切っ先を突き出す。剣が己の顔に迫ってくるのは相当の怖ぇだろ。
「この野郎!こっちは出るとこ出たっていいんだぞ 圏外出るか圏外!!」
そういった男とその周りの連中は頬に僅かながら汗を浮かばせているものの、笑みを浮かべていた。大方圏外に出れば逃げ出すと思ってんのか?甘ぇな。
「圏外?いいねぇ出てやろうじゃねぇか」
「え?」
そんな言葉に驚いた男が呆けた顔をするが、その男の胸倉を左手で容赦なく掴み上げ、そのままズルズルと引き摺る。
やっぱ、こいつら大してレベリングもしてねぇな。大方カツアゲばっかしてたんだろ。
「は、離せ!!」
「おいおいそっちが誘ったんだ、今更離せはねぇだろ」
「ヒッ!?お、おいお前ら、見てないでさっさと助けろよ!!」
俺を止めようと回り込もうとした連中の足が一斉に止まる。
止める気あんのかよ。
「赤い外套に大剣、こいつ攻略組の【双刃】アルト!?」
「【双刃】!?攻略組きっての戦闘狂!?で、でもなんでそんなヤツがここにいんだよ!!」
「知らねぇよ!!」
戦うのは好きだが戦闘狂って訳じゃねぇ。自分より強い奴がいるなら戦ってみてぇのがゲーマーだろ。
「ま、待ってくれ! あのガキ共に手を出そうとしたことは謝るから! 圏外は、圏外だけは勘弁してくれ」
「駄目だな。お前はあのガキ共を傷つけた。知ってるか?人を呪わば穴二つ。どんな生き方であれ、全部テメェに還ってくんだ」
因果応報。いずれ報いを受けるときが来る。俺だけじゃなくこの世界に囚われた奴も、リアルの人間も全員。
「い、嫌だぁ!!死にたくない、死にたくないぃぃ!!」
「殺しゃしねぇよ。俺は、な。両手両足斬り落としてモンスターの前に放り投げるだけだ」
「本当に、本当にもう二度とあの孤児院には絶対になにがあっても近づかないから許してくれ!いや、許してください!!」
「許せだぁ?今までテメェらが言われてきた言葉をそう簡単に使うのか?巻き上げた金を豪遊に使ってたテメェらが」
「つ、使った金は返すから!命だけは!」
・・・まぁいいか。
胸倉を掴んでいた男を棒立ちになっている奴らに投げ捨てる。
「そのままとっとと本部に戻れ。気の変わらないうちにな」
「し、しし失礼しましたあああああ!!」
連中はそのままドタドタと騒がしく帰っていった。大剣を背に戻し、ぐるりとガキ共を見るが全員無事のようだ。
サーシャたちを見ているとユイを背負ったキリトとアスナが俺の肩に手を置いてくる。
「お疲れさん」
「そんな疲れてもねぇさ」
「でもアレはちょっとやりすぎよ」
「ほっときゃお前だって細剣で脅してたろ」
「うっ」
痛いところを疲れたのかアスナは声を詰まらせた。
沸点低いんだから注意しろっての。
サーシャたちがやって来て子供たち共々頭を下げた。
「ありがとうございます、アルトさん。また助けていただいて」
「気にすんな。言ったろ?
「うん。兄ちゃんかっこよかったぜ!」
「俺もあんな風にでっかい剣を振り回してみたい!」
ガキ供の素直な感想に笑みを見せ、アスナとキリトも同じように笑っていた。
「バーカ、戦うのは俺達だけで十分だ。お前らはお前らの家族を守ってればいいんだよ」
しかし、その時小さな声が聞こえた。
「みんなの・・・みんなのこころが」
声のする方を見やるとキリトにおぶさっていたユイが虚空を見上げて右手伸ばしている。皆がそちらに目をやってもそこには何もない夕暮れの空が広がるだけだ。
けれど彼女は同じような言葉を繰り返している。ことの異常さにキリトが彼女に呼びかける。
「ユイ! どうしたんだ、ユイ!!」
キリトが呼びかけることでユイはキョトンとした表情を浮かべ、アスナも心配そうに彼女の手を握る。
アスナが入ったことで元々かなり小さい声が確認できなくなったが、表情は苦しげだった。
瞬間ユイの体が大きく仰け反らせ悲鳴をあげる。
同時に俺の耳にノイズ染みた音が響き、ユイを見ると体が透けるようにノイズが走っている。
驚いているのも束の間、アスナが彼女を抱きしめていた。
少ししてその現象は止まり、強張りを見せていたユイの体からも力が抜けていく。
「みんなの、こころ?」
ユイが右手を空に掲げていた時彼女が言っていた言葉を思い出し、頭を捻ったが結局それがなんなのかわからなかった。
ノブリス・オブリージュは本来、フランス語で高貴なる貴族の務めという意味です。
力を持っているのなら持てない人のために行使するという心構えのようなものですかね。
にしても過去最高の六千字超え。
詰め込みすぎましたかね。
というか、タイトルになってるのにユイちゃんが一言しか喋ってないorz