プログレッシブ、アニメ化しないかな
七十五層のボス部屋が発見された。
クォーターポイントであること、七十四層のボス部屋が結晶無効化空間であったことを踏まえ、今回は二十人の偵察隊を派遣し、先遣隊として十人がボスに侵入。
だがボス部屋の扉が突如として閉まり、次に開いたときには誰もいなかったという。
七十四層では結晶無効化空間ではあったらしいが、ボス部屋の扉は開いたままだったはず。結晶が使えねぇ上に退路も絶たれる。ファーストコンタクトがラストアタックになるわけだ
「今回ばかりはあんた以外死ぬかもな」
「その場合はそれまでだったということだ」
「それで?休暇中のあの二人も駆り出す訳か」
「そうでなければボスは倒せない。君も理解しているはずだ」
確かにあの二人が抜けた穴は大きい。
一人は戦力として、もう一人は士気として。
「感傷かね?だが、契約を忘れてもらっては困る」
「分かってるよ。けどあんたも忘れんなよ。契約の報酬を」
「承知しているとも」
二人とも悪いな。死地に駆り出すことになる。
だけど俺にも譲れねぇもんがある。
二十二層のログハウス。
気が重いな。何がって、新婚生活を満喫してるあいつ等を駆り出さないといけないってことに。
ヒースクリフの野郎、わざと俺を指名しやがったな……!
わざわざ呼びつけてまで何のようかと思ったら、七十五層のボス攻略の為に休暇中の二人に参戦するよう説得しろと来た。
あの二人はユイの一件以来、何時にも増してイチャつくようになった。晩飯に誘ってくれんのはありがたいが、目の前でイチャつくのは止めて欲しい。
時節キリトのヤツがドヤ顔してくるもんだから、殴り飛ばしてしまったのは間違いじゃねぇだろ。
そうそう【軍】は、一気にその勢力を縮小した。
キバオウのヤツも除隊させられたとか。
などと思考を明後日の方向に投げやっても目の前の問題は無くならねぇんだよなぁ……。
ログハウスの玄関まで来たはいいが、どう切り出せばいいのか。
「アルト君?」
「メッセージも送らないで来るなんて珍しいな」
後ろを振り向けばキリトとアスナの姿。
どっかに出掛けてたのか、アスナの手にはバスケットが握られている。
「おう、二人とも。どっかに出掛けてたのか?」
「湖の主釣りに」
「凄い大きかったね。アルト君にも見せたかったよ」
新婚生活を満喫しているようでなにより。
見つかった以上、切り出さないわけにはいかねぇよなぁ。
肩を落とした俺を二人は不思議そうに首を傾げていた。
「アルトの奴どうしたんだ?」
「さぁ?」
ログハウスに通され、取り敢えずヒースクリフからの用件とボス部屋の情報も知る限りのことを伝えた。
「説得するよう言われたが、ぶっちゃけ俺は来て欲しくはない。個人的には八十層が攻略されるまでな」
「用件は分かった。アルトの気持ちも嬉しい。けど行くよ、俺たち。それにアルト以外が説得に来てたら、追い返してたし」
「うん。アルト君にばかり負担がかかるでしょ?」
はぁ、全くお人好しだな。
「ヒースクリフには了承したと伝えとく。日時はあとで知らせるから、それまで精々イチャついとけ」
「「アルト(君)!!」」
リアルの日時なら十一月七日。この日七十五層コリニアの転移門広場には多くのプレイヤーが集まっていた。
俺を含めここにいる連中は攻略組。ボス攻略の為に集められているが、キリト達はやはり目立つんだろう。周囲のプレイヤーはキリトの姿を見てざわついている。
「来たな」
「当たり前だろ?最後のクォーターポイント。死力を尽くさないと勝てないかもしれない相手だ」
「やるからには本気。アルト君の流儀でしょ?」
キリトとアスナだけじゃなくクライン率いる【風林火山】、戦う店長エギルの姿もある。
よく見れば、数は少ないが【軍】の団員もいるようだ。
「アルトにキリの字、久しぶりだなぁ」
「よう、クラインまだ生きてたか」
「当ったり前よぅ」
「当たり前だろキリト。地球が滅んでも生き残ってそうな奴だぞ?」
「どういう意味だそりゃ!?」
G以上の生命力がありそうだ。
やいのやいのと談笑してたが、【血盟騎士団】のメンバーが転移してきたのをきっかけにプレイヤー達のざわめきが一気に消えた。
ヒースクリフは周囲を見回すと一度軽く頷いた。
「欠員はないようだな。皆、よく集まってくれた。状況は既に察していると思うが、これより始まる戦いは今まで以上に厳しく、熾烈なものとなるだろう。だが私は、君達の力ならば突破できると信じている。――解放の日のために!」
ここから希少アイテム回廊結晶を使い、ここにいる全部隊を直接ボス部屋の前に転移する手筈になっている。
確かにその方が迷宮区を通ってボス部屋に辿り着くより部隊全体の消耗を抑えられる上に、足並みも崩れない。
ボス攻略の為とはいえ、希少アイテムを使うことに
「では皆、ついてきてくれたまえ」
一度部隊全体を見回した後渦の中に足を踏み入れる。それと同時に奴の姿は消滅し転送された。そして続くように【血盟騎士団】の幹部クラスが続き、その後に部隊のメンバーが続々と光の渦に飲まれていった。
「皆、分かっていることだと思うが今回の討伐に際してボスのパターンは分かっていない。基本的には前衛を我々KoBが務め君達にはそれぞれ柔軟に戦ってもらいたい」
全員が頷くとヒースクリフは扉に向き直った。
「行こうか」
奴が扉に歩み寄って扉に手をかける様子を他のプレイヤー達は緊張した面持ちで見ていたが、俺は胸が高ぶるのを感じた。悪い癖だ。強い相手がいると聞くとついつい戦いたくなってしまう。
周囲を確認すると既に殆どのプレイヤーが抜刀していた。そして真正面を見ると巨大な扉は人一人が通れるくらいまで開いている。
全員が抜刀し終えると、一番最後にヒースクリフが長剣を抜き、正面に掲げた。
「――戦闘、開始!」
力強い声と共に彼がボス部屋に足を踏み入れ、それに部隊全員が続く。
中に入ると部屋がドーム状であることが分かった。広さはかなりある。グリームアイズ戦の比ではないだろう。
そして皆が室内に入り中央辺りまで来た直後、背後で轟音と共に扉が閉められた。やはりボスが死ぬかプレイヤーが全滅するか出られない仕様の様だ。
けれどそれから少しずつ時間が経過しても一向にボスが出現しない。
「おい――」
沈黙に耐えられなくなった誰かがそう漏らしたが、部屋の上部で何かが軋むような、こすれあうような音がするのを感じた、瞬間。
「ーーっ!上よ!!」
アスナが鋭い叫びを上げた。それにつられて全員が天頂部を見上げるとそこには巨大な百足のようなモンスターがいた。
人間の脊椎のようなものの節からは細い骨で出来た足が生え、頭頂部は人間の頭のような頭蓋骨が乗っかっている。けれどその頭骨は人間のものとはかけ離れており、窪んだ眼窩が四つ、その奥には敵意をむき出しにした蒼い炎が宿っている。顎には凶悪さをあらわすような牙が整然と並び、頭骨の両脇からは大鎌を思わせる鋭利な刃が覗いている。
表示されたカーソルにはHPバーと同時に名前が表示された。《The Skullreaper》直訳すれば《骸骨の刈り手》とでも言うのだろうが、ゲーム風に言うなら《髑髏の死神》の方がしっくり来るだろう。
長いから骨百足でいいだろ。
全員がボスだと確信した瞬間、気持ち悪く天井を這い回っていたボスは自身の身体をささえていた足を一気に広げて部隊の上に落下してきた。
「固まるな! 全員距離をとれ!!」
ヒースクリフの鋭い声に呆然としていたプレイヤー達が一気に距離をとり始めるが、反応が遅れたのか三人が逃げ遅れている。
キリトが三人に逃げるように叫び、奴らは我に返ったようにこちらに走ってくる。しかし、走り出すと同時に髑髏百足が降り立ちフロア全体が大きく揺れた。逃げ遅れた三人はそれに足を取られて縺れさせた瞬間、大鎌にも似た刃が彼等の身体を横薙ぎに薙いだ。
容赦ない横一閃の攻撃をまともに喰らった身体は宙を舞い、その間にもHPは凄まじい速度で減少する。その勢いは一気にイエローになったかと思うと、それに続いてレッドへ移行。
そして彼等のHPはゼロになった。
HPが底をついたことで三人の身体にノイズが走り、ガラスが割れるような音と共に空中で砕け散った。
その光景にアスナが息を詰まらせキリト達が愕然としていた。今回の攻略組のパーティーのプレイヤーは皆上位プレイヤーだ。レベルも殆どが八十五を越えているだろう。
先ほどの三人であってもそれは同様だ。しかしそんな奴らでさえもたった一撃。
「最終クォーターポイントらしい鬼畜難易度だな」
軽く肩を竦めつつも骨百足を見据えると、ヤツは別のプレイヤーの一団に狙いを済まして向かって行く。プレイヤー達は恐怖で逃げ惑うが、容赦など一切ない大鎌が振り下ろされ、それを防ぐようにヒースクリフの十字盾が阻む。骨百足はもう一方の鎌を振り上げてプレイヤー達を薙ごうとした。
全力で地を蹴り、突き立てられようとしていた鎌の真下まで行くと大剣を下段に構える。同時に黄色の光が刀身を包み、大鎌と大剣が激突した。
「らぁぁ!!!!」
雄たけびと共に大剣は振り抜かれ、火花と共に黄色の燐光が弾ける。スキル《ライジングドラゴン》。
この攻撃は無意味ではなかったようで、骨百足を見ると大きく身を仰け反らせている。
「デケェ鎌は俺とヒースクリフで請け負う!テメェ等は足を掻い潜って一撃離脱を最優先!ぜってぇ深追いすんな!!」
「ふむ。見事な采配だ。指揮官としての素質があるのではないかね?」
「ハッ!冗談!俺に人を率いる資格なんざねぇよ!」
鼻で笑いながら返すが余裕がある訳じゃねぇ。
ヒースクリフと入れ替わり立ち替わり骨百足の大鎌をソードスキルで弾き、鉄壁の盾で阻む。
その間も全部隊が、絶え間なく骨百足を体を攻撃しているが、防御力が桁外れなのかHPバー一本辺りの総量が多すぎるのか。
未だ一本目のイエローゾーンにすら届いていない。
「耐久じゃこっちの分が悪いっつーのに!」
死闘は始まったばかりだ。
遂に骨百足の巨体がダウンした。
一時間以上掛かったか?ようやくラスト一本のレッドゾーンにまで削ることができたわけだが、正直生きた心地がしねぇ。
ポリゴンが弾ける音と悲鳴。正面に陣取った俺は一つでも捌き損ねれば即死。
だが、一度ダウンすればあとは削りきるだけだと思っていた。すべての足を切り離し、蛇のように這いずるのを見るまでは。
自切行動とか蟹かよ!?
「クソがっ!」
先程まで以上の速度の速度で動き回り、その攻撃力をもってプレイヤーに襲い掛かる。
高火力・高機動を両立させたその形態に悪態をつく。
バランスブレイクどころの話じゃねーぞ!?
幸運なのは形態変化の間も攻撃が集中したお陰か、ヤツのHPはあと数ドットであることか。
一撃でも加えられれば勝敗は決するが、如何せん速すぎる。
タイミングを図り損なえば骨百足に轢き殺されるか、巨体で磨り潰されるか、あの鎌で両断される。
相討ち覚悟でやるしかねぇ……!
恐怖はない。胸が張り裂けんばかりに脈動するが、死を乗り越えんとばかりに全身に力がみなぎる。
もちろん幻覚かもしれない。それでも出来る。俺ならやれる!
骨百足の正面から突貫し、ヤツの間合いに侵入する。キリトの制止する声が聞こえるが、既に鎌の一撃は放たれた。
右からの攻撃を地面に倒れんばかりに姿勢を下げることでやり過ごし、時間差で振るわれた左の鎌を身を捻りながら飛び上がって回避する。
目の前には轢き殺さんばかりに迫る骨百足の頭蓋。
「いい加減!くたばれぇぇええ!!」
身を捻った勢いのまま振りかぶった【ファラン】をヤツの眉間目掛け振り落とす。
結果は直撃。ヤツのHPをゼロにすることに成功したが、その勢いのまま撥ね飛ばされ無様に地面を転がることになった。
くそ、あのまま着地して決めるつもりだったんだが……。
レッドゾーンに入り、減り続ける自身のHPを口に運んだハイポーションの回復量で打ち消す。
「無茶するなよ……」
「結果オーライだ」
差し出されたキリトの手を取り立ち上がろうとするが、結局その場に座り込むのが精々だった。
「うへぇカッコ悪ぃ」
二つ目のハイポーションでようやく回復量が上回ったんだろう。HPがグリーン手前のイエローまで回復した。
全く冷や冷やさせる。
熱血かと思えば冷めていて、クールかと思えば表情豊かで、脳筋かと思えば頭が回って、捻くれてる。
でも芯が強くて
ガキは嫌いだとか言いながら、孤児院の子供たちには戦う以外の強さを教えていたし。口ではあーだこーだ理由をつけるが、なんだかんだ言って力を貸してくれるそんな奴だ。
だからこそコイツだけには負けたくない。
「何人死んだ」
「二十三人」
「そうか」
でもたまに見せる無感情さには、言い知れない何かがある。
自分が興味のない人間の名前は憶えないし、助けようともしないこともあった。今、亡くなった人数を教えても人ではなくその数字に反応したように見える。
でも一先ず七十五層のボスは攻略した。
みんな疲れてるみたいだし、転移門をアクティベートして街に戻ろう。
アルトから離れアスナの隣に座り周囲を見渡せば、みんなその場に座り込んでいる。
無理もない。それだけの死闘だったんだ。精神的な疲労は計り知れないだろう。
その中でただ一人、ヒースクリフを除いて。
やっぱりHPがイエローまで落ちてない。
ポーションを使っていた様子はなかった。【
その時頭の中でなにかが噛み合った。
ボス戦でもイエローに落ちないHP、ユイのシステム的不死、そして以前のデュエル。
「キリト君?」
まだ誰も気付いていない。確かめるチャンスは今しかない……!
気付かれないよう中腰になり、そのまま駆ける。
座り込むプレイヤーを避け、奴と直線になった瞬間にソードスキルを発動する。
片手剣の基本スキル《レイジスパイク》
突きを繰り出すこのソードスキルは、俺が使うなかでも最速を誇り、突きという特性上最短距離で奴に届く。
ーーはずだった。
見馴れた夕日を思わせる鮮やかな紅色の光に包まれた、これもまた見馴れたーーいや、毎日のように見ていたあいつの大剣が俺の剣を下から弾き上げたのだ。
「なんで……どうしてお前が……?」
俺の前に立ちはだかったのはーー
「どうしてだよ!?アルト!!」
スカルリーパーさん微強化。
アニメで見た感想が、「足切り離したら蛇みたいになるんじゃね?」と思い付いた結果こうなりました。