……改訂版しか書いてない気がする。
最新話も書いてますのでしばしお待ちください。
「どうして……どうしてだよ!?アルト!!」
俺の絶叫に大したリアクションもなく鼻で笑うだけだった。
「大した理由はない。言うなれば利害の一致だ」
利害の一致?ヒースクリフに協力することでなにか優遇されることがあるのか?
「俺とお前は性格は真反対な癖に思考は似ている。考えたはずだこのゲームの創造主、茅場晶彦はどこで監視し調整をしているのかってな」
……そうだ。でもそれと利害の一致になんの関係が?
「これが答えだ」
後ろを振り向かないまま、【ファラン】を一閃。
その切っ先はヒースクリフの喉元に届く寸前、SAOプレイヤーには有ってはならない現象によって阻まれる。
【Immortal object】
システム的不死。
システムによって保護され、決して殺すことのできない存在。
つまり……。
「そう……SAOきっての最強が茅場晶彦だったわけだ。最強が一転、最悪のラスボスとはなかなか俺好みの展開だな、
「楽しんで貰えたようでなによりだ。そう私こそがこのゲームの創造主、茅場晶彦本人だ。本来であれば九十五階層で正体を明かす予定ではあったが……やはり君の言う通りだったようだ、アルト君」
「だから言ったろうが、アンタと直接戦ったキリトは勘づいてるってな」
「確かに。しかしこんなに早く看破されてしまうとは思わなかったがね。やはり君達はこの世界において不確定因子だったわけだ」
何を……何を言ってるんだ?
「先輩……?」
「……ああ、言ってなかったか?俺と茅場は同じ大学の先輩後輩だ。つってもSAOが始まる少し前にやっと会話した程度の仲だけどな」
「お互い自分の興味のあることしか頭に無かった、とも言えるがね」
「言ってろ」
「……つまりお前は最初から?」
「この世界にはいるだろうとは考えてた。カーディナルだって完璧じゃねぇ。必ず茅場本人が細かい調整をする必要がある。外部からじゃなく内部から見ねぇと分からねぇこともあるからな。まさか最強ギルドの頭とは思っても見なかったが」
ヒースクリフは目を閉じて笑みを浮かべたが、彼の横で【血盟騎士団】の団員がゆっくりと立ち上がり、戦斧を構えた。男の瞳には耐え難いほどの苦悩の色が広がっており、表情は憎悪に満ちていた。
「俺達の忠誠――希望を……よくも……よくも!!」
「大事なメインイベントの最中なんだ。ゲーマーならスキップが出来ないことくらい分かるだろ?」
降り下ろされた戦斧を鉤短剣でいなし、がら空きになった男を蹴り飛ばす。
「茅場」
「やれやれ」
ヒースクリフ、いや茅場はウィンドウを操作するような仕草をすると、生き残ったプレイヤーが俺を除いて崩れ落ちた。
HPバーを見てみれば麻痺のバッドステータスの表示。
「ここで全員殺して口封じでもするつもりか」
「そんな理不尽なことはしないさ。だが、こうなってしまった以上、私は予定通り《紅玉宮》で君たちが訪れるのを待とう。しかしその前に、私の正体を看過した君たち二人には報奨を与えねば」
「報酬、だって……?」
「彼が私の正体を見破り、私とデュエルする権利を与えようとしたのだが断られてしまってね」
「当たり前だ。途中で終わるゲームほど萎えるものはねぇ。その代わり、ある条件をつけたのさ」
九十五階層までに俺がヒースクリフの正体を見破れなかった場合、茅場とアルトがデュエルし勝てばゲームクリアとしてその段階で生き残ったプレイヤー全員を解放する。
その代わり、アルトは茅場の指示に従う。
そして見破った場合ーー
「俺とお前が戦い、生き残った方が茅場と戦う。単純明快だろ?」
どうして……
「どうして俺なんだ……?」
「どうして、どうしてか」
その時に初めてアルトは笑みを溢した。
でもそれは、いつも俺をからかった時に見せる笑みではなく背筋が凍りそうな初めて見せる顔だった。
「俺とお前は対極だ。反発し合うくせに息が合うし、どうしようもなく引かれ合う。あぁ、恋愛的なものじゃないぞ?」
いつもの軽口を叩くが言い返せない。
確かに息が合うが、意見の対立もすることもあった。
でも、ソロで行動してるときもアルトならどうするだろうと考えたこともある。
「人間、どこまで文明を発達させようが所詮はエテ公。誰が一番上か証明しないとままならない。つまり、俺とお前。どっちが上かはっきりさせようってこった。わかったか?」
「分かるわけないだろ!?」
「分からない?違うな、分かろうとしてねぇだけだ。構えろキリト。今の俺はお前の……敵だ」
言い終えるよりも早く飛び上がったアルトは頭上から【ファラン】を降り下ろす。
大剣の重量、アルトの筋力値から放たれる一撃はまともに防げば防御ごと叩き潰される……!
地面を転がるよう身を投げ凶刃を避ける。
「ダメだ!戦う理由がない!!」
「理不尽はいつだって襲ってくる!理由がない?甘ぇこと言ってんじゃねぇ!理由がなくとも戦わなきゃならねぇことだってあんだよ!」
首を狙った短剣をバックステップで避け、コマのように体を回転させて振り抜かれた大剣を交差させた剣で受ける。
距離を開けようにも回避先を読まれているかのように体を割り込ませてくる。
「どうして俺たちが戦わなくちゃならない!?」
「どちらが上か決めるためだと言ったはずだ!」
「今じゃなくてもいいだろ!?」
「違うな。リアルの命とリンクしている今だからこそだ!所詮ゲームだからと心のどっかでブレーキが掛かることもねぇからな!」
命を賭けた全力の戦い。
それこそがアルトが求めた俺との決着。
でも……それでも……!
「お前とは戦えない!」
暴風のような連撃から逃れ、距離を取ることができたけど剣を構えることができない。
アルトとは肩を並べ背中を預け今まで一緒に戦ってきた。そんなアイツと戦うなんてできない。
けれどアルトはどちらかが死ぬまで戦おうとするはずだ。
アルトを殺したくないし、殺されたくもない。
「どうしても、か」
俺の気持ちが伝わったのか、武器を下ろす。
分かってくれたのだ、と考えた俺が甘かった。
「なら、戦う理由を作ろうか」
アルトが歩き出した先には麻痺によって動けないアスナの姿。
まさかーー
「ア、アルト君……嘘、だよね……?」
「
「やめろ……」
アスナは先のボス戦が終わってから回復してない。アルトの攻撃を受けたらーー
「やめろぉぉぉぉぉ!!」
振りかざした大剣が断頭台の如く振り下ろされるよりも早くその背中へと疾走する。
「アルトォォォォ!!」
ヤツの体を挟み込むように左右から剣を振るう。
が、こちらに向き直りながら振り下ろしから振り上げへと変化した大剣で【ダークリパルサー】を短剣で【エリュシデータ】を受け止める。
「ようやくその気になったか」
「……お前を、殺す!!」
何十合と打ち合っただろう?
十?二十?
それだけ斬り結んだというのに短剣によるパリィを警戒するあまり攻勢に出れない。
右の突きをアルトの左腕が蛇のように絡み付き、ヘッドバッドをもらう。
仰け反りがら空きになった腹にアルトの左膝が刺さり、宙に浮いた俺に追撃とばかりに右のソバット。
「どうしたキリト!?剣で斬り結ぶだけが戦いじゃねぇだろうが!」
「く、うぉぉぉぉ!!」
向かってくるアルトを左の突きで向かい打とうとするが、切っ先が届く寸前ヤツの姿が消えた。
いや、消えた訳じゃない!
スライディングのように地面を滑り、左手の短剣をブレーキのように突き刺していた。
同時にそれを支点に回転。下から襲ってくる大剣を【エリュシデータ】で受けるが弾かれる。全身をバネのように反回転、さっきの軌道を逆になぞるように振り払う。これも【ダークリパルサー】で受けるが無意味とばかりに防御をこじ開けられた。
止まるかと見せ、大剣を真上から地面に叩きつけ反動を利用しながら一回転つつ跳躍。そして放たれる遠心力、重量、腕力。すべてを乗せた正に全力の一撃。
両手は弾かれ、引き戻すのは間に合わない。
下がって最小限のダメージで凌ぐ!
数歩下がり、後ろに身を投げるが切っ先が体を掠めただけで吹き飛ばされた。
「甘いなキリト。それがお前の全力じゃねぇだろ?」
「っ……!」
「止めろ!アルト!お前とキリトが戦う必要はねぇだろうが!!」
クライン……。
「こんなのおかしいよ……!やめてよ二人とも!」
アスナ……。
ごめん。止まれない。
どんなことがあっても、コイツだけには負けたくないんだ!
「全力で来い!俺を殺して見せろ!」
「あぁぁぁぁぁ!!」
左の剣が降り下ろされた大剣によって防がれ、右の剣を振るおうと力を込めた瞬間、飛び上がったアルトの蹴りを屈んで避ける。
突き上げた右の剣を短剣で弾かれ、下から掬い上げる大剣を身を捻ってやり過ごし、勢いを乗せた両剣を水平に凪ぎ払う。
アルトは着地することなく背中から地面に倒れ、鼻先を掠めながら避け、逆立ちの要領で立ち上がる。
一進一退。その攻防は十分以上続いている。それでも食らいつきアルトの間合い、さらにその内側に張り付くことができていた。
「キリトぉぉぉ!!」
「アルトぉぉぉ!!」
アルトの顔は隠しきれないほどの喜色に満ちていた。
戦いを、殺し合いを心の底から楽しんでいる。
自身より強い敵と戦うことを楽しんでいる節は前からあったが、ここまで感情を出すことはあまりなかったはず。
いなし、捌き、防がれる。
避け、逸らし、やり過ごす。
大振りな大剣と小回りの利く短剣によって巧みにそして的確に処理される。
凶刃を両手の剣と体を使って紙一重で処理する。
互いのあり方が対極と言った意味が分かった気がする。
戦い方一つとっても正に両極だ。
強い。
本気で戦ったことがない訳じゃない。でも、全力でぶつかって初めて分かった。今まで戦った奴の中で一番強い。未来予知染みた先読みに攻撃方法の選択、体捌きに防御。どれもがSAOプレイヤーの中でも抜きん出ている。
実力は拮抗。互いの手札が解っているからこそ一つでも読み違えれば、そこから切り崩される。
その拮抗も崩れることになった。
左の突きを短剣で往なされ、勢いのまま走る俺をアルトは後ろに回り込んで、大剣を振り落とす。
咄嗟に横に飛ぶことで体に当たることこそ避けることができたが、【ダークリパルサー】の刀身に直撃し、耐久値にまだ余裕のあったそれを一撃で砕かれ、左手から消失。
それに構わず時計回りに体を回転、首を狙った短剣を弾き返しアルトの体が完全に開いた。
払った右腕を肘を曲げることで引き戻し、切っ先をアルトの胸目掛け【エリュシデータ】を突き出す。
これで終わる!アルトを殺して…………殺して……?
その瞬間、今まで共に過ごしたことを頭に過った。
からかわれ、馬鹿にされながらも、背中を預け、肩を組んで大笑いしたこともある。
一緒に馬鹿やって、一緒にアスナに怒られて……。
「躊躇ったな」
「しまっ……」
意識が引き戻されそして見た。
弾き返したはずの短剣が平突きで繰り出した刀身に引っ掛かっている。
外側へと弾かれ、次に体が開いたのはこちらだった。
「言ったはずだ全力で来いと。見ろ、躊躇した結果がこれだ!」
繰り出されるのは俺と全く同じの平突き。
ただし、アルトの剣には鮮やかな青の光を纏っている。
時間が引き伸ばされ、迫る大剣がひどく遅く感じる。
パリィされた影響か引き伸ばされた時間の影響か体が全く動かない。
ソードスキルの一撃はダメージ補正がなくても容易く俺のHPを削りきるだろう。
俺……死ん……
「キリト君!!」
何故かは分からない。でも結果的に言うとアルトの剣は俺の頭上を掠めた。アルトが外した訳じゃない。
アルトは初めて見せる驚きの表情でこちらを見下ろしている。
驚きは一瞬、信じられないことにソードスキルの光を纏ったまま大剣の刃を返して振り下ろそうとしている。
それを知覚した瞬間、考えるよりも早く反射的に体が動いた。
しゃがんだ状態のまま体を捻り、飛び出しながらの横一閃。
ソードスキルの光を纏ったままの縦一閃。
「「…………………………」」
誰もが固唾を飲み耳が痛いほどの静寂が訪れる。
「あぁ……クソ……やっぱ強いなぁ……
アルトは崩れそうな体を気合いのみで立て直し、上を仰ぎながら掠れるような声で呟く。
手が震える。
俺は何を斬った?反射的とはいえ、俺が斬ったのは………
「気に病むなよキリト……お前は裏切り者を始末しただけだ。それに俺が望み、その上での決着だ。お前に殺されるなら……あぁ悪くない。裏切り者の最後としてはな。茅場……このゲーム最っ高だった。アスナ、悪かったな……怖がらせた。クライン……本当は戦う必要はなかったのかもしれない。けどな、俺はそれしか知らねぇんだ」
肩越しに俺を見た顔はどこまでも穏やかだった。
「生きて帰れよ?相棒……お前なら茅場にだって負けねぇよ」
「アルト!!」
肩に触れる寸前、無数のポリゴンとなってアルトの体が砕け散る。その光景が目に焼き付き、膝から崩れてしまう。
「アルト君…………」
「アルト…………」
アスナもクラインも言葉がでない。
何も考えられない。
手にはまだアルトを斬った感触が生々しく残ってる。
メッセージの着信に意識を向けると差出人は
アルト?どうして……?今目の前で……
『必ず勝て』
恐らく自分が死んだ場合、自動送信されるように設定されていたようだ。添付アイテムがありそれをオブジェクト化。
スケールダウンされて片手剣の分類になってるけど、これってアルトが使ってた大剣……?
ステータスは【エリュシデータ】と同等。だけど【エリュシデータ】よりも遥かに重い。
「いやはや、HPがゼロになったにも関わらず十秒以上留まり続けるとはね。システムを凌駕する堅牢な意思のなせる技、か。さて、アルト君の契約通り生き残った者と戦わねばならないのだが、キリト君はもはや戦意を喪失している。戦う意志を持たない者と戦うというのは契約外。よって私は《紅玉宮》にて君たちが訪れるのをーー」
「待てよ」
この剣の重さはアルトの意志そのもの。大きすぎるものを託されたんだ。ここで折れるわけにはいかない!!
「まだだ……まだ、終わってない!!」
「その剣は……成程、全くもって彼らしい。自身の命すら利用価値のあるもの、というわけか」
左手に握られた剣を見た茅場は少し驚いた表情を見せた後、ウィンドウを操作する。
本当にアイツらしい。アイツが悪役を買って出るときはいつだって誰かのためだった。
そして、自分自身を俺に殺させることで暗に伝えている。
『ここで立ち止まることは許さない』と。
アイツのことはSAOにいる誰よりも理解していたはずなのに……。
「戦意を取り戻したならば、このゲームのクリアを賭けた勝負といこう。オーバーアシストも不死設定ももちろん解除する。HPは互いにイエローからだ」
レッドまで落ちたHPがイエローの半ばまで戻る。
システム権限一つで、なんでもありだな。
場違いな感想を抱きながら、両手の剣を握り直す。
頼むアルト。力を貸してくれ。
『しょうがねぇな、相棒』
そんな声が確かに聞こえた気がした。
次章予告
―ーアルトを制し、ヒースクリフとの最終決戦に辛うじて勝利した俺は、現実世界へ帰還することが出来た。
それでも一緒に戻れたはずのアスナが目を覚まさない。
アスナだけじゃない未だに三百人もの人たちが現実に戻れていない
そんなときある一通のメールによって事態が動き出す
「アスナらしきプレイヤーがいるのはALO。アルヴヘイムオンラインというゲームの中らしい」
手がかりを求め、偶然知り合った女の子と共に目指す世界樹。そしてその世界の真実を知る。
「優れた王には優れた騎士が付き物だろう?」
本当は戦いたくなんてなかった
ずっと後悔していた
他にもやりようがあったんじゃないか、と
俺の行く手を、深淵の監視者が阻む。
次章アルヴヘイムオンライン
《the Abyss Watcher》
過去の罪が迫る
悪役を買って出てでも、お前たちをを生かすために俺の命を擲つ。
悪役の仮面を被る時はいつだって誰かのためだった。
それを知っているのは一握りの人間だけ。
それだけで俺は十分報われる。