前編後編合わせることにしました。
虚栄の英雄
「っらぁ!」
水平に切り払った後、さらに体を回転させ遠心力を乗せた一撃で逆袈裟に斬り上げる2連撃ソードスキル《ノリブス》で《
《イルファング》を倒し、前線が第二階層へと上がってから1ヶ月が経とうとし、明日階層主へと挑むことになっている。
それにしても牛擬きを見てたら肉が食いたくなってきた。分厚いステーキなら尚良し。
「……こいつも限界だな」
一階層で手に入れた《バスタードソード+5》の耐久値を見ながらぼやく。
強化を都合五回繰り返し、火力面では問題はないが耐久値の伸びが雀の涙程度。そろそろ代わりとなる物を手に入れたいが、情報どころか噂も聞かない。
「お、アルトも武器の噂を聞いたのか?」
「……あぁ真っ黒黒助か」
「名前を覚えろ!色で人を判断するな!」
ギャンギャンうるせぇなぁ。個人を特定出来てる分まだマシなんだぞ?
「つか噂?」
「この先の洞窟で手に入るらしい。とは言ってもドロップする武器種はランダムだし挑戦できるのは一回だけ、しかも一層の武器もドロップすることもあるらしい」
「行き当たりばったりの運試しか」
プレイヤーのリアルラックを試されるのか。その分、強力な武器をドロップするかもしれないと。
「悪いことばかりじゃないぞ?パーティを組んでてメンバー全員にドロップしたらしい」
「吉報とは言い難いな。要はパーティメンバーの中で武器性能のバラつきが出るってこった。仲良し小吉のなぁなぁで付き合ってる仲間内なら兎も角、命が懸かってる現状じゃ妬みの対象にしかならねぇよ」
「そいつを寄越せぇ!!」
「こっちに来るなぁ!」
テメェばっか美味しい思いしやがって!
何がどうしたかと言えば、
アイツの話じゃ二階層で手に入る物の中では上位に食い込む性能らしい。しかも野郎は使わずにコレクションに加えると
「渡すから!無料でいいから勘弁してくれ!」
不当な暴力に屈した瞬間である。
「よし!」
「よし!じゃない!……ったく、そういえばアルトはちゃんと休んでるのか?街であまり見掛けないし……」
「ここ最近はあんま寝てないな。街には戻るが人目のつかない場所で休むぐらいだ。宿屋の鍵じゃ《開錠》スキルがあれば開けんだろ?」
「スキルの熟練度にもよるな。もっとも、この段階でそれぐらい出来るのは人に言えないようなことをしてる奴だろうけど」
だったら尚更だ。信用もできねぇ人間がいるところで寝るなんて出来るか。
「で?そんなこと聞きに来たわけじゃねぇだろ?」
「まぁな。実はーー」
知り合いの武器強化を鍛冶屋に頼んだところ、その武器が破損したと。だが《全アイテムオブジェクト化》によって破損したはずの武器が手元に戻ってきた。
武器強化による破損はエンド品、つまり最大強化した武器を強化した場合にしか起こらない。
武器強化を
強化を依頼された武器を、強化を行う最中に何らかの方法でエンド品と交換し、武器が壊れたという証明にするのだ。そして、手元には依頼者の武器と素材、手数料が残る。エンド品は無強化の同じ武器に比べてかなり安く取引されるので、差額を考えればかなりの儲けになることだろう。
「つーか、答えなんざ殆ど出てるもんだろうが」
「え?」
「人を呪わば穴二つ。誰かを騙してんならそれ相応の報いを受けるべきだ。個人か組織的なもんなのかは知らねぇし興味もねぇけどよ、いずれバレて罰せられるのも覚悟の上だろうよ」
「お前……まさか……」
「言い触らす、なんて趣味じゃねぇが今後の攻略に支障が出てこられると迷惑だ。なら早々に不安要素は排しておくべきだろ?」
「もしかしたら殺されるかもしれないんだぞ!?」
「だからどうした?言ったろ、罰せられるのも覚悟の上だろうってよ。人を騙したツケをテメェの命で払うことになる。それだけだろ」
それだけって……お前……本気で……。
鍛冶屋ネズハは《
彼が所属してる【
失意のなか《黒いポンチョの男》に今回の武器強化詐欺を教えてもらったのだと言う。
『はじまりの街で引きこもっていろと?……そんなことになるなら、ただ腐るのを待つくらいなら……!』
死んだ方がマシだ。
彼はそう言った。
それでも戦う武器を手に入れ、今回のボス戦で戦えることを証明して詐欺行為を働いていたことを謝罪するとそう言った。
「お前は人の善性を信用しすぎだ。親愛や友愛よりも悪意の方が強い。どうしてか分かるか?」
「どうしてって……分かるわけ無いだろ」
「ま、そうだよな。人間には野性動物みてぇな外敵が少ない。結果、人間の攻撃性は他の人間に向けられ易いのさ。愛が深すぎれば憎悪になるように、羨望が嫉妬になるように、善は容易く悪に反転する。信を裏切れば敵意を抱くのは普通だろ。そいつ、そいつらが死のうが殺されようが、リンチにあってボロ雑巾になろうが、俺に実害が無ければどうなろうと知ったことか」
《アステリオス・ザ・トーラスキング》を打ち倒し、事態が動いた。
アルトが行動を起こしたんだ。武器強化詐欺をプレイヤーが集まってるこの瞬間に広げた。
階層攻略に赴いてるプレイヤーたちはネズハと【
「まぁ聞けよ。殺したらそこで終わりだろ?ソレじゃつまらない。どうせなら馬車馬の如く働いてもらって、手に入ったリソースを被害者に分配する。そうすれば実利も入るし、楽もできる。悪い話じゃねぇと思うが」
それに噛み付いたのがキバオウだった。
「ジブンなに言うてんのか分かっとんのか?人の命を軽々しく物みたいに言いおって!何様や!」
「別に俺は被害者じゃねぇし、どっちにも肩入れするつもりもねぇ。ケジメの付け方を提案してるだけだ」
「ケジメやと?」
「そうだ。殺しちまえばそこで終わり、その場の感情でその後の利益を失うのは勿体ねぇって話だ。こいつらが手に入れた金は使っちまったんだろ?なら、こいつらを殺しても手に入るのはこいつらが持ってる武器だけ、なら生かして利用できるだけ利用して絞りカスになったら捨りゃいい。お前らは手を汚さずリソースを手に入れる。人命が大事なら精々死なねぇように見張ってりゃいい」
パァン、と叩く音がボス部屋に響いた。
「……満足か?お嬢様」
「最っ低……」
そう言い残し、アスナは足早に上層へと向かっていった。
「まぁそんなわけだ。生かすも殺すもお前らの自由。その場限りの実利を取るかその後の利益を取るか、好きな方を選べばいい」
「アルト!」
三階層へと上がり、やっと奴に追い付いた。
「……あぁお前か。俺を殴りにでも来たのか?」
「ああそうだ。けどその前に聞かせろ。なんであんなこと……助けるわけじゃなくその場を乱すだけ乱して……」
「その様子だと殺された訳じゃねぇみてぇだな。なら良かったじゃねぇか殺されずに済んで」
「そういう問題じゃない!ネズハもブレイブスのメンバーも無茶な攻略をして死ぬかもしれないんだぞ!」
「かもな。けどあのままじゃその場で殺されてた。無駄な延命かもしれねぇが、その場で殺されるよりはマシだろ」
延命?
「昨日言ったろ?今後の攻略に支障が出てこられると迷惑だってな。攻略に参加できるパーティは少しでも多い方がいい。リソースを稼ぐためにあちこち動き回ってればレベルも上がって攻略組との差は縮まるし、攻略組の物資も確保できる。問題はレジェンドなんちゃらって奴らだけじゃ攻略組の物資を確保するのは難しいってことなんだよなぁ。攻略組以外に物資を提供できる組織でもありゃいいんだが……」
「攻略組を支える調達組……」
「お?いいなそれ。その調達組がいりゃ攻略のスピードも上がるだろうよ。もっとも詐欺の被害に遭った連中がアイツらを許せば、だけどな」
「……取り敢えず歯を食いしばれ」
「VRなんだから必要ねぇと思ぅっ!!」
握り締めた拳を腹目掛けて下から突き上げるように殴る。
「……歯ぁ食い縛った意味……」
「ちょっとは事前に教えてくれてもいいだろ。アスナだって……」
「お前らの演技力には不安があったからな。反省も後悔もしてねぇよ。何かあっても恨まれんのは俺だし、疎ましく思われんのには慣れてるしな」
そうだろ?ビーターさん。
そう言って皮肉げな笑みを浮かべるのだった。
主人公の説教が鼻に付くらしいです。
嫌いの反対は無関心とも言いますし、何かしらの感情を向けられるだけ良しと前向きに捉えることにしました。