「死ね!【凶剣士】!」
「うざってぇ!黙って寝てろ!」
複数のプレイヤーによる襲撃に遭った。
手持ちの武器は失い、ポーションも底を尽き、止めに入る者もない。
口は災いの元と言うが、まさにそれを体験する破目になった。もっとも誰かと仲良くするつもりもねぇし、打算ありきの繋がりもごめんだ。
《体術》スキルでなんとか対処できてるものの数の差、なにより殺されることがないという慢心が奴らを駆り立ててる。
きっかけは……なんだったか。心当たりが多すぎて思い出せないが、誰かの恨みを買うなんざいつもの事だしこうして実力行使で来られるのも……まあよくあることだ。
グリーンの俺を攻撃して奴らのカーソルはオレンジに変わってる。そのお陰で遠慮なく反撃できるんだが、如何せん数が多い。
攻撃を捌いて反撃しようにも別方向からの攻撃にも対応しなきゃならない。そうしてる間にも切っ先が掠め徐々にHPが削れられていく。
殺さないように手加減はしてるが、それが余計に奴らを助長させてる。
『コイツは俺たちを殺さない。殺せない』
全くもって面倒だ
こいつらは所詮
生きてようが死んでようがどうだっていい。
「……調子に乗んな。そんなに死にてぇなら今ここで殺してやろうか!」
「っ……怯むな!数の差はーー」
「そこまでよ!」
他のプレイヤーも通り掛からないであろう十九層の片隅に聞き覚えのある少女の声が響く。
「あの装備……【血盟騎士団】の……」
「PK行為の通報があり、【血盟騎士団】のメンバーがこの階層を捜索中です」
「ちっ……退くぞ」
忌々しげな舌打ちを溢し、少女の脇を抜けて奴らの背を見送り視線を少女へと戻す。
「高々プレイヤーのPKに【血盟騎士団】が動くわけねぇだろ。嘘ならもっとマシな嘘にしたらどうだ、お嬢様」
敵意を隠さない瞳は以前より鋭さを増していた。
主街区の門の前で再び少女と向き合う。
「まさか命を拾われるとはな。てっきり嫌われてるもんだと思ってたぞ、お嬢様」
「ええそうね。私もあなたを助けることになるなんて思ってもいなかった。でも一層での借りもあるし、これで貸し借りゼロ」
貸し?なんの事だ。
「偉そうに説教しておいて覚えてないのね。それとも覚えておくほどの利益も実利もないってこと?」
「説教?……あぁ、あれか。説教のつもりもねぇし、ただ単に俺の考えってだけだ。理解も共感も必要ねぇ」
人として大事な道を違えてる自覚はある。それでも俺は俺だし、今さら考えを変える気もない。
「そうやって周りを拒絶して格好付けてるつもり?人を侮辱して貶して蹴落として、貴方は何がしたいの!」
「生き残る、それだけだ。その為に利用できるものはすべて利用する」
「それが人の命でも?」
「利用する価値があるならな。それが嫌なら主街区に引き込もるなり、前線に出て来なきゃいい。そうすりゃ俺と関わることもねぇだろ?」
「自分勝手ね。協調性の欠片もない」
「付和雷同、日和見、事なかれ主義者の偽善よりはマシだろ。口を
お嬢様の眉間に寄った皺がより深くなる。
「その点で言や、及第点だよお嬢様。現にこうして俺に噛み付いてる。遠慮も配慮もなくな」
それができてりゃ上出来だ、と皮肉げな笑みを溢し人を見下したような物言い。
『口は悪いけど根は悪い奴じゃない……多分』
キリトくんはそう言っていたけど、この人のどこがいい人なのか。他人を見下して利用して、自分が生き残ることを考えてる。
「そう睨むなよ。俺にソッチの趣味はねぇし、それにせっかくの美人が台無しだぞ?」
「あなたに褒められても嬉しくないわ」
「ならキリトには?」
「な、何でキリトくんの名前が出てくるの!?キリトくんに褒められても別に私は……!」
「はは、顔を赤くして吠えても説得力がなぁ」
冷静に、冷静によ明日奈。弱味を握られたら何をさせられるかーー
「初々しいもんだ。その想いを成就させてぇなら精々死なねぇように頑張んな」
「待って」
雑踏の中に消えようとする彼を呼び止める。
「貴方は人をどう思ってるの?」
「それは個人か?それとも総体か?」
「両方」
「……人間は好きだ。何かを成し遂げようとする奴は特にな。泥でまみれても、汗だくでも、その挙げ句みっともないと言われてようが、そいつがその果てに何かを成し遂げられるなら喜んで手を貸す。逆にテメェ自身の魂を腐らせてる奴は悉く否定してやる。俺も少し前まではそうだった。もしかしたら同族嫌悪ってやつかもな」
人が好きだから道を間違えた人を見ていられない。
それは多分過去の自分を重ねているから。
何があったのかは聞いても答えてはくれないだろうし、その権利は今の私にはない。
「全てを頭ごなしに否定すんのは簡単さ。多分、周りからは俺はそう見られてるかもしんねぇけど、そんなことはねぇからな?そいつを見て、そいつの言葉を聞いて、そいつの信念を理解して、その上で吐き捨ててる。考えの押し付けかもしれねぇけどな」
考えの押し付けるつもりは毛頭ねぇんだけどな。
そう言って彼は今度こそ雑踏の中へ消えていった。
見て聞いて理解する。
上辺だけじゃなくその中身まで見定めた上で共感するのか敬遠するのか。
彼の考えは何となく理解できる。【
それでも彼をまだ信用できない。確かに根はいい人なのかもしれないけど、口の悪さが周りの理解を拒絶してる。
私にできるのは彼を矯正すること。
「貸しを作るだけ」
そう自分に言い聞かせる。
少しでも彼の態度を改めさせることができれば、今回のように誰かに命を狙われる事も少なくなるはず。
破壊された両手剣の代わりとして、ストレージに仕舞い込んだままだった《バスターソード》をオブジェクト化。
両刃だった《バスタードソード》とは違い、片刃の鉄塊と形容できる巨大な物体が背負われ、押し潰されそうな重みを背中で受け止める。
必要STRに届かず十分な性能を発揮できない、という旨のメッセージが表示されるが間に合わせだし、もう少しでSTRも必要値に届く。
予定が少し早まっただけと前向きに考えよう。
「夢を抱き締めろ……ってか?」
とあるソルジャーの言葉だ。
剣繋がりでロールプレイでもしてみるか?
……止めとこう。黒歴史が増えるだけだ。
昨日は柄にもなくお嬢様とだらだらと話し込んじまったが、理解してもらおうなんて毛ほども思ってない。
俺は一人でいい。喪う痛みに怯える必要もない。
一層ではお姫様、十九層ではお嬢様
名前呼びになるのはまだ遠い。