「これで終いだ!」
STR全開で階層主の顔面へと降り下ろされた一撃は見事にHPを削り切り、盛大なファンファーレと共に祝福の文字が宙を舞う。
だが、俺の胸の内は燻ったままだ。
いつもならラストアタックを競うように戦っていたのだが、生憎とその相手がいないからだ。
大方どっかでお人好しでもやってんのか、はたまたどっかのギルドにでも入ってレベリングを手伝ってるのか、或いはーー
「お疲れ」
「お?いつもなら声も掛けないお嬢様が殊勝なことで。なにか良いことでもあったか?」
前回の出来事から幾分か軟化したが、まだどこか刺々しいアスナが珍しく労いの言葉をかけてきた。
「分かってて聞いてるなら、余り面白くない冗談ね。それとも反応を見て楽しんでる?」
「そうカッカするなよ。どうせキリトのことだろ?戦闘中もどっか上の空だったし、その状態で戦場に出てりゃ近いうち死ぬぞ、お前」
戦場では注意を怠った奴から死んでいく。
それをフォローする俺の身にもなってほしい。
「どうせ、じゃない。今までの階層攻略で一度も姿を見せないなんて何かあったんじゃ……」
「へーへー」
「心配じゃないの?」
「全く微塵も」
アレでもアイツは前線を支える一級の剣士だ。そこまでの心配は要らねぇだろうし、なにかありゃメッセージぐらい飛ばすだろ。
「貴方たち仲間でしょ?」
「仲間?ハッ冗談。俺とアイツはそんな仲じゃねぇ。もっと単純で複雑な関係だ」
アイツの強さはよく知ってる。
人との繋がりがアイツの強さになる。
だが人と繋がれば繋がるほど自分自身を縛ることになる。そんな強さは認めねぇ。
アイツも俺の在り方を認めたつもりはねぇだろうしな。
互いを知りながら認めず、それでも近くにいる。
俺とアイツの関係を言葉にするならそんな感じだろう。
「ストーカーもとい献身的な後方援護をする奴が四六時中張り付いてたんじゃ、落ち着けないだろうしな」
「それが誰のことなのか、じっくり聞かせてくれないかな?大丈夫、時間は取らせないから」
おっと
恐ぇ~。どんだけAGIに振ってんだあいつ。
どんなに全力で走ってもピッタリと背後に張り付いてくるアスナを転移門で振り切り、どうしたもんかと思案する。
ほとぼりが冷めるまで身を隠してるのが無難だが……
「あの……もしかして攻略組の方ですか?」
「あ?」
掛けられた声に振り向けばお世辞にも上物とは言えない装備のプレイヤーがいた。
恐らく攻略の後発組、中堅プレイヤーか。
『まず第一に相手を威圧するような話し方はダメだからね』
脳裏をよぎったのは何かとあれこれ口を出してくるようになった栗毛の少女。
『貴方は話の流れを切りがちだから、どうしてそう思ったのか聞くだけでも自然に会話は続くし相手の反発も買いにくい』
「確かにそうだが、どうしてそうだと思った」
「見たことない装備だし、空気がその……他のプレイヤーとは違うと言うか……」
へぇ、なんとなくでもそう感じれるなら将来有望だな。それまで生きていられれば、だが。
「俺【月夜の黒猫団】って同じ学校の奴らとギルド組んでて、いつか攻略組の仲間入りをしたいと思っててーー」
「攻略は命懸けだぞ文字通りな。お前だけじゃなくそのお仲間も前線に立つ覚悟はあるのか?絶えず付いて回る死のリスクを負う覚悟は?」
「攻略が危険なのは勿論知ってます。それでも、なにもしないままこのゲームがクリアされるのを待つのは絶対に嫌だ。少しでも攻略組の方々の力になりたいんです」
攻略組はそんな華々しいものじゃない。
デスゲームをクリアするためにフィールドに繰り出しモンスターを狩ってレベリングする日々。
強い武器を手に入れるため素材集めのマラソン、効率を考え旨味のある狩り場の探索etc.etc……
はっきり言って殺伐としてる。
同じことの繰り返しじゃ心も荒れるし、集中力も落ちる。レベリングの途中で命を落とした奴もいるだろう。
「調達組、だっけか?攻略組を支えたいっつーならそっちでも問題ねぇんじゃねぇのか?」
武器素材やアイテムを調達し補給する調達組の結成で攻略組はレベリングのみに集中できるようになった。
確か頭張ってるのはキバオウだったか。
「確かにレベルの足りない俺たちじゃ追い付くのはまだ先です。調達組に参加して攻略組のお手伝いになるかもしれません。でも……」
何を言われても攻略組に参加したい。
揺るぎのない意思が目に宿ってる。
こりゃなに言っても無駄だな。
「攻略組に参加するなとは言わねぇ。でもな足を引っ張ることだけはするな。邪魔になるようなら容赦なく置いて行かれるぞ」
攻略組に参加するならそれ相応の実力を示し続けなきゃならねぇ。何度が新参ギルドが参加したものの、足手まといだと判断され落とされた奴らもいる。本当にシビアな場所だ。
「攻略組を目指すなら妥協はするな。絶えず実力を磨け、考えることを止めるな。それでやっとスタートラインに立てる」
長々と話しちまったが、俺もレベリングしに新しい階層を奔走しなくちゃならねぇ。休憩も終わりだ。
「そろそろ俺も上に戻らねぇと。俺の言ったこと頭の片隅にでも入れとけ」
「はい。アドバイスありがとうございます」
転移門の前でウィンドウを開き、転移する階層を選択。転送させる直前
「あ!俺ケイタって言います!必ず追い付いてみせますから!」
「やってみせろ。上で待ってる」
ケイタとの絡ませ方が難しい……
こんな喋り方だっけ?