「あー……邪魔くせぇな」
場所は二十五階層。
クォーターポイントであるフロアボス戦なのだが、千手観音を彷彿とさせる多腕が特徴的な事以外、特筆するところはない。
勝手に自滅してる分には俺は構わねぇけど、行動パターンの収集や特殊攻撃の把握など請け負った仕事を果たせねぇのも癪だ。
「死にたくねぇなら、さっさと退け!」
降り下ろされた手を刀身の腹で受けつつ逸らす。
力のベクトルを曲げるという荒業をやってのけ、連続で放たれる手を同じように捌いていく。
戦意を喪失し、もたつきながらもボス部屋から全員が出ていったのを確認して改めてボスと対峙する。
倒すのは依頼に入っていない。あくまでも情報収集が目的であり深追いは必要ない。
「あーメンドクセェ……」
人助けは柄じゃない。
俺は善でも悪でもなく、どっち付かずの
その場の判断、その後を考えてどちらにもなりうる
己にとって有益かどうかでしか人を判断できない。
それはきっとあの日、両親が遺した遺産に群がってきた
死んだ人間を惜しむこともなく、どのように分配するかを俺の目の前で話し合い始めたあの瞬間から。
人間は好きだ。
剣の柄を砕かんばかりに握り締める。
人間が嫌いだ。
きっと俺は人間として壊れてるんだろう。
「オ?帰ってきたナ」
「【鼠】、HPを半分まで削ってきた。それまでの行動パターンの記録を送る」
「半分って……深追いは必要なイって言っタロ?」
「こうして生きて帰ってきたんだ文句はねぇだろ」
そういう問題じゃないんだけどな。
なんかダウナー気味?
「勘繰るな。少し昔の事を思い出しただけだ」
昔、か。話しては……くれないんだろうな。
無意識かどうかは分からないけど、この鈍ちんは人の悪意を集めやすい。
傷付かない訳じゃない。
人の悪意を受けて傷付かない人間はいない。
痛ましいまでにボロボロな体を鋼の心で踏ん張らせて前を見据えてる。
きっと這ってでも前へ進もうとするんだろう。
しょーがない。オネーサンが一肌脱ぎますか。
「そう言えバ、キー坊とアーちゃんから連絡が来ててサ、一緒に来てくれるカ?」
「行く理由がない」
「そう言わずにサ」
護衛がそんな調子でどうするのさ。弱った姿なんて見たくないんだよ。
キー坊もしくはアーちゃんと引き合わせれば、いつもの調子に戻るんじゃないかと考えて実行。
我ながら名案、と思ったのけれどーー
「なにこの空気……」
敵意とまではいかないまでもピリピリとした空気が場を満たしていた。
二層でアル坊が仕出かした事が原因でアーちゃんの反感を買ったらしい。今では幾分かは丸くはなっているけれど、ここまでとは予想外。
「な、なぁアスナ、アルトだってあのとき悪気があった訳じゃーー」
「だからって人を物みたいにーー」
「邪魔者は退散するとしますかね」
ツンケンしてるアーちゃんをキー坊が宥め、その様子を見てたアル坊が席をを立つ。
ああもう!人の気も知らないで好き勝手に!
「ごめんなさいアルゴさん、頭では分かってるつもりなんだけど……」
「まぁ気にするナ。アル坊はアル坊で歯に衣を着せず言いたいことを言うシ、それに反感を覚えるのは当然だヨ」
アル坊を同席させた理由をアーちゃんに話してみればすんなりと理解してくれた。キー坊は止める間もなくアル坊のあとを追っていった。
アーちゃんもアーちゃんでアル坊の事は気にしてくれていた。けれど、いざ本人を前にするとその思いが上手く表にできないらしい。
「キリトくん、うまく説得できると思う?」
「うーん……アル坊の言葉に心が折られるカ、少年漫画よろしく拳で語ってるカ、最悪の事も考えられるケド……」
「その一線だけは越えないと思うな。十九層でプレイヤーに襲われてたときだって、その一線は越えないようにしてたし」
あーもう!と机に突っ伏したアーちゃんが窓の外に視線を向ける。
「言葉と行動がチグハグなのよ。人を傷付けたいのか、そうじゃないのか。口は悪いくせに行動は真逆だし」
「アーちゃん、酔ってル?」
「ゲームの中じゃ酔えないんでしょ?」
まぁそうなんだけど、アーちゃんが愚痴を溢すなんて珍しいこともあるんだなって思っただけ。
「アル坊はきっと人を心の底から信用できないんだと思う。過去に何があったかなんて分からないけど、他人に対する攻撃性は不信の裏返しなんじゃないかな」
信じられないから威嚇して遠ざける。
まるで野性の獣みたい、なんて思ったりもするけど大きく的外れな考えでもない気はする。
人は一人じゃ生きていけない。
それを理解してるから最低限の繋がりだけは確保してる。キー坊がいい例だ。
私も仕事という繋がりはあるけれど、彼にとってはそれだけ。私がこんなに気を掛けてるというのに。
「好きなの?アルトくんのこと」
「にゃ、にゃにを言ってるのか分からにゃいな!」
失敗した。盛大に噛んだ。死にたい。
「待てよアルト!」
「うるせぇ付いてくんな」
アルゴから話を聞き、あいつの本心を聞き出すためにあとを追った。
口が悪くて人を見下すこともあるけど、全てが悪意からじゃないのは何となく理解してる。
「お前が他人に対してどうして高圧的なのかは知らないけど、それは全部その個人に対しての警告なんだろ?その部分を直さなきゃその内、後悔するっていう」
「……はぁ?勘違いも
「アスナに言ったんだろ?『人間は好きだ』ってさ。人間が好きだから間違った道に進むのが見てられないから口にするんだ。言い方は悪いけどさ」
「勝手に意訳すんな。確かに人間がは好きだ。だが個人は嫌いだ。後先考えず己の利益を優先する奴は特にな」
「だからそうならないように釘を刺してるんだろ?」
「だからーー」
「口ではなんだかんだ言うけど、お前は根っからの善人。お人好しだ」
「……ざけるな」
アルトが小さく言葉を溢した瞬間、視界が反転して空を見上げてた。
殴られたのか、なんて他人事みたいに考えながら。
「ふざけんな!俺はお人好しなんかじゃねぇ!利用される側の人間じゃねぇ!食い物にされる弱者でもねぇ!テメェらが疎ましがってた人たちが死んだ瞬間、ハイエナみてぇに群がりやがって!テメェらなんかには渡さねぇ!あの人たちが遺したモンに指一本触れさせねぇ!」
アルトの言葉は支離滅裂でなんの事を指してるのか理解できないけど、アルトの地雷を踏み抜いた事だけは理解できた。
「アルト……」
「テメェも……テメェも奴らと同じか!俺からなにもかも奪おうとする奴らと!穢させねぇ!あの人たちが遺した意思も誇りも誰にも汚させねぇ!」
きっとアルトと俺は似てるんだ。大事な人を亡くして周りを信用できなくて……。
拳で語るとかキャラじゃないけどーー
「来いよアルト。ぶん殴ってでもお前を止める」
ありったけの思いを込めてお前をぶん殴る。
素手での戦闘は日が登るまで続いた。
圏内だったからHPが減ることはなかったけれど、精神的な疲れが酷い。決着は着かず、お互い道端で大の字で転がることになった。
「俺の両親は馬鹿がつくほどのお人好しでよ。俺も呆れてたけど、誇りにも思ってた。けど、どういうわけか親戚からは疎ましがられててな、死んだと判った瞬間、ハイエナみてぇに遺産に群がってきた」
両親を亡くした子供の前で遺産をどのように分配するか話し合い始めたらしい。それも通夜の最中に。
人間不信にもなるだろうな。両親を亡くして悲しんでくれる人は居なくて、両親が遺してくれた遺産を欲望のまま貪ろうとする人たち。
話を聞いてるだけでも憤りを覚える。
「あの人たちの血を引いてる俺もお人好しだろうさ。でもな、それだけの人間にはなりたくねぇ。都合よく利用される人間にはなりたくねぇんだ」
嘘偽りのない心の奥底から零れた言葉。
「お前は笑うかもしれねぇけど俺がSAOを始めたのは目的があったからだ。実現不可能な夢物語、机上の空論だってのは理解してる。それでも損得勘定を抜きにした対等な関係、それを築ける奴がいるはずなんだ」
人を信用したい。けれど信用し切れない。
それはきっと人間の欲望を間近で見たから。
「なら一人だけでもいいから、友達を作ることから始めろよ」
「うるせぇ」
お前は気付いてないかもしれないけど、きっと俺とお前の関係は友達以上だと思うんだ。
「キリトの癖に生意気言うな」
キリトがアルゴを紹介してなければ、三十層に到達する前にプレイヤーの闇討ち、もしくは自滅で退場していた模様。
8/1 日刊ランキング97位
稚拙な作品ではありますが読んでくださり、ありがとうございます。
地球防衛軍dlc難しすぎ……