sword art onlineー黒と灰ー   作:戒斗

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取り敢えずキリの良いところで


第2翔:意思の力

監視者を無視し須郷に向かおうとするが、こちらの考えを読んでいるかのように絶妙なタイミングで体を差し込んでくる。

 

首狙いの短剣。屈んで避ければそのまま回転し、掬い上げるように大剣が迫る。

身を捻ってやり過ごしつつ勢いを乗せた大剣を降り下ろすが、引っ掛けられた短剣で下へと向かう力を前にずらされ体が伸びる。

羽を伸ばし前宙のように空中で姿勢を入れ換え、横薙ぎの大剣に俺の大剣をぶつける。

 

アイツみたいな戦い方を……!

 

攻めれば短剣でいなし、隙あらば大剣の一撃。

懐に潜れば、短剣が首を跳ねるために振るわれ大剣で弾き出される。

距離を開ければ、突きと共に一足飛びで迫る。

 

隙がない。いや、あるにはあるがそれは罠。

本当の意味でアイツと同じ戦い方をしているなら、そこに飛び込んだ瞬間、斬り捨てられる。

 

相手の思い通りな戦いをさせないのが、アイツのやり方だった。

 

「そこを、どけぇ!」

 

斬り上げ、袈裟斬り、薙ぎ、払う。

手の内を読まれているかのような気持ち悪さを振り払うように一気に攻めるものの、短剣による防御を崩せない。

 

俺が攻めあぐねている間にもアスナは須郷に辱しめられている。こいつに構っている暇はないのに!

 

「ふーん。結構粘るねぇキリト君。それのステータスは上限目一杯まで引き上げてるはずだけど、やっぱりSAO事件解決の立役者様は格が違うってことかな?」

 

俺だけの力で解決できた訳じゃない。

あそこに囚われたSAOプレイヤー全員の活躍があって、出会いと別れがあって、前に進もうとした人たちがいたから、あの場所で茅場と戦うことが出来たんだ。

 

それをお前みたいな男に理解されて堪るか!

 

「だけどただ斬り合うだけじゃ、面白味に欠けるよねぇ。苦痛に顔を歪めてもらわないと。ペインアブソーバーをレベル8に変更」

 

大剣が頬を掠め、焼け付くような痛みが走る。

VRじゃ痛みは感じないはずなのに!?

 

ペインアブソーバー。

須郷が操作したのは、VR世界で痛みからプレイヤーを守るための痛覚緩和機能であり、SAOにおいて茅場でも解除も変更もしなかった代物。

 

「君は懲りずにまたナーブギアでダイブしてるんだろ?だから段階的にレベルを下げていってやるよ。レベル0じゃ現実にも影響が出るみたいだけど、関係ないよねぇ。君とは金輪際、顔を見合わせることもないんだから」

 

アイツなら罵詈雑言を浴びせるだろう。

だけど俺にはアイツのような回る口も頭もない。だからありったけの想いを剣に込める!

 

『お前は人外に片足突っ込んだ反射神経。俺は未来予知染みた先読み。俺とお前が戦えば千日手になるのは当然だろ?』

 

ある日アイツは俺にそう言った。

俺は感覚から得た情報の処理能力がずば抜けているからこそ、後の先で相手の手を潰せるのだと、自分は相手の呼吸・視線・重心から相手の手を読み、先の先で相手の手を潰す。

 

アイツと同じ戦い方なら、俺の方に分がある。

 

「それにしても君たちは冷たいよねぇ。剣で打ち合えばわかるかとも思ったけど、これじゃ彼も浮かばれないんじゃない?」

 

「アイツの、アルトの戦闘データを使ってるんだろ?それぐらい戦い方を見ればわかる!」

 

アルトと戦ったのはあの時(75階層)が初めてじゃない。

その前にも何度も剣を交えた。

青春漫画じゃないけど、だからこそ分かり合えたこともある。

 

アスナもアイツと一緒に戦ったのは一度や二度じゃない。間近で俺たち二人はアイツの戦いを見てきたんだ。間違えるなんてするわけがない。

 

「アヒャヒャヒャ!そうじゃない!そうじゃないんだよ!キリト君!」

 

「何を……」

 

「お披露目といこう!感動の再会だァっ!」

 

鉄兜のポリゴンが弾け、立てられた襟も霧散する。

黒みの強い灰色の髪、目尻がつり上がった三白眼。

 

しかし、その目には意思が感じられず、俺というより俺を含めた空間を虚ろげに見ている。

 

「ア、ルト……?」

 

「嘘……どうして……?」

 

「ナーブギアで脳を焼かれる前にデータをここに移したのさ」

 

SAOからALOに?でもそれじゃ……

 

「苦労したんだよ?誰にも気づかれず死ぬ間際のそれを移すのは」

 

「須郷!貴様!アルトに何を……!」

 

「何って、何もかもさ!電子ドラッグに情報過多による脳への直接的アプローチ。意識もない癖に1ヶ月も拒み続けたけど、つい先日ようやく成功したのさ。君たちが好む言い方をすれば、ついに心が折れたって奴だ。君が寄り道なんてしないで真っ直ぐここへ来られればそれもこんな目に遭うこともなかったろうにね」

 

俺が……?間に合わなかったせいで……?

 

「でもそのお陰で人の意思を自在に操る技術を手に入れられることが出来た。感謝するよキリト君。それはもはや忠実な下僕、優れた王には優れた騎士が付き物だろう?まぁ後は戦闘パターンをすべて記録すれば用済みだけどね」

 

「どういう意味だ」

 

「彼の病室を訪ねてみたのさ、主治医の話ではあと半年も意識が戻らなければ危篤状態に陥る。だから君と戦ってもらって戦闘データを収集、コピーして心置きなく死んでもらうだけってわけだ」

 

「貴様……貴様ぁぁぁ!」

 

許せない!アルトの意思だけじゃなく心まで踏みにじるこいつが!

 

「相手は僕じゃないって言ったろ?」

 

迫るアルトの大剣を弾き飛ばし、弾かれた反動を利用して体を捻り、振るわれそうになった短剣を足蹴りで阻み、アルトの脇をすり抜けようとした瞬間、大剣を弾き飛ばされ空いた右手が俺の首を捉え、振り回され地面に叩きつけられる。

 

「ぐぅ!」

 

「まだ殺すな。キリト君には彼女が僕の物になる瞬間をその目で見届けて貰わなくちゃ」

 

万力のように締め上げていた手が緩むけど、押さえ付ける力はそのまま。下手をすればこのまま首をへし折られるだろうけど俺の目には須郷によって辱しめられているアスナしか映っていなかった。

 

これは、報いなのか。

 

薄れていく意識の中で、ぼんやりと思った。

大切な人を目の前で辱められる。そしてそれに手を貸すのがこの手で殺したと思っていた、意思を奪われたアルト。

ゲームの世界なら俺は最強の勇者で……。

 

いや……勇者なんかじゃない。

 

あの時のアルトは俺よりも遥かに強かった。

それはステータス的な強さじゃない。強い覚悟を宿したあの剣は、確かに俺を凌駕していた。

 

けど俺には何の力も……覚悟もない……。

 

だから、この結末は当然の結果なんだ。

アスナを助け出す事もできず、アルトに殺される。

 

『心が何度折れてもまた立ち上がる、それがお前の強さだ』

 

…………そうだ。アルトも言っていたじゃないか。何度心が折れても立ち上がれなきゃ、力を持っていてもなんの意味もない!

 

『――それでいい』

 

遠くで声が聞こえる。

それは抑揚が無く、俺の心が語りかけるようだった。

 

『――心が折れること、それはあの戦いを、ひいては彼の託した物を汚す言葉だ』

 

更にはっきりと聞こえる声。それは俺の中からじゃない……。

気付けば、目の前に誰かが立っていた。

 

『思い出したまえ、私にシステムを上回る人の意思の力を示した彼の心、そしてその心を託され立ち上がった君の強さを』

 

両手をポケットに突っ込んだ白衣の男……。

 

「お前は……」

『――立ちたまえ、キリト君』

 

白い世界が砕け散る中で、あの男は確かにそう言った。

 

――ああ、そうだよな

 

さっきの光景が何なのか、今はどうでもいい事だ。

 

「確かに痛い……でも……!」

 

所詮こんなものデータ上のもの。

あの時のアルトの剣はもっと重く、鋭く、魂に響いてきた!

 

「ぐっ!」

「……!?」

 

腹と膝を曲げ、アルトの腹部を蹴り上げる。

その反動を利用して地面に手で押し、立ち上がる。

 

「やれやれ……妙なバグが残ってるなぁ?もう殺していいぞ」

 

アルトは地に突き刺さった大剣を引き抜き肉薄してくる。

焦りはない。所詮その剣にはアルトの意思がない。

 

「システムログイン……ID『ヒースクリフ』」

 

「な…なに!? なんだ、そのIDは!」

 

「システムコマンド、管理者権限変更」

 

大剣の切っ先が俺の頭を貫く数ミリ手前で制止した。

恐らくシステム管理者に攻撃できないようプログラムでもしてたんだろう。

俺にとって好都合だけどな。

 

「ぼ、僕より高位のIDだとぉ!? ありえない! 僕は支配者! 創造者だぞ!!! この世界の王!!!」

 

「なにが王だ……」

 

未だに事実を認めようとしない須郷に小さく吐き捨て、俺は顔を上げる。

待ってろ……。今、お前を呪縛から解放してやる!

 

「いい加減、目を覚ませ!この馬鹿野郎!」

 

リアルなら爪が手に食い込むほど強く握りしめた拳をアルトの顔面に叩き込んだ。

 

吹き飛び、地面に背中から倒れ両手から武器がこぼれ落ちる。

 

どれぐらい経っただろう。ピクリともしないアルトに内心、やり過ぎたか?と思い始めたときだった。

 

「……ってぇ……死んでも痛みは感じんのかよ……」

 

もぞりと上体を起こしてぼやく。

声、喋り方、仕草間違いない。

 

「ここどこだ?死後の世界ってやつ?つか頭いってぇ」

 

「アルト……」

 

「あ?誰だお前……」

 

頭から足の先までじろじろと眺められ居心地の悪さを感じる。

 

「真っ黒装備…………お前、キリトか?」

 

「ちょっと待てなに見て判断した」

 

「色」

 

「俺の認識、色!?」

 

色で人を識別すんな!

 

「アルト君!」

 

「ん?アスナか?……人の趣味に口出しする気はねぇけど流石におにーさん、アスナの将来が心配だ」

 

「え?いや、ちょ!見ちゃダメ!」

 

「アルト、お前見るな!」

 

「お前だって見たんだろ?なら俺にも権利はある」

 

「どういう理屈だそれはぁ!」

 

あぁ、こういうやつだったけ。

決めるときは決める癖に抜けてると言うか天然と言うか。口は悪いけど嫌味を感じさせないと言うか。

 

「いつまでコントしてるんだよぉ!」

 

「あの身持ち崩してそうなホスト崩れは誰だ?」

 

「須郷伸之。解放されるはずだったSAOプレイヤーを自分の実験に利用してた。ついでに言えば、アルトの意識を奪って操り人形みたいに扱ってーー」

 

「へぇ……」

 

あ、これヤバイやつだ。マジ切れ3秒前。

 

「詳しい話はあとにしよう。やれるか?アルト」

 

「俺とお前が組めば勝てねぇ敵はいねぇ、だろ?」

 

「ああ、当たり前だ」

 

心が折れても立ち上がれれば負けじゃない。

俺とアルト。二人が肩を並べてるんだ。どんな敵でも打ち倒して見せる。

 

「システムコマンド、オブジェクト《エクスキャリバー》をジェネレート!」

 

呼び出したレジェンダリーウェポン《エクスキャリバー》を無造作に須郷へ放る。

 

コマンドひとつで伝説の武器を使い放題か……。

ゲーマーとしては複雑な気持ちだな。

 

「まぁそうだよな。丸腰の相手をフクロにしちゃ鬱憤も晴れねぇ」

 

「物騒なこと言うなよ。ペインアブソーバーもレベル0まで落とした。ここでの痛みは現実にも影響が出るぞ」

 

「だからどうしたって話だな。武器は一流でも使い手が三流以下じゃ事故っても当たんねぇよ」

 

結果フクロですね。分かります。

 

さて切り替えよう。

相手はこの世界の王。世界を盗み、玉座の上で踊る憐れな王。

打ち倒すのは鍍金の勇者。そして王の呪縛から解き放たれた獣。

 

戦意は十分。世界が相手でも恐れはない。

 

「「俺たちでお前(テメェ)を打ち負かす!!」」




今話はlight my fireを聴きながら書きました。

最初の段階ではシステムコマンドでアルトを目覚めさせようと考えていましたが、今回のような形に落ち着きました。

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