2つリクエストがあり、先に書き上がった方から投稿します。
ALO事件から幾月が経ち、和人が広めた《ザ・シード》によって様々なVRMMOが芽吹き、茅場の手掛けたもうひとつの世界が息を吹き返したと言える。
俺こと三神颯真はリアルに復帰してなお二週間近く病院のベッドの上で寝たきり生活。
その後は血反吐を吐くようなリハビリの結果、一ヶ月程で日常生活に支障がない程度には回復することができた。
退院後は部屋を借りてる大家の婆ちゃんに丸二年分の家賃が滞納になってると告げられたときは膝から崩れ落ちたな。
俺も被害者な訳だし多目に見てくれてもいいんじゃないかとも思ったが、払えず引っ越すとなっても次の部屋が見つかるまでは居ていいとのこと。
……期限付きではあるが。
問題の先送りはあまりしたくはないんだが、背に腹はかえられない。総務省通信ネットワーク内仮想空間管理課の職員、菊……岡?と交渉、仮住まいを用意させることに成功。ついでにナーヴギア後期型フルダイブハード《アミスフィア》を融通してもらった。
トントン拍子で話が進んだもんだからキナ臭い。
話をした翌日にアミスフィアを用意したもんだから、恐らく菊岡の野郎も前もって用意していたのかもしれない。
あの笑顔の裏には何かある上、腹に何かを抱えている。直感ではあるが、あの男は信用できない。
深入りはせず、お互いに利用し合う程度の付き合いでいいだろう。業腹ではあるけどな。
まぁそんなこんなで新生ALOにダイブしたわけなんだが
「和人……キリトの奴はまだ来てねぇのか」
「開口一番にそれ?久しぶりに会ったんだし、他に言うことがあるでしょうが」
「久しぶりだな、そばかす鍛冶屋」
「ちょっっっと表に出なさい。鍛冶屋のSTRをその身に教えてあげるわ」
「まぁまぁリズさん、アルトさんが失礼なことを言うのは今に始まったことじゃありませんから」
「へぇ、言うようになったなロリカ。口ばかり成長してんのか?」
「身体的特徴を貶すのは良くないと思います!」
「アルの字は今日も絶好調だな。リアルの方が忙しいって聞いてたけどよ、この分じゃ要らねぇ心配だったかもな」
「だが少し前までは入院してた身だ。目は光らせておいた方がいいだろう」
「老婆心は身を滅ぼすぞ?」
「けっ、口の減らねぇ奴だこと」
「全くだ。可愛げの欠片もない」
うるせぇ。俺は俺なりのやり方で……いや、なんでもねぇ。
「とりあえず、当面あんたの武器はそれよ」
「両手剣か」
片手剣よりも一回り長い刃渡り、かろうじて片手で振り回せるであろう重量のソレ。
確かにALO開始直後のステじゃ大剣なんてまともに振ることもできねぇから、丁度良いと言えば丁度良いんだが少し物足りない。
「てか、両手剣を片手で振り回そうとしてる方がおかしいのよ」
「短剣もくれ」
「人の話を聞きなさいよ!……まぁそう言うだろうと思って一応用意はしてるんだけど」
リズから渡された耐久値に重点を置いた短剣を左逆手に握り、右手の両手剣と交互に振る。
「今の鍛冶スキルじゃソレが限界。もっと良いものが欲しいなら、ジャンジャン良い素材を持ってきなさい。その見返りに武器を打ってあげるわ」
「Yeah haaa!」
「……人の話を、聞けぇぇ!!」
「ははは……相変わらず、嵐みたいな人ですね」
「はぁ……まあ、被害に遭うのは他の武闘派プレイヤーだけどね」
「戦闘狂は未だ健在、か」
「だな」
「そらそらどうした!」
ALOが新しく生まれ変わったと同時に実装されたソードスキルを短剣で往なし、勢い余ってすれ違ったところを逆手に持ち直した両手剣を腰付近に突き刺し、踊るように立ち位置を入れ換えて再び持ち直しながら振り払う。
大剣ほどの火力はないものの両手半剣とも言える刃渡りのおかげで大剣よりも自由が効く。
横薙ぎの剣を飛んで躱し、その顔面を踏み台にして跳躍。その背後で羽を広げて飛びたとうとしてる奴の腹目掛けローリングソバット。
蹴りの反動を利用して回転、踏み台にした奴の頭上から躊躇なく振り落とす。
「なんなんだ……お前……」
「ん?……強いて言うならリハビリだ。久々のPvPだったからな。多少は楽しませてもらったぞ」
唯一の生き残ったプレイヤーの言葉になんてこともなく返す。
別段、こいつらを襲った特別な理由もない。
強いて言うなら視界に入った、ってとこだな。
観察してる分にはこいつら纏めても辛勝はできると踏んで挑んだわけだが、セオリー通りの対人戦しかしてなかったのか前衛後衛がはっきり分かれすぎていて分断しちまえば、あっという間に崩れた。
前衛と後衛の間に飛び込めば、後衛は前衛を巻き込みかねないと判断したのか魔法を打たねぇし、前衛も前衛で俺を後衛から引き離せばいいものを馬鹿正直にそのまま戦闘に持ち込んできた。
まぁ、こいつらが対人慣れしてねぇってことだな。
気を取り直して次だ、次。
そんなこんなで4パーティ程潰して回ったんだが、洞窟に逃げ込んだパーティを追っていたら意外な大物と遭遇した。
《
世界樹ユグドラシル根元、冥界ニヴルヘイムに住まうドラゴン。
神々の最終戦争《ラグナロク》すら生き延び、世界終末のときには死者の魂をその背に乗せて飛び去ると伝えられている。
深追いしなきゃよかったなぁ。俺のステータスじゃまともに太刀打ちもできねぇし。でもま、勝てねぇからって逃げるって道理もねぇよな。
ここにいるのはニーズヘッグだけでなく無数の蛇が左右を挟み、ニヴルヘイムと来れば有名な猟犬ガルムが入り口を塞いでいる。
前門の蛇、後門の猟犬……ってか?
攻撃パターンを見るためにゾンビマラソンをするのも手だが、それだとデスペナルティが痛い。
ほんと、深追いしなきゃよかった。
両手の得物を握り締め、両サイドから津波のごとく襲いかかる蛇を躱しニーズヘッグへと飛び込んだ。
結局3回死んだ。
リスポーンと同時に武器を直し、凶悪極まりない毒対策に解毒ポーションを買い漁り、奴の攻撃パターンを分析する。
戦って分かったのは倒せないことはない、ということ。奴の最大の武器である毒ブレスをなんとかすればだが。
てか、あれはない。
時間の経過と共に毒のダメージが倍になっていく。おまけに吐き出された毒は地面に残り、足場がなくなっていく。
最終的に地面が見えなくなったときは笑うしかなかった。
まぁ、俺も飛び慣れてねぇから飛んで回避せず、地に足付けて戦ってたんだが。
「くそったれ!」
ガルムに噛み付かれた左腕を切り落とし、左腕ごと蹴り飛ばす。静かに忍び寄っていた蛇を踏み潰し、ニーズヘッグの毒ブレスを空を飛ぶことで回避。
間一髪で仕切り直すことはできたが、部位欠損判定によりHPが減っていく。
「どうすっかな」
ニーズヘッグのHPはあと3本。配下の蛇とガルムもまだいる。ここで死んでもう一度挑むのも手だが、これ以上のデスペナルティは避けたい。
「アルトさん!」
これは風属性魔法?
吹き荒れる風がにじり寄っていた蛇を吹き飛ばし、続く影がガルムを切り裂いた。
「お前……」
「初めまして!リーファです!お兄ちゃん……キリト君の妹でーー」
続く言葉はニーズヘッグの咆哮に掻き消され、否応なく意識を引き戻される。
「やるしかねぇか……やれるか?キリト妹」
「リーファです!……大丈夫!戦えますよ。これでもALO歴は長いですから」
「ヘイトは俺が稼ぐ。あとは……分かるな?」
「了解です。とにかく斬って斬って斬りまくれば良いんですよね?」
「…………兄貴と同じで脳筋だな」
「どういう意味ですか!」
そういう意味だよ。
「あぁ~疲れた」
「ぜっっったい二人で挑む相手じゃないですよ……ましてや一人でだなんて……」
「勝てねェから戦わないってのも違うと思うけどな」
無事ニーズヘッグを撃破。
ドロップ品《邪龍の毒牙》をゲット。
こいつでリズに頼んで剣を打ってもらおう。
「何はともあれ、援軍感謝する」
「クラインさんに頼まれたんですよ。『無茶してないか見張っておいてくれ』って」
大きなお世話だ。
「ALOなら私の方が詳しいですし、これでも剣道で全国行ってますから」
「そんなデカイもんぶら下げて良くもまぁ」
「っっ!?セクハラです!」
「そんなことより左腕くっ付けたいんだが、どうすりゃいいんだ?」
「そんなこと!?」
赤ら顔で捲し立てるキリト妹。
弄り甲斐があるのは妹も同じか。
「あぁそうだ。キリトはどうしてんだ?」
「ぅぅ、この人自由すぎるよ……。キリトくんは1からALOを始めるためにコンバートしてる途中ですけど」
「……キリト妹、もう少し付き合え」
「だからリーファです!でもどこへ?」
「キリトの剣、その素材集めだ」
アイツと戦うなら対等な条件じゃないとな。
そのあと散々連れ回し、非難轟々だったのは言うまでもない。
ちょろちょろと番外編のいくつかを幕間として動かしたり、アリシゼーションの予告編を書き直したりしてました。