引っ越しも済み新居に漸く慣れてきた頃、クライン……遼太郎の呼び出しでダイシーカフェに赴いていた。
「お?来たな」
「遅ぇぞアルの字!」
「アルの字言うんじゃねぇ。それで何か用か?」
「お前、先月誕生日だったんだろ?二十歳になって立派な大人の仲間入りって訳だ」
「そこでエギルと話して大人の階段ってやつを登らせようって話になってな?ここ夜はバーだろ?」
「酔い潰れても一晩ぐらいなら泊めてやる」
「デロンデロンにしてやるぜ」
「帰る」
「「まぁまぁまぁまぁ」」
アルト は にげたした!
しかし まわりこまれた!
両脇を固められカウンター席に座らされる。
そして出されたのはグラスの縁にレモンの切り身を差し込んだ炭酸入りの酒。
「まずは一杯目だ」
「そらググイーっと」
「…………」
意を決してグラスを持ち口へと運ぶ。
レモンの酸味と炭酸の刺激、甘さもなく呑みやすい。
「手始めは呑みやすいレモンサワーだ。度数も低めに作ってある。よほどアルコールに弱くなきゃ悪酔いもしにくい。お前さん酒は初めてだろ?」
「初めて飲むならチューハイだよなぁ。俺も最初はそれで酔っぱらったもんだ」
「それでどうだ?」
「……不味くはない」
「それはそうだろう。不味い酒出してたら店が潰れちまう」
「旨い酒を目利きできて一人前よぉ。エギルの出す酒に外れはない」
「嬉しいこと言ってくれるな。だが、アルトの分の料金もお前さん持ちだからな」
「つか俺まだ学生なんだが」
「形の上ではだろ?本当なら大学生で二十歳になってんだから呑んでも問題ねぇさ」
「分かった。問題になったらお前に無理矢理呑まされたって言っとくよ」
「俺は二十歳になったばかりの友人を連れてくるとしか聞かされてない」
「お、お前らなぁ……」
「ところでお前は好みの娘とかいるのか?」
「なんだ藪から棒に」
「いやよ、俺も二十歳の頃は彼女作るのに必死だった頃でよ?」
「それは今でも変わらんだろ」
「んん!キリの字には彼女もいるし、女の子に囲まれてるだろ?お前はどうなのかなって思ってよ」
「確かにそんな話聞いたことがないな」
「別に作ろうとも思ってねぇよ」
そこで一度区切りソルティドック?グラスの縁に塩を乗せたやつを一口。
「彼女がいるからどうだとか俺には縁の無い話だ。相手のことを考えて行動とか疲れるだけだしな」
「かぁー!勿体ねぇ」
「今はそれでいいだろうよ。だが、恋愛ってのは感情論だ。これでもかってぐらいに主観的な話だぞ?歳の差があろうが、人種が違おうが、惹かれちまうのはしょうがないもんだ。いずれお前さんにもそういう相手が現れるさ」
「そういうもんかねぇ」
俺の隣に誰かいる。
……全く想像できねぇ。
「人の事ツンデレだのなんだのってアイツらはーー」
「アルトのやつ大分酔ってきてるな」
「腹割って話すなら酔わせちまう方が早い。アイツはなんだかんだ言って自分で背負い込んじまうきらいがあるからな。人の悪意を」
「ほんと似た者同士だよな。コイツとアイツ」
「おい聞いてんのかお前ら」
「「聞いてる聞いてる」」
「人を酔っぱらいみてぇに扱いやがって」
酔っぱらいだからな。俺がクラインの話に乗ったのはコイツが心配だったからだ。キリトには背中を支えてくれる思い人と仲間がいる。だがコイツは?
もちろん俺たちは仲間だと思ってる。
けどコイツは人の悪意を受けても飄々としてるような奴だ。外見上は。
弱音は吐かないし、精神的に弱ってる様子も見たことがない。だが人間である以上ストレスは溜まる。
コイツが爆発したらどうなる?
暴力沙汰で国家権力のお世話になる可能性が高い。
溜まったストレスをキリトと戦うことで発散してるのかもしれないが、別の発散の仕方を教えてやるのも大人の務めだ。
「お前らに話した事あったけか、俺の両親SAO事件の半年前に死んだって」
「いんや初耳だ」
「だな」
「お袋と親父は警察官でさ、真面目が取り柄みたいな人たちだった。あの人たちが親で良かったと思うし、息子であることを誇りに思う」
SAO事件の半年前、俺は大学に合格して両親も喜んでくれた。けどあの人たちも忙しくて、ゴールデンウィークを利用して遅ればせながら入学祝をすることになったんだ。
けど両親が乗った車にトラックが突っ込んでな。……即死だった。原因はトラック運転手の心筋梗塞で誰も責めれない事故だった。
しばらく荒れたよ。俺の中で何かが壊れた気もした。人として大事な何かが。
疎遠だった親戚は親が残した遺産に群がってさ、殴り飛ばしてやった。仲裁に入ってくれた親戚がいて、その双子に言われたよ。
『兄さんは生きてる。両親の分も立って歩いて』
ってさ。
目が覚めた気分だったよ。年下に糺されて情けなくもあったけどな。
時間は掛かったが、いつも通りに振る舞えるようにはなった。けど周りを威圧して踏み込ませないようにしてた。
親の事がトラウマになってたんだろうな。
大事な人が失われることに。
どんなに大切に思ってても無くすのは一瞬で、その喪失感に耐えきれなくて、自分でも知らない内に大事なものを作らないようにしてた。
けどさ、そんな俺でもあの世界で大事なものが出来てた。二度と無くしたくないものが……出来てたんだ。
それに気付いたとき俺は決めた。どんな手を使っても失わなせない守ってみせるって。その結果、そいつらに嫌われて二度会えなくなるとしてもだ。
……実はさSAOでキリトと戦った最後の日、わざと死ぬつもりだった。アイツに殺されるなら本望だし、誰かを殺せる覚悟ができたアイツなら茅場に負けることもねぇ。
分の悪い賭けだったけどな。
「その覚悟を作るために自分の命を使ったってのか?」
「まぁそうなるな。どうせ人を殺した命だ。その命を使ってアイツらをリアルに帰すことができんなら、躊躇う理由もなかった。なんだかんだ生きてたけどな俺」
「馬鹿野郎だお前は」
「重々承知してますよーっと」
コイツはコイツなりの信念を貫いた。例え自分が死んでも仲間を現実に帰すために犠牲になろうとした。
その手段が間違ってたとしても自分なりのやり方で、誰かのために戦ってた。
「エギル次ぃ」
「飲みすぎだ。ニュービー」
「うぃ~」
「完全にベロンベロンじゃねぇか」
「あっつい」
「ああ!服脱ぐな!外に出ようとするな!」
暴走し始めちゃいるが手が出てないだけマシだ。
やれやれ店を閉めてからで助かったな。
「エギル!助けてくれ!」
「はなせばかやろー」
さてこの馬鹿野郎を寝かし付けるとしますかね。
アルコールは二十歳になってから