ALOでの一悶着の後、やはりというべきかフルダイブVRゲームに対する風当たりが酷くなり、全VRMMOの中止は免れない……はずだった。
和人が茅場から託された《ザ・シード》が文字通り世界を救ったわけだ。
《ザ・シード》とは茅場が開発したフルダイブ型VRMMO環境を動かすプログラムパッケージで、そこそこ回線の太いサーバーを用意して《ザ・シード》をダウンロードすれば、誰でもネット上に異世界を作ることができるという。
和人はそれを、エギルに依頼して誰もが《ザ・シード》を使えるように世界中のサーバーにアップロードした。
これによって死に絶えるはずだったVRMMOは蘇り、ALOも「レクト」から全ゲームデータを無料同然で譲り受けたベンチャー企業「ユーミル」によって《ザ・シード》規格のVRMMOとして復活した。
それだけに留まらず、《ザ・シード》によって大小様々な仮想世界が生まれ、それらは同じ《ザ・シード》規格であるなら、他所で作ったキャラクターデータを別のVRMMOにコンバートする機能を持っている。
とはいえ、データを同期させるために元のアバターが持っていたアイテムは消えちまうから、知り合いに預けとかないといけないけどな。
難しい話はここまでにしよう。
俺も無事退院することが出来、いざ借りていたアパートに帰ろうとしたとき大家の婆ちゃんに2年分の家賃が滞納になっていると言われた。
提示されたのは、払うか引っ越すか。
いやまあ、確かに?2年間、病院のベッドの上で眠りこけてた訳だけど、俺も被害者な訳だから多目に見てくれてもいいんじゃね?
総務省通信ネットワーク内仮想空間管理課の職員、菊…岡?と名乗る男にちょっと
……まぁ、隣も高校生の一人住まいらしいけど、ドアの鍵が初期型の電子錠ってのは防犯上よろしくねぇから、貯金を崩して最新式に取り替えた。
そこまでは良かったが、次は隣に問題があった。
高校生の独り暮らしだから溜まり場になるのもわかるが、時間を考えろ。防音性はさほど高くねぇから下品な高笑いが壁越しても響いて来る。
つい頭に来て、隣に殴り込んだわけだがそこでようやく事態を把握できた。
家主は気弱そうな眼鏡をかけた少女、そして今時な男女が数人。
大方、気弱そうなことをいいことに図々しく部屋に上がり込んでんだろ。
絡んできた少年の顔面に拳を叩き込みたかったが、これ以上騒ぐなら家主含め外に叩き出すと、俺を殴ろうとしていた少年の拳を握り潰す勢いで凄んでやれば、蜘蛛の子を散らすように帰ってった。
礼を言われたが、部屋に入る前に、
「誰かを利用する奴は嫌いだ。だが利用されるだけの奴はもっと嫌いだ」
そう吐き捨て、一応の決着がついた。
話は変わるが俺が持ってたナーブギアだが、政府の回収によって手元にない。これもまた菊岡に話を通し、ナーブギアの後継機アミュスフィアを融通してもらい、ソフトも用意した。
ALOとゲーム内の電子マネーをリアルマネーに交換できる銃がメインの世界ガンゲイル・オンライン、通称GGOを行ったり来たり、まさにゲーム廃人のような生活をしている。
ALOとGGO。剣と銃。
男心がくすぐられるものある。男は剣と銃が大好きな生き物なのだ。
今年で20になったが、SAO
編入されるまでの間、自宅学習という形をとっているが遊び盛りの学生が大人しく勉学に励んでいるわけもなく、大多数は俺のようなゲーム三昧の生活を送っていることだろう。
早速GGOに潜ったが、アバターは完全なランダム。
身に付けてるのは、七分丈のくすんだ赤いジャケット、黒のインナー、同色のジーンズ、顔はあとで確認しよう。
課金すれば再度ランダムで作り直せるらしいが、そこまでガチでやるわけでもねぇし、取り敢えずこのゲームを楽しむとしよう。
ALOのファンタジー世界とは異なり、GGOは最終戦争後の荒廃した未来の地球を舞台とした銃の世界。
戦闘方法は当然ながら銃火器といった近代兵器が中心。そんな舞台設定ゆえかややリアルに寄った世界観のため、SAOやALOとは全く異なる意味での現実らしさを感じることが出来るところは俺は好感が持てる。
所持金は1000クレジット。
PKでもしてドロップした装備を売り払って稼ぐか。
この世界で稼ぐ方法は大きく分けて2つ。
mobモンスターを狩って稼ぐ方法。
PKしてドロップした装備を売り払い稼ぐ方法。
前者はSAOでのギルドに相当するスコードロンなるものを組まなければ、安定して稼げないらしい。
後者はハイリスク・ハイリターン。返り討ちにあった場合、自分の装備を相手に渡すことになる。
始めたばかりの初心者が手を出すものではない。
知り合いもいないGGOだ。最悪、返り討ちにあおうが悪評はGGO内だけで済むだろう。
と言うわけで最安値のナイフを一本、投げナイフを数本、値崩れし捨て値当然だった投げナイフ用のホルダーを購入しフィールドに出たわけだが、早速洗礼を受ける羽目になっているわけだ。
身を隠した岩がアサルトライフルから吐き出された弾丸によって、火花と共に削られる。
相手はサングラスと赤いベレー帽の二人組。
「クソ、馬鹿正直に正面から行くんじゃなかった」
考えれば、金が欲しいから殺されてくれ、なんて言われれば誰だって躊躇うことなく引き金を引くだろうが。
「せめて弾道が判ればなぁ」
音速を越える銃弾を見切るなんざ、余程の動体視力がなければ無理だ。
このゲームはよりゲーム性を高めるため被銃撃者と加銃撃者にあるシステムが設けられている。
前者はその名の通り、被銃撃者の視界に表示される赤い光のライン。銃口から放たれた弾丸がどのような軌道を進むのかを示すもの。
後者は加銃撃者の視界に表示される半透明のライトグリーンの円。弾丸は円の何処かにランダムで着弾する。
「……そうか。判んじゃん」
予測線が銃弾の軌道を教えてくれんだから、それから避ければいいだけだ。あとは予測線から実射撃までの間隔を実戦の中で確かめればいい。
実戦に勝る修練なしとはよく言ったもんだ。
そうと決まれば即行動。
岩陰から飛び出し、すぐさま俺の体に無数の予測線が照射される。贅沢を言えば、相手1人で試してみたかったがこれもいい経験だろ。
予測線が一番薄い空間に体を押し込め、それでも当たっている予測線上に腕を振るえば、ナイフを手放してしまいそうな衝撃と共に火花が散る。
実験は成功。銃弾は俺を掠めることなく、やり過ごすことが出来た。
一気に距離を詰めたいが、ステータスはまだ初期値のまま。同じように銃弾の雨をやり過ごし、ジャケットの下に隠した投げナイフを1本投擲。
ベレー帽の左肩に突き刺さったことを確認せずに、サングラスの方へ走り寄る。
相方に気を取られ、ライフルを構え直したときには既に俺の間合い。左逆手に持ち直したナイフで下から相手の右の前腕に突き刺し、背後に回り込みつつ右手を相手の右手に重ね合わせて、ライフルをベレー帽に向けマガジンが空になるまで引き続ける。
背後に回り込んだと同時に逆手から順手に持ち変えたナイフを引き抜き、心臓の辺り目掛け背中から突き刺す。
サングラスのHPがゼロになり、ポリゴンとなって四散すると同時にベレー帽に向かって、もう1本投げナイフを投擲。
銃撃で怯んでいたベレー帽の喉に命中し、あちらもポリゴンとなって四散した。
「やりゃ出来るもんだな」
さて念願の物色タイム。
とは言ってもドロップ品確認のボタンをタップするだけだけどな。
オブジェクト化したのは大振りなククリナイフと大型自動拳銃《H&K MARK 23》。
《H&K MARK 23》とは、アメリカがドイツの銃器メーカー、ヘッケラー&コッホ社に特殊部隊向けに開発を依頼した名銃であり迷銃。
衝撃力に優れた.45ACP弾を使用し、装弾数は12発、薬室に込めた場合13発。様々な過酷なテストに合格し、米軍特殊部隊に正式採用された。
日本では
重量は約1.6キロと少々重いが初期ステータスでもなんとか装備できるな。
けど、ホルスターがねぇからストレージに突っ込んで、ククリナイフだけを柄を左に向け、後ろ腰に装備する。
始めたばっかでも様になるもんだ。
ん?このゲームもポイントを振り分けてアバターを成長させるタイプなのか。なら一応、今のポイントは全部AGIに振っとこう。
目の前に現れたウィンドウを操作し、手に入ったばかりのポイントを全て
理由は特に無い。
さて、と。あと何人か襲って稼ぐかな。
歩き出そうとした時、なんとなく嫌な感じがした。
観察されてるというか、狙われてるというか……。
自分の感覚を信じて上体を反らした瞬間、遅れて聞こえてきた銃声と共に鼻先を何かが掠めた。
銃声が聞こえたのは半歩下がって体を反らしたから右手方向。丁度1キロ先に倒壊しかけたビル群。
あり得ない……!必中するタイミングだった。それを体を反らしただけで……!
『シノン、どうだ?』
「駄目よ。避けられた」
一度きりの契約で組んだスコードロンのリーダーに短く返す。
mob狩りを終えた他のスコードロンを私を含めた6人で待ち伏せして襲撃する予定だった。
けど現れたのは2人組のプレイヤー。その2人組をナイフと投げナイフのみで倒したプレイヤー。
相手は装備を見る限り初心者当然。
なのに纏う雰囲気はトッププレイヤーのそれ。
多分、他のゲームからコンバートしてきたばかりのニュービー。
そのニュービーは今、こちらに向かってきている。
狙撃で足止めしようにも、走るスピードを緩めることなく銃弾が見えているかのように避けながら、距離を縮めてくる。
「こっちに来る。迎撃の用意は?」
『相手は1人だろ?4人で済ませる』
駄目だ。スコープ越しに見ていた私と違って、相手の異常さが伝わってない。それほど名前が売れていないから、私の意見も相手にされない。
スコープを覗き直せば、ナイフ使いはビルの陰に隠れてしまっている。これ以上の狙撃はできない。
「相手はたどり着いた。そっちは?」
『…………』
「ちょっと?」
返事がない。銃声も聞こえてこない。
待ち伏せして集中しているのか。
声が出せない状況なのか。
『なんだ!?あの動き!』
『弾が!弾が当たらねぇ!』
『撃ち続けて奴を釘付けにしろ!』
『弾が切れた!カバー!』
とたんに鳴り響く銃声。
インカムからは、けたたましい銃声と共に怒声が響く。
嘘でしょ……!たった1人で4人相手にしてるの!?
『作戦変更だ。西側の半壊したビルが見えるか?』
「ええ」
『そのビルの2階に移動して奴を狙撃しろ。俺たちが誘導する』
「了解」
《FR-F2》を抱え、目標のビルへと駆け出した。
「こちらにシノン。目標に到達」
また返事がない。
……待って、銃声も聞こえない?まさか全滅?
このビルに移動するまで10分も経ってないのに?
今回限りの契約だったのだ。仇討ちなんてする義理もない。でも彼を倒せば私は強くなれるかもしれない。
タイムリミットは過ぎた。
これでまた初弾の予測線は見えなくなる。つまり、先ほどまでのような予測線を認識してからの回避はできない。
「……やっと見つけたぞ、スナイパー」
ッ!後ろ!
咄嗟にバイポッドを立てたままの《FR─F2》を向けるが金属音と共に弾き飛ばされた。
サイドアームの《グロック18C》を引き抜きーー
「後学のために教えてやる。
右手で私の右手首を掴み、踏み込みながら左手に握ったククリナイフを突きつけられる。
負け…?私の……?
あとは振り抜くだけなのに、その気配がない。
彼の視線は、部屋の入口に向けられている。
なんだろう?と視線を向けようとしたら、いきなり彼に抱きすくめられ隣の部屋に飛び込んだ。
数瞬遅く銃声が鳴り響き、私たちがいた空間を無数の銃弾が貫く。
「2人足りねぇと思ったらそう言うことかよ」
「どういうことよ……」
助けといて荷物を退かすみたいに床に転がされて、さすがにカチンと来たけど私たちが襲われた理由に気付いているみたい。
「簡単なこった。餌にされたんだよ、お前」
餌……?
「俺を殺すためか、お前の装備狙いか、或いはその両方か。どちらにせよ利用されたって訳だ」
扉の影に隠れながら隣の様子を窺いつつ、吐き捨てられた言葉を突き付けられる。
最初から信用されていなかった……。
沸々と怒りが湧いてくる。
上等じゃない……!裏切ったこと後悔させてあげる!
彼はふと窓際に走り寄って
「殺した奴らも戻ってきたな。その貧相な体によっぽど興味があんのか」
ひ、貧相……!……ふ、ふふ。あいつらの前にこいつを
「……ドロップ品、
努めて冷静に切り出す。勿論私が7だ。
彼は意外そうに目を見開いたあと、皮肉げに頬を吊り上げた。
「半々」
「
「……まぁいいか。お前ーー」
「シノンよ」
こんな殺伐としたゲームをしてるけど、女を捨てた訳じゃない。女の子に向かってお前は失礼でしょ。
「アルトだ。シノン、具体的なプランは?」
「アルトが前衛、私が援護。簡単なことよ」
「銃弾の雨に突っ込めってか」
さっきまでと同じでしょ。文句を言わない。
状況を整理しよう。
《FRーF2》は隣の部屋に落としたまま、そして私を餌にしたスコードロンが2人。アルトの言葉を信じれば、キルした他の3人も戻ってきているらしい。
こっちは2人。相手は重武装が5人。
「やれる?」
「誰に言ってんだ」
結論から言えば私たち2人はあの窮地を切り抜けた。
アルトが敵の注意を引きつつ前進。私は彼を狙うために身を乗り出した奴を撃ち抜くだけ。
奴らを全滅させて分け前も貰った。
街に戻り一息ついたところで、思い出すのは戦闘中の彼の動き。
スコープ越しに見ていたから分かっていたはずだけど、間近で見るのはやはり違った。
絶えず動き回り、相手に狙いを定めさせないのは当たり前。一番驚かされたのは、引き金を引く前に回避行動に移っていたこと。
確かに引き金を引かれてから避けるのは、AGIに特化してなければほぼ無理だ。だから引き金を引かれる前に回避しようとするのは判る。
でもそれとは違う違和感がある。
まるで、どこに銃口を向けいつ引き金を引くかを判っているかのような、そんな動きだった。
彼は既にログアウトしてここにはいない。
次会うことがあれば聞いてみよう。どうすればそこまで強くなれるのか。私もそんな強さを手にすることができるのか。
アルトの退院後とGGOでの初ダイブの動きでした。
途中からシノン視点でしたけど、
キリトのように光剣で銃弾を切り払うのではなく銃口そのものから避ける形に落ち着きました。
ムラサマを手に入れたら結局、同じようなことするんですけどね。
アカギさん、誤字報告ありがとうございます