時系列的にはロスリック編のあと
バレンタイン
それはリア充と非リア充との格差。
何気なしに下駄箱や机の中を確認、若しくは興味のない振りをして期待する男子生徒諸君。
本命、義理。
その他にも贈る側と受けとる側との関係で名前を変える。異性、同性の区別なくお世話になった人間に贈られる物らしいのだが……ってこの前にもやった気がするな。
ようやく自由となった左腕を鍛え直しながら、何気なしにカレンダーの日付を目で追う。
クラインは今ごろ男泣きしているかもな。
貰える貰えないは別にして。
バレンタインの由来である一説には、3世紀ごろローマ帝国の皇帝クラウディウス2世は、兵士達の士気が下がる事を防ぐため婚姻を禁止。これを憂いたキリスト教司祭のウァレンティヌスは秘密で結婚させが皇帝がこれを知り、ウァレンティヌスを投獄し処刑した。その処刑された日が2月14日である。
まぁもっとも、この説は異教を排除する目的で作られた創作であるとも言われてるし、売り上げ狙いの製菓企業の策略とも言える。
「兄ちゃん!ハッピーバレンタイン!」
「……せめて呼び鈴ぐらい鳴らせ木綿季」
人ん家に殴り込んで来んな。
「はいチョコ!」
「人の話聞いちゃいねぇな」
紫色の包装紙を手渡し、ニコニコと笑みを絶やさない。
木綿季は俺が甘いものは苦手なのは知ってるはずだし、手作りにしても考えてるだろ……多分。
「てかお前1人か?藍子と一緒に来るもんだと思ってたんだが……」
「んー?なんかねー自分をラッピングし始めたから置いてきた」
「なんつー酷い妹だ。まぁその判断は正しいけどな」
自分をラッピングしてどうするつもりだ。
……いや、知りたくないし分かりたくもない。
包装紙に包まれたまま冷蔵庫に突っ込み、いつの間にか増えてた木綿季用のマグカップにミルク多め砂糖多めのコーヒーを淹れる。
「今日の予定は?」
「特にはねぇな。せっかくの休みだし、本でも読んで潰すつもりだ」
「えぇ~もったいなーい」
「ブーブー言うな」
「ぶーぶー」
「お邪魔するわよ」
「お前もお前でナチュラルに入ってくんのな」
本日二人目の招かざる客は朝田。
こいつもこいつで、普通に家に入ってくるようになったよな。
「はいバレンタイン」
「恥ずかしがる素振りもねぇのな」
「別に恥ずかしがるようなことでもないでしょ」
「イジリ甲斐のねぇの」
「うるさい」
これもまた、いつの間にか増えてた朝田のマグカップにミルク少なめ砂糖少なめのコーヒーを淹れる。
こいつらが家に来るようになってから、コーヒーマシンの稼働率がかなり増えた。比例して砂糖さらミルクやらを買う頻度も増える。
こっちが出迎える側である以上、飲み物を出すのは当たり前だが俺が使わない物を買い揃えるというのは何か釈然としない。
「ーーでね?兄ちゃんが『見返りを求める努力こそ報われねぇもんだ。報われてぇなら、周りなんざ気にすんな』って」
「突き放してるようでアドバイスしてるんだからツンデレよね」
「ツンデレ言うな」
高校の時の話だな。ほとんど覚えてねぇけど。
「なんだかんだ言って面倒見はいいから、高校生時代は随分モテたんでしょうね」
「な訳あるか。男子校だっつーの」
「あれ?でも兄ちゃん、チョコ貰ってたよね?」
「やめろ思い出させるな」
お前、どこからそんな情報仕入れた。
「え?それってつまりーー」
「頼むから思い出させないでくれ」
「確か机の中にーー」
「木ー綿ー季ー?」
「ぴぃ!」
「……あぁ、そういうこと」
ニヤニヤすんな!生暖かい目で見るな!
日も暮れ始め、颯真に木綿季を駅へ送ってくると彼の部屋をあとにし、その道すがら前から疑問に思っていたことを口にした。
「木綿季は颯真のこと、どう思ってるの?」
「好きだよ」
「即答なのね」
「小さい頃からずっと一緒だったし、自分に用事があってもボクたちに時間を使ってくれたり、ね。姉ちゃんもボクも兄ちゃんが大好きなんだ」
家族としてだけじゃない。異性としても颯真に惹かれている。
「素直じゃないから誤解されやすいし、誰にも理解されようとしないから敵を作りやすいんだけどね」
……うん。その背中を見てきたからよく分かる。
彼の外面だけで判断しようとすれば、口が悪くて孤高を気取っているように見えるかもしれない。
でも内面を知ってみれば、言葉を選ばないだけで他者を気に掛けることのできる少しコミュニケーション能力に難があるだけの男性なんだ。
「だから兄ちゃんに守られるだけじゃない、兄ちゃんを守れるようになりたいんだ」
木綿季だけじゃなく木綿季のお姉さんも同じ気持ちなんだろう。
「SAO事件に兄ちゃんが巻き込まれたとき、兄ちゃんが誰かに殺されちゃうんじゃないかって、ボクたちは兄ちゃんに守られたときから何も変わってないんじゃないかって本当に不安だったんだ」
明日奈から聞いたことがある。
他のSAOプレイヤーに襲われたことがあるって。
原因は颯真の歯に衣着せぬ物言い。
自らの命を人質に颯真を襲った。
『殺さないし殺せない』
その考えが彼もしくは彼らを駆り立てた。
「SAOから帰ってきて兄ちゃんが仲間だってキリトたちを紹介してくれたときは本当に嬉しかった。『ボクたちだけじゃない。兄ちゃんを理解してくれる人はちゃんといるんだ』って。だから詩乃さんもありがとう。兄ちゃんを好きになってくれて」
「えっ……いや、私は……」
「ふふ~ん。隠し事はダメだよ?ボクの観察眼は兄ちゃん譲りだからね」
「……ったく。なかなか帰ってこねぇと思ったら道端でなんつー話してんだよ」
なんか重要そうな話をしてるみてぇだったから、咄嗟に隠れちまったが話題はどうやら俺のことらしい。
素直じゃないとか理解されようとしないだとか。
前者はともかく後者は受けとる側次第であって、その判断を相手に委ねてるだけだ。
結果として俺と距離を取るようになるとしても、それは相手の判断なのだから変に口出しすることじゃないというだけだ。
上辺だけの付き合いも打算ありきの仲間意識も必要ない。俺には俺の相手には相手の考えがあるってだけだからな。
「邪魔者は退散するとしますかね」
いつまでもこうしてても仕方ない。
「子供は子供らしく遊んでればいいんだ。大人ぶって難しいことなんざ考えなくていいんだよ」
俺はいつだってお前らの味方なんだしな。
でももし、その時が来たなら頼らせてもらうさ。
藍色の包装紙から取り出した小分けにされたプレートを口に運ぶ。カカオマスの苦味と酸味を楽しみながら帰路に着いた。
後半、バレンタイン関係ないじゃん!
見逃してくだせぇ!
ハントレス楽しんじゃ~(DBD民並感)