先月は結局バレンタイン回のみの投稿……
最近話を早く仕上げねば
「「初戦突破!」」
試合終了後、ロビーへと戻ってきたキリトと手を打ち鳴らす。
「随分と手ぇ焼いたみてぇだな。やっぱ剣と銃じゃ勝手が違うか?」
「当たり前だろ?相手は間合いの外なんだぞ。使い慣れない武器じゃ牽制が精々だよ」
「だから言ったろ?『寄らば斬る、寄らずとも寄って斬る』ってな」
「侍かよ」
「切腹でもするか?」
「介錯は任せろ」
お前の手に掛かって死ぬのも悪くはねぇが、まだやり残したことがあるからな。当分は先送りだ。
「で?どうだった?GGO初戦闘の感想は」
「勝手が違うって言うのが一番大きいな。さっきも言ったけど相手は間合いの外、牽制用の銃があるとは言え間合いに踏み込むまでが苦労する」
「
だからこそAGIを上げ機動力を高める。
機動力が上がれば被弾率も下がる。必然的に相手を翻弄しつつ距離を詰めることができる。
近距離での戦闘がメインになるSMGをメインアームにしてる連中もAGI型が多い。
とは言え、AGIだけでは装備重量の問題もあり火力不足に陥りやすい。予備弾倉の所持数が少ない上に弾丸をバラ撒き弾幕を張るのが主な仕事で、遮蔽物に隠れた相手を釘付けにしたり、注意を引いた相手の死角から忍び寄って銃弾を叩き込む等がスコードロンを組んでる奴の役割だ。
ただSMGで撃つのはハンドガンに使われる銃弾であり、アサルトライフルなどと比べると射程が短く、貫通力も低い。給弾機構にエネルギーを割くため、同じ弾を使う拳銃よりも一般的に威力が低い……ってだいぶ脱線したな。
「まぁ何はともあれ本選出場が目的だからな。予選ごときで躓いてもいられねぇ。出場が確定したなら適当にやらせてもらうさ」
「……本当にお前は人に恨まれそうなことを簡単に言うよなぁ」
この程度で俺を恨むってんなら、そいつの器量が狭いってだけだ。
「――やはり、そう、か」
掠れた途切れ気味の声。
俺とキリトは弾かれたように顔を上げた。
ボロ切れのような灰色のマント。顔全体を覆う髑髏を模したようなゴーグル、そのレンズ部分だけが赤く光を反射する。
「キリ、ト……ア、ルト……。お前たち、顔見知り、か。ここまで、くれば、確定、だ」
男の声に喜悦が混じる。
「【
キリトの溢れた声。
そして見せつけられる特徴的なエンブレム。
類似品でも見様見真似の紛い物でもない。あのギルド関係者でもなければここまで精巧に再現はできない。
つまり目の前の男は【ラフコフ】のメンバー。
変声器でも仕込んでんのか肉声はわからねぇが、この特徴的な喋り方、赤いレンズのゴーグル、そして【ラフコフ】。そこまでくれば俺の記憶に該当する男は一人しかいなかった。
「テメェ……【赤眼】だな?」
俺が発したその名前に、目の前の骸骨はくぐもった笑みを漏らした。
「お前たちは、必ず、殺す。必ず、だ。イッツ、ショウ・タイム……!」
そう言い残し奴の姿は転送エフェクトに包まれ消えた。
俺たち元SAOプレイヤーにとって忘れられない存在。それが【笑う棺桶ラフィン・コフィン】。
とりわけその首領たる《PoH》とそれに付き従う幹部はあまりにも危険すぎた。
積極的に殺しを楽しむ連中だ。奴らもSAOが解放され、現実へと戻ってきていることは理解していた。今現在ではカウンセリングを受けつつ社会復帰してる奴が大半だろうが、その心まで染み付いた衝動は簡単に消えるものじゃない。
「……いや、お手柄だ。アルト」
見れば、キリトの顔は若干青い。しかし先程までにはなかった希望がその目には宿っていた。
「プレイヤー名さえわかれば、現実での本名や住所を割り出すことが出来るはずだ」
俺が先を促すと、キリトはようやく笑みらしきものを見せた。
「これで奴には大きな制限が出来る。尤も奴が死銃であると仮定したらの話だけどな。けど十中八九、間違いないはずだ」
解決に一歩前進といったところか。
「………………」
だがキリトの表情は次第に陰りを見せ始める。
それどころか自分の肩を掻き抱き、なにかに恐れるようにボックスシートへ体を沈めた。
アミュスフィアが体調不良、精神不良と判断し強制ログアウトさせてもおかしくない。それほどまでに今のキリトの顔色は悪かった。
「あとは、なんとか奴が本当に殺したんだっていう証拠を見つけないと……」
「なぁ、キリト」
「なんだ?」
「
俺がそう尋ねると、キリトの顔が驚きに染まり、そしてすぐに泣き笑いのような表情になった。
「……やっぱ、わかるか?」
「ハッ、お前とどれだけ肩並べて戦って、何回剣を交えたと思ってんだ。お前の考えなんざ手に取るように分かる」
近くて遠い記憶。SAOという世界で剣を手に生き剣を交えることで通じ合った絆。
あの世界について感じること、考えることは人によって異なる。隣にいる奴にとってはSAOとは未だに心のどこかで囚われている場所。
「奴と会って、当時のことを思い出して……。その時初めて、俺はあの世界で3人、お前を含めれば4人の人間を殺していることを思い出したんだ」
俺はこうして生きてる。気に病むことじゃねぇ。
そう言ってやりたいが、その罪を背負わそうとしてたんだ。中身がなくて軽すぎる。
意図的に忘れようとしていた過去。それは奪った命に対する裏切りではないのか。まるで過去の罪が罰を与えようと迫ってくるかのようだったと弱々しく笑う。
溢れ出た当時の罪と現実は、キリトの心をSAO時代の討伐戦。【ラフコフ】のメンバーを襲撃したあの作戦の頃に戻してしまった。
…………あの日、俺はお前に言ったろ。その罪は消えることはない。一生背負って生きていかなきゃならねぇ。無かったことにも乗り越えることもできない。
「SAOは人殺しっつー十字架を背負わせただけじゃねぇだろ」
「え?」
「あそこであった出来事全部が今のお前を形作ってる。逃げることも無かったことにも出来ねぇ過去だ」
「お、おい。何を言って……」
「あの過去から逃げ出せばいずれお前は破滅する。アスナもユイもお前のそんな姿は見たくねぇはずだ」
背中を叩いて渇を入れてやりてぇが、誰かを励ますだの、慰めるだのは苦手だ。
どんなに無様でも後ろ暗い過去でも立ち向かう覚悟があんなら、自分を奮い立たせるためにも譲れないモノを見定めろ。
かけがえのねぇもんを見定められれば、キリトなら地に足をつけて踏ん張って、避けてきた罪にも向き合っていけるはずだ。
こいつにとってかけがけのない人間がアスナとユイだ。
あの二人ならば、過去と向き合おうとするキリトを支えて隣で歩んでくれるはず。
……いや、あの二人だけじゃねぇ。
少なくとも俺はそう信じるし、お前らの絆はそれが可能だと信じてる。
「……俺だって悩んで迷って後悔だってするさ。けどな、それに足をとられて前に進めねぇのが一番後悔するっつーだけだ」
奪った命に対し自身の命を差し出す。
それが本当に贖罪となるのか。
罪の大きさを理解し、背負い、見定めることがあの世界で命を奪った俺たちの命題じゃないかと思う。
俺だってあの討伐戦で10人殺した。自分自身の命を人質に殺しを続ける奴等を止めるにはそれしかなかった。
もちろん、それを免罪符にするつもりはねぇし、人を殺した罪を忘れるつもりもねぇ。
俺を相棒と呼んでくれる奴に情けない姿を見せたくねぇって意地もある。
「そっか……そうだよな。後ろばかり見てたら回りが見えないもんな」
「後ろを振り向くのもいい。躓いてもいい、立ち止まってもいい。どんな罪を背負うことになろうが、必ず歩き出せ。背中を押してくれる奴の為にもな」
「言ってて恥ずかしくないか?」
「リアルに戻ったら悶えるさ」
「締まらないなぁ」
うっせ、と短く返し拳を打ち合わせた。
「……俺、
「精々イチャついてこい」
キリトが文句を言おうと口を開いた瞬間、転送の光に包まれその姿が消える。
視線をライブ映像に向ければ、異なる刃を持つ両手の剣で銃弾を切り払い、果敢に攻めるキリトの姿。
さっきまでの怯えは見えないが、そう簡単に振り払えるもんじゃない。心の内にいまだ存在しているのだろうが、表に出さずにいると言うべきか。
それを可能にしたのは俺……ではなくアスナとユイの存在だろう。
相も変わらず、仲睦まじいようで何よりだ。
「大丈夫なの?あの変態。このまま辞退してくれるなら私としては精神衛生上ありがたいんだけど」
「辛辣すぎて草も生えねぇな……まぁ大丈夫だろ」
きっと過去の影に囚われたとしてもアイツを想ってくれる仲間がいる限り何度だって立ち上がれるはずだ。
それがアイツの強さであり、俺が叩き伏せるべき好敵手の姿なんだからな。
さて、いつまでも年下を激励していられねぇ。
俺の心もあの浮遊城に残したままだ。
殺し殺され、奪い奪われ、傷付け傷付けられる。
原初に近い感情が剥き出しだった世界。
現実よりも生きやすく充実していた。
けど俺が生きるべき世界は
ありがとよ、相棒。
俺はお前の姿に背中を押されてんだ。
書き直す前とあまり変わっていないような……?