sword art onlineー黒と灰ー   作:戒斗

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休みサイコーー!


飛び飛びで申し訳ありません。


第8弾:逃避行

あの死銃というらしい男を取り逃がした後、私達は鉄橋にいたアルトと直ぐに合流して、一時的に身を潜められる岩場へと移動した。

 

「どうする?」

 

「死銃を追う……前に、情報の整理が必要だろうな。妙なことが多すぎる」

 

そう言ってアルトが挙げた疑問は三つ。

 

一つ、誰も近くにいたはずの死銃の存在に気付かなかったこと。

交戦中でスキャンを見られなかった私とアルトはともかく、ダインとペイルライダーを待ち伏せていた以上どちらかは確認していたはずのキリトが驚いていたという事はスキャンに映っていなかったという事になる。

 

二つ、私の狙撃が避けられたこと。私自身感じたことだけど、アレは完全に予測線が見えている避け方だった。何処かで私のことを見ていたという事になる。

 

三つ、アルトが鉄橋にたどり着いたと同時に、霞の様に姿が消えたこと。遠目で見ていた私達にもそう見えていたけど、どうやら見間違いではなかったらしい。

 

「それじゃ一個ずつ考えるか。勿論、辺りは警戒しながらな。まず一個目は水の中に潜ってたんだろうな」

 

「水の中?」

 

オウム返しの様に繰り返した私に変態が頷く。

 

「アルトと合流する直前まで、合流地点まで出来るだけ誰かに見つからない様に川底を泳いで下ってたんだ。そういうわけで、水の中というか川底はスキャン範囲外になってるらしい――」

 

「ちょ、ちょっと待って! 泳いだってどうやって!?」

 

言ってることが言ってることだけに、堪らずキリトの言葉を遮って声を上げてしまった。

だってそうでしょ?

ただ潜っていたっていうならまだ判る。水中では継続的にHPが減少するくらいのデメリットしかないから。でも、泳ぐとなれば話は別。通常の装備じゃ重すぎて、専用の呼吸補助装置でも背負ってなければとても泳ぐなんて無理だ。

それを何のことも無しにやってみせたと?

 

そんな私の疑問に答えたのは、実行した変態ではなく、話を聞いていただけの筈のアルトだった。

 

「そんな驚くことじゃねぇよ。ストレージに装備全部突っ込んじまえば何とでもなる。俺も鉄橋を渡ったときそうやって渡河してきたしな」

 

「そゆこと」

 

常識だとでも言いたげな様子なバカ二人に、空いた口が塞がらない。

いったいどんな思考回路してたら河を泳いで渡ろうとか戦場で丸裸になろうなんて考えに到るっていうのよ。

 

仕方ないから、川底ではスキャンに引っ掛からないって有益な情報が手に入ったと無理やり自分を納得させることにした。

 

「一つ目はそれで解決として、問題は二つだ。特に三つ目なんて、透明化のスキルでもあるのか?」

 

キリトの言葉で意識を元に戻した。

ソレについては、実は心当たりがある。

 

「三つ目は、多分《メタマテリアル光歪曲迷彩(オプチカル・カモ)》だと思う」

 

「おいおい、そんなモン実装されたなんて聞いたこと無いぞ?」

 

「私だって聞いたこと無い。でも、目の前で消えるなんてそれ以外考えられる?」

 

「そうっちゃそうだが……」

 

私の言葉に疑いの声を上げるアルト。

確かに《メタマテリアル光歪曲迷彩》のプレイヤー向け実装なんて聞いたことは無いけど、アイツは噂でしか聞かない《アキュラシー・インターナショナル・L115A3(サイレント・アサシン)》まで持っていたのだ。もし《へカート》以上の超低確率レアドロップであろう《メタマテリアル光歪曲迷彩》アビリティ付の装備が存在するのだとしたら、RMT(現金)を通して手に入れていないとは言い切れない。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ! メタマテ……なんだって?」

 

聞き慣れない単語の説明が無いままに話が進んで置いてけぼりになりそうだったのか、キリトが慌てて口を挟んできた。

 

「メタマテリアル光歪曲迷彩、よ。光学迷彩って言えばわかる?」

 

「あ、うん、それなら」

 

「本当なら、一部の超高レベルボスだけが持ってる能力なんだけどな。もしかしたら、その能力が付与されてる装備が存在して、死銃が持ってるんじゃないかってことだ」

 

「それに、これが正解なら私の狙撃が避けられたのも説明がつくわ」

 

そう言うと、私の言いたいことが理解できたようで、キリトが指を鳴らして頷いた。

 

「なるほど、その光学迷彩を使って隠れながら俺達のことを何処かで見てたってことか」

 

首を縦に振って肯定を示す。

ペイルライダーのすぐ傍に突如現れたのも同じだ。

 

「何処で見られたのかまでは判らないけどね」

 

とはいえ、相手が見えなかった以上、些細な問題かもしれない。

 

「とにかく奴が姿を眩ました以上、俺達が出来るのはなるべく多くのプレイヤーを退場させること、だな。アルト」

 

「ああ。三手に別れて片っ端から辻斬りだ。奴のアバター名も確認できたしな。Sterben(ステルベン)、ドイツ語で死って意味だ。安直過ぎるけどな。奴を炙り出すためにシノン、力を貸してくれ」

 

そんな真剣な目で頼まれたら断れないでしょうが。

アルトの頼みを承諾し私達は三手に別れた。

 

次の標的が私だったと気付いていれば、無理を言ってでもどちらかを呼び止めていたはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ……」

 

なんで、なんで……っ、今になってあの銃が――!

 

追いかけていたはずの死銃。

電磁スタン弾によって動けない私の前に姿を現し、黒い拳銃を見せつけるように取り出すと、グリップパネルにある特徴的な黒い星の紋章に思考は凍結し、全身の力が抜け出ていく感覚を私は覚えていた。

 

黒星(ヘイシン)五十四式。忘れるはずもない……あの時私が撃った銃がなんで、今、ここに、あの銃が……っ。

混乱する私の前に、フードの下の仮面が“あの時の男”と重なって見える。

 

あいつは私に復讐するためにこの時を待っていたんだ。どんなに足掻いても逃げることはできないんだ。全部、全部無駄だったんだ。どこにいてもこの男に追いつかれて……殺される。

強さの意味、戦うことの意味……アルトと一緒にいれば分かると思ったのに。

……いつからだろう。最初はただ分かりやすい目標だったのに、頼れる相棒と思えるようになったのは。

けれど彼一緒に戦って、肩を並べられるくらい強くなれば……追い越せるくらい強くなれば、弱さを克服できると思っていた。

 

イヤ、だ……イヤだイヤだイヤだ! こんなところで死にたくない!

 

まだ死ねない……死にたくない。その必死の思いが動かない身体をどうにか動かそうとする。

諦めたくなかった。この大会で正々堂々と戦って勝つことができれば、何かが変わるはずだから。

まだ約束を果たしてないのに……!

死銃が黒星のスライドをコッキングし、弾を込めると両手で銃を構え、その銃口が私を捉える。

 

……助けて

 

こんなのを願っても叶うはずはない。

諦めて目を閉じたときに風切り音と共になにかに抱き抱えられる感覚が襲った。

 

「ア……ルト……?」

 

「間一髪。急いで来て正解だったな」

 

顔が見えなくても分かる。いつもと変わらないアルトの声。

けどいつも聞いているトーンよりも少し低くて、微かな怒りを含んでいるように聞こえた。

でもなんで?……なんでここに?

 

「おいザザ、お前の狙いは俺かキリトだったはずじゃなかったのか?」

 

「……そう、だ。お前、たちは、最後の、お楽しみ、だ」

 

「お楽しみ、ね。悪いがテメェの愉悦に付き合う義理はねぇ」

 

「アルト、悪い遅くなった」

 

キリトもどうしてここに?

 

手傷を負ったらしくダメージエフェクトだらけのキリトも姿を現す。

 

「随分遅かったな」

 

「銃士Xとかって言うプレイヤーと戦ってた。あいつ凄い手強くて、なんかお前の名前をずっと呼んでたけど知り合いか?」

 

「気にすんな。単なるドMだ」

 

二人とも口調は軽いのに片時も死銃から目を離さない。それに纏ってる雰囲気もいつもよりピリピリしてる。

 

「キリト取り敢えず、体勢を整える。シノンを連れてここは退け。大丈夫だ。コイツに俺は殺せない」

 

「了解」

 

「え?ちょっーー」

 

アルトが何をしたかと言うと、小脇に抱えた私を変態に向かって放り投げた。そして変態にあろうことかお姫様だっこで受け止められ、踵を返して走り出す。

 

アルトにだってされたことないのに!

 

「待ちなさい!アルトが!」

 

「シノン、一度ここは退いて体勢を整えるべきだ。それにアルトなら死銃に遅れは取らないさ」

 

遠ざかっていくアルトの背中に私は無事を祈ることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!」

 

轟き渡る爆発音。先程までいた場所から響いたその音に、私は思わず振り向いた。

 

「死銃の仕業......かな」

 

「どうでしょうね。あのアルトがそう簡単にやられる筈はない......と思うけど」

 

どうしても不安になるのは抑えられない。相手はあの死銃なのだ。もし。そう、もし彼が死銃との戦いで敗北し、あの因縁の銃によって心臓を貫かれたなら。

 

「っ......」

 

思わず、キリトの肩を借りている右手に力が入る。想像すらしたくない。だが、そんな相手とたった一人で戦っているのだ。

そんな私の葛藤を悟ったのか、キリトは囁くようにして言った。

 

「......助けに行きたいのはわかる。だけど、ロクに動けない今の状態じゃーー」

 

「足引っ張るだけだって言いたいんでしょ」

 

そうだ、今の私では邪魔にしかならない。《ヘカート》の引き金を引くことすらできなくなった私には、何の価値もない。ましてやただの拳銃を目の前にして、一歩も動けなかったようでは。

 

「............っ」

 

悔しかった。自分が求めていた強さをへし折られた事実が。過去のトラウマに心を折られたという事実が。彼に助けられたという事実が。

 

「ざけんじゃ、ないわよっ......」

 

恩を返すどころか助けられた身が、弱い自分が、何よりも腹立たしく悔しかった。

 

『大丈夫だ。コイツに俺は殺せない』

 

どうしてそう言い切れるのか。もしかしてなにかに気づいてる?

 

彼が私にまだ隠し事をしている。それだけで苛ついてしまう単純な心に嫌気が差す。だが沸き上がる感情に栓をすることは出来ず、気付けば口から文句が飛び出ていた。

 

「大体、いっつも何の相談もなしに突撃して。少しくらいは相談なりなんなりしなさいっての......」 

 

語尾がまるで拗ねたようになってしまうのは何故だろうか。自覚しないままに、私は愚痴を溢していた。

 

「アルトのこと、よく見てるんだな」

 

「え?……あ」 

 

苦笑を多分に含んだ声音。それによってようやく今の自分の言動の意味を理解し、一気に顔に血が集まるのを感じる。

 

「これは、その、ちがっ」

 

「隠すようなことでもないだろ。減るもんでもないし」

 

「減るわよ! 色々と精神的なのが!」

 

主に私のSAN値とかが。

......薄々自覚こそしていたものの、改めて面と向かって指摘されると、その、色々と死にたくなる。

 

人当たりが良さそうに見えて素っ気なくて。此方を見てるようで見てなくて、なのに肝心な所だけはしっかり見てくれていて。デリカシーなんて欠片もない。

本当、面倒くさいにも程がある。 

 

……まぁ面倒くさいところも含めて、良いのかもしれないけれど。

 

「..................」

 

「なんで一人で赤くなってるんだ......?」 

 

「うっさい黙れシャラップ」

 

「理不尽だなぁ」

 

痺れは完全には取れてないが、段々と体が言うことを聞くようになってきた。足取りがしっかりとしてきたことをキリトが察知し、足を早めて遺跡エリアを北進していく。

 

「......このままじゃ、他のプレイヤーに見つかった時になぶり殺しにされるわよ。どうするの?」

 

だが、やはり足取りは遅い。此処でも私が足を引っ張っていることを理解し、自己嫌悪に似た感情が胸を満たす。

 

「......まぁ、そうだな。何処かに足でもあったらいいんだけど」

 

「そう簡単に見つかったら苦労しないわよって」

 

ふと視界に映った看板を見て、私は口をつぐむ。ほぼ同時にキリトもそれを見つけたらしく、実に癪なことだが、女の私から見ても見惚れてしまいそうになるほど可憐な笑みを浮かべていた。

 

「苦労しないで済んだな?」

 

「............そうね」

 

『Rent a Buggy&Horse』。半ば壊れたネオンサインは不気味さを醸し出しているが、首都グロッケンにもあったものと同じ無人営業のレンタル乗り物屋だ。

モータープールに停めてある三輪バギーは、そのほとんどが全損状態だが、中にはたった一台まだ走れそうな奴が残っている。

しかし、乗り物はそれだけではなかった。看板通り、バギーの隣に、四つ足の大型動物が数匹繋がれている。とは言っても、生きた本物ではない。金属のフレームとギア類を剥き出しにしたロボットホースだ。

 

ようやく立てるようになった私を置くと、キリトはモータープールに駆け込んだ。そして三輪バギーと金属馬のどちらを選んだものか、と迷うように視線をさ迷わせてるけど。

 

「......その馬は、無理よ。踏破力こそ高いけれど、扱いが難しすぎる。とてもじゃないけど素人に乗りこなせたものじゃないわ」

 

マニュアルシフト操作が必要な三輪バギーも乗りこなせる者は数少ないが、ロボットホースの気難しさはさらにその上を行く。

 

「......そう、だな。わかった、バギーで行こう」

 

一瞬名残惜しげにロボットホースに視線をやると、キリトは頷いて、一台だけ健在の三輪バギーに走り寄る。始動装置のパネルに触れてエンジンを駆けるまでの動きに躊躇いはない。リアステップに乗るように手招きされ、以前と同じようにキリトもシートに跨がってアクセルオン。太い後輪が甲高く鳴き、足元から直に伝わってくる振動音に思わず身震いをした。

 

だがこのまま遺跡エリアを突っ切るか、と思いきや。フロントが道路の北側を向いたところでキリトは一瞬マシンを停め、轟くエンジン音に負けじと叫んだ。

 

「シノン、あの馬を破壊できるか!?」

 

「え......っと、うん。出来ないことはないと思う」

 

ようやく痺れの薄れてきた右手で、左腕のスタン弾を引き抜いて眉をひそめる。この距離ならばスキル補正だけでも必ず命中するだろう。後は、構えて引き金を引くのみ。

肩口に立て掛けていた《ヘカート》の銃口をロボットホースへと向け、トリガーに指を掛ける。そして目を細めると、未だ痺れの残る人差し指を一気に引くーー

 

「っとあぅあ!?」

 

ことができなかった。

突然急発進したバギー。危うく振り落とされそうになったという事実に頭に血が昇る。なにしてくれるのだ、この女装変態は。

 

「ちょっと、なんのつもりよ!?」

 

「ッ、すまなかった。けど後ろを見てくれ......!」

 

「はぁ?」

 

タイヤ痕を残しながらひた走るバギー。揺れる視界に顔をしかめながら後方を睨むと、そこに奴がいた。

 

「っ」

 

激しくはためくボロボロのマント。右手に下がる長大なライフル。すなわち死銃だ。

思わずぎゅっと冷たい手で心臓を握られたかのような感覚に陥り、唾を飲み下す。ぐんっという加速感によってバギーから引き剥がされそうになるが、キリトの細い胴にしがみつくことでなんとか回避する。やはり、追ってきたか。

 

 

 

そこでふと、違和感に気付いた。

 

 

 

「......なんで、死銃が此所にいるのよ」

 

死銃と戦っていたのはアイツだったはずだ。だがアイツの姿は見えない。足止めをしていたのではなかったのか。

 

 

爆発音。そして、死銃が此所にいるという事実。

 

 

「あ......」

 

有り得ない。有り得るはずがない。だが、わかってしまった。理解してしまった。させられてしまった。

死銃が、此所にいる。それはつまり、アルトは……

 

「あ、ああ」

 

嘘だ。認めない。絶対に認めない、認めてなるもなか。あの飄々とした男が敗北したなんて。あの忌まわしい拳銃で止めを差されたなどと。有り得てはいけない。だって、私は、まだ彼に何も………………

 

「あ……あぁ…あぁぁぁああぁああァァアアアア!!!」

 

感情が爆発し、脳が沸騰する。ふざけるな。認めてなるものか。ああ認めない。彼があんな骸骨野郎に殺されたなど、認められるはずがない。そんな馬鹿なことなど許さない。

溢れだす憎悪と憤怒。食い縛った歯が嫌な音を立て、両頬がなにかで濡れる。キリトが息を飲むが、知ったことか。

 

「......ろす。絶対に殺す、殺してやるッ!」

 

「っ!落ち着けシノンっ......!」

 

落ち着いてなどいられるか。

ロボットホースに跨がり、此方に迫ってくるボロマント。それを見て、丁度良い、と私は笑った。あの金属馬を何故制御できるのかなどどうでもいい。

 

奴を、殺せるのなら。

 

自分でも過去最速であろう速さで《ヘカート》を照準し、悪路で揺れるスコープ越しに死銃を睨む。

 

それに気付いたのか、死銃も懐から五四式(黒星)を抜き放ち、此方へと銃口を向ける。だがもはやそれすらも気にならない。ただ身体を満たすのは憤激。

この手で奴を殺せるのなら、私は殺人者でいい。

だから、力を寄越せ!冥府の女神(ヘカテー)

 

「......アルト」

 

零れ落ちるのは喪った名前。吼え立てる憤怒に身を任せて、私は嗤う。

 

今から始まるのは戦いではない。ただの、一方的な処刑だ。




文字数が安定しませんね。

シノン修羅化
どうしてこうなった……

番外編を第一話に挿入しました。
読まなくても問題ありませんが興味のある方はどうぞ。
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