sword art onlineー黒と灰ー   作:戒斗

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改訂版でございます。


詳しく書いていなかったザザとアルトのやり取りを書き加えました。


白金さんメッセージありがとうございます。


第10弾:決着

俺の意識が僅かにキリトたちに外れた瞬間、ボロ切れのマントを翻しキリトたちを追撃しようと走り出しかけたザザの首を斬り落とさんと振り下ろしの一撃を見舞う。

 

ギリギリで飛び退き回避。左逆手に持ち変え胴薙ぎ一閃。しかしこれも切っ先が僅かに掠める程度。

 

「おいおい、無視は困るな」

 

遠ざかるキリトたちを振り返ること見送り、眼前の敵を見据える。

 

肩掛けにした《L115A3(サイレントアサシン)》、そして右手の黒星五十四式。

武器はそれだけじゃねぇだろうが、取り出す暇は与えない。あの頃(SAO)とは違い、こっち(GGO)はAGI型のステ振りだ。既にアイツは俺の間合いの中。なにかを取り出すよりも早く斬り伏せる。

 

「テメェが何を企んでるかなんざ興味もねぇ。けどなテメェのしてることを見過ごす訳にはいかねぇんだよ」

 

「正、義の味、方気取り、か?」

 

「んなつもりは毛頭ねぇよ。テメェ()が気に入らねぇ、それだけだ」

 

人が決めた善悪にも興味はない。

 

「俺がテメェを()だと断じた以上、ただ斬り伏せる」

 

「やっ、てみせ、ろ、悪の、敵」

 

黒星の一射、弾丸の腹に刀身の腹を押し当て逸らす。

間合いを詰めての一閃、バックステップで避けられる。

 

《L115A3》の一射、電磁スタン弾を頭から切り捨てる。

ボルトアクション故に連射は効かない。そう判断し、さらに踏み込む。

 

一進一退。

とはいえーー

 

こいつ……手ぇ抜いてやがる……!

 

俺たち(SAOサバイバー)の本分は剣だ。

生死を賭けて振るい培ってきた剣技は他のVRプレイヤーたちとは一線を(かく)する。

 

まぁ剣に自信がねぇから銃を握る。というのは理解できるが【ラフコフ】の幹部格である【赤眼】が剣を不得手にしてるとは考えにくい。

 

「テメェ……」

 

問い質す言葉を紡ごうとしたその時、横手からのバレットラインに遮られ飛び退いた。

 

「遅か、った、な。meth(メス)

 

「すいませんザザさん。遊び過ぎたようで」

 

なにもない空間が揺らめいたかと思うと短機関銃(UZI)を携えた粘着質そうな声の男が現れた。

 

光学迷彩……これで実装は確実になったが、持ってんのがザザとその仲間ってのは笑えねぇな。

 

「そっちの男も【ラフコフ】メンバーか……メス、なんて奴いたか?」

 

「人の足を斬り飛ばしといて、忘れたなんて言わせねぇぞ!」

 

「ギャンギャン喚くなよ。どうでもいい奴を覚えとくほど俺は暇じゃねぇんだ」

 

「なら二度と忘れねぇように刻み込め!俺はクラディール!テメェがいなきゃ【黒の剣士】を殺してた男だ!」

 

「テメェごとき三流が?ハッ、冗談のつもりなら笑い話にもならねぇな」

 

「この野郎……!」

 

「挑発に、乗る、な。こ、いつ、の、目的、は、時間、稼ぎだ」

 

UZIを構えかけたクラディールを【赤眼】が制す。

 

チッ、挑発に乗ってくれりゃ楽だったんだがな。

手札の分からねぇ奴を相手取るなら、頭に血を昇らせた方がやり易くて助かんだけど。

 

【赤眼】の動きの始動を見極め飛び出す。

懐から取り出したのは球体状の物体。

 

それは何度か見たことがあり、俺も何度か使ったことのある代物。破壊力、殺傷範囲ともに広いそれ。

 

即ちプラズマグレネード。

 

起動させず宙へと放り、大して狙いも付けず黒星で射抜く。

 

なんつーデタラメな……!

 

トップスピードに乗りかけた体を急制動。《ムラサマ》を引き抜きーー爆風に呑み込まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………なんとか生きてるな」

 

即死してもおかしくはなかったが、ギリギリで生き残れたみてぇだ。そういうときの悪運は強いんだな俺。

 

身体に乗った瓦礫を押し退け、天井を見上げる。

 

プラズマグレネードが炸裂する瞬間、《ムラサマ》で地面を切り裂いて下の空間へと落ちることで逃れようとしたのだが、落ちた穴から入り込んだ爆風に煽られたわけだ。

 

何かしらの建造物か遺跡かは知らねぇが、この空洞がなかったら死んでたな。足元の感触が妙だったから一か八かの賭けだったが、上手くいって助かった。気ぃ引き締めねぇと。

 

どこぞのFPSゲームのように受けたダメージは時間経過で回復する。

 

回復を待ってから半ば倒壊しかけたレンタルバギー屋から唯一残っていたロボットホースを拝借し、微かに聞こえるエンジンを聞き慣れた《ヘカート》の銃声を頼りに廃墟を駆ける。

 

そうして一悶着はあったが、無事キリトと合流、砂漠地帯にある洞窟の中へと身を隠しつつ、サテライトスキャンをやり過ごしてヤツ(死銃)を討ち取るための作戦会議を開いた。

 

と、概要だけを話せば何てことはないが、洞窟内で話し合ってる最中もシノンが腕から離れない。

振り払わせないためか、太股で手を挟む徹底振り。

腕全体で柔らかさを感じれて役得だ。

 

「それで死銃、ザザのことだがーー」

 

「アルト、流石にシノンを無視するのは無理があるぞ」

 

「シノンは抱きついてない、いいな?」

 

「アッハイ」

 

こいつ(シノン)、前世は猫だったんじゃねぇの?

そう思わせるほど猫っぽい。

こうしてる間も抱きついた腕に頬を擦り付けてるし。

 

それはいいんだよ

 

「ザザの野郎にはリアル以外にもGGO内(ここ)にも協力者がいた。クラディールって聞いたことあるか?」

 

「クラディール!?アスナのストーカーしてたヤツだ!お前も知ってるだろ!?」

 

「は?ストーカーしてたのはクラゲだろ?」

 

「お前がそう憶えてるだけだ!」

 

そうなのか?

まぁ確かに興味のねぇ奴の名前は憶えねぇけどそんな名前だったけか?

 

「まぁそれはそれとして置いといて、クラゲがGGOに居る理由は特にねぇみたいだった。俺たち(攻略組)奴ら(【ラフコフ】)、その決着を着けるためにザザの野郎が用意したのかもしれねぇな」

 

「死銃があの爆発で死んだって……可能性は?」

 

「いや、トラックが爆発する直前、馬から飛び降りたのが見えた。無傷とは言えねぇが、死んだってのも言い切れねぇ」

 

「ってことは俺たちと同じようにどこかに身を潜めて、ダメージの回復に努めているって事か。それが終わったら――」

 

「ああ。今度こそ俺たちを殺しに来る」

 

はっきりと、その言葉を口にする。

間違いなく殺しに来るはずだ。奴の、奴らの執着心は俺たちには理解できない。したくもねぇけどな。

 

「なら、俺はクラディールをやる。アルトはザザを頼む」

 

「ああ了解だ。もし逆を提案してたら、ぶん殴ってでも訂正してたとこだ」

 

ニヤリ、と笑みを交わし拳を打ち合わせる。

キリトはアスナ絡みの因縁。俺は……特にないな。

いや、奴らのあり方が気に入らない。理由はそれだけで十分か。

 

「……なんで? あなたたちは怖くないの?相手は本当に人を殺せる力を持ってるかもしれないのよ?」

 

「仮想世界から人を殺すことなんざ出来ねぇよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はっきりと死銃の力を否定するアルトに、私は呆気にとられた。

 

なんでこうも……なんでこんなにも、この2人は強いの。それに比べて私は……5年前の私よりもずっと、ずっと弱くなってたのに……!

 

「……私、逃げない」

 

「シノン?」

 

「私も2人と一緒に戦う」

 

「シノンまで無理に戦うことなんて無いぞ?」

 

「アルトだって言ったじゃない。『仮想世界から人を殺すことなんて出来ない』って。もし仮に死銃にそんな力があって、殺されるかもしれなくても……私は構わない。さっき、すごく怖かった。死ぬのが恐ろしかった。情けなくて、悲鳴を上げて……そんな私のまま生き続けるのなら、死んだ方がいい」

 

そう彼が生きていてくれた。奴を殺してこれからも彼が生きていてくれるなら、私はこれ以上望まない。

 

「……本気で言ってんのか」

 

静かに、感情の込められていない平坦な声で呟く。

私はそれに答えず、彼の腕をほどいて立ち上がり、洞窟を後にしようとしたけどアルトの手が私の肩を掴んで止める。

 

「……離してよ」

 

「シノン、お前……自分が何を言ってるのか本当に分かってんのか?」

 

「ええ。もう怯えながら生きるのは疲れたの。別に付き合ってくれなんて言わないわ。1人でも戦えるか――」

 

その瞬間、強引に私を向き直らせると手を振りかぶり、乾いた音が洞窟内を反響した。

何をされたのか一瞬わけがわからなかった。私を打ったのだと気付くと頬に手を触れながらアルトを見上げる。

 

「寝ぼけたこと言ってんなよ、お前……。死んだ方がいい?何も知らないくせに死ぬなんて口にすんな。死ねばそこで終わりだ。遺された人間はずっと喪った悲しみを背負って生きていくことになる。お前があいつに殺されたら、俺もキリトも悲しむし一生悔やみ続ける」

 

「……そんなこと頼んでない。1人で戦って1人で死ぬ、それが私の運命なのよ」

 

「運命?お前はそんな、誰の手にも渡ってねぇ未来を信じて受け入れてるってのか?んなモン、クソ食らえだ!テメェ(自分)の運命はテメェ(自分)で決めろ!未来は与えられるもんじゃねぇ!」

 

「アルトには関係ないじゃないっ!偉そうに説教して何様のつもりよ!?」

 

「俺はお前の相棒なんだろ!?それ以上の理由が必要あんのか!?お前は俺に言ったな!!『私を置いて何処かに行かないでよ』ってよ!相棒に死んでほしくねぇって思いは俺も同じだ!」

 

相棒……。

そう、私とアルトは相棒。

最初は倒すべき相手だった。次は越えるべき目標だった。その次は互いを預けられる相棒だった。

でも……それだけよ。

私は彼のことをほとんど知らない。

彼は私のことをほとんど知らない。

ここでしか繋がりがない。私の彼への想いも蜘蛛の糸みたいに細くて切れやすい繋がり。

 

「ッ…!ならっ!なら貴方が私を一生守ってよ!」

 

押さえ込んでいた感情が一気にあふれ出し、アルトの肩を掴むと涙を流しながら叫ぶ。

 

「何も知らないくせにっ!何も出来ないくせにっ!勝手なこと言わないでよ!そんなこと言って、私のことを知ったらどうせ離れていくんでしょう!?私は……私の罪を、あなたが背負ってくれるの!?この……この、人殺しの手を、あなたが握ってくれるの……!?」

 

「なんだ、そんな簡単なこと」

 

握り締めた右手が、暖かい感触に包まれる。

ごく自然に、アルトは笑いかけながら右手で私の右手を包み込んでいた。

 

さっきまで怒っていたのに、いつものように笑みを浮かべる彼に思わず虚を衝かれる。

 

「守る……か、そうだな。茨の道でも道連れがいるなら歩き続けられる。お前がそれを望むなら、一緒に歩いてやる。例えそれが地獄への道でもお前の隣で笑っていてやるよ」

 

「っっ!!ぅぁぁぁぁぁ……!」

 

アルトに胸に飛び込み、親とはぐれた子供のようにすがり付き、声を上げて泣き続けた。

 

 

 

 

 

 

 

散々泣いて、散々叫んで疲れきったシノンはまた壁際に腰を下ろすと、隣に座ったアルトの肩に頭を載せてきた。

 

「ごめん……もう少し、もう少しだけで良いから」

 

「別に構わねぇよ」

 

そのまましばらく、誰も口を利かなくなる。けれど静寂を破ったのはシノンだった。

 

「……私ね、人を……殺したの」

 

ゆっくり、その言葉を口にするシノン。

それから少しずつ、ゆっくりと自分の過去を語りだした。

 

それが起きたのは5年前小さな町で起きた強盗事件。

 

報道では犯人は銃の暴発で死んだことにされたが、真相は違う。本当はその場にいたシノンが強盗から拳銃を奪って、撃ち殺したのだという。

 

「5年前……?」

 

「11歳の時……私、それからずっと銃を見ると吐いたり倒れたりしちゃうんだ。銃を見ると、殺した時のあの男の顔が浮かんできて……怖いの。すごく、怖い」

 

「けど……」

 

「うん。この世界なら大丈夫だった……だから思ったんだ、この世界で1番強くなれたら、きっと、現実の私も強くなれる。あの記憶を忘れることができる……って。なのにさっき、死銃に襲われた時、すごく怖くて……いつの間にかシノンじゃなくなって、リアルの私に戻ってた。本当はね?本当は、死ぬのは怖いよ……でも、それと同じくらい怯えたまま生きるのが辛いよ。でも死銃と、あの記憶と戦わないで逃げちゃったら、私はきっと前より弱くなっちゃう……!」

 

仮想と現実は同じようでいて違う、と無意識に思い込むことでシノンは平気だった。

そのお陰って言うのもアレだけど、銃を見たり触ったりしても平気だったんだろう。

けど、そうか……シノンもずっとそれを引きずっていたのか。

 

「……俺も、俺たちも人を殺したことがあるんだ」

 

あの時シノンが取り乱していた理由に納得し、俺もポツリと呟いた。

その言葉を聞き驚いたようにシノンは息を呑み、俺そしてアルトを見やる。

 

「前にも言ったろ? 俺たちとあの死銃は他のゲームで顔見知りだったって。そのゲームのタイトルはソードアート・オンライン」

 

「じゃあ、変態もアルトも……」

 

「ああ。SAO生還者(サバイバー)だ。そしてあの死銃ーーいや、ザザとクラディールも」

 

「【笑う棺桶(ラフィン・コフィン)】。現実でも人が死ぬと理解していながら、殺しを繰り返すロクでもねぇ連中が所属していたギルドの名前だ」

 

SAOでは犯罪コードに引っかかる行為をすると名前が通常時のグリーンからオレンジに変わる。だから犯罪者を犯罪(オレンジ)プレイヤーと呼んだ。

 

しかし殺人は単なる犯罪であってはならない。

ゆえに、レッド。殺人(レッド)プレイヤー。

 

最大の禁忌であるはずの殺人を、自らの快楽の為に幾度となく実行した彼らへの蔑称だった。

彼らの存在は恐怖そのものだった。一般人と攻略組、それら関係なく。彼らの存在そのものが大多数のプレイヤーの安寧を脅かした。

 

多くの人が犠牲になり、攻略にすら影響が及ぶ段階に至って遂に、彼らを滅ぼすための討伐隊が組織されることになったのだ。

 

しかし、かといって別に皆殺しにしようとしたわけじゃない。捕縛して監獄エリアに送ろうという計画だった。

 

「けど奴らの討伐計画が漏れててな。連中は待ち構えてた。そうなりゃ、あとはもう泥沼の混戦だ。その中で連中を10人、剣で斬り捨てて命を奪った」

 

「俺も2人、そしてSAOからの解放をかけて2人。この手で斬った」

 

手を開き、握る。その時の感触が今もこの手に残っている気がした。

 

「正当防衛?そうだろうな、俺たちだって死にたくなかった。殺さなきゃ、こっちが殺されていた。だから仕方がない。皆はそう言って俺の罪を責めはしなかった。……SAOが終わっても、そのことを免罪符にはしねぇし忘れもしない。もし、またこの手を血で汚さねぇといけねぇなら何度でも血で濡らしてやる。その業を背負う覚悟はある」

 

「やっぱりお前は強いな。俺は、もう一度そうする覚悟がない。でもアスナやユイ、俺の仲間に危害が及ぶなら……!」

 

アルトと違いその罪に押し潰されるかもしれない。

いや、アルトだって押し潰されそうになっても歯を食い縛って、膝を折らないだけだ。

 

その罪を背負っても歩き出せることが強さの形の1つだと思うし、そう信じる。

 

「…………過去と向き合って受け入れる」

 

「ん?」

 

「リアルでそう言われたの。強くなりたいならまず過去と向き合ってそれから受け入れることだって。あの人が言った意味って多分、二人みたいなことを言うんだと思う」

 

「へぇ、どんな人なんだ?」

 

「…………キリト、取り敢えずその話はいいだろ」

 

アルトのヤツどうしたんだ?

なんか冷や汗かいてないか?

顔も変だし、視線も俺と合わせないようにしてる。

 

「素っ気ないし口も悪いけど面倒見がいいわよ。なんだかんだ口では言うけど力を貸してくれる、そんな人よ」

 

ん?それって…………。

アルトの方を見れば両手で顔を覆ってる。

 

……おいおい、もしかして──

 

「他には?」

 

「他?嫌いだってハッキリ言われたけど、声を掛けてくれるし、気に掛けてくれるし、困った時は相談に乗るとも言われたわよ」

 

ビンゴ!

 

「だってさ、ツンデレアルト」

 

「うっせぇ!!なんでこんな身近に知り合いがいんだよ!なんだ!なんだよ!なんでだよ!なんで俺が羞恥責めなんざされなきゃならねぇんだ!!」

 

突然の発狂にシノンは目を丸くしたままアルトを見上げてる。

 

「……え?まさか…三神、さん?」

 

「あぁ!そうだよ!キリトテメェ!途中から分かってやがったな!!」

 

「仕方ないだろ。こういう機会じゃなきゃ、お前を弄れなれないんだから」

 

散々弄り倒されてきたこっちの身にもなれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間的に何回目かのサテライトスキャンが終わった頃合いだな。

羞恥責めによって発狂した脳を切り替えて、なんとか冷静に努める。

 

マップを確認すればザザとクラゲの表示はなく、俺たち三人を除いた数人のプレイヤーだけが表示されてる。

 

「そういやクラディールのGGOでの名前は?」

 

meth(メス)。ヘブライ語で死って意味だな。安直だしダセェな」

 

ザザといい、クラゲといい、どうしてそんなに死にこだわるのか。

取り敢えずその事はいいんだよ。

 

「生き残ってるヤツはシノン、お前に狙撃してもらいたい」

 

「アイツらに狙われてる可能性は?」

 

なぜ、ザザがいつでも撃てるタイミングだったにも関わらず、勿体振るように引き金を引かなかったのか?

 

「ないことはない。だが、あの時黒星でシノンを撃たなかった。それはつまり、リアルでシノンを殺すことが出来なかったってことだ」

 

「……ちょっと待って。どうしてリアルの私になるの?奴らはゲームの中(ここ)から人を殺してるんでしょ?」

 

「まだ説明してなかったっけ?アルトの推理になるけどザザがプレイヤーを撃った時にリアルでの協力者が、プレイヤーに多分薬物かなにかを注射して殺害してるんだ」

 

「被害者の体に明確な損壊が見られなかった。つまり鈍器で殴る、刃物で刺すとか切るとかンな手口じゃねぇ。んで都内に住む独り暮らしかつ初期型の電子鍵の家。これに当てはまるプレイヤーが標的って訳だ。あさーーシノンはダイブする前ドアのチェーンロックは掛けたか?」

 

「ええ、もちろん」

 

「待て、なにか仕掛けたのか?」

 

「まぁな。チェーンロックを外さないままドアを開こうとすれば、スタンガン程でないにせよビリッと電気が流れるように細工した。1回放電で電池が空になるのがネックだけどな。しばらく痺れも抜けねぇんじゃね?」

 

「なにしてんだお前」

 

失礼な。防犯だ防犯。

乾電池と電池ボックス、ケーブルとスイッチ、あとは簡単なセンサーを用意できれば誰でも作れるもんだぞ。

 

「シノンの部屋にはそう簡単に侵入出来ねぇよ」

 

「いや本当なにしてんだお前……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

擬似的な太陽が落ち、夜の帳が周囲を包み始める。

 

……見られてるな。

予感ではなく確信。姿が見えなくても判る。舐めるような視線を感じる。

 

キリトは市街地の方へ赴いている。

光学迷彩を利用して待ち伏せしてるはずだ。ほぼヤマ勘だが、砂漠地帯には間違いなくザザがいる。

 

《ムラサマ》に置いた左手で柄を掴み引き抜いて、逆手のまま眼前を切り払う。

 

軽い手応えと共に火線が二つに割れる。

銃声はない。やはり《L115A3》ーー

1~1.4キロの長射程を誇るボルトアクションライフル。

 

《ムラサマ》を右手に握り直し、銃弾が飛来した方向へ向け走り出す。

 

初弾は見切った。あとは予測線と奴の気配を頼りに銃弾を切り払って距離を詰める!

 

頭、右胸、左膝。

銃弾を切り払い、予測線から逃れ着実に被我の距離を詰める。

だが、スピードに乗りきれない。

狙いが正確であることタイミングが絶妙であることが要因だ。

 

こっちの間合いに入る前に取り逃がしちまう!

それだけはできねぇ。奴とはここで決着を着ける!

 

あと300メートルを切ったところでザザのライフルが火花と共にポリゴンとなって四散した。

 

シノンの狙撃!尚更この好機逃すわけにはいかねぇ!

 

十秒とかからずザザとの距離は100を切った。

奴は黒星を引き抜くが、ここは俺の間合いだ!

 

放たれる銃弾を避け、一足飛びで距離を詰め振り上げた《ムラサマ》を袈裟に降り下ろす。

 

 

 

だが、その刃は硬質な金属音と共に阻まれる。

 

「っ!!!」

 

「接、近戦、が自分、だけだ、と思っ、たか?」

 

「ちゃんと話せ!聞き取り辛ぇんだよ!」

 

受け止めたのは刺突剣(エストック)

並大抵の金属なら切り裂ける《ムラサマ(コイツ)》が、受け止められたことに驚いたのは一瞬。

すぐにその正体に気付いた。

 

「そのエストック、宇宙戦艦の装甲に使ってる金属が材料か!」

 

「ご明、察、だ【双刃】」

 

突きと言う最短で繰り出される点の刺突を斬ると言う線の斬撃で払う。

 

……攻めきれねぇ!

 

点の攻撃(最短の攻撃)線の斬撃(切り返しの攻撃)

どちらが早いかは言わずもがな。

徐々に圧され始める。

 

「……俺とお前たち(【ラフコフ】)は似た者同士、なんて心の何処かで思っていたが、そんなことは無かった。ザザ、お前は……俺以上に救いようの無いクズだった」

 

「な、に?」

 

「俺が戦うのが好きだ。その結果俺が殺されようと悔いはねぇって胸張って死ねる。だがお前たちは愉しみながら人を殺した。似ているようで全然違ってたわけだ。そして今も、お前たちはあの世界と同じように人を殺している……何が『本物の死を齎す』だ!お前も奴も、この世界から人を殺す力なんて持っていねぇ!卑劣で低俗なただの人殺しだ!」

 

「違、う」

 

「だったら俺を殺してみせろ!今すぐ!ここで!」

 

俺の左胸を貫くはずだったエストックは左脇を抜ける。

俺とキリトを誘き出すのが目的かとも考えたが思いの外、人を殺すことにも拘りがあったみてぇだな。

 

「そうだ、殺せねぇ!俺の本当の名前も、どこに住んでいるのかすら知らねぇ!独り暮らしをしている意識の無い人間の家に忍び込んで毒薬を注射?大口叩いてやっている事は姑息でお粗末な上にPKですらねぇ!そんな事しかできない小せぇ人間が、俺を殺せるものなら殺してみろ!俺はお前を認めねぇし、同情もしねぇ!お前は俺の仲間を殺そうとしている……正直、お前をブッ殺してやりてぇが、代わりにお前の悉くを否定してやる!」

 

「俺、を否、定?そん、な、事どう、やっ、て」

 

「簡単な事さ。お前は俺を絶対に殺せない。そして……お前が未だにあの世界に魂を囚われていると言うのなら、それすらも否定してやる。俺たちが囚われていた鉄の城はもうどこにも存在しない。そして【笑う棺桶(ラフィンコフィン)】だって無いってな!」

 

「違、う……違う!俺はザザ……【ラフコフ】の幹部!【赤目】のザザだぁ!」

 

 

 

 

 

 

「アルト……!」

 

《望遠》スキルと《暗視》スキルを併用して映し出された視界には、ボロ纏ったプレイヤーに徐々に圧され始めてるアルトの姿。

 

援護したいけど《ヘカート》のスコープは奴の《L115A3》を撃ち抜くと同時に相手からの弾で破壊されてる。

 

被我距離は1キロを越えてる。

スコープ無しじゃ援護も出来ない。

 

『お前が望むなら一緒に歩いてやる』

 

……守られてるだけじゃ駄目だ。肩を並べて歩けるようじゃないとアルトの相棒は名乗れない!

 

お願い《ヘカート(ヘカテー)》……私に……力を貸して……!

 

 

 

 

 

 

《ムラサマ》で地面の砂を跳ね上げ目を潰し、鞘に納める。そして柄に手を掛けたまま腰を落とす。

 

ザザが砂の壁を突き破ると同時に鞘の引き金を引いた。

 

撃鉄が雷管を叩き火薬を爆発させる。その爆発を受けスパイクが打ち出され《ムラサマ》の鍔を押し出す。

銃弾と同じ速度で押し出された《ムラサマ》を居合いの様に振り抜いた。

 

ザザのエストックが右頬を掠め、音速を越えた《ムラサマ》が奴の右肩から腕を斬り飛ばした。

 

「っっ!!」

 

その時ザザの視線が自身の左胸に向けられていた。ヤツ(ザザ)に見えて俺に見えないもの、つまりーー

 

予測線……シノン!?……助けられてばっかりだな。アイツのありったけの闘志と今までの経験、そして過去と向き合い受け入れようとする覚悟。その全てを乗せた幻影の弾丸(ファントムバレット)。無駄にはしねぇ!!

 

「お前たちの企みも【ラフコフ】も全て!これで終わりだぁ!!」

 

振り抜いた右腕を引き戻し、奴の胸目掛け突きだした。

 

光学迷彩を起動し奴の姿が消えるが俺には見える。

奴の体格、体勢、足跡。あらゆる情報から俺の目には奴の姿がはっきり見えている。

 

「甘ぇ!!!」

 

《ムラサマ》の切っ先は寸分違わずザザの胸を貫き、左下に斬り落としたあと、傷痕をなぞるように斬り上げ真っ二つに切り裂いた。

 

砂上に転がるザザに一息着ける。

ひとまずこれで終わりだな。

 

「ま、だ、終わら、ない……あ、の人、がお前、たちを、必ず……」

 

「Pohのことか?来るなら来い。どちらにせよお前らは終わりだ。リアルの協力者もすぐに捕まる」

 

こいつらにかける情けはねぇ。

因果応報。

テメェ(自分)の生き方は全部テメェ(自分)に返ってくる。自分の快楽のために周囲を省みなかった。そのツケが自分に戻ってきた。それだけだ。

 

 

踵を返せば、シノンがこちらに歩いていた。

 

「……終わったの?」

 

「取り敢えず()()()()、な」

 

そうここ(GGO)では決着が着いた。

だが、協力者が捕まらない限りまだ終わりとは言えねぇよな。

 

それにーー

 

「お前ともケリをつけねぇといけねぇよな?」

 

「当たり前だろ。これで“はい終わり”って訳にもいかないだろ?」

 

視線の先には両手に異なる刃の剣を持つキリト。

 

お前がいるのに剣を交えねぇと落ち着かねぇよ。

 

「俺たちは剣士だ。戦うだけだ。そうだろ?」




少しずつ投稿済みのものを書き直したり、改訂版を投稿すると思います。
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