ははっ!なんのことやら
ごちそうさん。昼も食ったし、話の続きといくか。
シリカと別れたあと、俺とキリトも別行動をすることになった。元々、ソロで動き回ってたからな。朝別れて夜に会うことの方が多かった。
ま、俺はシフと行動することが多かったし、キリトも行く先々で女を引っ掛けてーーイエ、ナンデモアリマセン。
なんだよ里香。……キリトがお前に《ダークリパルサー》を打ってもらうまで、俺はキリトとは別行動だったぞ。
それでも、顔を合わせる度に戦ってたが。
んーと、どこまで話したっけか?
「いい天気だな、シフ」
「ンフー」
六十二層の主街区にある公園で、丸くなったシフの腹を枕代わりに寝そべってた。
今のレベルは70。ソロの安全マージンを考えれば、あと5ぐらい上げとけば安心だな。
シフのお陰でレベリングも捗るし、2日3日もあれば十分だろ。
そう考えつつも、暖かな陽射しとシフの体毛の心地よさに抗えず、このまま寝てしまおうかとも考えた。
「ヨ!こんなところでお昼寝カ?」
「アルゴか……何か用か?」
「ようやく名前で呼んでくれたナ。別に用はないけド、お得意様が見えたからナ。声を掛けただけダ」
お前も暇だな。
「言っとくが、お前に構ってる暇はないぞ」
「今まさにお昼寝しようとしてたやつの台詞とは思えないナ」
俺たちの話し声で起きたんだろう。シフが目を覚まし、アルゴに顔を伸ばすがーー
「に、にゃぁァァァ!!」
全力で数メートル後退った。
「オイラに犬を近付けるんじゃなイ!」
「犬じゃなくて狼なんだがな」
「どっちでも一緒ダ!狼を品種改良したのが犬なんだからナ!」
起源を辿ればそうなるだろうが、【鼠】なら苦手なのは猫だけにしとけ。
初めて会ったときは、逃げるアルゴを遊び相手と勘違いしたシフが一日中追いかけ回してたんだっけ?自分よりデケェ狼が自分のことを追い掛けてきたら、そりゃトラウマにはなるだろうが、この様子だとリアルでも犬が苦手なのか?
「あー、お陰で目が覚めた」
《アルゴノゥト》の強化素材はもうこの階層じゃ手に入んねぇし、コルにも困ってねぇからクエをこなす必要性もねぇ。
キリトに喧嘩を売るのもありだがーー
「暇を持て余してるみたいだナ」
「特に用事もねぇし、
「とかなんとか言ってるけド、シーちゃんに防具の提供してたみたいだナ?となるト、下層プレイヤー用に性能が高めの防具は取って置いてるのカ?」
こいつ……!どこでそれを……!
「ニシシ、情報は時に剣より強いんだヨ」
「……それを言うってこたぁ何かあんのか?」
こいつがこの決まり文句を俺に言うときは大抵碌なことじゃない。
「五十層のボス部屋に大穴が開いたのは知ってるカ?」
「1週間ぐらい前だったか。大騒ぎになったわりに、これといった動きもねぇから、今じゃその話しも聞かなくなったな。それがどうかしたのか?」
「昨日夜十二時を過ぎた辺りから、穴の底から何か呻き声みたいな声を聞いたってプレイヤーが増えてル。キー坊も行ったみたいだけど、特に何もなかったらしイ」
それで俺に白羽の矢が立ったわけだ。
「ンフ?」
どうする?と鼻を鳴らすシフを撫で、メリットとデメリットを天秤にかける。
デメリットは当然、情報が不確定なことだ。何があるのか、何が起こるのかが不明瞭。無用心に近づいて死ぬこともあり得る。
メリットも何があるのか不確定なことだ。誰も確かめてねぇから、レアアイテムが存在する可能性がある。
「分かった。引き受ける」
「毎度!何か情報が手に入ったら、高く買うヨ」
だから無事に帰ってこいってか。回りくどい言い方をするな。
おー、確かに大穴だな。
目視で直径30メートル程の孔。誰が用意したのか、転落防止用の柵が孔をぐるりと囲っている。柵に近寄れば、坂道が螺旋を描いて下に続いてるのが見えた。
ここからじゃ底は見えねぇな。光量の関係も考えれば深さは20メートル以上ってところか?
「なんだ!?扉が閉まったぞ!」
上層に向かおうとしてたパーティーか?ボスもいねぇのに扉が閉まるなんざーー
その時俺の耳に変な音が聞こえた。何かが転がるようなそんな音だ。
視線を孔に、正確には孔の円周をなぞるように伸びる螺旋の坂道に向ければ、白く回転してるもんが20近く坂道を登ってる。
咄嗟に回避して柵から離れれば、それが柵を破壊してドリフトして止まった。
骸骨と車輪?車輪と骸骨か?そんな表現しか浮かばないほど目の前のモンスターは常軌を逸していた。
棘付の車輪を体の一部とした骸骨、という表現が正しいのかもしれない。
《Wheel skeleton》
車輪骨組み。いや、車輪骸骨のが正しいか。
バウンドしながら迫る車輪骸骨を《アルゴノゥト》で弾こうとするがーー
硬ェ!……違う。回ってっから回転部分に対する衝撃を受け流してんのか!
跳ね上げられた衝撃に身を任せ跳ぶ。真下を通過し、後ろ髪を数本引き千切られるがやり過ごせた。
「嫌だァァァ!やめろぉぉおあぁぁ!!」
「死にたくない!死にたくないよぉぉ!」
「何なんだよ!こい……!」
突進を受けノックバックしまた轢かれる。その繰り返しで轢き殺される奴、錯乱して武器を放棄するが後ろから撥ね飛ばされる奴、叫んでいる途中で轢き潰される奴。
阿鼻叫喚ってのはこの事か、と他人事のように思いながら真横を通り過ぎようとした車輪骸骨の横っ面を《アルゴノゥト》で串刺しにし、まだ息のあるプレイヤーに群がる車輪骸骨目掛け投げ捨てる。
親しくもねぇ人間が何人死のうが知ったことじゃねぇが、この事態を引き起こしたのは間違いなく俺だ。なら、この事態を終わらせるのも俺の役目だ。
「シフ!!」
どこから入ってきたかは知らねぇけど、シフの気配は感じていた。
車輪骸骨の波を飛び越え、俺の元に着地したシフの背に飛び乗り、間一髪で車輪骸骨の波を越えて孔の底へと続く坂道に着地する。
下がどうなってるか分からねぇが、このまま車輪骸骨をボス部屋に放置すりゃ何人死ぬか分からねぇ。扉も開かねぇとなりゃ上層に上がるプレイヤーがいなくなる。
そうなりゃ、攻略組の戦力も減る一方だ。
イチバチの賭けだが下に降りるしかねぇ。
孔の底は言ってみれば骨だらけ。
ポリゴンにテクスチャを張り付けただけだとは解っているが、言い知れない不吉さは感じる。
ここに来る途中で車輪骸骨たちはバランスを崩したのか道を外し、下に落ちていったがこの様子だと即死だったみたいだな。安易に飛び降りなくて良かったと安心した。
「グル…………」
「どうしたシフ?」
下に降りるにつれシフの様子が変だ。朝起きた時には体調?は良さそうだったが……。
とにかく先に進もう。この孔が開いたままじゃボス部屋の扉も開かねぇし、この騒ぎがあったと知られりゃ五十層に人が寄り付かなくなる。
「先に進もう。行けるか?シフ」
「ガウ……」
HPは減ってねぇんだが……何かに怯えてる?
奥にはこの孔と同じ大きさの洞窟が見える。先に何があるか分からねぇことだらけだが、ここで立ち止まるよりかは事態は進展すんだろ。
洞窟の中は人間の顔と同じ大きさの鼠。中には人間大の鼠までいた。普通の鼠であったならまだ良かったが、問題はその外見。目が取れかかってたり、何かに食い千切られたのか骨が見えてたり、それが群れをなして襲ってくる。ハッキリ言えばグロい。
SAOは13歳以下禁止だったよな?
「シフ、大丈夫か?」
「グル…………」
まだダメか……。
「もうすぐで洞窟を抜ける。もう少しだ」
歩みが遅くなっていくシフを励ましながら洞窟を抜ければ、中世の建物が眼前に広がった。
ただ、街に生気はなく街全体が死んでる。
丁度ここは街を見下ろせる位置にある。体を落ち着けられる場所を見つけれるはずだ。
「……あの教会まで行くぞ」
街の中も胸に孔の開いた黒い鎧の騎士だったり、亀の甲羅のような物を背負った黒いローブを着たナニか、中にはミイラのように骨と皮だけのヤツもいた。……最後のヤツはどこにそんな力があるのか両手斧を持ってたが。
不気味極まりなく統一性もねぇモンスターだらけだったが、共通するのは
殺すことができねぇから身を隠しつつ、移動ルートを記憶し鉢合わせないよう最大限の注意を払ってようやく教会に辿り着いたものの、扉が開かねぇ。
「おい!誰がいねぇか!」
扉を乱暴に叩きつつ声をあげるが反応はない。
仕方ねぇ扉をぶち破ってでもーー
「……珍しいこともあるものです。まだこの街に正気の人間が生き残っているとは……」
若い女の声。NPCか?それともプレイヤーか?
「あんた誰だ……いや、それはいい。それより中に入れてくれ。相棒の様子が変なんだ」
「救いを求める者を助けるのは
暗い……孔?
危険ではあったが防具を全ての装備から外し、全身をくまなく探すがそれらしいものはない。シフも体毛を掻き分けて探してみるがシフにもない。
「大丈夫だ。それらしいもんは見当たらない」
「そうですか。少々お待ちを今鍵を開けますので」
鍵というよりは
「……驚いた。相棒というのは狼だったのですね。どうぞ中へ。教会の中なら、亡者たちも中へ入ってこれません」
亡者?
中を案内され、暖炉の前でシスターが向き直った。
「私はフィリアノール教会のシスター、シラと申します。以後お見知り置きを」
「アルトだ。それでこっちがシフ」
「フゥー……フゥー……」
大分弱ってるな。
「この子"も"シフというのですね。地上の子供たちにここの空気は猛毒。すぐに解毒の用意を致します。暫しお待ちを」
猛毒!?
悪いシフ、知らなかったとはいえ長々と歩かせた。
「お待たせいたしました。この白湯と一緒にこの粉末を」
「これは?」
「亡者の骨を粉末にしたものです。ここの空気に適応させるにはここに住む生物を取り込む他ありません。大丈夫です。害はありません」
「藁にも縋る思いだ。信じるぞ」
粉末を飲ませ少し経つと鼻息も落ち着き、丸くなって寝息をたて始めた。本当に害はなさそうだな。
「礼を言う。あんたのお陰で助かった」
「困ったときはお互い様です。……しかし、懐かしいですね。大狼と共にある剣士。かつてこの街を守護していた騎士様のようではないですか」
……聞きたいことが山ほどあるな。
「なぁ、この街はなんだ。とてもじゃねぇが人の住む街とは思えねぇ。それに地下にある癖に空がある」
「この街はもともと地上にありました。ですがとある魔竜の怒りに触れ、決して消えることのない炎に包まれました。次第に大地は炎を避けるように隆起し、この街は地の底へと沈み決して明けることのない夜が訪れてました。そして人々は魔竜の炎を1ヶ所に集めることで、擬似的な太陽を作り出すことに成功はしましたが、更なる災厄がこの街を襲ったのです。その災厄が人々の不死化。決して死ねず、決して殺されない。最初の頃は人々は歓喜しましたが、次第にその異常さに気付いたのです」
「それが亡者……」
「はい。人々は不死となったと言いましたが、これは完全なる不死ではありません。こちらをご覧ください」
シラはシスター服の襟を緩め胸元を見せる。そこには黒い円が刻まれ、炎のように揺らめいている。
「これは刻印。完全なる不死ではないと言うのは、これを刻まれ死しても甦るのです。そしてその都度、記憶と人間性を失ってしまう。そうして最後には自身が失ったものを他者から奪うべく、さ迷い続ける亡者と成り果てるのです」
「あんたはさっき亡者たちはこの教会に入れねぇって言ったな、ならあんたは亡者じゃねぇのか」
「死して甦る度に記憶と人間性を失うのであれば、死なねば良いだけのこと。幸いなことに策を弄する時間は多くありますから」
クスクスと笑ってはいるが目は笑ってねぇ。
「それで?騎士様ってのは?」
「狼の騎士。狼騎士と呼ばれたこの街の守護者です。大剣を振るえば無双。万夫不当とまで呼ばれた最強の騎士様です」
狼の騎士……ってことはーー
「お察しの通り、騎士様もあなた様のように狼の友がおりました。奇しくもその名も同じく"シフ"、と」
成る程な。大剣使いのプレイヤー、シフという名の狼。この二つがフラグだったって訳か。
「かつて私にも友がおりました。ですが、闇を喰らうという使命の果てに正気を失ってしまいました」
暖炉の中を揺らめく火を見つめ、ふと思い出したように切り出してきた。
「もしかしたら私が今まで正気でいられたのも何かの思し召しかもしれません。私の友はこの教会の奥。さらに地下へと続く穴の先におります。貴方の力で私の友を、そしてこの街を終わらせては貰えないでしょうか?」
「俺に殺せるのか?あんたの話だとここに住んでるヤツは不死なんだろ?ならそいつも不死である可能性が高い」
「確かに。ですが、私が意味もなく騎士様の話をしたとお思いで?あちらの剣をお持ちください」
指し示した壁には両刃の大剣。手に取り《鑑定》スキルを発動してみれば【狼騎士の大剣】の名。
……深淵特攻?
「かつて騎士様は【深淵歩き】の異名がありました。その名の通り、人々を襲う深淵を滅ぼすために自ら闇へと赴いたのです。数多くの闇を斬るために打たれたその剣ならば私の友もきっと……」
闇を喰らうヤツに対して深淵特攻の武器か。
「いいだろ。引き受けよう」
《闇を喰らう魔竜》
この魔竜ってーー
「苦も楽も同じこと、命の色でございます。色なき命になんの意味がありましょうや」
……なんだ?頭ん中に
「テメェ、シスターじゃねぇな。なにモンだ」
「フフフ……私のことが知りたいのですか?なんと強欲な殿方なのでしょう。
床が割れ深淵へと堕ちていく。
「っ…………」
頬を濡らす感覚に意識が覚醒していく。
『苦も楽も同じこと、命の色でございます』
ッ!あの腐れ
ガバリと体を起こすが、そこは薄く水の張った巨大な空洞。上を見上げても教会の床すら見えねぇ。
……よく即死しなかったな。こんな浅い水辺じゃ落下の衝撃なんざ吸収すらできねぇだろ。クソ!まだ頭が回らねぇ。
ッ!シフ!シフはどこに……!
見渡せばそこには巨大な黒い影。
《Dark eater midir》
闇を喰らう者ミディール
災厄が目を覚ました
ダクソ1体験者にはトラウマの車輪骸骨と犬ネズミ。
そしてダクソ3dlc2の隠しボスこと闇喰らいのミディール。
自分で自分のトラウマを刺激してしまいました。
ダクソ1未経験者の方に補足として
車輪骸骨は攻撃が多段ヒットし、盾で受けたときのスナミナ削りもエグいです。つまり攻撃を受ければ即死と考えてください。
犬ネズミは1体1体は大したことはないですが、数がヤバイです。囲まれたら終わります。即死です。食べられます。
前話と平行して書いてました。2連休も終わりなので連投は出来ないですけど