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次にキリトに会ったのはクリスマスの日だったな。
どうした木綿季。……シフに会ってみたかった?
そうか……そうだな。お前にも会わせれたら良かったんだが。
12月23日 四十七階層
クリスマスを翌日に控え、人生的な意味のソロプレイヤーはその鬱憤をフィールドモンスターにぶちまけていた。
この数ヵ月で俺の腰位まで成長したシフ。
どういう訳か爪や牙でなく俺が渡した片手剣を咥え、剣士の如くモンスターを切り裂いていく。
攻略の最前線が四十九層まで押し上げられ、年明け前には五十層まで上がれんだろ。
現在の俺のレベルは68。ソロであれば階層+10のレベルが必要だから安全マージンは十分だな。
《アルゴノゥト》の適正STR値にも届き、片手で振り回せるようになったお陰でもう片方の手が空き、取れる戦略の幅が広がった。
「どうした?シフ」
「ガウ!」
剣を地面に突き刺し、明後日の方向を向くシフに声を掛ければ一吠え。
「アルトくん、シフちゃん」
「ガウ!」
「アスナ、どうかしたのか?」
「キリトの姿が見えない?」
「うん。3ヶ月ぐらい前から姿も形も見えなくなっちゃって……」
俺が借りている宿屋に案内し、切り出されたのはキリトの行方。アスナが3ヶ月探して見つからねぇとなると前線やどっかの迷宮区じゃねぇってことか。
「フレンド登録してんなら、《追跡》で何処にいるかぐらい判るだろ」
「私そのスキル習得してないし、そのスキル使ってキリトくんに会いに行ったらストーカーだと思われちゃうでしょ?」
その片鱗は十分に垣間見てるけどな。
「《鼠》は?」
「アルゴさんにも頼んでるけど、それらしい人を見てないし、会ってもいないって……」
本当にそうなのか誰かに口止めでもされてんのか。
「……それに明日はクリスマスだし」
成る程、せっかくのクリスマスだしキリトと二人っきりで過ごしたいって訳だ。
「アルトくんその顔やめて」
「別にそこまで変な顔してねぇだろ」
「人を弄る時の悪い顔してる。ね、シフちゃん」
「ガウ!」
マジか。そこまで顔に出やすいか?
「でも、なんでいきなり姿を眩ましちゃったんだろう?」
「大方、鬼嫁にーーイエ,ナンデモナイデスアスナサン。……例え話として聞いてくれ、来年人生を左右する大事な試験があるとする。趣味に走らず、寝るときや食事以外の時間は全部勉強に使う。アスナは続けれるか?」
「無理、だね。
それだけ続けれりゃ十分だろ。
試験なら明確な終わりが見えてるが、このSAOじゃ百層までどれぐらいの時間が掛かるか分からねぇ。ただでさえ自分の命と引き換えに攻略するとなりゃ、精神的なストレスはバカにならねぇ。
攻略が嫌になって逃げ出したのか、友人のギルドにでも誘われたのか、はたまたお人好しを発動させてどっかの誰かさんのレベリングでも手伝ってんのか。
1つ目であるのならーー
「キリトくんを探してもらえないかな?」
「最善とは思えねぇ人選だな。シフはどう思う?」
ベッドの上で丸くなってるシフに問い掛ければ、地面の匂いを嗅ぎながらぐるぐる回ってる。
探せってことか。
「わーった。引き受けてやる」
「本当にーー」
「ただし、お前のためじゃねぇ。あのバカを前線に戻すためだ。勘違いすんじゃねぇぞ?」
「君のご主人は素直じゃないねぇ」
「ガウガウ!」
うるせぇ。
「アスナ、シフを頼む」
「了解」
「お?アルトじゃねぇか」
「クラインか、お前もキリトのバカを?」
三十五層の迷いの森。
少し前に一際大きなモミの木にクリスマスの装飾がされたらしく、そこに現れるボスが蘇生アイテムをドロップするらしい。
蘇生アイテムが実在するかどうかは分からねぇが、仮に実在するとすればそのアドバンテージは計り知れない。
キリトも蘇生アイテムを狙っているとしたら、間違いなく現れるだろう。
「キリの字をフレンド登録してるからな。フレンド追跡機能使って《風林火山》のメンバーで後を尾けてるってわけよ」
「アイツに何があったのか知ってんのか?」
「詳しいことは分からねぇが、どっかのギルドに入ってたみてぇだ」
そのギルドが壊滅して蘇生アイテムで復活させようってところか。…………バカ野郎が。
「キリの字よーい!」
クラインが声をあげれば小せぇ背中をさらに縮こめた藍色のコートを羽織ったキリトの姿。振り返ったその顔は生気がゴッソリと削れ、その目は淀み濁りきってる。
「クラインに……アルト……」
「クリスマスボスに挑むのか?なら俺たちも一緒に!」
「止めとけクライン、キリトを尾けてたのは俺たちだけじゃねぇみてぇだ」
少し離れた木々の影から統一された重装備に身を包んだプレイヤー達が現れる。
鎧に刻まれたエンブレムは《聖竜連合》か。今は亡きディアベルが組んだレイドパーティーを核に組まれたギルド。
今ではレアアイテムの為なら
「俺たちも尾けられてたってことか」
「クリスマスボスがドロップする蘇生アイテムはこの先、攻略するのに必要なものである。ソロプレイヤーが占有して良いものではない」
「言い分は
「必要時を見極め、使い時を誤れば無為になるだろう。その為に我々は一括して管理しているのだ」
イライラするな。こいつらここで殺して良いか?
「キリト、アルト先に行け。こいつらは俺たち《風林火山》が引き受けた」
「いいのか?数的にはあっちが上だぞ」
「戦いようは幾らでもあらぁ。気にしてねぇでお前達は行けよ」
「……なら任せた」
踵を返すキリトに続き不可視の壁の向こうへと飛び込んだ。
「それで?何があった」
「アルトには関係ない」
「大方、死んじまったギルドメンバーを生き返らせようってこったろ?」
電飾に彩られたモミの木の前でようやく本題を切り出せた。
今のキリトは絶望し、あるかも分からねぇ希望に縋ってる。ハッキリ言や、その姿に腹が立ってる。
「……守るって決めた人がいたんだ。サチが、その人が最後に俺になにかを言ったはずなのに、俺には解らない。だからーー」
「だから、あるかも分からねぇ希望に縋りついてその言葉を聞こうってか?ふざけてんじゃねぇぞ!」
気が付けば俺の拳がキリトの頬に突き刺さり、雪が積もる地面に投げ出され、大の字に倒れたキリトの胸倉を掴み上げ激情に任せ真実を告げる。
「その蘇生アイテムってのは、脳が焼き切れた人間すら蘇生できるシロモンなのか!少し考えれば分かんだろ!」
「ぁ……ぁぁぁ…………」
「お前が死んで、そのサチって奴が生き残っていたら、お前はそいつに必ず生きて欲しいって願うんじゃねぇのか!?そのサチって奴がどんな奴なのか俺は知らねぇ!けどな!お前が死ねば、お前に託した想いが無駄になるんだぞ!」
こいつの希望を握り潰すことになろうが知ったことじゃねぇ。こいつのこんな姿を見たくねぇし、アスナにも見せられねぇ。
「後ろを振り向くなとは言わねぇ!お前はまだ生きてんだろ!なら死んじまった人間の分も歯ぁ食い縛って立って歩け!」
俺の両親が死んだとき、あの双子に言われた言葉。あの言葉があったから、俺は立ち上がれた。
親しい人間の死。
信じられるものが突然消え、なにもかもが灰色に染まった世界で、なんのために生きるのかを見失ってしまったあの時の俺に、今のキリトはよく似てる。
突然鳴り響くベルの音。
空を見上げれば、光の尾を引く何かが夜空を飛んでいた。
「来やがったか。キリト」
「……俺は……俺は……」
膝から崩れ落ちたキリトはうわ言のようになにかを呟いてる。
「ハッ!サンタのわりに子供受けしねぇ面だな」
赤と白の服に身を包んだモンスター。
サンタのつもりなんだろうが、その顔はグロテスク極まりない。
《Nicholas The Renegad》
背教者ニコラス、か。確かにサンタの名前に真っ先に挙がるのがニコラスだが、サンタなのに背教者とはなかなか皮肉が効いてるな。
背負った《アルゴノゥト》を抜き放ち、肩に担ぐように構える。万全とは言い難いが、いざとなったらキリトを担いで逃げの一手だ。
「……アルト……俺もやる。サチが俺に何を託したのか、それが分かるまで足掻いて足掻いて、絶対に生き抜いてやる!」
「その意気だ。生きてりゃ良いことがあるなんて言わねぇが、生きることを放棄すれば生きたまま死ぬことになる。そんなのはゴメンだろ?」
「キリト、アルト無事だったか!?」
「満身創痍も良いとこだがな」
互いの肩を借り、なんとかクラインたちのいるフィールドに戻ってこれた。
「《聖竜連合》は?」
「俺様と半減決着のデュエルで負けて退散してったよ」
「クライン……これはお前が持っていてくれ。誰かが目の前で死にそうになった奴がいたら使ってやってくれ」
《還魂の聖晶石》
HPがゼロになってから10秒間だけ使用でき、アバターが消滅してしまえばもちろん使えねぇ。
これを用意した奴は本当に趣味が悪ぃな。
「アルト、もう大丈夫だ。……アスナによろしくな」
気付いてたか。まぁ、用もなく会いに来れば感づくか。
「キリト……キリトよぅ、おめぇは生きろよ!最後まで生きてくれ!」
「……じゃあな」
遠ざかっていく背中を追いかけることはしねぇ。
……こっから立ち上がれるかどうかはキリト次第だ。
それでも俺は信じる。こいつの強さを。
「キリトの奴、大丈夫だよな?死んじまったりしねぇよな?」
「さぁな。死んじまえばそこまでの奴だったってだけだ。だがここで終わるような奴じゃねぇ。必ず立ち上がれんだろ」
さて、アスナに何て報告したもんか。
他の女のために命懸けてたって、馬鹿正直に話せばそこには修羅がいるだろうな。
「……そっか。亡くなった友達のために」
「酷ぇ面してたな。その上、手に入ったアイテムは10秒以内じゃねぇと使えねぇときた」
結局、ありのままを話した。
捏造しようとも思ったが、死者を辱しめる真似もしたくねぇしな。
「しばらくはそっとしとけ」
「……そうだね」
感受性の高いアスナのことだキリトの心情を察したからか、ベッドの上で丸くなってるシフを撫でてるが、随分と意気消沈してんな。
……慰め方なんざ知らねぇぞ。
なんとも言えない空気のまま日が昇るまで無言が続いた。
よくよく原作を読み直してみれば、28層突破時には既にキリトは月夜の黒猫団と一緒にいたんですね(^_^;)
やっちまった……