sword art onlineー黒と灰ー   作:戒斗

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気づいている方もいるでしょうが、ダクソも好きですがfateも好きです。

エクスキャリバー編もやりたい……
最近はExエディションを観賞してます。

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読者の皆様!ありがとうございます!


第5刀:黒の剣士と狼剣士

明日奈はクリスマスデート出来ねぇで残念だったな。2年目は12月にも入らなかったしな。

……悪かったから睨まないでくれ。

 

エギル、コーヒーもう一杯だ。

 

クラインの奴もソロで動き回るキリトが心配で、自分のギルドに入れたがってたみてぇだけど、なんで入んなかったんだ?

……見捨てた訳じゃねぇだろ。

本当にお前は考え方がネガティブっつーか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

年が明け、なんとか立ち直れたのか前線にキリトの姿を見掛けるようになったが、さほど回数は多くない。

 

五十層で大きい被害は出たものの、アスナが所属する【血盟騎士団(knight of blood)】が戦線を立て直し、辛うじて勝利を納めた。

それ以前からであったが、この功績で【血盟騎士団】は攻略組に所属するギルドの中でも最強の座を射止めることとなった。

 

 

 

 

「誰か!誰か、私の願いを聞いてもらえないでしょうか!」

 

ゲート広場で土下座で懇願する男。多くのプレイヤーは関わりたくねぇのか男を中心に円を描くように行き来してる。

 

「「なぁ」」

 

声が重なり横を向けば見慣れた顔。

 

「キリト……」

 

 

 

 

 

 

 

男の話を聞けば、少し前に男が結成したギルド【シルバーフラグス】がオレンジプレイヤーのギルド【タイタンズハンド】に襲われ、リーダーである男以外のメンバーを殺したのだと言う。

 

唯一の生き残りである男は全財産を使い、結晶系アイテムの中でも高価で希少な回廊結晶を購入。【シルバーフラグス】を襲ったオレンジプレイヤーを黒鉄宮の牢獄に設定した回廊結晶で牢獄に送ってほしいとのこと。

 

「仇を討ちてぇんだろ?なら殺してほしいって頼むもんじゃねぇのか?」

 

「本当であればそう頼むのでしょうが、殺したから殺されて、殺されたから殺して……それじゃいつまで経っても恨みの連鎖は断ち切れません。ですからどうか……」

 

ご立派なことで。

 

「キリトはどうすんだ?」

 

「聞くまでもないだろ」

 

「そりゃそうだ」

 

マトモな思考をしてる奴じゃまず引き受けねぇだろうが、ここにいる二人はマトモじゃないんでね。

 

遠ざかりながらもしきりに頭を下げる男を見送り、どうするかを考える。

 

「あの人の話じゃ女性プレイヤーをギルドに加入させて、少し経ってから襲われたんだよな?」

 

「てこたぁ、その女もオレンジの仲間だろうな。時期を見計らいフィールドに出た瞬間、合図を送って仲間に襲わせる。自分じゃ手を出してねぇだろうからカーソルはグリーンのまま。そうして次の獲物を探して同じことを繰り返してんだろ」

 

まさしくトロイの木馬だな。

 

ギリシャ神話でトロイアもしくはトロイとも呼ぶが、トロイアとギリシャの戦争でギリシャ勢が兵士を中に忍ばせた大きな木馬を作り、トロイアの人々がその木馬をトロイア市内に運び込むように仕向けた。その結果、ギリシャの兵はトロイアへの潜入に成功し、トロイアは滅ぼされたわけだ。

 

今じゃ、無害を装い相手に招き入れさせる罠としての意味合いもある。コンピューターウィルスにも同じ名前のがあるな。

 

「どうやって探すか……」

 

「…………あの男のギルドが襲われたのは三十八層。となると攻略組には手を出せねぇから、脂が乗り始める中堅クラスのギルドが標的だろうな」

 

「とすると、四十層以下になるのか?」

 

「もっと絞り込みは必要だろうがな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やだよ……ピナ……ピナァァァ!」

 

青い破片となって散った私の友達。

 

三十五層の迷いの森でギルドの人たちと言い合いになってしまい、一人で行動してしまったのが悪かったのかもしれない。

 

全部私が悪いんだ……ロザリアさんと喧嘩しちゃって意地を張っちゃったから……。

 

3体の《ドランクエイプ》が私の目の前まで迫り、棍棒のようなものを振り上げた。

 

……やだよ。まだやりたいこともいっぱいあるのに……私も死んじゃうんだ……。

 

諦めが私の心を支配し、死を受け入れるために目を閉じる。だけど、どれだけ経っても殴りられる衝撃がない。唸り声も聞こえなくなってる。

 

恐る恐る目を開ければ、振り上げた姿勢のまま《ドランクエイプ》が止まっていて、少し経って青い破片となって散った。

 

青いポリゴンの向こうには、黒いコートを着た男の人。

 

その男の人の後ろにも《ドランクエイプ》がーー

 

「あ、危ない!」

 

「大丈夫だよ」

 

男の人に降り下ろされた腕を岩を削り出したような剣を背負った人が左腕だけで受け止めた。

 

「勝手に動き回るんじゃねぇ」

 

「お前なら追い付いてくれるって信じてたんだよ」

 

「ハッ!ならその信頼に答えないとな」

 

岩のような剣に手を掛けた瞬間、轟音と共に地面が割れるような衝撃が走り、《ドランクエイプ》が叩き潰された。

 

……ぜ、全然見えなかった。

 

「ゴメン。君の友達、守れなかった」

 

その声を聞いた途端、全身から力が抜けた。

他人の口から告げられた事実に、堪えようもない涙が、次々と溢れ出してくる。

 

地面に落ちている水色の羽根。

そこまでふらふらと近づき、その場にへたり込んでしまった。深い悲しみと喪失感が湧き上がる。それは涙となって表出して、止めどなく私の頬を伝っていった。

 

私が殺されそうになった瞬間、ピナは私の身を守る様に《ドランクエイプ》に自分から飛びかかって行った。そんな行動は使い魔としてのAIには無い筈なのに。

 

ピナと出会ってからの月日が築きあげてくれた、データ以上の、きっと本当の心と友情と呼べるような何かを持っていたピナ。

そんな相棒を唯一無二の親友を、私は下らない慢心で、失ったのだ。

 

「お願い……私を独りにしないで、ピナぁ……!」

 

切実に願って出した声に、返事が返ってくることはなかった。

 

「……大丈夫、なわけないか」

 

どれだけ時間が経っただろうか。数分の様な気もしたし、数時間経っているような気もする。再び黒髪の男の人が口を開くまで、私は泣き続けていた。

何とか嗚咽を抑え込んで、彼の言葉に首を振る。

 

「……はい……でも、ありがとうございました、助けてくれて」

 

どうにかそれだけは言うことが出来た。

 

「……大丈夫だ、ソイツはまだ完全に死んでねえ」

 

「……え?」

 

岩のような剣を納めた灰髪の男の人から声が発せられた。

 

けど、一瞬何を言われたのか理解できなかった。

 

……ピナは、完全に死んでない……?

 

「そ、それって、どういう……」

 

「その羽根、《心》って名前付いてねぇか?」

 

「………………」

 

言われるがままに、胸に抱きしめていたピナの羽根に触れると、《ピナの心》とハッキリと表示された。それを見てピナはもういないんだと思い知らされたみたいでまたボロボロと涙が流れ落ちた。不意に私を安心させるように優しく頭に手を置かれた。

 

「ふぇ?」

 

「大丈夫だって。それがあれば、君の大事な友達を生き返らせることが出来る」

 

「えっ!?」

 

口を開けたまま顔を上げて、ぽかんと男の人の顔を見つめる。

 

「最近判った事で、まだあまり知られてねぇんだがな」

 

「四十七層の南に《思い出の丘》っていうフィールドダンジョンがあるんだ。名前のわりに難易度が高いんだけどな。そこの天辺で咲く花が、使い魔蘇生用のアイテムらし――」

 

「ほ、ほんとですか!?」

 

灰髪の男の人の言葉を引き継ぐ様に発せられた黒髪の男の人の言葉が終わらない内に、歓喜のあまり腰を浮かせ叫んでいた。

けど――

 

「……四十、七層……」

 

十二層も上のエリアという事実に、その歓喜はすぐに萎えてしまった。

数値が全てなこの世界では、十二層という数字はどう考えても今日明日どうにかなるという差では決してない。

 

「うーん」

 

そんなあたしを見兼ねてか、黒髪の男の人がそんな風に唸った。

 

「実費と報酬をぽっちり貰えれば俺たちが行ってきていいんだけど……使い魔を亡くしたビーストテイマー本人がいないと、肝心の花が咲かないらしいんだ」

 

「いえ……教えてもらっただけでも……頑張ってレベルを上げれば……」

 

「いや……実は三日が蘇生時間の期限らしくてな。それを過ぎると、蘇生不能だ」

 

「そんな……!」

 

思わず叫んでしまう。

あたしの今のレベルを考えると、到底三日間で攻略しに行ける状態まで持っていくのは不可能だ。

 

……ピナを、生き返させられるかもしれないのに……!

 

そんなやるせない思いと一緒にピナの羽根を抱きしめていると、二つのトレード申請ウィンドウが目の前に表示された。

見上げると二人がああだこうだと相談しながらウィンドウを操作している。

 

「あの……」

 

「流石に、糠喜びさせて何もしないんじゃ、俺たちも寝覚めが悪いからさ」

 

「それって……」

 

「教えた責任はキッチリ取るってこった」

 

「俺たちが持ってる余った装備。それに俺たちも一緒にその花を取りに行けば、攻略は難しくない」

 

小さく口を開いたまま、二人の顔を見つめる。

偶々通りかかって、殺されかけていたプレイヤーを助けた。欲している情報を偶々知っていたから教えた。ここまでならまだ判る。けど、助けたとはいえ見ず知らずのあたしに自分たちの持ってる装備を与えてまでそのアイテム探しに協力を持ち掛けるなんて、そんなのこの人たちに何のメリットももない。

 

「なんで……そこまでしてくれるんですか……?」

 

「別に大した理由はねぇよ。下らねぇこと考えてねぇで、黙って厚意には甘えとけ。それに言ったろ、教えた責任は取るってよ」

 

そう本当に何でもない様に告げた口調とは裏腹に、その瞳の奥には何かを隠しているように見えた。だけど、その隠している物が嫌な感じにも見えなかった。

首を動かして黒髪の方を見ると、灰髪の方とは逆に、返答に困った様に頭を掻きながら視線を逸らして、小声で呟いた。

 

「うーん……言わなきゃダメ?」

 

「……正直、信じられませんし」

 

「そうだよなぁ、ただより高いモノは無いって言うし……言っても、笑わない?」

 

「……それが本当のことなら」

 

「……はぁ、わかった。言うよ」

 

意を決したように目を閉じて、深く息を吐いてから、言った。

 

「君が……妹に、似てるから」

 

「………………ふっ、くく!」

 

堪えようと思ったけど、ダメでした。

あまりにもベタベタな答えに、思わず噴き出してしまった。慌てて口を片手で押さえたけれど、込み上げる笑いは抑えが効かない。

 

「わ、笑わないって言ったのに……」

 

傷ついた表情で肩を落とし、いじけた様に俯いた彼の姿が更に笑いを呼ぶ。

笑いを止めるために視線を他所に移すと、居心地悪そうに目を逸らしている灰髪の男の人が視界に入る。そんな仕草から、きっと彼も本当は同じ様な理由なんだろーなぁと、漠然と感じた。

 

悪い人たちじゃない……ううん、きっと、すごくお人好しで優しいんだ、この人たち

 

必死に笑いを呑み込みながら、この二人を信じようと、そう思った。

一度は死も覚悟したのだから、ピナを生き返らせるために惜しむものなんて何も無い。

感謝の意を込めて、ペコリと頭を下げた。

 

「よろしくお願いします。助けて貰ったのに、その上こんなことまで……」

 

トレードウィンドウに目をやって、持っているコルを半額ずつ入力する。

 

「あの……こんなんじゃ、ぜんぜん足りないと思うんですけど……」

 

「いや、金はいいよ。さっきも言ったけど、どうせ余り物だから……なぁ?」

 

「あぁ」

 

そういって二人はお金を受け取らないでさっさとOKボタンを押してしまった。

 

「すいません、何から何まで……あの、あたし、シリカっていいます」

 

名乗りながら、中層ではそれなりに売れている自分の名前に二人が驚くのを期待していたけど、どうやら心当たりは無いみたいだった。

一瞬それを残念に感じて、すぐにその思い上がりが今の事態を引き起こしたのだと反省する。

 

「よろしくな、俺はキリト。こっちは……」

 

「アルトだ」

 

順番に握手を交わす。

 

「んじゃ、さっさと抜けるか」

 

アルトさんの言葉に頷いてキリトさんがポーチから地図を取り出して歩き始めた。

その後を追いかけながらピナの羽根を唇に当てる。

 

待っててね、ピナ。絶対、生き返させてあげるからね……

 

 

 

キリトさんとアルトさんの案内のおかげで、無事に迷いの森を抜けて三十五層の主街区《ミーシェ》に無事に戻ってこれました。白い壁に赤い屋根の建物が並んでいて、窓から明りが見える。

 

「お、シリカちゃん発見!」

 

「随分遅かったんだね! 心配したよ!」

 

「あ、あのっ……」

 

正直に言えばこの人たちは苦手です。

(圭子)じゃなくて(竜使いのシリカ)を見ているようで。

 

「今度パーティー組もうよ、好きなトコ連れてってあげるから!」

 

「お話はありがたいんですけど……」

 

「悪い、シリカは今俺たちとパーティー組んでるんだ」

 

「キリト、はっきり言っちまえよ。テメェらに構ってる時間はねぇんだってな」

 

「「…………んん?」」

 

私を隠すようにキリトさんとアルトさんが間に割って入ってくれる。

 

「そ…そうなんです。少し急ぎの用事があって」

 

「用事って、なんなの?」

 

「俺たちじゃ力になれないの?」

 

「明日四十七層に行くんだが、それでも来るか?」

 

「「よ……四十七層……!?」」

 

「女にうつつを抜かす暇があんなら男を磨けよ。行こうぜキリト、シリカ」

 

アルトさんが二人の間を割って歩き、そのあとにキリトさんが続く。二人の姿が見えなくなったところで前を歩く二人に頭を下げた。

 

「ごめんなさい……迷惑をかけて」

 

「気にしてないよ。人気者なんだな、シリカは」

 

「こいつを見てるようで見てねぇ奴らだ。あんなことは日常茶飯事だろうよ」

 

会ってからそんなに時間は経ってないのにそこまで見抜けるんだ……。

 

「マスコット代わりにされているだけですよ、きっと。それなのに……【竜使い】なんて呼ばれて……いい気になって……」

 

「誰だってチヤホヤされれば調子に乗るもんだ。そしてお前は報いを受けた。相棒の死っつー大きな報いをな」

 

「……………」

 

「アルト言い過ぎだって」

 

「だが二度、同じことは繰り返す気はねぇだろ?」

 

「アルトさん……」

 

「生き返ったら、ちゃんと言ってあげないとな。『死なせてごめん。庇ってくれてありがとう、また会えて嬉しい』って」

 

「キリトさん……そうですね。そうします!」

 

「ところでどうする? 当日の移動を考えると現地の宿を使うって方法もあるけど」

 

「とは言っても夜も遅ぇからな……今日はここで1泊でいいんじゃねぇか?」

 

「ここってチーズケーキが結構美味しいんですよ?」

 

「ははぁ、お前の目的はそれか」

 

「い、いえっ。別にそんなんじゃなくて……」

 

なごみ始めたところで、私にとって忘れられない声が掛けられた。

 

「あらぁ?シリカじゃない。へぇーえ、森から脱出できたんだ。よかったわね。でも今更帰ってきても遅いわよ。ついさっきアイテムの分配は終わっちゃったわ」

 

「要らないって言ったはずです! ……急ぎますから」

 

「あら? あのトカゲ、どうしちゃったの?」

 

目ざとくピナがいないことに気付いて、酷く愉快そうに嫌な嗤いを浮かべて私を見てくる。

 

知ってるくせに……!

 

使い魔はアイテムと違ってストレージに仕舞うことも、どこかに預けることもできない。プレイヤーの傍からいなくなってしまったのなら、答えは判り切ってる。それが判ってて、ロザリアは私にそう言ったんだ。

あまりの悔しさに唇を噛みしめた。

 

「あーれぇ、もしかして……?」

 

「死にました、でも! ピナは、絶対に生き返らせます!」

 

「へぇ、てことは《思い出の丘》に行くんだ。でも、あんたのレベルで攻略なんか――」

 

「できるさ、特別高難度のダンジョンって訳でもない」

 

ロザリアさんの言葉を遮って、キリトさんがあたしをコートで隠すように前に出た。

アルトさんが悔しさで身体を震わせる私をを落ち着かせるように、迷いの森でキリトがしてくれたようにと同じように手を置いて頭を小さく撫でてくれる。

 

「なぁに? アンタらもその子に誑し込まれた口? やぁねロリコンばっかりで。まぁ、見たとこそんなに強そうじゃないけど」

 

「ハッ!」

 

ロザリアさんの挑発を、皮肉気に鼻で嘲笑うアルトさん。なんだろう、こう言っちゃうのはなんだけどすっごく似合う。

 

「は? なにがオカシイってのよ?」

 

「いや? 哀れだなと思っただけだ、気にすんな」

 

「哀れですって? このわたしが?」

 

「だって哀れだろ? 見た目でしか人を判断できねぇって自分で言ってるようなもんだし、俺に言われるまで気付きもしねぇんだからな?」

 

「なんでっすって……!?」

 

「図星突かれたら今度はヒステリックかよ。人のことをとやかく言う暇あんなら自分の人間性磨いた方がいいんじゃねぇか?」

 

「あ、アンタ、黙って聞いてればいい気に!」

 

「今の内に行こう」

 

アルトさんがロザリアさんを挑発している間に、私はキリトさんに促されるまま宿屋へと入った。

 

「フンッ!まあ、せいぜい死なない様に頑張ることね!?」

 

嗤いと怒りが滲んだ皮肉気な声が背中を叩いたけど、決して振り返ってなんかやらなかった。

 

 

 

フロントでチェックインを済ませてから、一階のレストランに入ってメニューをオーダー。向かいに腰掛けている二人にさっきのことを謝ろうとしたら、アルトさんからストップがかかった。

 

「さっきのことで謝んのは無しだ。俺とコイツも口出したからな」

 

「うん、だからまずは食事にしよう」

 

キリトさんがそう言うと、ちょうどウェイターが湯気の立つマグカップ3つを持ってきた。中には赤い液体が注がれていて、いい香りが漂ってくる。

 

「それじゃあ、パーティー結成を祝して」

 

「ん」

 

「はい!」

 

キリトさんの言葉に合わせてカップを合わせて、赤い液体を一口啜る。

 

「……おいしい……」

 

その味わいは、昔お父さんに少しだけ貰ったホットワインに味が似ている気がした。

 

でも、こんなのメニューにはなかったよね?

 

「あの、これは……?」

 

そう聞くと、キリトさんは悪戯に成功した男の子みたいにニヤリと笑った。

 

「NPCレストランはボトルの持ち込みができるんだよ。俺が持ってた《ルビー・イコール》っていうアイテムさ。カップ一杯で敏捷の最大値が1上がるんだぜ?」

 

「えっ! そ、そんな貴重なもの……」

 

「この世界の酒なんかストレージに入れてったって旨味が増すわけじゃねぇしな。そもそもコイツ、知り合い少ねぇから開ける機会もねぇし」

 

「お前に言われたかないから。てゆーか、この前呼び出して『飲むぞ! 酒開けろ!』とか言ってたのはどこの誰だよ?」

 

「条件だって大量に食料調達させておいて全部食いやがったのはどこの誰だよ」

 

二人のやり取りを見ていて、クスクスと笑ってしまった。本心から笑えたのは、もしかしたらこの世界に閉じ込められた以来初めてかもしれない。

色んな人にマスコット代わりにチヤホヤされていた時にはいろいろ話しかけられはしたけど、こんな和やかで暖かなお話は無かったから、すごく懐かしく感じる。

 

カップが空になってもその暖かさを手放したくなくて、しばらくそれを胸に抱いていた。

そうしていたら、ふと思ったことが口をついて出ていた。

 

「……なんで……あんな意地悪言うのかな……」

 

私の呟きを聞いた二人が言い合いを止めて、スッと目を細める。

 

「君は……MMOは、SAOが…?」

 

「はい、初めてです」

 

「そうか……どんなオンラインゲームでも、キャラクターに没頭すると人格が変わるプレイヤーは多い。善人になる奴、悪人になる奴……それをロールプレイングと、従来は言ってたんだろうけどな。でも俺はSAOの場合は違うと思う」

 

キリトさんの目が鋭さを増した。

 

「今はこんな、異常な状況なのにな……そりゃ、プレイヤー全員が一致団結してクリアを目指すなんて不可能だって判ってる。でも、他人の不幸を喜ぶ奴、アイテムを奪う奴……殺しまでする奴が多すぎる。俺は、ここで悪事を働くプレイヤーは、現実世界でも心の底から腐った奴なんだと思ってる」

 

そう吐き捨てるように言ってから、ハッと気が付いた様にゴメンと謝られた。

 

「これは俺の推測でしかねぇけど……」

 

と、キリトさんの話を黙って聞いていたアルトさんがお行儀悪く座り直しながら言った。

 

「どいつもこいつもこの現状に現実感を持ててねぇんだよ」

 

「現実感?」

 

「そうだ。SAO(ここ)で死んだら『死ぬ』っつう現実を、どこかで信用してねぇんだ。まぁ、死んでも死体が残るわけでもねぇし、葬式をするわけでもねぇ。だから、ソイツの中にある倫理観や道徳観が薄れちまう。けど、ここでの暮らしは無駄にリアルだから、人間としての地が出ちまう。人間っつうのは元々欲望に忠実な生きモンだからな。金が欲しい、美味いもんを食いたい、人より上に立ちたい、強くなりたい、力を試したい。普段は理性で抑え込んでる筈のそういう欲求を満たすのには、SAOは格好の場所だった。もし誰かを殺し、リアルで死んだのだとしても悪いのは自分じゃなくて自分をここに閉じ込めた茅場で、自分は被害者の一人に過ぎねぇから責任は自分には無い」

 

そう語るアルトさんの口調は淡々としていて、どこか悲しげだった。

 

「けどよ、そうなったらもう人間じゃねぇ。理性っつう抑止力を持たなくなった欲望の塊は獣となんら変わりねぇ」

 

そう言って黙り込んでしまう。キリトさんもアルトさんの言葉の意味を考えているようで下を向いてしまっている。

なんとなく場の空気に耐えられなくなって、思わず声を上げた。

 

「なら!アルトさんとキリトさんは良い人ってことですよね!?」

 

「……いや、俺はそんなんじゃない。人助けだって碌にしたことないし、仲間を……見殺しにしたことだって……」

 

そう言って苦しげに顔を歪ませるキリトさんが、何か深い悩みを抱えていることは、子供の私にも朧気に判った。そのせいなのかな、気付いたら握られたキリトさんの右手を無意識のうちに両手で包み込んでいた。

 

「キリトさんは、いい人です。私を、助けてくれたもん」

 

精一杯、あたしの気持ちを伝えようと思ってそう言うと、キリトさんから力が抜けて、口元に微笑が乗った。よかったぁ、と安堵していたら、今度はククっと堪えたような笑いが聞こえてくる。アルトさんだ。

 

「こりゃ一本取られたな」

 

「あぁ、俺が慰められちゃったな。ありがとう、シリカ」

 

言葉と一緒に向けられた、キリトさんの優しげな微笑み。

胸の奥の方がずきんと、痛むのを感じて咄嗟にキリトさんから手を放して胸を抑えるけど、疼きは一向に消えてはくれない。

 

……なんだろう、これ……

 

「ど、どうかしたのか……?」

 

「シリカ?」

 

「な、なんでもないです!おなか空いちゃったな!」

 

自分自身よく判っていないその理由を上手く伝えることなんて到底できなくて。

とりあえず、今はそう笑顔でごまかすことにした。

 

 

 

 

 

 

夕食を食べ終わった後、明日に備えて休むことになって、部屋に戻った。二人の部屋は偶然にもあたしの隣。

ちなみに、二人は相部屋だったりする。曰く、「別に知らない間柄でもないから、金が浮く方を選ぶ」とのこと。

 

部屋に入って、着替える前にキリトさんから貰った武器の練習をしようと思い立った……けど、どうにも集中できない。胸の奥にズキズキするものが居座り続けて、上手くできなかった。

 

「……ふぅ、着替えて寝よう……」

 

メニューの全武装解除のボタンをタッチする。ポリゴンとなって装備が消えた下着姿でベッドに倒れこんだ。髪を結んでいた髪留めも無くって、肩まである髪の毛がポフッと枕に広がる。壁を叩いて呼び出したポップアップメニューで部屋の明かりを落とせば寝る準備は完了。

 

全身に重い疲労感を感じていたから、すぐに眠れると思ってたんだ……んだけど。

 

「……眠れない……」

 

ピナと一緒になってからは、ずっと毎晩ふわふわの体を抱いて寝ていたからか、広いベッドが心細い。

ふと、左隣の……二人が泊まっている部屋に意識が向いた。

 

もう少し、話してみたいな……

 

そんな風に考えて、少し自分自身に戸惑った。今まで男性プレイヤーに積極的に近づくことは避けていた。なのに、出会ったばかりの二人のことが、どうしてこんなにも気になるんだろう。

ちらりと、視界右隅の時刻表示を確認すると、すでに二十二時近くで、知らず知らずの内に溜息が零れた。

 

……いくらなんでも非常識だし、やっぱり寝ちゃおう……

 

そう思う頭とは裏腹に、体は勝手にベッドから降りていて。

 

……ちょっとノックしてみるだけ……

 

そうやって自分を言いくるめて、装備メニューから、持っている中で一番かわいいチェニックを身に纏う。下ろした分目元に掛かってしまう前髪をお気に入りのヘアピンで留めて、姿見で恰好をチェック。問題ないのを確認してドアを開けた。

廊下に出て数歩進んで、ドアの前で躊躇うこと数十秒、右手で控えめにドアを叩いた。

 

「…… 客か?」

 

「俺が出るよ。はい、今開けます」

 

そんな会話が聞こえてきた後、ドアが開く。

簡素なシャツ姿になっていたキリトさんがあたしを見ながら目を丸くした。

 

「あれ、どうしたの?」

 

「あの――」

 

……お話したいです……じゃあ、子供っぽ過ぎるよね……

 

二人よりあたしが年下なことなんて判り切ったことなのに、なんでか幼く見られるのが嫌で、どうにかこうにか口実を引っ張り出す。

 

「―――ええと、その、あの……よ、四十七層のこと聞いておきたいと思って……」

 

「ああ、分かった。廊下に行く?」

 

「いえ、あの……よかったら、お部屋で……」

 

反射的にそう答えてしまって、慌てて取り繕う。

 

「あっ、あの、貴重な情報を、誰かに聞かれたら大変ですし! それに、アルトさんも中にいることですし!」

 

「あー、んー……まぁ、いいか……」

 

自分でも無理があるなぁと思ったけど、キリトさんは困った様にそう言って、中に入るよう促してくれた。

お言葉に甘えて部屋に入ると、窓際の椅子に座ってコーヒーを飲むシャツ姿のアルトさんと目が合う。

 

「ん? ああ、シリカだったのか。何か用か?」

 

「ああ、四十七層のことについて聞きたいらしい」

 

「なるほど。んじゃ、アレ出すか」

 

「そうだな」

 

「あの、アレって?」

 

「これのことさ」

 

言いながら、キリトさんはアイテムをウィンドウから呼び出したのは、小さな水晶が収めてある小箱。何に使うのかはさっぱり判らないけど。

 

「きれい……なんて言うんですか?」

 

「《ミラージュ・スフィア》っつって、行ったことのある層を丸ごと映すアイテムだ」

 

アルトさんが説明してくれているうちに、キリトさんはアイテムを起動させて、テーブルの上の空間にホログラムが出現した。

 

「うわあ……!」

 

思わず感嘆の声を上げる。街の中の建物やダンジョン内の構造まで細かく映し出されていて、メニューから見られる簡易マップとは大違いだ。

 

「ここが主街区だよ。で、こっちが思い出の丘。この道を通るんだけど……この辺にはちょっと厄介なモンスターが……」

 

指先を使って淀みなく四十七層の地理を説明していくキリトさん。その声を聞くだけで、気分が柔らかくなっていく気がする。

 

「この橋を渡ると、もう丘が見え――」

 

「キリト」

 

不意にアルトさんが名前を呼びながら手で遮った。

 

「…………?」

 

顔を上げた先のキリトさんは、さっきまでとは打って変わって険しい顔でドアを睨んでいた。既にアルトさんは動いて、ドアを引き開けた。

 

「誰だッ!」

 

同時にどたどたと駆け去る音。走り寄ってアルトさんの体の下から首を出すと、階段を駆け下りていく人影が見えた。

 

「な、何……?」

 

「……聞き耳立ててた野郎が居やがったな」

 

「え……で、でも、ドア越しじゃ声は聞こえないんじゃ……」

 

「《聞き耳》スキルが高ければその限りじゃないんだ」

 

「ま、ンなもん上げてんのは、碌な奴じゃねぇがな」

 

そう言ってアルトさんはドアを閉めて椅子に戻ってしまう。

キリトさんは考え込む表情をして、ベッドに座る。

言い知れない不安を感じて、両腕で自分の体を抱きしめながらキリトさんの隣に座った。

 

「でも、なんで立ち聞きなんか……」

 

「……多分、すぐに分かるさ。ちょっとメッセージ打つから、待っててくれ」

 

そう言ってウィンドウからホロキーボードを表示させ、指を走らせていく。

それを横目に、私はベッドに丸くなった。

そうしているうちに、キリトさんの背中と、気付けば九ヵ月も会っていないルポライターのお父さんが記事を書いている背中がダブって見えて。いつの間にか、不安もどこかへ消え去って、意識も微睡へと落ちて行った。

 

 

 

耳元で奏でられるアラームで意識が浮上していく。設定時刻は午前七時、いつもの起きる時間。

 

「ん~~…………ふぁう……」

 

伸びと欠伸を一つして、何とは無しに辺りを見回す、と。

 

「おう、起きたか」

 

何て声をかけられた。

 

「あ、おはようござ――」

 

――います……と、続ける筈だった言葉は、どこか彼方へ飛んで行ってしまいました。

 

……え!な、何でアルトさんが……!?

 

「……どうした?」

 

「ふぇ!?……あ、え……あの……」

 

唐突に予想外の状況に陥ったせいか、あたしの頭は目下混乱の極みだ。

テンパって上手く言葉が出てこないあたしを他所に平然としているアルトさん。

 

そ、そうだ! まずは落ち着いて昨日の事を思い出してみよう!!

 

とりあえずそう結論づけて昨日の出来事を振り返っていく。

 

ええっと、昨日はロザリアさんと喧嘩して、ピナが死んじゃって、キリトさんとアルトさんに助けてもらって、宿に入って、寝る前に二人の部屋で四十七層のことを話して、それから、それから……

 

そこまで思い出して、はっとした。

 

わ、私……あのまま寝ちゃったんだ……

 

恥ずかしさのあまり頭に血が昇っているのが判る。

今、あたしの顔を鏡で見たら見事に真っ赤になっているに違いない。

 

「あ、あのっ!」

 

「状況把握できたか?」

 

「は、はい…………?」

 

「起こそうかとも思ったんだが、気が引けてな。ドアも開けらんねぇし」

 

「い、いえ! 寝ちゃったのはあたしのせいですし、ベッドも借りちゃったみたいで……」

 

「それなら気にすんな。元々どっちかが椅子か床で寝る筈だったのが、二人ともそうなっただけだ。SAOなら何処でどんな姿勢で寝ても、体痛めることもねぇしな」

 

そう言いながら親指で指した方に目を向けると、未だに床に横になっているキリトさんの姿が。

 

「そろそろキリトの奴も起こすか……」

 

「あ、あの!」

 

「ん?」

 

キリトさんを起こそうと向き直ったアルトさんを呼び止める。

何で呼び止めたのか、自分で分からなかったけど、何かしら話さないと、と思って、さっき思い出した昨日のことについて聞いてみることにした。

 

「あの、昨日も聞いたんですけど、アルトさんは何で手伝ってくれるんですか?」

 

「勘違いすんな。別にお前のために手伝う訳じゃねぇ」

 

「それは……嘘、ですよね? キリトさんが妹さんのこと話してるときも、アルトさんちょっと変な顔してましたし」

 

私がそう言うと、一瞬驚いた様な目をしてから、気まずそうに溜め息を一つ。

 

「……意外とバレてるモンなのな。言わなきゃ駄目か?」

 

「できれば、聞きたいです」

 

もう一つ、今度は諦めた様に溜め息。

 

「……キリトと同じだ。妹分が二人いてな、それがお前と似てたからだ」

 

そう言って顔を背けてしまうアルトさん 。横顔から見える頬が少し赤くなってて、照れてるんだってすぐに判った。

 

「はいっ!」

 

やっぱり悪い人じゃなかったんだ

 

そして、何故だか、胸の中に暖かいものが広がるのを感じた。

 

 

 

なかなか起きなかったキリトさんのお腹をアルトさんが蹴り飛ばして起こして、しっかり朝食を食べてから四十七層の主街区《フローリア》へとやって来た。

通称《フラワーガーデン》とも呼ばれていて、たくさんのきれいな花々に見惚れる。

 

心行くまで花の香りを楽しんでから立ち上がって、ふと、周りを見回してみると、花壇の間の小道を歩いているのは男女二人連ればかり。皆しっかりと手を繋いだり腕を組んでだりして、見るからにカップル。

 

私たちは、どう見えてるのかな……

 

周りの光景からついそんなことを考えた。歳の離れた二人の男の人を連れ歩く私。

 

……男の二人があたしを取り合う三角関係? それとも禁断の愛に目覚めた三兄妹とか……!?

 

そこまで考えて、浮かび上がった妄想を掻き消す様に首を思いっきり横に振った。

 

わ、私!いい、一体今何をっ!

 

「おい、どうしたシリカ」

 

「顔が真っ赤だけど……」

 

「なな、なんでもありません!さぁ攻略に行きましょう! さぁさぁさぁ!」

 

あんまりにもあんまりなことを考えてましたなんて言える訳も無く、無駄に元気よく宣言して二人の腕を引っ張って走る。

 

「う、うん」

 

「お、おう」

 

目をグルグル回しながらそんなことをしたせいで、二人に要らない心配を掛けてしまったしまったのは、ご愛嬌ということで。

 

ゲート広場を出た後、思い切ってキリトさんに妹さんのことを聞いてみた。

すこし間を空けてから、ぽつりぽつりと話し始めて、私を助けてくれたのは自己満足だ、ってアルトさんと同じように言ったキリトさんの顔が、少し寂しいそうに見えて……。

 

「……妹さん、キリトさんを恨んでなんかなかったと思います。何でも、好きじゃないのに頑張れることなんかありませんよ。きっと、剣道、本当に好きなんですよ」

 

どうにかに言葉を探して、何とかそれだけは言うことができた。

 

「シリカには昨日から慰められてばかりだな……そうかな……そうだと、いいな」

 

そう言われて、何か暖かいものが心に広がるのを感じた。

今朝、アルトさんと話した時と同じように。

 

……そっか、判った。あたし、二人が心の内を話してくれたことが嬉しいんだ……

そんな風に自分の気持ちをそう纏めている内に、いつの間にか街の南門まで来ていた。

 

「さて…ここから攻略を開始していくわけだけど」

 

「はいっ!」

 

「シリカの今のレベルと渡した装備なら、このダンジョンの敵はそうそう危険な相手じゃない」

 

喋りながらあたしに水色のクリスタル、転移結晶を手渡してくる。

 

「とは言え、フィールドでは何が起こるか判らない。俺かアルトが離脱しろって言ったら、必ずその結晶でどこの街でもいいから跳ぶんだ。俺たちのことは心配しなくいい」

 

キリトさんの目配せにアルトさんも頷く。

 

「で、でも……」

 

「約束してくれ。俺は……一度パーティーを全滅させてるんだ。二度と同じ間違いは繰り返したくない」

 

そのあまりの真剣な表情に、頷くしかなかった。

 

「心配すんな。そうならねぇように俺もコイツも細心の注意を払う。ソイツはあくまで保険だ」

 

アルトさんの言葉にキリトさんはあたしを安心させる様にニッと笑った。

 

「うん、その通りだ。じゃあ、行こう!」

 

「はい!」

 

そう返事をして、意識を闘いへと切り替えた。

 

昨日みたいに、慌ててパニックになったりしない。そして、絶対にピナを生き返らせる……!

 

そう、私は心の中で自分に言い聞かせた。

 

 

 

 

確かに言い聞かせた。言い聞かせてはいたんだけれども。

 

「きゃ、きゃあああああ!?なにこれぇ!? 気持ち悪いぃぃぃ!!」

 

……何事も思った通りにはいかないもので。

人食い花とでも言うべきフォルムをした、気持ちの悪い大型植物モンスターと遭遇するたびに悲鳴を上げて、パニクって、何度気絶しかけたか判りません。

 

ピナ……私のこと慰めてね……

 

そんなことを思いながら、生理的嫌悪に苛まれる戦闘をなんとか凌いで思い出の丘への坂道を突き進むこと数時間。とうとう頂上に到着した。

 

「うわあ……!」

 

「着いたな」

 

「やっとか……」

 

フローリアの花畑とはまた違う、空中にパッと浮かぶ庭園の様なその景色。

 

ここもすっごく綺麗……やっぱり、ここSAOが全部偽物だなんて思えないなぁ

 

「って、ちがう!《プネウマの花》!」

 

見惚れてしまいかけたのを振りきって、道中二人から教えておらった通り、一つだけ飛び出している岩に向かって駆け出した。

 

「……うわぁ……」

 

岩に駆け上がると、まさに目の前で白いつぼみが花開くところだった。

完全に開ききった花へ手を伸ばして摘むと、ハッキリと《プネウマの花》と表示される。

 

「やったぁ……!」

 

「どうやら無事見つかったみたいだな」

 

「はい! キリトさん、アルトさん、ここまでありがとうございました!」

 

「礼を言うのは街に戻って、ピナを蘇生してからにしろ。この辺はモンスターも多いしな」

 

「はい! 早く戻りましょう、善は急げですよ!!」

 

「はいはい」

 

「急ぎ過ぎて転ぶなよ」

 

フローリアを出てきた時と同じように、二人の手を引いて急かす私に苦笑いを浮かべる二人。

だけどそんなことはお構いなしに、二人を引っ張って来た道をずんずんと引き返す。本当ならキリトさんから渡された結晶を使ってひとっ跳びで帰りたいところを我慢してるから、このくらいは許してほしいな、なんて思いながら。

 

 

 

 

 

 

 

どうしても逸る気持ちをどうにかこうにか抑えながら来た道をどんどん下っていった。もちろん途中モンスターにも遭遇したけど、行きで結構な数を倒しちゃった所為か、それとも別の理由があるのかはともかく、行き程の苦労もなく麓に下りてこられた。

 

「ふぅ……ここまで来たら街まであと一時間くらいですね!」

 

「そうだな。もう一息、頑張ろう」

 

「はいっ! あっ、そうだ! 街へ着いたら改めて何かお礼させてください!」

 

「いや、別にそこまでしてもらわなくても……詳しくは話してなかったけど、俺たちもここに全く用が無かったわけじゃないからさ」

 

バツが悪そうにそう言うキリトさんだけど、あたしは首を横に振る。それじゃあ、私の気が収まらないし。

 

「それでも、です。アルトさんにもお礼をするのは街に戻ってからって、さっき言われちゃいましたし」

 

「……そういう意味で言ったわけじゃねぇんだが」

 

「私がそういう意味で解釈したんですから、それでいいんですっ!」

 

「ハァ……分かった分かった、勝手にしてくれ」

 

「はいっ、勝手にしますね!」

 

呆れたように頭を抱えて言うアルトさんに、あたしはニッコリ笑って勢い良く頷いた。なんだかお礼の押し売りみたいになっちゃったけど、結果オーライかな。

そんな話をしながら道を進んでいって、小川に掛かった橋の真ん中ぐらいまで来ていた。

 

「はははっ、今度はアルトがシリカに一本取られたな」

 

「うっせ、ついさっき励まされてた奴が言えた――――キリト」

 

「?……ッ!」

 

揶揄われたアルトさんが言い返す途中で言葉を切ったかと思うと、不意にキリトさんの名前を読んで立ち止まった。けど、スッと細められた視線の先にあるのはキリトさんじゃなくて、半ばまで差し掛かった橋の対岸。突然呼ばれたキリトさんも一瞬困惑したような表情を浮かべたけど、直ぐに何かに気付いた様に対岸……正確には対岸に生い茂った木々へと険しい視線を向ける。

 

「ど、どうしたんですか、二人とも……?」

 

楽しかった雑談から一転した二人の雰囲気にどうしていいのか判らなくてそう二人に声を掛けると、返事の代わりにキリトさんの人差し指が唇にサッと添えられた。

 

黙ってろってこと?

 

何が何だか判らないけど、とりあえすその指示に従ってあたしが首を傾げながら黙っていると、二人はチラッと一瞬だけアイコンタクトをとってから、アルトさんはあたしを背に庇うよな位置に立って、キリトさんは少し離れる。

 

「バレてんの分かってんだろうが、出てきやがれ」

 

「えっ?」

 

少し大きな声で対岸に向かって声を発するアルトさん。

思わず声を上げてキリトさんの背中越しに二人が視線を向ける木立を凝視するけど、人影は全然見えなかった。だけど、それから数秒もするとつい最近見知った顔が木の影から姿を現した。

 

「ろ、ロザリアさん?なんで、ここに!?」

 

驚きのあまりそう叫んだ。けど、相手はあたしのことなんて眼中にないようで、アルトさんとキリトさんの二人に目を向けて不敵に笑った。

 

「アタシの隠密(ハイディング)を見破るなんて、見た目の割に高い《索敵》スキル持ってんのねアンタ達。ちょっと侮ってたかしら? まっ、それはいいわ」

 

それから、今度は私に視線を向ける。

 

「随分と嬉しそうにしてたじゃない、シリカちゃん? その様子じゃあ無事、《プネウマの花》を入手できたみたいね。オメデト。それじゃ――」

 

欠片もそんなこと想ってないような声音であたしに祝いの言葉を言うと、蛇の様に目を細めるロザリアさん。その瞬間、酷く嫌な予感がしてゾッと身体に寒気が走った。

 

「――その花、さっさとアタシに渡してくれる?」

 

「なっ!? なに言って……そんなことできるわけないじゃないですか!」

 

「アンタの出来る出来ないなんて知ったこっちゃないの。いいから花をよ――」

 

「そうはいかないな、ロザリアさん。いや……オレンジギルド、【タイタンズハンド】のリーダーさん?」

 

それまで黙っていたキリトさんが、ロザリアさんの言葉を遮ってそう言った。

思ってもみなかった単語が耳に入ってきた所為で、私の理解が追いつかない。

 

「で、でも、ロザリアさんはグリーンのはずじゃ……」

 

「オレンジギルドつっても、ギルドメンバー全員がオレンジな訳じゃねぇこともある。コイツらみたく、カモを見繕うためにスパイのグリーンをどっかのパーティーに潜伏させて、機会が来たら待ち伏せて襲う姑息な連中もいるってこった。昨日盗み聞きしてやがったのはあの中の誰かだろうよ」

 

「そ、それじゃ、二週間ぐらいずっとパーティーにいたのも……!」

 

「そういうこと。あのパーティーの戦力評価しながら、たぁっぷりお金が貯まって、狩り頃になるのを待ってたの。ホントなら近々収穫の予定だったんだけどね? 一番楽しみな獲物だったアンタが抜けちゃうからどうしようかと思ってたのよ。そしたらさ、死んだトカゲ生き返らせるために《プネウマの花》取りに行くって言うじゃない? アレって今が旬でさぁ、結構良い値で売れんのよ。やっぱり、情報取集ってすっごい大事よねぇ? でも――」

 

私から目を離して、また二人へと視線を戻すロザリア。その瞳には嘲りの色が浮かんでいた。

 

「――アンタ達、そこまでぜーんぶ判っててそのガキに協力したわけ? ロリコンかなんか? ホントに身体で誑し込まれでもしたわけ?」

 

「ンなわけあるか。むしろ自分で言ってて分んねぇのかよ」

 

「は? 何が言いたいのよ?」

 

「俺たちもアンタらを探してたってことさ。それが答えだ」

 

キリトさんの言葉に、今までずっと浮かべていた嘲笑を歪めるロザリアさん。

 

「……なんですって?」

 

「テメェら、十日前に三十八層で【シルバーフラグス】っつうギルドを襲って、リーダー以外皆殺しにしやがっただろ。覚えてっか?」

 

「……ああ、アイツら。ええ、覚えてるわ。思ってたより貧乏で拍子抜けだったわ」

 

「……リーダーだった男は、毎日朝から晩まで、最前線のゲート広場で土下座して泣きながら仇討してくれる奴を探してたよ。でも、あの人は依頼を引き受けた俺たちにアンタらを殺せとは言わなかった。殺さずに黒鉄宮の牢獄に入れてくれって、そう言ったんだ。大の男が、恥も外聞も無く泣きながら地面に額を擦り付けてそう言った気持ちが……アンタらに判るか……!?」

 

決して大きくない声。

だけど、すごく強い語気で放ったキリトさんの言葉を、ロザリアさんはフンッと鼻で嗤った。

 

「わっかんないわよ、そんなモン。やぁね、全く。ソイツもアンタ達もマジになっちゃってさ。ここで人殺したって、ホントにソイツが死んでる証拠なんかないじゃない。もしホントに死んじゃってたって、そんなんで現実に戻った時、罪になるわけないっての。だいたい戻れるかどうかも判んないのにさ、正義とか法律とか倫理とか……アハハハハっ!! ホント、笑っちゃうわよね。アタシそういう奴がイッチバン嫌いなのよ。この世界に妙な理屈持ち出して善人ぶってるアンタ達みたいな奴がね!」

 

醜く顔を歪めて嗤うロザリアさんの言葉を聞いて、アルトさんが昨日言っていた通りだなと、私は思った。

その様は、まさしく理性を捨てて、欲望塗れの獣に堕ちてしまった人間の成れの果て。とても同じ人間だなんて思いたくなかった。

 

「それでぇ? アンタ達はそんな死に損ないの言うことなんか真に受けちゃって、アタシ達を態々探してたわけ? ホントにヒマなのねぇ……まっ、アンタ達が撒いた餌にまんまと釣られちゃったのは認めるけど。でもこの人数、たった二人でどうにかなるなんてホントに思ってんの……?」

 

そう言いながらロザリアさんが木立の方へ手で合図を送ると、ぞろぞろと二十人近いプレイヤーが木の影から出てきた。

余りの数の多さに顔から血の気が失せて行くのが分かる。

 

「ふ、二人とも、脱出しないと……」

 

恐怖のあまり目の前にいるアルトさんのコートを引っ張ってそう言うけど、なんでもないことの様に首を横に振った。

 

「逃げろっつーまでは、結晶を用意してここで見てろ」

 

アルトさんは武器を抜かず、その場から動かないキリトさんへと加勢に行く様子も無く、ただ視線だけを向けた。その表情には心配している様子は全くない。

 

いくらキリトさんが強くたって、あんな数無茶だよ……!

 

そう思って、今度はキリトさんにも聞こえる様な大きな声で叫んだ。

 

「逃げようよキリトさんっ! アルトさんもっ!」

 

その声が辺りに響いた途端、武器を取り出してキリトさんに近寄って行った男たちの雰囲気が変わった。

 

「キリトに、アルト……?」

 

そして、その中の一人が、何かを思い出す様にブツブツと呟いた。

 

「黒尽くめで盾無しの片手剣……灰髪の大剣使い……ま、まさかコイツら、【黒の剣士】と【狼剣士】!?」

 

そう叫ぶと、思わずといった感じに数歩あとずさった。顔色も見るからに悪くて真っ青だ。

 

「そういや、そんな呼び方されてたか。シフと一緒に戦ってただけだろ。恥ずいったらねぇっつの」

 

「いやいやいや。テイムした訳じゃないシフと戦ってる奴が『だけ』ってことはないだろ【狼剣士】さん」

 

「うっせぇ【真っ黒黒助】」

 

「勝手に呼び名を変えるなよ」

 

状況なんてお構いなしに……というか、ロザリアさん達が見えていないかのように雑談をする二人。

そんな光景に、なんとか声には出さなかったけど、私の心の中は大荒れだった。

 

ふ、二人とも落ち着きすぎだよ! てゆーかテイムしてないって何!?もうわけわかんないよぅ……!

 

「や、ヤベェよロザリアさん! こ、コイツらっ、ビーター上がりの攻略組だっ!」

 

私の内なる混乱を他所に、男たちは混乱に陥っていた。

不敵な嗤いを張り付けていたロザリアさんも、焦った様に声を裏返す。

 

「こ、攻略組がこんなとこをウロウロしてるわけないじゃない! どうせ、名前を騙ってビビらせようってコスプレ野郎共に決まってるわ! それに、もし本当に【黒の剣士】と【狼剣士】って言っても、この人数が相手なら敵じゃないっ!」

 

「そ、そうだ!攻略組なら、すげぇ金とかアイテムとか持ってんぜ!オイシイ獲物じゃねぇかよ!」

 

そう大柄な斧使いの男の言葉と共に気勢を取り戻していく男たち。

眼を血走らせて得物を手に息を荒くする姿は、それこそ獲物を目の前にした野生の獣を想像させる。

 

「こんなの相手するなんて無理だよ!逃げようよ、ねぇ!」

 

あの人数相手では勝ち目なんかない。そう思って恐怖に震えながらクリスタルを握りしめて必死に叫ぶけど、やっぱりアルトさんはアタシの前に立って加勢に行こうとしないし、キリトさんも構えない。

 

「さぁ、アンタ達……ヤっちまいな!」

 

キリトさんのそんな様子を諦めと捉えたのか、ロザリアの声と同時に男達が一斉にキリトさんへ飛びかかる。

 

「オラァァァァ!!」

 

「死ねやァァァ!!」

 

取り囲んで剣や槍、斧、棍棒……あらゆる武器をキリトさんの体に突き立てる。同時に放たれる幾つもの攻撃と幾条もの眩しいライトエフェクトが、キリトさんの体を揺らした。

 

「いやあああ!やめて!やめてよ!死んじゃう……キリトさんが、し、死んじゃうよっ!」

 

目を覆いたくなるような光景にそう叫ぶけど、男達が耳を貸すはずもない。

その様子に見ていられなくなって、いつの間にか零れていた涙を拭い、短剣の柄を握った。

 

こんな……こんなの!もうこれ以上、見てられないよ!

 

短剣を引き抜いて駆け出そうとした瞬間、柄にかけていた右手をアルトさんにグッと握られた。

 

「ストップ」

 

「と、止めないでください! あたしじゃ役に立たないかもだけど、でも見てるだけなんて――」

 

「いいから落ち着け。あいつのHPを良く見てみな」

 

「――できな……え?」

 

そう言われて、視線をアルトさんの顔からキリトさんへ移すと、すぐに、気が付いた。

 

HPが全然減ってない?…………ちがう、ちょっとづつ減ってるけど、すぐに回復しちゃってるんだ!

 

私と同じように、男達も異変に気付いたのか戸惑いの表情を浮かべていた。

 

「なにをチンタラやってんのよ!?遊んでないでさっさと殺しなさい!!」

 

いつまで経っても終わらないリンチに業を煮やしてロザリアさんがそう叫ぶ。

その声に合わせて男たちの攻撃も激しさを増すけど、それでもキリトさんのHPバーが目に見えて減ることは全くない。男たちは動揺を隠せずに、じりじりとキリトさんから遠ざかっていく。

 

「……10秒あたり350前後くらいか?」

 

「ああ、それぐらいだ」

 

突然でてきた数字。私もキリトさんを囲っていた男たちやロザリアさんも判らずにいると、キリトさんがそれを察したように頷いた。

 

「350っていうのはアンタらが俺に与えてるダメージの総量だよ。十秒あたりのな。俺のレベルは78。HPは約14500。俺を倒すにはアンタ達は410秒間、休まず殴り続ければいい……本来ならな。でも俺には《戦闘回復(バトルヒーリング)》のスキルで、10秒間に350以上の自動回復がある」

 

「まぁ要するにだ。テメェらが何時間攻撃しようがそいつは倒せねぇってことだ」

 

「そ、そんなの……そんなの、アリかよ……」

 

「レベルに差があるからって……無茶苦茶すぎるだろ……」

 

「……そうだ。たかがレベル。そんなレベルの数字が増えるだけ。たったそんなことで、ここまで無茶で、どうしようもなく覆せない差がつく……ついてしまう。それが、レベル制MMOの理不尽さってものなんだよっ!」

 

何かに耐える様に、キリトさんは手をに強く握りしめて叫んだ。

その気迫に気圧されたように、男達は更に後ずさる。

 

「……チッ、やってらんないっての」

 

不意にロザリアさんは舌打ちすると、腰から転移結晶を取り出した。

 

逃げる気なんだ!

 

直ぐにそう判ったけど、今から動き出しても間に合わない。そうは思った――

 

「転移――」

 

ピィーー!

 

――んだけど、アルトさんが指笛を吹いた瞬間、灰色の大きな影がロザリアさんを襲い、その手から転移結晶を奪った。

 

「ヒッ……!」

 

逃げ道を塞ぐようにロザリアさんたちの後ろに着地したのは、とても大きくて綺麗な灰色の狼だった。

 

口に咥えた転移結晶をその大きな牙で噛み砕き、アルトさんがオブジェクト化した剣を放れば、それを咥え構えた。

 

聞いたことがある。剣を咥えて戦う狼がいるって。で、でもそれは噂で本当にいるなんて……!

 

キリトさんが腰から転移結晶よりも更に青いクリスタルを取り出す。

 

「これは俺たちに依頼した男が全財産を使って買った回廊結晶だ。黒鉄宮の監獄エリアが出口に設定してある。さっきも言った通り、アンタら全員これで牢屋まで跳んでもらう。あとの面倒は【軍】の連中がしてくれるだろうさ」

 

「フンッ……もし、嫌だと言ったら?」

 

まだ抵抗する気力が残っているらしいロザリアさんが強張った笑みを浮かべてそう言ったけど――

 

「全員殺す」

 

――アルトさんが即答した言葉に、一瞬で笑みが崩れて顔を蒼褪めさせた。

 

「――って言いてぇところだが、それじゃ依頼主の意志に反するんでな。そん時は……」

 

「これを使うさ」

 

そう言ってキリトさんがコートから取り出したのは、薄緑色の粘液に濡れた小さな短剣。

毒々しいで鈍く光る粘液が、何かしらの状態異常(バッドステータス)を引き起こすものだろうっていうのは簡単に想像がついた。

 

「Lv5の麻痺毒が塗られてる。コイツで一刺しすれば、俺たちでも10分は動けない代物だ。全員に放り込むのに、それだけあれば事足りる。さて、潔く自分の足で入るか、短剣を突き刺されて動けなくなったところを無理やり投げ込まれるか……好きな方を選べ」

 

無慈悲に選択を突きつけられた男たちは、手に持っていた武器を投げ捨てて項垂れた。

それを確認したキリトさんはクリスタルを頭上に掲げる。

 

「コリドー・オープン!」

 

システムコールを認証すると、結晶は砕け散って青い光の渦が空中に出現した。

次々と男たちがゲートの中に入っていく中、ロザリアさんだけは一向に動こうとせず、とうとう最後の一人になっていた。

 

「……やりたきゃやってみな。グリーンのアタシを傷つけたら、今度はアンタ達がオレンジに――」

 

「言っとくけど、俺もアルトも基本的にソロだ。1日2日オレンジになることぐらい、どうってことない」

 

そう言ってロザリアさんに近づこうとするキリトさんを、アルトさんが手で制した。

 

「……アルト?」

 

訝しげに声を掛けるキリトさんに返事をしないで、アルトさんは進み出ると、ロザリアさんの襟首を掴んで宙に吊り上げた。

 

「ちょ……やめて!離せっての!ちょっと魔が差したってだけのことでしょ!?……話し聞けよ! ねぇ聞いてってば!そ、そうよ!アンタ、アタシと組まない?アンタほどの強さならなんだって好き放題――」

 

そしてそのまま橋の外側に宙吊りにした。

 

軽鎧(けいがい)ッつっても水の中に落ちりゃ、浮き上がってこれねぇ。お前が装備を全部解除するのが速ぇかHPがゼロになるのが早ぇか見物だな?」

 

「ッ!ッ!ッ!」

 

ロザリアさんはアルトさんの手を外そうともがいてるけど、命綱は外そうともがいてるアルトさんの手なんだ。

 

「……た、助け……ぃや…………死……たく……な……い……」

 

「死にたくねぇ?ああ、そうだろうな。けどな、今までお前たちが奪ってきたのは、今テメェが縋ってるもんだ!」

 

「……………ぁっ」

 

ロザリアさんの体から力が抜けると溜息をついて、アルトさんはロザリアをコリドーに放り込んだ。

その直後、回廊そのものも消滅した。

 

背中を向けたままのアルトさんがどんな顔をしているか分からないけど、心配そうに狼さんがアルトさんに歩み寄って、頬っぺたを舐めた。

 

「……大丈夫だ、シフ」

 

アルトさんがシフと呼んだ狼さんの頭を撫でると嬉しそうに喉を鳴らして目を細めてる。テイムしてないって言ってたけど、アルトさんとシフちゃんの絆は私とピナに似てる。

 

「あ、アルトさん……えっと……」

 

その子?この子?……何て表現すれば良いんだろう?

 

「ん?……あぁ、こいつはシフだ。テイムした訳じゃねぇんだが、妙に懐かれてな。撫でてみるか?」

 

そう聞かれ、恐る恐る手を伸ばすと意図を察したシフちゃんが自分から顔を擦り付けてきた。

 

わっ!柔らかい!ずっと撫でてたいくらいフワフワしてる!

 

「すまなかった。シリカを囮にするようなことしちゃって。本当は俺達のこと、昨日の内に言おうと思ったんだけど……怖がられると思って、言えなかったんだ。まぁ、結果的に必要以上に怖がらせちゃったけど。シリカ、改めて街まで送るよ」

 

そうして街の方へ歩き出そうとする二人一頭に、咄嗟に声を掛ける。

 

「あ、あの!シフちゃんに乗っても良いですか?」

 

シフちゃんの大きさはアルトさんと同じぐらいだし、人が乗っても大丈夫だよね?

 

そう言うと、シフちゃんが私が乗り易いように伏せてくれて私が跨がれば、一気に視界が高くなった。それでやっと私もいつも通り笑うことができた。

 

 

 

「……やっぱり、二人とも行っちゃうんですか?」

 

無事《フローリア》の街に着いて、ピナを蘇らせるためにとった宿屋の部屋。

そこで、私は二人にそう切り出した。

 

「5日も前線から離れちまったしな」

 

「ああ。すぐに戻って遅れを取り戻さないとだから」

 

「……そう、ですよね」

 

一緒に連れて行ってください。私と一緒にいてください。

言いたい言葉は次々浮かんでくるけど、それは私の我儘だってはっきり分かってたから、口に出して言うことは出来なくて。

 

「……わ、私……私……!」

 

溢れようとする気持ちを抑えると、出すことのできない言葉の代わりにそれは涙に形を変えて、頬を伝って零れていった。

 

いきなり泣いたりなんかしたら、二人の迷惑なのに……!

 

そう思って涙を手で拭うけど、何度拭っても両目から無数に零れる涙は一向に止まってくれなくて。

そうしたら、とんっ、と肩に手が乗るのを感じた。

 

「俺たちの間にある、レベルだとか強さだとかいう差なんて、そんなに大したものなんかじゃない。所詮はこの世界で作り出されてる幻なんだから。そんなものよりもっと大事なものはたくさんある。だから、今度はリアルで会おう。そうしたら、また同じように友達になれるよ」

 

今度はポン、と頭に手が置かれる。

 

「そもそも、レベルが足りねぇからって上の階層に行っちゃいけねぇ、なんてルールはねぇんだ。会いたくなったら、いつでも会いに来ればいい。SAOこの世界は確かに偽物だけど、俺たちの心は本物だ。したいことがあんなら、すりゃいいんだよ。だから、そんなに泣くんじゃねぇよ」

 

「はい……はいっ!」

 

返事をして、涙を拭って、笑顔を作る。そしたら、今度は涙は止まってくれた。

本当は、そのまま二人に抱きついてしまいたかったけど。

 

さすがに、それはちょっと恥ずかしいから……

 

その気持ちはぐっと抑えて。

 

「さあ、ピナを呼び戻そう」

 

「はい!」

 

ピナを生き返らせるために、プネウマの花の雫を羽根に垂らしながら、あたしは心の中でピナに語りかけた。

それは、あたしを助けてくれた、あたしにたくさん大事なことを教えてくれた二人の……たった二日間だけいた、あたしの大好きな、お兄ちゃんたちのお話し。




シフがアルトの側にいなかった理由はシフが転移門を利用できないのも前話でアスナに預けれたのも正式にテイムしていないと言うことでどうかお願いします。

もっと短く纏めるつもりだったのに二万字越え……






呼符召喚!レインボーキタ!
「フハハハ!二人目のファラオである!」

「須郷ぉぉぉ!」

オジマンの宝具レベル2になりました……
ジャンヌオルタピックアップはガチャは23日まで
霊衣解放したので絶対当てたいんですが、来てくれる気配が全くしません!
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