遅れましたが、ムーパパさん
誤字報告ありがとうございます!
ダンジョンを進み順調かとも思ったけど、そこは流石レジェンダリーウェポン獲得クエスト。配置されたモンスターの強さは並大抵じゃなかった。
「衝撃波来ます!3秒後!」
黒と金のミノタウロス相手に苦戦を強いられることになった。黒は魔法耐性が高く物理耐性が低い。こいつは早々にレッドゾーンに入ったが、直ぐに金の方と入れ替わり回復し始めた。金の方は物理耐性が高く属性込みのソードスキルじゃないとまともにダメージを与えられない。
「あぁ!じれってぇ!」
タンク役のアルトが苛立ちを隠さずに声を上げる。
先読みと鉄壁とも言える的確な防御で、金タウロスの攻撃を捌いていくが、何度目か分からない衝撃波攻撃によって無理矢理距離を離される。
あの時みたいな様子は感じられないけど、多分心の中は穏やかじゃないはずだ。
シフの仇。そいつが
俺たちだって、シフのことを考えれば怒りを覚える。
アルトは人間関係の線引き範囲がとても狭い。
自分にとってどうでもいいか、そうじゃないかで区別してる。その内側の人間の為なら命を懸けてでも体を張る。
だからこそ、シフを自分の手に掛けたその時の心境は俺たちには分からない。
きっと自分の手で決着を着けないと気が済まないだろう。
その引き換えに自分の命が犠牲になっても。
『復讐を肯定する気はねぇ。だが自分の思いに区切りを着けるためなら、俺はきっと……』
その先を言うことはなかったけど『自分の命と引き換えにしてでも成し遂げる』と続けたはずだ。
だけどここはSAOとは違う。命懸けになることはないはずなのに、何故だろう?胸の奥がざわつくと言うか落ち着かなくなるのは。
「キリト!手ぇ止めんな!」
アルトの声に我に帰れば、金タウロスの剣を跳ね上げ反撃に移ろうとしていた。
そうだ。このクエストに失敗すればアルヴヘイム全体が氷に包まれ、ALO自体が消滅する。
アルトの事よりもまずは、このクエストに集中しないと。
「あー!もー!魔法で一気に倒せないの!?アレ!」
「魔法を使っても同じよ。黒い方が前に出てくるだけ」
「皆さん!補助魔法いきます!」
「回復が必要な人から後ろに退いて!」
「ユイ!黒の方が戻るまで、どのくらいだ!?」
「あと113秒です!」
アルトの言葉にユイは解析結果で応える。
2分も掛からない内に黒タウロスの方も戻ってくる。そうなっても黒い方に攻撃を集中すれば倒せるかもしれないけど、金の方が割り込んでくるはずだ。
属性込みのソードスキルは強力だが、その分発動後の硬直が通常のソードスキルよりも長い。
必殺を心掛けなければ、手痛い反撃を貰うことになる。
「
俺もアルトもそれに関してなら奥の手がある。
伊達にアイツと毎日のように戦っている訳じゃない。
クラインが先陣を切り、リーファ、シリカ、リズ、ユウキ、シノンと続く。
そしてアルトと共に合図もなく駆け出し、アルトが炎を纏った大剣の突きを繰り出し、俺はその背を飛び越え冷気を纏った左の剣で顔面を切り裂き、飛び上がった勢いのまま金タウロスを飛び越える。
アルトが風を纏った短剣で4連撃を食らわせれば、俺は右の剣で炎を纏った突きを5連続で繰り出す。
最後には互いに炎を纏った剣で、立ち位置を入れ替わるようにすれ違い様に切り裂いた。
「……キリトテメェ、OSSは最高4連が限界とか言ってなかったか?」
「……そっちこそ。短剣から大剣に繋げれないって言ってただろ?」
連続攻撃のOSSにチャレンジはしたけど、アルトが言ったように4連続が限界だった。とは言え、そのままだとアルトに負けたような気がして、アスナと相談しながら編み出したんだ。
2人による連続ソードスキルで金タウロスのHPバーが消し飛び、ポリゴンとなって散り、器用にも座禅を組んで回復していた黒タウロスが立ち上がり、加勢しようとしたけど時すでに遅しだ。
「お座り」
クラインのそんな言葉に感情はないはずだけど、乾いた笑い声のようなものを上げた気がする。
物理攻撃特化のメンバー相手じゃ荷が重すぎる。
全快まで回復したにも関わらず、1分と保たず金タウロスと同じように爆散した。
「それはそうとキリトにアルトよぅ!さっきのおめぇなんなんだよ!」
「言わなきゃダメか?」
「当たり前じゃねぇかよ」
「システム外スキルだよ。《
「どこまで再現しても紛い物だけどな。結局は両手の得物で交互にソードスキル撃ってるだけだし、《特双剣》のメリットだったパリィのダメージ補正もねぇし」
高火力を連発出来ると言えば聞こえはいいけど、繋げば繋ぐほど硬直は長くなるし、タイミングはシビアだし、必ず違うスキルに繋がないといけないから相手によっては打ち止めになる可能性も高い。
メリットもあるけどデメリットも大きい。
「ん~」
「どうしたの?アスナ」
「なんかデジャヴってるよ、私」
七十四層の《グリームアイズ》戦の時か。
そう言えば《二刀流》も《特双剣》もあの時初めて人前で使ったんだっけ?
あの事件が終わってから1年経つんだな。
「なんにせよ、ここは突破できた。ダンジョンに入る前は言いそびれたけどよ。今年最後の大クエストだ。無事に《エクスキャリバー》を手に入れてよ、明日のMMOTの一面を飾ろうぜ!」
クライン……。クラインも感じてるんだろうな。
外面は平静を装ってるけど、俺たちじゃ推し測れないアルトの内心を。
クラインだけじゃなくここにいる全員が。その証拠に全員がアルトのことを見てる。
せめて今だけはあのシスターのことを忘れて、クエストのことだけを考えてほしいと言うクラインなりの励ましなんだろう。
「……そうだな。この瞬間は今だけのモンだ」
先を急ぐぞ、と続けみんなが頷き走り出そうとしたけれど、アルトだけがそこから動こうとしなかった。
「どうしたの?」
「兄ちゃん、置いてっちゃうよ?」
「お前ら、先に行け。少し……野暮用ができた」
肩越しに振り返るアルトの視線を辿れば、その先にシスター服に身を包んだ女性がひっそりと佇んでいた。
それを見た瞬間、全身の毛が逆立つ感覚に教われた。
なんだあれ……!
ヒトの姿をしているのにそうは見えない。もっと得体の知れないナニカじゃないのか……?
「パパ……あの人はなんなんですか……?内包してるデータ群が人のそれとは違いすぎます」
「早く行け」
「ダメ……ダメだよ!兄ちゃん!」
「構ってる暇は無いわ。一緒に行きましょう」
アルトの腕を引き一緒に行こうとシノンとユウキが促すが、1歩も動く気配がない。
2人の言い分も分かる。アレは戦って勝てるような相手じゃない。
「ふふふ……。随分な嫌われようですね。初めて御会いした方もいるはずですが……貴方の入れ知恵でしょうか?」
「キリト!クライン!」
我に帰ればこちらに飛んでくるシノンの姿。危なげに受け止めクラインを見ればユウキを同じように受け止めていた。
アルトが2人を投げて寄越したんだ。何故、と聞かなくても分かる。分かってしまう。
「こいつは……俺の獲物だ!」
巻き込みたくないし、関わってほしくもない。
アイツは確かにそう言った。でもだからってーー
「さっさ行ってさっさとクエストを終わらせろ。俺よりもそっちが重要だろうが」
「……負けるなよ!」
「負けんじゃねぇぞ!」
「相手見てモノ言え。それよりーー」
シスターに歩みだしたアルトが肩越しにこちらを見た。
「ーーそいつらを任せたぞ?」
「離して!離してってば!」
「ハラスメントコードで訴えるわよ!」
アイツに初めて『任せた』って言われたんだ。どんなに脅されても屈するわけにはいかない。
「にしてもキリト!さっきの女性がそうなのか!?俺にはお
……偶にお前の性格が羨ましいよ。
「外見も言ってた通りだったし!なにより!いくらアルトでも初対面の人間相手にあそこまで敵意剥き出しにならないだろ!」
肩に担いだシノンを離さないようにしながらクラインに返す。さっきから踵が顎をかち上げてくるから視界が揺れてしょうがない。
「ユイちゃん!内包してるデータがどうとか言ってたけど、どうかしたの!?」
「本来、ゲーム内で使用されるアバターにはゲーム規定に則った容量が定められています。ですがさっきの女性が内包しているデータ総量はチートPC以上……もしかしたら、このALOよりも多くのデータを内包しているかもしれません」
「つまり!?」
「規格の外側、端的に言ってしまえば無敵に近い存在と言えるかもしれません。どれだけ傷付けても内側から漏れ出るデータが瞬く間に修復してしまうでしょう。もしそれが攻撃に使われたとしたら、人体にどんな影響を及ぼしてもおかしくありません。……ですが、それだけのデータを一体どこで?」
アルト……。
「皆!このクエストをすぐに終わらせてアルトのところに戻る!異論はあるか!?」
「「「「「「「ない!!」」」」」」
道すがら牢屋に入れられた女性NPCを助けつつ、さらに下へと進んでいく。
スリュムと名乗るボスに追い詰められるものの、スリュムに関する神話を思い出したシノンの指示に従い、途中で拾った金色の金槌に雷を貯め、それを助けた女性NPCに渡せば見上げるほどの大男に変貌。スリュムを倒してしまった。
スリュムに関する神話。
それは、アース神族の巨人族に自身の槌《ミョルニル》を盗まれてしまったトールが豊穣の女神フレイヤに変装し、これを奪い返すというもの。
つまりクラインが例のスケベ心を働かさなければ、俺たちは時間切れでクエストを失敗してしまうところだった。
……だけどNPCに連絡先を聞くのはどうかと思うし、アルトの状況忘れてないか?
女性陣にしばかれるクラインを無視し、あとは最下層の《エクスキャリバー》を抜くだけだとそう思っていたけど俺たちは忘れていた。
このダンジョンを保っているのは《エクスキャリバー》であり、それを引き抜けば崩れてしまうことを。
「あぁ……ダンジョンが……」
「崩れてく……」
リーファとリズが迎えに来たトンキーの上で崩れてくダンジョンを見つめ、呆然と呟いた。
「アルトさん大丈夫ですよね?ちゃんと無事ですよね?」
「大丈夫、きっと大丈夫だから」
シリカの声にアスナが応えるけど、多分それは自身に言い聞かせるための言葉だろう。
「兄ちゃん……」
「アルト……」
ユウキとシノン。2人にかける言葉が見つからない。
みんな言葉少なくログハウスへと戻ってきた。
もしかしたらダンジョンの崩落に巻き込まれて、ヨツンヘイムに落ちたかもしれないと、くまなく探してはみたけど結局見つかることはなかった。
アルゴもクエストを無事終えることを信じて待っていたけど、ダンジョンで姿を見せたあのシスターの話を聞き黙り込んだまま。
フレンドリストを見てみればアルトの名前の横にはオンラインの文字があるから、リアルに復帰してないみたいだけど。
「なんだよシケた面して。葬式の最中か?」
聞き慣れた声に顔を上げれば、全身ボロボロで入り口のドアにもたれ掛かりながらも、いつもの皮肉げな笑みを浮かべたアルトの姿。
「無事……だったの?」
「当たり前だ。流石にダンジョンが崩れ始めたときは本当に死ぬかと思ったけどな」
震える声のシノンに茶化して返すアルト。
現実でも崩落に巻き込まれるなんて体験はまずないだろうから、ゲームの中とは言え相当焦っただろうな。
「あのシスターは?」
「さぁな。崩落に巻き込まれないようにするのが精一杯でな。見失っちまった」
そっか。逆にそれで良かったのかもしれない。
復讐に身を焦がすなんてアルトらしくない。
アルトは椅子に座り足を組んで、頬杖を突く。
「流石に疲れた。姿見せたかと思えば、訳の分からないことをベラベラーーっておい、どうした?」
全員がアルトから距離を取った事を不審に思ってるだろうけど、それはこっちも同じだ。
「お前……誰だ」
「おいおい、俺以外になにかあるか?」
「アンタはアルトじゃない」
「兄ちゃんじゃないのは一目で分かるよ」
「伊達に用心棒として雇ってないからナ」
顔も声もアルトで間違いない。
でも仕草も癖も違う。
「大体ーー」
「その顔で、その声で、もう話しかけないで」
「……致し方ありません。人前で着替える無作法、お許しくださいましね」
泥のように体が崩れていく。
……いや、泥の様なものの奥にその正体があった。
「再びお目にかかります。シラとは仮の名。私の本当の名前は殺生院。以後お忘れなきよう」
待て。なんでコイツがここにいる?
「さて、自己紹介も終えたところで、何故私があの方ではないとお見抜きになられたのか、お伺いしても?」
「アルトはね、人を茶化す時は右の口角が上がるのよ」
「足は左脚を下に組むシ」
「頬杖を突く手は左なんだよ」
「「「なにより、恋する乙女を舐めるな!」」」
「「いやそこ!?」」
思わず突っ込んでしまった俺とクラインを誰が責められようか。見ろ、アスナたちだって……あれ?なんか頷いてるんだけど……。
「アルトはどこ」
「せっかちなのは嫌われますよ?あの方は、少々期待外れでしたので、ペロリと食べてしまいました。見かけ通りあまり美味ではありませんでした。証拠もこの通り、食べ残しで申し訳ありませんが」
「……え?」
誰の口から漏れた声なのかは分からない。けど、それよりも殺生院が放り投げ、床に突き刺さったものに目を奪われる。
肘から先を引き千切られ、鉤のような刀身の短剣を握り締めた左腕。
それは間違いなくアルトの左腕だった。
後半のダンジョン攻略は駆け足気味。
クラインは無事スクルドのメアドをゲットしましたが、本当にこれでよかったのかと思案中……。
捕食(物理)された主人公。
駆け足で無理矢理感ハンパないですが、見逃してください!