最初のタイトルは火の無い灰でしたが、灰の審判者に変更しました。プロローグのあとがきの方もこちらに変更しました。
評価をつけてくださった読者の皆様、ありがとうございます!
「で?新エリアってのはどこから行くんだ?」
「うーん、前告知だと
篝火ねぇ。
今回挑むメンバーは俺、キリト、アスナ、ユウキ、シノン、クライン、ユイの7人。まずは様子見と言うことで少数精鋭でマッピングするとこになった。
タンクが1、ダメージディーラーが2、ヒーラーが1、後方支援が1、遊撃が1。バランスは取れてる。
タンク役の俺がどこまでやれるかが問題だが。
「新エリアではヨツンヘイムと同じく飛行は出来ないらしイ。もういくつかのパーティが撤退してきてるみたいダ。武運を祈るゾ」
「良い情報があれば売るよ」
「お友だち価格で5割り引きの買い取りダ」
半額かよ。
「撤退組からの情報だト、旧ヨツンヘイムにある捻れた剣が突き刺さった篝火から新エリア、ロスリックに行けるらしイ。注意してほしいのハ、手に入れた武器やアイテムは各所にある篝火からこっちに戻ってこないト、手に入れても死んだ場合その場所にドロップすることだナ。欲張って良いことはないってことダ」
「強欲は身を滅ぼすか。身を以て理解してる」
正確にはあの女を見て、だが。
それはそれとして、アルゴが旧ヨツンヘイムと呼ぶのには理由がある。
キリトが《エクスキャリバー》を獲得後、ヨツンヘイムは緑溢れるエリアへと変貌した。
ニヴルヘイムの王スリュムを討ったからかもしれないと言うのがキリトの見解。ユイも同じ意見らしい。確かにあれっきり多碗の邪神級モンスターも見かけねぇしな。逆に像クラゲの方を見かけることが多くなった。
まったくもって忌々しい。
運営側も大層驚いただろうな。
正月休みが明けてエリアデータを見てみれば、ヨツンヘイムが氷の世界から変貌してんだからな。
「みんな聞いてくれ。新エリアの名称はロスリック。ストーリー的には人と竜の戦争後、人の世界に起きた異変を突き止める為に妖精が派遣されることになったってことらしい」
「人の世界だから飛行は出来ないってか?妖精って設定はどこ行ったんだよ」
「飛べることで難易度が変わるからじゃないのか?」
ふーん。
「とにかく、今回は様子見だ。無茶せず慎重にいこう……特に
「名指しすんじゃねぇ」
ぜってぇ変な含み持たせただろ。
「これか?」
「これだな」
捻れた剣が突き刺さった篝火。
薪ではなく骨のようなものが
「みんな、覚悟はいいか?」
「「「「「おう!」」」」」
「はい!」
キリトが篝火に手を翳し転送された。
視界が開ければ、そこは木も枯れた墓所。
不気味極まりないな。
「なんだか閑散としてるね。実装直後だからもっと人がいてもいいはずなのに」
「だな。もしかしたらサーバーを複数用意して、パーティ毎に振り分けてるのかもしれない」
「もしそうだとすりゃ、リソースの奪い合いになることは少ねぇってことか?だったら余裕はあるわけだな」
「アホか。性能がいい武器やら防具やらが出回るようになれば、集まってくるに決まってんだろ。それにキリトの推測が当たってたとしても、その振り分けがランダムである以上ここに他のパーティが来るのも時間の問題だ」
「どんな強い敵がいるのかな?ワクワクしてくるよ」
「アルト2号」
「おいキリト聞き捨てならねぇな」
「バカやってないで早く行きましょ」
後戻りは出来ねぇみてぇだしな。
道なりに進んでくしかねぇのかなぁ。
ローブを着たガリガリに痩せ細ったエネミーを蹴散らし進むが、短剣やボウガンを持ってるぐらいで脅威になり得ない。中には簡素な槍と木製の盾を持ってるヤツもいたが、これもまた然りだ。
「うわぁ!」
岩場の切れ目を抜けると山の中腹辺りだろうか、なかなかの絶景が望める場所だ。ユウキが感嘆の声を上げるのも頷ける。
「皆さん気を付けてください。この崖から落ちれば即死のようです。篝火のワープポイントを確立してない以上、落ちてしまえばまた1からやり直しです」
ここからがスタートって訳か。
つっても道幅は狭ぇし横並びじゃ2列が限界だな。とは言え戦うこと前提なら縦並びが順当だろうな。
「うーん。アルトの武器じゃ先頭は難しいかもな」
「このサイズじゃ振り回せねぇし……しょうがねぇか」
振り回せば間違いなく左側の壁にぶつける羽目になる。
なら降り下ろせば、と思わなくもないが外した場合のリカバリーをする奴が全員後ろにいっから最善とも言いにくい。
外す気は毛頭無いが、万が一、億が一の可能性を考慮してだ。
シノンは中距離支援だから論外。
キリト、アスナ、ユウキ、クラインの誰かが矢面に立つことになる。
「はいはーい!ボクやりたい!」
「ユウキ、か……」
キリトが問い掛けるような視線を投げ掛けてくるが、答えは決まってる。
「シノン、アスナ。いざという時は頼む」
「「了解」」
「よーし!行っくよ!」
意気揚々と歩き出すユウキに続き、広いとは言えない山道を崖下に注意しつつ歩いていく。
ユウキを先頭に進み続けて10分ほど経ったが、一向に篝火がない。チェックポイントとしてはそろそろ良いタイミングの筈だが……。
「あれなにかな?」
アスナの指の先には人工物であろう壁が見える。
彫刻の彫られたその壁は明らかな人工物であることを示す。
「ようやくチェックポイントか……脱落者が出た割りには大したことなかったなぁ」
「気ぃ引き締めろクライン。『騙して悪いが』はよくある話だ」
ま、それを言って生きてる奴はそうそういないが。
真っ直ぐ壁に設けられた門の向こう側に行きたいが、ローブを着たエネミーが多い。
だが場所は開けてるから俺が行っても問題ないねぇな。
そう視線でキリトに問い掛ければ、小さく頷く。
了承は得た。さて暴れるとしますかね。
「おぉぉぉりゃぁぁぁぁ!!」
隠れてた岩影から飛び出し、《ベルセルク》を横凪ぎで払う。5体のエネミーをまとめて薙ぎ倒し、俺にヘイトが向いた瞬間キリトたちは奴らの視界に入らないよう姿勢を低くしたまま門を潜り抜けた。
……またか。
メンテ前にも感じた視線。だが視線を感じるが姿は見えない。煩わしいな。
実害は殆どない。無視するのが得策か。
視線の正体を知りたいが、それよりもあいつらに合流するのが先だ。大したアイテムもドロップしねえみてぇだし、全部相手にすんのもバカらしい。
「なんだこれ?」
「なにかの石像……かしらね」
表面は確かに岩みてぇだが、胸に突き刺さった捻れた長剣。背中側に突き出た切っ先を黒い蛇のようなものが無数にまとわりついてる。
「奥の扉は?」
「駄目。ビクともしなかったよ」
てことは、これをどうにかしなきゃならねぇ訳だ。
怪しい。
「どうやらこの剣を引き抜かなきゃ駄目みたいです。それと同時にこの石像との戦いになります」
「ありがとうユイ。アルトこの剣を引き抜いてくれ。アスナは全員にバフを頼む」
「それじゃいくぞ」
右腕と左足を使い長剣を引き抜いていく。
「バフの準備もオーケー。いつでもいいよアルトくん」
「今やってるつーの……!」
あともうちょい……!
「うぉあぶねぇ!!」
引き抜いた瞬間、勢い余って半円を描くように振り抜いちまったが、些細なことだな。
「全っ然些細じゃない!頭が泣き別れするところだったんだぞ!?」
「パパ来ます!」
「切り替えろ!」
「俺が悪いのか!?」
HPバーは1本。《Ash of judge》
灰の審判……者でいいのか?
傍らにある斧槍を持ち、立ち上がるその姿はまさに圧巻。
4m近い身長とずっしりとした体躯から繰り出される攻撃は強烈だろうと予想できる。
「全員散開!アルト任せたぞ!」
「任された!」
叩き潰さんとばかりに、頭上から降り下ろされる審判者の左手を《ベルセルク》で受け止めつつ体を回転させ往なす。
左右からキリトとユウキ、後ろからクラインが斬り込む。
「凪ぎ払いが来ます!3秒後!」
3人が回避し、俺は身を屈めることでやり過ごしてから飛び上がり、がら空きになった審判者の喉目掛け渾身の突きを放つ。
数歩たたらを踏みながら後退するもすぐに体勢を立て直し、着地する寸前の俺をその斧槍で払う。
辛うじて防御は間に合ったが、弾き飛ばされ地面を転がる羽目になった。
固ぇし立て直しも早ぇ。こいつを倒さねぇと先には進めねぇし、ここで死ねばまた最初からやり直し。
成る程。撤退組が出てきてもしょうがねぇな。
HPを見れば、ようやくイエローに落ちたところ。
……レッドまでもってけるか、ってとこだな。
右足を引き、切っ先を審判者に向けて構える。
「全員離れろ!」
キリトたちが離れ、俺にヘイトが向くがもう遅い。
円を描くような八連撃。そして振りかざした《ベルセルク》を審判者を切り裂きつつ地面に叩き付け、地面を真っ直ぐに走る衝撃波が審判者を壁まで吹き飛ばす。
「全員!気ぃ抜くな!まだ終わってねぇ!」
《特双剣》の上位連撃ソードスキル《ナインライヴス》。それを片手でも使えるよう再現したOSS。高火力に吹き飛ばし効果が売りだが、硬直が長ぇのがいただけねぇな。見直しが必要か。
などと下らないことを頭の片隅で考えながら、砂煙に消えた審判者の動向を探る。
「なにあれ……」
シノンに同感だ。
砂煙が晴れ審判者が姿を現せば、背中からは黒い蛇のような頭が生え、左腕は自身の体よりも肥大化し背中と同じく黒いナニカが覆っている。
「祟〇神?」
「ユウキ、それはアウトだ」
確かにそう思わなくもないけどな。
異形と化した左手を地面につき、それを支点に飛び上がる。
狙いは……俺。
斧槍の突きを横っ飛びで躱し、続けて繰り出されたタックルを《ベルセルク》を盾に防ぐ。
重い……!
明らかに形態変化する前よりも力が増してる。
残り2割切ったってのにバカみてぇに広い攻撃範囲のせいで近づけねぇ。
「シノン!狙えるか!?」
「やってみる!」
火矢を番え、放つ。
蛇のような頭に直撃し、鼓膜を破らんばかりの悲鳴が響き渡る。怯んではいるようだが、これだとこっちも動けねぇし、闇雲に左腕を振り回すもんだから余計に近づけねぇ。
被弾覚悟でやるしかねぇか?
飛び出そうとすればキリトに腕を掴まれた。
「無茶するなって言っただろ!?」
「あいつの攻撃力は判ってる!一撃もらった程度じゃ死にゃしねぇ!」
「お前が無茶する度に心配するこっちの身にもなってくれ!」
…………。
「真っ先に面倒事に頭突っ込むお前が言うな。んで?どうするよ?シノンの火矢でチマチマ削るか?」
「好きでやってる訳じゃないさ。ユイ」
「はいパパ。攻撃範囲は確かに広いようですが、逆に自身の周囲は範囲外ようです。懐に潜り込めれば勝機はあるかもしれません」
懐に潜り込めれば、ねぇ。
仮にあの腕を掻い潜っても右手の斧槍が待ち構えてる。
「クラインあいつのタゲ、頼めるか?」
「あたぼうよ!俺さまに任せとけ!」
「シノン!火矢は使わないで、蛇の頭を狙ってくれ!」
「了解」
「アスナは今まで通り回復を頼む」
「任せて」
「ユウキは隙を見て、あの腕を掻い潜って足元に潜り込んでくれ。一撃離脱で頼む」
「まっかせてよ!」
「アルト、一緒に行くぞ」
「……了解だ。相棒」
キリトと並走し、審判者のヘイトを稼ぐために立ち止まったクラインの後ろで二手に別れる。
降り下ろされた左手を刀だけで受け止めたクラインの脇をユウキが駆け抜け、その丸太のような脚を斬りつける。
堪らず膝を着きながらも後ろに抜けたユウキに向け、斧槍を振るうよりも早く左右から俺とキリトが審判者の胸を切り裂いた。
胸に三条のダメージエフェクトを刻まれた審判者は制止。
1拍置いて破片となって散った。
Congratulations!
お馴染みのファンファーレと共に祝福の文字が宙に踊るが、正直こっちはそれどころじゃない。
「……全員無事か?」
「……終わってみればあっけねぇな」
初見のボス相手に大金星だな。
「アルト、その……」
「別に気にしてねぇ。勇気と蛮勇は違う。それぐらいは理解してるつもりだ」
「パパ、篝火が出現しました。アクティベートした方がいいのではないでしょうか」
「そうだな。ちょっと行ってくる」
なんにせよ、これでチュートリアルは終了。
次のエリアから本番だな。
その時、左腕から熱を感じた。
僅かではあるが暖かい、そう感じる程度だが。
「誰かな?あれ」
ユウキの言葉に俺たちが入ってきた入り口を見れば、傷だらけの騎士甲冑に身を包んだ……プレイヤーか?あれ。
視線は真っ直ぐに俺を捉え、どういう訳か戦意も感じる。
プレイヤーだとしても恨まれることなんざ……多すぎるな。
主に闘いを吹っ掛けたことが。
まぁいいさ。誰であろうが武器を持ち、戦意を持った時点で皆戦士ってな。闘いを挑むつもりなら全力でやろうか。そっちの方が面白いだろ?
「名前は聞かねぇ。怨むなら闘いを挑んだテメェを怨みな」
一足飛びで騎士甲冑に肉薄。
《ベルセルク》を降り下ろしーー
「……はぁ?」
何がしたかったのか。
恐らく盾でパリィでもしようとしたのか、盾を振るったものの空振り。がら空きになった体を切り裂いた。
一撃でHPを根こそぎ奪い、数歩たたらを踏み靄のように消えてしまった。
「何がしたかったんだ?あいつ」
「さぁ?」
隣に来たシノンも首を傾げる始末。
「アクティベート終わったぞ。今日はこの辺で切り上げよう」
……そうだな。キリもいいし、今日はこの辺で終いだ。
左腕に感じていた熱は今はもう感じない。
なんだったんだ一体?
一抹の疑念を感じながらも促されるまま、アルヴヘイムへと帰還した。
不死者あるある
パリィをミスって攻撃をくらう。
作者も致命狙いでパリィを狙いましたが上手くいかなかったです。盾パリィより刀パリィの方が上手くできるんですけどね。
……パリィの受け付け時間の問題でしょうか?