なんと言う間違いだ。
いよいよ、ロスリックも大詰めか。
無名の王との激戦を制し、リアルへと帰還した。
ベッドに横になりながら左手の感触を確かめるが、以前と変わらず感覚が鈍い。
あの戦いの中で確かに感覚が戻った気がしたんだが気のせいか?短い間だけだったが、確かに以前のように動かせた気がした。アドレナリンでそう感じただけかもしれないが。
『戦ったり共闘したり、兄ちゃんみたいだね』
ツンデレとでも言いたいのか木綿季の奴。
確かに思考は似てるかもしれねぇけど俺はツンデレじゃねぇ。
……下らねぇこと考えてねぇでさっさと寝よう。
「と言うわけで今回は灰も交えて最終戦に挑みたいと思います」
「何がと言うわけで、だ。状況説明は簡潔且つ手短にしろ」
「そうね。なんの説明もなくただ集まってるだけだし、いきなり最終戦に挑むなんて言われても要領を得ないわ」
「いや、メールで伝えたはずだよな!?分かったって返信もしてただろ!?」
「身に覚えがねぇな」
祭祀場に集まった俺、キリト、シノンそして灰。
ヒーラーも欲しいとこだが、肝心のアスナは家の事情で来れねぇし、リーファも部活があるとか言ってたな。クラインは仕事だし、エギルはゲームのし過ぎでカミさんにどやされたらしい。リズとシリカは知らねぇ。
玉座と言うにはあまりに悲惨な椅子に《薪の王》の生首が置かれてる風景は下手なホラーよりも恐ぇな。
「偉大なる《薪の王》たちよ。いまや火は陰り、王たちに玉座なし。貴方たちの火を継ぐ者へ預けたまえ」
火守女曰く灰を本当の火継ぎの王にするための儀式らしい。そうすることで祭祀場の篝火から《最初の火の炉》へと行けるんだと。
継承の儀式とやらも終わり、いよいよ《最初の火の炉》へ向かう。
「ここが《最初の火の炉》……」
「なにもねぇな」
火の消えた祭祀場が出れば、宙に浮くステージとそこまで続く道。
ここから見えるのは黒く変色した太陽と膨大な量の灰、下には見覚えのある建物や大地が流れ着いている。
「あれって無名の王が言ってたーー」
「幾度となく繰り返してきた世界の延命で不要とされた国や大地だろうさ」
そこに住む人間も恐らくは故郷と共に同じ最後を辿ったことだろう。制作者がそのNPCを作っていれば、だが。
アーチを潜れば多種多様な無数の武器が地に突き刺さり、菊に似た白い花が点々と咲いていた。
そしてその中央に鎮座する人影とその脇に立つ騎士。
「狼騎士アルトリウス……」
「久しいな、妖精たち」
「テメェ……その様はなんだ」
ぶらりと垂れ下がった左腕。
明らかに力が入っていない。
「左腕のことか……なに、深淵を祓うのに少々手こずってしまってな。幾分不便ではあるが貴殿も同じだろう」
野郎とお揃いとか誰が喜ぶんだよ。
初めて会った時よりも鎧はひび割れ、蒼い外套も半ばから千切れてる。
「既に我が王はなく、残ったのは火を継いだ薪の化身となってしまった。灰に火を継がせたくば、この化身を打ち破ってみせよ」
アルトリウスの言葉と共に立ち上がる人影。
《Soul of cinder》
直訳するなら消し炭の魂。奴の言葉を借りるなら灰の化身とでも言ったところか。つまりこいつは今まで火を継いできた《薪の王》や火の無い灰の集合体か。
熱で歪んだ騎士鎧に捻くれた刀身の螺旋剣。
戦いの火蓋は切って落とされた、がーー
「貴殿は戦わぬのか?」
「そうしたいのは山々だがな。そうすれば必然的にアンタに背中を向けることになるだろ?」
後ろから斬り掛かるなんてことはしねぇと思うが保険はあった方がいい。それにーー
「アンタとの決着も着いてねぇしな」
剣を折ったことで見逃されたが、あのまま続けていたら確実に俺が負けていた。見逃されたという事実が俺のプライドを傷付けた。
「ふ……ならば隻腕同士、決着をつけようか」
「正直キャラじゃねぇんだが……いざ、尋常に」
「「勝負!」」
大剣と大剣が火花が散らす。
吹き荒れる風よりも
渾身の一撃を放てば技巧の連撃で打ち落とされる。
相手も万全とは言い難いが、それでも小手先の技が通用しないのは最初の一戦で骨身に染みてる。
なら正面から俺の
後ろに退がったかとも思えば飛び上がり、串刺しにせんと迫る。後ろに転がりながら下がり、大剣を突き刺した衝撃に舞い上がった砂煙に乗じて突きを繰り出す。
そう簡単に一撃を入れれるとは思ってないが、地面に突き刺さった剣を僅かに引き抜き切っ先をずらすことで回避。
つんのめる寸前で踏み留まり、鋭い斬り上げを右足を軸に回転し降り下ろした剣で叩き落とす。
「随分と腕を上げたようだな」
「馬鹿言え!着いてくだけでも精一杯だっつーの!」
嘘ではない。隻腕になり、万全とは言い難い状態でもこいつの剣に一切の曇りがない。
「ところでお前の狼はどうした!?」
「シフならば我が友が建てた私の墓を守っている」
こいつ生きて帰るつもりがねぇのか!
「元よりこの命、我が王へと捧げたもの。王と共に散らせるのならば!この上ない僥倖だ!」
「アホが!人の為と書いて偽だ!テメェ自身を納得させるための嘘でしかねぇ!」
「たとえ欺瞞だとしても私が抱く忠誠心は本物だ!」
お互いに距離を取り、霊廟の時のように自身が信を置く技で決着を着ける。
「これが最後か……愉しかったぞ、アルト」
「俺もだ。アルトリウス」
弾かれるように動き出し互いの剣が交差した。
「パターン変わるぞ!」
剣、槍、曲剣、杖。
螺旋剣を様々な形態に変化させ、豊富な攻撃手段で攻めてくる。
オーソドックスな剣にリーチに優れた槍、毒霧や火球にアクロバティックな動きで攻める搦め手の曲剣、魔法攻撃の杖。
「この!」
シノンが放った一矢は、化身が翳した左手を貫くことなく触れた瞬間に燃え尽きる。
最後のボスだけあって手強い。攻撃できる隙が少なく、様々な戦闘スタイルで翻弄してくる。
それでも倒せない訳じゃない。
隙が少ないだけで攻撃できるチャンスは必ずある。
再びシノンの矢に気を取られた瞬間に灰と共に畳み掛ける。アルトの言う通り、灰の戦闘力はかなり高い。攻撃できる隙を見極め剣や槍、槌、大剣、双剣などを器用に使い分け、距離が空けば魔法や弓を使う。
……鞭は趣味か?
HPがゼロになり膝を突く化身。
が、体から炎を吹き出し全損したHPがフル回復する。
「冗談でしょ……」
「攻撃パターン変わるぞ!」
さっきまでのような武器が換わることはないが、剣を振るう度に撒き散らされる炎が接近を許さない。
攻撃自体は単発のものが多く。手数よりも一撃の重さを重視しているんだろう。
「ォォォォォらぁ!」
横から鉄塊が化身を撥ね飛ばす。
「アルト!」
「おう。待たせたな、お前ら」
「アルトリウスは?」
「あいつなら逝った」
殺したではなく逝った、か。
「ンだその顔」
「別になんでもないさ」
NPCだったけど騎士とは斯くあるべしを体現した騎士だった。その在り方をアルトも認めたんだな。
「第二ラウンドか……骨が折れるな」
変身をあと二回残してます、にならなきゃいいけどな。
第二形態の化身の強さは並大抵じゃなかった。
特に攻撃範囲が尋常じゃない。
大剣に分類されるだろう剣を振るい、剣の軌道をなぞるように炎が走る。剣に炎を纏わせての四連撃からの地面に突き刺しての爆発。
「調子に、乗んな!」
剣撃を掻い潜り、必中を確信した一撃。
「ガッ……」
予備動作のない蹴りに背中から地面に倒される。そして左手に集まる雷。
あれって無名のーー
間に合わない!
化身とアルトの間に割って入る影。
「お前……」
胸に雷の杭を打ち込まれた灰。即死こそしなかったが、そのまま地面に叩き付けられた。
「シノン!援護頼む!」
「了解!」
「テメェ何で俺を庇った!」
「…………」
「黙ってちゃ分からねぇだろうが!」
クソ、
灰が取り出したオレンジに光る瓶を引ったくり、やつにぶっかける。
「我は汝……汝は我……」
灰が自分の胸を自分の左手で貫いたかと思えば、揺らめく炎のようなものを取り出した。
まさかこれはーー
「借りは返した」
「アホが貸した覚えもねぇよ」
取り出した炎を俺の左腕に押し付ける。
歯車が噛み合う感覚と共に左腕の感覚が甦ってきた。
「最後は任せる。それまで休んでろ」
ウィンドウを開き装備を替える。
馴染んだ二振りの武器を引き抜き構えた。
「キリト、シノン。速攻で終わらせるぞ」
「アルト……お前……」
「戻ってきたわね。【双刃】が」
大剣と鉤短剣。機動性を重視した防具。
負ける気がしねぇな。
振り下ろされた螺旋剣を交差させた短剣と大剣で受け止める。吹き付ける炎に怯まず弾き返した。
「キリト!」
「任せろ!」
畳み掛けられるSS。発動後の硬直時間の延長と引き換えに放たれる威力は折り紙付きだ。
「スイッチ!」
「応さ!」
横凪ぎの剣を滑り込んで躱しつつSSを放つ。
大剣から短剣、短剣から大剣へと繋げOSS《ナインライヴス》で締める。
「スイッチ!」
「任せなさい!」
動き始めを見極め、関節を射抜くことで身動きを封じる。
「決めろ!」
俺の呼び掛けに灰が応じ、かつて灰に打ち込んだ《ナインライヴス》で化身に止めを刺す。
「ォォォォ……」
消え入りそうな断末魔と共に化身が消滅する。
苦戦したがなんとか倒すことができたな。攻撃範囲広すぎるだろ。
化身を倒したことで現れた篝火に灰に肩を貸して近付く。
この火を継ぐか消すか。それは灰の判断に任せよう。
「お見事です。灰の方、そして妖精の皆様」
灰を見守っていると祭祀場にいるはずの火守女が姿を現した。今までどこにいたんだこいつ。
「灰の方、本当によろしいのですね?」
火守女の問いかけに灰が頷くと篝火の前に跪き、篝火から炎を抜き出した
「はじまりの火が消えます。すぐに暗闇が訪れるでしょう」
火を消すのか。それが正しい気もするがーー
「そして、いつかきっと暗闇に小さな火たちが現れます。王たちの継いだ残り火が」
輪郭が溶けるように暗闇に消えていく。
「灰の方、まだ私の声が、聞こえていらっしゃいますか?」
「問題なさそうだな」
「まぁな、1ヶ月近く殆ど動かしてねぇから不安だったが、VRの中じゃ特に問題ねぇな」
右手で大剣を握り、左手で短剣を振り回す。
灰が返還した左腕。
ユイの話じゃ自意識に目覚めたAIに昇華したんじゃないか、とのこと。確かにそうじゃないとじゃないとアルトを庇うなんて行動に走る理由にならない。
でも何故VRの中で左腕を奪われたことを切っ掛けにリアルでも後遺症が残ったのかは分からないまま。
「俺復活!さぁ
「怖いわ!このバーサーカー!」
アルトが万全になったのは正直嬉しい。
でも、だからって早速戦いを吹っ掛けてくるな!
「アルト君の病気が……」
「見事に再発したわね」
「別にいいんじゃないカ?ここ最近で一番楽しそうだシ」
「よぉうし!キリの字とアルト、どっちが勝つか賭けようぜ」
「別に止めはしないが、あとで二人にしばかれても知らないからな」
頼むからこの戦闘馬鹿を止めてくれ!
「逃げんなキリト!」
ギャアァァァ!
小説のタイトルを変更しました。
この小説では火継ぎの終わりendにしました。
他にも火継ぎendに条件が難しい火の簒奪者end、もうひとつの隠しendがあります。是非すべてのエンディングを見てみてください。
アルトリウス装備はファランのソウルで大剣を作り、無縁墓地を抜けた先の祭祀場で防具を買い、ファランの誓約報酬で剣草を30個捧げると盾がゲットすることで集まります。
作者はグルー狩りマラソンで銅貨を割り、貪欲者の烙印を被り、結晶の古老のソウルで作れる刺剣を装備して、発見力を高めて剣草を集めました。
マラソン開始から終了までの時間を合算すると丸2日……。