こんなはずじゃ……
KーRLさん、誤字報告ありがとうございます。
「颯真さん、来たんですね」
「まぁな。今日は体を動かしてぇ気分でな」
「もう……そんな理由でボス戦に挑むのは颯真さんぐらいですよ」
代々木公園前で【風林火山】の面々と明日奈と合流したんだが……一人足りなくね?
「連絡が取れなくなっててな。全員で挑戦するって約束しちまってるから、アイツが来るまで【風林火山】は待機だ」
【風林火山】のメンバーが音信不通、ね。
「ま、大方アイテム拾いに夢中になって遅れてるだけだろうし、おめぇさんたちは先に行ってな」
「参加できなくて悔しがんじゃねぇぞ?」
「それじゃ私たちは先に行ってますね」
「気ぃつけてな」
電話にも出ず、メールの返信もない。
それにメッセージに既読も付かないとなるとトラブルにでも巻き込まれたんじゃねぇの?
「にしても夫も連れずに夜歩きとは感心しねぇな」
「お家だって近いし、何かあったらアルトくんが守ってくれるでしょ?」
「やめてくれ。お前に怪我でもさせようもんなら、俺がキリトに殺される」
冗談抜きでそうなりそうだ。アスナのことになると一気に頭に血ぃ昇らせやがるしな。
「……帰りは送ってやるよ」
「ふふ、ありがと」
……時間だな。
『みんな行くよ!ミュージックスタート!』
「なんだアレ」
「イメージキャラクターのユナだよ?知らないの?」
「どうでもいい」
にべもなく切り捨てる。
アスナの話じゃユナとやらの歌にはプレイヤーのバフ効果があり、そいつが出現するバトルフィールドはボーナスステージとか言われてるらしい。
歌を聞いてバフ効果……どっかで聞いた覚えがあるな。
《The Storm griffin》
グリフィンって読むが意味はグリフォンと同義。
やっぱりSAOで出てきたまんまだな。
「アスナ、攻略手順は憶えてるな?」
「もちろん。タゲお願いね」
「任された」
にしても、態々コントローラーをもう一つ買ってきたというのにーー
「しっくり来ねぇな」
両手の直剣と短剣の感触を確かめるが金属特有の重さがない。その分、手軽に振り回せると前向きに考えよう。
降り下ろされた鋭い爪を左の短剣で受け止め、右の直剣を振るう。それに反応したグリフォンは飛び上がり、翼を羽ばたかせる。
あの動作はーー
「アスナ!」
「ってぇ!」
途端に上がる砲火。
成る程、銃火器のプレイヤーを集めて簡単な対空砲火を作ったのか。さすが元【血盟騎士団】の副団長様。指揮能力は今だ健在ってか?
「今よ!畳み掛けて!」
アスナの号令と共に走り出すプレイヤーたち。
ラストアタックを奪い合い、思い思いに武器を振るう様を見て、まるで餌を見付けた蟻のようだとかなり失礼な事を考えつつ両手の得物を構え直し、グリフォンへと叩き付けた。
「結局、クラインの奴ら来なかったな」
「何かあったのかな?」
「さぁな」
仲間が来ねぇから帰ったとしても電話に出ねぇのはおかしくねぇか?運転中でも他のメンバーに任せればいい。
……なんか嫌な予感がする。
「さて送迎宜しくね」
「……
近くを通る救急車に気を取られたが、帰りは送ると言った以上は断れねぇよな。
サイドカーに明日奈が乗り込んだのを確認してから、エンジンに火を入れる。メット積んでおいて正解だったな。同席者がノーヘルで補導とか笑えねぇ。
「んじゃナビ頼むぞ」
「任された」
「真似すんな」
『動力はどうするか決まったかね』
「オーグマーと同じようにワイヤレス受信機と蓄電池、それと関節にコイルと磁石を使ったハイブリットにしようかと」
『成る程、ドローンからの電力供給がなされている内は関節の稼働で発電し、圏外ならば蓄えた電力で稼働させる。蓄えた電力が尽きる前に再びドローンの圏内に戻れば問題ないだろう。中々よく考えられている』
「ドローンが飛び交ってるのを見て思い付いただけですよ。それに教授が考案した大容量蓄電池のお陰です」
とはいえドローンが飛んでいるのは都内近郊。俺の住んでる地域は
コンセントからも充電出来るようにしないとな。
『制御プログラムはどうするのかね。こちらはまだ手を付けていないが』
「そっちは問題ありません。知り合いに頼んでありますので」
『そうか。なら制御プログラムはそちらに任せよう。機体の組み立てはあと三日もあれば終わる』
「分かりました。ではまた、重村教授」
敬語は疲れる。慣れねぇことはするもんじゃない。
CPUメモリも問題ない。あとはシフに動かしてもらい問題がなければOKだ。
ALOでシフと再会してから計画していたこと。
リアルで動かせるシフの体を作る。
その実現まであと少し。
携帯の着信音に確認してみればエギルの文字。
「どうした?バーソロミュー」
『アンドリューだ。最後の二文字しか合ってねぇじゃねえか。分かりにくいボケを入れてくるな』
「悪かったな。それで?」
『クラインーー遼太郎が病院に運ばれた』
「よう和人、お前も同じ口か?」
「颯真だってエギルから教えてもらったんだろ?」
クラインだけじゃなく【風林火山】のメンバー全員が病院送に搬送された。代々木公園近くで通行人に発見され、救急車で運ばれたそうだ。
あの日、近くを通った救急車がそうなんだろう。
仲間同士で言い合いになりってのは【風林火山】じゃあり得ねぇ。つまりアイツらを病院送りにした奴がいる。
「憶えてねぇ!?」
「SAOの記憶がごっそりな。まぁ楽しい記憶ばかりじゃねぇから忘れちまった方がーー」
「ふざけんな!!」
怪我人だろうが知ったことじゃない。激情のままクラインの胸倉を掴み上げた。
「忘れた方がマシ?寝言ならもっとマシな事を言いやがれ!お前はあの世界で死んでいった奴らに向かって同じことが言えんのか!
忘れるってのは無かったことにすることだ。
それをこいつは……!
「見損なったぞ」
叩き付けるように手を離し、病室を後にした。
「実はさ……明日奈もSAOの記憶が無くなってた……」
「……原因は」
「医者によれば、脳をスキャニングされた影響かも知れないって」
スキャニングされた影響で脳にダメージを負い、結果SAOでの出来事を忘れたーーいや、奪われたって方が正しいな。
「オーグマー、か」
「多分な。明日、大学に行って重森教授に掛け合ってみる。オーグマーの開発者ならスキャニング機能のことも知ってるはずだ」
「分かった……クラインはなにか言ってたか?」
「泣いてた。記憶を奪われたこともだけど、それを良しとした自分が情けないって」
「……そうか」
「それとクラインたち【風林火山】を襲った犯人はランキング二位だ。名前はエイジ……ノーチラスだ。シリカを突き飛ばして庇ったアスナがモンスターにキルされて記憶が……」
モンスターにキルされて記憶を奪われる。
標的はSAOサバイバーか。
「アイツはSAOボスが現れる場所にいる」
「そうだな。《サムライロード》、《グリフォン》、そして明日奈の時もSAOボスだった」
SAOサバイバーが現れやすいのはSAOモンスターが現れる場所か。攻略方が解ってるモンスターの方が戦いやすいし、ポイントも旨い。
よく考えられてる。
「ユイに頼んで次のSAOボスが現れそうな場所を分析してもらってる。二手に別れてしらみ潰しに回ろう」
「了解だ。平行してお前は順位を上げとけ」
ランキングにはポイントの獲得以外にも上位のプレイヤーを倒すことで順位を上げられる。だが相手が二位となれば十位圏内でないとデュエルができない。
戦うならば、まずデュエルの権利をもぎ取らなきゃ話にならねぇ。ランキング関係なしにボコればいいかもしれねぇが。
「颯真」
「あ?」
「エイジは……アイツは俺の獲物だ」
「……分かった」
俺のが移ったか?にしてもやっぱり明日奈のことになると頭に血ぃ昇るなコイツ。
《Farron' s Undead Legion》
「なんだコイツら!死なねぇ!」
そりゃそうだ。コイツらは隊長格の奴を殺らねぇ限り隊士は延々と蘇ってくる。
阿鼻叫喚の地獄絵図。
四十人近くいる不死隊に翻弄されて、チームプレイは瓦解した。
ファランの不死隊。
六十七層のコイツらも出てきたか。
仕様を変えてきたようで、赤目の奴がいねぇから同士討ちは期待できねぇ。参加プレイヤーの数を考えれば妥当かもしれないが。
気になるのは、コイツらの事をあのインタビューで一言も喋ってない。
しかも奴らと戦ったのは俺だけだ。
にも拘らず、こうして再現され出現してる。
つまりOSの運営にはサバイバーじゃなく開発に関わった人間がいる?しかも全てのSAOボスを知りうる人物。
或いは、今も封印されているSAOサーバーにアクセスしてデータをコピーした奴がいる?
前者は可能性としてはあり得るかもしれねぇが、後者は余程の人物じゃないとサーバーに近付くことすら出来ねぇ筈だ。
……考えるのはあとだ。見た限り二位の奴はいない。ここじゃねぇみたいだな。他の場所にもSAOボスが出てきてるみてぇだからそっちかもな。
お前らから手に入れた戦い方が、お前らに通用するか試してみるか。
「お見事ですね【双刃】」
「……お前がランキング二位のエイジか?それともノーチラスの方がいいか?」
立体駐車場で後ろから掛けられた声。
振り向かなくても判る。コイツがエイジだと。
「昔の名前なんかどうでもいいでしょう?」
「そうだな。お前なんざどうでもいい」
「っ……あのときもそうだった。彼女を目の前で失った僕を見て、貴方は今と同じ言葉を吐き捨てた。『戦えねぇ腰抜けなんざどうでもいい』」
……あぁ、あの時か。
「あの時の腰抜けが今じゃトッププレイヤーか。なんだ?称賛の言葉でも期待してんのか?だったら他を当たれ」
「おや、戦わないんですか?誰よりも何よりも強者と戦いたがる貴方が」
「挑発のつもりなら赤点だな」
「【風林火山】を病院送りにし、アスナさんの記憶を奪ったのが、僕だとしても?」
ハンドルに伸ばした手を止め、エイジを見据える。
「それとも負けるのが怖いとか?」
「強い言葉を吐きたがる気持ちは分からなくもねぇが、あまり吠えるな。底が透けて見えるぞ」
「っ……」
「それにテメェの相手は俺じゃねぇ」
コイツはキリトの獲物だ。他人の獲物を横取りする趣味はねぇ。
「一つ教えてやる。虎の威を借る狐ってな。力を見せ付けてぇなら、自分の実力だけでやってみろ」
忌々しげに顔を歪めた奴を鼻で笑い、駐車場をあとにする。
服の上からだったから確証はねぇが、筋肉の付き方に違和感を感じた。
あんな細腕で大の男を抑え込んで、腕の骨を折れるわけがねぇ。
しかもクラインの腕は鈍器による殴打での骨折ではなく、なにか強い力でへし折られてるらしい。それに腕にはハッキリと掴まれた跡も残ってた。
医者は『プロレスラーとでも喧嘩したの?』と首を傾げる始末だ。
考えることが増えたな畜生。
前話でノーチラスについて話してましたが、あれって風林火山が病院送りにされた後でしたね。
やっちまった……。