sword art onlineー黒と灰ー   作:戒斗

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ユニコーンではないです(唐突)




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第最終節:可能性の獣

《An incarnate of the Radius》

SAO第百層ボス。

 

戦乙女のようなボスはたった五人じゃ太刀打ちできる相手じゃなかった。

被ダメージを減衰させる防御フィールドにHPを回復させる大樹の雫、バトルフィールドそのものを己の武器にする超能力のようなものに植物を操る能力まで持っている。

 

「負けて……たまるかぁ!」

 

アイツだってコイツ以上の敵と戦ってるんだ!勝てる可能性が限りなくゼロに近くても諦める理由にはならない!

 

が、そんな俺の思いとは裏腹に最初の善戦も嘘であったかのように覆され、俺は握り締められたまま壁に叩き付けられエギルとリズは植物に絡め取られた。

シノンも奴の目から放たれたビームの爆風に巻き込まれ安否不明、ユウキは槍を受け止めるので身動きが取れない。果敢に飛び出したシリカは上下から動き出した岩塊に挟まれ押し潰されそうになっていた。

 

『申し上げたはずですよ。ヒトにも劣る獣が私に敵うはずがないと。ましてや、あの方のような力も持たぬ有象無象に私を打倒するなど叶いましょうか?ですが……ふふふ、嬉しく思います。私を打倒せんとする英傑が牙を剥き、無謀にも挑まんとする。昂りすぎて思わず、貪り尽くしてしまいたくなってしまうではありませんか』

 

よく喋る……!

 

百層ボスを取り込んだ殺生院の喜悦を含んだ声を聞き流す。幸いなことにリソースの殆どを現実の方へ割いているせいか、ドームの方の殺生院より脅威を感じない。

 

それでも手も足も出せないのが現実だが。

 

 

 

 

 

 

「次!」

 

迫り来るSAOボスを薙ぎ倒し歩を進める。

自分自身そのものを薪として力を行使する。

 

鎧袖一触でSAOボスは薙ぎ払えるものの問題は奴の信者となった観客たち。シフがオーグマーを外して回ってくれているが焼け石に水、観客が多すぎて減ってる気がしない。

 

己を消費して力を行使してる以上、長期戦は自殺行為だが道が開かない。雲霞(うんか)の如く押し寄せる観客たちが僅かに拓けた空間を封殺するせいだ。

 

「よく粘りますね。以前の貴方なら邪魔する者全てを殺し尽くして私の眼前に立っていたでしょうに」

 

「ああ、そうだな。だが仮にそうしたとしても、お前に勝てたとは言えねぇ。テメェを否定し尽くして初めて勝利と言える。怪物風情が人間を舐めるな」

 

万人を救うなんざ俺にはできねぇし資格もねぇ。俺に出来んのはこの手が届く範囲を守ることぐらいで、それ以外に牙を剥くことだけだ。

 

「吼えたてる獣ほど矮小なものはございません。愛玩動物として愛でてあげましょう」

 

進化の袋小路に迷い混んだ人間であるからこそ、あらゆる可能性を秘めている。

 

そう重村は言っていた。なら俺がそれを証明する。可能性の獣たる人間の力をな。

 

飛び上がり同じように跳んだシフを足場に跳躍。観客の肉壁を飛び越えステージの上でほくそ笑む奴に目掛け炎を纏った剣を突き出す。

 

「拡張現実だったのが(あだ)になったな!仮想の体じゃ現実の俺は止められねぇ!」

 

「侮らないでください!このまま貴方の脳を焼き払って差し上げます!」

 

己の全てを燃え上がらせ力を限界まで行使する。

奴を殺すのが先か俺の脳が焼き払われるのが先か。

 

その前にそっちを頼むぞ、キリト。

 

 

 

 

 

 

「なんだ……?」

 

戦意を(たぎ)らせたアスナと合流し反撃に打って出ようとした矢先、奴の体が燃え上がり悶え苦しみ始めた。

 

あの馬鹿野郎、使うなって言っただろ……!

 

『まだです!まだ終わらせない!』

 

悶え苦しみながらも動き始めた瞬間、風の渦が奴を閉じ込めた。

 

「お兄ちゃーーん!お待たせーー!」

 

スグ!お前その姿ALOの……

 

「パパ!ママ!皆さんを呼んできました!」

 

ユージーンにサクヤさんとルーさん、レコン、それにクラインまで……銃を撃ってる人たちは知らないけどGGOから連れてきたのか?

 

「これも使ってください!」

 

ユイが手にした光が俺たちを包み、光が治まればSAO当時の装備に変わってる。

 

「このSAOサーバーに残ってたセーブデータから皆さんの分をロードしました!シノンさんとユウキさんの分はおまけです!」

 

……そうか。元はカーディナルの一部だから、SAOサーバーにも《ザ・シード》規格のGGOにもアクセスできる。

 

突然吹き荒れる風と共に舞う灰に閉じた目を開けば、焼け爛れ歪み捻れ煤けた鎧に身を包んだプレイヤーが目の前にいた。見覚えのある螺旋剣を引き抜き、肩に預けながらこちらを振り向く仕草はアイツを連想させる。

 

まさか……お前……。

 

「……よし、みんなやろう!」

 

反撃の狼煙だ。

心強い援軍もいる。ぶん殴りたい奴もいるし、奴には悪いがさっさと終わらせる!

 

ALOのプレイヤー達が奴の周囲を飛び回りながら、すれ違い様に切り裂き、気を取られた瞬間に魔法を叩き込む。

GGOプレイヤーたちは遠距離から攻撃を叩き込める利点を最大限に利用して常に弾幕を張り、HPを削りながら身動きを封じる。

 

「行くよ!アスナ!」

 

「任せてユウキ!」

 

奴の頭上までアスナをユウキが運び、共に直滑降しながら剣撃を浴びせる。

仰け反った瞬間にリズとシリカが攻撃を仕掛けるが防御フィールドに阻まれるもののスイッチしたエギルの渾身の一撃によって叩き割られ、そのまま頭をへこませるほどの痛撃を与える。

 

異形の剣を持った剣士が左手を振るえば、白い紋様が地面に現れ、様々な装備に身を包んだ剣士たちが現れる。

奴の放つ木の根に押し潰され、吹き飛ばされながらもその数は減らず、杖や布のような物を振り魔法を放つ奴もいれば弓を射る奴、体によじ登り剣を振るう奴、火炎壺を投げる奴もいる。

……一人だけ半裸に近い奴が投げてる茶色くて見るからに不潔そうな物体には触れないでおこう。

 

「ありがとうな、灰」

 

ロスリックで幾度とアルトと戦い、殺生院に利用されていたアイツがまさか手を貸してくれるなんてな。

 

「……借りを返しに来たにすぎん」

 

素直じゃないのもアイツにそっくりだな。

 

「行くぞ!アスナ!」

 

「うん!」

 

地面から押し潰さんと放たれる根をスグとシノンが撃ち落とし、振り落とされた剣を灰の雷の槍が弾き飛ばす。

 

『こんな……なんの力も持たないケダモノに……』

 

「「俺たち(私たち)を舐めるなぁ!!」」

 

アスナの《フラッシング・ペネトレイター》が弾け、怯んだ奴の懐に潜り込み、《スターバースト・ストリーム》を発動する。

最後の一撃を奴の顔面目掛け振り下ろし、HPが尽きたボスはポリゴンとなって四散した。

 

『……これでSAO完全クリアは果たされた。おめでとう、と言いたいところだが、早く戻った方がいい。彼の身を案じるのであればね』

 

分かってるさ。お前に言われなくてもな、茅場。

 

 

 

 

 

 

「そんな!何故!?」

 

狼狽え始めた奴を見て確信した。

 

やったか、キリト……なら、あとはーー

 

「残るはテメェだけだ!殺生院!」

 

「まだです!まだ私には多くの信者達がーー」

 

突如ドームに響く歌声。その歌の影響なのか、傀儡となっていた観客たちが糸の切れた人形のように力なく倒れ伏した。

 

一ヶ所だけスポットライトに照らされた場所には白いユナが歌い、その傍にはSAO時代のキリトがSAOボスたちに見たことのない大剣を振るっていた。

 

「こんな……こんなことが……私の計画は……」

 

「他人を利用し、弄んだ報いを受けるときだ。同情はしねぇし憐れみもしねぇ。ただ甘んじて受け入れろ」

 

「まだ……まだ私はァァァ!!!」

 

もう体の感覚を殆ど感じねぇんだ。これ以上、お前に付き合う義理はねぇよ。

 

奴の腹に突き刺した剣を引き抜き、袈裟に切り落とす。

無数のエフェクトとなって散っていく奴を見届け、俺の意識は暗転した。

 

 

 

「……ぃ……い!おい!颯真!」

 

「っるせぇな。耳元で叫ばなくても聞こえてる」

 

おちおち寝てもいられねぇな……。

 

自由の利かない体を無理矢理起こし、朝田と木綿季に肩を借りなんとか立ち上がれば会場内に倒れる観客たちが見える。

 

「大丈夫だ。全員気を失ってるだけで命に別状はないってさ」

 

「……別に気にしてねぇよ」

 

「颯真こそ大丈夫なの?」

 

「兄ちゃん、嘘はダメだよ?」

 

「すげぇ眠い。さっさと帰って寝る……前に熱いシャワーを浴びてぇな」

 

冗談めかせば『しょうがないな』とでも言いたげな笑みを浮かべる面々。

正直なこと言ってんのに笑うとは何事だ。

 

「ありがとう【黒の剣士】、【双刃】」

 

白いユナか……なんか薄くなってねぇか?

 

「私も百層ボスのリソースの一部で形を保ってたから、そのボスがいなくなれば私も消えるの。SAOサバイバーの記憶障害の原因は死の恐怖。それに打ち勝った貴女ならきっと思い出せるわ」

 

『みんなの前で歌えたから心残りもないしね』

そう言い俺の前に立ち、悪戯気な笑みを溢した。

 

「【双刃】もSAOでいつも私の歌を聞きに来てくれてありがとう」

 

その言葉に両肩に回された腕に力が込められたのは気のせいだと思いたい。

 

そんなこともしてた気もしなくもない。

 

「颯真?あとで聞きたいことが出来たわ」

 

「右に同じーく」

 

「……お手柔らかにな」

 

遠退く意識を繋ぎ止めながら朝田と木綿季の質問攻めを受け、気が付けば日を跨いでいた。

……今日、寝れるかな?

 

 

 

 

ライブで起きた観客の意識不明の原因はライブの演出として使用されたガスが原因とされ、後日ユナのライブが改めて行われた。

 

そうそう、オーグマーの開発者である重村雄大はカブラ社社外取締役を辞任し表舞台から姿を消した。

娘を取り戻そうとする意思は尊敬するが、その手段は心底気に入らない。それしか手段がなかったのかもしれないけどな。

 

そういや、昨日は和人と明日奈が星を見に行く日だったな。なんでもSAOで交わした約束らしい。

 

あの世界での出来事はなかったことにはできないし、してはいけない。ずっとついて回る影法師みたいなもんだ。生きていくうちに忘れてしまうかもしれないが、それまではその記憶と共に生きていかなきゃならない。

 

…………そろそろ限界だな。アイツらには最後まで迷惑をかけるが……これが最後だ。

 

 

…………まだアイツらと馬鹿やってたかったな……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんなところに連れてきて、なにをさせるつもりかね?罪に問われなかったことには感謝しているが……」

 

「簡単なことですよ。貴方にしかできないことです」

 

「っ!これは……」

 

「ようこそ、ラースへ」




実はシフが居ない場合、エミヤオルタのように観客を殺戮した上で殺生院を殺すと言う道を辿っていました。

もうちょっとだけ続きます





2万のおでんを用意しても沖田オルタが来ませんでした……

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