sword art onlineー黒と灰ー   作:戒斗

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恐らく次話から投稿が遅れると思いますが、気長にお待ちください。


Epilogue(エピローグ)という名のprologue(プロローグ)

「颯真が意識不明!?」

 

『ええ……詳しいことは病院で話すから早く来て』

 

明らかに元気のないシノンの声に冗談やドッキリじゃなく真実なのだと悟り、慌ててバイクを走らせて都内の病院へ急ぐ。

 

受付を通し、颯真の病室へ駆け込んでみれば死んだようにベッドに横たわる颯真とベッド脇の椅子に座るシノンの姿があった。

 

「シノン!颯真に何が!」

 

「脳にダメージがあること以外は判らないそうよ」

 

脳にダメージ?

 

「そのダメージ自体は軽微らしくて直接的な原因ではないらしいけど……」

 

考えられるとしたら殺生院の攻撃を受けたことによる昏睡、もしくはあの力の代償。

 

「……悪いけど少し外に出てくる。木綿季にも連絡はしたけどまだ知らせてない人もいるし」

 

「あ、ああ……」

 

力なく立ち上がり言葉少なく部屋を出ていくシノンの背中を見送り、点滴を打つために晒されてた左手に触れる。

 

多分、みんなに心配かけないように今の今まで気張ってたんだろうな。お前のことだから、殺生院を殺したから俺の役目はもう終わり、なんて考えてるかもしれないけどそんなことはないからな?

 

憎まれ口も振ってくる微妙に古くさいネタも、お前にはやることがまだあるし、シノンたちのことだってある。全部放り投げてるなんて筋が通らないだろ。

 

「連絡が取れる人には颯真の状態を伝えておいたわ。とは言っても意識不明だってことぐらいだけど」

 

それぐらいしか言えないよな。

原因も判明してないし、目を覚ます目処(めど)もない。

 

まさに八方塞がりで俺たちにできることは何もない。

歯痒くて何もできない自分が嫌になる。

 

ポケットに突っ込んでたスマホが振動し、着信を知らせる。菊岡から?

 

『やぁキリトくん、少しバイトをしてみる気はないかい?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーート。キリト!

 

「…んっ」

 

シノンの声で俺は意識を覚醒させた。

 

「あんた、人の話聞いてた?」

 

少しむっとした顔で尋ねるシノン。

 

そうだった。俺はシノンにGGOで今度行われるBoBに出てほしいと言われていて、エギルの店で待ち合わせた。参加の経緯を聞く折につい最近行われたBoBの話になって……その途中、ほんの少しの間意識が飛んでいたようだ。バイトの疲れが出たのだろうか。

 

とはいえ、俺も何も考えずに聞いていたわけではない。

 

「あ、ああ。BoBに出てたサトライザーって奴のことだろ?シノンを倒して『Your soul will be so sweet』。『君の魂はきっと甘いだろう』とか言ったっていう。もしかしてだけどさ、そいつ本職なんじゃないか?シノンを圧倒した実力とか、その観察眼とか踏まえるとさ。軍人とかかもな」

 

「えっ……観察眼って、まさかあんたも…」

 

「いやっ、俺が言ってるのは戦場を把握する能力のことだから。そもそも、そんないかがわしいことをシノンで考えられるわけないだろ」

 

「当たり前でしょ。もしそんな目で見てたら両目を《へカート》で撃ち抜くから。でも流石に軍人っていうのはーー」

 

とシノンが言いかけたところに

 

「やっほー!シノのん!」

 

俺の彼女でもある結城明日奈がやって来た。

 

明日奈がやって来ることを知らなかった俺は、ひどく驚いたものの、二人の説明に納得がいった。確かに俺一人では心もとないだろう。

 

颯真のこともあるし、本当ならゲームなんかしてる場合ではないんだろうけど、アイツが守ろうとしたのは今まで通りの日常であり、俺たちはそれ応えないといけない。そんな感じがする。

 

アイツは今も病院で眠り続けてる。

菊岡に話を通して国立の病院へ移してもらい、完全な介護体勢を敷いてもらった。自分を磨り減らしながらも殺生院の企みを阻止した対価としては十分だと思う。

 

木綿季は泣いてた。SAOに囚われたときを思い出したらしい。スグが同じ思いを味わった者として慰めていた。

 

一人の人間に多くの人間が振り回され、多くが犠牲になった。守り通せたのはささやかな日常で対価として差し出したのは大事な仲間だった。

 

「―――まぁ、二人とも助っ人として呼んだってこと。二人には大会一月前にコンバートしてもらうとして……あんたの怪しいバイトについて、聞かせてもらいましょうか。」

 

説明を終えたシノンはじっと俺に視線を向けて思いよもらないことを言ってきた。なんでシノンがそれを、と思うもすぐに納得する。シノンはアスナの親友だ。俺がアスナにバイトの話をした以上、伝わるのは当然か。

 

「ラースってとこのSTL、ソウル・トランスレーターっていうBMIーーフルダイブマシンのテストプレイだよ。本体がやたらとデカイ」

 

「へー、じゃあそんなに大きいなら、そのフルダイブマシンは業務用?」

 

「いや、そもそも普通のフルダイブとは別物らしいし、機密保持の為にそこでの記憶は持ち出せないから俺もよくわからないんだ」

 

「は、はあ!?」

 

アスナの疑問への俺の答えに、シノンは思わず叫んでいた。

 

「別物?記憶が持ち出せない?どういうことよ」

 

「うーん、大本から説明するか。量子脳力学ってのがあってな、あのマシンはそれを下敷きに作られたんだ。魂とは何かって、考えたことあるか?ラースはそこに一つの結論を出したんだ。説明すると脳には脳細胞の構造を支える頭蓋骨でもある骨格、マイクロチューブルってのがあるみたいなんだ」

 

「は、はあ……?」

 

「その骨は管状で中に光子、エバネッセント・フォトンっていう量子があって、常に確率論的な揺らぎとしてそこにある。それが人間の心、つまり魂らしい」

 

何を言っているのかさっぱり、といった様子のシノンと考え込んでいる様子のアスナ

 

「……なら、ラースのSTLは人の魂に直接アクセスするってこと?」

 

「まあそういうこと。光子はキュービットって単位のデータで記録されてる。つまり、脳細胞自体が一つの量子コンピュータとも言える訳だ」

 

「ちょっとキリト。私もう無理。限界きてる。」

 

「わたしも……」

 

ついに二人とも白旗をあげた。まぁ俺も正直そこら辺はよく分かってはいない。

アイツならどうだろ。妙に博識というか知識の幅が広いし、もしかしたら理解するかも。いや、脳筋の節もあるし

 

「だよな。まあ話を続けると、ラースはその人間の魂に名前を付けた。それが《フラクトライト》。人間の魂にアクセス出来るから、記憶の操作も可能だと」

 

何やら考え込む二人。少しの静寂の後、アスナが口を開く

 

「……もしかして、STLの世界で見たり聞いたり触れたりしたものは私たちの意識レベルでは本物ってこと?」

 

「そういうことだな」

 

「……信じられないけど、一度くらい見てみたいかも。デザイナーのいない、現実世界以上のリアルワールドを」

 

「実際、そんな世界が創れるわけ?」

 

「うーん……厳しいな。それにはゼロから文明を創る必要があるから……」

 

「それは随分と気の長い話だね。」

 

と、二人はこの言葉を冗談と受け取って笑った。

しかし、いや恐らく

 

「可能かもしれない。仮想世界の中の時間を加速させるんだ。フラクトライト・アクセラレーション、略してFLA。確か今の最大倍率は3倍だったかな……」

 

「ふぅん。なんかやってることが凄すぎて現実味を帯びない話ね。それってどんな世界だったのかな」

 

「覚えてはないけど……確かアンダーワールドってコードネームだった」

 

そこから何か思い浮かばないものか、とキリトとシノンが揃って首を捻ると、アスナが呟いた。

 

「ラースって名前もだけど、不思議のアリスからとっているんじゃないかな。確か原題は『アリスズ・アドベンチャー・アンダーグラウンド』だったかな」

 

「へぇ……キリト、どうしたの?」

 

「うーん。今何か思いだせそうだったんだけどな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんじゃ、シノン」

 

「じゃあね、シノのん」

 

「またねアスナ」

 

日も暮れはじめた頃、俺とアスナは、シノンと別れた。

 

あの二人には黙ったままだけど俺がラースのバイトを請け負った理由は颯真のことに帰結する。脳に直接アクセスできるなら、意識のないアイツを外側からのアプローチで覚醒させることができるんじゃないかと、そう考えたんだ。

 

勿論、後遺症の不確定要素を排してからでなければ、とてもじゃないが実行できない。

菊岡は胡散臭くはあるが、ある程度の実績を積ませることができれば、颯真の回復のために使用するのも(やぶさ)かではないと言っていた。

 

颯真を被験体にするのは気が引けるけど、他に頼れるものもない。藁にも縋るっていうのはこういうことなんだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「和人君!!しっかりして!」

 

ーー朦朧とした意識の中で、その声を聞いた。意識が途切れる直前に俺は、何か言わなくてはと思い、力を振り絞って…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー明日奈、ごめん。

 

 

 

 

 




OS後日談と説明回でした。




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