◇王都アルテア【拳士】ザトー
「さてと、取り敢えずは目的地までの足を探さないとな」
冒険者ギルドからティールウルフ討伐クエストを受けたは良いけれど、テキス村までの足までは考えていなかった。
このゲームでは都市から都市までのワープシステムのような便利システムはほぼ無いらしく、レジェンダリアで発生する現象、通称アクシデントサークルによって偶発的なモノぐらいしか確認されていない。...ジョンスミスの野郎は俺をワープさせていたけれど。
(あいつ本当に何なんだ...?)
...まぁ過ぎたことは考えてもしょうがない。忘れよう。
(馬車や竜車なんてモノが移動の基本と聞いたけれど、そこらへんはやっぱりファンタジーだなぁ)
竜に荷物を引かせて行くとか馬力も凄そうだな、なんて事を考えながら城門前を目指す。
もしかしたら、タクシーみたいな感じで馬車があるかもしれないしな。それを探している所だ。
(しっかし、本当に凄いなここは。現実の人口密度と変わらないんじゃないか?)
辺りを見回しながら先へ進んで行く。
目に入ってくるのは先日と変わらない、繁盛している商業区。
多種多様な武器、防具、食料。必要な物はなんでも揃ってます、とでも言いたげなような商人が露店を構えていたり、少し年が入った男性が無言で鎧などを展示したりしている。
巨大な鉄塊の如き鉄槌やテンプレな騎士が装備していそうな鎧もあるなぁ。
...【拳士】じゃなければ買ったんだけども。
俺の右腕のエンブリオにも困ったものである。ジョンスミスもだがコイツも謎だ。たまに勝手に動いたりするし。
(まぁ、どうせなら【拳士】系ビルドを組んでみるかな。テレビに出てくる正義のヒーローみたいn...嫌、)
...俺なんかに正義の味方プレイなんざ出来る訳がない。何も出来ない自分に。逃げてばかりの自分に。
あの時、女の子を助けようとしたあの兄弟と俺は違うんだ。正義の味方は彼らの方だ。
(...あぁクソ。ダメだ。ダメだダメだダメだ。思い出すな。もう諦めた事だろうが。クソが、ジョンスミスのせいですぐに『あれ』がフラッシュバックする...!)
脳裏に映る光景が、まどろっこしい。
何でゲームをプレイしてるのにこんな気持ちになるんだよ。
脳内の光景を振り払うかのように頭を手で叩く。
(...うん、大丈夫だ。俺はもう諦めた。あれは過去の事なんだから忘れろ俺)
今はクエスト目的地のテキス村までの足探しだ。それに集中しろ。
これはゲームだから楽しむのが一番なんだ。きっと、そうだ。
◇
「さて、ここは...広場か」
縦に長かった商業区を抜けると、そこは円形に広がる大広場だった。
中心に据えられている噴水が背景の城門と合わさり、とても綺麗だ。
憩いの場としても使われているのだろう、商業区、いや、それ以上の人数が此処に集まっていた。
長弓を背に架けているエルフ然としたマスター。紅のモヒカンを持つ世紀末的マスター。小動物を連れて歩いている少年少女達。青のモヒカンを持つ世紀末的マスター。緑のモヒカンをセットした世紀末風味が強い聖職者モヒカン。山吹色のモヒカンをしたバイク乗り。
...いや、大勢のモヒカンと数少ないマトモな見た目の人しか集まっていなかった。
(何でこんなにモヒカンがいるんですかね...!?)
春のモヒカン祭りでもやってるのではなかろうか、などという発想も浮かんだが多分、違う。そんな奇祭は掲示板でも見たことがない。
(そこら辺にいるモヒカンに聞いてみるか...)
流石にこの人数は何かあったに違いない。世紀末要素の塊に話しかけるのはいささか怖いけれども、仕方ない。話を聞いてみよう。
意を決して質問できそうなモヒカンを探す。
...が、
どれも全員怖そうなんですけどー...
それもそのはずではあると思いたい。
だってモヒカンなんて現実では、パンクファッション愛好家ぐらいしかしていないイメージ。俺みたいな普通の人がヒャッハーな人に話しかけるのは少しばかり怖いはず...
(でも、これはゲームだしなぁ。もしかしたら話しかけやすい人も存在するか...?)
そう考えてもう少しだけ探してみる。
そして、
「おっ」
あるモヒカンが目に付いた。
そのモヒカンは光沢のある銀。日光に照らされピカピカと光っており、数多くいるモヒカン達の中でとても目立っていた。
服装は、レザー素材のジャケットに鋲が無数に打ち込まれたテンプレ世紀末ファッション。
その巨体も合わさって、モヒカンの色以外は実に優等生で模範的な世紀末だった。
(あの人にしてみるか)
多分、この異常な状態の当事者だろう。
「あのーすみません。そこのモヒカンさん」
「「「「「「ヒャハ?」」」」」」
俺の呼びかけに狙いのモヒカンさんも振り返ってきた。
...同時に大量の一般的モヒカン達も振り返ってきたけれども。
(しまった。モヒカンの人口密度舐めてた...!)
そりゃ全員モヒカンだもんな!呼びかけたら皆振り返るよな...!
「あっ...そこの銀色のあなたです」
「ん、私かい?どうしたのかな?」
彼の返答は意外と穏やかなモノだった。
口調は世紀末じゃないのですね...。って、今はそんな事はどうでもいい
「何故、こんなにモヒカンの方が大勢いるんですか...?」
「あぁ、これの事か。それはね、私達のクランーー《モヒカンリーグ》アルター支部の皆でクエストに出ることになったからさ」
俺の質問に銀のモヒカンさんは気前よく教えてくれた。
クランで、と来たか。
辺りを見渡してみる。
無数にモヒカンがいると思っていたが、注意深く数えてみると30モヒカン程度はいた。これまた結構な大人数だな。
(...もしかして)
「こんな大量の人が必要って事は、それだけ難しいクエストなんですか」
「おぅそうだとも。なんたってUBMの討伐なんだからね」
モヒカンさんの言葉に、思わず俺の口から「おぉ」と驚きの言葉が漏れる。
予想が的中した。やっぱりUBMだ。
UBM。それはこのゲームでの目玉コンテンツだと言ってもいいだろう。
それは世界に一体しか存在しない空前絶後のボスモンスター達の事だ。
各々がそれぞれに類を見ない能力を保持しており、絶大な力を持っている事で知られている。
討伐MVPにそのUBMの能力を模した装備が特典として与えられる事も特徴の一つだ。
UBM、俺も一度は目にしてみたいものだ。遭遇率自体はかなり低いらしいけどな。
「それは凄いですね...!俺なんて初心者だからまだUBMなんて一回も見たことないですよ」
「はは、UBMはかなりレアだからねぇ。...あぁでも、近頃はUBMが大量発生していると聞くね。もしかすると、君もUBMに出くわすかもしれないな。...まぁ倒せるかどうかは別だけれども」
俺もそれには同意する。UBMはかなりの強敵と聞くから、今の自分ではきっと無理だろう。
...というか、この人が言っていた話は聞いたことがあるな。
「んっ?その話って、もしかして新聞の記事に載っていたアレですか」
「おぉ、それそれ!確か、『近頃はアルターでアンデッドやキメラ型UBMが大量発生中』ってヤツだろう。私も読んだな」
やっぱりそれだ。さっき冒険者ギルドで読んでいたアレだ。
内容としては、UBMの名前や写真がひたすら並べられていた報告書みたいな感じだったな。どの写真もドアップで撮られていて、綺麗で迫力があった。
確か、アンセム・ブラントって【記者】が書いていた筈だ。その人、UBMの写真を撮ってよく死ななかったなぁ。
「俺もあの新聞に載ってた記事関係でクエストを受けたんですよ。ほら、『モンスター大量発生』みたいなヤツの」
「あぁアレか。...私も一回受けたからアドバイスするが、アレは本当に敵の数が多いぞ。雑魚だからといって、油断してたらヤバいぞ」
マジですか。ヤバいのですか。
「え、ホントですか!?」
「あぁ。一匹見たら三十匹いると思うと良い」
「どこのゴキ○リですか!?」
本当にヤバい数だな。クエストを受けた後に思うのも何だが、自身無くなってきたぞ!?
「...覚悟して行きます」
「まぁ、そうした方が良いだろうね。...ふむ」
「?」
俺が少しばかりどんよりしていると、モヒカンさんが俺をジロジロと見てきた。
なんだろう。何か体に付いているのだろうか?
「あのー、何か?」
「いや、君を《看破》してみたが、君はまだ今のジョブをカンストさせていないのか」
まぁ、まだ【拳士】自体は30レベルぐらいだしなぁ。でもそれがどうしたのだろう?
「まぁ老婆心からの小言だが、もう一つ下級職は取っておきたまえ。多分、あの敵の量なら経験値も大量さ。カンスト前のジョブだと少しもったいない、と思ってね」
モヒカンさんから予想外のアドバイスが来た。
どうやら、経験値がもったいないらしい。拳士カンストまで20レベル程なのにそれでも足りてしまうのか。
...ベテランみたいだし、従ってた方がいいかな。悪意も無いだろうし。
「本当ですか!なら、一個だけ取ってみます」
「まぁ、私個人の感想さ。そこまで本気にしなくてもーー」
モヒカンさんの話を遮るように、遠くから声が聞こえた。
声がした方へ目を向けると、広場の壇上にあるモヒカンが立っていた。
俺が話していたモヒカンさんと同じように、模範的世紀末ファッションであるが、彼は燃えるような赤色のモヒカンだった。
拡声器を片手にしきりに大声をあげていた。耳を凝らすと、『出発時間だ』とか『もうそろそろ』といった内容が聞こえてくる。
どうやらこのモヒカン集団が移動するらしい。じゃあこのモヒカンさんとの話も終了か。しょうがない。
「おっと、もう出発するみたいだ。すまないね。最後に変なアドバイスしちゃって」
銀のモヒカンさんも声が聞こえたらしく、時計を確認しつつ別れを切り出してきた。
「いえ、こちらから質問してきましたし。教えてくれてありがとうございました。後、アドバイスも」
俺の言葉を聞いてモヒカンさんがモヒカンの集団に合流して去って行く。
側から見ると異様な光景だなぁ。...ってそういや名前聞いてないな。
「あのッ!すみませんが、名前教えてくれませんか!俺、ザトーっていいます!」
離れていく彼の背中に声をかける。すると彼は、
「私の名前はタフガイさ。機会があったらまた会おう。ザトー君」
手をひらひらと振りながらそう答えて、広場を後にした。
三十秒後にはもうモヒカンの姿は広場に一つも見えず、さっきの異様な光景が嘘だったかのようだ。
何故か、広場からは少しだけ寂しげな感じがした。
(タフガイさん、いい人だったなぁ。見た目は世紀末なのに紳士的な方だったなんて最初は思いもしなかったのに)
リアルでも良い人そうだけど...現実のアレコレを考えるのはマナー違反だよな。
「さてと、馬車探すのも良いけれど。タフガイさんのアドバイス通りに動いてみるか」
俺に合うジョブってあるのだろうか。ダメで元々だけど探すか
(でも来た道戻るのは少し面倒くさいな)
まぁ仕方ないか。
◇
◇王都アルテア西城門前【斥候】ザトー
(適当に選んだけど、これで良かったか...?)
ジョブクリスタルまで戻り、取ってきたジョブは...武器が要らない、汎用的なジョブだった。
...他のジョブも考えたのだけれども、武器を買うお金が無かった。雑魚は倒してきたけれど、金は消費アイテムの補充でスッカラカンだったし。
最初の弁償代が予想以上に響いている。これじゃどうあがいても【拳士】系統ジョブとその他しか取れないぞ。
おのれ俺の右腕、何で中二病でもないのに『くッ!鎮まれ俺の右腕!』みたいな事をしなければいけないんだ。
(まぁ、仕方ないか。...そういや名前で選んだからスキル欄確認してないな)
突発的なジョブ取得だからウッカリしていた。急いでメニューを開き、ジョブウィンドウを開く。
「えぇーと、なになに。...ステータス傾向は、AGIがギュンギュン伸びて他はSPぐらいしか上がらないのか」
自分の防御力は紙だったからEND上昇が欲しかったのだけれど、これだと当分先になりそうだ。
「じゃあスキルは、っと...これは中々に良いモノで」
スキル欄には三種類のスキルが表示されている。が、どれもまた便利そうなモノだった
まずは《看破》だ。これは他人のステータスや偽装されたアイテム・ステータスなどを見破ることが可能となるらしい。相手によっては聞かない事もあるらしいが、まぁそんな強敵とはまだ会ったことも無いから考えなくてもいいか。
二つ目、そして三つ目は《殺気感知》《危険感知》だ。どっちもスキル所持者に危険が迫ってきているのを事前に教えてくれるスキルなのだと。耐久が紙の俺にはこっちも有難いモノだ。
...俺のエンブリオは逃走専門だから、なおさら相性が良いな。少しだけ気分が沈むけど。ハハッ。
「まぁ、俺にはピッタリなジョブが運良く取れた事は良しとしよう。タフガイさんにも感謝しないとな」
タフガイさん、無事にUBMが狩れてれば良いが。
「...さて、城門前だけれども貸し馬車あるのか?」
マップを開いて確認して見る。ここは王都なのだから、そんな店が一つや二つあっても良いはずだけど。
「おっ、あったあった。ここから近いな」
地図上で探すと、貸し馬車の店が何軒か見つかった。良かった。これなら徒歩で村まで行くことも無さそうだ。
いやー俺も運が良いな。こうもあっさり目的が見つかるなんて。
◇
「えぇ!?全部の馬車を貸してる!?」
「誠にすみませんお客様。生憎、そのような状況でして」
訂正。俺は運が悪かった。結構大きめな店を選んだのに、全部貸し出されてるとか聞いてないですよ!?
「えと、何でか理由を聞いても?」
「...実は、あなたみたいな駆け出しのマスターさんが最近、大量にいましてですね、村々までの交通手段を持っていないから、こうして当店まで足を運ばれておりまして...」
最近のモンスター大量発生の記事を見て、稼ぎ時だと判断したプレイヤーが 俺以外にもこんなにいたのか!?流石にそれは予想外なんですけど!?
「ここで聞くのもなんですが他の店とかは...?」
「恐らく、当店と同じような状態の店がほとんどかと...。高級志向の所などは、まだ残っていますが、お客様の予算的に厳しいかと」
「そんなぁ...」
俺、徒歩で行かなければいけないのか。現代人にそれはキツイですよそれは...!
「すみません、有難うございました...」
マジかぁ。歩きかぁ。一体何時間歩けばテキス村に着くんだ...。
そんなドヨンとした気持ちが胸に広がってくる。
「最悪だ...」
そんな言葉を吐いて、店を出ようとしてーー
「君、良かったら乗せて行こうか?俺も西方面に用事があるんだ」
誰かに声を掛けられた。声色からして男のようだった。
声がした方向へ、振り返る。正に、降って湧いた助け。棚からぼた餅だ。
そんな有り難い人を見てみると、
「バイクだから二人乗りになるけれど、良いかな?君が良いのなら乗せてくが」
ーー胸が、じくりと痛んだ。
彼の姿がグロテスクだった訳じゃない。明らかに悪人面をしている訳でも無かった。
むしろ、その逆。彼の姿はとても、とてもとても...ヒーローの様だった。
テレビの中のヒーローが被っていそうなツルリとしたヘルメットと、それのデザインと似合っている、ヒーロースーツに似た鎧。
とても、彼に似合っている装備だった。
「あぁ、名前がまだだったね。俺の名前はーー
俺の心にその姿はよく響いた。だってそれは、
「ーーライザー。【疾風騎兵】のマスクド・ライザーだ」
俺が憧れて、諦めた、ヒーローの様だったから。