魔王様のケモミミニューゲーム   作:A i

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第七話です。
まず、すみません!
この過去編二話で完結する予定だったはずですが、三話で完結になってしまいました!
しかも文章の量が多めになっています。
バトルの描写を頑張っていたらこんな感じになってしまいました。
申し訳ない。
でも、頑張って書いたので楽しんでくれると嬉しいです。
では、どうぞ!


蠢く闇 中編

「お元気ですかぁ?」

そう言って、怪しげな笑みを浮かべるザーテュルのその様は私に恐怖を抱かせるには十分すぎるほどおぞましかった。

片目がないばかりかそこには黒々とした何かが渦巻いている。

いや、黒よりも尚濃い黒。

言わば、闇そのものの色とでも形容するしかない漆黒によって彼の片目は覆われているのである。

これで恐怖を抱かない者の方がおかしい。

 

私以外の三人も私同様に言葉をなくし、唖然としている。

 

すると、ザーテュルは黒板をひっかいた時の音のように不快な引き笑いを溢した。

「キヒッ!みなさーん?どうされたんですかぁ?」

手を叩き楽しそうに笑うザーテュルはどこからどうみても狂っている。

私は身震いした。

嫌悪感と恐怖。

それらがない交ぜになった感情の奔流が私から言葉を奪っている。

「お前のその目はなんなんだ?」

すると、さすがアルフレッド隊長。

誰よりもはやく立ち直り、敢然と敵を見据えている。

彼の眉間にはしわが寄り、ザーテュルを嫌悪していることがうかがえる。

だがしかし、嫌悪の視線を向けられた当人は依然飄々とした様子でこちらにイヤラシい笑みを向け、余裕たっぷりな口調で言った。

「あ、この目の事ですか?これはですねー、さるお方との契約の証とでも言いましょうか?まあ、そんな感じですよ?キヒッ!!」

引き笑いでごまかしたザーテュルであったが、私たちからすればここにはかなり重大な情報が含まれていた。

――「さるお方」や「契約の証」といった単語から推測するに、こいつの背後にはさらに強力なご主人とも言うべき存在が控えている可能性がある上、更に言えばもしかしたらこいつらが今回の巨人族襲来に一枚かんでいることも考えられる。

それは大いに考えられることであった。

そして、もう一つ。

私がずっと気になっているガーディ副隊長が殺されたあまりにも強い巨人についてだ。

さきほど見たアルフレッド隊長と戦った巨人は強かったのは強かったし、脅威と言えば脅威だが、ガーディ副隊長がやられたあの巨人ほどではなかった。

まず、見た目からして全然異なったのだ。

頭には曲がりくねった角が二つ生え、肌は赤黒く、動きが俊敏。

あまりにも速いその動きに、10メートルを超える巨体が合わさればそれだけで殺戮兵器だ。

事実、ガーディ副隊長も巨人の攻撃を直接受けたのではなく、倒壊した建物の下敷きになり亡くなってしまった。

運良く生き延びた私はそのときアルフレッド隊長のもとに走ることで精一杯だったが、今考えてみると不可思議な事だらけだ。

まず、巨人族の肌は緑色であり、角なども生えない。

そして、なによりも、その巨人の片目。

その片目がザーテュル同様漆黒に覆われていたのだ。

あまりの恐怖と混乱で忘れていたが今になってそんな重大なことを思い出した。

これらを考えると、あの巨人とザーテュルはなにか関連性があると考えるのが自然であると思われる。

もしかすると、あの契約の証たる漆黒の渦は強化系の魔法なのかもしれないな。

だが、ザーテュルの言葉は曖昧で、これらの考えはすべて推測の域をでない。

結論を早まればいらぬ思い込みが生じ真実が見えなくなる。

私はそこで思考を打ち切り、戦闘に集中し出す。

 

しかし、そんなあまりにも要領を得ないザーテュルの言葉に、苛立つ人物がいた。

「誰なんだ!そのさるお方っていう奴は!はっきり言わないか!」

もちろんアルフレッド隊長である。

もはやぶち切れ寸前といった感じに私の目には映る。

仲間の自分でさえ怖い。

「キヒキヒ!!いやあ、隊長さんの顔怖いですねえ。ちびってしまいそうですよぉ。キヒ!」

のらりくらりと隊長の言葉を躱し、明言を避けるザーテュルはいかにも楽しげに笑い、その言葉とは裏腹にアルフレッド隊長の鋭い視線など全く意に介していないように見える。

隊長はギリリ!とここまで聞こえるほど大きな歯ぎしりをならしたかと思うと、ドスのきいた声で叫んだ。

「おい、あんまり調子に乗ってるとその首すっ飛ばすぞ!」

「キヒヒ!!おお、怖い怖い。やっぱり隊長さんともなると怖いですねぇ・・・・・。」

フッとそこで今までのイヤラシい笑みが消え、猛烈な殺意のこもった声で言った。

「でも、調子に乗っているのはあなたの方だと思うんですねぇキヒッ!」

私はその声を聞いた瞬間、背筋にゾクゾク!と悪寒が走り、体が硬直するのを感じた。

――こいつは危険だ!

体中がそう叫んでいるのが分かる。

汗腺からは汗が噴き、心臓が早鐘のように鳴り響いている。

私はザーテュルの放出する殺気に恐怖してしまっていた。

 

しかし、見れば、歴戦の三人は誰一人恐怖していない。

アルフレッド隊長はいつでも抜刀できるように柄に手を添え、ザーテュルの一挙手一投足に注意を払っているし、ヴァンさんもサーシャさんもまったく気を緩めず、いつでも動けるように体勢を整えている。

百戦錬磨の彼らにはこれぐらいの殺気はそよ風のようにでも感じられるのだろうか。

揺らぎのない彼らの姿をみると、少し気分が落ち着いてくる。

 

すると、ザーテュルの言葉を聞いたアルフレッドさんは口元にどう猛な笑みを浮かべつつ言った。

「かっこいい台詞を吐くのは別に構わない。」

アルフレッド隊長はコンコンと剣の柄を中指で叩く。

「だけど、忘れるなよ?お前はすでに俺の間合だ。」

「え!?」

思わず私は声を上げて驚いてしまった。

私はあまりにも遠すぎるのではないかと思ったのだ。

まだ敵との距離は優に20メートルはある。

それに対して、体調の長剣は長いといえど1メートルより少し長いぐらい。

腕との長さを合わせても届くわけなどない。

「アルフレッドさんの得意技は猫の爪って言われてるんだ。」

声のした方に顔を向けるとそこにはヴァンさんがいる。

「猫の爪?」

私は少し間の抜けた声でそう聞くと、ヴァンさんが優しそうにうなずいて言った。

「うん、猫の爪。猫っていつもは肉球でプニプニした足の裏してるけど、いざとなったらニョキッと爪を伸ばすでしょ?」

「あ、はい。確かに・・・。」

確かに猫は指の爪を出し入れできる。

「それと、同じようにね、アルフレッドさんの剣も伸びるんだ。」

「剣が伸びる!?」

そんな剣聞いたことがない。

私は驚きのあまり声を上げて驚いてしまう。

すると、ヴァンさんが苦笑を漏らす。

「ああ、いや言い方が悪かったかな。正確には剣が伸びたように見えるということかな。」

「伸びたように見える・・・。」

私がぼんやりと呟くと、ヴァンさんはニヤリと勝気な笑みを浮かべて言う。

「そう。アルフレッドの剣は伸びたように見える。どういう原理か分かるかい?」

「そりゃ、魔法じゃないんですか?」

私が思いつきにそう言うと、ヴァンさんはこちらの返答を待ち構えていたのか、嬉しそうに答える。

「そう思うだろ?でも、実は違うんだ。彼の剣速があまりに速いために生じるかまいたちなんだ。」

「かまいたち・・・!?」

そんな魔法を使わないでそんな超常現象じみたことが可能な人間がいるなんて。

「信じられないだろ?でも、実際アルフレッドさんはやってのける。だからこそ、この国最強の称号を得ているんだよ。他の誰もまねできない芸当だからね。」

誇らしげにそう語るヴァンさんの瞳はキラキラと輝いていて、本当にアルフレッドさんを慕っているのだなあ、と感じさせられるのに十分なものだった。

 

では、さきほど、間合に入っているといったからには、その猫の爪、とやらは一体どれほどの射程があるのか。

「じゃあ、その射程は?」

「50メートル。」

「50メートル!?」

私は驚きのあまり素っ頓狂な声を上げてしまった。

「驚きだろう?遠距離魔法でさえも50メートルの射程をもつものはそう多くない。それだけでも、かなり有力な技なのに、それに加えて威力も桁違いに大きい。あいつはまさに最強のバトルマシーンだよ。」

さっきの巨人を倒したときの斬撃もとてつもなかったがあれ以上にすごいとなるともはや想像がつかない。

私は畏怖の念に駆られ、身震いした。

 

敵と対峙するアルフレッド隊長の全身からはエネルギーが迸る。

そこの空気に触れればピリリと電撃が走りそうだ。

もはや、アルフレッド隊長がこの場の空気を支配している。

少しでも動けば彼の“猫の爪”の餌食になる、と感覚が告げ、不用意に動くことができない。

――これがアルフレッド隊長の殺気・・・。

この国最強の殺気。

 

これにはザーテュルも萎縮しているのではないか。

だが、そんな淡い期待を抱いていた自分の甘さを呪った。

ザーテュルは笑っていたのだ。

「キヒヒヒッ!良いですねぇその殺気。私を殺すことしか考えていないその眼。実に良い・・・。」

舌なめずりをしたザーテュル。

あまりにも長いその舌がなめ回した口の周りはテラテラと怪しく光っている。

「しかし、これを見てもそんな顔ができますか?」

ザーテュルはそう呟くと、キヒヒ!と引き笑いを溢した。

その瞬間、グジュッ!!という音と、漆黒渦巻く片目に手を突っ込んでいるザーテュルの姿が視界に飛び込んできた。

「・・・・な!!」

あまりに強烈な光景に私は気分が悪くなり口を押さえる。

だが、当のザーテュルはキヒヒヒ!と不気味な笑みを浮かべて恍惚とした表情を浮かべている。

「キヒヒヒ!!さあさあ、おいでませおいでませ。私の可愛い赤ん坊。私の愛しい子供達。」

節を付けて、謳うようにそう呟くザーテュルの手からしたたる黒くどろどろとした液体が彼の足下に広がっていく。

すると、その液体は次第に紫色の燐光を放ちだし、魔方陣を描き出す。

「マズイ!!!」

アルフレッドさんがそう短く叫び、長剣を抜刀。

一瞬の煌めきと耳をつんざくリイン!という音とともにかまいたちがザーテュルへと放たれる。

――スゴイ!あれが猫の爪!!

目の前の大地が裂け地割れのようにザーテュルへと向かう。

あんなものを喰らえば、並の人間であればひとたまりも無い。

しかし、こちらに見向きもせず歌い続けるザーテュル。

――イケる!

私は心の中でグッと拳を握った。

そのとき。

「ぐぉおお!!」

二体の巨人が雄叫びを上げて、ザーテュルの盾となった。

一体は前、もう一体は後ろに並び、アルフレッド隊長の猫の爪を阻もうとしている。

普通に考えて、ただの斬撃であの巨人の巨躯を切り裂けるはずはない。

しかし、アルフレッド隊長の猫の爪はあっけなく前にいた巨人を両断した。

「ぶるぅうおぉぉ・・・。」

哀しげな声を上げて倒れゆく一体の巨人。

しかし、猫の爪は尚ザーテュルへと向かう。

もう一体の巨人は両腕を前に突き出し、大地切り裂くかまいたちを迎え撃つ。

巨人の腕にかまいたちが食い込み切り裂いていく。

体液が飛び散り、腕が吹き飛ぶのが見える。

巨人の分厚い胸板をかまいたちは切り裂いていく。

だが、一体目によって威力が減衰されていたのか切れ味が先ほどよりも見劣りするのは明らかだ。

ザーテュルの儀式はもうすでに完成しそうに見える。

――間に合え!!

私は心の中でそう祈り両手を組んだ。

 

しかし、その祈りは虚しく散る。

アルフレッド隊長の放った猫の爪は二体目の巨人の胸板によって阻まれ両断には至らず。

「ぶおおぉぉぉ・・・。」

二体目も力尽き地面に伏すが、ザーテュルは依然健在だ。

「なら、もう一発・・・!!」

「完成だ。」

アルフレッド隊長の声とほぼ同時にザーテュルの声が重なる。

すると、その直後魔方陣から怪しげな光の奔流が生まれ、私たちの視界を染め上げていく。

「クッ・・・。」

大気を揺らす光の奔流に私は手をかざし、目を細める。

「キヒキヒヒヒヒ!!!」

不気味な笑い声がこだまし、光の奔流も止まった。

だが、妖気のように何かがこのあたり一帯を覆っているように感じる。

私はかざしていた手を取り払った。

「な・・・!!」

私は愕然とした。

そこには、大量の兵士がいたのだ。

彼らはゆらゆらとおぼつかない足取りでゆっくりとこちらに近づいてくる。

まるで、ゾンビのようだ。

それに、ザーテュルの後ろにはあの赤い一つ目の巨人がいる。

ガーディ副隊長が殺された巨人だ。

「お前、死霊術士なのか?」

アルフレッド隊長がそう聞くと、いかにも楽しそうな表情になったザーテュル。

「ええ。ええ。そうなんです。キヒヒヒ!私、死霊術士。いわゆるネクロマンサーなのでーす。キヒヒ!!」

 

ネクロマンサー。

死と生を司る、高等闇魔法「ネクロマンス」を得意とする術士だ。

しかし、「ネクロマンス」は禁術とされている。

というのも、並の魔法とは比べものにならないほどに難易度が高く、さらに危険度も高いからだ。

代償として、腕の一本や二本はざらに持って行かれると聞く。

そんな高等魔法をサラリとやってのけたザーテュル。

私はその事実だけで背筋が凍った。

 

ヴァンさん、サーシャさんも驚き、戸惑っているようだ。

だがアルフレッド隊長だけは違った。

激高していたのだ。

「許さん!!兵士の命を弄びよって!!絶対に殺す・・・!!」

「キヒヒヒ!!そんなに怒らないでくださいよぉお!!あなたへのお土産もあるんですからぁ。」

「お土産・・・・だと?」

「ほい。」

ザーテュルが指をパチンと鳴らすと、魔方陣からぬるりと立ち上がる姿がある。

その姿を確認した瞬間、私は短く叫んでしまった。

「あ・・・!」

「ガーディ!!」

そう。

そこには、ガーディ副隊長の変わり果てた醜い姿があった。

死体をそのままネクロマンスしたのだろう。

あちこち、肉がただれ鮮血がしたたっている。

これほどまでに残酷な仕打ちを私は経験したことがなかった。

人との絆をこれほどまでに惨たらしく利用する者を初めて見たのだ。

誰もが震撼していた。

この狂人ザーテュルに。

だが、ザーテュルはわたしたちの反応を見て心底楽しんでいるようだ。

「キヒッ!!キヒヒ!ほぉおら、懐かしの副隊長ですよぉお?会いたかったでしょう?」

スキップでもしそうなほど体を上下左右に揺さぶりそう尋ねてくるザーテュル。

視線を地面に落としているアルフレッド隊長が小さく呟いた。

「お前・・・・。」

「はい?なんです?」

耳に手を当て、挑発的に問い返すザーテュル。

いかにも馬鹿にした仕草。

そんなザーテュルの反応に、アルフレッド隊長はキッと視線を上げてこう叫んだ。

「お前は絶対殺す!!」

と同時に、抜刀。

リイン!という金属音が鳴り響いたと思った時にはすさまじい勢いで猫の爪が幾つもザーテュルに襲いかかっている。

「おやおや。冷静さを欠いた攻撃・・・。」

そう呟いたザーテュルはあくまで落ち着いていた。

「レベッカ・・・私を守りなさい。」

「ぐぉおお!!」

それまで後ろに立っていた赤い一つ目の巨人が驚異的なスピードで動き、隊長の猫の爪を受け止める。

バァアン!という衝撃が大気を揺らす。

「なに・・・無傷だと・・・?」

「キヒヒヒ!!残念でしたぁ。」

ザーテュルはもう耐えきれないとでも言うように、腰を折り曲げて笑う。

「キヒッキヒキヒヒヒ!!この子はその程度の攻撃では死にませんよぉ。なぜなら、私の魔力をこの契約によって分け与えています。」

そう言って漆黒に染まる片目を押さえるザーテュル。

やはり、あの片目こそが契約の鍵になっているようだ。

そして、まだザーテュルは言葉を続ける。

「それにこの子は巨人ではありません。」

「巨人じゃない?」

アルフレッド隊長の問いかけを聞くと、ザーテュルは大仰に腕を広げて、高らかに叫んだ。

「そうですよぉ。この子はなんと、鬼の遺伝子を巨人に植え付けた、言わば鬼と巨人のハーフなんです!!」

「な・・・・!!」

 

鬼。

それは伝説として言い伝えられている種族であり、人間による太古の討伐戦で滅ぼされたとされる戦闘種族である。

彼ら鬼は、堅く赤い皮膚を持ち、角を持つ。

筋力、魔力ともに膨大な量を持っていてその戦闘力は計り知れないほどに大きかったようだ。

だが、当時最強を誇っていた勇者によって絶滅させられたと聞いていた。

それがよもやこんなところで出くわそうとは。

一同驚愕の事実に呆然と立ち尽くしていたが、一人飛び出していく姿がある。

「何が鬼だ・・・。叩ききってやるだけだ!!」

「アルフレッド!!」

サーシャさんが呼び止めるが、それに応じず、飛び出してしまうアルフレッド隊長。

両手を長剣の柄に添え、低く駆けていく。

敵の大軍との距離を稲妻のごとく駆け抜けると、全身の膂力を振り絞った渾身の一撃を繰り出した。

「はぁあああ!!」

ガキィイン!!

猛烈な金属音があたりをつんざく。

見ると、アルフレッド隊長の神速の一振りを、細く流麗な剣が押しとどめている。

「ガーディ・・・!!」

そう。アルフレッド隊長の剣を阻んでいたのは、他でもない元副隊長ガーディ・コニッチ、その人だった。

あの隊長の剣をがっちりと受け止め、まったく押しまけていない。

だがしかし、そのガーディさんの瞳は虚ろで何者も写してはいなかった。

 

「逃げろ・・・。」

「え・・・。」

私はすぐ隣から聞こえた声に顔を向ける。

「はやく逃げろ、と言っているんだ!!」

ヴァンさんが今までに見たことのない険しい色を浮かべた瞳でこちらを見つめていた。

「でも・・・!」

「でも、ではありません!!」

今度はサーシャさんが叫ぶ。

「あのネクロマンスされた兵士だけで軽く百人はいる。その上、鬼もどきまでとなると、とうていあなたを守りながら勝てる相手ではない!!」

サーシャさんも声を荒らげる。

だが、ザーテュルは目敏くそんな私たちのやりとりを見ていたようだ。

「誰も逃がしませんよぉ?いけ!レベッカ!!」

「ぐぉおお!!」

ザーテュルの一声で、鬼もどきが動き出す。

あの巨躯からは想像も付かないスピードでこちらへと走ってきていた。

このまま押し問答をしている場合ではない!

「早く!!」

サーシャさんの声に私は「はい!!」と短く答えて駆けだした。

後ろを振り返ると、アルフレッドさんはガーディさんと激しく剣を打ち合い、ヴァンさんとサーシャさんは私を逃がすために、巨人を押しとどめ、時間を稼いでくれている。

 

嗚呼!逃げることしかできないなんて自分はなんと情けないのだ・・・!

自分の力のなさが呪わしい。

あまりの悔しさに涙がこぼれそうになる。

だけど、歯を食いしばり、それを押しとどめる。

ここで涙を流すわけにはいかない。

涙を流すのであれば無事みんなが生還したそのときだ。

 

私は三人に祝福があらんことを必死に祈りながら、マーガレットさんのお宅へと急ぐのだった・・・。

 




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