第2話 夜のスパーリング
□皇都小闘技場 【悪魔戦士】ローガン・ゴールドランス
闘技場を出た後、ミックの提案でこの小闘技場に来ていた。
あの発言はどうやら、闘技場で一回模擬戦闘してみたいということだったらしい。
大闘技場は決闘ランキングを争うメイン決闘や特殊競技に使うのが基本で、使わない時間帯も教導訓練等しか使う事が出来ない。
あの後大闘技場を使って模擬戦闘をすることは出来ず、そもそもあの後は決闘ランキングの7位と9位の地位を懸けたランキング戦が行われるらしい。もっともそのことはあのあとミックに教えてもらっただけではあるが。
そのため模擬戦闘を行うために、この皇都十一番街にある小闘技場にやってきたというわけだ。
小闘技場で模擬戦闘ができるといってもいつも空いているわけではなく、イベントや試合が組まれていることが多いという事だが、3つの小闘技場でローテーションを組んで一日に二時間以上は自由に使えるように予定を組んでいるらしい。
深夜にもイベントが組み込まれているあたり、いろいろときついスケジュールなのかもしれない。アルター王国の1/4しか小闘技場が無いからな。
いまはその空いている第二小闘技場の一ブロックを、お互いに半分ずつ出し合って5000リルでレンタルした。誘っておいて全額出さないんだな。
「悪いなローガン、俺も金欠でさ。この前いい武器が売っていたから後先考えずに買っちまってな」
「それに関しては……まあ仕方がない、金がそれほどないとはいえそこまで使う予定も無かったからな。それでなんでいきなり俺と戦おうなんて思ったんだ?今日の教導で一回闘ったが、お前の勝ちだっただろう」
とはいっても俺はジョブのスキルもエンブリオも使っていなかったし、ステータスが格段に劣っているのは確実だった。
なんでもありで戦えば俺の方が勝てるとは思うがな。
「あっはっは。ローガンお前全然そんなこと思っていないだろ、【悪魔戦士】がどういったジョブなのかは知らないけど、エンブリオもジョブのスキルも使わずにステータスだけでごり押しして勝ったなんて喜べねぇよ」
「っち、わかってしまうか。ああそうだ、確かにステータスは遥かに劣ってはいるだろう、だがスキルを駆使した戦いで一方的に負けるとは思わん。むしろ俺が勝つだろう」
「っは、よく言うねえ。最初は普通のガキだと思ったらとんでもない自信家だったのか、まあ自信が無いよりあった方が全然俺の好みだぜ、おどおどしたやつと戦いたくなんかないからな」
戦意に満ちた顔でミックはそういったかと思うと、顔を綻ばせて笑いながらいう。
「それにしてもローガン、自信家の割にはよく初日に中央広場で四つん這いになっていたな」
「は?何を言って……ああっ、きさ……お前なんでそのことを知っている!!」
「くっくっく。やっぱり気づいていなかったんだなローガン。一応俺たち初日に合っているんだぜ、まあお互いにちらっと見ただけではあったし気づいていなくても仕方ねーか。俺は四つん這いのインパクトがでかくてはっきり覚えていたけどな」
「あっ主様は望んであんなことをしていたのではありません。好きでやっていたように言わないで下さい!」
ルンペルシュティルツヒェンのフォローになっていないフォローは気にせず、ミックの言葉を聞いて過去を探る。
あの時は周囲を見る余裕はなかったから気がつかなかっただけかもしれないが……と、ふと思い返してみれば確かにいた。
あの時確かに赤髪の少年、ミックが確かに居た。
「ミック、お前は確かレオンのフレンドだったな」
「せーかーい。そ、俺とあいつは同じスクールのメンバーなんだなこれが。まあ他にも一緒にやっている奴が二人いるけどな」
「同じスクール?どう見ても同年代とは…ああキャラメイクか」
「そうだぜ、まあどっちがどうキャラメイクしたかは秘密だ。リアルバレしたくないからな」
そうかミックとレオンは友人だったのか、意外と世界は狭いな。
それと……と言いながら、ミックは片目をつぶりルンペルシュティルツヒェンの方に親指で差しながら聞いてくる。
「やっぱり、そこのシュテルはローガンのエンブリオだよな。俺の《看破》スキルは……まあ高いし、隠蔽できるとも思わないからな」
「やはりばれていたか、想定はしていたがな。それで、シュテルが俺のエンブリオだとわかってどうするつもりだ」
その言葉を聞き、ミックは再び戦意をむき出しにして笑う。今度はおかしくて、ではなく戦意による高揚によって。
「だから闘おーぜローガン。スキルばらせなんて野暮なことはいわねぇ、だけど力隠して闘おうなんてするなよ。全力全開手加減なしで力ぶつけあおーぜ」
……なるほど、そういうことか。
脳筋、というよりは戦闘狂か。
だが腕試しと言うなら好都合だ。
『主様、彼の申し出を受けるのですか?』
『ああ、受けて損はさほどないだろう、むしろこちらの血肉になる。だから――』
「いいだろう、ミック・ユース。その挑戦を受け取ろう、だが完膚なきまでに敗れ果てても俺は知らんぞ」
こちらも挑発して、ミックの挑戦を受け取る。
ミックは俺の返答を聞くと、装置をいじり不透過設定にする。
どうやらミックは装置の操作方法について、あらかじめ聞いていたらしい。
お互いに15メテル程度離れる。
「それじゃ、行くぜローガン。コイントスで地面に落ちたらスタートでいいな」
そう言いアイテムボックスから1リル金貨をとりだし指ではじく。
さあ、行かせてもらおうか――
◇
キィインと音がなる。
地面に金貨がぶつかる、戦闘の合図。
その音を聞き、俺もミックも同時に動き出す。
ミックは剣をとりだして、俺に近づき。
『チームSAE』
「“地獄より来たれ、三位一体の小さき悪魔”《コール・デヴィル・チーム》」
召喚の呪文を唱えながら、後方へ全力でバックステップしながら剣を全力で横に振る。
お互いの剣と剣がぶつかる音と衝撃を手に感じながら、初撃をやり過ごせたことを確信する。
「っち、やっぱこれで終わってくれないか」
当たり前だ、そんな簡単にやられはしない。
初撃を当てられなくて少し悔しがるミックの声と、これでなくちゃという思いを込めた戦意に満ちた顔を傍目で見ながら、バックステップで崩れた体制をすぐさま取り戻す。
前まではこんなことは出来なかったが、教導の成果というやつだな。まあ受け身と起き上がりを重点にさせられただけともいえるが。
そして召喚の効果が遅れて現れる。遅延したというのではなく、発動から悪魔が泡から出てくるのに3~5秒ほど掛かるせいである。
出てきたのは《チーム》の悪魔3体。
今回は悪魔の召喚数を対象としておらず、ポイントにも振っていない。
強化したのは《チーム》のステータスのみ。STR・AGI・ENDの物理ステータス3種目を3倍化している。
この選択をした理由は単純明快。数は後から増やせばいいし、召喚時間は短くても問題ないし、ポイントは消費を気にする必要が無いこの結界内なら捨て置ける。
「ミックを倒せ、悪魔共」
「はあっ?悪魔を呼び出したのか。なるほどなそれが【悪魔戦士】のジョブスキルってわけか」
《チーム》の悪魔たちが動き、ミックに攻撃する。
だがミックもそれでやられてくれるわけも無く、攻撃をかわし剣で防ぎ、カウンターを仕掛けて悪魔たちのHPを削る。
「っち、結構硬てーな。1体1体が俺のステータスの半分くらいか」
半分……か。こいつが《看破》を高レベルで持っていて、召喚した悪魔のステータスを見ることができるなら、こいつのステータスは300くらいか。
まずいな。
STRが300というのはまだいい。これが高くても技巧が拙なければ問題はそこまでない。
だがENDが高いとダメージが与えられず、AGIが高いと攻撃を与えるのが難しい。
召喚した悪魔たちに関しては《ボムトルーパー》で解決することができるのでまだいい。
《ボムトルーパー》はあの程度のENDを削りきり、ミックとおそらく同程度のAGIを誇る。
だが問題は本体である俺の存在。
俺の現在のAGIは50程度、ミックの1/6しかない……が、速度差は別に6倍ではないのは救いか。とはいえ、俺より体感速度は2~3倍にはなるはずだ、悪魔たちのステータスでごり押しできるかどうかはわからない、その速度差はどうにかする手を考えなければならないな。
『それなら、ボムトルーパーNA-0』
「ならこいつだ」
「”地獄より来たれ、身を賭して散る儚き悪魔”《コール・デヴィル・ボムトルーパー》」
動いたのは同時だった。ミックはバックステップしながら武器を双剣から銃に《瞬間装備》し、俺はポイントを節約するためにポイントと召喚数・AGIを対象とした《ボムトルーパー》を呼び出す。
そして、呼び出しておいた《チーム》の悪魔たちが泡と化して雲散霧消してしまう。
《チーム》が消えてしまった理由は、《偽証》の特性によるものである。
2日目におこなった実験の一つで、まったく異なる悪魔召喚スキルを別々に設定した《偽証》を用いると、最初に召喚した悪魔が消えてしまう仕様のようだ。
《偽証》がポイントのみで、ステータスや召喚数なんかをいじってなかったり、同じ召喚スキルなら消えないようだが、例外もあるようでいまいち基準が良く分からない。
「俺狙いか」
「ご明察。悪魔を倒しきるのも不可能じゃねーが、追加で呼ばれ続けるとじり貧になりかねないからな。さっきの悪魔を消して新しく呼んだのは【悪魔戦士】の制約かね、わざわざ消す必要なんてねーし別の悪魔を出すためにはリセットする必要があるのか。んで、新しく呼びだしたこの悪魔はなんなのかね、さっきの悪魔よりステが馬鹿たけーし変なスキル付いてるし数は増えてるし、何だよこれ」
《看破》で召喚された9体の《ボムトルーパー》のスキルをみてそう言いながら、俺に向かって銃を発射してくる。
このAGIだと銃弾を見きって避けるなんてのは夢のまた夢、銃弾を切るなんてのはもっての外。
避け続けるのが不可能なら隠れるしかない。俺はミックと自分の延長線上に《ボムトルーパー》の悪魔1体を動かし射線を隠す盾とする。
そうしながら、今回の《ボムトルーパー》召喚で温存しておいた、指定箇所一カ所分をしようして初となる『支援魔法』を発動する。
「《エンチャント・デヴィル・アジリティ》」
これにより《ボムトルーパー》のAGIは30%アップする。
1170ものAGIを得た《ボムトルーパー》は俺の盾役と保険の1体を除き、7体の悪魔がミックをしとめようと動く。
このAGIは俺とミックとの間の体感速度が2~3倍程度であるように、ミックと 《ボムトルーパー》との間の体感速度もまた2倍になる。
ミックの速度では回避も逃亡もできない、高速の狩猟者。
だからミックは勝つために一つの手を打つしかない。すなわち―
「俺より早いのがこんなに出てくると嫌になるぜ、しくったなこれなら銃なんて出さずに剣のまま戦い続けた方が良かったか、まあこのままじゃ死ぬしガンカタと行かせてもらおうか」
そう言い、銃を片手にこちらに突っ込んでくる。
《ボムトルーパー》の攻撃をよけながら、最短で向かってくる。
だが、《ボムトルーパー》の攻撃を僅かな動きで避けるというのなら、こうするだけだ。
俺は2体の悪魔を接触させ――
「っぐ」
爆発が起こる、ミックのいた周辺一帯を覆うほどに爆煙が広がる。
どうなったかが分らない。あれで無傷とは思いたくはないが、いまだに効果の分らないエンブリオの存在もある。
結界がとかれないから、死んではいなそうだが……
『よし、やったようですね主様』
『シュテル、だからそれはフラグだからやめておけよ。っと、くっやはりか』
「っぶっはー。あぶなかったぜ、あれはあやうく死ぬところだったっよ!」
爆煙の中からミックが飛び出してくる。
やはり無傷ではない、装備はいたるところがボロボロになり、最大の幸運として武器である銃が無くなっている。
《看破》を持っていないためあちらの《瞬間装備》のスキルレベルは分らないが、【闘士】のレベルをカンスト近くまであげていたとしてもスキルレベルは5程度だろう。
《瞬間装備》はスキルレベルによって、クールタイムが減少する。Lv1なら5分のクールタイムがかかったはずだ、そしてスキルレベル5ならどれくらい減少するか?
よし、スキルレベル5でならおそらく短縮されるのは2分程度と見た、その程度ならミックがこっちに突っ込み終わっても再度の使用は出来ない。
武器を持たないなら、こちらを攻撃する方法は徒手空拳のみ。いくらこちらのステータスが劣るといっても、ミックは技巧がカンストした連中と違って、まだそこまでの域には達していない。
それなら武器を持たない相手に後れはとらない。
ミックの後ろからは、残りの3体の《ボムトルーパー》が追いかけてきているし、俺の前には盾と保険として置いておいた2体の《ボムトルーパー》が待ち構えている。
もう既に結構近づかれており《ボムトルーパー》を自爆させると、俺まで巻き込まれるが自爆を除いても《ボムトルーパー》のステータスは高い。
AGIの差もあり、そう簡単に抜かれもやられもしないだろう。
もっとも一応近づかれた時の為に、剣を構えるようにはしておくが。
ミックと前に存在する2体の悪魔が近づく。
悪魔たちは逃さないことを重視しながら、それでもミックを倒すべく手をふるい攻撃する。
――だが、ローガン・ゴールドランスがジョブを改竄出来るように、ミック・ユースもまたこの不条理を覆す一手が存在する。
ミックは両手を上に大きく振りかぶり――
「《瞬間装着》、【メカニカルアックス】」
――機械仕掛けの大きな斧をもって、2体の《ボムトルーパー》を一息で一閃した。
「なあっ」
2体の悪魔を泡と変えながら、ミックはこちらに突っ込んでくる。
悪魔を倒した時に一瞬立ち止まったせいで、後ろから追いかけてくる《ボムトルーパー》との距離は近づいているが、それより俺との距離の方が近い。
だが俺もまた、予想外の《瞬間装着》と一瞬で倒された2体の悪魔を目のあたりにして、立ち止まってしまっている。
そして二人の距離が近づき――
「しまっ」
「これで終わりだぜ、ローガンっ!!」
横薙ぎに振り払われた【メカニカルアックス】が俺の身体を通過し、そのまま俺のHPを全損――させずに懐から【救命のブローチ】が崩れ落ちる。
「なっ」
『あっ、【救命のブローチ】外すのを忘れていたな』
そして後ろから3体の《ボムトルーパー》が近づき、今度はこっちが呆けていたミックのHPを全損させるのだった。
◇
「いやあ、参ったぜまさかあの攻撃が失敗するなんてなー。あれで勝ったと思っちまった。んでローガン、あれってお前のエンブリオの能力なのか?それともジョブとかレアアイテムとか」
「っまあ?そんなかんじだな、ハハハハ」
『まあレアアイテムではあるな、うん。決闘戦では禁止されているが、これは単なる模擬戦闘だしな、うん』
『大丈夫です、主様。古来より勝った者がち、とか勝てば官軍といいます。これは主様の勝利で間違いないでしょう!』
そこまで押されると少し悪い気がしてくるが、まあ確かに勝った者がちかな!
「そういえば、ミックのあの《瞬間装備》はエンブリオのせいなのか?下級の【闘士】があんなに早く連続で使えるとは思わんし」
「ああ、そうだぜまあ能力は内緒にしておくよ、決闘のランキングで戦う事になるだろうしな。そんときは負けねーぜ」
「ぬかせ、俺とて負ける気はない、次も勝ってやろうさ。さて時間はまだ余っているがもうこれで終わりでいいな、ミック?」
「俺も満足したしいいぞー。そういえばローガンは明日も闘士の教導を受けに行くのか?」
「ああ、俺はそのつもりだ。ある程度の動きは出来るようになったとはいえ、まだまだ完全な付け焼刃。今日は突然のことに反応ができなかったりと、反省点は多いからな」
「ふーん、俺も明日は教導を受けに行く積りだから一緒だな」
「それはいいが、レオンとかはいいのか?」
「あー、あいつらリアルの用事で2日間ぐらいログインできないからな。俺一人でモンスター倒すのも効率悪いし、だから教導受けに来たんだよ。決闘に興味があったってのも理由だけどな、一週間やることないのはきついからな―」
ほう、ずいぶん時間が空くんだな。
そのあとは軽い雑談をしながら俺たちは闘技場を後にする。
闘技場を出た後、ミックはログアウトして別れることになった。
◇
「主様、これからどうなさるのですか?」
「そうだな、とりあえず放置していた【エレメンタリウム】を売って簡単な防具でも整えようか、武器はまだこの安物の剣でいいからな」
来た道を逆に戻りながら大通りまで戻ってくる。
もう夜はそれなりに遅く、9時近くになっている。
いくつか店が閉まっていたりするが、それでも数軒は空いている防具屋は存在する。
その中から一軒の店を選び、【エレメンタリウム】2つを含む、いくつかのアイテムを売る。
合計で6万近くなった所持リルを使い、いくつかの装備を購入する。
全身タイプは合計でみれば安いし強いが、一つ一つの装備をグレードアップしづらいとふんで、上半身と下半身の個別の装備2つを購入した。
上半身は鳥の羽を随所に盛り込まれ《耐寒》と《ダメージ減少》スキルの付いた【フェザーアウターウェア】と、下半身は【ブレイズウルフ】の皮で作られ《火炎耐性》と《耐寒》スキルのついた【ブレイズトラウザーズ】だ。
どちらも防御力が高く、なおかつ《耐寒》が付いているものを優先して買わせてもらった。
《耐寒》が付いている装備を購入した理由は簡単だ、ここが冬国であるからである。南の方はまだ暖かいが、皇都から北に行くほどに寒くなるという。まだ行く予定はないが、このドライフ皇国においては念のために勝っておいて損はないだろう。
合計で6万近くにはなったが、何とかギリギリ購入出来そうなのでカウンターに向かい購入を済ませる。
ついでにほとんど金が無くなったので、さらにいくつか売り払い2000リル程度は確保しておく。少しポイントのやりくりがきついかもしれないが、まだそれなりには貯蓄しているから問題はないだろう。
そう思いながら店を出て、宿に向かう。
■■ドライフ郊外 【悪魔騎士】ロッソ・ミルキオーレ
「はっはっはあっ」
彼は走っていた。
彼は逃げ出していた。
こうなった理由に関して話すのであれば、時は少し遡る。
それはおよそ3日前のことだ。
〈ミルキオーレファミリー〉では、彼らが創りだそうとしている最高の秘儀を成すための最終調整に入っていた。
各種の今までにない新しいスキルをつくり、さらにある召喚術式にまんべんなくこめられていく。
まるで曼荼羅のような複雑怪奇な召喚術式を完成させ、あとは起動に必要な莫大なリソース量の確保が急務だった。
そして召喚術式の安定のために遠方に離れることは出来ないまでも、ある程度手が空くようになり、数人の高弟たちはいままでに行われた実験の監査を行っていた。
そして彼の行為が見つかってしまった。
ばれてしまったのだ、彼がいままでに奴隷を売り払っていたことを、彼が奴隷を味見していたことを。
高弟たちは激怒した。ただしそれは奴隷を売り払ったことでも味見したことでもなく、大恩ある師にして父たる絶対者のヴィクター・ミルキオーレの理想を裏切ったことだ。
彼ら〈ミルキオーレファミリー〉はもともと皆孤児だった。
それを救い出してくれたのがヴィクターだった。彼は孤児たちに名前と【悪魔戦士】としての力を与えてくれた。だから彼らは〈ファミリー〉なのだ。
だがそのなかで、ロッソは少し違った。別にヴィクターのことを悪く思っているわけではない、むしろかなりの恩は感じている。
だが、彼はヴィクターの語る理想が犯罪の道であることを分っていた、他の〈ファミリー〉の人間と違い、道理を知っていた。
しかし、彼はそれを糾弾せず、密告をすることもせず、その地位に甘んじむしろ望んで他の犯罪に手を染めた。彼の意識ではただそれだけのことだった。
そして彼は逃げ出した。彼を問いただし処刑しようとする高弟たちを振りきり全力で逃げ出していた。
彼は自分が今呼び出せる悪魔の中で最もAGIの高い悪魔を呼び出すと、その背に乗って皇都へ向けて飛んだ。
運は良かったのだろう、自分たちよりレベルの高い高弟たちを振りきることができ、術式の安定のために離れることができないために追手を差し向けることもできない。
だが、いつかは術式を完成させて、追手をこちらに差し向けるだろう。
そう考えて、ドライフ皇国から離れた、天地あたりに高跳びしようと移動手段を求めて皇都に向かっていた。もっとも彼が天地に向かって行っても、あの修羅の地で死ぬ可能性は高い気はするのだが、それは置いておこう。
そして時間は巻き戻る。
彼は持っていたアイテムボックスにある程度の食糧は入れていたため、多少は食いつなぐことができたが、満足に寝ることは出来ず、食糧も1日前になくなり危機にひんしていた。
何よりの危機なのは、目の前に現れた1体のモンスター。
すでに逃亡の際の戦闘と足代わりでポイントは尽きている。
もうここまでか、と彼は最後と思った。しかし……
「GUGYAAA」
モンスターが光の塵となって消える。
彼は自分が助かったのかと気を緩める。
「あん?お前はもしかして〈ミルキオーレファミリー〉のロッソか、なんでこんなとこに。まあ丁度いい、こっちはお前らに聞きたいことが……ってねるなよ、おーい」
彼はギルドで聞いたような声を耳にしながら眠りに就くのだった。
To be continued
(=○π○=)<対ミック戦 ブローチによって勝利(ずるい)
(=○π○=)<戦闘狂・闘士枠のミック
(=○π○=)<ちなみに彼が【超闘士】になることはないです
(=○π○=)<彼のエンブリオについてはおいおい、2章中に明かすとは思いますが
(=○π○=)<にしても、セイレム楽しかったな―(超余談)