第4話 突撃
■〈リヴノー山岳地帯〉 【悪魔騎士】ヴィクター・ミルキオーレ
ここは〈リヴノー山岳地帯〉の地下に広がる〈ミルキオーレファミリー〉のアジト。
実験はほぼ終わり、資材ももう既に無く、弟子たちは互いに会話を楽しむなどといった偉業を汚す行為をすることも無いため、この地には静寂が蔓延っていた。
ヴィクターはその静寂を嫌わずにむしろ好んで浸っていた。それは輝かしい未来を幾度も空想するのに都合がいいからである。
しかし、その静寂は破られることになる。
「ご報告します」
静寂を終了させ騒喧さを場に満たす、その知らせは突然だった。
ヴィクターはすでにリソースの目星さえ付け、召喚魔術式を完成させて後は式を安定させながら十数時間がたてば悲願が達成するという段になって、その報告は届いた。
その報告は4人の侵入者を告げる物。
ヴィクターに従う弟子たちが、警戒のために交代で〈ミルキオーレファミリー〉のアジトの周囲に数体の《サーチャー》の悪魔を張りめぐらせていた。その内の1体に侵入者が引っ掛かりこうして知らせが届いているのだ。
「一体何者かね?」
ヴィクターは、侵入者は何者かと誰何する。
自分の空想を破られたことにいら立ちもあるが、それ以上にこのあと少しという時間にやってきた侵入者の正体をいぶかしむ。
ただの無粋な放浪者……とは思いたい。今までにその手合いは何人か処理してきたし、その程度の存在ならばさして強くも無いだろう。もちろん漂流の超級職という可能性がゼロとは言えないが、《サーチャー》の悪魔を使役しているのはすべて《看破》を5以上あげている弟子のみ。その場合のやり過ごし方と言うマニュアルはすべて構築してある。
だが、今日にまで至る官警やギルドの執拗な捜査を目の当たりにして、この状況を問題ないと断ずることなど出来ない。侵入者が4人であるならば官警ではなくギルドの人間であるだろうか?とあたりを付ける。
それは間違っていない。だがもっともそのあたりには欠けている部分があるのだが。
「この一団の中に我が悪魔戦士ギルドのギルドマスターがいるとのことです。また他の侵入者は“悪魔剣”アルフレッドと下級の悪魔戦士がひとり、後は【闘士】も加わっているようです」
「ほう?」
その報告を聞きヴィクターは眉と口元をあげる。
4人の侵入者が誰かと思えば同胞であるとは思わなかったのだ。まあ部外者が一人紛れ込んではいるのだが。
「なるほど、悪魔戦士ギルドの連中か。下級の悪魔使いはともかくとして戦力になるのがギルドマスターと“悪魔剣”の二人しかいなかったのかね、私の足元に及ばぬとはいえ他にも数人腕の立つ【悪魔騎士】はいただろうに」
「それに関しては資材・情報調達班から報告が上がっておりました。どうやら悪魔戦士ギルドの連中は2週間前から方々に散って我らを探索していたようです。おそらく緊急と言う事でギルドマスターが直接動かざるを得なかったのでしょう」
「ふむ、やはり2週間前に知り合いと顔を合わせてしまったという報告は杞憂ではなく真実だったというわけか、それにやはりロッソはギルドの連中に捕まったと見えるな」
「はい……」
そう2週間前には悪魔戦士ギルドに彼らの正体がばれてしまったことを知っていた。
だが口を封じようにも、その彼を見た悪魔戦士ギルドのメンバーはすでに皇都に戻っていて、高確率で話しているだろう相手の口を封じる意味さえない。なのでその報告が杞憂であったと内心をごまかしていたのだが……やはり現実は甘くはなかったようだ。
そしてアジトを変えることもまた出来ない。これはロッソを追いかけることができなかった理由と重なるのだが、もうその時期には場所を移動するような余裕が一切なく、もし移動させるのなら現在の成果の半分以上を放り投げ、かつリソースの工面を一から組み立てなくてはならなくなる。あと半歩で奇跡に届くかというこの段階で、その決定を提案できるものはヴィクターを含めてだれ一人としていなかった。
だからこの状況になってしまったことは、仕方が無いとヴィクターは諦める。
だが彼の夢、彼の理想たるこの奇跡は一切諦めることは出来ない。
ゆえに彼は一つの令を発する。単純明快なこの状況を変える手を。
「しかたがない…か。全員に告げる。今現在、悪魔召喚術式の安定に取り組んでいる者とアベル以外はすべて侵入者の迎撃にあたれ。私も出向く、皆の者敵を殲滅せよ」
そう、それは殲滅の令。
当然ではあるだろう、この状況で他に打てる手などそうありはしない。
この開いた空洞の地にヴィクターの大きな、しかし怒声ではない威厳に満ちた声が響き渡る。
そしてこの令を聞いた、すべてのヴィクターの弟子たちはこれが最後だとやる気をみなぎらせる。
ヴィクターはそのやる気をみなぎらせた弟子たちをみてそれでこそだと思う、なにせ負けはない戦なのだ、そんなものに物怖じする弟子などこの場にはいないだろう、と。
そう、この戦いに負けはない。二人の上級であるギルドマスターと“悪魔剣”の実力は熟知している。彼らは確かに強いが、“悪魔剣”は〈ミルキオーレファミリー〉の高弟たちと大差はなくギルドマスターもまた高弟数人でやらせるかもしくは自分が戦えばいいだけのこと。下級二人など考慮の内にもない弱者。これで負けると考える方が難しい。
とはいえ、一応念の為…と術式を安定させている弟子たちに確認する。
「ああ、一応侵入者は私たちで対処できるが、もし何かしらの方法でこの場に直接強襲してきたら、例のあの緊急術式を使いなさい。安定とはほど遠く、危険な部分もあるがだからと言ってむざむざ侵入者に邪魔させることも無いでしょう」
緊急術式とは、安定の段階を飛ばして起動させる緊急起動用のコマンド。
場合によっては術式が失敗する可能性もあるが、邪魔されるぐらいならとこの方法をとるようにいう。
弟子たちに伝えてはいない危険性もあるが…それくらいなら別に問題ないと許容する。
それくらいは彼の望みの為なら仕方が無い犠牲ととらえる。
ヴィクターが今までに消費して来た資材と同様に、そのような形で犠牲になれて幸せだっただろうと弟子たちの幸運を喜ぶ。
そう、別にヴィクターは資材と弟子を分けて考えてはいない。
弟子たちのヴィクターに対する崇敬をいいものとして浸っているが、だからと いってそれを消費することに一切のためらいはない。なにしろそのために拾って やったのだから、と傲慢な理由を心に秘める。
彼らの想定は間違ってはいなかった。
たしかに、侵入者は彼らの知る上級職二人と知らない下級職二人のみ。
そこに一切の間違いはない。
下級職の力など本来彼クラスのティアンにとっては鎧袖一触レベルの相手でしかない。
だが、そこに一つ足りない数値があるという事を誰も知らなかった。
そして、ヴィクターは知らなかった。
天才であるが世間に疎く、また弟子たちもそのような報告は一切しなかったために知る由が無かった。
それは20日ほど前から突如として増加したとある存在のこと。
そう〈マスター〉という規格外の存在のことを全く考慮してなどしていなかった。
□〈リヴノー山岳地帯〉 【悪魔戦士】ローガン・ゴールドランス
時間は少しだけ巻き戻る。
「っち、朝になっちまったか」
そんなギルドマスターの言葉を聞きながら、食事を済ませる。
現在地点は〈リヴノー山岳地帯〉の中腹少し前。
〈リヴノー山岳地帯〉の麓にたどり着いてから、ばれるのは遅い方がいいというギルドマスターの提案によって、竜車を降りてここまで徒歩で登山することになってしまった。
しかも明りを付けずに2時間も夜中を移動し続ける羽目に。
《暗視》スキルを持つ上級職の【悪魔騎士】のスキルである、《コール・デヴィル・ダークウォーカー》をギルドマスターとアルフレッドの二人が1体ずつ交互に呼び出し周囲を警戒させていたとはいえ、いつ敵に襲われるかと何度も不安に駆られることになった。
ちなみにミックも《暗視》スキルをある程度持っているらしく警戒の一員として最前にいた。
……これだと俺一人何もしてないことになるな。まあ向き不向きがあるということにしよう。
「さて食事をしながらでいいから聞いてくれ、このあと少ししてから俺たちは〈ミルキオーレファミリー〉のアジトに向かって特攻する。時間が無いから再び夜になるのを待つことは出来ないし策を弄することもできない。だから一点突破で特攻一択だ」
そう言いながら、おそらくこの周囲のものと思わしき地図をアイテムボックスから取り出して、ペンでいくつかの場所を大小さまざまなマルをつけ、ある場所には×をつけていく。
「この小さいマルを付けた場所に《サーチャー》がいる。で、大きいマルがその《サーチャー》の識別範囲だな。《サーチャー》の説明に関しては必要ないな?」
「ああ」
《サーチャー》…すなわち【悪魔騎士】のジョブスキルの一つである《コール・デヴィル・サーチャー》に関しての説明はすでにこの場に来る間の竜車の中で一通り説明を受けている。
《コール・デヴィル・サーチャー》は250ポイント使用で召喚可能な広域探査特化型の召喚悪魔だ。
召喚数は1体のみだが、召喚時間が1時間と少し長めで、ステータスはHPが50でMPが150であり、他のすべてのステータスが1という脆弱さを誇る。
だがその分スキルは探査に特化した優秀な物が揃っており、《殺気感知》《危険感知》《感知範囲拡大》《動体探索》《脅威探索》《指定人物探索》《探索範囲拡大》等の探査スキルを複数高レベルで保有する。また状況を召喚者に知らせる《従者報告》スキルも保有するため、【悪魔騎士】になってからは探査・警戒を行う場合に重要な役割を担うようになるとのことだ。
「にしてもどうやってその《サーチャー》とやらを見つけたんだ?あと探査範囲とかどうやって見つけたんだよ。それとこのバツ印はなんだ」
ミックがそう矢継ぎ早に幾つかの質問をする。
確かにそれに関しては俺も疑問だった。
説明を受けた限り《サーチャー》は魔法的な感知に気づくことができるスキルもあるというし、見つけた方法が全く分からない。
探査範囲に関してはおおよその見当はつくが、バツ印も一体何なんだろうか?
「《サーチャー》をみつけたのは目視だな、バツ印は召喚者、探査範囲は経験だな」
「え?それってどういうことだ」
「〈ミルキオーレファミリー〉の連中は素直すぎんだよ、《サーチャー》を使った拠点周囲警戒のセオリーを一つも間違わずに実践してやがる。まあ優秀っていうことなんだろうけど、それは逆にセオリーを知っている人間からすれば《サーチャー》の置き場所や自分の隠れ場所が丸分かりって寸法なわけさ。それと《サーチャー》の探査範囲は他のジョブで補っていない限り、範囲は固定だからな覚えていればすぐにわかるさ」
「はー、すげー」
(……なるほどこれが熟練者ティアンのスキルということか)
決して忘れていたわけではない。
特殊超級職を除く通常のティアンにとって、〈マスター〉のもつエンブリオの力は規格外であり常識外れだ。
そこに〈マスター〉とティアンの差が存在する。
だが、実際に〈マスター〉とティアンが相対した場合にティアンが食らいつくことができる要素が存在する。
それがジョブに寄らない経験値の蓄積。〈マスター〉以上に修羅場をくぐり、身につけ続けた修練の証。
今の俺では持ち合わせない力。
『まあ、いつかはそれも手に入れて見せるさ』
『はい、主様なら問題ありません』
そう俺とルンペルシュティルツヒェンの間で会話をしながら、意識を現実に戻らせる。
「んでだ、はっきりいってこの《サーチャー》に気づかれずに召喚者を倒すことは出来ないし、《サーチャー》を倒してから速効で召喚者を倒すのも無理だ、セオリー通りなら雑魚悪魔を拠点に置いておいて緊急連絡方法にしているはずだしな。召喚者が死んだら呼び出した悪魔が消える性質を逆手に取った連絡法さ。俺たちは遠距離攻撃も暗殺も得意じゃねぇからな、正面突破で相手に待ち伏せする時間を無くして突っ込んだ方がいいだろう」
ギルドマスターは一息ついてから、「何か質問なるか」と眼で訴える。
それに対して何もないという意思をこめて俺たちは首を振る。
「それじゃあ、次は戦力確認だな。簡単にでいいから自分の戦力を評価してくれ。ちなみに俺は【悪魔騎士】で合計レベルは290だ。戦闘スタイルはオーソドックスな悪魔召喚を軸にしたタイプだ」
そこまで行ってから右を向く。
右に座っているアルフレッドを見たのだろう。
ちなみに俺たちは円形または五角形の形で5人座っている。
「はい、私ですね。私も【悪魔騎士】で合計レベルは242です。戦闘スタイルは悪魔を召喚しながら、自分も剣を持って戦うという両方をとったスタイルですね」
「じゃあ、次は俺だな。俺は【闘士】で合計レベルは43。捨てジョブで1レベルあるだけだから、実質は42だな。戦闘スタイルはまあ普通に敵に突っ込むタイプだな。一応銃を持ってはいるけどそっちより剣で戦う方がメインではある」
「最後に俺だな。といっても俺も【悪魔戦士】でレベルは39。闘い方も今のところ変哲のない悪魔召喚スタイルだしな」
最後の戦力評価で自分のことを喋った後、他の3人が驚いた顔をし、ミックがこちらの勘違いを訂正する。
「え?ローガン気づいてないのか、お前もうレベルアップしいるぞ」
「なに?」
その言葉に驚きながらステータスを確認する。
見るとレベルは40に上がっており、さらに新しいジョブスキルを習得していたようだ。
新たに覚えたスキルは《コール・デヴィル・チョアプラトゥーン》だ。
『《コール・デヴィル・チョアプラトゥーン》: 消費ポイント『250』
【スレイブ・デビル】(平均ステータスは別途参照)をX体召喚し、5分間使役する
※Xの数値は《旅団》スキルの空いた枠の数となる。』
【スレイブ・デビル】のステータスを確認してみると、そのステータスはある意味すごいものだった。
DEXを除くすべてのステータスが5というひどい有様であり、DEXのみが50という数値をかろうじて保っている。
はっきりいって弱い。
今現在の俺の《旅団》スキルのレベルは、何度も召喚し続けた甲斐があって最大の5に到達していて、旅団枠が30程ある。倍加を含めれば90に至るが、それだけ大量に召喚しても使い道が無い。おそらくこのスキルは本当にちょっとした雑用にしか使えない召喚スキルなのだろう、もっとも前に聞いた【悪魔騎士】の召喚数の条件を満たしたいならうってつけのスキルだとは思うが。
いままでに習得して来て使っていない《コール・レッサー・デヴィル》や《コール・デヴィル・ガード》や《コール・デヴィル・クラッシャー》と同様にお蔵入りなスキルだろう。
他にも使っていないスキルが2つ程あるが、あれらは使う機会が無いだけで使い道はあるしな。
「使えないスキルだな」
「まあそう言うな、いろいろと便利ではあるんだぜそのスキル。拳大の大きさのちっちゃい悪魔が、えっちらほっちらと何体も集まって雑用をこなすからな。結構人気なんだぜ。まあ戦闘特化ならいらないという気持ちもわかるがな」
そんな小さい悪魔なのか。
「さて、話を戻すとするか、全員の詳細を聞いた限りだと、とりあえずこのメンバーでも〈ミルキオーレファミリー〉の連中と真正面からぶつかり合ったらキツイ。だから作戦を立てるぞ」
「さっき策を弄している時間はないって言ってなかったか?」
「ああ大規模な策を弄している時間はねぇ、だがちょっとした作戦を実行する位なら余裕を見ていいと考えてる。なにより一番まずいのは焦って無謀に突撃した結果、返り討ちにあって失敗することだからな」
ギルドマスターはそう言いながら再び地図を広げて、ペンでいくつかの線を描いていく。
「いいか、あっちの性格からしてこっちが突っ込んだ場合に取って来る方法はある程度まで絞れるだろう。その中で一番とって来そうな方法を今から説明するぜ、まずは……」
□■〈リヴノー山岳地帯〉 【闘士】ミック・ユース
道なき道を走っていく。
あたりを見渡せば、そこは一面の死の大地。
草木など一本も生えず、生物も少し前からモンスターも含めて1体も見当たらない。
こことは違い、北東の《厳冬山脈》には、まだ地竜や怪鳥が巣くっていると来る途中の竜車内でギルドマスターが話していたが、ここにはそんなものも見当たらない。
岩を飛び越えてごつごつした道を走る。
今は休憩地点から直接〈ミルキオーレファミリー〉のアジトへ向かっている……訳ではなく、少し迂回してある場所から向かっている。
その理由はギルドマスターが提案した作戦によるもの。
迂回する分少し時間がかかってしまうが、それをする価値のあるものなのだろう。
作戦による時間浪費の分、出来るだけ早くアジトへ突入したいと急ぐ。
とはいっても、そんなに速度を出す必要はないし、できない。
下級職とはいえ近接戦闘型のミックのAGIは369とそこそこにはある。
もちろん上級以上の近接戦闘職と比べることなど出来ないのだが、比べるのが悪魔召喚ジョブであるなら別だ。
ミックよりAGIが高いのはアルフレッドのみであり、そのアルフレッドでさえAGIは500に届くかどうかという所。ましてやAGIが50さえ切る人物が同行しているのならなおさら急ぐ必要はない。
そんな遅さの人物……ローガンを背負ったり、悪魔に運ばせたりしないのは力の温存と、なにより調整が楽だからというだけである。
(見えた、あそこか)
《視力強化》を使いながら一番前を走っていたミックはアジトに近づいたことに気づく。
もっともアジトが直接見えたわけではない。地図上で言うならアジトの場所までまだ少しある。
それでも近づいたと気付けた理由は単純だ。
目の前に数十人の黒いローブをまとった人間が待ち構えていたからである。
そしてその様子を見ながら、ギルドマスターの言葉を思い出す。
『相手が数十人でアジトの手前付近に待ち構えて居た場合。これがあいつらが一番取ってくる可能性が一番高い手段だ。その場合の作戦を説明するぜ――』
へぇ、読みどおりなんだ。そう思いながら足を止めずに動き続ける。
この方法を相手が取ってきた時が、こちらが勝つ確率が一番高いとギルドマスターは言っていた。
他の方法、たとえばアジト内に引きこもられた場合、広い場所での乱戦は必至でどう考えてもこちらが不利になるとのこと。
「でも相手がなぜ不利になる方法をとるんだ?」とこっちが聞いてみたら、それはあいつらの大望とやらが最大の理由にして足かせらしい。
あいつらは大望の為に逃げられないし、万が一を考えて引きこもれない。
そう読んだ上で、あいつらは彼我の戦力差ゆえに真正面からつぶしてくるだろうとも。
その場合、チームプレイとしては俺がただ突っ込んでいくだけでしかない。
もちろん妨害はあるだろうが、そこは切りぬけろと無情にも告げられた。
そして突っ込んだ先で、「ソレをつかえ」と渡された、手の中にあるアイテムをいじる。
(ギルドマスターが言っていた行動を起こす場所まであと200メートルくらいか)
そこまで正確な距離測定ができるわけではないが、目測で距離を測る。
そしてさらに目標地点に50メテル近づいた時、あちらの方からアクションが起こされる。
「そこまでにしてもらおうか、我が同胞たちよ。ここに来たという事はどうせ私の理想を知っているというのだろう?ならば戦う必要などあるまい、我らの悲願たる理想の悪魔はすべての悪魔召喚者に捧げられるものだ。私の理想を受け入れなかったと言って同胞に与えないほど私は狭量ではない。ならば……」
それはある程度こちらが予想していたもので…危機感を抱く必要のない戯言だった。
ギルドマスターからはこちらの予想外の行動が無い限り、足を止めるなと言われているのでそのまま走り続ける。
走りながら周囲を見ると、あちらの一人の男(ギルドマスターから聞いたヴィクターとやらなのだろう)は演説し始めていた。
周りのローブをまとった男は、感動している者もいる。この状況を分かっているのだろうか?
こちらはギルドマスターもアルフレッドも「ありえない」という顔で聞き流している。ローガンも……って少し惜しそうな顔をするなよおまえ、欲しくてもあっちに寝返ったりするなよな?まあいいか、とりあえずこっちはあちらの演説など気にもせず、目的地まで走り続ける。
(……あと30メテル)
そこまで近づいて、あちらも聞く気が無いことを再認識したのか、数名が悪魔を何体か召喚し始めている。
だが少し遅い。
(…3、2、1、0!)
目標に到達した時点で、今までのローガンに合わせたスピードではなく、《持久力強化》や《走力強化》等のスキルをフル稼働させて全力で走る。
それと同時にギルドマスターは上空に待機させていた、とある悪魔を動かす。
「上だ!」
「えっ?ぐっあっっ」
「ぎゃああああ」
「ごぇぇぇ」
数と質で劣る集団が、相手に勝つための方法はいくつかある。後の時代で、敵を魅了して仲間にするという方法で数の差を逆転させてしまう【女衒】と淫魔もそのひとつだ。
それらに対し、俺たちが選んだ方法は2つ。そのひとつが奇襲という単純な物。いかなる強者であろうと、無防備な瞬間をねらわれることは致命的だからだ。
そしてそれをなした、その悪魔の名前は《コール・デヴィル・スカイランサー》。要は空を飛ぶ突撃槍使いの悪魔で、一直線に飛翔し突撃するその速度は【疾風槍士】の奥義の程ではないが音速に至り、威力もかなりの物らしい。
そう…無防備な悪魔使い系統を一撃で即死させるのには十分な程の威力が。
そして4体の《スカイランサー》が4人の悪魔使いを殺したこの現状を見て、作戦のひとつが完全に嵌まったことを確信させている。
唯一反応して見せたヴィクターのことに関してもだ。
《スカイランサー》のことがばれなかったのは、常に俺たちの頭上に1体ずつ置いて《サーチャー》にばれないようしていたらしい。アルフレッド曰く、そこまで緻密な悪魔コントロールを出来るのはギルドマスターかヴィクターくらいしかいないという。
奇襲する対象にヴィクターを選ばなかったのは、ヴィクターなら直前で気付いて防御なり回避なりできるだろうというギルドマスターの読みがあったから。
そしてこれでこの場に居た〈ミルキオーレファミリー〉の高弟たち、レベルが200を超えている人物をあらかた処理できたのだろう。ギルドマスターの言葉によれば半年前に居たレベルが200を超える人物は5人のみという話しだった。だから残りの危険対象はヴィクターを含めて後二人。
そしてこれだけではない。もう一つの数と質を逆転させるための方法をとるため、ローガンたち悪魔使いは新しい悪魔の召喚呪文を唱える。
「“来い”《コール・デヴィル・ビギナーキャスター》」
「「“来い”《コール・デヴィル・キャスター》」」
それが、魔法使用特化悪魔の召喚。もっとも俺にくわしいことは分らないが、いまは別にそれでいい。
ローガンのみ3体。ギルドマスターとアルフレッドは1体ずつ悪魔を呼び出す。
「っく、ここで魔法特化悪魔の召喚ですか?何を考えて……まあいいでしょう、身の程と言う物を教えて差し上げます。《コール・デヴィル・メ…」
――遅い。
ヴィクターはあくまでもギルドマスターとアルフレッドしか見ていない。
もしかしたら同じ悪魔使いのローガンのことはある程度気にしているかもしれないが、下級でそして別系統の職業に就いたものを全く認識していない。
他の奴ら。ヴィクターの徒弟と云った連中も俺のことを認識していないか、突然の状況に困惑している奴しかいない。
……だから俺がここまで近づける。ヴィクターまであと3歩と言う場所まで。
だがここで近づいて切りつけるなんて真似はしない。ギルドマスターの話が本当なら近接戦闘に対する備えはかなりしてあるらしい。
それになにより…ギルドマスターの作戦を遂行するのが先だ。
そう思い手の中のアイテム……《ボトムレスピッド》が込められた【ジェム】を俺とヴィクターの間に投げ入れて使用し、そしてローガンたちが召喚した悪魔たちもまた召喚者の意を受けてその身すべてを糧として最大の魔法を放つべく、《オーヴァーキャスト》を使用した《ボトムレスピッド》を発動する。
そして6つの魔法の効果により俺たちの下に深い穴が開く。
「っなあ?!」
「っへ、一緒に落ちやがれってんだ」
そして俺たちは地の底に落ちて……
To be continued
余談1:ビギナーキャスター
(=○π○=)<MP特化の純魔法特化
(=○π○=)<コストは少し高めの150だが、それに見合った性能。
(=○π○=)<複数の下級魔法を習得し、《オーヴァーキャスト》をもつ。
《オーヴァーキャスト》:自身が消滅する代わりに次の魔法の威力・消費MPを2倍にするスキル。
(=○π○=)<要は召喚悪魔の最終奥義のようなもの。それに比べたら格段に弱いけど。
(=○π○=)<召喚悪魔を使い捨ての魔法砲台にできる。ちなみにここまでやってやっと下級魔法使いの2/3の威力ではある。という設定。
(=○π○=)<ちなみに上位のキャスターは上級魔法もいくつか習得した上位互換。コストも増すけど。
余談2:ギルドマスター
(=○π○=)<優秀な人
(=○π○=)<ヴィクターを才能と運によって最強に至った天才とするならば
(=○π○=)<ギルマスは努力と死線によって最優に届こうとする努力の人
(=○π○=)<そんな彼のレベルが290どまりなのは、一度上級職をリセットしたからです。それが無ければ400超えてた。
(=○π○=)<要はヴィクターはナギタイプ、ギルマスはラカンタイプ
(=○π○=)<主人公は……ネギタイプ?