閣下改竄   作:アルカンシェル07

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(=○π○=)<この話しの過去話で、あれ?と思った記述があるかとは思いますが、それは仕様で間違いではありません。できればそのことに関してはしばらく触れないでほしいのです。
(=○π○=)<(といって、予想していないところで矛盾あったらどうしよう…)


第7話 才能

第7話 才能

 

■■過去

 

 その男は一言で言って天才だった。

 

 彼はだれよりも早く、地面に立つことができた。

 彼はだれよりも早く、言葉をしゃべることができた。

 彼はだれよりも早く、物事を理解できた。

 

 ミルキオーレ家というドライフ皇国の一貴族の嫡子として生まれた彼は、幼い頃より発揮し続けたその才覚で周りを魅了し続けた。

 もちろん、クラウディア・L・ドライフのように彼以上の才能を秘めている者もそれなりにはいるだろう。

 だがそれでも彼の才能は、周囲の人間と比べても際立っていた。

 

 幼少のころに入れられた学び舎で、彼は自分の倍近い年齢の先輩を自分の配下のように扱い、それが許されるようになっていた。

 それは彼の頭脳、運動能力、そして功績が周りと比べても遥かに段違いだったからだ。

 あれは自分たちと違う。そういう認識を周囲から持たれていたのだ。

 

 そんな彼がなぜ今、悪魔使いとして非道な実験を繰り返すようになったのだろうか。

 その起源は彼の10の年齢を祝う誕生日におきた悲劇が原因となる。

 

 彼の生家であるミルキオーレ家は、皇都近くに住む貴族の中では希少な貴族だった。

 その希少さの理由は、このドライフ皇国に生まれた3人の皇子の内、第3皇子についているからである。

そしてその中でも、バルバロス辺境伯の次に規模の大きな大貴族であり、皇都近くの貴族の中で唯一第3皇子についていた。

 だからこそ、ミルキオーレ家で悲劇が起きた。

 第一皇子を頭とする貴族たちの中で、ミルキオーレ家を邪魔に思ったいくつかの悪徳と言える貴族たちが結託してテロを起こしたのだ。

 そのテロによりその屋敷の中に居た家族および使用人はほぼすべてが死に絶え、生き残ったのは彼と二人の使用人のみとなった。

 ある意味幸運だったのは、その誕生会がパーティーとして他の出席者を募っていなかったことだろうか、そのおかげで第3皇子やバルバロス家に被害が出なかったのはミルキオーレ家の当主としては安心しただろう。

 だがテロがそれで終わったわけでもなかった。

 彼と使用人の口をふさごうと追手を差し向けるのは、当然と言えば当然だろう。

 この時は折悪く、第3皇子もバルバロス家も救出の手を差し伸べることができず、皇都はずれの一角で使用人二人が殺され、次は彼自身の番と言う時になって、助けが現れた。

 それは彼にとっては天の助けだっただろう。もしくは悪魔の助けか?

 彼の命が絶えるその一歩手前にまで敵の凶刃が迫った時、それを防ぎ襲撃者を殺したのは一体の悪魔だった。

 その悪魔自体は大したことがないものだ。何せ下級職のスキルの一つ《コール・デヴィル・ナイト》なのだから。

 今の彼にとっては、いくらでも呼び出し可能なその悪魔は、だが当時の彼にとっては何よりも印象に残る記憶になったことだろう。

 

 そして彼は一人の悪魔使いの手によって助け出された。

 その悪魔使いはなんということのない、ただの【悪魔騎士】だ。レベルもカンストに至っておらず、合計レベルは80に行くかどうかといったところ。

 そんな悪魔使いだが、殺されようとした子供を放ってはおけなかった。

 その後、彼を自宅に連れてそれから数年一緒に暮らすことになる。

 彼は自身を助けた悪魔使いの力に惚れて、同じ道を目指すことを決めた。

 本来は金を稼ぎながら自分でも戦い、苦労して【悪魔戦士】のレベルを上げていくことになるが、彼は少し違った。

 

 最大の理由は彼には莫大ともいえる遺産が、残されていたからである。

 それによって、最初から悪魔を複数、コストを気にせず次々に呼び出すことで初期のレベル上げの苦労を無くすことができたのだ。

 莫大と言っても、皇国に押さえられた品もそれなりの数があったため、全部で1億行くかどうかと言ったところだが、それでも十分ではあっただろう。

 彼を助けた悪魔使いもそのお金を取り上げない程度には善良であったため、彼がそのお金を十全に使えたという理由もある。

 

 そして彼は、次々に頭角を現していく。

 ひと月で【悪魔戦士】を修め、一年かけて【悪魔騎士】を上限まであげて、八年がたつ頃にはカンストにまで至っていた。

 当時、彼の年齢は20にもなっていない。〈エンブリオ〉という規格外の力を保有する〈マスター〉ならともかく、通常のティアンが力を極める時間としては異例と言うほかない。

 もちろんそこに至る途中に遺産は底をついていたが、それまで働いた金と彼自身の才覚による効率的運用法によって、金欠に陥いることはなかった。

 

 そんな彼が超級職である【魔将軍】についていない理由は、その条件を満たすことができなかった理由はひとつだ。

 それは彼がカンストに至るのと同時に、ある一つの研究を始めたからに他ならない。

 それこそが、今に至る多大な犠牲を持って完成間近まで迫っていたひとつの召喚術式、その研究である。

 彼は悪魔使いに助け出されてから、その年に至るまでずっと疑問に思っていたことがあった。

 それは、「なぜこうも、みんな悪魔を無駄にするのだろう」というもの。

 彼が知るすべての悪魔使いが、呼び出した悪魔を無駄に消費していたことに、常々苛立ちを覚えていた。それこそ彼が認める程の悪魔使い、今はギルドマスターの地位に就いている男と出会うのにさらに十年ほどかかってしまうくらいだ。

 そろいもそろって扱いが雑すぎる、悪すぎるという内心を押し殺しながらその年まで生きていた。

 しかし、もう我慢できないと、この現状を打破するためひとつの手を打つことになる。

 それこそが、全く新しい悪魔の召喚術の研究。

 彼の叡智を引き継ぐ悪魔が、悪魔の軍団を運用し。

 彼の技術を引き継ぐ悪魔が、既存の悪魔召喚を改変し。

 彼の思想を引き継ぐ悪魔が、彼が死した後も悪魔召喚の偉大さを世に知らしめるようにと。

 個体差の激しい人間ではなく、同一規格によって生み出される悪魔での【悪魔戦士】の未来の安定。

 そして、自分を助けてくれた悪魔の為に、今彼ができる最高の恩返し。

 そう信じて、彼はその奇跡を作るために、生涯をささげることを決意した。

 

 ……そう、彼は自分を助けてくれたのを、悪魔使いではなく、悪魔使いが呼び出した悪魔であると認識していた。

 それが彼の歪み。彼の天才性とこの救出により、形作られた彼の歪んだパーソナル。

 

 その決意のあとの彼の道筋は簡単だ。

 長く続くであろう、悪魔召喚技術の確立のために、お金を稼ぎ続けた。

 自分一人では足りないために、スラムなどから孤児を助けて、自分の子供として扱いながら【悪魔戦士】としての力を教えた。

 

 そうしてさらに20年の歳月が流れて、今彼はヴィクター・ミルキオーレとして悪魔召喚式『ゲーティア』の完成を待つ。

 

◆◆◆

 

□坑道地下

 

 (リャナンシー《暗視》セット、《危機察知》セット)

 

 ミックは走りながら、自身の〈エンブリオ〉である【才金貨リャナンシー】を起動させ、心の中で誰にも聞こえない言葉で、二つのジョブスキルをセットすることを命令する。

 リャナンシーは意志こそもたないが、自分の心の中の言葉だけで《ブラッドアビリティ》を使用することが可能な〈エンブリオ〉だ(ただし二つ目のスキルは発声が必要になる)。

 そしてリャナンシーによってセットされたのは《暗視》と《危機察知》。

 【闘士】は《暗視》を持たないため、そのジョブスキルレベルは4程度でしかないが、《危機察知》は元々保有しているためプラスされて現在の合計スキルレベルは8になっている。

 《暗視》スキルをつけているのは当然、この暗闇内でも満足に動けるようにするため。

 《危機察知》スキルをつけているのは、この暗闇内で奇襲を受けないようにするため。

 そして二つのジョブスキルを使いながら、ヴィクターの近くまで走り、その道中で行く先を阻む悪魔の領域に入る。

 悪魔が攻撃を仕掛けてくるのを見ながら、ミックもいままで他の悪魔たちにしてきたように仕掛ける。

 

 (リャナンシー《危機察知》リセット、《看破》セット)

 

 敵の攻撃を今までの経験によって回避しながら、もともと持つ【闘士】のレベル5の《看破》と併せて、レベル9という高ランクの《看破》によって相手のステータスを確認する。

 

 (HP1000、END100か、これなら……。リャナンシー全リセット《悪魔殺し》セット、《剣速徹し》セット)

 

 いままでにも使用して来たコンボを利用して、右腕に握った剣を振るう。

 その剣は、攻撃を仕掛けてきた悪魔の首に防御を許さず通過し、ENDを0にしつつスレイヤー系のスキルによって増加したダメージによって一撃で敵を殺す(ちなみに召喚悪魔は首が切られても、状態異常によって即死せず、しばらく行動できる)。

 泡となって消えていく悪魔の最期を見届けたりなどせず、ミックはそのまま進むが、倒した悪魔のすぐ後ろに控えていた悪魔にまた道を阻まれ、再び同じ工程を繰り返して左の剣をふるい相手の首とHPを吹き飛ばす。

 

 (ヴィクターのやつは……っちィ、あそこか)

 

 走り続け、倒し続けながら、ミックはヴィクターの位置を確認をするが、その位置はまだまだ遠い。

 もちろん全く変わっていないわけではない。

 少しずつではあるが、確実に近づいて行っている。

 しかし、ミックが近づくのと同時に、ヴィクターもまた位置を移動してこちらに捕まらないようにしている。

 幸いなのは今までのヴィクターが、逃げるという選択肢を持っていないことだろう。

 ギルドマスターと“悪魔剣”の力をもってすれば、上に居る徒弟達は倒されてしまうだろうが、それでも時間は稼げるはずだとヴィクターは考えていた。もっとも、その想像通りにはいかず、足どめとしてギルドマスターが残って、他の二人は先に進んでいるなんて想像していなかったが。

 だが、それももう終わりだろう。この地で戦い始めてからすでに5分近くが経過しているのだ。

 

 (さすがにこれ以上時間をかけるわけにはいきませんね、仕方ありませんこの場をすぐに終わらせて上に行くとしましょう)

 

 ヴィクターが決めたのは、いままでのちまちまとした悪魔召喚ではなく、強力な悪魔によるミック・ユースの即時決殺。

 この上でなお「逃げる」選択肢を行わないのは、誰とも知れぬ下級職相手に崇高なる悪魔使いの頂点たる自分が逃げ出すなど、ヴィクター自身のプライドが許さなかった、と言うそれだけのこと。

 ヴィクターはデメリットを承知で、ミックを殺すのに邪魔な障害の一つを排除するため、ある悪魔を呼び出す。

 

 「《コール・デヴィル・キャスター》」

 

 呼び出したのは杖を持つ、魔法特化の悪魔。

 その悪魔に自信を代償として、この場の最大の障害『暗闇』を終わらせるための一手を打たせる。

 そして呼び出された悪魔も、召喚者の意を読み取り、《オーヴァーキャスト》を使用した大魔法の発動を行う。

 同時にヴィクターもまたアイテムボックスからひとつのアイテムを取り出して、それを中心に投げ入れて……

 そして悪魔の魔法が発動する。

 

 「なっ!」

 

 世界が赤く染まり、ある程度の明るさを取り戻す。

 悪魔が使用したのは《クリムゾン・スフィア》という魔法。

 ヴィクターが投げ入れたのは『油』。〈ミルキオーレファミリー〉で使う松明などを維持するために用意していた数Lにも及ぶ量を、悪魔の魔法を着火剤として燃やす。

 そしてそれはただの明かりとしてだけではなく、坑道の中心で使用された、その物騒な点灯法は、ミックとヴィクターを分断する炎の柵となる。

 ヴィクターは明かりを取り戻したことによって、《ダークウォーカー》によってもたらせられる暗い視界を《ダークウォーカー》の召喚の維持とともにすて、自身の目で敵を認識する。

 

 「ちょ、ばっかじゃねぇのお前。なんでこんな閉鎖空間の中でこんな大きな炎を起こすんだよ!空気無くなるだろうが」

 「馬鹿とは心外ですね。そんなもの問題ありません、この空洞の大きさから考えて空気が無くなるのは後五分はかかります。それまでに君を倒して上に上がればいい、それだけのこと」

 「はぁ?」

 

 (残りポイント数は……一万と少しと言うところですか、【闘士】一人を倒すのは問題ないとしても、上のギルドマスターたちを相手にするのは少し厳しいでしょうか?いえ、それでも行くしかないですね)

 

 ヴィクターは今までの経験と、記憶している悪魔の情報をもとに残りのポイントを計算する。

 そのポイント数は、多いと云って問題ない量ではあるが、《メガロニカナイト》は召喚できず、強力な悪魔を複数召喚できるほどでもない。

 今召喚できる範囲内で、あの【闘士】を倒せるレベルは……と、ヴィクターは考えて呼び出す悪魔を決定する。

 

 「《コール・デヴィル・バタリオン》《コール・デヴィル・バタリオン》《コール・デヴィル・バタリオン》《コール・デヴィル・バタリオン》《コール・デヴィル・バタリオン》《コール・デヴィル・バタリオン》、《フォース・デヴィル・ストレングス》《フォース・デヴィル・アジリティ》《フォース・デヴィル・エンデュランス》」

 

 呼び出しのは基本的な悪魔の《バタリオン》。

 ステータスのほとんどが100の悪魔たちは、ヴィクターのいくつかの支援を受けて、300までアップする。

 それは弱小の悪魔ながら、ミックに近いステータスをもつ96体の悪魔の軍勢。

 そうヴィクターが選択したのは強力な1体の悪魔による圧殺ではなく、弱小の悪魔数十体からなる蹂躙である。

 悪魔使いらしいやり方で、悪魔を使役してミックを追い詰めることを決めたのだ。

 

 「行け」

 「またわんさか出てきやがって……」

 

 96体からなる悪魔の軍勢を、ミックに向けて進ませる。

 ミックとヴィクターの間、この広場の中央にある炎の柵を、空を飛び越えることで回避して空からミックを襲撃する。

 もちろんミックを同時に襲う事ができるのは1体から3体まで程度でしかない、だが連続で襲ってくる黒い波濤をしのぐのは今のミックでは厳しいのは確かだ。

 

 (もう《暗視》も《危機察知》も《看破》もいらないな。ヴィクターの野郎が俺を倒すまでここに居てくれるんなら、足どめの役目は果たせているんだが、だからと言ってこのままおめおめとやられ続けるわけにはいかないな。ならこの状況を変えるには……あれを使うか。だが、あいつの特典武具の効果が判らないうちは切り札を切るわけにはいかねー。ならいろいろと試してみるか!)

 

 数秒の思考を停止して、ミックはまずは向かってくる悪魔を対処する。

 右の剣を上空から拳を振りおろしながら向かってくる悪魔の首を狙い。

 左の剣を振っている途中の右の剣を邪魔しないような動きで左から廻り込んできた悪魔の首を狙う。

 その二つの剣はミックの狙った通りに首を通り過ぎ、今までに使って来たコンボで同時に相手のHPを削りきる。

 ……それで2体同時に処理は出来た。だが敵の軍勢はまだまだいるのだ。

 2体を倒したことで出来た右側の隙を、1体の悪魔が爪を横に振るいしとめようとする。

 それに対し、分っていたとばかりに上に跳び上がり、HPを削り取り泡になろうとしている悪魔を踏み台にしてさらにもう1段上に跳ぶ。1度目はタイミングの関係で間に合わなかったが、2度目の跳躍の時にはリャナンシーの力を用いることで、到達高度は《跳躍力強化》によりこの空洞の中ほどまで至る。

 

 「なっ」

 

 そんな方法で軍勢を抜け出してくるとはヴィクターは考えていなかった。もちろんあの軍勢を突破してこちらに到達することは想定していたが、だからといって悪魔の軍勢が存在する上空に到達するとは予想だにしていない。

 そしてその予想だにしていないことをミックが起こしたことによって生じた、ヴィクターの意識の空白という少しの時間を利用して、ミックは詰めのための確認を行う。

 

 (リャナンシー《投擲》セット……《看破》セット)

 

 そしてミックは、装備を双剣から2本の槍に持ち替えて、それを一本ずつ全力で投擲する。

 それはこの戦いの始まりでも行った、防がれてしまった奇襲と同一のもの。

 それでもなお、同じことを繰り返すのは、防がれてしまった理由と条件と効果を知るため。

 そして最初に投擲した一本の槍が、最初の時同様に防がれてしまう。しかし今度は、不可視の壁によって防がれるのではなく、黒色の力場が現れてそれに接触することで防がれる。

 同じ状況でことなる防御方法によって防がれた理由を考えようとして……だが、相手の防御がそれで終わりでないことがわかってしまった。

 それは黒色の力場が鳴動して、こちらに黒い波濤を向けてくるのが見えたからだ。

 

 「しまっ、《瞬間装備》【ハイラウンドシールド】」

 

 ミックは咄嗟に盾を装備して、攻撃を防ぐが相手の攻撃はそれで終わりではない。

 悪魔を踏み台にしたことで作り出した時間は、逆に空中と言う身動きが取れない空間で無防備に佇んでいることを意味する。

 ミックの下に居た悪魔が一体、また一体と翼を広げ空を飛びミックを向かい、同時にヴィクターがいつの間にやら一体の悪魔を呼び出し、その悪魔(キャスター)は火の球を生み出してこちらに飛ばしてくる。

 間違いなく絶体絶命の状況。

 このままではあと少しで自分が死亡してしまうと悟ったミックは、ひとつの博打を打つ。

 

 (リャナンシー《瞬間装備》セット、《機構性能強化》セット)

 「《瞬間装備》【メカニカル・アックス】、《ゴールド・ラッシュ》起動・《メカニカルブラスト》着火ァ!!」

 

 そして博打が発動する。

 この博打に関して少しだけ詳しく説明しておこう。

 《瞬間装備》はいうまでもなく、汎用の基本スキル。【闘士】とのマッチによりスキルレベルが9にまでなっているため、高速での切り替えができるようになった。

 《機構性能強化》は本来は【工兵】などの一部のジョブで習得できるスキル。その性能はスキルレベルに応じて、機械機構を埋め込まれた武器・防具の機構を用いたスキルの性能を底上げするスキル。

 《ゴールド・ラッシュ》は〈エンブリオ〉のスキル。だが【才金貨リャナンシー】のスキルではない。これは彼の友人の一人が持つ〈エンブリオ〉によって付与されたスキル。その効果は一度限りではあるが、機械武器・銃火器の性能を底上げするスキル。これにより本来の【メカニカル・アックス】より数段火力が高くなる。

 そして《メカニカルブラスト》は【メカニカル・アックス】に埋め込まれた機構装置にしてアクティブスキル。その効果は、【メカニカル・アックス】に付属しているカートリッジを消費して、刃の先に爆発を起こすスキル。だが、ただでさえ複雑な機構に加えて、下級が手に入る程度(一応友人3人の融資があったとはいえ)の武器だ、その威力は本来ならさほど高くはない。

 

 ミックが賭けた博打はそのスキルと斧による斬撃で敵を倒そうとしたわけではない。

 それではたとえ数体の悪魔を倒せたとしても、のこりの攻撃によってそのHPは無くなってしまうだろう。

 だからミックが行ったのは《メカニカルブラスト》を使った、ノックバックによる移動法。

 通常の2Dゲームなら基本とさえいえる技術ではあるが、この〈Infinite Dendrogram〉ではその爆風で死にかねない危険な手段。だからこその博打。

 しかし、この状況を打破する方法を、ミックはそれしか思い浮かべることは出来なかった。

 そしてこのままむざむざやられるのも、癪に障る。

 ならばと、死を覚悟しながらも、その可能性に賭けた。

 そして――

 

 「なあっ!」

 

 ミックが掲げた【メカニカル・アックス】が金色に輝き、その最後の力を発動させる。

 斧の先端から本来ではあり得ない大爆発を引き起こし、その爆破のダメージを受けながらもミックは爆風に乗って移動する。

 もちろん移動先は前にまっすぐに。複数体の悪魔を置き去りにし、赤く燃える炎の柵を越え、黒い波濤を発動させたヴィクターともども飛び越えて、その数メテル先に転がり落ちる。

 

 (まずい、ここまで近づかれるとは。《バタリオン》は……間に合わないか、コレでどれくらい持ちこたえられる?)

 

 ヴィクターは焦る。

 すぐ目の前に転がり落ちた【闘士】……ミックはすぐに起き上がり、アイテムボックスから剣を取り出して向かってくる。斧の方はどうやら壊れたらしい。

 この状況では回避などまず不可能。

 防御は……と自分の腕に着けている特典武具をみながら、その内の一つだけで大丈夫か?と不安に駆られる。

 

 ヴィクターの持つ特典武具【障壁輪ファルクス】が保有するスキルは二つ。

 そのひとつは長距離・奇襲防御用スキル《緊急障壁》。

 これはストック式の防御スキルであり、一定以上の距離から放たれた攻撃、または自分が3秒前までに認知していなかった攻撃に対して、ストックを消費して自動防御するという物。ストック式であるからか、それなりに高い防御力を誇るが目の前に居る、ミックの攻撃に対しては何の意味もなさない。5分前から認知し続けた近接攻撃にこのスキルは発動しない。

 そしてのこるもう一つでどれくらい防げるかと思案しながら、新たなる悪魔を呼ぶ。

 

 「《コール・デヴィル・ナイト》」

 

 ミックは目の前に現れた騎士風の悪魔を見やる。

 それは5メテル以上の身長を持つ、巨大な悪魔。

 それが今までの悪魔と違う事を認識して、スキルレベルを上げた《看破》で悪魔のステータスを見る。

 そのステータスははっきりいってかなりの高さの代物だった。ミックは知らないがその悪魔は亜竜級、彼一人で勝つには難題に過ぎる相手。

 だからそれをまともに倒そうという意思は捨てる。

 いま大事なのは、相手の持つ特典武具の能力を見極めること。

 そして、動きながら先ほど起きた結果を確認する。

 彼が投げた槍が、相手の黒い力によって防がれた理由。そしてなぜあの時、不可視の力で防がなかったのか。

 最初の不可視の力によって防がれた時は、相手のステータスに何の変化も無く、ただ防がれた。

 だが2回目にミックが投擲した槍を黒い力で防いだ時、相手のMPが結構な量減っていたのを《看破》で確認している。さらに一度目の時と違い、ヴィクターはスキルの名前らしきものを口にしている。

 明らかに2回目の方が割に合わないスキル。防御能力もミックが見たところ1度目の不可視の力の方がはるかに高い様な感じがした。

 それらの情報をもとにミックはひとつの決定をする。

 

 (……よし、一度目の見えねー壁は、一度きりのスキルとしてみてもう二度と使われないと思っとこう。2度目のやつは多分何回でも発動できるんだろうけど、あいつのMPの量からして発動できるのは後1回。受け止めた威力に比例して消費MP量が増えるとしてもあの程度の威力で、あれだけ減るなら大丈夫だろう)

 

 もちろん、その推測は少し間違ってはいる。

だが一度目のスキル《緊急障壁》がこの戦いで使われないのは間違いない。

 そして二つ目のスキルも、MPを回復させるポーションなんかを飲めば、状況はまた変わるのだが、幸運なことに今彼が持っているMPポーションで2回目を発動できるものは持っていいない。

 だからミックが【障壁輪ファルクス】を攻略するためには後一度使わせればいい。

 ただし――

 

 (さすがに《カウンター・プロテクション》の消費は大きい。あと一度の発動がせいぜいか、全く特典武具だというのならもうすこしローコストの特典が落ちてくれればいいものを)

 

 《カウンター・プロテクション》それが、【障壁輪ファルクス】の保有する第2スキルの名称。

 効果はMPを消費して防御しつつ、防御に使った力で余ったMPを利用して攻撃する攻性防御スキル。

 使ったMPをそのまま攻撃に使うという性質上、消費するMPが多くなってしまったのは仕方がないだろう。

 またローガンにも言えることであるが、【悪魔騎士】にMPはさほど多く必要ないのだから。

 そしてMPの消費が多くてもいいと考える。なぜなら――

 

(だがそれでもある程度は問題ないだろう、まだ竜鱗を数枚持っているし、場合によっては【救命のブローチ】もある)

 

 そう〈ミルキオーレファミリー〉のなかで、ヴィクターだけは【救命のブローチ】をふくむ、いくつかのアイテムを持っている。

 それは、彼が死んでしまっては、すべての計画がついえる為。

 そのために、少しの計画の遅れを覚悟でいくつかのアイテムを保有することになったのだ。それに寄って来る雑魚を倒すのはヴィクターや高弟たちが担っていたのだから、ある意味当然の選択かもしれない。

 だが、それは今のミックにとっては致命的。ただでさえ強力な相手が、防御に向いた特典武具だけではなく、生存にむいたアイテムまで持っているのだから。

 そう……本来なら。

 

 (この悪魔を回避しながら、ヴィクターの特典武具のスキルを使わせて、時間がたてば使ってくるだろうヴィクターが呼び出す悪魔の攻撃をかわす……無理だな。俺に弾幕ゲーを無傷で回避するスキルなんてない。ならば……相手のミスを祈って一か八かやってみるか)

 

 決める。

 《ナイト》の強力な一撃を回避しながら、ミックは腰につけてあるチェーンの留め具を外す。

 今から行うのはミックが現時点で使用可能な、最大の切り札。

 留め具を外していきながら、ヴィクターの方を見ると新しく何かしらの悪魔を呼び出そうとしている。さらに少し視線を外すと《キャスター》が新たな魔法をその身を賭して発動させようとしている。

 悠長にしている時間はないと、ミックはリャナンシーの持つ第二のスキルを発動させながら、チェーンに付いた女性をかたどった金貨を投げつける。

 それがスキルの発動条件。そのスキルの名は――

 

 「《精を奪い、才を与えよう(ギフト)》」

 

 それをヴィクターはただの悪あがきと受け取った。

 いくら後衛型のヴィクターがもろいといっても、この程度の攻撃でどうにかなるわけがない、と。

 そして下級職がもつアイテムに、ヴィクターをどうにかできるアイテムを持っているわけはない、と。

 そう、たしかにミックは大したアイテムは持っていない。彼が持っていた【メカニカル・アックス】に関しても、ヴィクターにしてみれば木端の武器。上級ならもっと強力な武器があるのだから。

 

 だが唯一、その金貨だけは異なる。なぜならそれは〈エンブリオ〉。下級であろうとも〈マスター〉であるなら持ちえる、規格外の性能を保有するオンリーワン。

 取るに足らないと決め付けたヴィクターが、ミックが賭けた未来の通りにその力を受け入れる。

 悪魔を呼び出すためにあげた右手にその金貨とチェーンは巻き付き――

 

――その発揮した効果によって、この空洞内に居たすべての悪魔が消えうせる。

 

 「っ《コール・デヴィル・ナイト》……なっ、なぜでない」

 

 そしてヴィクターが呼び出そうとした悪魔の召喚もキャンセルさせる。

 

 それを成したのは当然、ミックが発動したリャナンシーの第二のスキル《精を奪い、才を与えよう》の効果。

 ただしこのスキルが直接この状況を引き出したわけではない。

 なぜならこのスキルの効果は『自分が保有する、下級職で手に入れることができるスキル1つを、この〈エンブリオ〉に触れた相手に渡す』というもの、これ自体に悪魔を消し去り、スキルの発動をキャンセルさせる能力はない。

 だから、この状況を起こしたのは、渡したスキルによるもの。

 

 そのスキルの名は《ペンは剣よりも強し》という発動パッシブスキルによるもの。

 このスキルは【記者】系統の代表的なスキルであり、『パーティーメンバーの戦闘を見ることで経験値を得ることができ、パーティーメンバーにも同量の経験値が与えられる』という、経験値ブーストのスキル。

 だが、この効果ではこの状況にはならない。こうなったのは、このスキルに付随するある制約のせい。

 それは『スキル発動中は戦闘行為を行う事ができず、スキル自体をOFFにすることもできない』というもの。

 この制約によって、《精を奪い、才を与えよう(ギフト)》の効果が続く限り、相手を無力化することができるのだ。

 

 そしてミックは邪魔をする悪魔たちがいなくなった、ヴィクターとの間の領域を駆け抜け、拳を振り上げて―――

 

 「っま、まて。すこし話し合おうじゃない……」

 「黙れ、純粋な才能に溺れたものよ(てんさい)。俺の才能(エンブリオ)を思い知れ」

 

 振りぬいた拳をヴィクターの顔面にたたきつけて、数メテルを吹き飛ばす。

 その一撃によってヴィクターは気絶し、これによってこの戦いは決着を迎えたのであった。

 

 

 「にしてもやばいな」

 

 ミックはステータスを確認する。

 そのステータスには減り続けるHPとSPが表示されている。

 それが《精を奪い、才を与えよう》のデメリット。

 このスキルを発動中、自分と才能を与えた相手のHPとSPを削り続ける。

 これによってどちらかがコストを払えなくなった時点で効果が終了するが、そうなってしまったらここから出るのは不可能だろう。

 もちろん〈エンブリオ〉のスキルをキャンセルすることもできるが、いつヴィクターが起きてこないか心配ではある。

 もし消してしまった場合、その日はもう発動できない一日限りのスキルだからだ。

 そしてスキルの効果が途切れた状態で、再びヴィクターとやり合う事になってしまった場合、こちらの敗北は確定的だ。

 だから、気絶させてからずっとスキルを起動させたままなのだが……

 

 「さてどうしようかな……って、お?」

 

 その不安はどうやら無意味なものだったらしい。

 頭上から大きな音が響き、明かりと共に1体の悪魔とそれに乗った悪魔使いが降りてくる。

 それはギルドマスターだった。

 

 「おーい、平気かミックーって、ヴィクターの野郎を倒したのかよ、どうやってやったんだ?」

 「ふふん、秘密さ。そっちも無事に終わったようでなによりだな」

 「ああ、数が多かったから逃がさないように仕留め切るのは少し骨が折れたがな、基本的に弱かったから問題はなかったさ。ヴィクターのやつを無視してアルフレッドたちの応援に向かってもよかったんだが、あんたのことを助けに来たんだよ」

 「おー、それはありがとさん」

 「んで、ヴィクターのやつは殺さないのか?」

 「あー、なんかここまで精巧なNPCだと殺すのに躊躇しちまって、って同じNPCに言う事でもないか……」

 「?まあ、あんたが殺したくないってんなら俺の方で処理するがいいな?」

 「……そうだな、いかしておいてもいざという時に逃げられかねないしな。……わかったよ」

 

 そうか、とギルドマスターはアイテムボックスから武器を取り出す。

 今ならミックのスキルによって、ヴィクターを苦も無く倒せるだろう。

 ミックはその処理を……見届けた。

 NPCだと思いながらも、なぜかその光景を見なくてはならないと思ってしまったのだ。

 そしてギルドマスターは武器を振りかぶり、その一撃によってヴィクターを終わらせる。

 

 それが半年以上にもわたる悲劇をふりまき続けた、〈ミルキオーレファミリー〉の最期だった。

 

 

To be continued

 




余談1・《精を奪い、才を与えよう》
   『自分が保有する、下級職で手に入れられるスキルひとつを、この〈エンブリオ〉にふれている3分間まで相手に渡す。このスキルで相手にスキルを渡している間、そのスキルは使用ができず1秒ごとに自分と相手のHPとSPを10ずつ減らす。
 
 ※このスキルは1日に1度しか発動できない。
 ※渡したスキルは相手のメインジョブのスキルとして扱う。』

(=○π○=)<リャナンシーの第2スキル。
(=○π○=)<このスキルと《ペンは剣より強し》のコンボは、3分間戦闘何もさせないけど、HPとSPを1800奪わせてもらうよ!になる。
(=○π○=)<ひどい。

(=○π○=)<ちなみに本来このスキルは味方にスキルを与えることを目的としたスキルの為、効果に反して条件は少し軽め。
(=○π○=)<このスキルの下級職で手に入れられるスキルという記述は、下級職のジョブにあるスキルだけでなく、下級職からつづく《看破》Lv10とかも渡すことができる。その時はレベルがプラスされるのではなく、効果が切れるまで上書きされる。
(=○π○=)<そしてこのスキルは《ブラッドアビリティ》の効果によって高まった状態も渡すことができる。ちなみにそのばあい、《ブラッドアビリティ》の枠を1つ消費したまま効果が切れるまで変更できない。

(=○π○=)<ちなみに、このスキルが生まれた理由は、ミック君が得られた才能を使って人に貢献してみたいという思いもあったから。それなのに、結果はこれである。
(=○π○=)<ひどい(大切なので二度ry)
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