急いでいたこととはいえ、未完成状態で更新してしまい申しわけありません。
第4話 Go to east, Go to bottom
25 day
□第3小決闘場 【悪魔騎士】ローガン・ゴールドランス
「ぐぅっ」
走りながらうめき声を出す。
いや、走るというよりは逃げるというところだろう。
だが、自分が今陥っているこの現状を認めがたくある。
なぜなら、それは自分が弱いから。
なぜなら、それは俺がこの状況を打破できないが故。
なぜなら、それは本来俺の望む未来のためには、俺が相手に立ち向かわなければいけないが為。
だから認めがたい。
今俺が敵対している相手――ミック・ユースに防戦を強いられていることを。
「どうしたローガン。逃げてちゃ戦いにならないぜ!」
「っく」
ただし、この戦いはお互いの尊厳をかけた大事な戦いと言うわけでもなく。
決闘ランキングをかけた大事な試合と言うわけでもない。
この戦いはただの模擬戦。
今までにもミックと何度か戦って来た、ありきたりなものだ。
だが、ほぼ2週間ぶりに行われたこの模擬戦は、今までとは異なる様相を呈している。
(ふざけるな。この俺が逃げなきゃいけないだと!)
もちろんただ逃げまわっているわけではない。
先ほどから《ナイト》を含む悪魔を何度も呼び出している。
この戦いを始める前には9000近いポイントがあり、《偽証》による倍加を含めればかなりの余裕があった。
だが今、ポイントが倍加を含めて2000を切ろうとしている状況になっても、まだミックを倒すことができていない。
呼び出した強化《バタリオン》はすべて一刀のもとに切り伏せられ。
呼び出した二重《ナイト》もまた、ミックとの数度の攻撃によって泡と散った。
「くそぅ!“来い”《コール・デヴィル・バタリオン》」
48体の悪魔を呼び出す。
だが――これでは解決にはならない。
新しく追加した悪魔がまた一体、また一体と討ち取られる。
俺が一方的に追い詰められている、この状況を全く理解できないわけではない。
これは単純にお互いの性質の差であり、そして性能の差。
俺は本体が弱い広域制圧型で、ミックは自身が強い個人戦闘型。
単体での能力において、どちらに軍配が上がるかなど、火を見るより明らかだろう。
それでも決闘ランキング予選までは、お互いに互角もしくはこちらが上回ることがあった。
互角だったのは最初の3日間。あの時は一応の勝利をおさめたが、後の2日でお互いに戦いあった結果は、白星と黒星が平等につく結果となってしまっていた。
こちらが上回っていたのは、あのゲーティアを倒してから。あの時手に入れる事ができた、特典武具のスキルによってミックを相手にごり押しすることができるようになった。
そしてこちらが下回ってしまったのは、言うまでも無くあの20日前の出来毎の所為。それは単純にミックの〈エンブリオ〉が上級に上がったからであり、俺の〈エンブリオ〉が未だ下級にあるからだ。〈エンブリオ〉と異なり、ジョブはこちらが上級職なのだがそれでもやはり〈上級エンブリオ〉の性能はこちらを凌駕していた。
(レオンがミックに合う下級職を見つけたとか言っていた時は、次のジョブで下級職を選ぶことを選択ミスだと思っていたが……シナジーの合うジョブと〈エンブリオ〉の組み合わせ。たとえ下級職であろうとも厄介極まりないという事か!)
ミックが保有する戦闘力のすべてを理解しているわけではない。
だが、一部の基本的な事に関してはお互いに明かして共有している。
その一つが、ミックが新たに就いた下級職の詳細。
そのジョブの名前は【
【万屋】は、【獣戦士】や【死兵】と同じくジョブスキルをひとつしか習得せず、かつステータス補正があまり高くないジョブだ。
しかしそれを補って余りある恩恵を、そのジョブスキルはミックに与えている。
そのジョブスキルの名前は《スキル上限開放》スキル。
ジョブレベルを保有するジョブスキルであり、その効果は『このジョブスキルのスキルレベルの数値分まで、ジョブスキルレベルの上限を上げる』と言うもの。
このスキルは【万屋】系統限定のスキルであり、他のジョブでは使用できない。
そのため《スキル上限開放》スキルを十全に生かすためには、他のジョブで《看破》や《ラスト・コマンド》などの汎用スキルを習得しなければならない。
すなわちこのジョブは汎用スキル特化ジョブ。
しかし一部を除き、汎用スキルの性能は便利ではあっても強力ではない。
ステータス補正が低いという事もあって、このジョブを選ぶ物好きはティアン時代にはそれほど多くはなかった。
もちろんこのジョブをメインに据え、他のジョブも合わせて高レベルの汎用スキルを手に入れようとするティアンも少数ながら居た。《看破》や《鑑定眼》や《真偽判定》などの一部スキルを特化させたものは、それぞれの国としても一人は確保しておきたいからだ。
だが戦闘に特化したジョブ構成を選んだ者にとっては不要なジョブだ。それはティアンの時代のみだけではなく、〈マスター〉の増えた現在でも変わらない。このジョブとシナジーする〈エンブリオ〉を保有する一人の〈マスター〉を除けばだが。
「っぐ、シュテル!」
(ミックが相手だと『ボムプラトゥーン』はかわされてしまう。物理特化も厳しいだろう。なら!)
『かしこまりました。《我は契約より玉と黄金を望む》起動。魔法特化『キャスターバタリオン』行きます!』
ミックの方を確認する。
今もミックは動き続けながらこちらに近づきつつあり、呼び出した悪魔のほとんどが倒されている。
時間の余裕はない。
「いくぞ“大軍の魔術師よ”《コール・デヴィル・バタリオン》」
呼び出されたのは48体の悪魔。
《契約》により魔法スキルを植えつけられた、消費型の魔弾。
悪魔たちに己が身を代償とした魔法を使用するように命令しようとして……
「《ゴールド・ラッシュ》ファイア」
金色の魔銃を構えたミックの一撃が放たれる。
武器を消耗品にする代わりに、強力な性能を発揮させるそのスキルは、ただでさえ強力な魔弾を強化する。
その一撃を予期しておらず、予期できなかった為に、俺は無防備な姿をさらしてしまう。
弾丸は《反応召喚》という黒い障壁に阻まれ、その威力の一部を減衰させながらも、障壁貫通する。
そして完全に無防備だった俺は、回避も防御も選択できず胸元に命中してしまう。
そしてその一撃は俺のHPをすべて削りきり……
◇
「畜生ッ!」
『主様!』
地面に拳を振りおろす。
それは当然、ミックに負けた悔しさをぶつけるためだ。
今までにミックに負けたことは数度あったとはいえ、それはお互いに互角な状況から押し切られたことぐらいだった。
しかしこうも一方的に敗れ去るとは、思いもしなかった。たとえ〈上級エンブリオ〉の力があるとしても、上級職と特典武具の差によって拮抗出来るとは思っていたのだった。
だからそれができなかったことに憤りを感じる。
俺の力はそこまでなのか……と。
「ずいぶん悔しそうだな、ローガン」
足を屈めて地面に右手をぶつけていた俺に、後ろからミックが声をかける。
そしてその言葉に苛つき、ミックの方に振り返る。
「き……」
「おちつけよローガン。俺だってお前に負け続けているんだぜ、圧倒されてな」
文句を言おうとした口を、ミックの言葉で押しとどめられる。
ミックの顔に浮かんでいたのは、勝ったが故の高揚感ではなく、こちらを真摯に見つめる表情そのものだった。
「……何?」
「一度や二度の負けで不貞腐れるな、ただ一度の大敗で諦めるな。ゲームなんだから、負けても今度は勝ってやる!でいいんだよ」
「……それは」
……確かにそうかもしれない。
負けたのは悔しい。負かした相手に対する文句もある。
だが、負けたからと言って、ここで逃げたらそれこそ負けなのかもしれない。
俺は強い。
だが、だからと言って他の人間が俺と同じか、それ以上にならないという保証は……残念ながらない。そういうことだ。
ならば、そいつより、ミックよりもっと強くなってやる。
手段はいくつか思い浮かばないでもない。
後方から強力な悪魔モンスターを呼び出すというのは……却下だな。そんなことをしていたのでは原作のローガンの二の舞だ。
ならば俺自身の強化。その為には……
「うん、表情変わったな、ローガン。そうだぜ、それでいいんだ」
「……ミック。なぜ俺に対してそんな助言を行う?俺とお前は同じランキングを争う立場だろう、ここで俺を放っておけばお前が上に立つことができただろうに」
「あのなぁ、ランキング戦を戦い合う競争相手をなんで自分の手で引きずりおろさなきゃならないんだ。いいか、俺はお前に勝った上で、ランキングの上にいきたい。誰かを蹴落とした上での勝利なんて真っ平ごめんだね。それとローガン?俺はそんなことしないでも、お前の上に行くぞ?そんなことしなければ、お前の上に立てないなんて言うなよな」
……そうか、そういうことをいうのか。
やはりこういうやつなんだろうか?
俺はこういうタイプになれない。だがそれでも……。
ああ。
「ほざけ、次にランキングで戦う時に、こんな簡単に勝てると思うなよな」
「ハッ、勝ってやるさ」
お互いに笑いあう。
それは互いに認め合ったからなのであろう。
俺はおそらく初めて………。
「……で、なんでお互いに笑いあっているのです?少し気味が悪いのです」
「まあ、そういうな嬢ちゃん。ぶつかりあって、お互いの友情を確かめあうなんて美談じゃねぇか。まあ戦場とかでならともかく、こんな模擬戦を行う決闘場でっていうのは場面選択ミスっているとは思うがね」
ハッ。
その二つの声に驚き、振り向いた先に居たのは桜火とブルーノだった。
……ッ、今のを見られていたのか!
それにしてもなぜこいつらがここに?
「あー、そういやこいつら呼んでいたの忘れてたわ」
お前の所為かミック。
◇
「はー、なるほど。俺たちでパーティー組んでモンスターを倒そうってことか」
あの後決闘場から出た俺たちは、一度休憩がてらに近くの喫茶に入り、そこで二人を呼んだわけをミックに訪ねた。
要は交流がてらに、遠征しようってことか。
だが……。
「それはいいが、お前たちは予選はいいのか?」
こいつらはまだ、予選を勝ち抜けていない。
もちろんこいつらが他の参加者に負けているのではなく、お互いに潰しあって誰一人として勝ち抜けることができていないのだ。
くじ運が悪いというのか、誰か一人が9連勝した次の相手が同じ〈マスター〉で、そいつに敗れるということが何度もあった。
こいつら全員、一度は9連勝しているのに、最後の一戦を落としているからな。
一度、八百長試合で誰かが順に勝ち抜けたらどうだ?と提案してみたら、全員にあっさりと断られてしまった。
ちゃんと勝たなければ意味がないんだと。こいつら決闘脳だろ。
まあ、俺としてもここでこいつらと戦えば、負けてしまうかもしれないから、俺が強くなるため上に上がるために、足踏みをしてくれる事は嬉しいがな。
「ああ、全員勝率がフラットになっちまったからな。休憩がてら遠征しようぜって言ってみたらこいつらが受け入れたんだよ」
「ワシらとしても、こうも動きがないとキツイからの。この状況を打破できるブレイクスルーが起きないかとも思って受けたのだ」
「誰も勝ち抜けていないですからねー。最後の一戦まで他の〈マスター〉と戦わずに、最後の一戦を勝てたローガンは運に恵まれていると思うのです」
「……というわけで、一緒に行こうぜローガン」
なんでだ。
こいつらだけで行けばいいだろうに。
そもそも俺のジョブはパーティープレイに向かないといったことがあるはずだが。
「……行くにしても、お前たちの試合はどうするんだ休むのか?俺の次の試合は一週間後だが」
「ああ、とりあえず2・3日分は入れてない。もし戻るのが遅くなっても一勝程度なら手放しても、それほど惜しくないしな」
「それら込みで、ミックの申し出を受けたんじゃからな」
「全員問題はないのです」
ああ、俺抜きで話は進めていたのか。
「というわけだ、一緒に遠征しようぜ」
「なにが、というわけだ、だ。何も説明していないだろう」
「特に細かい説明とかも無いと思うんだが、あまり細かいこと言わずワシらに付き合うくらいの気持ちでええ」
はあ、どうするかな。
確かに、とくに用事はない。
俺は大決闘場で3日前に行われた、決闘ランキング20位との試合で勝利することができた。
そのため次に挑める最大階級の決闘ランキング15位と戦うために、レベル上げをしなければならない。逆にいえば、それぐらいしか予定がない。
別に拒否しても、問題はない。
実際、この提案を蹴ったからって俺に不利益が及ぶわけでもなし。
だからどちらでもいいのだが……。
「……わかった、付き合おう」
たまにはこういうのもいいだろう。
一人で頂点を目指すというのは、俺の性に合っているが、それで限界が来ることもあるかもしれない。
変化を期待するのなら、こういった他人とのかかわり合いもまるっきり悪いものではないと思える。
「おうし、決定だな。それじゃあ今から行くか!」
「今から?!」
「善は急げというしのぅ」
「まあ急すぎるとは思うのです」
「しかし、行くとしても、どこに行くのでしょうか? 今ここで聞かされたので、主様は何も用意していないのですよ。遠征に必要な特殊なアイテムは何一つとして保有しておりません」
一応、少しだけ食事を入れている程度か。
ログイン初日の失態から、俺とシュテルそれぞれ別に、3食分の水と食料をアイテムボックスの中に入れてはある。
二人が入れる程度のスペースを持ったテントと、低レベルモンスターよけの結界装置も1つだけ準備はしてある。
だが、専門的な遠征用装備など一つも用意していない。もっとも、専門的な遠征用装備がどういったものかは分らないが。
「とりあえず、俺がパーティー用のテントをもっている。内のパーティーで使っている奴だな。男女共同だけどいいだろ?」
「一応私はうら若き乙女なのですけど……。まあプレイヤー保護機能がありますし、構わないのです」
ミックのパーティー用のテントか。
ミックが上級に上がったあの日に、一度仮眠をとるために利用させてもらったけど、かなりの広さだった。
広さは大体10畳ぐらいか?小さめのビニールハウスともいえるかもしれない。
ゲームらしい簡単な操作で広げる事ができる機能もあって、結構な値段はしたそうだが。
確かにあれなら、このパーティーで使う分には余裕で余るな。
「それでどこに行くんだ」
場所を聞いていなかったが、移動も含めると結構な時間がかかりそうだな。
「んー、行き先か?とりあえず東の方にずーっと言ってみようかなって」
「行き当たりばったりか!」
「特に決まった場所は決めてないからな」
「狩り場は大丈夫なのか?あまり弱いモンスターしか出ないようなら、無駄骨もいいところなんだが」
「それは大丈夫だろ。レオンに聞いた限りだと、基本的に皇都から離れるほどモンスターが強くなっていくって話だったし。それに皇都から東に進んでいけばいくほどモンスターが強くなる良環境みたいだぜ、まあカルディナとの国境線を越えればモンスターは弱くなっていくそうだが、そこまで行けないだろ」
「移動に関しては、ワシのクーに乗せていってやる。徒歩で歩くよりも何倍も速い」
「やったー。クーちゃんに乗せてもらえるのです」
あー、あの犬のガードナーにか。
確かにあれに乗せてもらえれば、俺が歩くより数倍早いだろう。
だが……、と思い桜火の方を見る。
「俺たちはいいが、桜火は大丈夫なのか?あの犬は結構大きいが、それでも4人全員が乗るのならくっつかないとだめだろう?いいのか」
「クーちゃんに乗れるのなら些細なことなのです。我慢します」
「大丈夫だろう。この前上級に上がったおかげでクーの大きさが結構大きくなった、4人全員乗せても間はあくだろう」
「「「なっ」」」
驚いた。
ブルーノもすでに〈エンブリオ〉が上級に上がっていたのか。
気がつかなかったぞ。
「そうなのですかー。私の〈エンブリオ〉はいまだに下級のままなのです。早く進化してほしいのですが」
俺のルンペルシュティルツヒェンもまだだな。
もっともゲーティアの戦いのときに使用した■■■のせいで、しばらく進化はしないだろうとふんで入るのだが、それでもあの神の言う通りなら早めに進化するだろう。
「そうか、それなら大丈夫そうだなー。とりあえずこれから食糧を買いこんだら、早速行くとしようか。目指せオケアノス!」
東から海の果てを目指す気か!黄河まで?!
◇◇◇
「わぁーい、私よりはやーい」
顔に当たる風の冷たさを感じながら、周囲を見渡す。
あの後一時間ほどかけて、必要な物資を買いこんだ後は、東門からブルーノの〈エンブリオ〉である犬のガードナーに乗って移動していた。
実際に、ガードナーの速度はかなり速い。
まるで、高速道路を走る車に乗っているかのようだ。周りの光景が矢のように通り過ぎる。
おそらくAGIは1000を軽く超えているのだろう。
「このペースなら、夜までには山を通過できそうだな」
ああ確かにこのペースなら十分に行けるな。
まえに〈ヴァニリア村〉へ向かうためにここを通った時は、丸一日かけて山の中腹まで歩いて、または飛んでいったのだが、本当にAGIが高い連中はこの世界を小さくできるな。
あの時あれだけ時間をかけて進んでいったのが、馬鹿みたいに思えるぞ。
〈クリエラ渓谷〉の大亀裂を避けて走っていっても、夜までには越えそうだしな。
「もうすぐで大きな大渓谷が見えるな」
「渓谷と言うよりは、亀裂に近いと思うんだが」
「あれは亀裂なんてものじゃないのです」
まああんな大規模なものは、亀裂とは言わないだろう。
人為的に作り出されたものとはいえ、あれは渓谷と呼ぶにふさわしい。
縦の長さは数百キロにもおよび、本来短いはずの横の幅でさえも、対岸が見渡せないほどに距離が空いている。
そしてその底はどのくらいあるのかいまだにわかっていないそうだ。
今までに何回も調査隊を送り出しているそうだが、一人も戻ってきていないらしい。
一度、高位の【傀儡師】のティアンに頼んで探索してもらったことがあるらしい。
そのティアンがつくった、人形はかなりの高性能で、戦闘能力も高かったらしい。
探索に必要な探知スキルや、生存することができるための分体を作り出す能力や、そして主に情報と伝える機能など、さまざまな能力を併せ持ったその人形は………しかして、帰還することは出来なかったそうだ。
最後の通信で主にもたらされた情報によれば、地の底には数体の強力なモンスターが蔓延っていることが知らされた。
これが数百年前に起きた出来事。それからドライフ皇国はこの奥底に探査隊を派遣することはなく、個人の【冒険者】などが亀裂の探索に向かう事があったが、いまだに帰還者はいなく、どうなっているのか全くもってわからないそうだ。
『そろそろ、〈クリエラ渓谷〉が見えてきますね』
〈クリエラ渓谷〉のことを考えていたら、その大亀裂が見えてきた。
本当に早いな、ここまでで大体2時間程度か。
「さて?亀裂を大きく迂回するか、それともギリギリ通るかどっちにする。ワシはギリギリだな」
「私もギリギリでいいのです」
「俺もそれでいいぜ」
「俺もそれで構わない」
『私は大きく迂回した方が、安全だと思うのですが』
スペースが足りないからと、合一形態をとっているルンペルシュティルツヒェンが不安を口にするが、いまさら一人が反対を言ったところで覆りそうもない。
危険もそれほどではないらしいしな。まったくないわけでもないらしいが。
「それじゃあ、あそこをショートカットするか。クー」
「バウ」
ブルーノが選んだのは〈クリエラ渓谷〉の亀裂ギリギリの足場。
亀裂から数メテル程の余裕を持った、細い登山道。
〈クリエラ渓谷〉から逆側には高い崖がそびえたっている。
このガードナーでもこの崖を登りきるのは困難だろう。
だが、この細い道を通らないならば、大きく迂回しなければならない。
だから、ブルーノはこちらを選んだのだ。
今までに何人も使用しているから俺たちも大丈夫だろう、という根拠のない自信を信じて俺たちはその登山道を通り……
「なっ!」
「やべっ」
「きゃっ」
「くそっ」
『主様!』
「バウゥ」
その登山道はいかなる理由か足を踏み込んだ途端に、ガコッという音を立てて崩れ壊れてしまった。
そして当然、そこに足を踏み入れていたクーとそれに乗っていた俺たちは、当然重力と言う摂理に従って、亀裂を滑り落ち……
「「「わぁぁーーーーーー」」」
俺たちは諸共に奈落へ落ちて行った。
To be continued