閣下改竄   作:アルカンシェル07

30 / 52
第7話 百重塔・攻略

第7話 百重塔・攻略

 

□■迷宮内 25 day 4:00 p.m. 10階層

 

 「うぉぉおおお」

 

 ミックが駆ける。

 敵は一度ローガンが前に倒したことがある敵であり、〈クリエラ渓谷〉の地下でも【偽神】によって倒された相手。

 硬い岩に覆われて、四肢を地面につけたゴーレム。名は【グラン・ロックゴーレム】。

 ミックが持つのは【ゴラウハンマー】と言う銘をつけられたプレイヤーメイドの一品である。最初の狩り場で倒すことができる3種類のモンスター素材を使用して、ある〈マスター〉が造り上げたもので、素材こそ下級が倒せる範囲のものでしかないが、ジョブと〈上級エンブリオ〉のシナジー、そしてA・D・A(アンジェラ)の〈上級エンブリオ〉の力によって、現在の最前線……第一陣のトッププレイヤー層が使うレベルの武器に仕上がっている。

 そして、ミックがその【ゴラウハンマー】を【グラン・ロックゴーレム】に叩きつける。

 そのハンマーは二人の〈マスター〉が造り上げた通りの性能を発揮し、【グラン・ロックゴーレム】のHPを削りきる。

 

 「おっ、【宝櫃】ゲットだぜ」

 

 最後の一撃を加えた事が貢献値で最も評価されたのか、ミックは手に入れた【宝櫃】から【エレメンタリウム】などのアイテムをいくつか入手する。

 

 「あー、ミックさんにとられちゃいました。私も結構ダメージ与えていたと思っていたのですが」

 「桜火も頑張ってはいたと思うが、ゴーレム系相手に剣と炎では相性が悪かったな。そしてワシらは、あまり活躍ができなかったからな」

 

 ブルーノの内容にローガンが、少しばかり苛つく。

 確かに今回の戦闘では活躍できなかったが、それは相手が単体のボスモンスターであるから……と、反論をしようとしてその反論が出来ないことに思い至る。

 それはこの10階層までの10の戦いを振り返ればいい。なぜならここに至るまでローガン・ゴールドランスと言う人間が、MVPに称される事を為した事は一度も無かったのだ。

 

ボスモンスターは単体に向いたミックがいの一番に突撃し、HPの多くを削る。

 大量の雑魚モンスターは、ミックが広場内を駆け巡り強いまたは厄介なモンスターを倒して回り、弱い雑魚は桜火の蛇腹剣の一振りでなぎ払われる。

 ブルーノは現時点で本調子ではない故に、MVPを飾ることはない。だがもし彼が調子を取り戻したというのなら……その時はただ一人後れをとる物が現れてしまうだろう。

 

 

 そのただ一人……ローガンが後れをとる理由は単純である。

 ステータスの多寡と、初動の遅さ。大きく分けてこの二つであり、最大の致命的な部分だ。

 

 ステータスの多寡に関しては、現在如何しようも無い。〈エンブリオ〉のステータス補正がマイナスという仕様になっている為に、ローガンの本来のステータスは同レベル帯の戦闘職に比べて格段に低い。

 《融合召喚(フュージョンサモン)》という手もあるが、それは初動の遅さをさらに遅らせてしまう結果になる。

 

 初動の遅さは、《融合召喚》や悪魔召喚スキルを行うのに必要な掛かる時間のため。

 《融合召喚》はステータスを爆上げすることができるが、その発動までに数秒ほどとはいえ時間が必要であり、またその時間を使って行えるのがステータスアップなために、戦力を増やすことができず決定打にはなりえない。

 悪魔召喚スキルもまたその発動には時間がかかる。確かに《速効召喚(クイックサモン)》を使用すればその時間を大幅に短縮することができる。しかし他の部分をいじることは出来ず、またスキルを発音しなければならないという、この世界における基本的なルールによって、これまた数秒ほどの時間が必要になる。

 低速だった下級の頃なら、その初動の遅さを気にすることも無い。

 だが、この先に進むのなら。

 後方に隠れてただ悪魔を呼び出し続ける広域制圧型ではなく、前で剣を振るう事を視野に入れるのであれば……

 

 

 上の階へあがる階段をのぼりながら、ローガンは今回の機会を捨てる事を決意する。

 そしてローガンはアイテムボックスから取り出したのは一降りの剣。

 「ああはならないぞ」と思いながら、ローガンは強くなるために泥にまみれる道を選んだ。

 

□■迷宮内 25 day 4:40 p.m. 20階層

「ぐぅっ」

 

 ローガンが弾き飛ばされる。

 握った剣を取りこぼすことこそなかったが、相手の【ゴブリンウォリアー】との討ちあいに負け、後ろに飛ばされてしまう。

 AGI(速さ)こそ敵に圧倒しているものの、STRが劣るためにまともに打ち合えなかったのだ。

 もっともそれはローガンもそれに関しては織り込み済み。

今彼が必死になっているのは、ただひたすらに剣を当てるという作業なのだから。

 もちろん身体に剣を当てるだけで敵を倒すのは不可能に近い。ローガンの素の攻撃力では、相手に有効なダメージを与えるほどの火力は出せない。

 

STRは言うまでも無く低く、武器の攻撃力もそこまで高くはない。

初心者用の剣から買い換えて、今のレベル帯に合った装備にする……事が出来なかったため、少し妥協したある程度の性能の剣しか用意できなかった。

 性能が低い装備しかそろえる事が出来なかったのも、当然のこと。

 問題なのは金銭の事ではない。金銭ならばファイトマネーもあってそれなりに所有していた。

 だから、問題は別の事。そしてそれはローガンに常に付いて回る問題であり、それはステータスだ。

 〈UBM〉を倒すことで手に入れられるMVP特典は装備に一切の条件がかからない。

 だが、【宝櫃】等で手に入れられる武器にはステータスによって装備制限がつくのがほとんどだ。

 

 ローガンがほしいと思った装備品はすべて、レベル以外の条件がきついものばかりだったのだ。

 それでも妥協して手に入れる事ができた武器の性能は、【復讐乙女 ネメシス】と同程度の150という攻撃力は持っている。もっともスキルはひとつも無いのだが。

 

 

 

 「まだっ、まだぁっ!」

 

 ローガンが立ち上がり、目の前の【ゴブリンウォリアー】に再び切りつける。

 この部屋で戦闘が始まってから、もうすでに10分が経過している。

 この時点で残っているモンスターは、ローガンの目の前に立っている【ゴブリンウォリアー】1体のみ。

 他の敵を倒し終えた3人と、傍観を最初から決め込んでいるルパンは、ただ黙ってローガンと【ゴブリンウォリアー】との戦いを見守っている。

 

 3人からすれば……いや、ローガンを含めても全力を出せば一蹴に付してしまえるような相手。

 ミックはそれを、あいつが求める才能(つよさ)を手に入れる為に必要な物だと、手を出さず。

 ブルーノはそれを、あいつが自分であるために必要なことだと、手を出さず。

 桜火はそれを、なんか熱血している、と思いながらも他の二人に付き合い手を出さず。

 ルパンは、……変わろうとしているんだな、と思いながらも彼の自由の為に手を出さず。

 

 ――そして決着の時を待つ。

 

 「これっ、でぇ!」

 

 ローガンの一振りが、【ゴブリンウォリアー】の脳天にぶち当たる。

 【ゴブリンウォリアー】は、今までの数度の剣戟からその威力は高くないと踏み、耐えるために歯を食いしばる。

 確かにAGIをブーストした一撃では、いかに脳天に当てる事ができたと云っても、それで倒すことは不可能だ。

 

 だが………それを覆すために、ローガンは何度も泥にまみれる決意をしたのだ。

 

 振るわれた剣は、【ゴブリンウォリアー】が望んだ結果と異なり、そしてローガンとルンペルシュティルツヒェンが望んだ結果通りの結果を生み出す。

 その結果は唐竹割り。

 脳天の頂上から股関節まで、多少の停滞こそあったものの、その一閃を阻むことなど出来ずに通り過ぎる。

 

 「GAaaaaaaaAR」

 

 【ゴブリンウォリアー】が断末魔を上げながら、光の塵となって消えていく。

 

 「おー、おめでとうなのですローガン。何をしているか全くわからなかったのですが」

 「……っぐ、これではまだまだ実戦で使えるレベルではないか……、いやただの実験だ」

 

 ローガンは桜火の労いの言葉を聞きながら、膝をつき今回の戦いの酷さを吐き捨てる。

 それはこの成果が彼の望んだものとはほど遠いからだ。

 

 どうすれば改良できるのかと、ローガンは思案しながら彼らは次の層に進んでいく。

 

□迷宮内 25 day 5:30 p.m. 30階層

 

 ローガンがふるった剣が音を立てて、空を切る。

 外してしまったことに舌打ちをしながら、続いて二の太刀を振るおうとして……

 

 「GYAGYA」

 

 出来た隙を【ゴブリンウォーリア―】に狙われる。

 先ほどまでなら避ける事が可能だったその攻撃は、しかし今度はそれを避ける事は出来ずにまともに当たる。

 如何に下級のモンスターの一撃とはいっても、数度の交差を経てお互いに少しずつHPを削りきっていたこの状況に、ローガンは耐える事は出来なかった。

 そしてその一撃で、ローガンのこの世界初の死を迎えようとして……

 

 「《偽典・聖者の慈悲》」

 

 ルパンが使用した回復魔法によって、そのHPが全回復する。

 

 「っぐ、うおぉぉー」

 

 ローガンは助けてもらったことを、自分と合一形態をとるルンペルシュティルツヒェンに教えてもらい、ちらりとルパンの方を見ながらも、次の準備をしつつ剣を再度横に振るう。

 

 「GUGYAA」

 

 その剣は今度こそ彼らが望んだとおりに、首を通過し胴体と頭を割断し相手を死に至らしめる。

 ローガンは光の塵に変わっていく、【ゴブリンウォーリア―】から目をそらし周囲を見渡す。

 ローガンが見渡した視界内には、もはやすでに敵影が存在せず、つい先ほど最後のモンスターを倒し終えたミックが、ローガンたちがいる方へゆっくりと歩いて来ていた。

 

 それを見ながらローガンは今回の戦闘の結果を振り返ってみる。

 ローガンからすれば、当然それは無様に過ぎる物であったが……同時に、多少なりとも進歩が望めた結果をたたき出していた。

 最初の戦闘で、他の3人が戦闘を終える頃(およそ5分)になっても、まだまだ敵を倒すめどさえ見通せていなかったものが、今では他の3人が戦闘を終える頃(変わらず5分程度)には、戦闘を終わらせることができるようになっていた。

 もちろん、その程度ではまだまだ満足など出来ないと、ローガンは剣を握りしめるのを止めない。

なにせ相手は、悪魔を呼び出せば一瞬で片がつくレベルの雑魚なのだ。彼が目指す理想とはほど遠い。

次はもっとうまくやって見せてやる、と意気込みながら、ふと、思い出したようにルパンに振り返り小さく言う。

 

「あー、なんというか、HPを回復してくれて助かったぞ……」

「! いえいえ、お気になさらず。もとよりそれだけしかすることがないものですから。それに私が無理を言ってこの塔を上がるのを勧めたのです! この程度をしないというのも罰が当たるでしょう!」

 

ルパンはなぜか顔を輝かせながら、にこやかに笑みを浮かべる。

ルパンが自らの内心を語ろうかと思い……しかし、ローガンを含めて他の4人全員が階段をあがろうとしているのを見て、口をつぐむ。

 

そしてルパンも彼らのあとを追い、この階層を後にするのだった。

 

□迷宮内 25 day 7:00 p.m. 40階層

 

 「GUWAAA」

 

 その咆哮がフロア全体に響いたのは突然だった。

 その方向に一人を除き、全員が硬直をする。

 なぜならこの空間内にそんな咆哮ができるものなど、一体もいなかったからだ。

 この空間内にいるのは【キング・ゴブリン】率いるゴブリン達の群れ。

 彼らの言葉も「GYAGYA」というものだけだったからだ。

 今まで何度も闘って来た【リトルゴブリン】や【ゴブリンウォーリア―】にそんな咆哮を行えるものは一体もいなかった。

始めて戦うゴブリン達の群れの長である【ゴブリンキング】も、そんな咆哮が出せるようなモンスターにはどう見ても見えない。〈UBM〉ならともかく、少なくとも人間大の腹が少し膨れているゴブリンに、そんなことができると思う人間はそうはいないだろう。

それになにより、その咆哮はローガンたちの目の前にいるゴブリンから放たれたものではない。

そう、この方向は……

 

「ハハハハハッ! ようやく戻ったかクー!」

 

驚かなかった唯一の人間。ブルーノの〈エンブリオ〉であるクーが起こした物なのだから。

そのクーは、先ほどまでの子犬のような姿から脱却し、ここに落ちる前の大きな犬の姿を取り戻していた。

そして取り戻したのは姿かたちだけではない、なによりもステータスとスキルが戻ってきていた。

 

「いくぞぉ!」

 

ブルーノがこの広場を駆けまわる。

先ほどまでの遅い、威力に欠ける攻撃ではない。

その一撃はAGI3000がプラスされているはずのローガンの眼をもってしても、認識が困難な速度を誇り。

その一撃は急所を狙ったわけでもないただの一振りで、1000オーバーのHPを軽く削りきり、相手の肉片を光の塵に変えながら爆散させている。

 

これは相手を爆散させるスキルと言うわけではなく、ただ単純にステータスが高いが故に起こる結果だ。

 ブルーノとクーが持つ敵にとって……いや彼ら自身にとっても厄介な、1つのまたは4つのスキルが起こした、〈エンブリオ〉らしい規格外のスキルのせい。

 ペナルティが解けたことによって、再び発動できるようになったその力を行使して、ブルーノとクーは敵を殲滅せんと広場のなかを駆けまわる。

 そして、他の3人もその突然の変貌を遂げたブルーノたちの姿に驚き、一瞬行動を止めるが、彼らもまた「あいつだけにやらせない」と、各々の武器を持って敵に突っ込み……

 

 「いやぁ、やっと足手まといから解放されてよかったなクー」

 「BAWOOO」

 「にしても、いきなり大きくなったな。どうしたんだ?」

 「ああ……、それはワシらのスキルの効果だな」

 

 ミックは「なるほど」と、呟いて詮索を止める。

 ここにいるのはパーティーメンバー(パーティーは組んでいないが)であり、そして同時にいつか戦う可能性の高い決闘仲間だ。

 自分から明かしてくれる相手や、明かしても問題ないと思っている相手からならともかく、無理に聞きだすべきではないなと、ミックは思ったからだ。

それに、今は楽勝とはいえ、階層をあがって行くたびにモンスターの強さはどんどん強くなってきている。

 ここでわざわざ不協和音を響かせて、進行を止める手はないとも、ミックは思い次へ進むために全員に振り返る。

 

 「よーし、次に行こうぜ!」

 

 その音頭のもと、さらに彼ら5人と一匹は進んでいく。

 

□迷宮内 25 day 8:40 p.m. 50階層

 

 「よしっ、これで戦闘終了だな」

 

 最後に倒した【亜竜猛虎(デミドラグタイガー)】が消えていくのを確認しながら、戦闘終了を告げる。

 

 「やれやれこれでようやく50階というところか? 結構上まで来たがあとどれくらいあるのか、老骨には堪えるわい」

 「先はともかく、そろそろ眠くなってきたのですが……」

 「……ふむ。ここまでずっと戦い詰めでした。どうでしょう、ここで一休みされませんか? この迷宮の特性上、製作者(ダンジョンマスター)の意思が介在せぬ理由で、モンスターが階層を移動することは出来ませんから、ゆっくりと休むことができます」

 「そうだな。ここまでずっと戦闘だったんだ、朝まで休んでもいいだろう……シュテル解除だ、お前も休め」

 『かしこまりました、それでは休憩に入らせてもらいましょう』

 

 〈マスター〉の望み通りにローガンの体が光り、中から光の粒としてルンペルシュティルツヒェンが出てきて人の形をとる。

 それを見届けながら、ふと、思いついたようにミックが疑問を口にする。

 

 「そういえば、お前たちはリアル大丈夫なのか? 遠出をする前にみんなメシとかトイレとか済ませていたみたいだし、そっち方面はしばらくは大丈夫だろうけど、俺がいえる事じゃないけどリアルの用事とかはないのか?」

 「本当にお主がいえた事じゃないな……、お主とローガンはワシの知る限りかなり重度の廃人だしな。それとワシに関してはしばらく大丈夫だ。今日明日は検診をいれておらんし、周りにはワシのゲームの邪魔はするなと言っておるからな」

 「私も少しなら大丈夫なのです。学校は夏休みですし、親もそこらへんはあまりうるさくはないので……、さすがに朝までやっていると怒られるのですが」

 「俺も当然大丈夫だ……、もっとも用事がなくても他の部分で引っ掛かることもあるだろう、リミットはリアルで半日といったところか」

 「俺も当然大丈夫だぜ。半日だとすると、こっちで1日半ってことかー、まあここまで半日で辿り着けていたし何とかなるんじゃないか?」

 

 その後も和気あいあいと喋る4人の〈マスター〉を見つめながら、ルパンはふと、思い出したように口をはさむ。

 

 「……ふむ。これは私もりあるとやらの事を言った方がいい流れですかな?」

 「「「「いらない」」」」

 

 当然、いらないと〈マスター〉たちは返す。4人にとっては聞く意味がないことだから仕方がないだろう。

 それに「加われなくて、残念です」と肩を軽く落ち込ませながら、彼らの為にこの団欒の場を終わらせる。

 

 「そろそろ皆さまも疲れてきているでしょう。お話は後のお楽しみに取っておいて、今日は食事をとり、ゆっくり眠られてはいかがかな? ああ、食事でしたら私が用意いたしますよ、これでも【特級廚師】のスキルを模倣することに成功していますからな!」

 

 4人はそれに頷き、ルパンがふるった料理に舌鼓を打ち、就寝をすることにしたのだった。

 

 

 「おはよーなのです」

 

 桜火の元気な声が部屋に響き渡る。

 ミックの用意した大きなテントに仕切をおいて、男女分れている女性側のテントから桜火がにょきりと首を出して、男性陣に早く起きる事を催促する。

 その声を聞き、ひとりそしてまたひとりと、起き上がり……十数分後には全員が起き上がり、ルパンが用意した簡単な食事を食べる。

 ちなみに一番起きるのが遅かったのはミックである。

 

 

全員が食べ終わり、軽く決闘のまねごとをしながら、調子を整えてから次へ進むために階段に向かう。

昨日で50階層まで、踏破出来た。だから今日中にこの塔を抜けて見せる。と全員が意気込むのであった。

 

□迷宮内 26 day 05:30 a.m. 60階層

 

 剣を振るう。

 ローガンは、この塔を攻略し始めてから続けてきたルーチンを繰り返す。

 それはステータスに劣る彼が、前衛戦闘を行える理由。

 

 AGIが増大された状態でローガンは敵に向かう。

 《融合召喚(フュージョンサモン)》の効果によって、《スカウト》の3倍化されたAGIの数値3000分がローガンに上乗せされている。

 戦闘系上級職に匹敵する速度で敵に迫り、相手の首をめがけて剣を振るい……そして切り替える。

 

 「《融合召喚》“破壊者よ”《コール・デヴィル・クラッシャー》」

 

 ローガンが使用したのは、AGIを増加したのと同じ《融合召喚》の使用。

 《クラッシャー》の誇る1000というSTRを3倍化し、3000の数値をSTRに加算する。

 

 だが、《融合召喚》のスキルは併用できない。

 別の項目であろうと、同じ項目であろうと、新しく使った《融合召喚》の効果が優先されて、古いスキルの効果が破棄される。ようはスキルの上書き(オーバーライド)だ。

 

 

 当然、この戦法には最大の欠点が存在する。

 それは上級召喚魔法スキルの使い捨てによる、ポイントの大量消費。

 3倍化を含めても、1戦1戦に安くはない費用がかかり、そしてその費用は倒した相手から得られるドロップアイテムでは補えない。

 赤字が確定している戦いを、それでもレベルという意味ではなく、技巧と言う意味での経験値を得るために、ポイントをはき捨てる。

 

 それもすべては彼が自覚できない使命感ゆえに。

 

 「はぁあ」

 

 彼がふるった剣が、モンスターの胴体を通過し、ようやく敵を打ち倒すことができた。

 1度目の剣戟は避けられ、2度目は防御されたものの、3度目の正直という事かようやく敵の胴体に当てる事ができたのだった。

 

 ローガンは戦闘を歩くミックについて行きながらも、頭の中で今回の戦いを反芻する。

 どうすればもっと、ポイントを使わずに倒すことができたのか。

 どうすればもっと、敵を早く倒すことができたのか。

 どうすればもっと、強くなれるのか……と。

 

 答えが出ぬまま、ローガンはミックのあとに続き、この階層を去っていく。

 

□迷宮内 26 day 07:20 a.m. 70階層

 

 「はぁっ……ちぃ」

 

 ローガンが舌打ちをする。

 それは敵を打つことに失敗したから……ではない。

 今回は見事に敵を討ち果たすことに成功している。

 上層に上がるにつれ、次第に敵は強くなっていて、敵は下級のモンスターといえどもレベル50に近づき始めている。

 他の〈マスター〉達が敵を全滅させる前に、一対一の状況から敵を倒すことに成功している。

 今もこうして、目の前の【亜竜甲蟲】を倒している。

 

 だから彼が舌打ちをするのは別の事。

 それは……

 

 「失敗したな。あんな堅そうな相手に何度も剣をぶつけていればこうなるか。これまでの疲労もたまっていただろうし、当然と言えば当然だが……」

 『申しわけありません主様。武器が壊れる可能性を全く想定していませんでした』

 「まあ、それは俺もだが……」

 

 そう彼らが持つ剣が壊れてしまったという事。

 ただ壊れただけなら、次の武器に変えればいい。

 ただし問題は、これで彼らが持つ剣は初心者用の一降りのみになってしまったという点。

 今までの武器でやっと他の3人が倒し終わる前に、討伐を終える事ができていたものが、初心者用の武器ではいつ敵を倒すことができるか分らなくなる。それに今までの武器よりもろいのも確実だろう。

 だから彼らが選ぶ道は1つのみ。

 

 「仕方がない。これからは悪魔召喚でいくぞ、続きは地上に戻ってからだな」

 『かしこまりました主様、では基本的に《バタリオン》のAGI型にセットしておきます』

 

 これから、もっと前衛戦闘を習得していこうというこの時期に、突如頓挫させられることにローガンは残念がる。

 そしてローガンたちが気がつかない間に近づいていたミックは、その状況を尋ねる。

 

 「なあ、ローガン。もしかして武器が壊れたのか? 残念だったな、もしよかったらいい武器屋紹介してやるぜ?」

 「いい、武器屋だと?」

 「ああ、皇都の一角に家……というか、工房を構えている〈マスター〉がいてな。ドライフじゃめずらしい鍛冶系なんだよ。もしよかったらここから出たら教えてやるぜ?」

 「そうか……、それでは後でな」

 

 そう言って、ローガンは次の層に向かう階段へ行く。

 ミックは、それに苦笑いを浮かべて、後をついて行くのだった。

 

□迷宮内 26 day 9:30 a.m. 80階層

 

 「やべっ」

 

 ミックの呟きとともに、先ほど倒した亜竜級のボスモンスターが消えていく。

 本来はボスモンスターを倒したというおめでたい出来毎なはず。

 しかし、ミックは自身のステータスを表示しているウインドウを見つめて、嫌な顔を表している。

 その理由は、他の3人に起こるはずも無く、かつミックにのみ起こりえる事情。

 そうそれは……

 

 「レベルが50超えちまったな……」

 

 自身がついているジョブが上限に達してしまったからだ。

 他の3人は上級職についているために、レベルキャップにはまだかなりの余裕はある。

 だからこの時点でジョブのレベルキャップに捕まってしまったのは、次のジョブに下級職を選んだミックのみになる。

 新しく別のジョブを取っておけばよかったのだが、まだ少しばかりジョブレベルの余裕があり、本来の狩り場周辺にはジョブクリスタルもあるという事で、新しくジョブをとることを後回しにしてしまっていたのだ。それには【万屋(ジェネラリスト)】や【闘士(グラディエーター)】の上級職の条件をいまだ満たしていなかったというのもある。

 

 「あーあ、他のジョブあったら、そっちに切り替えればよかったんだけどな……。これじゃ経験値が無駄になるな……、仕方がないこっから俺はサポートに回るから後は頑張れー」

 「ワシはまだ50にもいっていないな。まあクーの復活までに、モンスターを倒せない時間が続いたから仕方がないな……。お主もそうだろう、ローガン?」

 「……ああ、残念ながらな。この塔に上がってから満足にモンスターを倒せてないからな」

 

 ローガンは自身のステータスを開きながら、苦々しげに返答を行う。

 それはローガンの現在のレベルは、〈クリエラ渓谷〉に落ちた時から変わらずレベル48のままで止まっているからだ。もっともいくらあまりモンスターを倒せなかったといっても、剣を摂ろうとせずに悪魔召喚一本でならば今頃もう少しレベルが上がっていただろうが。

 

 「私は……、私もこれでレベル50ですね」

 「俺は帰ったら新しいジョブにつかないとな……、次はさすがに上級職か」

 「次に就くのはどんなジョブなのですか?」

 「次か? まあ、【剛闘士(ストロング・グラディエイター)】か【万能者(オールラウンダー)】の2択だな……、いや【万能者】一択か? みんなはどうなんだ?」

 

 自分だけ次のジョブをかあるのは不公平だと、ミックは他の3人に問いかける。

 そこまで重要ではなさそうで、いつかの手の内をばらすことにも繋がるからだ。

 

 「ワシらはまだまだレベル上げがあるからな……」

 「他のジョブに就くのはまだ先だ。考えてもはじまらん」

 「えーと、とりあえず代弁すると……、ブルーノさんが【剛槍士】を、ローガンが【悪魔騎士】をそのままレベル上げをするってことなのです。ちなみに私も同じですね【剣舞士(ソードダンサー)】のレベル上げなのです」

 

 ミックは「やっぱ、俺だけなのか―」という呟きを口にする。

 ローガンとブルーノは次のジョブについて語らず、唯一話した桜火に関しても自分の現在のジョブのことしか話さない。いや考えていないだけだろうが。

 結局、自分だけが次のジョブの事について話しただけだったな、とミックは残念がる。

 

 「はぁ、まあ仕方がない。休憩はこれくらいでいいだろ? さぁ先に進むぞ」

 

 そういって、ミックは上に向かう螺旋階段へと足を向ける。

 話すのはこれで終わりだと、自分だけが損した気がする会話をミックは打ち切ったのだ。

 そして進もうとした先で、少しだけミックを不憫に思ったルパンが声をかけて……

 

 「ふむ、私の次のジョブについて聞かれますかな?」

 「いや、あんた超級職じゃん」

 

□迷宮内 26 day 0:00 p.m. 90階層

 

 「おや? これは珍しいボーナスステージですね」

 「ボーナスステージ?」

 

 今まで基本的に黙ってついてきていたルパンだったが、この階層でのみ、いの一番に声を出す。

 それはこの階層のボスを務めるあるモンスターのせい。

 そのモンスターの名前は【ライフハイド・オポッサム】。

 そしてこのモンスターの特徴は……

 

 「あのモンスターは特殊でしてね、一定以上の強さを持つモンスターなり人間なりが近づくと、死ぬのですよ……もっとも仮ではありますが」

 「死ぬのか! それってどういうことだ」

 「あのモンスターは、特殊な隠蔽特化のモンスターでしてな、本来なら見つけるのも難しいのですが、まあこうして広場の中央にいるのなら見つけるも何もありませんな。そしてあのモンスターのスキルの一つに《死んだふり(フェイク・ダイ)》と言う物がありまして、光の塵になって消えていくように死んで見せるのですよ。しかも、相手に経験値とモンスター討伐カウントを増やすという贅沢ぶりで」

 「うわ、すげぇな」

 「まあ、だから害獣と言うわけではありませんが。よく冒険者に狙われますね」

 「どうやって倒すんだ?」

 「あくまで消えているように見せるだけなので、そのあたり一帯を焼き払えば死にます。一応純竜級ということになっていますが、本体の性能はそこらの雑魚レベルですから」

 「なるほどの……うん? まて、もしかしてあいつがワシを敵だと認識して、その《死んだふり》を発動させた場合、ワシが倒した扱いになるってことか?!」

 「ええ、申し上げました通り、その通りでございます」

 「なんてこった」

 

 これまでの会話を聞いて、ブルーノは自分に降りかかった不幸を嘆きながら天井を見上げる。

 

 「……どうしたんだよ?」

 「……いいたくはないな。ああ、あれの相手はお前たちでしてくれ。ワシは一切かかわらんからな。下の階に行っているから、倒し終わったら呼んでくれ」

 

 そういうと、ブルーノは他の4人の返事を待たずに下の階層へと移動する。

 

 「なんだったんだ?」

 

 ローガンたちは疑問に思いながらも、無事に敵を倒すことに成功し、その後下の階層にブルーノを呼びに戻った後、再び上層を目指すのだった。

 

□迷宮内 26 day 3:00 p.m. 100階層前

 

 「これで100階か……」

 「そろそろ終わりが見えてくれると嬉しいのですが」

 

 そう言いながら、階段を上りきり100階へとたどり着いた彼らを待っていたのは、今までとは異なる豪華な闘技場と、その中央に立つ一体の人形だった。

 そしてその人形の頭上には名前としてこう書かれている。

 【肢造傀儡 アルヴィニオン】、と。

 

 すなわちそれは、この塔における最強の敵。

 1日をかけて登りきった先にいた一体のモンスター。

 伝説級とうたわれる〈UBM〉の登場だった。

 

To be continued

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。