第10話 一才専心
□■ある〈UBM〉について
【肢造傀儡 アルヴィニオン】と名付けられた〈UBM〉は特殊だ。
特殊ではない〈UBM〉と言うのも希少だろうが、このアルヴィニオンの生態はその中でも特殊な方であると云ってもいい。
アルヴィニオンを制作した、あるティアンの【傀儡師】は制作する際に奇特な方法で制作を行った。
それは人形と言う
もちろんモンスターはジョブに就くことはできない。それに特化させた〈UBM〉ならあるいは可能かもしれないが、製作者であるティアンの力ではそれを為すだけのモンスターを生み出すことは出来なかった。
もしくは一月前に生まれて、すぐ討伐された【悪魔式 ゲーティア】の様なジョブスキルを使う事ができる〈UBM〉としての固有スキルなら可能かもしれない。しかし、この方法も製作者であるティアンには不可能だった。
だがしかし、それでありながら、【アルヴィニオン】はジョブスキルを保有している。
それができる理由は当然〈UBM〉の固有スキルに他ならない。
ジョブに就く固有スキルを持たず、ジョブスキルを行使できる固有スキルも持たないながらも、その不思議を可能としている方法が一つある。
もっともそれは………正道とは決して云えず、そして人の道から外れた方法であるが。
制作者が取った方法としては【
まず、彼は【職害魔晶 クリスタルエラー】の影響を受けないために、《エラー・ジェネレーター》の制作を決めた。
しかし、その制作にはもっとも大きな問題点がある。
《エラー・ジェネレーター》というスキルを開発することが問題だったわけではない。たしかにこのスキルを開発するのに、安くはない費用と少なくはない時間とがかかる羽目になってしまった。だがそれは大きな問題と言えるほどではない。
問題だったのは………《エラー・ジェネレーター》を動かし続ける為の『エラー』をはきださせ続ける事。
当然ながら、どれだけ大量の燃料があろうと、それだけで動力とすることは不可能だ。
燃料を元に動力とするための火種が必ず必要になる。
そして、《エラー・ジェネレーター》を動かすための火種となりうる、ジョブスキルがはきだす『エラー』を生み出すためには、ジョブスキルが必要になる。
そうして【アルヴィニオン】にジョブスキルを搭載する方法を、模索することになった。
前述したとおり、天才的な彼であっても、ジョブスキルをそのまま付け加えたり、ジョブに就けたりといった方法は不可能だった。
だから別の方法を模索しなければならず、その可能だった別の方法が人道から離れていたとしても、それでも構わずにその方法を実行した。
その方法こそ、人を【アルヴィニオン】に収納し、半永久的に
人を人類範疇生物としての枠に収めたまま、フレッシュゴーレムとしてひとつの塊として、その生きた人の肉塊を《エラー・マリオネット》というスキルで【アルヴィニオン】の『傀儡』として活かし続けた。
人としての尊厳を踏みにじり、人としての生を奪い、人を人でなくする、最悪にして醜悪な方法。
大半の人間が嫌悪するであろう方法によって、【アルヴィニオン】は動き続けているのだ。
【アルヴィニオン】が冠している名称である【傀儡】には二通りの意味がある。
自らが生み出した、自身の分体である手や足などの四肢を【
自らの中に生きる、フレッシュゴーレムと化したジョブスキル発動装置を【
この二つの意味を同時に為すのが、この醜悪にして奇怪な人形の正体。
もちろん、そんな存在である【アルヴィニオン】が真っ当な人形の姿をしているはずもない。
製作者もまた、【アルヴィニオン】を通常の人形として産み出したわけでもない。
人形を造り、人形を操るモンスター。
そう、あくまで【アルヴィニオン】は傀儡であって人形ではない。似ているようで、解釈により少し異なる意味を持つ。
そんな異形を操る、異常のモンスター。
その姿かたちはどんなものかというと、それは【アルヴィニオン】を制作した、【傀儡師】の男が願った通りのものとして造られた。
願いは、アルヴィニオンに『終わりのないもの』と名前をつけた通り、『永遠』『無限』を象徴する輪の形。
『
材質は特殊ではある物の、異端とは言いづらい基本的な人形制作に使用している物を使っている。
大きさはおよそトラックなどの大きめなタイヤと同じくらい。
それだけなら、少し変わった異端のモンスターだろうが……
製作者の悪意、〈UBM〉の醜悪さは変わらずにこの姿かたちに現れている。
それが輪の始端と終端に結合剤として設置されているひとつの球体。
タイヤのような形の輪っかを、指輪のリングとして言うのなら。その球体は宝石の如く装飾されて輪っかの外縁につけられている。
その球体の色は、赤に満たされ時折白と黒とが混じり合う。
それは……言うまでも無く、人である形を失い、人としてのすべてを失い、ソレでもなお生かされ続ける、人であったもの。
人肉と血が混じり合ったフレッシュゴーレムとしての身体。
『エラー』という火種にして燃料を送り続ける、【アルヴィニオン】の心臓部である。
そして吐き出し続けた『エラー』を輪っかの内部に循環させて、大量のMPをはきだし続けている。
球体の心臓部、輪っかの内部の血管と肺、輪っかの外面部にあたるスキル発動体である肉体部をもつ、異形にして人形と言う本来の使用からかけ離れた姿をしているモンスター、それが【肢造傀儡 アルヴィニオン】だ。
こんな異形を造れるのは、製作者であった天才だけだろう。
こんな倫理から外れた方法をとれるのは、製作者であった異常者だけだろう。
【アルヴィニオン】が〈UBM〉として指定されるのは当然と言えるもの。
なお、製作者は【アルヴィニオン】が〈クリエラ渓谷〉に送り込まれてから、数年後に身近な知人に『人を素材として人形を造っていた』という告発にあい、時の皇王の手によって処刑されることになってしまったのだが。制作方法を記述した書類もすべて焼き払われることになったが、それは余談だろう。
こうして造られた【アルヴィニオン】は、製作者の思惑通りに生き続け……
【
だが、ここでおかしな状況になってしまう。
それは本来ならば最上階………100階を守護するモンスターとして設置されるはずの【アルヴィニオン】が塔の最上層である一番上の天井に取り込まれてしまったことだ。
【クリスタルエラー】の影響範囲にかすめる程度しか触れていない領域に、設置された【アルヴィニオン】は本体が満足に動かすごとができずに、そのまま天井に埋まっていることしかできずにいた。
満足に動かせるようになったのは、埋まってから1日がたってから、かする程度の『エラー』を貯蓄し終わり……、そして赤枝によって天井が崩されてからだった。
だからそれまで本体は何もしていない。
ローガンたちが戦っていたのは【アルヴィニオン】の分体でしかなかった。
もともと造り出していた【アルヴィニオン】の分体であり、唯一の集合体。
それを為しているのは【アルヴィニオン】の異なるスキル…………
というわけではなく、《クリエイト・ザ・イリーガル・オブ・ユース・ハンド》の効果のひとつでしかない。
《クリエイト・ザ・イリーガル・オブ・ユース・ハンド》はただの手と足を生み出すスキルではない。
たしかに手と足を生み出すことができるが、それ以外にも3つの特性を保有している。
そのひとつが、頭部分の製作である。
《クリエイト・ザ・イリーガル・オブ・ユース・ハンド》で制作可能な頭部分はひとつのみしか造ることができない。
ひとつしか制作出来ない、その頭部分の機能は単純な物だ。つまりは聴き・視て・話す・思考して・記憶するという頭であるなら当然行う基本的な機能をおこなうというもの。
【アルヴィニオン】本体には、それらの機能を行う事ができないが為の代替器官を制作するスキルでもあるのだ。
そして頭の役割はもう一つ……それが完全なる分体であるという事。
本体と同様に《クリエイト・ザ・イリーガル・オブ・ユース・ハンド》や《グレイブアームズ》のスキルを使用でき、そして完全なる分体であるがために〈UBM〉特有の表記がでるという表示の偽造がされる。
ただし動力源たる《エラー・ジェネレーター》と
木や石でできた人形しか使ってこなかったのは、MP量が低いからだ。もし地底で戦っていれば、もっと強力な神話級金属や伝説級金属の分体を制作していただろう。
天井と言う、『エラー』をほとんど収集できない領域から外れたことで、一度に使えるMP量も当然増えている。もっとも地底と比べればまだマシなほうだが。
時間がたつごとにMP量を生み出し続ける〈UBM〉。
素材の上限はある物の、それより彼らが力尽きる方が早いだろう。
だから彼らとれる道は二つのみ。
地上に近いこの状況を利用して、外に抜けだし
そして今彼らの目の前に立っている〈UBM〉を倒して、
もっとも彼らがどちらを選ぶかなど、いうまでもない。
そう、彼らの選んだ道は――
◇◆◇
「くるぞぉ!」
ミックの声がこの壊れた闘技場に響く。
彼らの前にいるのは一体の〈UBM〉。
【肢造傀儡 アルヴィニオン】と銘が打たれた、彼らが先ほどまで戦っていたはずの、異なる姿かたち。
「なんだ、この姿は! っまるでマスターハンドだな……いやNo.106か」
ローガンが驚く異様。
それは逸話級の遺骸によって形作られた緑銅の右手。
全長6メテルはあるかという、巨大な人形。
手の甲の部分に本体である【肢造傀儡 アルヴィニオン】が鎮座し、中指に当たる真ん中の指の第一関節には頭が埋め込まれている。
彼らが先ほどまで戦っていた分体と同じ、戦う異形の人形としての姿。
だが、この手はいくつもの手や足が組み合わさってできたものではない。
しかし、それも当然だ。これは擬態ではなく、【アルヴィニオン】が長い年月をかけて造り出した自分専用の戦闘形態。そこに余計な装飾はいらない。
この姿になっている理由もまた《クリエイト・ザ・イリーガル・オブ・ユース・ハンド》の特性のひとつ。
このスキルは……通常の素材を使った汎用品だけでなく、オーダーメイドまで造ることが可能なのだ。
オーダーメイドとして造るために【アルヴィニオン】が使用した素材は、かつて彼がこの〈クリエラ渓谷〉の地の底で戦った強敵である、【幻草巨人 グリーンマン】という名がつけられた逸話級〈UBM〉だ。
本来〈UBM〉が〈UBM〉を倒した場合、倒した〈UBM〉が敵のリソースを吸収しリソースの増大のみが行われる。なお、それが格上の〈UBM〉相手なら、リソース上限の撤廃が起こり、上限値が大きく跳ね上がる。
しかし、本来ならそれのみしか起こらない。
倒した〈UBM〉の素材を利用したスキルなんてものは、本来ならあり得ないモノ。
だが――ここに一つの例外が存在した。
それが【アルヴィニオン】であり、《クリエイト・ザ・イリーガル・オブ・ユース・ハンド》の最後の特性。
ふたつめのオーダーメイドとも重なる所もあるが、このスキルにはただの素材のみではなく………たおして光の塵となる状態のモンスターを素材とすることもできるという特性。
倒したモンスターを素材とする場合、ただのドロップアイテムを素材とするのと違い、造れるものはオーダーメイドのみとなるため、【アルヴィニオン】は費用対効果を考えてその方法を選ぶことはなかった。
使ったのは一度。〈UBM〉を素材とした自身の身体構築と言うオーダーメイドのみである。
伝説級の【アルヴィニオン】といえど、逸話級の〈UBM〉のリソースを保ったまま自身の身体を構築することは困難を極め、数十年という歳月と膨大な
そうして出来たのは、伝説級のステータスを持つ〈UBM〉。
STR・AGI・END・DEXの4種類のステータスがすべて一万に届き、HPに至っては五十万に届く、文字通りの怪物。
そんな怪物を相手に、全員がおびえ―――
「ローガンっ! 桜火! 下がっていろ、こいつはおれがやる!」
るわけがなかった。
確かに強敵。
確かに戦力差は甚大。
だが、それでもおびえるわけはない。
「ギギ、セントウケイゾク、スキルケイゾク………」
【アルヴィニオン】が動く、そして同時に《グレイブアームズ》も牙をむく。
「なあっ!」
「そんな、どうしてなのです!?」
ローガンと桜火が驚く。
それもそのはず、【アルヴィニオン】が動くのと同時に彼らの足元から手や足が生えてきたのだ。
先ほどまでと同じスキルのはずなのに、先ほどまでとまるで異なる影響範囲。
理由はさほど難しいものではない。単に一度に使えるMP量が増えたからというだけのものでしかないのだ。『エラー』の根源に近づいたがゆえに、一度に使用できるMP量も増える簡単な理屈だ。
だが、その理屈を知らない彼らに、この状況の意味を分ることは不可能だろう。
今わかるのは……何かしらの理由で、〈UBM〉が強化されたということ、それ一点のみ。
だが、それが分るのなら、そう動けばいいだけの話だ。
(シュテル!
「《速効召喚》! “地獄より現れし使者よ、我らの踏み台となるがいい”《コール・デヴィル・バタリオン》」
ローガンが悪魔を呼び出す。
空中に呼び出された48の
瞬時に呼び出されたその悪魔を見て、そして召喚の時にローガンが唱えた文言を聞き、桜火は飛び上がる。
踊ったまま、舞をしたまま、剣を振りながら。
《ダンス・ダンシング・ダンサー》のスキルが継続したまま、この崩壊した塔の最上階を焔の蛇が這いずりまわる。
桜火は悪魔を踏みながら、跳んで手と足が来ない、《グレイブアームズ》の影響圏内から抜け出る。
少し遅れてローガンも悪魔を背に上空にあがる。もっともこちらは、悪魔の上を飛んで移動するなんて言う天狗や義経のような真似ごとはしなかったし、出来なかったが。
ブルーノも、〈エンブリオ〉の無い今の自分では足手まといにしかならないことを分っているのか、悪魔の上に乗り階層から離れる。
これで最上階に残るのはミックと………そしてルパンのみ。
ミックは複数のスキルを併用し、この状況を切りぬけている。
足場から生み出される多数のモンスターをなぎ払いつつ、【アルヴィニオン】の五指を用いた攻撃をかわし、はじきいなすことでこの窮地に対応する。
ルパンはかかわらず、その場にずっと立っているのみ。
だがそれのみでしかないはずのルパンに対して、本体は近寄らず、近場にモンスターを生み出さず、そして反応しない。
これも当然スキルによるもの。とあるスキルによってこの状況を脱している。
だから彼の方は心配はいらないだろう。
ミックが戦い続けているのと同時に、天空に上がったローガンと桜火もただ座してみているわけはない。
ローガンはバタリオンを追加し、その悪魔を地上に向けて【アルヴィニオン】の本体を削りながら、地上より発射される手と足の弾丸を防ぐ。
桜火も器用に悪魔の背を動き続けながら、焔の蛇を走らせつづけ地上から生える手と足のモンスターたちを倒している。
しかし……どちらの攻撃も有効とはいえない。
確かに《グレイブアームズ》の墓標をなぎ払う事には成功している。
二人とも、あの程度の雑魚に手間取るような実力ではない。
だが、本体は異なる。一万を超えるステータスを持つ〈UBM〉に対して、有効な攻撃手段を桜火は未だ持たず、ローガンは使う事をためらっている。
ローガンが持っている手札は、当然《ボムトルーパー》のこと。
もっとも、消費をすることをためらっているわけではない。通常のモンスター相手ならともかく、〈UBM〉を討伐できるならその程度の代償は気にはしない。
だからためらっているのは別の事。
それは『ボムトルーパー』では太刀打ちできないのではないか? という不安によるもの。
ボムトルーパーの威力はすさまじい。下級職であれだけの火力を発揮できるジョブは100も無いだろう。場合によっては上級職の域にまで達するほどの火力を有している。
だが、それでも限度はある。
《ボムトルーパー》は決してEND無視の攻撃ではないのだ。ENDが高ければ高いほど被ダメージは減るのは当然。
ローガンは《看破》のスキルを持ってはいない。
だから幾つもの実験による結果でしか判断はできない。
ただのモンスターなら《ボムトルーパー》1発で問題ない。
下級のボスモンスターでも《ボムトルーパー》3発あれば大体終わるだろう。
亜竜級も問題はない。
純竜級に関しては最初の弱った個体と、次の通常の個体しか相手にしていない。
弱った個体に関しては、10発近くで沈んだはずだった。しかし通常の個体と戦った時は30発当ててようやく倒すことができるほどだった。HPが低いだけなら20発だけで済んだだろうが、おそらく最初の個体はENDも低くなっていたのだろう。
その結果を元に、今の状況を振り返る。
ローガンの呼び出した悪魔による攻撃をものともしないENDを誇るモンスター。
そのENDは純竜級よりもはるかに高いことが分る。
だからローガンは分ってしまった、《ボムトルーパー》では削りきれないと。
それは《
ローガンが新しく考案した新戦術の一つも、最初の一撃で失ってしまった。もう一度使う事ができないのは、うまくいくかわからなかったために、一度分しか用意していなかったからだ。
ローガンは他の方法を考えるが、うまい手段が思いつかないまま戦況は進む。
動いているのはミック。
「1023、1024、1025ッ……」
ミックが数をカウントしながら、手と足のモンスターを蹴散らしていく。
カウントしている数は、同族の撃破数。
〈UBM〉と同じ種族である手と足のエレメンタルを倒すことによってカウント数が増えていく。
もちろんただ数えているわけではない。
数を数えているのは《同族連続撃破強化》スキルのカウントアップの為。
《同族連続撃破強化》と言うスキルは、名前の通り同族を連続で殺すごとに自身の攻撃力を強化する強化スキルである。強化数値は一体倒すごとにスキルレベル数分上がり、猶予期間内にまた同族を倒すことでさらに攻撃力をアップさせるスキルだ。
現在の【才金貨 リャナンシー】の到達形態は第4形態。〈上級エンブリオ〉に進化するのと同時に《ブラッド・アビリティ》も強化され、そのスキルレベルは6になり、同時に使用できる数が3つにまで増えている。
スキルによって新しく追加した《同族連続撃破強化》スキルによって、この状況での攻撃力強化値は6000オーバーにまで至っている。
同じく追加している《精霊殺し》スキルによってダメージ値が2.5倍になっているため、ミック自身の素のステータスを加えれば、エレメンタルに対する攻撃力は18000近くになる計算だ。
一体一体が弱い《グレイブアームズ》で生み出されるモンスターなら、容易く一撃で撃破可能な威力であり、【アルヴィニオン】に対しても有効なダメージを与える事が可能な程の威力。
だが、それでも――届かない。
ミックの放つ攻撃は有効だ。
だが、攻撃を満足に当て続ける事ができていない。
【アルヴィニオン】に近づく足を、《グレイブアームズ》が止める。
それを処理しようと手と足の軍勢を倒せば、その隙に【アルヴィニオン】が攻撃を仕掛けてくる。
遠距離攻撃をしようにも、手と足の壁に邪魔をされる。
相も変わらずの、近接戦闘型の死地。
むしろここまで戦えているのが見事だといえるだろう。
《危機察知》スキルを、上限を超えて12で習得しているおかげで、《グレイブアームズ》による奇襲をかわすことができているだけだ。
だが、このままではそれも持たない。この無限ループが続けば、ステータスではないスタミナ切れによってミックはデスペナに陥ってしまうだろう。
《生命力強化》や《持続力強化》スキルを使う余裕さえない。
だからこのままではミックの敗北はゆるぎないだろう。
そう、彼だけなら――
「《
初めに動いたのは桜火。
【再誕炎蛇剣 ネフシュタン】が持つ二つの固有スキルの内の一つであり、破壊された武器を元の状態に戻すスキルである《炎華再生》に対して、こちらのスキルは単純な炎を纏わせて強化するアクティブスキル。
〈エンブリオ〉自身である剣の威力に比例した炎を纏わせる。剣の威力が上がれば炎の威力も当然上がり、第3形態の時点でも武器攻撃力は500近くあり、さらにジョブスキルも踏むめると、その攻撃力は1000を超える。
それにさらに炎が追加され、その一撃は性能が高めの《グレイブアームズ》でさえも、やすやすと噛み砕く蛇が生まれる。
それほどの威力を生み出している桜火でも、いまはまだあの〈UBM〉には届かない。
あと数時間ほど踊り続ければもしかしたらいけるかもしれないが、それでは遅いしうまくいくとは思えない。
だから、桜火は自分がサポートに回る道を選ぶ。
桜火は踊り続けながら、蛇を動かし地面から生える手と足の軍勢を削っていく。
だがそれで終わるわけも無い。
たとえ数十倒されようと、また再び生み出されていくのだ。
だから次の手が必要なる。
「っち、仕方がない! 借りは後で返してもらうからな! 《二重召喚》“爆弾魔よ”《コール・デヴィル・ボムトルーパー》」
次に動いたのはローガン。
この手を使えば、間違いなく自分は選考からこぼれおちる。そう思いながらも、ローガンは悪魔を呼び出す。
呼び出したのは18体の《ボムトルーパー》。
《偽証》によって召喚数を3倍化し、特典武具の効果によってさらに2倍化した、召喚数によって大量の悪魔が呼び出される。
この悪魔をそのまま敵にぶつけるわけではない。
それではあの〈UBM〉を倒すほどのダメージを与える事も出来ないだろうという確信はあった。
だから、この悪魔たちの使い道は、次へつなぐための一助とすることに使う。
ローガン本人にとっては業腹だろう。自分にあの〈UBM〉を倒す手段がなく、かつ知り合いがその手段を持っていて、そしてその知り合いに手柄を渡さなくてはならないなんて。
自分が何者よりも勝っていると自負する彼にとっては、許しがたい屈辱である。
だが、自分の力を悔いながらも、彼はこの道を選んだ。
彼の望む先には、この道が手っ取り早いだろうかと悩みながらも。
ついでに、ミックの奴が失敗してデスペナになってしまうのなら、それはそれで俺が頑張ってMVP特典をとってやるだけだ! と自分を納得させながら、地面に向けていた《ボムトルーパー》を爆発させる。
「ギギ」
「ッローガンか! 荒っぽいな……だが助かる!」
《ボムトルーパー》の標的にさせ、爆破したのは地面。
今もなお、ミックと【アルヴィニオン】と……ルパンがたっていた足場を崩す。
これによって、【アルヴィニオン】からの猛攻はなくなり……なによりも《グレイブアームズ》による邪魔がなくなる。
足場が崩れた事によって宙に浮く3者。
この状況を生み出してくれたローガンの方を見ながら、ミックはあの〈UBM〉を倒す手段を使用することを決める。
この〈Infinite Dendrogram〉において威力を出すスキルレベルを保有するジョブスキルは複数ある。そのなかからレオンが探しだした、ミックに合うジョブスキルの中でも最もよく使うのが汎用スキルと、そしてスレイヤー系統だ。
○○殺しと名がつく、スレイヤー系統は下級の段階のスキルレベル1からスキルレベル5までも十分に強力な性能を誇っている。
しかし、もっとも変わるのが節目に入ってから。下級の頃は20%ずつ推移していた上昇値が、上級の領分に入った途端にその性能を飛躍的にアップさせる。その推移する量はスキルレベル1ごとに50%ずつになり……そしてそれは超級職との節目でも行われる。
純粋に攻撃力を強化できるスキルであるため、このスキルを基本的に使っていくのが、最近のミックのスタイルになっている。
そして、これから行うのはそれの発展系。
まず、ミックは両手に持っている武器をしまう。
これから行う事に、両手がふさがっているのは不利でしかないからだ。
そして、アイテムボックスからひとつの武器を《瞬間装備》によって瞬時に取り出す。
選んだ武器は【一族殲滅 ババババスター】と名がつけられた一人のジュジュと名乗る〈マスター〉が造った、オーダーメイド武器。
次に両手に異なる物を持つ。
右手に大筒を持ち、敵である【アルヴィニオン】に狙いをつけ。
左手に金貨を持ち、自分の〈エンブリオ〉のスキルを起動する。
起動するスキルは《
対象は敵ではない。
ミックを含む誰一人として、あの〈UBM〉のスキルがジョブスキルを使用していることなど分らない。それにたとえ使っても、《ペンは剣より強し》の『エラー』によって、再び動き始めてしまうのが落ちだ。もしかしたら攻撃できなくなるかもしれないが、それに賭ける必要はないだろう。
そしてローガンたち、他の仲間でもない。
この状況で仲間のスキルを増やすことに意義が生まれるスキルは少ない。
それこそスレイヤー系列や、ローガン用に《悪魔強化》スキルを渡すぐらいだろう。もし他に手立てがあればそれを使ったかもしれないが、今回は違う。
残るは一人のみ。
そう、《
このことに気がついたのは、お互いに〈エンブリオ〉のスキルの内容を共有し合っていたレオンだった。
それまで所有者であるミック自身も気がつかず、そして試さなかった方法。
《精を奪い、才を与えよう》の文面を簡潔に書くと『自分が保有するスキルを、この〈エンブリオ〉が触れている相手に渡す』というもの。
あくまで〈エンブリオ〉が触れている相手に渡すものであり、『他者』に渡すスキルではない。
その違いは大きい。そう――
《精を奪い、才を与えよう》というスキルは、〈エンブリオ〉である金貨に触れているのなら、自分も対象にすることができるスキルなのだ。
自分のスキルを自分に渡しても意味はないと思うだろう。
そう確かに、通常ならこの手間をかける意味などありはしない。
だから通常でない方法によって、この手間の意味を生み出している。それは《ブラッド・アビリティ》という方法。
この二つの〈エンブリオ〉を組み合わせる事によって、できること。それは――
「リャナンシー、《精霊殺し》セット、《
ひとつのジョブスキルレベルの二重強化。
本来《ブラッド・アビリティ》では、ひとつのジョブスキルに対してひとつの枠しか使用することはできない。
だが、《
その違いによって、再び《ブラッド・アビリティ》の対象とすることができるのだ。
元々、《ブラッド・アビリティ》のスキルレベルと同数値のスキルレベル6として付け加えられた《精霊殺し》のスキル。それが、《精を奪い、才を与えよう》によってスキルレベルそのままに加えて、さらにそこに《ブラッド・アビリティ》の強化が入る。
スキルレベル12という、本来の限界を軽く突破した《精霊殺し》の攻撃補正値は550%。
対エレメンタルに限り、今のミック・ユースは五万近い攻撃力をたたき出すことが可能になる。
それだけの威力があっても、あの〈UBM〉を倒すのは不可能だ。
スキルレベルが12に上がったことにより、猶予時間が増えたとはいえ、エレメンタルを倒さずにいればあと一分でこのスキルも切れてしまうだろう。
五万近い攻撃力があっても、あの〈UBM〉のHPを削りきるのは不可能に近い。
だが、彼の保有する戦力は何も〈エンブリオ〉と【
「ババババスター起動! 《
【ババババスター】から、紫色の丸い弾丸が発射される。
最後の保有戦力こそ、【ババババスター】のもつスキル。
《石紫死》の固有スキルは、ぶつかった相手に毒の状態異常を与える。
だが、仮にも相手は〈UBM〉。ただの状態異常が通じるはずもない。
「ジョウタイイジョウスキルトダンテイ。モンダイナシ」
【アルヴィニオン】が断定した通り、このスキルを持ってもこの〈UBM〉を倒すことなど出来ない。
問題はないと、空中だからというのもあるが……その身でまともに食らい。
そして全身に毒がまわる。
〈UBM〉を侵す毒こそ、《石紫死》の能力。
この毒の性能は、使用者のもつ倒す相手にマッチした《○○殺し》スキルのスキルレベル性能によって飛躍的に上昇する。
スキルレベル12に比例した威力は、それに対抗するスキルを保有していないなら神話級さえも侵し、ただの毒のダメージのみで十万程度は敵を削りきる。
だがそれでも【アルヴィニオン】の全HPを削りきることは不可能だ。相手のHPは五十万、十万を削りきってもまだ4/5も残っている。
しかし……それでも終わりだ。
「グギャアアアア」
【アルヴィニオン】であって、【アルヴィニオン】でないものの悲鳴が響く。
その突然の悲鳴にローガンたちは驚くが……、ミックにしてみればなにも驚く必要のない事に過ぎない。
ミックは最初から《看破》を使用していた。もともともつスキルレベル5に加え、さらに二つのスキルによって上限がアップされ、スキルレベル12という高ランクスキルで敵を看破して……不自然さに気がついた。
それは敵に〈UBM〉の反応がありながらも、モンスターの集合体でしかないという情報。
一度は、敵がモンスターの集合体であるというだけなのだとも思いはしたが、上から降ってきていた、大きな手の姿の【アルヴィニオン】を視認した時点で、ようやくその意味に気がついた。
地面から生えてくる無数のモンスターも、四肢が集まってできていた人の形の異形も、そして大きな手の怪物も、すべては〈UBM〉である【アルヴィニオン】が生み出した物にしか過ぎない。
確かにあの大きな手の怪物は強大であり強力だ。
あのバカ高いステータスを同行する手段はミックにも無かった。
しかし、わざわざあれの相手をするまでも無い。
なにせあの手の怪物の中に存在する【アルヴィニオン】本体のステータスは、HPが1000ほどしかなかったのだから。
もちろんあの硬い手を砕く方法はそうはない。
だが、中身を倒すだけなら、今のミックは保有していた。
それこそが《石紫死》のもう一つの効果。
このスキルは相手に与えたダメージの○○殺しスキルレベル%のダメージを、周囲の同じ種族に与える事ができる。攻撃を与えられる範囲は、ここ一時間の連続同族撃破数と同じ。
ゆえに、周囲1000メテルにわたり、エレメンタルすべてをなぎ払う、死の風が吹き荒れる。
「ゴッガ」
与えるダメージは1万2千。そんな威力に耐えられるエレメンタルなど、手の怪物を除きいるはずもなかった。そう本体も含めても。
そして、周囲のエレメンタルが光の塵に変わり、同時に右手の怪物が力を失ったかのように崩れ落ちて……
【〈UBM〉【肢造傀儡 アルヴィニオン】が討伐されました】
【MVPを選出します】
【【ミック・ユース】がMVPに選出されました】
【【ミック・ユース】にMVP特典【肢造背嚢 アルヴィニオン】を贈与します】
そのアナウンスによって、戦闘が終了したことが告げられる。
To be continued