閣下改竄   作:アルカンシェル07

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閑話2 太陽と星

閑話2 太陽と星

 

46 day

□〈アガリー平原〉 【大司祭】レオン

 

 天頂に太陽が燦然と輝く。

 僕たちの目の前には、金の海原が広がっている。

 太陽から発せられる光は、金の海原に反射して、一つの絶景を生み出す。

 麦の様な穂をつけた、豊饒の印を蓄えた地平まで広がるほどの大草原。それが今僕たちがいる〈アガリー平原〉の情景だ。

 麦の様な金の海原が広がると言っても、食べられるものじゃないらしい。これで腹を膨らませるのは厳しいだろうというのが、この地域一帯にすむティアンの人々の言だった。

 

 僕たちがここにいるのは、あるクエストを受けての物だった。

 そのクエスト自体は対して特筆するべきものじゃなく、『村の近くにはびこっているモンスターを駆除してくれ』というだけの依頼だった。クエストの難易度は5という、難しくないとは言わないが、僕たちなら問題ないだろうというレベルの物。

 油断でも何でもなく、ただ事実として現段階で僕たちを脅かすような事態は起こっていない。そして見渡す限り、その予想外が起こりえる可能性は限りなく低い。

 今もなお、僕の視界内で二人が動きまわり敵を殲滅していくのが見える。

 

 敵は下級の雑魚モンスター。【ゴブリン・キング】が率いる100をわずかに超える【ゴブリン】種の軍勢。

 【ゴブリン・キング】を象徴する《ゴブリンキングダム》の効果でステータスを強化されている各種【ゴブリン】達を、彼女達は苦も無く殲滅している。

 いまだに首魁である【ゴブリン・キング】にダメージを与える事は出来ていないが、それでも配下である【ゴブリン】達を倒していけばその内に攻撃が通るようになると思う。民衆のいない王ほどみじめな物はないからね。

 

 「「「GUGYAAAA」」」

 

 どこかで【ゴブリン】達の断末魔が聞こえてくる。同時に広がる大きな爆発音と、天に向かって黒い煙が立ち昇るのが見える。

 ゴブリン達にとっての惨状を生み出した主は誰だろう……、と一瞬考えたけどこんなことをこの程度(・・)で済ませる事ができるのはA・D・Aだけだろうね。

まだ彼女(・・)は動いていないし、もう一人はそういう攻撃が得意じゃなさそうだしね。

 

 「……やっぱり、アンジェラだったか」

 

視線を爆心地に移動させてみると、そこにはやはり金色に輝くバズーカを肩に持ちあげて、盛大に爆発させたのが見えた。

 おそらく数体の【ゴブリン】が固まっていたのだろう。もしかしたら【ゴブリン・ウォーリア―】等の上位種が存在したのかもしれない。

 だけど、それをアンジェラはバズーカで一掃した。僕たちのパーティーにはいろいろなタイプの〈マスター〉がいるけれど、彼女は火力だけなら確実に2位(・・)になれるほどの火力を持っているね。

火力という点においては、大した火力を持っていない僕はともかく、万能性において僕たちのパーティーの中でも突出した能力を誇るミックさえも上回りそうだ。

今もアンジェラは金色に輝く銃を両手に持ち、周囲の【ゴブリン】達の脳天に鉛玉を命中させまくっている。

ほとんどの敵を近寄らせることもさせないほどに、密な銃弾の幕を貼り、その一射一射が敵を致命にまで持ち込ませている。

 銃自体はそこまで強力な物じゃないと聞いている。この前やっと上級職に上がったというアンジェラのチューニングがなされたと言っても、その性能は一撃で敵を討てるほど強力な物じゃない。

 一撃で敵を終わらせる。どこにでも売っている類の銃が、下級とはいえモンスターを倒せるほどの火力を出しているのは、さきほどからアンジェラが使用している《ゴールド・ラッシュ》のスキルによる強化がされているから。

 アンジェラの〈エンブリオ〉は上級に上がったことで、銃火器特殊エンチャントスキル《あなたが選んだのはどっち?(スムースorラフ/ウィッチ)》によってつける事ができる《ゴールド・ラッシュ》の性能も飛躍的に上がり、強化幅だけでなく持続期間に関しても強化がされている。

 元々、一撃のみに効果を発揮していた《ゴールド・ラッシュ》だけど、銃に関しては弾を撃ちきるまで効果が続くように改造できるようになり、敵を倒す効率も格段に上がっている。

 一発・一丁よりも六発・一丁の方が効率いいからね。それでも銃を使い捨てているのには変わりないけれど……それもアンジェラの〈上級エンブリオ〉の新しいスキルの御蔭で少し変わった。今のアンジェラは武器を使い捨てることをためらう必要がない。

 

 「さすがだね。まとも(・・・)に戦えるのが二人だけだっていうのに、アンジェラも……そしてあの子もよくやってくれている」

 

 視界をアンジェラから、もう一つの方に向ける。

 僕たちがこのクエストを受けると決めた時に誘ったもう一人の参加者。

 僕たちが初めて誘う、Friend‘s friend。

 ――そう僕・アンジェラ・彼女に続く4人目の今回だけの仲間(パートナー)。それは、

 

 「すごいね。さすがミックやあのブルーノって男を倒して、予選から抜け出ただけはあるってところかな? あの子だけでアンジェラの倍のモンスターを倒してるや」

 

 今もなお、踊り続けながら焔の蛇を使役する一人の少女。

 今回のエキストラとして協力してもらっている、七咲桜火という名の一人の子。

 彼女は強い。25位とはいえ、決闘ランカーに成れるだけの実力を持った、現時点の僕たちのパーティーの中で最強の力を誇る単騎戦力。

 

 ―-そう、僕たちのパーティーに、ミックは入っていない。

 

 誘わなかったわけじゃない。ミックを誘わない理由なんてないから、当然誘ったさ。

 だけど、彼は彼のやりたい事をするために僕たちの誘いを断った。

 現実(リアル)に用があったわけじゃない。ミックの用は遊戯(ゲーム)の中にある。

 彼が今回のクエストを僕たちと一緒に受けずに、したかったのは彼自身の鍛錬の為だ。

 レベルやステータスじゃない技術と言う力を速くつけなければならないと、ミックは思ったからこそ、僕たちの誘いを振り切って、今は一人で力を磨いている。

 理由はミックが決闘仲間全員に敗れたからだ。桜火ちゃんだけじゃない。ブルーノさんにも、そしてローガンにも。

 ミック自身が弱くなったわけじゃない。ミックはいまも変わらない強さを持っている。

 だが、今のミックの実力ではブルーノさん達のステータスに追いつくことができず、桜火ちゃんとローガンの二人の新戦力に及ばなかった。

 全員に負けて悔しがっていたけど、それでも諦めずに強くなる道を探し……そしてソレは近くにあった。

 

 彼が半月前に手に入れた一つの装備――特典武具と呼ばれる【肢造背嚢 アルヴィニオン】という一つのアクセサリー。背負う形の数種・数個しか入れられないアイテムボックスの形式をした、手を造るスキルを有するアイテム。

 ミックはあの特典武具を手に入れてから、少し使っただけで使うのを止めてしまった。

 理由は単純。あの特典武具は、能力が劣り、かつ使いづらい。

 手をバッグからしか生み出すことができず、一体しか生み出すことができず、スキルを持っているという事も無く………何より、生み出した腕を動かすのは自動(オート)ではなくイメージによって動かす手動(マニュアル)というありさま。

 ミックから聞き出した、あの特典武具の元となった〈UBM〉。【肢造傀儡 アルヴィニオン】との戦い、その能力からすれば弱体化というレベルではなく、完全な下位互換としか言えない。

 特典武具は元となった〈UBM〉のそれより、弱くなるということは知っていたけれど、あれほどだとは思わなかった。僕たちの知るもう一人の特典武具保持者であるローガンのMVP特典はそこまで弱体化していなかったし。

 伝説級の特典武具だというのに、その強さがまるでわからないよね。

 だからミックはあの特典武具を使うということをしばらくしてこなかったんだけど……

 それではダメだ。ということで特典武具を使って強くなる道を選んだ、というわけだ。

 

 

「すごいね……」

 

腕を動かす修行中のミックに変わって、頑張ってくれている桜火ちゃんは、かなり速いスピードでモンスターを倒していっている。

殲滅速度なら、ミックよりも上だねこれは。

彼女はくるくると回りながら、腕の振り、剣鞭の伸縮で焔の蛇を自在に使役して、ゴブリンを倒していってる。

ミックよりも一度の攻撃範囲が大きいから、一度に倒す数も多い。

数秒踊り、その一帯のモンスターを倒し終えたと思ったら、剣鞭の反動を利用して高く跳び上がり、踊り続けながら宙を舞う。

それをすごいと素直に思う。【剣舞士(ソードダンサー)】のスキルの大半は踊り続けなければ効果を発揮することはできない。踊りが終わったとジョブが判断すれば、その時点で効果が無くなるスキルを、永続的に発揮させ続けている。

踊り続けながら攻撃できるのは彼女の才能(エンブリオ)。踊り続ける事ができるのもまた彼女の才能(センス)

彼女は異なる才能を両立させて、普通の人間には不可能な奇跡を生み出している。

 

また一つ一帯のモンスターを殺しつくす。

地を這う蛇のアギトが最後に残っていた【ゴブリン・ウォーリア―】の頭を貫き光の塵に変えていく。

アンジェラもだけど、桜火ちゃんもまた下級とはいえモンスター1体を一撃で倒して言っている。

対ゴブリン戦を始めて、踊り始めてからそろそろ十分が経とうとしている。

それだけ時間がたっているのなら、僕のバフも含めて今の彼女の攻撃力は5000を超えているだろう。

僕はまだ《看破》をとっていないからわからないけどね。

さて、この分なら……

 

『……Master, Enemy』

 

僕ではない、誰かの声が近くから聞こえる。

敵ではない。これは僕の味方で……パーティーには含まれない四人目の意思を持つ存在。

それは僕の杖………【太陽獣杖 ラー】の声だ。

僕の〈エンブリオ〉であるラーは、上級に上がった時点でこうして話をすることができるようになっていた。もっとも話をすることができるとはいっても、流暢に話すことができずに、片言な英語になっていない不思議な文法で喋って来るのだけれど……一応理解はできるからこれでもいいかな? 

逆に理解できるからこそ、この程度の喋り方しかできていないという考え方もあるけど。

 

「ん。なるほど、モンスターが近づいてくるね。あの二人の攻撃範囲に入らずにここまで来たんだ……。すごいけど、でもやられるわけにはいかない」

 

ラーの忠告通りにこちらに向かってくる、三体の【ゴブリン】に目を向ける。

【ゴブリン】は僕の横合い……あの二人が【ゴブリン】達を数十と倒して言っている、黄金の海とは別方向のから来ている。

逃げ切ることに成功した……、というよりは別働隊と見た方がよさそうかな?

その割に、強そうなモンスターはいなさそうだけど……。

僕も《看破》をとるべきかな? 今まではミックにそこら辺を任せていたけど、僕もそこらへんは注意した方がよさそうだ。

それはそれとして、モンスターの相手は……

 

「うん、やっぱり僕が倒すしかないか。二人とも、ステータス強化はこれ以上いらないかな? 彼女も僕がいちいち強化する必要はないだろうし………ラー、《太陽は天に、空を舞う(シャイニング・デイズ)》の対象を僕に固定してくれないかな?」

 『YEEEEES!!』

 

 ラーにあるスキルの操作をしてもらうように頼む。

 そのスキルが、汎用万能バフスキルである《太陽は天に、空を舞う》。

 スキルの内容は、そこまで難しいものではない。一定範囲内にいる対象のステータスを最低3%から最大200%アップさせるというもの。

 上昇幅は対象にする数によって変わり、一人ならば高い上昇幅を与える事ができる代わりに、数十人にバフを与えるとなるとその上昇幅も反比例して低くなる。

 上昇幅を変化させてているもう一つの条件も含めて、スキルの性能が変化しやすくなってしまうある意味欠点なスキルだけど、それでもこの場面で僕単体に能力を使うなら問題はない。

 太陽の光が凝縮されていき、僕にその日差しが降り注ぐ。もっとも本当に太陽の光を凝縮しているわけではなく、このバフスキルのエフェクトにしか過ぎないんだけど。

 焦点を変えているのは、僕たちの頭上高く飛ぶ一羽の隼。

 ラーのメイン部位である“太陽球体”を変化させるスキル、《太陽は獣に変わる(ラー・ア・ラー)》によってモード・ファルコンとして空を飛んでいた、ラーの分体が条件付き広域バフを凝縮させ、単体バフに変化させている。

 手を握り、また手を開く。

 今はステータスを確認している暇はないけれど、僕のステータスはおそらく3倍になっているんだろう。

 これなら。

 

 「これなら、下級モンスターを相手取るのに問題はないね」

 

 近づいてきた【ゴブリン】の一帯が僕に向かって、手荷物棍棒を振り下ろしてきた。

 元のステータスでもこれくらいなら軽く避けられるだろうけど、今のステータスなら迎え討てる。

 上から振り下ろされる棍棒に対して、手に持つ長杖(ラー)をほぼ垂直に付き立てる。

 垂直そのままじゃない。あくまでもある程度の傾斜をつけることによって、棍棒は杖の柄を滑り、勢いのまま攻撃の方向をずらして地面に激突する。

 棍棒が杖を滑る音、棍棒が地面にぶつかる音を聞きながら、アイテムボックスから取り出した短剣を、全力の一撃を地面にぶつけられて硬直していた【ゴブリン】の首に当てる。

 こんな状態ではなった一撃だ、短剣をステータス的な意味合いで装備はしていないため、装備スキルや補正が入らないけど、元々僕はそんなスキルを持っていないからあまり気にすることじゃないね。

 後衛とはいえ、3倍化したステータスで首という急所を刺したその一撃は、言うまでも無く容易く【ゴブリン】のHPを奪い取り、光の塵へと変化させる。

 僕はそれを視界の端に入れながらも、さらに動き続ける。なにせこれで終わりではなく、同等とはいってもまだ2体も残っている。

 

 「GYAGYAGYAAA」

 

 仲間を殺されたからか、1体の【ゴブリン】が激昂して棍棒を横にスイングしてくる。

 一体目の【ゴブリン】を倒した僕の隙をつき攻撃して来た【ゴブリン】の攻撃を避ける事は出来ず、かろうじてこん棒と身体の間に杖を割り込ませてガードに成功する。

 だけど、ここで僕の悪いところが出てしまう。ただガードに徹すればいいというのに、悪い欲が出てしまい、短剣をカウンターの要領で攻撃を仕掛けてきた【ゴブリン】に対して行ってしまう。

 一応これで、攻撃を仕掛けてきた【ゴブリン】を倒すことには成功したけれど。

だけど、ガードに成功したと言っても、その一撃は防ぎきることはできずに反動も加わり後方に吹っ飛んで倒れてしまう。

 

 「まずっ、《フォース・ヒール》」

 

 倒れこみながら、転がることで最後の【ゴブリン】の一撃をよけながら、回復魔法を使ってHPを回復させていく。

 いくらモンスターを倒すことができたと言っても、その一手で窮地に陥っては世話はない。

 後悔を抱きながら、土と草にまみれながらも、転がることで回避しようとするけども………、間に合わない!

 そうして倒れ込んだ僕の目の前に現れた【ゴブリン】が、僕めがけて棍棒を振りおろそうとして、

 

 「くっ……、へっ?」

 

 その脳天に風穴があけ放たれる。

 風穴は数ミリの弾痕。

 いきなりの事でびっくりしたけれど、僕たちのパーティーでこんなことができるのは一人しかいない。

 それを為したのはもちろん。

 

 「おう、大丈夫かいレオン。まったくあんたは後衛なんだから、気をつけてくれなきゃ困るわさ。まあ、レオンほっといてのんきに、山狩りに励んでいたあたしがいえる事じゃないのかね?」

 「ああ、ありがとうねアンジェラ。おかげで助かったよ」

 

 助けてくれたのは、ライフルを肩に担ぎながら、こちらに意気揚々と向かってくるアンジェラだった。

 間一髪のところで助けてくれたらしい。

 彼女が来てくれなかったら、安全なはずのクエストでまさかのデスペナに陥っていた可能性もあったから、本当に助かった。

 それにしても彼女がこっちに来たという事は……

 

 「アンジェラ、戻って来たってことは終わったんだね」

 「ああ、私の分(・・・)は終わった。あとはあいつ次第だね」

 「そうか……。ああ、桜火ちゃんもこっちに戻ってきてるね、【ゴブリン】達も予定通り逃げていってる」

 

 みれば先ほどまで踊りながら、敵を蛇腹剣で攻撃していたはずの桜火ちゃんも、今は剣を元の片手剣の形態に戻しながら、こちらにのんびりと歩いて戻ってきてる。

 僕たちが【ゴブリン】達を大量に倒して言ったからだろう、【ゴブリン・キング】はここで戦うのは得策ではないと、いったん引くことにしたんだろうね。

 その考えは間違ってはいないと思うし、そして盛大に間違っている。

 ゴブリン達が逃げていき、時間がたつにつれ、一体そしてまた一体と黄金の海原から抜け出していく。

 このクエストを発行した村長からは、この麦のような草原を犠牲にしても構わない、ということは言われているけれど、こんなにきれいな風景を犠牲にするのは少しひける。

 最悪の場合は、犠牲にするつもりだったけれど、アンジェラと桜火ちゃんの二人の活躍によって、この草原から【ゴブリン】達を追い出すことに成功した。

 

 ――そう、彼女たち二人の役割は、あくまでモンスターを追い立てるのがメインだ。二人にはメインの討伐……殲滅は難しいだろう。だからその役割は別にいる。

 

 「そろそろだね、アンジェラ用意しといてね」

 「あいつが終わったら、こっちもぶちかますから心配しなさんな」

 

 アンジェラが銃を構える。

 狙いは【ゴブリン・キング】。だけどこのまま撃ったりはしない。

 合図を待って、ただアンジェラは構えたまま、動かない。

 

 「戻ったのです。ええと、【ゴブリン】さん達を放置して大丈夫なのです?」

 「お帰り、桜火ちゃん。大丈夫だよ、あれらはもうすぐいなくなる」

 

 モンスターを倒し戻ってきた桜火ちゃんを労いながら、大丈夫だという事を告げる。

 そういえば話してなかった、と思いその事を話そうとして……

 

 「? それはどういう……、えっ!?」

 

 ――その瞬間、世界が蒼く染まる。

 

 ある一点、ゴブリン達のさらに向こう側から、青い光が放たれて周囲一帯を包む。

 桜火ちゃんと同様に【ゴブリン】もいきなりのその変化に驚いたようだ。もっともこれはただのエフェクト。これ自体は攻撃でも何でもない。

 攻撃であるのは……次の一撃のみ。

 青い光を放つ中心点から、魔力が吹きあがる。

 魔力が高まるのと同時に、その中心点の頭上に青い光球が浮かび上がる。

 一秒ごとに魔力は高まり、同時に比例して青い光も大きくなり輝きを増していく。

 見るからに膨大な魔力。後に聞いた話では、この時に使用した魔力総量は十万にもおよび、魔法系超級職の域に達するレベルの魔力を用いてたった一つの魔術を成立させる。

 青い光は半径100メテル近い程に巨大になり、一つの星となる。

 

 みるがいい、ゴブリン達よ。

 あれが僕たちの最大戦力。

 その名は――

 

 

 ――そして星が流れる。

 

 青い球体から、光が放たれる。

 単純な魔力砲。膨大なMPによって無理やりに放たれた、その魔法は通り過ぎる過程すべてを消去させながら、大地をえぐり取っていく。

 防御なんて、意味はない。あれを防御するなんて〈UBM〉でも難しいだろうね。

 当然、〈UBM〉でも何でもない、ただの下級モンスターにそれを防ぐことなど出来るわけがない。

 その一撃の魔法は正しく、敵をすべて殲滅し、一つのマップすべてを壊滅させる。

 

 

 僕たちのパーティーは、全員戦闘のタイプは異なる。

 個人戦闘型にして、単騎における最強戦力のミック。

 広域制圧型にして、全局面に対応可能なA・D・A(アンジェラ)

 広域支援型にして、器用貧乏な能力を持つ僕。

 そして広域殲滅型にして、集団戦において最大戦力のキャロル・キャロライナ・キャロライン。

 彼女の一撃は、単発ながらマップ一つを壊滅させることが可能だ。その分連射はきついけれど。

 

 「いよし、ターゲットクリアー。終わったよレオン」

 

 僕たちの戦力の事を考えていた思考に、アンジェラの声が割り込む。

 どうやら、ヘッドショットに成功したらしい。

 【ゴブリン・キング】は自分のダメージを、配下へと移すことができる。

 もし、キャロの攻撃で終わらなかったら、最後の一撃をアンジェラに頼んでいた。

 あの一撃で生きているかどうかもわからなかったけど、以外に生きていたらしい。それでもヘッドショット一発で死ぬくらいにはHPが削れていたみたいだけどね。

 さてクエストも終わったし、

 

 【設定時間になりました】

 

 キャロルを迎えようと思ったけど、その前にアラームが鳴ってしまったか。

 もう少し時間の余裕があったらいいんだけどね。

 楽しい時間は終わりのようだ。

 

 「ごめん、アンジェラ。僕はそろそろ帰るとするよ。キャロを迎えに行ったら、クエストの報酬を受け取っておいてね」

 「ん? ああ、もうそんな時間かい? 楽しい時間は早く過ぎ去っていくものさね」

 「まったくだよ」

 「あのー。レオンさんはもう帰ってしまうのです?」

 「そうだね。ごめんね桜火ちゃん、クエストに誘っておいて途中で帰っちゃって」

 「いえ、私も楽しかったですから大丈夫なのです。レオンさんもリアルの用ですよね? お疲れ様なのです」

 「ありがとう。それじゃあね」

 

 そうして僕はログアウトを実行する。

 

 

 「ん……」

 

 ヘッドディスプレイを脱ぎ、目を開ける。

 見なれた天井、見なれた部屋。

 ああ、現実(リアル)に戻ってきてしまったんだな、と思ってしまう。

 どうやらずいぶんあっちの世界の事が気に行ってしまったんだな、とすこし自嘲する。

 それほどにあの世界は精密だった。

 いや、あの世界は間違いなく、ゲームではなくもう一つのリアルだった。

 最初こそ、ゲームだと思って始めたこのデンドロだけど、今はそうは思っていない。

 僕は今は“この世界をゲームだと思っていない”。もっとも、それを口に出すことはしないけども。ミックたちはあの中をゲームとして楽しんでいるし、その楽しみを邪魔したくないしね。

 

 「時間は……、多少余裕はあるけど、早目に言った方がいいかな?」

 

 あらかじめ用意していた、荷物を手に僕は外に出る。

 

 

 「ローガン・ゴールドランス。決闘10位に勝利、最速のレコードホルダーになるか・・…か、どうやら彼も随分頑張っているようだね」

 

 今は電車の中。

 僕の目的地が少し離れているから、電車に乗って移動している。

 だけど、ただ乗っているだけもつまらない。今もゲームをしているみんなの為に情報収集はした方がいいかな、と思っていつもこうして端末を手にいろいろな〈Infinite Dendrogram〉のサイトを見て回っている。

 

 サイトと言っても、このゲームは自由すぎて狩り場の情報やらなにやら一秒ごとに変わってしまうから、そこまで参考にならなかったりするけどね。

 それでもたまに掘り出し物の情報が眠っていたりするということで、いつもこうしてニュースサイトの一つであるデンドロ関連を取り扱っている〈MMOジャーナルプランター〉というサイトにアクセスしているというわけだ。

 皇国関連のニュースを探っていき、出てきた一つの情報が先ほどの記事だったというわけだ。

 他には『皇国北部で黒い太陽が発生?! 異常気象か』『不可能クエスト! 皇国最強クラン〈ジャスティス・アーミー〉が壊滅した難易度詐欺クエスト『一輪の花をもとめて』に注意』『ある村で恐竜とそれにつき従う小動物が出現。〈UBM〉と思われて〈マスター〉が向かった先に居たのは怪獣型の〈エンブリオ〉とヤマアラシの〈マスター〉だった』などの見出しの記事があった。

 

 ……あまり有益な情報はなさそうだね。

 まだ目的の駅には遠いから掲示板でも覗いておこうか。

 

 掲示板で最初にみたのはジョブのことが書かれている掲示板だった。

 デンドロのジョブはかなり多いから、すべてを記憶しておこうとすると大変だから、こうして逐一頭に叩き込んでおかなくちゃならない。ミックはそこら辺が大の苦手だし。

 〈マスター〉の中で人気なジョブを知れば、それに対策もできるしね。

 

 そうして眺めていたジョブのリストの中でもっとも目を引いたのは、僕がまったく注意を払っていなかった二つのジョブ。

 ジョブの名は、それぞれ【獣戦士】と【生贄】という名前だ。

 全く意識していなかった、その二つが〈マスター〉達のなかで人気になる理由が、それぞれの詳細を確認した時点で理解できた。

 なるほど、確かにこれはすごいな。

 もっとも僕には合わないだろうけど。僕のラーはガードナー成分はあってもステータスはそう高くはないし、MPよりも他の部分の方を充実させたいからね。

 

 「ああ……、そういえばあれも併用できるのか」

 

 ある一つの事に気がつき、これの利用方法に関して思考をまとめる。

 

 「うん、これなら……、と到着か。深く考えるのは帰ってからにするかな?」

 

 開いた電車の両開きのドアをくぐりぬけて、リアルへと戻る。

 思考をゲームから、リアルに切り替えて……

 

To be continued

 

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