閣下改竄   作:アルカンシェル07

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(=○π○=)<もう1話、閑話を上げようと思ったけど、ここで出せる情報が無かったことに気付いて断念

(=○π○=)<なので諦めてB開始です。


プロローグ 裏で動くもの

プロローグ 二つの思惑

 

□■皇都ヴァンデルヘイム

 

 ドライフ皇国の首都であるヴァンデルヘイムにはさまざまな区画が存在する。

 中央にある広場や、北西の決闘場、南の商店街など。

 ドライフの他の街にもさまざまな施設が存在する。

 ここには無い施設など、それこそ山のようにあるだろう。

 例を言うのなら、皇国最大の畜産地であるバルバロス辺境伯領に存在する、美食都市フォミエル。

 皇国最北端に位置する歌と音楽に彩られた、芸術都市アカラビア。

 皇国南東に点在するドライフとカルディナをつなぐ商業都市群ウィークリア。

 最たるものはこの3つ。他にも小さいものながら、特筆することが可能な都市や街はいくつも存在する。

 だが、逆に言うのなら、ここにしかない施設も存在する。

 

 それが、ドライフ皇国の中心である最重要施設。

 皇国の心臓にして頭脳をつかさどる物。そして皇国最強の戦力が座する場所。

 戦力の名は【煌玉座 ドライフ・エンペルスタンド】。

 施設の名は皇王宮。すなわち、ドライフの皇王が居城とする〈イレギュラー〉とも呼ばれる機械仕掛けの城である。

 皇国の文字通り中心的な施設であり、当然唯一しかない(オンリーワンな)他に代替不可能な超級秘匿施設(トップシークレット)

 ゆえに、この施設はここにしかない。

 

 だが、ヴァンデルヘイムにしかない施設は、居城だけというわけではない。

 重要さでは、機械仕掛けの城に及ぶべくもないが、それでも他にもここにしかない要素・施設は存在している。

 

 その一つこそ、〈ヴァイスガルテン〉と呼ばれる、ある一人の人間が造り上げた特殊な要素を保有する居住施設。

 施設があるのはヴァンデルヘイムの貴族街の一角。

 中心に存在する【ドライフ・エンペルスタンド】から離れたいとでもいうように、もっとも街の中心から離れた地点にその屋敷はある。

 都市の中だというのに、あたり一面に年がら年中咲き誇る菊やユーカリなどの白が埋め尽くされており、もの好きな貴族の一部の子女がたまに観覧しにくることもあったりするが、それを除けば人と言う物が近寄らないような場所にそれはあった。

 人が近寄らないのは、それが禁忌に近いものとして扱われているから。

 皇国において異端で悲劇に満ちた血ぬられた、第4皇子の遺児として遺された皇女が住まうとされているせいで、それを恐れてだれも近寄らなかったのだ。

 血ぬられた運命に巻き込まれたくないから。

 皇族どうしの争いに巻き込まれないように。

 第3皇子と異なり、派閥となる貴族がほぼ存在しないこともそれに輪をかける。

 第4皇子に従うのは、一人の貴族を除けば少数の一般兵士のみ。そしてその貴族も位が高いとはいえず、騎士爵という最下位の一般人とほぼ変わらない木端でしかない。

 第4皇子とその娘である皇女が、派閥を広げようとしなかったのも理由としてあげられる。

 

そしてそんな遺児である朱紗・I・ドライフは、そんな状況に悲観――などするわけはなかった。

 なぜならこの状況は――

 

 

◇◆◇

 

 そこは静謐なる白の花園。

 

 都市部であるというのに、喧騒という物を忘却されたかのように静寂が支配する。

 静寂さの理由は、いくつかあるがその最たるものはここに存在する人間が二人しかいないからだろう。

 花園の支配者である少女と、付き従う騎士の男性。この二人しかいない。

 

 男性の名はジャック・バルト。【大戦士】につく少女の近衛であり、唯一彼女の味方をしているバルト家に残る唯一の人間。侍従さえいないのは、騎士爵という身分であるからだ。他人を雇う余裕などなく、付き従う物にも恵まれない。

 もっとも彼はそれでもいいと思っている。彼一人しかいないおかげで、こうして我の道を行くことができるのだから。もし両親や侍従がいれば、朱紗皇女の元に就くのを全力で止めただろうと思っている。

 朱紗皇女の元に居れば、自分は出世することはできないだろうと思ってはいる。

 通常、派閥が分かれ、そのどちらかのトップが栄光をつかんだ場合、残りの派閥の人間は処刑されるか冷や飯を食わされるかのどちらかだろう。

 自分に敵対的な態度をとった物を厚遇するものは、歴史上を見てもそう多くはない。

 皇王になるのはグスタフ皇子だろう。もしかしたら第2皇子が皇王になるかもしれないが、すくなくともすでにどちらともいない他の皇子は候補にならず、その子息である朱紗皇女やラインハルト皇子やクラウディア皇女が皇王になることはないだろう。

 そうと断言できるほどに、この皇王決定をめぐる宮廷の戦いは、第一皇子と第二皇子のみしか土俵に上がれていない。

 後ろ盾が一人もいない朱紗皇女は元より、バルバロス辺境伯が後見人として勤めている第三皇子の子息さえもだ。

 ジャックはそうと正確に状況を把握しながらも、朱紗皇女につくことを止めようとはしなかった。

 理由はただただ単純なものであり、利害よりも自分の心に付き従った、ただそれだけのこと。

 だから彼はここにこうしている。

 

 そしてもう一人。ここの主である皇女。言うまでも無くその名は、朱紗・I・ドライフという10にも届かぬ少女。

 純白色の髪を長くのばし、銀色にも見える灰の眼の白い少女。

 その少女は今、用意された紅茶とデザートであるスコーンを食べながら、彼女の背丈からは少し大きい大理石の椅子に座りながら、ティータイムとしゃれこんでいる。

 彼女の手よりも大きい上手に焼き上がったスコーンを、小さい口でちょびちょびと食べながら、彼女はふと思い出したように、傍らに(はべ)る自分の騎士にひとつのことを尋ねる。

 

 「そーいえば、じゃっく。じゃっくがあったそのろーがんというしょうねんが、ずいぶんとけっとうじょうでかつやくしておるときいたのじゃが」

 「そうですね。先ほど決闘3位にまで上り詰めたとのことです。他の決闘ランキングに入っている次点の〈マスター〉は、第9位のミック・ユースという〈マスター〉ですから、単独トップに近いですね。もっとも他国なら他にもローガンと同じ位にまで上り詰めている〈マスター〉はいますが。アルター王国の決闘王者であるトム・キャットとかですね」

 「うーむ。とむ・かっとは〈ますたー〉ぞうかまえからいるから、それほどすごいといういめーじがないからのー。それよりもあのくにじゃとふぃがろやふぉるすてらとかのほうがすごそうじゃし」

 「あはは、そうかもしれませんね。まだ決闘王者であるトム・キャットとフィガロやフォルステとの決闘は実現していませんから」

 「うーむ。それはたのしみ。もしけっとうおうじゃとそのふたりのどちらかとのしあいがあったら、でぃいんのれんちゅうからしあいをうつしたあいてむをこうにゅうしたいの、たかければあきらめるが」

 「わかりました。その試合が起こった場合、即座に試合を映したアイテムを購入しましょう。それほど高くはならないはずですからね」

 

 やったー、と小さく手を握り締める姫を見ながら、ジャックは少し苦笑しながら思ったことを口にする。

 

 「それにしても姫様は本当に、決闘がお好きですね。すこしであれば決闘にお金を賭けても問題ないと思いますが?」

 「ひまじゃからのー。おやにあれやこれやとならいごとをおしつけられないから、じゆうにできるじかんがおおくてひまじゃー。それとぎゃんぶるはすきじゃないのじゃ」

 「………それほどにいうのなら、勉強をしましょうか? 講師もちゃんと用意しますよ?」

 「いやじゃー、わらわはのんびりしたいー」

 「……」

 

 (相変わらず、姫様はこういうことがお嫌いなようですね。すこしは勉学に励まれてもいいと思うのですが。………無理やりにやらせればいいのかもしれないですが、それが出来ない私は甘く、そして親代わりとしては失格なのでしょうね)

 

 ジャックはそんなことを思いながら、内心ため息をつく。

 この齢になっても、一度も勉学と言う物をしたことがない朱紗皇女の事を思いながら、どうすべきか考えるが、一向に答えは出てこない。

 僥倖だったのは、彼女が天才と言える人間であった事。一度も文字を教えたことが無かったというのに、このやしきに置いてあるいくつかの書物を読むことで文字をマスターしてしまった。

 道徳を教えたことも無かったが、今のところ善人といえる成長をしているから、そちらも問題はないだろう。もっともそういう風になるようなら、さすがにジャックが戒めるだろうが。

 そう思っていたジャックは、自分の服をつかみながら、こちらをじとっという擬音が聞こえそうな目で見ている姫に気付きはっとなる。

 

 「じゃっく、むりやりするようならわらわはにげるぞ」

 「あ、ああ。申しわけありません。つい」

 「いちおー、わらわをおもってのことじゃからかまわんが、こうどうにうつすなよー」

 「そうですね。姫様がこのまま知識を勝手に修めていくのなら、私は勉学を強制しませんよ」

 

 ジャックのその返しに、むぅとうめき声を上げながらあごに小さい指を添える朱紗皇女をみながら、ジャックは「そういえば」と思い出して姫に質問をする。

 

 「そういえば、姫様? ローガンのことがどうかしたのですか? 質問がかなり脱線してしまいましたが、なにか質問があったのですよね?」

 

 ジャックの問いかけに、おお!とはっとしながら口にして、手のひらを拳で叩くようなそういえばという態度のあとに、自分が脱線しまくった話題の所為で言えなかった提案を述べる。

 

 「そうじゃったな! じつはの、ろーがんたち〈ますたー〉のひとたちががんばっていることをしゅくふくし、ここでけっとうにでている〈ますたー〉をさそって、ぱーりぃーをおこないたいのじゃ」

 

 椅子から下りながら、どん!と平らな胸を張りながら、朱紗皇女は自分の提案を自信を持って告げる。

 それをはしたないと少し窘めながら、ジャックはその提案にたいしてなるほど、納得しながら一つの懸念を口にする。

 

 「しかし、決闘ランカーの〈マスター〉すべてを招待するとなると、準備が大変になりますよ? 現在の決闘ランキングに入っている〈マスター〉は全部で16人。少なくとも何人か追加で雇わなければならないのですが……、姫様の安全を考えるのなら雇いたくはないですし……」

 

 〈Infinite Dendrogram〉がスタートされてから、もう大分日がたつ。

 現実で2カ月ほど、この世界では半年がこようとしている。

 それだけ時間がたてば、強力な力を持った〈マスター〉も多く出てくる。

 初日に始めたものの、最初は決闘にひかれずにモンスターを倒すことのみしていた者。

 後発組でありながら、初期組以上のログインで戦い続けて、ゲームでも上位の実力を得た者。

 理由は様々だが、時間がたつにつれて、決闘に参加する〈マスター〉は次第に多くなり、そして次々に決闘ランキングに食い込んでいき、そして上位ランクにまで手が伸びようとしている。

 最初期の〈マスター〉同士のつぶし合いから、今では参加人数が増えるにつれてランクの移り変わりも激しくなり、やがては上位の決闘ランキングをすべて〈マスター〉が埋め尽くすだろうという、各国の決闘ランキングの愛好家たちは口をそろえてこういう。

 ドライフもその例にもれず、今は10位以内にいる〈マスター〉こそ二人しかいないものの、その内もっと多くなっていくだろう。

 それほどに多くなりつつある決闘ランキングに参加している〈マスター〉すべてを招待しようとすれば、手が回るはずがないのは自明の理だ。

 

 「うーむ、わらわのことならだいじょうぶなのじゃがのー。まあ、じゃっくのけねんもわからなくはないから、すこしだきょうしよう。しょうたいするのはじょうい15いいじょうの〈ますたー〉だけでよい。それならば4にんしかいなかったはずじゃ!」

 「そうですね……4人なら、何とか回せそうですかね。それで日程はどうします?」

 「そうじゃのー、ろーがんのつぎのしあいのあとでどうじゃろう。しょうはいにかかわらずの!」

 「次のローガンの試合と言うと、今月の28になりますね。大決闘場のメイン試合で5時から始まるはずです」

 「というと、あと2しゅうかんごかー。わかったそれでよい」

 「わかりました。ではそれで手配します」

 

 話が終わったと思ったのか、再び大理石の椅子を登り座ろうとする朱紗皇女をみながら、ジャックは一応と忠告する。

 

 「姫様、パーティーの開催を喜ばれるのは結構ですが、不安要素は無くなっていない事に注意してくださいね?」

 「うむ? 不安要素……じゃと?」

 

 無事に登り終え、椅子に再び座ることに成功した朱紗皇女は、少しばかりの達成感をその平らな胸に秘めながら、ジャックのいう不安要素という言葉に反応する。

 はて、なにかあっただろうか?と少し疑問にも思ったが、スルーする。

 朱紗皇女からすれば、ジャックが何を不安と思うのか、理解ができない。見ればわかるが、今は残ったスコーンを食べる事に全力を尽くしたいと、スコーンに再び手を伸ばす。

 

 「少しは危機感を持ってください姫様。普段はここを特殊な結界で守っていますが、もし来客を招くというのなら、その結界を一時的に解除しなくてはなりません。その時のみ姫様の守りが薄くなるのですよ?」

 

 そこまで行って、ジャックは朱紗皇女がちゃんと話を聞いているか確認する。

 朱紗皇女はスコーンをいまだにちょびちょびと食べながらも、一応は話を聞いているようで、ジャックの方をたびたび見てはいる。もっとも大半は自分が両手で持つスコーンに注がれているが。

 ジャックは、そんな朱紗皇女にはぁ、とため息をつきながら、一応は話を聞いているからと、話を続ける。

 

 「当然ながら、普段より人員を増加させて守らせますが、それでも私たちが扱える人員は人数も質も、遥かに劣るのですから……」

 

 最後は少し悔しそうに零すようにいう。

 彼自身、自分の力の足りなさを自覚しているからだ。彼のレベルは合計184。下級職3つをカンストさせた上で、上級職ひとつについている。一応ティアンの枠組みの中では上の方に配置するかもしれない。彼より弱いティアンは街中に存在する。

 しかし、彼よりすごいティアンは例外と言える【覇王】や【龍帝】などの例を持ちださずとも、現時点で生きているだけでも百は軽く存在し、伝説・伝承を持ちだせばその例は一万を超えるだろう。

 この皇国でさえ、皇王である【機皇】や、第3皇子の派閥であるバルバロス辺境伯の子である【無将軍】ギフテッド・バルバロス、そして皇国特務兵など多数存在する。

 もし彼らのうちの一人でも、こちらに向かってくればその時点で、ジャックは姫を守れずただ無意味に命を散らすだろう。

 それが分るため、彼は拳を握りしめて自分の力の無さを嘆く。彼も細々とモンスターを倒してレベルを上げているが、朱紗皇女の護衛と言う最重要任務もあり、あまり遠出することができずレベルを上げる事ができていない。

 もし、この屋敷を包むこの結界がなければ、今頃第3皇子のように殺されているかもしれない。

 だから客を招くとはいえ、この結界を解除することには当然ためらいを覚える。

 

 だが、ジャックの心配をよそに、朱紗皇女は問題ないと断定する。

 

 「もんだいない。もともとここのけっかいはもしものばあいのそなえではなく、わらわがらくをするためにあるのじゃ、なくなったならばわらわがたいしょすればいいだけのこと」

 「そう言われますが、護衛としては納得が……、いえ」

 

 反論しようとしたジャックだが、それをやめる。

 言っても聞かないと思ったからであり、自分がそれを言う資格はないとも思ったからだ。

 彼にとっては護衛における最大の防御と位置付けられるこの〈悪性排除結界〉も、朱紗皇女からすれば自分たちと同様に無くても姫自身が頑張ればいいだけでしかない。

 もちろん彼女が、自分たちを排除しようと思うとも、自分たちがいなくなってもいいとも、思っていないことは重々承知している。

 朱紗皇女は自分だけがいればいいという、唯我独尊な性格ではないし善人だ。

 それにどこかこの皇女は、ものぐさな所がある。自分が面倒なことをするよりは他人に任せるだろう。

 面倒事を嫌い、娯楽に飢える朱紗皇女が、自分の安全の為だけに楽しみを延期するとは思えない。

 なにより、彼女自身が自分に迫る脅威を、脅威だと思ってはいない。

 自分に襲いかかる脅威がないという無知ではない。

 自分に襲いかかる脅威が弱いという楽観ではない。

 ただ、ありのまま、どんな脅威が襲ってこようとも、問題はないだろうという自負のみがある。

 そう、なぜならそれは―――

 

 「しんぱいしょうじゃなじゃっく。わすれたのか? わらわをどうにかできるあいてなどいるわけないじゃろうに」

 

 朱紗皇女は自分が両の手で持っていたスコーンを皿に置き、ジャックの心配を払拭する。

 そしてその心配をぬぐうべく、ただ一言その理由を述べる。

 にやり、と口に浮かべながら、ただ自らの称号を。

 

 

 

 「妾は―――世界最強じゃぞ?」

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

■某所

 

 「おう、きましたぜ旦那」

 

 隠されていた扉を開き入ってきたのは、一人の男性。

 ジャケットとダメージジーンズのような服装と、そして竜種の骨の冠をかぶった世紀末スタイルとか蛮族スタイルとかバイキングスタイルともいえる、不思議な恰好の男。

 〈マスター〉相手なら理解もされるだろう服装だが、ティアンにとってはその格好は奇異に映る。

 その格好のあり様に何か言いたそうにするものの、まっていた者はそれには突っ込まずに、その男の来訪を歓迎する。

 

 「ええ、お待ちしていました。【山賊王】殿」

 

 待っていた者……フードを深くかぶった老人は、自らが招いた男を迎え入れる。

 招いた男の名は【山賊王】ヴィシャート・アングリカス。

 アルター王国とドライフ皇国の中間である〈境界山脈〉でただひとり活動をしていた無法者であり、一定のルールを自らに敷く義族でもあった。

 〈境界山脈〉は【天竜王 ドラグヘイブン】を筆頭に、強力な天竜種が跋扈している。

 そこで生き残るほどにその男は強い。

 不思議はない。彼は【山賊】系ジョブの超級職に就く熟練のティアン。その強さは折り紙つきだ。

 

 「……それでは、挨拶はこれまでにして、本題に入るとしましょう。【山賊王】殿にしてもらいたい事は、先に話した通りです」

 「問題ねえさ、あの内容だっテンなら、俺の命を賭けて果たしてやる」

 

 分厚い筋肉でできた胸板を自らの拳で叩き、「どんとまかせろ」とでもいう風に胸を張る。

 

 「そうですか……、内容を分かって受けてくれる方が居てくれるのは助かります」

 「俺の望みの一つが果たされるって言うんなら、このくらいやすいものでさ」

 

 老人はヴィシャートの顔を観察するが、そこにはやはり自分の望みをかなえる機会の一つが廻って来たことに、喜びと興奮が混ざっているように感じた。

 

 (そうたやすくはないのだが、それでもこちらの手の内をばらさずに、事を運べるのは幸いか……)

 

 老人は望みのあまりヴィシャートが暴走しないかと、危惧を抱かずにはいられないのだが、それでも自分が使える戦力としては一番使いつぶしやすい(・・・・・・・・)

 それに仮にもこの男は超級職。単純な戦力としてなら、自分の持ちうる戦力の中でもそこそこに強い方だ。一抹の不安材料があるにはあるが、だからといって今回立案したこの作戦を諦めるわけにはいかない。

 

 だが、ヴィシャートの方にも、今回の作戦に対して不安材料はある。

 自分が死ぬことに対してではない。もともと彼は自分の望みを果たすためなら、命を擲つと決めている。

 重要なのは、作戦がちゃんと成功するのかどうか。自分たちが切り札と位置付けるものは、それ相応の難度なのだ。

 今回の老人からの依頼でヴィシャートが最初に聞いていたのは、目的と対象とそして理由だけだった。もっともそれだけでヴィシャートが老人の依頼を受けるのには十分だったが。

 噂に聞く、いくつかの問題点をどう攻略するのか、いまだに彼は老人から聞いてはいない。

 そのため、そこをどうするのか、やはり聞いておくべきかと口を開こうとして、

 

 「そういえば、今回の依頼の詳細について話していませんでしたね?」 

 

 老人の思い出したような、わざとらしい態度に中止させられる。

 

 「目的と対象と理由は、先に話した通りですが……、細かいことを言ってはおりませんでしたので打ち合わせといたしましょう」

 「……そうだな。それで疑問なんだが、今回の依頼に関して問題点がいくつかあると思うんだが、それに関してはどうするつもりなんですかね?」

 

 ヴィシャートの内心の疑問を口にした、その言葉に対し老人は「ふふふ」と少し笑ってから、その疑問がどういうものかを察し、それに対しての回答を述べる。

 

 「問題点というのは…………、結界と対象の能力についてですね? 安心してください、それに関しては対策をすでに講じております」

 「……全部お見通しってわけですかい。まあ、こちらとしても楽でいいですがね。それで?」

 「対象に関しては、このアイテムを利用してください」

 

 老人はそう言いながら、棚から一つのアイテムをとりだす。

 それは一つの水晶だった。〈マスター〉の表現を用いるのならば、水晶ポイントに使われるカットのされ方をしている青白い拳大の水晶。

 とりだしたそのアイテムを、ヴィシャートに手渡す。

 

 「……これは?」

 「三神が用いた封印結界を参考に造らせていただいた、封印アイテムです。それを使えば、その対象を閉じ込める事ができます。……ただし、さすがにそれに三神の能力すべてを封じるのは不可能なので、能力はかなり制限されていますが」

 「制限されているってことは、あいつらに対しては使えないってことですかい……、まあそんな楽な相手じゃないっていうことですかね」

 「……そうですね。これをあの化け物どもに使えるのならそれに越したことはないですが……、不可能でしょう。ああ、ちなみに対象には、このアイテムは有用だと思いますよ? あくまで私の推測にしかすぎませんが」

 「……まっ、今回の依頼で使えるなら問題はないってことか。それで結界の方はどうするんですかい? そっちも何かアイテムを用意していたり?」

 「いえ、さすがにあの結界に対して、有用なアイテムはありません。原理は分りますが、対策が………、それはいいでしょう、あの結界に関しては細かいアイテムはいりませんからね」

 「特にアイテムがいらない? それじゃああれはどうすればいいんですかい?」

 

 「簡単です。………あいつらの力を利用すればいい」

 

 今まで好々爺然として話していたのから、うってかわって憎しみを含ませて老人は吐き捨てる。

 老人としても自分たちだけの力で為し得たかったのだ。それを知らないとはいえ、敵の力を利用するしかないということは、老人としては許し難かったが……、それでもなお自分の目的を達成するために必要な物だと決め打った。

 

「あいつら………、まさか! あいつらですか?!」

 

そして、ヴィシャートもまた、その「あいつら」が指すものがわかり激昂する。

自分たちの敵が生み出した存在の力を借りるという意味を。

 

「旦那……、それは!」

「落ちつきなさい、【山賊王】殿。あなたのお気持ちは、この老骨にも痛いほどわかります。しかし、これは為さなければならないのです……、引き受けていただけますでしょうか?」

 

老人はもしここで断られたら、また別の機会・手段を模索しなければならなくなる。それはなるべく避けたいため、諭すようにヴィシャートに話しかける。

 

 

 時間がたった。たった時間はおよそ5分程度であったが、それでもお互いなにも口にしなかったため、静寂が包んでいた。

 そしてとうとう、ヴィシャートが口を開き決断をする。

 

 「………わかりやしたぜ。俺も命を賭けた身だ、敵の力だろうと利用してやるさ」

 「そういってくれると信じていました」

 「それで、あいつらは王国から連れていけばいいんですかい?」

 「いえ、さすがに無理でしょう。あいつらはこの世界を遊び(ゲーム)だとしか認識していないですからね。そんなあいつらに隣の国にわざわざ行って、テロを起こして来いなんて言っても引き受けてくれるわけはありません。………第3王女をさらおうとした、あの犯罪者なら別でしょうが、それでもここから連れていく必要はありません。現地調達でいいでしょう」

 「ってことは、今からあっちに行って、そこであいつらの中から受ける可能性がある奴らをスカウトするってことですかい?」

 「はい、そうなります。皇国であいつら――『劣化化身(マスター)』どもをスカウトしてください」

 

 ヴィシャートは少し考えて、それが大丈夫かと考える。

 答えは大丈夫だろうという物。それは老人が行っていた通り、劣化化身共(マスター)はこの世界を遊び(ゲーム)だとしか認識していない。中には犯罪者になることを望む者もいるだろうという想定はある。

 

 「了解ですぜ……、それで決行日はいつになるんですかい」

 「そうですね、あるていど時間をおいて……、来月の28日に行いたいかと思います」

 「28日ですね、わかりやした。これであいつらにひと泡を吹かせることができると思うと気持ちがはやりますぜ」

 「あくまで、いくつかの想定で動いているので、あいつらに対して有用な一手になるかどうかは分らないですが……、それでもこれで―――」

 

 老人は一息おく。

 自分のうちに眠る復讐心、無き遺志。それを万感の思いを込めて吐き捨てる。

 

 

 「これで、化身共を滅ぼすことができる」

 

To be continued

 




(=○π○=)<なんか悪だくみされている気がするけど、それはそれとしてパーティー楽しんだら3章終わりだよー()



(=○π○=)<ああ、ちなみにこの小説では、基本的に原作で出てきた超級職はそのひとにつけるつもりです。

(=○π○=)<原作で出る前に、こっちで出してしまった場合は……、その時に考えるとして

(=○π○=)<まあ、つまりはそういうことさ
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