閣下改竄   作:アルカンシェル07

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第14話 パーティー

第14話 パーティー

 

□■

 

 白い花園に囲まれ、静寂に包まれる白い屋敷。

 刻は8時前。いまここで、皇女の一人として扱われている朱紗・I・ドライフが主催するパーティーが始まろうとしていた。

 立食形式・バイキング形式の自由な食事を楽しんでもらうためのこの祝い。

 本来の予定(プログラム)なら夜中までで終わるはずの、この(パーティー)

 しかし、今宵開かれるそれは、いささか異なる予定(プログラム)となる。

 

 そう、この宴が終わるのは――

 

□〈ヴァイスガルデン〉 【万能者】ミック・ユース

 

 「綺麗な☆屋敷!」

 

 キャロルが両手を大きく広げて、エフェクトでもモデルでもない、本当に星を輝かせる勢いで目をキラキラとさせている。

 

 「豪華な☆食事!!」

 

 ふと、思い出したように、机の上に置いてあったワイングラス(中身はジュース)と綺麗に持ってあるコース料理を手に持ち、いまだに目を輝かせながらくるくると回っている。

 目を回さないのか? あいつは。そして食べ物をこぼさないのだろうか?

 

 「そして絢爛な☆この舞台ッ!!!!!!」

 

 食べ物と飲み物を一口ずつ口に含んだ後、ガッツポーズをとりながら大きくジャンプをしている。

  先ほど買ったばかりのドレスを破かんばかりと、動きまわるのはあいつが目指す少女としての動きとしてどうなんだ?

 

 「私は☆この為だけに! 生きていたー!!!」

 

 あいつ、生き生きしてんなー。

 そういえば、前からお姫様みたいな生活してみたいとか言っていたっけか?

 このデンドロでも、お姫様みたいな生活をするのは難しいからな。単純な最下位の爵位ならもしかしたら買えるかもしれないし、このままいけば相当な金額を稼げるだろうから大金をはたいてそういう生活をすることもできるだろうけど……

 でも、いくらそういう生活できたとしても、いまのあいつの態度を見てお姫様もしくは深窓の令嬢を思い浮かべるのはむりだよなー。

 ほら、もう新品のドレスにしわができているぞ。あいつも魔法少女()目指したり、お姫様目指したりと忙しいな。

 今のあいつに近づくのは、大金を積まれても遠慮したいな……

 

 っと、そうおもっていたら、レオンが近づいて行ったな。

 お皿に盛った数々の豪華な料理を、フォークのみを使って口にどんどん放り込んでいっているキャロルの肩に手をおき、諫言をするつもりなのか口を開いて言う。

 

 「ほらほら、落ち着きなよキャロ。すこしはしたないよ?」

 「っむ、レナ………レオンか? どうした私はいま、楽しんでいるんだが?」

 

 レオンの奴、今のあいつによく話しかける気になったな。

 食事中のライオンに手を出す位、危険な行動だと思うんだが。

 そして、いつものことだが、素が出ているぞキャロル。

 

 「あはは、素が出ているよキャロル?」

 「あ……、あははー☆なんのことかですー?」

 

 あざとい。すごいあざといぞキャロル。

 ものすごい(見た目)可愛く見える笑顔を振りまきながら、俺と同じ指摘をしたレオンをまぎらわすような声を投げかける。

 身体を曲げて屈めながら、上目づかいで指を頬に当てるところとか特に。俺たちは中身を知っている分、そういった所に引っ掛からないかけど、引っ掛かる奴は引っ掛かりそうだな。

 それで落ち着いたのか、キャロルは一応落ち着いたかのように、ある程度令嬢のように優雅っぽくふるまって、食事をとることにしたらしい。

 レオンもキャロルの狂乱が終わったからか、安心できたらしい。のんびりといっしゃに食事をしている。

 俺もそろそろ周りを歩いてみるかな?

 いくつか食べて腹もそれなりに膨れたしな。

 

 

 

 「えーと、これはこうして、こうやって……」

 「ああ、そこはナイフを使うんだ。もっともそこまで深く考えなくてもいいと思うぞ? ワシも昔はそこまで礼儀やらなんやらは気にしていなかったしな」

 

 別の机に移動すると、そこでは桜火がコース料理に対して、ナイフやフォークを両手に持ちながら、ブルーノに使い方と使い道を聞きながら四苦八苦しながら頑張って食べていた。

 どうやら桜火はちゃんとした作法で食べようと頑張っているようだ。そんなものはしらないと適当にやりすごすキャロルとは大違いだな。

 ブルーノはこういう料理になじみが深いのか、もしくは年季が深いからなのか、かなり詳しく桜火に作法を教えている。

 一応俺たちもここに来るまでに簡単に教わったりしていたが、それでも時間あまり使えなくてそこまで深く知ることができなかったから、桜火はいま教えてもらいながら実践しているということかな?

 

 「むー、食べるの大変なのです……。でも、こんなにおいしい料理を食べるのは初めてなのです! ほっぺがおちそうっていうのはこういうことだったのですね!」

 「確かにこの料理はおいしいな。いままで何度か会食にでたことはあったが、ここまでの料理を食べるのは初めてだぞ。あっち(リアル)じゃ、ここまでの料理はできないな……。スキルがあるこっち(ゲーム)ならでは、ってところか」

 「そういっていただけると嬉しいですね。あれ? ですがその料理は……」

 

 いつの間にか近くに来ていたらしいジャックさんが、二人の会話を聞いていたのか近くによってきていた。

 二人の会話を喜んで聞いていたと思ったジャックさんだったけど、二人の会話の中心である料理がどういうものかわかり、顔を微妙な物に変える。どうしたんだ?

 

 「おお、ジャック殿か。どうしたんだ、そんな顔をして?」

 

 ブルーノも俺と同じものを感じ取れたのだろう、顔が変わった理由を尋ねていた。

 ジャックはブルーノの質問に対して、どう答えたらいいかしばらく悩んでいた。

 桜火が食事を頑張って食べている最中、俺とブルーノがジャックの返答を待つこと数秒。

 答えることにしたジャックは、あまり気乗りしないのか、頬を指で掻きながら説明し始める。

 

 「いえ、実はその料理はマム……内の料理人が作ったものではないんです」

 「ぬ、そうだったのか? もしかしてどこかで買って来たとか?」

 

 へー、そうなんだ。

 でも、仮にも皇女のパーティーで出す物を、そこらで買ってくるってことも無いと思うんだけど……、あれ?

 もしかして、これを作ったのって……

 

 「いえ、さすがに買ってきたりとかは………、姫様の安全性の問題もありますし。そうではなく、この料理を作ったのはあなた方の仲間の【偽神(ザ・フェイク)】ルパン殿なのです」

 「なっ、あいつか!?」

 

 やっぱりルパンが作ったものだったのか。そうじゃないかと思っていたけど、本当にそうだったとはね。

 塔でもルパンが作った料理を食べた事はあったが、あの時はこちらが用意した分も含めて、そこまですごい食材は使っていなかったからな。ちゃんとした食材をちゃんとした器具で調理したらここまでの料理を作り出すことができるんだな。

 桜火も食べながらではあるが、その事実に驚いているようだし。ローガンにも教えてやったら驚くかな?

 

 「そうかルパン殿が……、あの人も大概いろいろなことに精通しているな。あの人から言わせれば『模倣』しているだけなんだろうが……」

 「そうですね。マムはあまり高級な料理は得手ではありませんので、その分をこういった祝いの場でしていただくのは嬉しくあります。一応あのかたも、招待客の一人なのでしょうが……」

 「ワシが言う事ではないかもしれないが、ミックの知り合い3人を含めて、そちらの事情を無視して無理やりに付いてきたわけだしな。このくらいの返しがあっても問題はないだろう?」

 

 ああ、うん。あいつら3人も、ルパンみたくなにか恩返し的な物をさせないとな。

 そうでないと、あいつらただメシが並んだ食卓に勝手に邪魔するリポーターっぽくて、今のところ迷惑以外の何物でもないな。レオンあたりはどうやって返そうか、考えているだろうけどどうするつもりなんだか? キャロルは今のところ目の前に思考が固定されっぱなしってのはわかる。

 

 「そうですね。しかし……、ルパン殿はなぜ、姫様のパーティーに参加されようとしたのでしょうか? ミックの友人3人のように、パーティーに参加したいというのならわかるのですが、やっていることは雑用等。とてもパーティーを楽しみたいと思っているとは思えないのですが……」

 「ふむ、それに関してはワシも疑問に思っておった。楽しむというよりは、参加すること……、それこそ雑事のみをするために参加したような……、ルパンは悪人ではないと思うがわからないところは多いな?」

 「そうですね。悪人ではないと思います。それならそうとわかるので……」

 

 たしかにこっちに来てから、食事を作ってる女性の人と一緒にずっと料理や配膳や片付けに終始していたからな。

 いちおう、それでいいのかと尋ねてみたけど、それにたいするルパンの返答は、「平気です」という胡散くさい笑顔だった。いや、逆に信用できなくなるんだが……、まあいい。

 俺もルパンは悪人ではないと思うが、隠し事が多そうというイメージはあるな。

 

 「えっと、すいません。ここはどうやって食べるのです?」

 「ん? おお、すまんな桜火。そこはそれをつかってだな………」

 

 そのあとも、いくつかブルーノとジャックは話しあっていたが、その話を中断するようにナイフとフォークを手に持って食べていた桜火がブルーノに語りかける事で終わることになった。

 ブルーノは先ほどまでと同じに、桜火にちゃんとした食事作法を教え、ジャックは再び見回りに戻る。

 俺もそろそろ移動するとしようかな?

 

 

 

 「おおー、これもうまいのじゃー」

 

 移動したでは、このパーティーの招待者である朱紗皇女が、アンジェラが皿いっぱいに盛ってきた料理をちょびちょびと食べていた。

 アンジェラが側付きの様な真似をしているのは、無理を言って招待してもらったから、その恩返しのためだ。

 ジャックはアンジェラにそういったことをさせるのは遠慮していたけど、アンジェラのたっての頼みと、朱紗皇女自身がアンジェラの世話になることを受け入れたため、アンジェラの望みが叶い、こうしてパーティーが始まってから朱紗皇女の世話をしているというわけだった。

 キャロルもアンジェラを見習ったらいいと思うぞ。

 それにジャック自身も、周囲の警戒や配膳などの雑事が、元々のマムという女傑とルパンの二人を加えてもなお、山積みなため今回のアンジェラの申し出も助かった部分があったらしいので、その分はアンジェラの冥利に尽きるだろうな。

 アンジェラはあれでやさしいし、面倒見がいいからこういった役は嵌まっているだろうし。

 

 「あんじぇら! つぎはこのでざーとがたべたいぞ!」

 「はいよ。でも好きな物だけじゃなく、ちゃんと栄養よく食べないとだがね?」

 

 アンジェラはそう言いながら、用意していたらしいプリン・ア・ラ・モードに加えて、オニオンやレタスを沢山もってあるサーモンのカルパッチョも一緒に皇女の前に出した。

 確かに食事のバランスはいいかもしれないが、プリン・ア・ラ・モードにカルパッチョの組み合わせってどうなんだ?

 もっとも、朱紗皇女はそんなことは関係ないと、スプーンでプリンをすくっては口に放り込みまくっている。どうやらカルパッチョを食べる積りはないようだ。

 

 「朱紗皇女! デザートばっかりだと身体に悪いですよ! 少しは他の物も食べませんと」

 

 アンジェラも素が出ているぞ。キャロルも含めて、お前たち二人ともロールプレイするのは無理だと思っていた。二人とも単純だからな。

 朱紗皇女は朱紗皇女で、知らんぷりとばかりによそ向いてるし、結構この戦い? は長く続きそうだな。アンジェラも他人を思っての事は、たとえ本人が拒否していても押し通すタイプだしな。

 どちらに手助けしても面倒なことになるのは、ほぼ確定だしとっとと他の所におさらばしようか………

 そう思い、足を他の所へ向けようとして、

 

 「おやおや。仮にも皇女となられる御方が、好き嫌いにとらわれてはいけませんよ、ええ」

 

 いつの間にか近くに来ていたルパンの声に引き留められる。

 ルパンはまるでウェイターのように両手にさまざまな料理が持ってある皿を持ちながら、笑顔を浮かべて皇女を窘めていた。リアルでも思っていたが、よくあんなに持って移動できるよな………、だけど台車使った方が早くないか? 突っ込んだらいけなそうだし、無視しておこうか……

 

 「………なんじゃー、わらわにもんくがあるのかー」

 「いえいえ。文句など一つも……朱紗皇女(あなた)の大変さに関しては、私もわかっておりますとも」

 

 ……そういえば、レオンの情報によるとこの皇女を取り巻く環境はかなり厳しいらしいな。

 俺たちにできる事があるならしてあげたいんだけどな………。すくなくともこんな小さい女の子が大人の事情による政争に巻き込まれるなんて悲しすぎるしな。

 そんな俺の表情に気がついたのか、朱紗皇女はこちらを少し気まずそうな顔をして振り向きながら言う。

 

 「そんなかおをせずともよいぞー? みっくとやら。わらわはいまのきょうぐうをたのしんでおるからの! まわりのにんげんにそんなかおをされると、わらわもすこしきまづいのじゃ」

 

 ………そうだな、本人が納得しているなら、下手な同情はその本人に対しての付き合いとしては最悪の方法でしかない。だけども、もし助けを請われたら、もし彼女に何かあったら、その時は全力で助けてあげたいな。

 

 「ごめんな。まあ、それはそれとして、ちゃんとバランスよく食べろよなー? 女の子なら体形とかいろいろ気にするんだろ?」

 「なんか、やぶへびふんだのじゃー」

 「ミック。あんた皇女様になんて口のきき方をしてんだい!? まあ、それはそれとして皇女様。ミックのいう通り、ちゃんと食べてなさいな?」

 

 なんで怒られるんだよ……

 朱紗皇女は「うへー」といううめき声を出しながら、必死になってアンジェラが差しだす皿を遠ざけようとしている。時々、「たすけてくれー、みっくー」という言葉が聞こえる。 

 何かあったら助けてやりたいと思ったのは確かだけど、さすがにそれは手を貸すことはできないな。というか手を出したらアンジェラが何を言ってくるかわからない……

 俺は助けられないけど、ルパンなら……って思っていたら、いつの間にかいなくなっていた。

 さすがにまだ、調理や配膳などの仕事が残っているんだろうな。

 さて、このままここにいて、朱紗皇女の難題に巻き込まれても困るし、あとはアンジェラに任せて別の所に行くとしようか。

 後方から聞こえる「うらぎりものー」という声をスルーしながら、歩きだしていく。

 

 

 

 「こんなところにいたのか、ローガン」

 「うん? 何だミックか……、俺の事を探していたのか?」

 「ミック・ユースですか。あなたこそ友人の方たちとパーティーを楽しまなくていいのですか?」

 

 少し広めの会場のどちらかというと端っこの方のテーブルに二人はいた。

 見かけなかったから、少し心配してはいたんだが、のんびり食事をとっているだけのようで安心したかな?

 

 「いやー。お前たち見なかったからな。にしても、ローガンたちはなんでここでメシくってるんだ? もっと真ん中で食べてもいいだろうに……」

 「単に食べたいものが中心になかったからこっちまで来ただけだけだがな………。とりあえず、こちらにも料理はあるからわざわざ真ん中まで行く必要性を感じなかっただけだ」

 「当然私は、主様の付添いです。主様から離れて食事などしません」

 

 シュテルはいつも通りだな。

 料理を手に来ないところとかは、まだまだだな………。まあ、こういう行事にでているだけまだまだましだろうけどな。

 俺も付き合って、テーブルの料理の一つに手を伸ばそうとして、

 

『ゴーン、ゴーン』

 

 大きな鐘の音が響く。

 

 「なんだ? もしかしてパーティーの終わりの合図なのか?」

 「いえ、主様。現在の時刻は20時37分です。パーティーの終わりとして、ジャック・バルトが話していた時間とはあまりに違いすぎますし、こんな中途半端な時間に鐘の音が鳴り響くのも変です」

 

 まだそんな時間なのか!

 確かに変だ。不審に感じた俺は、原因を知るだろうジャックの方を見る。

 そのジャックは、焦ったような表情で皇女の元まで走っていき、そして――

 

 

 窓ガラスが割れる音とともに、百を超える侵入者が乱入してきた。

 

 

■数分前 【山賊王】ヴィシャート・アングリカス

 

 「っち、あんまり集まらなかったか」

 

 愚痴をはく。

 自分と旦那が予定していた数に届かなかったことが頭に来る。

 予定では百の人頭を集める積りであった。自分たちの狙いを成功させるためには、そのくらいの人手は必要だろうと踏んでいたからである。

 しかし集まらなかった。用意できた人頭はわずか20あまりであり、予定を覆いに狂わせる結果になってしまった。

 それが頭に来る。

 予定が狂ったことではない。自分だけならまだしも、自分が旦那と仰ぐあの老人は、それらの事さえ考慮して次善の策を幾つも用意してある。今回も、人頭が集められないというのなら、他の手に訴えればいいだけのことでしかない。だからこれにかんして頭に来ているわけではない。

 頭に来ているのは―――人頭が集まらなかったこと。この世界に害をなす異物(ゴミ)ならせめて、自分たちの思惑のとおりに踊っていればいいという観念を異物(ゴミ)の手で狂わされたことに対するもの。

 他の人間(どうほう)からしたら、もしかしたら変に思うかもしれない。だが、例えそう思われても、俺は俺の正義(いし)によって、人間たち(みんな)の目を覚まさせてあげなくちゃいけないのだ。

 だから、今回の作戦は重要な物だ。旦那の依頼によって受けたが、それでも内容を知ったことで俺は受けると決めた。

 これで粗大ゴミ(化身)共をつぶすことができるのならば、と。

 そのためならば、おれはゴミ(劣化化身)の力だろうと利用してやるさ。

 

 とはいえ、劣化化身(マスター)共が集まらなかったのは事実。次善の策を動かさなければならないな……

 

 「しかたがない、これを使うか」

 

 そう言いながら、懐から一つのアイテムボックスをとりだす。

 もし、〈マスター〉が集まらなかったら。もし、敵の猛攻があり、狙いをとり返されそうになったのなら。「その場合には、これを使いなさい」と言われ、旦那から手渡された秘密兵器。

 場合によっては、旦那がかかわっていることがばれる可能性もあるため、なるべく使わないようにとはいわれているが、それでももし作戦の遂行に必須の場合、惜しみなく使うようにも言われている。

 そして、今回はその時だと判断した。

 いつでもアイテムボックスに納められた兵隊(・・)を使う事ができるように、アイテムボックスを握りしめながら、視界に移る白い花園を見つめる。

 

 「これが、悪名高い(・・・・)あの〈ヴァイス・ガルデン〉か」

 

 ドライフ皇国において、ここの主とともに忌み嫌われる禁断の聖域。

 主は主で厄介だが、それに輪をかけてこの場所も面倒な性質を持っている。

 その性質は、範囲内に入った敵性対象に対する、自動反応退却結界(オート・リタイアメント)と呼ばれる代物。

 領域に入ったすべての人間の敵性意思を感知し、わずかでも敵性意思を保有しているのならば、敵を入口まで退却させるというもの。

 こちらに対する危害を加える物では一切ないが、力の大小を問わず敵と言う物の一切を排除する絶対空間。

 一応、手動で許可する人物を対象外とすることができるらしいが、俺みたいな無法者が対象外となることは決してないだろうな。

 無敵とも思える結界。だが、そこには致命的な隙が二つ存在する。それは邪悪というものを持たず、ただありのままに邪悪を行う、天性の異常者。そして、そもそもこの結界ですら干渉できない性質を持つ者だ。

 一つ目のあては、旦那さえもいまはないということだが、二つ目は異なる。

 本来ありえない程の能力を誇る、この結界でさえ干渉できないもの………それは半年前にはまるでなく、今はありふれている物。劣化化身(マスター)という存在だ。

 旦那によると、劣化化身(マスター)共はすべからく化身の一体の力によって、その精神を保護されているらしい。

 倒すべき強大な敵ではあるが、その力の強大さゆえに今回の狙いが成功できるというのなら利用するしかない。

 今は、雇った20近い劣化化身(マスター)共に、この結界を破壊させる手はずを整えさせている。

 こいつらを雇うのは、面倒ではあったが難しくはなかった。

 この世界を遊び(ゲーム)だとしか感じていない、劣化化身(マスター)共の中でも、悪役になってみたいとかいうつまらない理由で悪事をなす一部の劣化化身(マスター)共に渡りをつけ、それなりに多額の報酬を払っただけなのだ。本来、いくら下位とはいえ皇女に対する危害を与える行為を了承する人間はそうはいないのだが、こいつら(ゴミ共)は遊びであるがためにちょっとした余興(イベント)で済ませてしまう。中には、犯罪者になることを選んだ劣化化身(マスター)にも、皇女に手を出すことを躊躇するある程度の良識をもった奴もいたが。

 

 「おぃy、【山賊王】の旦那ァa?」

 

 劣化化身(マスター)共の救いようの無さにいらだっていた俺に、今回雇った劣化化身(マスター)の男が話しかけてきた。

 今回雇った劣化化身(マスター)の中で一番レベルが高いため、一時的にリーダーとして扱わせていたその男が話しかけてくるということは、準備が終わったという事だろう。

 殴ってやりたい気持ちを自らの使命の為だと押し殺し、顎をしゃくりその男の次の言葉を待つ。

 

 「言われた通りにぃy、配置したぜぇe?」

 

 そうか、やっぱり終わったんだな。

 どうやら、あちらもパーティーをしているようだが……

 

 「悪いが、その予定(プログラム)はキャンセルだ。こっちの狂宴(パーティー)に付き合ってもらおうか!!!」

 

 合図を下す。

 それとともに、白い花園の色が、赤に変わっていく。

 旦那から、この結界を創り上げている要因の一つは、この花園だと聞いている。そしてこの結界を排除するならば、花園を壊せばいいという事もな。

 結界があるがゆえにここはセキュリティが比較的甘い。その隙をつき、雇った連中に火種を結界内の花園に大量に配置した。

 そしてその火種は、俺の合図とともに火を噴き、白い花を赤く燃えつきる花へと変貌させていく。

 

 「よし。もう大丈夫だろう。突入する……、うん?」

 

 どこからか、ゴーンゴーンという鐘の音が聞こえてくる。

 先ほど確認した時間はかなり半端な時間だったから、あらかじめ設定していたとは思えない。

 ならば――

 

 「なるほど、結界が破れたことを告げる警報か。まあいい、すぐさま行動に移すぞ」

 

 そして炎の道を通り、ガラスを割りながら中へ突入する。

 左手に持ったアイテムボックスを砕きながら。

 右手に持った封印アイテムを確認しながら。

 

 

 これが――俺の望んだ未来へつながると信じて――

 

To be continued

 

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