第15話 騒乱の
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それは彼らにとって突然だった。
鐘の音の後に続いた、ガラスの割れる甲高い音。
そしてそれと共に入って来る、百を超える闖入者。
それを予期できたものなど……ほとんどいない。
ジャックは、鐘の音がなった意味に気がついたため何が起こっているの予想できたが、彼だけでは、この状況を変えることなどできはしない。
闖入者に対抗するために、腰に携えた長剣を抜き構えようとするジャックの抵抗をあざ笑うように、闖入者の一人である男は彼の横を抜き去り、彼が守ろうと後ろにかばった護衛者の元まで駆ける。
いともたやすく、抜き去られたジャックではあるが、それを責めるのは可哀そうというものだろう。なにせ闖入者はレベル500を超える超級職を保有する熟練者であり、ジャックは合計が200にも届かない半端ものなのだ。
互いのAGIの差は10倍以上の開きがあり、その体感速度の差も3倍以上も開いている。戦闘技術だけでもジャックを上回る闖入者を、止める事ができる道理などない。
もっとも、道理が彼を許したとしても、彼自身が許しはしないだろうが。なにせ、自らが守ると決めた存在を守れなかった許しを求めるほど彼の想いは弱くはない。
しかし、彼の想いの強さとは裏腹に、彼にとっての悲劇は否応なく進む。
闖入者の男――ヴィシャートは喜ぶ。成功ではない。成功を喜ぶ段階ではまだない。
喜んだのは、奇襲した時に瞬時に発動した《看破》によって判明した情報による幸運だ。
今この場に自分以外の超級職は存在しない。
敵が強大でなく、対処可能な弱者だけなら、不安要素が無くなる。だからその幸運に喜んだ。
(他の奴らは動けてない。ゴミ共はこの奇襲に対応できていない。おそらく攻撃される可能性を聞かされていなかったんだろうな。しかし危機的な状況では、上方一つで優位劣位が簡単に決定される………これは貴様らの落ち度だぞ朱紗・I・ドライフ!!)
ヴィシャートがこの場に無粋にも乱入して来てから、およそ3秒が経過する。
ジャックの横を高いAGIで通り過ぎ、右手に握ったアイテムを起動させるのと同時に、他の人間も動き出す。
動いたのは4人。すなわち決闘ランカーである、ローガン・ミック・桜火・ブルーノである。
ブルーノは今までに積み重ねた経験で、他の3人も今までに決闘および前線で戦い続けた成果が実り、瞬時とはいわないまでもこの3秒という空白の間で戦闘状態を整えることに成功したのだ。
ローガンとミックは《着衣交換》で、戦闘用の服装に変えながら戦いの準備をする。《着衣交換》という物を知らない桜火と、そもそも戦闘用の服装という物がないブルーノはそのまま地面を駆けだし朱紗皇女の元へ駆ける。
ローガンは、《着衣交換》で装備した【魔式手甲 ゲーティア】の《
ミックは、双剣を持ち速度を上げる為のいくつかのスキルを起動させながら、自分の特典武具を起動させようとする。
桜火は、駆けだしながら左手の〈エンブリオ〉の紋章から、【再誕炎蛇剣 ネフシュタン】を取りだしながら、剣に炎を纏わせつつ剣を上段に構える。
ブルーノもまた〈エンブリオ〉から犬のガードナーであるクー・フーリンを出し、さらにアイテムボックスから槍を取り出し、眼前に穂先を向け刺突の構えをとる。
他の3人はいまだ動けていない。彼らが前衛戦闘を主とするタイプではないという理由もあるし、それをするだけの戦闘経験を重ねていなかったというのも理由といえる。
結果として、4人のみ動くことができた。しかし、動くことができたとしても初動が遅すぎた。
故に――
「しれものめ! わらわをどうするすもりかわからぬが、みのほどをしれー。妾が最強である所以を知れ! 《
ヴィシャートが起動し終えた封印結界装置を朱紗皇女に向けて投げる。
投げられた水晶は、七色の光を周りに放ちつつ、水晶体を構成している外辺が砕けて散逸する。そして同時に中に納められていた力が光の輝きとともに周囲を包む。
中に納められていた封印術式は、朱紗・I・ドライフを囲うように半径数メテルの範囲に透明な七色の半球体を形作る。
自分の周りに展開していく、光の結界を気にせず朱紗は自らの力を行使しようとする。それは相手がどうしようと自分には関係ないという自負もしくは、慢心によるものだろう。どうせ敵は自分を殺すことなど出来ず、こちらの一撃はたやすく相手を終わらせられるという、本来なら真っ当な評価をもっているからだ。
たしかに殺すことができないならヴィシャートだけの力でも朱紗をどうにかすることはできないだろう。しかしここに彼を送り出した男の力も加わればその限りではない。
「なに?」
結界自体が成立するのはまだ先だ。
今はまだ、起動して世界に干渉する段階でしかない。しかしそれでも――
朱紗の力を封じることができていた。
朱紗が戸惑うのも無理はない。彼女の力はそんな簡単に封じられる程、容易いものでも弱いものでもない。しかしヴィシャートを送り出した者が、結界機構とともに封じたもう一つの手段も含めて、結界の力は朱紗の力を発動させないことに成功していた。
この事態になって朱紗は慌てる。それも無理はないだろう。自分の力に過信した者が、それが通用しなくなった時に十全の対応を取ることができないのは自明の理だ。
彼女が持つ力・内包する理は、まぎれも無く規格外であるが、彼女本人の身体は通常のレベル0の人間とまったく変わらない……脆弱な物だ。
「姫様! なっ?!」
自分が守るべき対象である朱紗の元へ近づこうとするジャックの行く手を一人の男が遮る。
男は大きなベルトを複数身体に巻きつけたような奇妙な恰好で、漆黒の髪と紅い瞳をちらつかせながら、ピアスをはめている長い舌を伸ばしている。そしてもう一つ特徴的なのは左手にもつ大きな槌。獣のような異形の顔を模したその槌は、男の身の丈ほどもあるというのに、苦も無く振りまわす。
振りまわしたまま器用に槌の先端をジャックに向ける。
理由なんて論ずる必要もない、皇族に手をかけようとするヴィシャートの企みに協力する時点で、彼は
「ちぃtt、誰だよyoor」
一発の銃弾に阻まれる。
自らの悪意を振り撒こうとする一撃を、眉間に向かって放たれた一発の鉄塊を防がせることで中断させる。
銃弾を放ったのは一人の男。いまから追いつくのは時間的に難しいと判断したミックが、最高レベルの《瞬間装備》を使い一瞬で装備した銃を黄金色に輝かせての《
たかが一撃。その一撃によって黄金色に輝いていたはずの銃はもろくも崩れ去り、微小とはいえ《瞬間装備》の
銃弾を弾かなければいかなくなったことで、振りおろした一撃を無効化されたPKだったが、その隙を隙とせず二の次の一撃を振り上げる。
この一撃をミックが防ぐことはできない。彼は新しく武器を取り出そうとしているが、数コンマの時間で攻撃しなおすことができるわけがなかった。
――しかし、このままジャックに振り下ろされる未来を、彼ら決闘ランカーが許すはずもない。
「らあっつ!!」
「BAUUAA!!」
槌を振りおろそうとするPKの横から一人……いや、一組が襲いかかる。
襲いかかったのは長槍を一閃するブルーノと、それを補佐するように追随するクー・フーリンのペアだ。
万に届きそうなほどに高まったAGIを利用しての高速移動によって、襲撃時点からこの場所まで急いで来たブルーノは、ミックに次ぐ一撃としてPKの顔をめがけて槍を刺す。
PKはその一撃を、器用に槌の柄でずらし、顔を下げる事で回避する。
ブルーノの一撃を上手に防いだPKだったが、再びジャックに牙をむくのは許さないと、槍で相手の槌の柄と組み合わせて敵と睨みあう拮抗状態を作り出す。
これで助けに行けると、ジャックは二人の横を通り抜けて朱紗の元へ行こうとする。
――しかし、遅かった。
「これで終わりだ!」
「これはまさか?!」
「姫様ッ!!!」
三者三様の声が屋敷に響く。
同時に、朱紗を包んでいた七色の半円が収縮していく。
ジャックが朱紗のもとにたどり着こうと、必死になって走るその様を笑うように、刻一刻と結界が狭まる。
ヴィシャートはその結界の状態を見て、旦那の目論見通りに進んでいることを喜ぶ。それと同時に、自分に向かってくる一人の男を見る。その男の事は、この場に侵入した時点で《看破》している。その《看破》によると彼のレベルは200にも届いていない。この場にいる物の中で最も弱く、最も脅威が低く………そして、唯一彼が守るべき者。
ヴィシャートはできれば、彼の様な人間は殺したくなどなかった。使命を果たそうとする、彼のような心地のいい心意気の
しかし、だからといって、おめおめとジャックを通すほどヴィシャートは甘くはない。
ヴィシャートを送り出した者の能力は、彼自身が知るようにずば抜けているし、今回のこの結界装置もおそらくは不具合などないのであろう。だが、万が一という事も考えられる。数式に歪みを及ぼす代入値は可能な限り少なくするのが、彼のポリシーだ。
「残念だ」と心の中で呟きながら、ヴィシャートはジャックに向けて拳を構え、
「ぬぅ!!」
ヴィシャートの眼前に迫ってきていた炎を纏う剣先に気がつき、それを弾く。
ヴィシャートの邪魔をしたのは炎蛇の牙。それを繰り出したのは最速で剣身を分かち十数の節を生み出し、数メテルを一瞬で突いた桜火だった。
全員が動く中、いちいち踊っていたら
しかし、踊らずにただ突いただけの一撃。典型的なTYPE:アームズの〈エンブリオ〉としての能力を獲得していっているネフシュタンだが、そのせいで現時点での能力は平均的な物でしかない。高い武器攻撃力を持ち、《焔を纏う蛇》のスキルもあって威力がプラスされるとはいえ、その威力は1000にも届かず………超級職を相手取るには不十分でしかない。
弾かれた蛇のアギトを再びヴィシャートに向けようとして、
「邪魔だゴミッ!!」
ヴィシャートが軽くふるった拳で、炎の蛇が容易く砕かれる。
それに驚いたのは桜火………ではなく、ヴィシャートだった。
確かにゴミのうっとおしい攻撃を払いのけてやろうと、ヴィシャートは拳を振るった。
しかしその一撃は、決して武器を軽く砕くことができるほどの威力をもたせていたわけではない。あくまでこの一撃でできた隙にジャックを殺し、二の次の一撃でこのへんてこな武器を使っているゴミの少女を消してやろうとしただけだ。
ヴィシャートはゴミが使った武器はそれほど弱いのか? と過小評価したくなってしまった。確かに今の一撃でも武器を壊すことはできる。だが、あくまでも最初に買うようなレベルの低い武器に限った話だ。レベル200近い人間が使う武器としては、あまりにも弱いとしかいえない。
「
しかし――正解は異なる。
確かにネフシュタンは脆い。それは《炎華再生》という、武器を修復する機能を持つが故だ。「武器を壊すことで発動するスキル」をもつ“凌駕剣”のように、必要であれば〈エンブリオ〉は武器の耐久値を削ることもある。それは武器の耐久値としての性能を捨てて、他の所にリソースを回すことで武器を強くするためである。
故にネフシュタンは脆い。その耐久値は初期の武器に限っても、耐久値と言う点では上回る物があるかもしれないと言えるくらいに。
もっとも元はこれほど脆くはなかった。少なくともあの塔を登ろうとした日には、この剣の耐久値はもっと高かったのである。
耐久値が多く減算された理由は、進化によってと、とある機能を〈エンブリオ〉に内包させたがためだ。
威力はさほど高くなく、一撃加えられただけで崩れ去る、幻影や
弾かれ砕かれたことで、一生が終わった炎の蛇は黒い燃え滓のような塵に変わり、
「面倒だな!」
再び燃え上がり、炎の蛇腹剣としての性質を取り戻した炎の蛇は、再びヴィシャートを狙う。
ヴィシャートは炎の蛇の対応をさせられながら周囲を見る。
ヴィシャートと同時に強襲させた唯一の〈マスター〉はいまだ、ブルーノと会い対峙している。
ヴィシャートが突入時に解き放った100を超える機械の兵隊は、同じく100を数える悪魔の軍勢と戦い続けている。
ヴィシャートの言葉を聞いていなかったのか、続いて突入して来た二人の〈マスター〉は、ミックが銃弾によって牽制している。
戦場はずいぶんと拮抗しているな、という感想をヴィシャートは抱く。
こちらの全兵力を開放すれば話は別だろうし、またヴィシャート自身が動けばそれで終わるだろうという自身もある。
しかしヴィシャートはそうしない。「わざわざ自分が最後までかかずらってやる必要もないだろう」と思っているからであり、彼の背後で最後の時が訪れるからでもある。
「姫様っ!」
「「「「朱紗(ちゃん・皇女・殿)」」」」
戦場の音を響かせながらも、ジャックや〈マスター〉達の声がこの屋敷の中に響く。
しかし、彼らの声を無視するかのように、結界は小さくなっていき………
そして、一つの結晶へと再び結晶化する。
ヴィシャートが使う前の結晶と似ていて異なる。異なる点は水晶の中に入っているモノ。まるで琥珀に込められた化石のように、朱紗・I・ドライフが入っている。結界の効果によって拳大にまで小さく封印されてしまっていたのだ。
ヴィシャートは炎の蛇による襲撃をいなしながらバックステップを行い、封印完了に伴いアイテム化した重力によって宙から落ちゆく結晶をつかむ。
(これで完了だな。劣化化身共の力は意外に侮れなそうではあったが……、これでしまいだ)
ヴィシャートは懐から一つのアイテムを取り出す。
いくつか彼を送り出した者にアイテムを渡されていたヴィシャートであったが、今回のこのアイテムに関しては彼が自前で用意したものだ。
アイテムの効果は単純解明。
用事は済んだとばかりに、ヴィシャートはそのアイテムを地面にたたきつける。
「なっ」
「きゃあ!」
おきたのは閃光。そして騒音。
閃光弾によって屋敷中を昼のように、いや昼以上に明るく眩しく照らす。
ローガンたちはそれに対応など出来ない。瞬時に起こる閃光と破裂音はそれだけで人を制圧することが可能となる。
ヴィシャートら侵入者達は装備などであらかじめ防御していたが、ローガンら防衛側が突然の行動に対応できるはずもない。眼をつぶったり、腕を使って光を遮ろうとしたもののそれですべてが防げるはずもない。閃光とともにまともに食らった人間すべてが《盲目》と《盲聴》の状態異常にかかる。
どちらの状態異常も効果時間は絶対時間にして5~6秒ほどだが、戦闘におけるその時間は絶望的なまでの差になりうる。
防衛側が見えず、聞こえない状況の中で、そんなことを知ったことではないと、襲撃者達が動く。
「――よし、目的は達成できたな。帰るぞ」
手の中の結晶をいじりながら、ヴィシャートは襲撃者である残りの3人に撤収命令を下す。
元々、彼の目的は彼の掌中に収まった、朱紗・I・ドライフの確保。他の目的に興味はなく、残りの家人の殺害や家探しする程人として落ちぶれていないという、自己分析を持っている。
ヴィシャートの矜持以外にも、他の目的に欲を出した結果、視覚や聴覚を取り戻したローガンたちに反撃されかねないという理由もある。
だから、彼はそのまま帰ろうとし……
「はぁaw?! なにぃいってんだよyou、旦那ァaaa!! ここは俺たちの邪魔をしてくれやがったa、正義の味方気取りの雑魚共ぶっ潰すところでしょうがywooou?!」
「「そうそう、ありえないありえない」」「「あいつらに目に物見せなくちゃ!」」
3人の〈マスター〉が反対する。
元々彼らは
自分たちにとって重要なのは如何に好き勝手に暴れられるか、というところなのに、ただ皇女を誘拐してからそのまま立ち去るなんて、不完全燃焼もいいところだと反対する。
(
「………いいだろう。お前たちは好きにすると言い。ただし俺は先に帰らせてもらうぞ。用事はすんだんでな」
「さっすが旦那ぁar、わかってるっuuw」
「「そうだね、それでいい」」「「そうだね、それでこそだ」」
それで用事は済んだだろうと、ヴィシャートは屋敷の外へ向けて跳び。
そして3人の〈マスター〉達は残り2~3秒とはいえ、隙をさらしている連中を
「ふむふむ。嵐は去りましたかな? 《偽典:パーフェクト・リリース・レストリクション》」
嵐の到来を察知し、【絶影】の各種スキルで隠れていた一人の男が、制限系状態異常の完全回復魔法によって《盲目》と《盲聴》を癒すことで彼らの思惑を完全に崩す。
「えっtut?!」
「「だれ?」」「「どうして?」」
「おやおや? こちらの事ばかりを気にしていてよいのですかな?」
ルパンは自分と会い対峙しながら、正体を考察しようとする〈マスター〉たちに対して悠長だなと低評価を下す。自分が回復魔法を使った意味をわかっていない……いや、それ以上に自分の事を気にしすぎていると。
閃光弾と同様。戦場において一秒のみであっても、隙を浮かべるのは自殺行為だ。
隙を生み出しながら
PK達は突然現れた男の正体が気になり疑問を浮かべている間に、近づいていたミックとブルーノが各々の武器を振るい犯罪者に断罪を下す。
「っつtu! 全員解けやがったのかkar! 仕方ないねぇee、とっとと逃げるぞてめぇらraa」
「「そうだね仕方ないね」」「「さすがにこれは無理っぽい」」
「逃がすかよてめぇら!」
「餓鬼どもめ、オイタをしすぎだ。老骨の拳骨を喰らう覚悟はできているだろうな!」
PK達がさすがに不利を悟り、外へ向けて跳び出し、ミックたちは逃がしてなるものかと追いすがる。
これで屋敷から下手人の人間は全ていなくなった。
しかし戦いはこれで終わりではない。今も、ローガンが新しく悪魔を追加しながら、機械の兵隊と戦い続け、桜火もサポートとばかりに参戦する。
急なことで事態が把握できず混乱していた、A・D・Aとキャロルもまた時間がたったことによって状況を把握し、とりあえずはと杖と銃を構えてローガンたちの戦いに加わる。
そして――ジャックとレオンは、今まで隠れていた相手に詰め寄り事情を問いただそうとする。
「ルパン殿ッ! なぜ今まで隠れていたのですか! 超級職であるあなたの力があれば、姫様をお守りすることが! ………いえ、すいません。これは私の責ですね……しかし事情は聴かせてもらいます」
「いえいえ。買いかぶらないでください。私が就いている【
「……なるほど、だからルパンさんは戦闘に加わらなかったのか」
「ええええ。臆病者と罵ってください。私は自分の大命の為にここで命を投げ出すわけにはいかなかった、命を賭けるわけにはいかなかった。………それにひどいことを言うのは理解していますが、それでも……私には、あの皇女を守る理由はなかったのです」
その一言をルパンがいった瞬間。ジャックの顔が歪み口を開きそうになり、そして閉じる。
言うべきでないと理解したからだろう。実際に皇女のために民草に命を賭せとは、彼自身言えることではない。朱紗の立場の弱さを知り、その忠義に褒美を取らせることすらできないからだ。それでも言いたいことはあっただろう、だがそれを飲み込みジャックはただ拳を強く握り締める。
レオンはそれを見ながら、今はそれに触れるべきでないと判断し、そしてもっと重要なことがあると判断する。どうするべきか考え、内通ではなく、今のルパンの理由が本当であるならば、この方法ならば大丈夫だろうという案が浮かび、それを具申する。
「なら……提案します。ルパンさん、いまから《迷宮創造》を使ってください。それで、皇女さまを連れ去った、あいつらを閉じ込めます」
「……なるほど、名案ですね。しかし、いまから使ってもおそらく迷宮が出来上がる前に範囲内から逃げ出してしまうでしょう。九に手を加えて十にするのは簡単でも、0から十を創り上げるのはそれだけ大変なのです」
「いや! 確かこの皇都の地下には迷宮のような地下通路が沢山配備されていると聞き及んでいます! それを使ってはどうでしょうか!?」
「なるほど……、そんなものがあったとは知りませんでした。確かにそれなら問題はなさそうですね、ええ。では盛大に行くとしましょうか《偽典:迷宮創造》」
ルパンが《迷宮創造》を使用する。範囲としてくぎるのはこの〈ヴァイスガルデン〉の全区域。
そこまで範囲を広げないと【山賊王】は捕らえられないと判断したからであり………しかし、そこまで広げてもタッチの差は埋められず、ギリギリで逃げられるだろうとルパンは判断していた。
実際にそうなるだろう。ルパンたちと【山賊王】の距離はもう1キロメテルも離れようとしている。ここから追いつくのは至難であり、それこそ奇跡か常識外の一手でもなければ不可能だ。
しかし―――それをもつのが〈マスター〉だ。
レオンはすでに取りだしていた杖を頭上に掲げ、そして勢いよく地面にたたきつける。
叩きつけるのは杖の柄ではなく、U字をクロスさせたような4本の足の意匠。
【太陽獣杖 ラー】の第2のスキルにして、第2の変形スキルを今ここで使用する。
その名は――
「《
天から4本の支柱が降り注ぐ。降り注ぐのは
【山賊王】の頭上に降り注いだ4本の柱は、彼の身体を貫通し地面に縫い付ける。
もっとも、このスキル自体に威力はない。貫通して見せても、あくまで物体的な物ではなく、スキルのエフェクト的な魔法効果にすぎないからだ。
威力はなく発動対象も一体に限定されているが、その代わりとして効果範囲と拘束効果は強い。範囲は自分を中心に3キロメテル以内なら自由に発動でき、相手に高ランクの《拘束》と《呪縛》の二つの状態異常を与える。
もっとも永遠に拘束はできないだろう。ラーのスキルのせいではなく、拘束され続ける状況を【山賊王】が許さないからだ。
装備品を変更し、状態異常回復のアイテムを使用することを止めることなど出来ない。
だがそれで十分だ。このスキルの目的は、あくまで一時の足止めのためとして発動されたのだから。
そして時間がたち、ルパンのスキルが確定する。
ルパンの足元から広がる力の渦は、この〈ヴァイスガルデン〉の領域を包み込み、地下の迷宮を取りこんで、新たなる一つの迷宮を創り上げる。
レオンの狙い通りに【山賊王】を含むすべての下手人を巻き込んで。
此処に一つのゲームが開く。
ルールは単純。
最後に勝つのは――
To be continued
余談:
(=○π○=)<この話しは全て15秒以内に行われていたり
(=○π○=)<もっと時間掛かっているだろ! とかおもっても突っ込まないでください