第19話 克つ者、蒔ける者
□■ブルーノについて
グスターボ・カレスティア・デ・サンタマリアがこの〈Infinite Dendrogram〉を始めた理由は、ただの暇つぶしだった。
もしくは、
彼は、病に冒されていた。
彼の病は、肉体と精神のそれぞれひとつずつ。
肉体の病は、特段特筆することができるものではない。
だれしもがかかる可能性のあるありきたりな物であり、治る可能性こそ少ないものの正式な治療を受け続ければ悪化しないため、死に至ることはない。
少なくとも彼は、日本を中心として名を広げていた
病は死に至るほどではない、彼に死を覚悟させるほどの苦しさを与えていたわけではない。ただ、終わりのない倦怠感・熱・節々の痛み……そういったものと命が尽きるまで付き合い続ける事に、嫌気がさして来ていた。ただそれだけである。
だからこの世界は彼にとっては救いだっただろう。苦しみから逃れ、全盛期の力のままにふるまうことができる世界は。
精神の病は、ある意味彼にとって最大の病。肉体の病よりも、彼を追い詰めていた最悪の病。
その病の名は“退屈”。
死に至る絶望の病である。
健康であった若かりし頃は、山々を駆け、命をかけて鎬を削り、青い春を謳歌していた自分が、数年前から満足に動き回ることができず、ただベッドの上で日がな一日、本を読むだけしかすることがなかった。
それが彼にとっては苦痛だった。
それは戦争を経験した兵士が、再び戦争を恋しく思うのともしかしたら同じなのかもしれない。
人を殺したことこそないが、命を賭けた極限状態を懐かしむ気持ちは強い。こういうと、彼がバトルジャンキーの戦争狂であるかのように思えるかもしれないが、彼自身は命の価値をちゃんと理解している善良な人間だ。ただ、少し濃密な時間を過ごしすぎたせいで、その記憶が強く残っているのだろう。
彼は再び全力を振るえる機会を欲していた。
彼が待っていた
当然、そのゲームの名は〈Infinite Dendrogram〉。
彼の孫娘自身がやろうとして購入したゲームだったが、親に大事な時だから勉強しろといわれ、しばらくの間ゲームに触れる事ができないようにされてしまった。その後、ただ持っているだけで埃をかぶせるのももったいないからと、彼女はそのゲームをいつも暇そうにしていて闘病生活がつらそうなグスターボに譲ったというわけだ。
彼も溺愛している孫娘から渡されたゲームを拒否したりなどせず、また発売から4日近く経過していて、ある程度の情報が揃って来ていてこのゲームのキャッチコピーもまた彼の知る所となっていた。
「〈Infinite Dendrogram〉は新世界とあなただけの
その言葉を。
彼がくるしまない
彼が全力を出せる
彼が望んだものは、嘘偽りなど何一つなく、全てが手に入った。
治療や健診などもあるため、四六時中ログインできるわけではなかったが、それでも彼は時間の許す限り、このゲームをし続けた。
その密度は、〈Infinite Dendrogram〉で遊んでいるプレイヤーの中でも、濃い方だと言えるだろう。もっとも、ほぼ四六時中ログインしている〈マスター〉も、ローガンやミック、【獣王】とドライフ皇国だけに限ってもそれなりにいたが。
◇◆◇
彼がゲームを始めた時、自分の名前をどうしようか? と悩んだ。
彼は今まで何かに名前をつけたことがなかったからだ。ゲームなどしたことはないし、自分たちの息子の名前をつけたのも嫁だった。
実名そのままでゲームをプレイすることを、管理AIだとかという猫にやめておいたほうがいいと言われて、咄嗟に彼が思いついた名前がブルーノだった。
ブルーノというのは彼が武術を並び始めるころに飼っていた
全盛期……ではなく、修行中という未熟な頃であり、自分の記憶の中でも最も濃かったあの日々を忘れたくないという懐古、もしくは感傷があったのだろう。彼はその名で、この世界に降り立つことを決めたのだ。
〈Infinite Dendrogram〉を開始した彼は、ひとまず自分が慣れ親しんだ槍を手に持ち初期の情報ではあるがジョブというものもある事を事前情報として知っていたため、【槍士】のジョブに就いてから、皇都の外へと冒険を始めた。
ブルーノへと名前を変えた彼はボードゲームや球技ならともかく、テレビゲームの類いをしたことがなかったが、だからだろう彼はこの
外に出た彼の戦果は上々だった。少なくとも〈エンブリオ〉が無い状態で、彼ほどの戦果をあげられる〈マスター〉はそう多くないだろう。中にはジョブにつかず、目覚めたばかりの第一形態で亜竜級を倒してしまう
大半の〈マスター〉が不可能なレベルでの狩りを成功していた。もっとも、彼の心情的そして信念的に【ティール・ウルフ】など一部のモンスターと相対することに忌避感を覚え戦闘を避けていたが。
ブルーノが【ティール・ウルフ】などの一部の相手と戦いを忌避した理由は、彼が学んだ武術の師が口にしていた信念によるものが原因だ。
その信念は以下の6つ。
一つ、自衛目的以外で獣相手に武器を向けない。
一つ、道具に頼らない。
一つ、戦いは通常の道着のみを使用する。
一つ、武器は木を削ったもののみを使用する。
一つ、挑まれた闘いからは逃げない(戦略的なものは構わない)。
一つ、戦いに正義も悪も持ち込まず、ただ己の武への敬意のみを持て。
以上6つを称して、武敬6ヵ条とする。という師の教えをいまだに持ち続けていたからだ。
『師の教えを疑わない』。武術の世界でいわれている、共通認識の通りに彼は武を振るえなくなるまで実践し続けた。
だからだろう、第一形態へと進化した〈エンブリオ〉があのような能力をもつようになったのは。
他者から見てどうしてそんな面倒な性質を有しているのかわからない〈エンブリオ〉だが、彼からして見ればこの〈Infinite Dendrogram〉の世界でも変わらず信念を守り通す機会だと受け入れた。
もっとも、この
〈エンブリオ〉が目覚めてから、ブルーノは時間が許す限りこの世界を楽しんだ。
検診などによってリアルで半日毎に戻らなくてはならないし、魔獣種を倒せないという誓約も孕むが、それでもゲームの中で1日2日におよぶ外での狩りもあって、トップ勢のひとりに食い込むほどの稼ぎを叩き出していた。
稼ぎが多い理由の一つとして、若いころに師に深い山奥の中で数週間放りこまれたせいで、身に着けざるを得なかった各種のサバイバル技術………用意されている道具によるものではなく、本当に着のみ着のままでの生活術を習得していたため、長期間による連続的なモンスター討伐を行えたというのも理由だろう。
その後、ブルーノはレベルを上げ続け、その過程で皇都での興行の一つとして行われている決闘というものを知るようになる。
モンスターを倒すだけでは得られない、鎬を削る死闘を再び味わうべく、彼は決闘に挑む条件であるレベル50まで自身を鍛え上級職に至る。
そこからは知る通りだ。彼はそのとき会った自分に似ているようでどこか違う3人の少年・少女たちとかかわり続けてきた。
そして、今この光が差さない無明の地へと至る。
敵対しているのは悪人であり狂人。自身の命を賭けた死闘を望むもの。
それに彼は人として戦いを挑む。
ブルーノは善人として、皇女誘拐犯をとらえようと敵に向かい。
ブルーノは武人として、目の前にたつ強敵に立ち向かい。
ブルーノは活人として、死にゆこうとするものを助けるために向き合う。
そして何より、病人だったものとして、病を振りまき、冒されているものをそのままにして放置など出来ない。
ここで助ける事ができるなんて幻想は騙らない。ただここだけでもという想いのもと、ブルーノは彼の偽善で全力を振り絞る。
ランナーズ・ハイはピークに達している。全力をこれ以上出すのは互いに難しいだろう。
だから、これより先を決めるのは――
◇◆◇
□■
「はぁあっ!!」
ブルーノが槍を振るう。《禁戒》の一つによって、敵の病を防いだブルーノは、勝ちを確信し油断したコロコロ・ゴミックへと。
それを卑怯となじる事は誰にも出来ないだろう。戦いにおいて油断した者にかけるべき慰めの言葉など不要だ。常在戦場という言葉の通りに、戦地での油断はそのまま死に直結しうる。
彼は武を学んだものではあるが、同時に戦術もまた経験として知り、それもまた含めて戦いの力だと思っている。
だからこれは、武術家として当然の事。もとより試合ならともかく、命を賭け、信念を燃やすべき闘いに遠慮は不要なのだから。
それに……これで倒れてくれる程、生易しい相手ではない。ブルーノの隙を突いた一降りは、空を切る。
(っつthu、どういうことだよyour! こりゃあrhar)
予定と異なり、十全で動きまわるブルーノから一時的に退き、体勢を立てなおしたコロコロ・ゴミックは、心の中で愚痴を振り撒きながらそれでもなお武器を振るい続ける。
敵が防いだ方法はわからない。だが、おそらくは限度があるだろう。上限か、回数か、種類か、そのどれかが。そうでなければいくらなんでも強すぎる。そう判断した、コロコロ・ゴミックはさらに身体を加速させ、敵に多種多様な病を与え続ける。
そして、ひとつまたひとつと手段を講じながら、敵に効く方法を探し続ける。
もちろん、ブルーノもそれをただ黙って見ているわけではない。これまでの何度かのぶつかりあいを経て、敵がただ闇雲に攻めているわけでもないというのはわかる。しかし、今の彼ではコロコロ・ゴミックを追い詰める事ができない。このまま敵の企みに任せるだけでは、自分が死ぬのは確実だろう。そう判断したブルーノは、切り札の一つを手に取る。
それをコロコロ・ゴミックは不可解に思う。このまま続けても、自分があいつらに倒されることはないだろうと踏んでいたが、それでも攻撃を続けない理由がわからないと。
実際に彼の身体はもう少しも持たないだろう。だから、攻撃の手を止めて、逃げ回っているだけで勝敗はつく。だが、そうはしないだろうと、その選択はないだろうとコロコロ・ゴミックは思っていたし………実際にそのとおりだ。
ブルーノは逃げるつもりなどない。ここで相手を倒しておかなくてはならないと決めている。
故に一度退いたのは、敵を倒すための準備、その算段のため。
一組では時間制限までに敵を倒せないと踏んだ彼らが、一つとして力を振るう。
それは彼の第4の禁戒の一つ。
その名は――
「《
ブルーノの前に立っていたクー・フーリンが光の塵となり、主の持つ槍に纏わりつく。
同時に、ブルーノは槍を上手に振り回し、最高尾の柄を両手で握りしめる。
槍に纏わりついた光の塵は、ブルーノが持つ柄を持ち手とし、槍の切っ先までを剣身とする巨大な光輝く剣となる。
これこそがクー・フーリンの3種に別れる第4の禁戒が一つ。クー・フーリンの身体を数百の槍の弾幕に変える広域殲滅型の《我が誓約は、千の鏃となる》とは異なり、この衣は近距離しか攻撃できない代わりに強力な武器攻撃力を与える個人戦闘型の剣を生み出す。
〈エンブリオ〉をコストとした第4の禁戒の中で、ただ一度限りの攻撃である鏃や杖とことなり、この衣のみ攻撃に1度の制限はない。
《我が誓約は、光り輝く衣を纏う》の効果は、『〈エンブリオ〉のステータス合計の10%の攻撃力を持つ光の剣を、〈マスター〉のステータス合計/1000秒の間顕現させる』というもの。
今の時点だと『攻撃力8000オーバーの剣を、80秒間の間使う事ができる』ということになる。
並みの上級としてなら、破格の攻撃力。さらにブルーノ自身のステータスも加わり、ただの一撃で一万程度のHPなら削れるだけの火力を発揮することができる。
――これならば一撃で終わらせることができる。
「っつ何だよ、そりゃあharH!」
コロコロ・ゴミックが目の前の光景に、その結果の意味を直感的に理解して、理不尽さを吐き捨てる言葉を口にする。
《看破》によって得た情報から、直感の通りにずいぶんとヤバい状況であることを察し、どうするべきか一瞬の間だが逡巡し………そして、やはりこれしかないと決める。
動きだしたのは同時。
ブルーノは、巨大な光の剣となったクー・フーリンを手に、あの狂人の元へと全力で跳び。
コロコロ・ゴミックは左手でアイテムボックスから追加で病を補充しながら、右手に握る槌を掲げて、あのいけすかない大人の元へと突っ込む。
そしてお互いは、たっていた場所の中間で激突する。
ブルーノはそれに驚く。なにせ、〈Infinite dendrogram〉を何カ月やっていれば、この攻撃の強力さに気がつくはずだ。実際初見で、ローガンたち他の決闘仲間に見せた時、全員一度退いて様子見をしていた。
この攻撃を相手にさえ、突っ込むことに驚き、そして納得する。敵は自分たちの事を恐れないと。
ならば意識を切り替える。もともと逃げる相手を追跡しての、時間制限付きの戦いを想像していたが、向かってくるのなら時間制限はそれほど気にする必要はない。
激突する瞬間に、ブルーノは光の剣を振り払い、そしてコロコロ・ゴミックは槌を振るう。
お互いの攻撃は、同じく敵に当たり、
「《トライブ・インフェクション》」
コロコロ・ゴミックが最後の呪いを放つ。
結果としてはブルーノの勝ちだろう。
光の剣は敵の右腕と〈エンブリオ〉である槌を両断し、さらには肩まで深く切り裂かれているのだ。
それに対してコロコロ・ゴミックの成果と言えば、右手も〈エンブリオ〉もダメだと判断し、咄嗟に左手で敵の身体に触れて、ある一つのスキルを発動しただけ。
だれが見ても、勝利はブルーノの元にあると判断するだろう。実際にコロコロ・ゴミックもそう思っている。だが、ブルーノは「やられた」という思いとともに膝を突く。
ダメージがひどいわけではない。今の攻防でダメージなど、欠片も受けていない。
膝をついたのは単に、自分に降りかかった病の苦しさゆえだ。
ブルーノはこの結果を押しつけた相手を見つめる。コロコロ・ゴミックはいまだに立っていた。ダメージがないわけではない、むしろ身体の方は今のダメージと無理やりに加速して来たツケで死に体だ。
だが、それでも立っている。
本来なら倒れるはずの重傷を受けながら、気力だけで。プレイヤー保護の影響もあって、痛みこそないもののそれでも肺にまで到達する傷口は、彼に極度の呼吸困難を与えている。病による苦しみと同様に、息ができない苦しみはこの世界から
だが、それでも彼は立ち、そして最後の時まで戦おうと身体を加速させ、敵に食らいつく。
武器は持たない。元々代わりとなる武器はそこまで高い性能の物はないし、〈エンブリオ〉とジョブのシナジーがなければわざわざ武器を使わなくてもいいし、なによりすでに武器を持つことさえ辛い。
コロコロ・ゴミックは左手と両足とで3足歩行をして、ブルーノに向けて最後の吶喊を行う。
「GYhhharhhharrraaaaHHra」
コロコロ・ゴミックの口から叫び声が響く。言葉になっていない、言葉にする気も無い、彼の心の内の慟哭をその衝動のままに吼える。
それはまるで
3本の脚に力を込めて、ブルーノとの3メテルも無い距離を一歩また一歩と距離を詰める。
――加速する。
――加速する。
――加速する。
コロコロ・ゴミックが距離を積めるまでに必要とした歩数はたったの3歩。だが、その歩数一つ一つで彼の身体はギアを跳ね上げていく。
彼は全力を出せないだろう。それをするには身体が傷つきすぎている。
しかし、それでもコロコロ・ゴミックは全ての力を振り絞り、限界を超えた最後の加速を行おうと力のすべてを振りしぼり――
――光の剣が彼の身体を両断する。
敵が同じく苦しい状況だろうに、全力を振り絞っている姿を見て、ブルーノは思わざるを得なかった。
それは、「同じくらい苦しい状況で自分だけが苦しんでいるわけにはいかない」、と。
だから、彼は全力を振り絞り、いまだに輝く光の剣を振るう。あちらでは抗う気も無かった苦しみに、こちらで貫き通したい自分のささやかな意地のために、この苦しみに抗った。
ブルーノがこの一撃に込めた想い。彼自身としても驚きだろう、現実を超える苦しみを、現実を凌駕して克服したのだから。
――いま、彼は病に克った。
それは間違いなく、彼にとっての進化。ジョブに
「ぐぁあGyararrr!!!」
コロコロ・ゴミックが咆える。
抗い放った一閃は、間違いなくコロコロ・ゴミックを切り裂き、意地の通りに留める事ができたと安堵する。
その一撃で終わりだった。
元々、肩深くまで食い込んでいたために、HPがすでに1000も無い状況だったのだ、このもう一撃を防ぐことなど出来ない。
断末魔を暗闇の中で響かせる。
だから、コロコロ・ゴミックは死亡する。慈悲など一切なく、この世界から光の塵となって消えうせる。
だが、
【条件解放により【■■■■】への転職クエストが解放されました】
ここに、破滅の種は蒔かれる。
◇◆◇
「ふぅ、やっと勝てたか………。すまないな、クー」
すでに光り輝くことは無くなった、手に持つ槍を見ながらブルーノは勝利の余韻に浸る。
〈エンブリオ〉は無くなった。この時点でブルーノには、4つの禁戒による強化は施されなくなった。
それでも、あのPKを倒すことには意味があっただろうと、ブルーノは思う。
ここで一度、とめておかなくてはならないと。
この先、あいつがどういう道をたどるかはわからないが、できればいいものであってほしい。もし、同じ道を進むというのなら、また再び相手をしなくてはならないな、とブルーノは覚悟をしておく。
HPは全快している。ブルーノが罹っている病も、強力なものはそこまででもない。
今、ブルーノが感じている病の症状は、高熱と倦怠感と節々の痛み、その程度だ。リアルなら学生や社会人が、休みを決め込むのに十分な物ではあるが、皇女がさらわれたこの状況下でのんびりと休んで過ごしていられるほど、ブルーノは薄情ではない。
槍を杖代わりにして、ブルーノは立ち上がる。
立ち上がることができるのは、コロコロ・ゴミックがブルーノに与えた病が弱かったからではない。第2の禁戒によって、状態異常の影響を軽減できたと言っても、それを無視することができるほどに強力な病をコロコロ・ゴミックは与えていた。
《トライブ・インフェクション》というスキルは、同じ人間種一人限定のスキルであり、自分が触れている相手に自分が持つ病の内ひとつの効力を倍にしたうえで、感染させるスキルである。
今回、コロコロ・ゴミックがブルーノに与えた病は、もっとも単純でありそれゆえに強力な【風邪】の状態異常。ただの【風邪】と侮るなかれ、複数のスキルによって強化されたその病は、感染者を無力化し死に至らせることができる強力にして凶悪な病だ。
それほどに強力な病を第2の禁戒では防ぐことはできない。軽減は出来るだろうが、それでも本来の物より80%程度の性能に落ち込む位だ。
回復アイテムによって、回復できたわけではない。それほどに強力な病を治す薬等、そう簡単に手に入るものではないし、何より使用できない。
だから、ブルーノが槍を杖代わりとしながらも立つことができた理由は、スキルによるものだ。
それこそが、ブルーノとクー・フーリンの第3の禁戒。
第3の禁戒、その名は《禁戒:回復アイテムの使用禁止》だ。
誓約は、回復アイテムを使わないこと。回復アイテムという類い全てがダメであり、【ポーション】類や【快癒万能霊薬】などの一切を封じられている。ようは『回復アイテムなど、使ってんじゃねぇ』ということだ。
加護は、自身のHPおよび状態異常の常時回復。ブルーノのステータス合計値に応じて毎秒ごとにHPが微量に回復していき、さらに状態異常も多少なりとも回復していく。その効果はそこまで高いものではないが、気休め程度には十分であり、時間をかければ実感できるほどには回復する。今回の場合でも、光の剣が無くなり〈エンブリオ〉の効果が消えうせる一分の間に500近いHPが回復し、さらに状態異常も多少なりとも回復し、コロコロ・ゴミックが与えた病よりその効力は40%近くになるだろう。病にまだまだ侵されてはいるが、それでも動ける程度には回復できていた。
禁忌は、自身への回復不能な継続ダメージ。〈エンブリオ〉が戻るまでの期間全てで継続ダメージが発生するため死ぬ。今あるデメリットの中でも、もっともキツイ物だろう。
この禁戒の恩恵をもって、瀕死から重病程度になったブルーノは先へ進む。一歩一歩確実に。
◇◆◇
「これは……!」
槍を杖代わりにしてから、数分がたち、先を進んでいっていたブルーノの耳に戦いの音が聞こえてきた。
戦場は近いと判断したブルーノは、身体に力を入れて先へ進む。苦しさを押し殺して。
そして彼の視界に入ったのは、一体の怪物。そしてそれと闘う、3人の女性たち。
炎を纏った蛇腹剣が、怪物にぶつかり合い。
黄金に輝く銃から放たれた銃弾が、怪物が放つ光の球とぶつかり合う。
しかし、それで怪物は止まらず、腹の内から光を輝かせる。
輝いているのは魔力を集めているからだろう。何をするかはわからないが、およそいいものであるはずはない。
それで状況を把握する。ブルーノはその戦いに手を貸すことを決意して、杖代わりとしていた槍を《投槍》スキルで強化しながら、今ある全力で投げ入れる。
その槍は光を輝かせていた、怪物の腹に当たり行き場を失った魔力が暴発する。
もっとも、それで倒れてくれるわけはない。それはブルーノもわかっていた。
そんなに生易しいものではないだろうと、敵の頭上に浮かぶ特徴的な表示を見て。
身体に力を入れる。アイテムボックスから、予備の槍を取り出しながら、敵に向けて突撃する。
今の自分にどれだけの事ができるかわからない。だが、それでも放ってはおけないと病に浸った体に喝をいれ克つ。
ブルーノが投げ入れた槍によって、怪物もそして3人の少女もこちらに気がついたようだ。
怪物は腕の一本をこちらに向けて振るおうとして、炎の蛇がそれを阻む。
炎の蛇が作ってくれた隙に、まずはもう一撃だと、全力を込めた突きを放つ。
もっとも、いくら全力を込めたと言っても、それで終わるはずはない。敵は強大なのだから。
まだまだ、戦いは始まったばかりなのだ。
To be continued
(=○π○=)<ブルーノのジョブについて
(=○π○=)<今現在、上級職は、【剛槍士】と【疾風槍士】です
(=○π○=)<だけど本来の設定なら、【疾風槍士】ではなく【獣戦鬼】だった
(=○π○=)<それが変わった理由は簡単。彼にはガードナー獣戦士理論が合わなくなったからです。
(=○π○=)<結構前に出していた通り、クー・フーリンの本来のステータスは低く、それを第一の禁戒で補ってる。
(=○π○=)<でも少し前にでた活動報告情報によって、【獣戦士】の強化は元々のステータスのみと言う事がわかった。
(=○π○=)<いや、最初からわかれよという話だったんですが、たった100近いステータスアップのために【獣戦士】系統とるわけにもいかないので却下になりました。
(=○π○=)<ブルーノは、原作設定であった「各国でガードナー獣戦士理論を使う人間がおおく、上位とっている」枠だったので、少し困った。
(=○π○=)<……問題はもう片方の上級職にいれるジョブの案が全くないことですね。【力士】系統はたぶん、武器もってたらアウトっぽいしなー