閣下改竄   作:アルカンシェル07

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(=○π○=)<採集決戦、およびパソコンの不調により、投稿がかなり遅れてしまい申しわけありません。

(=○π○=)<どっちも、パソコン触れなかったせいでストックないのがきつい……

(=○π○=)<順調に執筆速度が遅くなってるし、頑張らなくてはなーとは思っているんですが……


第20話 黒幻の双つ星

第20話 黒幻の双つ星

 

□■

 

 「「あははは」」「「あははは」」

 「「すごいね」」「「すごいよ」」

 「「これに耐えられるなんて!」」「「これを防げるなんて!」」

 

 声が反響する。

 二人の襲撃者である〈マスター〉の笑い声が、闇に覆われた地下迷宮に響く。

 

 一人の少女は一振りのシミターを握り、笑いながらミックの正面から滅茶苦茶に振るいまくる。

 一人の少女は一振りのシミターを握りながら、ミックの背後に回って彼の死角から襲おうとする。

 声を途切れさせることが一度もなく、また動くことを止める事もせず、二人は交互にまたは同時にミックと切り結ぶ。

 片方だけの実力ならミックが上回っているだろう。だが、二人の〈マスター〉の連携はその実力差を補いつつ、ミックに防戦を強いる程の実力を発揮している。

 

 (厄介だな。どういう理屈だか分かんないが、こいつら普通じゃない。どっかでこっちがわかんないインチキしてやがるな!)

 

 ミックは心の中でそんな愚痴をこぼす。

 敵わぬほどに強いわけではない。確かにミックの敵である二人の少女は弱くはないが、だが自分よりは弱いという真っ当な評価がある。

 常識を超えた強さを持つわけではない。確かに訳がわからない強さを持っていそうではあるが、だからと言って常識外の性能というわけではないだろうと、ミックは考える。

 だからわからないのは、強さとは全く別の事。

 ミックが戦闘における基本的な動作として心がけ身に着けていた、初見での《看破》使用によって、敵二人のステータスが見えているが、それがおかしい。

 闘い続けて、もう数分がたとうとしているが、他のスキルは後回しにしていまもなお《看破》を発動させ続けている。どういうことだと、頭の中に疑問符を浮かべながら敵を凝視しつづける。

 それに反応したのは二人の少女だ。敵がその瞳に血管が浮かび出そうなほどに、こちらを見つめ続けているというのは、戦う内に気がつくのは当然と言える。

 二人とも他者の視線に鈍感ではないのだから。

 ミックが放つ視線が、色欲によるものではないと分っている。そんな欲情に塗れた視線ではない。

 おそらく、こちらのステータスを《看破》しているのだろうと、二人はあたりをつけながら、それにどう反応すべきか考える。

 普通に考えれば、無視した方がいいだろう。おそらく戦いのセオリーとしてならば、自分が気付いた敵の行動に対して、いちいち突っ込みを入れる必要などないからだ。

 だが、ソレは出来ない。なにより、彼女たちの有り様として、その選択肢は選ばない。

 なぜなら………この状況下で彼女がする行動は決まっている(・・・・・・・・・・・・・・)。何回か、そういう状況があったのだから。

今回もそれに倣うべきだろうと、二人はアイテムによる会話によって全会一致でらしい(・・・)行動をとる。

 

 「「あはは! どうしたのかな? さっきから私たちの方を見つめ続けて!」」

 「「もしかして惚れた?! 惚れちゃったのかな!? でも、ごめんね。ちょっと君は私たちのタイプじゃないかな!」」

 (……なんでいきなりフラレてるんだ? 俺。っと)

 

 いきなり、予想だにしない告白返しがされ、理不尽な言葉にどう反応すべきか考えながら、上段から振り下ろされる少女の攻撃を避け、右横から襲ってくる少女の攻撃を2本の腕を持って迎撃する。

 同時にさらに腕を振るいながら、最初に襲撃した方に攻撃をたたみこもうとして………それが違う事に気付く。

 「いつの間に」「どうやって」という、疑問を抱きつつ違うながらも、敵であることに変わりはないならばと、剣をたたき込む。

 それで、終わり。その一撃は確実に最初に襲ってきていたはずの少女の胴体に直撃し、そしてHPの全てを削りきり、光の塵へと変える。

 だが……これで終わりだが、まだ終わりではない。

 相反する表現だが、的確な表現でもある。なぜなら、敵はいまだに存命。

 少女がひとり残っているからではない。残っているのは二人。

 先ほどと変わらぬ二人。ミックが光の塵へと変えたはずの一人の少女が、変わらずにいまだ生き続けている。

 先ほど命を奪ったはず。だが、それをなにくわぬ顔をして再び少女が襲いかかる。

 不思議ではある。だが、その理由の一端がミックには理解できる。なにせ、先ほどから使い続けている《看破》による情報があるのだから。

 自分が倒した少女は本物ではない。ミックはそう結論付けた。

 ミックがそう思った理由は、彼が攻撃する一瞬に、対象の少女のステータスが大幅に減ったからだ。当然ミックはそんなことをしていない。

 だから、彼女のステータスが減ったのは彼女自身のスキルによるものだろう。もしかしたらもう一人の少女によるアシストかもしれないと、それ以外の可能性を考えてみるが、別にそこはいい。

 問題は、なぜステータスが減ったのか。わざわざ自分からステータスを減らす理由などない。MPやSPが減るのならばわかるが……、いやそれも最大値ごと減っている理由はわからない。

 ならば、他の理由としては、なにかしらのスキルを発動したことによるペナルティか、もしくは表記が似ているだけの別の個体になっているかのどちらかだろう。

 そしてミックは、前者の可能性を切り捨てた。どうしてもペナルティが起きるような他のスキルを使ったようには見えなかったからだ。

 もし、この段階で空間跳躍なんかの、強力なスキルを持つことに成功し、それを発動するのにおおきなペナルティがあったとしよう。実際にそれだけのスキルを使うのに、コストもペナルティも膨大な物になるのは間違いない。だが、コストはともかく、ペナルティはスキルを発動した後におこるものだろう。コストとしても、すこしおかしい。だから、ペナルティという線はすてた。

 だから残る可能性としては、偽物と入れ替わった可能性。おそらく自分の偽物といれかわって防御するような、変わり身の術じみたスキルを持っているのだろうと、ミックは結論付けた。

 

 (面倒だな。いくら敵を倒せる状況に持ち込めても、逃げられちゃ意味がない。……だが)

 

 ミックは一度思考を振り切り、二人の少女を見る。

 《看破》によってうつる視界に、〈エンブリオ〉は映らない。

 だが、おそらくは自分と同じ第4形態だろう。それならば――

 

 (それだけのスキルをそうなんども繰り返せるとは思えない。回数か時間かどっちかの誓約はある。それまで何度も倒し続ければいいだけだ……これをキャロルが聞いたら「脳筋だ」とか馬鹿にされそうだけどな。どっちみち、ひとりにばかり注視できない。敵は二人いるんだしな)

 

 能力がある程度推測できるもう一人と違って、もう一方は欠片もわからない。

 《看破》を使ってはいるが、それに映るのは奇妙なもののみ。

 

 (どうなってんだ、これ?)

 

 ミックが疑問に頭を悩まし、答えが未だに出てこない。

 《看破》に映るのは、二人の名前とジョブとステータス。ジョブにおかしいところはない。

 お互いに同じジョブについているが、そこは別にいい。いくら、このゲームがオンリーワンを推奨すると言っても、進む道(プレイスタイル)戦い方(バトルスタイル)活きる術(ライフスタイル)によってある程度は似てくることもあるだろう。

 商人としての道を選ぶならば、【商人(マーチャント)】を選ぶだろう。

 魔法を使うのならば、【魔術師(メイジ)】等の魔法職と、【生贄(サクリファイス)】を筆頭にMPがおおく増えるジョブを選ぶだろう。

 そして、二人の少女のように奇襲攻撃を行うのであれば、両方ともに【襲撃者(レイダー)】に就いている事もあるだろう。

 それだけなら、ただの一致として扱う事ができる。なので、そこに問題はないだろう。

 だがわからないのは、

 

 (なんで二人とも、ステータスもそれになによりも、名前が同じ(・・・・・)なんだよ!)

 

 鏡合せのように瓜ふたつの、全く同じ情報しか見ないという事。

 それらが一致することは本来ならばまずないといえる。ティアンならば場合によってありえるかもしれないが、だが彼女たちは〈マスター〉だ。

 ステータスが一致するには、同じジョブ構成で、同じ〈エンブリオ〉の補正数値で、同じレベル帯でなければならない。3つ全てが一致するのは、よほど示し合せなければ不可能だろう。いや、それでも無理に等しい。それはランダム性がからむ〈エンブリオ〉の補正と言う物が絡むからだ。

 故にステータスが全くの一致を取っている事は、驚くほかない。脅威と言うわけではなく、ただ純然に奇跡と呼べるほどの幸運の一致。

 実際にこれは幸運の一致だ。彼女たちは、本当に偶然にも〈エンブリオ〉によるステータス補正が同じ値になり、そして同じ名前を選んだ。最初のログインの際における名前の設定で、二人は共に担当した管理AIの「同じ名前の人間がいる」という警告を無視してデンドロを始めたからだ。

 それらは偶然。予期など一切できず、示し合せたことなど一度もなく、ただの偶然の一致としてお互いの名前や〈エンブリオ〉によるステータス補正が同じになったのだ。

もっとも、ただの偶然といっても、いま相対峙しているミックにそのことが判るはずもない。それが〈エンブリオ〉の能力によるものだと踏んで、どういうスキルなのか考察し続けているが、正解は当然でない。

 特に名前。ステータスならば、そういうスキルもあるだろう、とおもわないでもないが、名前まで一致させるスキルも、それを行う特性の意味も、そしてそれを発現させるに至った〈マスター〉のパーソナルも。ミックはそれら全てが理解できずに頭を悩ます。

そして当然、答えなど出るはずもなく、ミックは自分が不利になるのを承知でその意味不明を問いただす。

 

 「なんで、二人とも同じ名前なんだよ!」

 

 二人の少女を《看破》した結果映るのは同じ、『ナジュム・ブラックファントム』という名前。偽りなく、全く同じ表記、同じ名前。

 その問いに疑問を浮かべたのは、彼女たちだ。

 なぜ、同じ名前なのかという疑問ではない。

 なぜ、同じそんなことを聞くのかという疑問。

 そして、その疑問をそのまま口にしてしまう。

 

 「え? もしかしてあんた『グラファン』やったことないの? あんだけ宣伝してたのに………」

 「あー、まあ大きく宣伝してたの日本だけだったしねー。わからなくても無理はないんじゃないかな? まあ、わざわざこっちから答えは……「教えないよー」」

 (……ハッ?!)

 

 答えが出てくると思わなかったミックは、予想外のセリフに一瞬硬直してしまう。

 敵の能力が全く分からずに、敵に答えを聞くなんて無視されるだろうと思っていたし、敵の能力を把握できないレベルだと思われるのを覚悟で口にしたというのに、気軽にされた二人の少女による返答。

 今までと異なり、残響(エコー)を残すような気軽な口調とは一変して、普通の口調で語られたその言葉。

 ミックがしたことのない、知らないことを、「残念だ」と心底思いながら少女は語る。

 

 (どういう意味だ? まったくわからねぇし……)

 

 ミックは彼女たちの言葉の意味をわからないまま、再び横薙ぎに剣を振るう少女の攻撃をかわしつつ、もう一度右腕に握った長剣を機械的に振るう。

 また、再びステータスが入れ替わるのだろうと、予測していたミックを嘲笑うかのように、異なる展開が彼を襲う。

 それは、後方からの奇襲。

 敵が回り込んで来たというわけではない。ミックは当然、戦いの最中であるため油断せず、敵の動きに関して注視していた。自分の弱点となる背後の攻撃を、みすみすさせることなどありえない。

 また再び起きたわからない現象。

 それを突きとめる為に、ミックは《看破》ではない手段を使ってみようと思い立つ。

 そして別の手段として《鑑定眼》を用い、

 

 (《看破》を底上げしても変わらないなんて……、《エンブリオ》ならともかく、もしかして装備かなんかかもしれないし、いちおう《鑑定眼》も発動させとくか………どっちも特に変わったところはなさそう……ってはぁ?)

 

 再び驚くことになる。

 それは、《鑑定眼》による情報もおかしいことになっていたからだ。

 《鑑定眼》というスキルは、装備している防具・装飾品などを見る事ができ、スキルレベルが高ければ高いほど、鑑定妨害を突破して性能をみることができる。

 ミックの持つ《鑑定眼》のスキルレベルは複数のスキルにより、古代伝説級の鑑定妨害でさえ見る事ができるほどに高まっている。

 今のミックをだますことができる偽装をかけられるものなど、それこそ神話級以上の特化MVP特典か、〈超級エンブリオ〉のスキルくらいだろう。当然、二人の少女がそのどちらかを満たしていることなどあり得ない。ゆえに今の彼が見ている情報は嘘偽りなど全くない真実の情報だ。

 だが、それゆえにわからないとミックは頭を動かす。

 彼が見えている情報。それはお互いの装備の性能が全く同じだと言う事。

 もちろん、同じ装備を買いあされば、まったく同じものになるのは当然だ。

 だが、いまミックが見ている疑問は、そういったものではない。

 全く別の、同じになるわけがないだろう装備が、全く同じ性能になっているという異常。それがミックの疑問だ。

 二つの装備がある。同じ装備箇所に付けられている別々のはずの装備。

 一人の少女がもつ【魔力の篭手】という名の腕装備防具がある。その性能はMPを300あげる物だ。しかし、それだけではなく、HPすらも300の上昇値が付け加えられている。本来、レジェンダリア産というだけで安物のはずの【魔力の篭手】に反対の性能であるHPアップが込められているはずはない。

 一人の少女が持つ【体力の篭手】という名の腕装備防具がある。その性能はHPを300あげる代物だ。しかし、もう片方の少女が持つ防具同様にこの装備にもまたMPを300追加でアップする性能を持っている。こちらも同様に、普通ならそんな追加効果などついているはずもない。

 どうみてもおかしい性能だ。それこそ、二つの装備の性能が合わさったと言えるもの。

 それがどうしておきているのかを、ミックは考えてこちらも答えが出ないでいる。

 これも二人の少女のどちらかの〈エンブリオ〉の能力によるものだろうとあたりをつけざるをえなかった。

 もっとも正解を言えば、同じ装備の性能である理由はまったく別の物なのだが。

 

◇◆◇

 

 

 交戦を開始してから数分がたつ。

 その間、お互いに決定的な状況に持ち込むことができず、数分という時間をずるずると同じような状況で戦い続ける羽目になっていた。

 

 「「そらぁあ!」」「「もう一回行くよぉ!」」

 

 片方の少女が地面に向けて、アイテムボックスから取り出した手のひら大のボールをたたきつける。

 ミックは「またか」という感想こそあれ、驚きはしない。なぜなら、先ほどから何度か行われてきているため、新鮮味がないからだ。

 地面にたたきつけられたボールが割れて、そこから煙が噴出する。周囲一帯を数秒にわたり煙幕に包むアイテムであり、この閉鎖空間でも数秒後には煙が晴れる特性がある。

 この光が差さない迷宮内という暗闇だけでなく、こんな煙幕を使うのは二人の少女たちの敵であるミックが暗闇の中でも見えているかのように動き回るからだ。

 実際ミックは、高ランクの《暗視》スキルによって、光が一切ないほとんど真っ暗闇といえる状況でも、まるで昼間のように見る事ができている。

 だから彼女たちはミックの目を晦ませるために煙幕を使用した。彼女たちの必勝パターンに追い込むために。

 

 「「《アナザー・パーソンズ・オブ・ワンセルフ》」」

 (こんどは、そっちか。リャナンシー、《危機察知》《殺気感知》オン!)

 

 一人の少女が動く。

 彼女の〈エンブリオ〉は幻。全く同じ名前どうしである、彼女たちが使う識別用の称号は“幻のナジュム(サラヴ)”。

 幻のナジュム(サラヴ)は〈エンブリオ〉を使用して、ミックに対して奇襲攻撃をおこなおうと動く。

 もっとも、ミックもただでやられるはずはない。彼女たちが今までに何度かおこなってきたように、彼もまた同じように対処する。

 二つの対奇襲用スキルを総動員し、敵の次の攻撃に備えていたミックの後方から反応があり、それに対して長剣を握った右腕を振り、カウンターをおこなう。

 彼のスキルによる知覚能力通りに、後方から飛び出した一人の少女がふるった剣と、ミックによるカウンターが交差して鉄と鉄がぶつかり合う甲高い音が響き……互いに大きな衝撃を持って吹き飛ばされる。

 これもまた先ほどから繰り返してきた光景。それに少女は心の中で舌打ちをし、また同時にミックも心の中で舌打ちをする。

 少女が舌打ちをするのは、彼女たちの戦法をことごとく無為にする相手への不満。

 ミックが舌打ちをするのは、一度の交戦で勝ったとしても全体としてはなんら状況が好転していないという危機感によるもの。そしてすぐさま襲い来る敵手の存在がいるからだ。

 

 「「さあさあ、生み出しましょう! 《黒の幻影(ブラック・ファントム)》」」

 (そりゃ今度はそっちが来るよな!)

 

 未だに煙幕が周囲を覆う中、もうひとりの少女が続けて動く。

 もう一人の少女の〈エンブリオ〉は黒。彼女の識別用の称号は“黒のナジュム(アスワド)”。

 黒のナジュム(アスワド)が呼び出すのは3つの黒。

 これもまた繰り返されてきたもの。ミックは驚かず、いままでどおりに対処する。

 たがいに吹っ飛んだことによって、姿勢が悪くなっていたが、元々いまからする迎撃に姿勢の良し悪しは関係ない。

 煙幕の中から出てきた3体の敵手を見据え、そして《看破》によってその敵のステータスが低いものであることも確認できた。

 その敵の姿は、大の成人男性と同等の大きさで、頭に髑髏かもしくは悪魔の仮面のようなものを被っている執事服の様な衣装をまとった戦闘能力をもった兵。

 ミックが直接見たわけではないが、おそらくもう一人の少女のスキルによって生み出される使い捨ての兵士(インスタント・ソルジャー)だろうと考えた。強いわけではないが、それでもそれなりの性能を誇っている兵隊を複数呼び出すことができる召喚スキルだと。

 1体1体は強くない。だが、それでも一度に数体の兵隊が襲ってくるのは、純粋に脅威と言ってもいい。

 だが、それでも今のミックなら対処可能だ。

 彼の右腕は使えない。最初の襲撃をかわし、弾くのに使用してしまい次の攻撃に使う事はできない。

 彼の左腕も使用しづらいだろう。体勢を崩し、それを整える為に地面に就いている左手をすぐさま攻撃に転用できない。

 彼の元々の両手は塞がっている。

 だから、残り全ての腕(・・・・)をつかう。全ての腕を振り払い、数体の黒い兵隊を一度になぎ払うことで、敵の攻撃を終わらせた。

 

 「「なにそれ、ずるい」」「「一体どういう理屈なのかな!」」

 

 二人の少女が抗議の声を上げる。

 未だに煙幕に周りが包まれ見えないはずだと言うのに、二人の少女は問題なく見えているような口で文句を言うことに、ミックは幾度目かの考察を張りめぐらせる。

 ミックからしてみれば、自分のやっていることなんてさして特別なことではないという認識だ。〈エンブリオ〉とMVP特典というオンリーワンな要素二つが組み合わさっているが、だがこのくらいなら方法こそ異なれど結果のみで言うならば他の〈マスター〉だってできるだろうという評価を彼は持っている。

 自分がしているのはその程度のことだと。

 

(さすがに4本でも、キツイか。だがこれ以上は操作できないからな。場合によっては【竜腕】を出す必要があるが……)

 

 敵の愚痴を聞きながら、ミックもまた自分の才能の無さを嘆き、心の中で愚痴を吐き出す。

 自分にもっと才能があれば、もっと数を増やせるだろう、と。実際に皇国にいる【無将軍】ならば、もっとたくさんの数を使役できただろう。

 もっともミックがことさらに無能というわけではない。脳内での操作(マニュアル)という日常生活で使用することがまずない才能を要求されるため、通常の人間でもそう多く扱えることはないからだ。

 【無将軍】でさえも、生まれた時からもちえるMVP特典を使用するという機会、および【無将軍】のジョブが持ちえる脳内操作を補助するスキルがなければ1000を超える人形を操作など出来ないだろう。もっとも、素でそういったことができる〈マスター〉もいるのだが、それは例外に過ぎる。

 ともかく、彼が今扱える腕は少ない(・・・・・)

 一人の少女を吹き飛ばした、右腕。

 地面に手をつく、左腕。

 さらには前方・右上・左下から襲い来る黒い兵士をなぎ払った、追加された4本の腕(・・・・・・・・・)

 本来の腕に追加されている、4本の鉛色の腕。

 それが、彼の新しい力。彼にさらなる可能性をもたらした希望。

 

 それこそ――彼の才能(特典武具)

 

To be continued

 

 

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