閣下改竄   作:アルカンシェル07

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(=○π○=)<感想で言われた点に関しては重々承知してますが、この途中からいきなり変えたら意味不明になりすぎるので、この章はある程度このまま進めます。

(=○π○=)<一応、4章で出番予定だった二人(ナジュム)を削って、ここで入れる予定の無かった〈エンブリオ〉の説明も入れたりして、ちょこっとだけ努力してはいるのですが……

(=○π○=)<執筆速度に関しては、リアルの事もあるので確約できなかったり、案が浮かばなかったりで停滞することもありますが、頑張ってはいます……




第21話 一面六臂

第21話 一面六臂

 

□特典武具の活用方法

 

 伝説級特典武具【肢造背嚢 アルヴィニオン】。

 いまさら語るでもなく、あの塔でミックがMVPに輝いた結果、手に入れる事ができたアクセサリー装備。

 唯一持ちえるスキルは《クリエイト・ザ・イリーガル・ユース・ハンド》のみ。

 その効果は、背嚢の中にしまった素材をもとに、腕のモンスターを制作・召喚するという、元となったスキルと同様のただそれだけのもの。

モンスターの肉体は、素材としたアイテムによって異なる。モンスターの素材なら、モンスターの面影が僅かばかりとはいえ、みえなくもない風貌に。鉱物を素材としたならば、それを素材としたメタリックな風貌に。それぞれの素材毎に、千差万別のモンスターとして制作されるのだ。

素材によって変わるのは見た目だけではない。そのモンスターそれぞれの性能として、ステータスという形で差異が生まれる。高速で走るモンスターを素材としたなら、モンスターのステータスは、AGIが特に高いものとして現れるだろう。硬い鉱物を素材としたならば、ENDが高いモンスターとして生まれるだろう。そして強いもしくはレア度の高いアイテムを素体としたならば、そのステータスは高いものになる。逆に言えば、弱いもしくはレア度の低いありふれたものを素材としたならば、ステータスは低くなる。

 初期に手に入れられるモンスターのドロップアイテムや鉱物などでも制作はできるが、その性能(ステータス)はオール100にもいかない程という、非常に残念な物になってしまう。

 そして、さらに残念なことに、この特典武具によって製作されるモンスターに、スキルは基本的に付与されない。ただステータスに特化されたモンスターとして、制作され召喚されるのだ。

 ステータス補正も皆無だ。この特典武具がもつのは《クリエイト・ザ・イリーガル・ユース・ハンド》のみ。それ以外の性能をすべて(なげう)っているため、この特典武具に持ち主を補助する能力は一切ない。

 そう、全てを擲って、なおこの性能。

 特典武具としていうのなら、確かに性能は控えめだろう。格こそ違えど、似たような性能を持つ【エデルバルサ】あたりなんて、一度に旅団規模という1000を超えるモンスターを制作でき、さらにはそのステータスも並みのティアンを超える物を製造できる。

 それに比べれば、あまりにも拙い。神話級と伝説級という差を考慮してもなお。

 実際にこの特典武具は弱い。元となったスキルが弱いわけではない。伝説級の枠に収まらないわけでもない。このスキルの弱さは、《クリエイト・ザ・イリーガル・ユース・ハンド》の性能をステータスの高さでも、コストパフォーマンスの高さでもない別の事に使用している為だ。

 モンスターの弱さも金額を消費することで一定の強さにすることができる。

 彼が今使役しているモンスターは、高レベルモンスターの完全遺骸や、高品質の鉱物を素材としている。そのおかげもあって、制作されたモンスターのステータスは平均1000オーバーにもなり、亜竜級モンスターにも匹敵する能力を持っている。………それに応じて、召喚・制作の際に関してかかる金額も数百万にも及んでいるが、必要経費と見るべきだろう。

 

 

 もっとも、弱くともこの特典武具を使う事を止める所持者(ミック・ユース)ではない。

 少なくともこの特典武具は、彼の弱点の一つを補い、2つしかなかった手数を3倍以上に増やし、今までになかった手段を創造するものだからだ。

 【肢造背嚢 アルヴィニオン】の装備は、アクセサリー枠ひとつの圧迫と言う対価を払ってなお、余りある報酬が払われる。それに関してはさすがに特典武具だ、という事だろう。

 払われる報酬を多くする方法もある。

 それは【肢造背嚢 アルヴィニオン(特典武具)】と、ミックのもつ【才金貨 リャナンシー(エンブリオ)】とのシナジー。

 

 一つ目のシナジーは、モンスターの性能を変化させるもの。

 召喚されるモンスターの性能(ステータス)低い(よわい)というのなら……、強くしてしまえばいい。

 【精霊強化】という特化強化スキルや【魔物強化】という汎用強化スキルを使用すれば、召喚されるモンスターの性能もそれに応じてアップする。

 ミックの〈エンブリオ〉はいまだ第4形態。あの塔の戦いと同様に、《ブラッド・アビリティ》のスキルレベルは6で止まっている。だがそれでもスキルレベルを6つも高める事ができるのなら、それぞれのスキル効果をさらに高める事ができる。

 モンスターのステータスがいくら低くても、それだけの強化を重ねれば十二分に強力と言える。 

 ミックはこの特典武具の活用方法を見出した時から、下級職の内【精霊強化】と【魔物強化】を覚えるジョブを取得して、現在の二つのスキルレベルは下級職の内でなら最大といえる範囲だ。

 そのスキルレベルの値は8。《ブラッド・アビリティ》を含まず、下級職の上限を超えるスキルレベルの高さの正体は、彼のメインジョブ系統である【万屋(ジェネラリスト)】の特性故だ。

 【闘士】が複数の武器を使って闘うと言う特性、【壊屋】がオブジェクトを壊すことに特化した特性、【司祭】がHPや状態異常を回復させるという特性を持つのと同様に、【万屋】にも特性と言えるものがある。

 それが《スキル上限開放》による汎用高スキルレベルによる、スキル特化という特性。

 このスキルのスキルレベルは上がらない。《軍団》のようにスキルレベルが上がりづらいというわけではない。そもそも上限自体が上がらない。

 下級職で手に入れられる《スキル上限開放》の最大値は2という低いもの。強力なスキルゆえに、下級職のリソースすべてを捧げてもなおこの程度が精いっぱいというわけだ。

 上級職に上がってもスキルの上限は劇的に変わらず、最大の上限値は5に収まる程に。

 だが、現在の《スキル上限開放》のスキルレベル3でも、性能自体は問題なく適用されている。

 下級で取りえるジョブスキルの最大値に、さらに3プラスしたスキルレベルで、ジョブスキルを使う事ができるのだ。もちろん上限を上げるだけなので、そのスキルを何度も使ってスキルレベルを上げる必要こそあるのだが。

 当然ミックはこれまでの戦いで各種スキルを使いまくり、幾つかのスキルを最大値まであげている。【精霊強化】や【魔物強化】もその一つで、強化値はそれぞれ45%にもなり、両方を併用すればモンスターの強化値は2倍にもなり、《ブラッド・アビリティ》をそれぞれに使用すればモンスターの強化値は3倍にもなる。

 場合によって、召喚したモンスターの性能を強化しながら戦うのが、今のミックの戦術の一つなのだ。

 そして、彼のこの特典武具を使用した戦術はそれだけではない。もう一つのシナジーにこそ、彼の最大の報酬がある。

 

 

 

 それこそが第二のシナジー。ミック自身の性能の変化。

 ミック自身の性能とは、彼のステータスの事。

 特典武具と〈エンブリオ〉、そしてジョブによる3種混合によってなされる亜種最強理論。

 その最強理論とは、この世界を席巻し始めている〈ガードナー獣戦士理論〉と呼ばれるとあるビルドのこと。

 〈ガードナー獣戦士理論〉を要約して言えば、自身のキャパシティ内にいるモンスター1体の元々のステータスを、自身のステータスに付け加える事ができる、【獣戦士】のもつ《獣心憑依》というスキルを使ったもの。キャパシティが0のガードナーの特徴をフル活用し、〈上級エンブリオ〉であるならばめずらしくもない純竜級のステータスをそのまま自身にプラスすることで、最強の前衛をつくりあげることができるという、最強といわれるだけはビルド理論の事である。

 ミックはその理論の一部を取り入れて、3種混合の強力なシナジーを生み出した。

 もちろん、ミックの〈エンブリオ〉はガードナーではない。彼の〈エンブリオ〉のTYPEはあくまでアームズだ。

 だから取りいれたのは、キャパシティのモンスターのステータスを得るという部分のみ。

 【獣戦士】がメインジョブと言うわけではない。ただ下級職の一つとしてジョブを取っているだけにすぎない。

 《獣心憑依》はあくまで、【獣戦士】系列でのみ使用可能なスキルだ。今の彼のメインジョブである【万能者】で使う事は不可能だ。だがしかし、それでもスキルレベルの最大値を上げる事は出来る。

 そのままでは使えない、意味がないスキル圧迫だが、使用することができないという条理が決められている。

 しかしそれを覆す不条理が存在する。それこそ他ならぬ〈エンブリオ〉という存在によって。

 《ブラッド・アビリティ》は増加させたスキルを、メインジョブのスキルとしても扱わせる効果も付属している。

 すなわち、本来【万能者】では不可能な《獣心憑依》のスキル発動を、《ブラッド・アビリティ》によるスキルレベルアップと重ねれば可能とすることができるのだ。

 発動する場合のスキルレベル値は合計14。転写効率にして80%という驚異的な物。スキルレベルが10を超したからと言って、EXになるわけではないためさすがに120%という転写効率はまだ(・・)達していないが、それでもそうとうな数値の強化が施される。

 

 キャパシティの問題もない。《クリエイト・ザ・イリーガル・ユース・ハンド》によって制作されるモンスターのキャパシティは0で固定されている(・・・・・・・・・)

 すなわちキャパシティ内に修める限り、召喚できる数に限りはない。もっとも、実際は操作することができる数や、召喚する場所の問題もあるため、そう多く呼び出すことはできないだろうが。

なお《獣心憑依》を使う都合上、パーティーを組んでいない間は、召喚する腕のモンスターは自身のキャパシティに1体のみ呼び出し、のこりをパーティー枠を使用することで使役している。パーティーを組んでいる間は、一体のみを使うかもしくは《獣心憑依》を使用するのを諦めるしかないのだが。

 

 

 亜竜級のステータスを加えられ、純竜級クラスの腕4本を扱う、一面六臂の羅刹。

 それが今のミック・ユースの有り様(たたかいかた)

 特化しているわけではなく、全てが一点に向いているが故の汎用性の高さ。

 対応力、突破力その全てが揃った、一つの答え。

 それが数カ月の試行と鍛錬と努力によって培われた彼の才能なのだ。

 

 

□■

 

 (ああ、もう面倒だなぁ。クロもいらいらしてそうだけど、こっちもそろそろ何とかしないとね。(私たち)は泣く子も黙るナジュム・ブラックファントムなんだから!)

 

 少女は愚痴る。心の中で。

 それは、なんどやっても目の前の背中から腕を生やした一人の男を倒せないから。

 ミックに攻めさせもしない代わりに、彼女たちからも攻め切れていない。

 

(本来の自分(彼女)の実力はこんなものではないはずなのに! 自分(僕たち)の所為でこの程度しか力を発揮できないなんて!)

 

 再び少女は愚痴る。自分たちの力を合わせて一人の人間に勝てないなんて、と。

 お互いの状況は互角。

 いや、おそらくはミックの方が勝っているだろう。

 二人の力はどちらかといえば、初見殺しに分類される。

 少女以外のもう一人の少女(彼女)と、生み出される幻影によって、対応させる間もなく二人の力によって敵を速攻撃破するというのが彼女たちのスタイルだった。

 しかし、彼女たちの今までの戦いを通用するわけないと、はねのけたのがミックだった。

 【救命のブローチ】による初撃奇襲の失敗。

〈エンブリオ〉による死角からの攻撃の不発。

特典武具による高ステータスによる自分たちの不足。

 それらによって、彼女たちの初見殺しがミックに届かず、幾つかの初撃を凌ぎきり、既知の攻撃へとかえた。

 初見殺しと言うのは、呼んで字の如く、最初でのみ高い効果が発揮される。

 既知であるならば、多少の攻撃によってたおれるミックではない。

そのまま、二人の攻撃をいまだに凌ぎ続けている。

 凌ぎ続けながら、反撃を時折行っていて、このままならあと数時間あれば押し切れるという状態ではあるが、ミックはそれに喜ぶことはできない。

 

 (やばいな、今どんぐらい時間がたっている?)

 

 ミックとしては、はやく二人を倒して先に進みたい。さすがに放置したら、どうなるかわからないし自分とかならともかく、レオンあたりがこの少女ふたりと闘う羽目になったら倒されてしまうだろう。

 だが、悠長にしている時間もない。それはさらわれてしまった皇女を助けなくてはならないからであり、他の仲間が未だに戦っているだろうからだ。ミックがいまここで安全策をとりながらのんびりと闘うなんてことは、その二つを切り捨てることにつながる。

 故にミックは、時間をかけずに戦うと決めた。

 

 (全て出して、片方を速攻撃破。それしかねぇな。よし、そうと決めたなら)

 

 ミックが後ろへ跳ぶ。

 高いAGIやSTRを元にしたバックジャンプは、彼の望み通りに遥か後方まで一息に移動することに成功する。

 それは退却ではない。戦うと決めた以上、ミックが退いたのは次の手に繋げるため。

 煙幕の中という、地の不利を払うため、影響下にないただの暗闇に移り、再び《暗視》スキルを起動させながら、『腕』を起動させる。

 その腕の名は【竜腕ハイ・ドラグ・ライトニング】。ミックが持つ切り札の一つにして、勝利をつかむための栄光の竜腕。

 

 「「え?」」

 「「此処で退く? って、やばい! 幻のナジュム(サラヴ)気をつけて! あいつの狙いはおそらく……」」

 「少し遅いぜ! 《瞬間装着》」

 

 一人の少女が疑問を浮かべ、もう一人の少女がミックの行動の意味に気付く。

 気付いた方……“幻のナジュム(サラヴ)”はそうはさせるかと、ミックの邪魔をするために近寄ろうとする。

 しかし――それよりもミックの方が早い。

 ミックは複数の配下強化スキルを《ブラッド・アビリティ》共々併用しながら、《瞬間装着》を使い、一つの武器を手に取る。

 手に取った武器は、【大風扇】とよばれる身の丈ほどの大きさのうちわ。もっともただのうちわではなく、黄河産の伝来品でその価格は云十万もする高価な物。

 武器でありながら、殺傷能力を持たないすこし変わった特性を持つただのアイテムともいえる。

 そんなものを取り出したからには、これをつかって戦おうとしたわけではない。これは、戦いやすくするための道を造り出すための物だ。

 ミックが【竜腕】をもって【大風扇】を振りかぶる。

 そして、扇というアイテムの本来の使用方法通りに凪いで、全力で仰ぐ。それこそが、この【大風扇】の特性。使用者のSTRに比例した、風を一定時間発生させ続けるというもの。

 本来、普通の人間が扱っても、ただ涼む程度の物でしかないが、これを【竜腕】という純竜級のステータスを加算されたミックが振るえば、それは全てを吹き飛ばす豪風となりうる。

 もちろんこれはただの風。どれだけ強くても、敵を倒すほどの力はない。………一応十万以上のSTRをもってすれば、敵を倒すことも不可能ではないかもしれないが、それだけの(STR)をもつものなどそうはいないし、なによりこのアイテムの耐久力が足りないので考えるだけ無駄だろう。

 だから活用の仕方は――煙を吹き飛ばすこと。

 そして、

 

 「えっ?」

 「申しわけありませんっ!」

 「やっぱり……!」

 「《スケイプ・ゴート》すべて吹き飛ばされました!」

 「なっ!」

 

 この場に響いたのは五者五様の声(・・・・・・)

 ミックと二人の少女(サラヴとアスワド)と、そしてさらに二人のナジュム(・・・・)

 ミックはこの状況に驚き、四人の少女はばれてしまったことを悔やむ。

 無理もないかもしれない、二人の少女が同じ顔・同じ声・同じステータスであったのに、さらに全くおなじ顔の少女が二人も追加されたのだから。

 だが、ここで驚いてばかりでは、決闘ランカーとは言えない。たとえ理屈がわからなくても、敵を豪風によって行動不能にしたことに変わりはないのだ。

 

 (意味は相変わらずわからねぇが、どっちみちやることは変わんない……か! どっちみち時間はそんなにないしな)

 

 暗闇に吹く風に乗るように、ミックは全力で走る。

 手にもつ【大風扇】はもういらないと投げ捨てて、【竜腕】に一振りの剣を握る。

 煙から抜け出たことによって、スキル強化を《看破》と《鑑定眼》と《暗視》のみに切り替えながら、四人の少女を見る。

 この場において、ステータスを上げるスキルも、戦闘を補助するスキルも使用しなかった理由は簡単だ。それはもうそんなものをつかう必要性がいないから。もうこのあとひつようなジョブスキルは存在しない。

 だから、あくまでも情報を少しでも得ようと、ミックは三種のスキルを発動させ………、そして残念ながら思惑通りにはいかなかった。

 それによって映るのは、ほとんど変わらぬ似たようなもの。二人の少女に加えて、さらに追加された二人ともの容姿・性能が似通っている。

容姿は褐色白髪と言う二人の〈マスター(少女)〉とは衣装がすこし異なる以外は〈マスター(少女)〉たちとおなじ。ステータスこそ少し異なっているが、それは二人の〈エンブリオ〉による些細な違いだろう。

 幻の〈エンブリオ〉が周囲にいる人類範疇生物のステータスをコピーした【ドッペルゲンガー】を生み出すことに特化し。

 黒の〈エンブリオ〉は、ある程度のステータスをもつ黒い兵隊を生み出すことができるスキルを保有する、女性型のガードナーという特性を持つ。

 これによってできるのは、どちらもおなじ全く同じ名前を持つ女性体を生み出すという事象(コト)。たった一人の〈マスター〉の力だけで一組の少女となりたいと、なんの偶然か同様に願われたパーソナルを反映された結果生み出された二組にして四人の少女たち。

 同類………同じこと(ロール)を願った同士に出会ったために、その〈エンブリオ〉の力を隠して、ペアで組むこととなったのだった。

 そしてお互いの奇跡の出会いを経てから、彼女たちは今までずっと死して別れることなく、共に行動を共にし続けて………ここに最初の最期を迎える事になる。

 

 「「だめっ!! 動けないー」」

 

 一組にしてひとりの〈マスター〉と〈エンブリオ〉である(アスワド)が、復唱による残響を伴った声をあげる。

 その言葉を聞きながら、ミックは風に乗ったまま、本来の右手で腰につけられた自分の〈エンブリオ〉である金貨から伸びるチェーンを外し、そのまま右手で手に持ちながら、紫電を纏う。

 暗く先が見えぬ静寂が包んでいたはずの迷宮通路を、電荷の移動による宙を裂く雷の音を奏でながら、雷光によって周囲を明るく照らす。

 迷宮内と言う、天から続かない閉鎖空間に雷雲は発生しない。ゆえにこれは自然的な物ではなく、当然人為的な物である。そしてその発現地点はミックと重なる場所。

 しかしミックが雷を放っている訳ではなく、その電源は彼が背負っている背嚢から生えている一本の【竜腕】。

生前雷を使う事を得意としていた純竜級の天竜である、【ハイ・ライトニング・ドラゴン】の完全遺骸を素材としたこの【竜腕】には、他の腕と違って一つのスキルを保有している。

 それが《限定解放》と呼ばれる、素材の力を一時的に開放するためのスキル。戦闘時に発動することができるアクティブスキルではなく、非戦闘時でさえミックが右手に着けている【ジュエル】に入れていなければ常時発動してしまうパッシブスキルであり、【竜腕ハイ・ドラグ・ライトニング】の《限定解放》の効果は、【竜腕】自身に継続ダメージが発生する代わりに腕に雷を纏わせ続けさらにステータスを倍加させつづける。

 HPが持続的に減り続ける為に【竜腕】を使える時間はそう長くなく、時間限界はおよそ一分。死んでしまうその前に【ジュエル】の機能によって【ジュエル】内に戻されるので、【竜腕ハイ・ドラグ・ライトニング】を使えるのはその間だけだ。しかし、タイムリミットというデメリットに比例して、この【竜腕】の性能は高い。

 

 (まずは一人……! 確実に止める!!)

 

 敵を狙い定める。

 あたりは半分、狙うべきはひとつ。

 〈エンブリオ〉を倒す必要も、相手にする必要さえもない。どちらの〈エンブリオ〉も動けずスキルも使えず、〈マスター〉が死ねばおのずと消えうせるのだから。

 ゆえに狙うべきは〈マスター〉である。それも、二人の〈マスター〉のどちらでもいいというわけでもない。最初に倒すのはどちらでもいいが、どちらか片方を足止めすると言うのなら止めるべきは決まっている。

 

 ミックは手に持ったメダルを投げつける。

 それは《獣心憑依》によって高まったステータスと、暴風による追い風によってミックの走る速度よりもなお速く敵に向かって飛び………敵の喉元に巻き付き接触し、

 

 「《精を奪い、才を与えよう(ギフト)》」

 

 そしてミックは切り札の発声を行う。

 与える才能は敵の一切の攻撃手段を奪う《ペンは剣より強し》、与える相手は入れ替わることができるスキルを持っていそうな相手――〈幻のナジュム(サラヴ)〉。

 こちらの攻撃を無為にできるスキルを有していると分っている以上、そちらを封じるしかない。もし失敗してしまえば、終了のわからない追いかけっこに終始するしか敵を倒す方法は無くなるだろう。

 だから狙うべきは一つ。4人の少女の中から幻の〈マスター〉を狙わなければならない

 全くのランダムでこそないものの、彼の勘に頼る部分も大きい。

 そしてその結果はというと………大成功だ。

 

 (封じられた!? ってことはヤバい………彼が失敗するのを期待するのは無意味だよね? これで終わりかな……)

 

 〈幻のナジュム(サラヴ)〉は己の死期を、そしてナジュムの終わりを悟る。

 もうひとりの自分(アスワド)とは、出会い友にして【共有者(パートナー)】となった時から、お互いのスペック全てを打ち明けて情報を共有している。

 お互いにこの状況でどうにか出来る方法は持ち合わせていない。

 

 ミックは相手の様子にこちらの狙いが成功したのだろうと気付き、シメ(・・)を行う。

 風を受けて高速で進む身体のままにもうひとりの〈マスター〉――〈黒のナジュム(アスワド)〉に近づき【竜腕】に握った剣を振るう。

 稲光を発しながら、放たれた暗闇への一閃は、胴と頭を分断し蘇生猶予さえなく、少女はすぐさま光の塵となり、同時にもう一人の少女――〈エンブリオ〉も消えうせる。

 それによって、一組の〈マスター〉を倒したことを確信でき、そのまま次の相手に向かう。

 敵を斬り伏せた勢いのままに、風によって動きを封じられ〈精を奪い、才を与えよう(ギフト)〉によって攻撃を封じられたもう一人の少女に向けて、剣を返す。

 当然、斬りかかられた彼女に攻撃をかわすことなど出来るはずもない。

 剣はそのまま次の攻撃へと転じて、少女の肩口に刃先が食い込み、

 

 「「がっぁ!」」

 

 少女の断末魔とともに、剣が胸元を通り尾骨を抜けて逆袈裟に通る。

 これで生きてはいられない。【救命のブローチ】等も彼女たちは持ち合わせていない。

 その一撃は確実に彼女のHPを削りきり、多少の猶予の後、光の塵へと変えていく。

 装備させれらていた人間が死んで消えていったことで、首に巻きつかされていた〈エンブリオ〉である【才金貨リャナンシー】が宙に投げ出されて、地面に落ちようとするのを、ミックは腕の一本を使って受け止め、すぐさま新しく《暗視》を発動しなおす。

 

 「ふぅ」

 

 溜息を吐きだしながら、顔と眼を左右に揺らしてミックは周囲を観察する。

 彼以外の生きている人間は周囲に一人もおらず、あたりを暗闇と静寂が包んでいる。

 一応、まだ終わっていない可能性も考えて、ミックはいまだに剣を構え続けていたが、どうやらもう一人もいないだろうと、剣を下ろして構えを解く。

 構えを解くのと同時に、背嚢から出していた【竜腕】を含む、4本の腕すべてを【ジュエル】に戻す。ミックは【竜腕】のHPを確認し、そのHPが結構危険域に近づいていたことに気がつき、「ギリギリだったな」と思いながら再び息を吐く。

 

 「勝てたみたいだな………。っていっても、のんびりしているわけにはいかないな。まだ朱紗皇女がさらわれたままだしな」

 

 二対一という激戦をくぐりぬけ、座り込んで休みたいと言う欲求をかぶりを振って払い、立ったまま次の戦いへ進もうと、足をのばし………そして一つの変化に気付く。

 

 

 

 その変化は音。

 静かで彼の吐息の音しか響いていなかったはずの、この暗闇内に新しく響き始めた一つの音。

 それはまるで遠雷のように、彼方から届き轟く空を裂く音。

 そして時を経るごとに、大きく近くなっていく嵐のような暴虐。

 ミックはその音を聞き、身体に残る疲れを振り払うように、再びアイテムボックスから剣を取り出して装備する。

 

 (なんだ、こいつは!? この音は……まさか、戦っているのか?)

 

 ミックは近づいてくる音が破壊音だと気付く。

 岩を壁を地面を砕きながら進む、破壊者によるもの。

 それから逃げているのか、もしくは戦っているのか、少しずつ近づいてくる音はやがて鼓膜さえも破壊するかのような大きな音となる。

 音が大きくなり、どんどん近付き、それが最大点に到達する時、暗闇が終わり晴れる。

 迷宮となっていた地下通路の壁が砕け落ち、そこから大きな影が一つと、小さな影が四つ飛び出し、五つの影が飛び出してくるのと同時に、そこから明かりが迷宮内中に広がっていく。

 その明かりは、一つの小さい影……キャロル・キャロライナ・キャロラインによって点けられた光属性魔法によるもの。そう当然、小さい四つの影はすべてミックのよく知る人間によるものだ。

 しかし、大きな影はミックが知らず、だが知ることもある怪物。

 

 「〈UBM〉だって……?!」

 そうそれはこの世界に唯一と定められた怪物。ミックが出会う三体目の強敵。

 

 戦いはいまだに続いて行く……

 

 

To be continued

 






余談:二人のエンブリオ
【幻想霊帯 ドッペルゲンガー】
Type:テリトリー
スキル1《アナザー・パーソンズ・オブ・ワンセルフ》
     自己投影スキル。自分(マスター)の投影体を召喚する。召喚できる範囲はテリトリー領域内ならどこでも(100メテルくらい)。投影はステータスだけでなく、ジョブや装備なんかもコピーする。

(=○π○=)<幻のナジュムの〈エンブリオ〉。

(=○π○=)<今のところ一つしかスキルがないけど、それは完成体(必殺)を見越した進化な為。

(=○π○=)<ステータスだけならともかく、ジョブスキルや装備も含める為にリソースを多く使う必要があったため、第4形態でも未だにこの程度が限界。

(=○π○=)<敵のコピーやプラスアルファは(まだ)できない。


【豊饒黒羊樹 シュブ=ニグラス】
Type:レギオン・ガーディアン
スキル1:《黒の幻影》
     黒い羊の執事の戦闘員を複数呼び出すことができる。ステータスは呼び出す数による、最大10体まで呼び出せるが、呼び出す数が多いほどステータスは低くなる。だいたいいつも3体くらいにおさえている(大体通常のれべる50ティアンと同じ程度)
 
スキル2:《黒羊樹胎》
     詳しい説明は省くと、自分と黒羊との位置を入れ替える《キャスリング》。

スキル3以降:ないしょ。

(=○π○=)<黒のナジュムの〈エンブリオ〉

(=○π○=)<いろんなスキルがくっついているタイプ。メインはガーディアン体(ナジュムに似た姿の少女)で、そっから黒い羊を産んでいる。
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