第22話 【星喰餓機獣スターヴ】
□【賢者】 キャロル・キャロライナ・キャロライン
――私たちの前に蒼雷を纏う化け物がそびえたつ。
「なんだい、あれは……」
近くにいるアンジェラから戸惑いの声が聞こえる。
その言葉に対し、アンジェラの方を振り向かない。振り向く余裕なんてない。
それは、アンジェラが発した戸惑いの理由がわかるからだ。
私が使用した光を灯す魔法によって、この暗闇の迷宮内にできた光源が周囲を明るく照らされていて、その中に浮かぶ一体の強大なモンスター。
幅は10メテル、高さは20メテルはあろうかという、地下にしては広大な通路なはずなのに、私たちの前にそびえたつモンスターはなお巨体を誇示できるほどの大きさを誇っている。
目算で横は7メテル、高さは12メテルと言ったところか。長身と言うわけではなく、どちらかと言うと球体系のモンスターや、デフォルメされた2等身キャラに近いかもしれない。もっとも、私たちの前にいるコイツは、そういった
その身体は生物的な物ではなく、金属の走行を纏い、呼吸というものをしていないように見える。おそらくこいつも機械。
そして、あいつの頭に浮かぶモンスターの表記。ただのモンスター名の表記ではなく、ある種のモンスターがもつ特有の命名によってつけられたモンスター名。
【星喰餓機獣スターヴ】。それは〈UBM〉特有の表記。強大であり異質な、規格外の
一秒に満たないだろう敵の観察を終えるのと同時に、アンジェラが口を開く。
「っは! あいつらの親玉って所かねぇ? 子分がやられて怒ってやって来たってわけかい?」
いや、そうじゃないだろう。アンジェラが目の前のモンスターに対してだした感想に、心の中で異議を唱える。
たしかにあのモンスターと、私たちが
似ている所は、同じ機械であると言うと所。機械をベースにして生み出された………否、改造されて造られたモンスターだ。
その側面のみで見てみれば、確かに親玉と見る事もできる。しかし、このモンスターと機械の軍勢、この二つはあまりにも運用方法の差が大きい。
かたや、単体で暴れまわり戦場を荒らしまわる一騎当千の暴れ牛。
かたや、集団で敵を追い詰め戦術と数の暴力によって強者に勝つための兵隊。
全く違う、この二つを両立させないだろう。軍団の将が一騎当千の力を持つのは分る。
だが、異種混合とするには、あまりにも一騎の力と、軍団の力……いや、その二つの力の種類がかけ離れている気がする。
同じ機械であるという共通点を無視できるほどに、種類がかけ離れているという点が、二つを全く別物だと私に理解させている。
あいつの扱う力の種類にしろ、あいつの性質にしろ……だ。
もっともあの化け物が「機械の軍勢の頭ではない」ということは、戦う上で必要な情報ではないので、いちいちアンジェラに訂正したりはしないが。
いまするべきことは一つ、
「
「……それは止めてって……いや、いま言うべきことじゃないね。残念ながらそんなにないさね、昼の狩りで使いすぎた。補充せずにこっちに来ちまったからねぇ。そういうあんたの方こそ、“青”はどんだけのこっているんだい?」
「………残念ですけど、こっちも☆空っぽなのですよー」
戦力の確認である。
お互いがどれだけの戦力を残しているか、それを確認せずしてあれをどうにかする方法を見つける事ができない。
出来ないのだが………これはきついな。
お互いに戦力をほとんど残していないとは。それほどに昼の戦いで結構大判ぶるいしてしまったようだな………どちらも。ミックがいない分、私やアンジェラが攻撃をしなければならない比率は高まってしまうから、ある意味当然の帰結と言うやつか。
ならどうするか……って、危ない!
「キャロル!」
アンジェラの悲鳴じみた注意の声を聞きながら、私は全力で横に跳ぶ。
跳んだ理由は、正面から突進して来た一体の怪物のせい。
高速で、身体からほとばしる雷を周囲にまき散らしながら、こっちに向かってくる〈UBM〉の攻撃……というよりかは、捕食から逃れるためだ。
怪物は大きな口を開けて、青く光り輝く牙をこちらに見せつけて、私の横を通り過ぎ、そして私がたっていた場所にその牙が突き立てられる。
――その牙は
機械の身体に食べ物なんていらないだろうに、わざわざ食事として取り込む理由があるのだろうか? おそらくはこの怪物の固有スキルに関係するんだろうが。
にしても、面倒だ。もうすこし様子見してくれていればよかったんだが、そんなにあまくはないか。私たちをただの
とりあえずは、攻撃してみようか。もしかしたら相性が良くて通用する可能性もある。さて、攻撃は通用するかな――アンジェラの攻撃は!
「《シルバー・ブレット》起動! 《モード・バースト》……吹き飛びなぁ!」
私がアンジェラに視線を送り、アンジェラがそれに気付くのと同時に、彼女は頭を軽く縦に降り、了承を示す頷きを返してアイテムボックスから一丁の銃を取り出し、敵に向かって撃った。
この狭い迷宮内でなら避ける事は不可能だろう。そう思った私の想像通りに、アンジェラが手に持つ銃から放たれた一発の銀の銃弾は、一直線に進み敵の鋼の装甲にぶつかり、そして爆発する。
アンジェラの〈エンブリオ〉によって付け加える事ができるスキルの一つ、《シルバー・ブレット》は銃弾に幾つかの特殊効果の内、ひとつを付け加えることができるスキルであり、今回使ったのはその内の一つ。
《
「まるで効いてないねぇ」
「どんな装甲☆してんですかー! これでHP全く減らさないって、どんだけ守り硬いのか………END一万超えてるっぽいね☆」
「もしくは、なんかのスキルで防いでいるか……だね! 《シルバー・バレット》起動、《モード・ピアッシング》!」
ああ、その可能性もあったな。
アンジェラが今度は、貫通特化の銃弾を放つが、それも効いていないようだ。
【工兵】の上級職は条件がそろわなくて未だに就くことができていないという事だが、それでも下級までのバフと《シルバー・バレット》も加わり、一ダメージさえも与えられない相手なんて見たことがない。前にあった奴は性能が高いタイプじゃなかったしな。
「これも通用しないのかい……、
アンジェラは怪物の動きに注意しながら、てにもつ銃を分解し、銀の力が宿った
さらにアンジェラは地面に映る黄金の波紋からもう一丁の銃を取り出し、取りだした銀の銃弾を込めて狙いを定めようとしている。
おそらくあれがいまのアンジェラに出来る最大の攻撃だろう。アンジェラが今使える銃のリストがどうなっているかは知らないが、あのコンボに関しては見覚えがある。
いまはまだ、わたしが戦うわけにはいかないが、それでも怪物の動きを止め、弱らせることくらいならできる。
「――さあさあ、
――私は
――繋げましょう、私たちの
――繋げましょう、私たちの
――あなたはだあれ? わたしはだあれ?
――わたしはキャロル。あなたを導くもの。
――あなたは魔法。世界を変える奇跡なり」
詠唱を唱える。詠唱を重ねながら、魔力を込める。
使うのはただの地属性下級拘束魔法。
だが、相応の魔力を込めて放つ魔法だ。あの怪物でも多少留めておくことはできるだろう。
アンジェラは準備が完全に終了し、既に銃を敵に向けて構えている。
〈UBM〉は周囲の壁や地面を貪りながら、蒼雷を纏いながらアンジェラに向けて突撃している。
――速いな。
硬いだけでなく、かなり速い。おそらくSTRさえも高い。
このままではアンジェラがあの怪物に押しつぶされるか、喰われてしまう。あの銃弾で一撃で倒すことができれば問題がないが、さすがにそれは楽観視と言うものだろう。
おそらくあれでは倒せない。だからここで足止めをしなくてはならない。
「それ以上進ませはしないよ☆――《ボトムレス・ピッド》」
この魔法によって地面を沈める。
怪物が今踏み出した足場を対象に、魔法を使い地面を陥没させて埋める。
これによって怪物の下半身が地面に埋もれ、しばらくの間行動できないだろう。
これなら!
「アンジェラ!」
「わかってるさね! 《ゴールド・ラッシュ》」
アンジェラが引き金を引く。
それによって放たれるのは、一発の弾丸。
《シルバー・バレット》によって制作された銃弾を、《ゴールド・ラッシュ》によって強化された銃に込めて放つ、アンジェラの最強の攻撃。
これならば、と思い託して放たれた銃弾は、怪物の身体に当たり、そして爆発する。
爆発によって、この迷宮内の通路を煙が埋め尽くし、光をかき消し再び暗闇に包まれる。
最初の《ゴールド・ラッシュ》を含まない一撃より、遥かに強力でそして煙たい。
手を口に当てて煙を吸い込まないようにしていたが、アンジェラはどうやら少し吸い込んでしまったらしい。ごほごほと咳をしながら、洒落にならないことを口にする。
「やったかい!」
わざとなのか?
いや、アンジェラの性格上、素だな。
まあ、一応突っ込んでおくか。
「いや☆それフラグなのです………って、やっぱりそうですよねー」
ああ、やっぱりそうだろうと思ったが、やはり生きてたか。
爆煙が消えて晴れていく中で、今だ変わらずに怪物がたっていた。
しかも……
「なっ無傷………かい!?」
まったく傷ついていない。いや……、少し煤けてはいるし、放射線状に罅も入っている。だがダメージをほとんど受けているようには見えない。精々HPバーが1・2センチ程削れているかどうかといったところか。
これは厳しいな。これをあと百回ほど繰り返してくれれば勝てるだろうが………アンジェラの方を一瞥すると、彼女は軽く頭を横に振る。同じことを繰り返すことはできないという返事だな。元々、そこまで改造済みの武器が少ない上に、武器を速攻で消費しまくる二つの改造スキルを併用していけば、
アンジェラの金銀コンボ以外で、あの怪物を倒せるとしたら、おそらく私たちの手札の中で、あれを超えられるのは《アルカンシェル》くらいか……。
私たち以外であの怪物の防御を超えられそうな手札を持っているとしたら、ミックと……あとはローガン位か。攻撃能力がまるでないレオンは論外、桜火は十時間くらい踊り続けないと無理だろう、ブルーノは性能が平均的に高いがそこ止まり、そしてティアンの三人の実力は未知数。あの二人の最大もどれほど有効かわからないし、正直いろいろこの状況は厳しいな。
とりあえずここは時間を稼がなくて………
「しまっ!」
目の前に怪物が迫る。
《ボトムレス・ピッド》による足止めが、いつの間にか終わってしまっていたらしい。
いくら下級魔法とはいえ、それなりに魔力を込めていて、まだ拘束していられる余裕はあると思っていたんだが、予想以上に穴が小さく………そして敵がもっと強かったという事だろう。
半身が埋まっていたはずのコンクリートの地面を、力づくで壊しながら小さく大きい足を進めながら、怪物は大きな口を開けて駆動音か排気音か、まるで咆哮の様な大きな声を上げてこちらに向かってきている。
「キャロル!」
アンジェラが銃で支援してくれているが、怪物はまったくこらえた様子がない。《ゴールド・ラッシュ》も《シルバー・バレット》も使わなければ、そこらの店売りの銃では傷一つつかないみたいだ。
私が魔法で反撃するとしても、あの《ボトムレス・ピッド》で動きを止められなかった以上、生半可な魔法が効くとは思えない。ここは逃げ一択だな。
「――我が身体に満ちよ、世界の魔力。」
――星の意思を満たせ、身体の………」
「ちょっとお! あんたこんな状況でも魔法の詠唱しようとするの、やめぇ!」
これは私の
邪魔してくれるなよな!
怪物の捕食を横に跳んでやり過ごしながら、呪文の《詠唱》を続けながら魔力を魔法に込め続ける。
この程度でやめちゃ
「――世界をつかむ力を!
――満たせ、満ちよ、満ち足りよ。
――これが………あっ、だめだこれ」
私の近くで爆発が起こる。
爆発が起きた原因は、怪物が地面を食べたことによって発生していた。
大した爆発じゃない。威力は低いし、爆発の範囲も影響も小さい。だが、それでも……私の姿勢を崩し、身体を地面に寝かせる事ができるだけの
私が使おうとしていたのは地属性系統の強化魔法。この姿勢が崩された状況では、使っても意味がない。
アンジェラも私を助けようと、銃を怪物に向けて撃ちまくっているが、それでタゲがとれることも、ひるませることもできていない。
怪物は通路を食べながら、手を上げる。二頭身キャラでありながら、大きく太い腕を。
武器を持っているわけではないが、それでもあの怪物のステータスで、あの大きさの腕で全力で殴られたら………
だめ………だったか。私は私の死期を悟る。私が死ねば、次はアンジェラが一人で戦う羽目になるだろう。だが、私のサポートなしで、アンジェラがどれだけ持ちこたえる事ができるだろうか?
アンジェラに対して申しわけないと思うのと同時に、走馬灯のように世界が遅くなる。当然、AGIが速くなったわけではないが、感覚として世界を遅くしている。
手がゆっくりと、だが確かな速さと威力をもって、私を殺すために手が降りてくる。
そして手が中ほどまで降りてきて、
―――どこからともなく、一匹の蛇がその腕をからめ捕る。
その炎の蛇は、怪物の腕に巻き付き、降りてくるのを邪魔をしている。
炎の蛇を操っている主は、怪物の向こう側な為、見る事ができないが確かめるまでもない。あれは、私が知っているものだ。
丁度いい時に助けてくれた
魔法も問題ない。あの状況でも、魔法を途切れさせることも《詠唱》を途切れさせることもしていない。いくら死が迫っていても、そこは途切れさせてはいない。
途中でうっかり変な言葉が入ってしまったが、まあそこは許容範囲だろう。そうおもっとく。
「――我が身は鋼。我が身体は金剛。
――我が身は燕。我が身体は疾風。
――星の
詠唱を続ける。十二分に長い詠唱を持って
自分にできる最速で、身体を起こしクラウチングスタートのような体勢になる。スピードを出すための足場はないが、それを望める状況でもないな。
足に力を込めて、全力で地面を蹴るのと同時に、魔法を行使する。
「《ガイア・フォース》」
私に力がみなぎる。私が現段階で行使できる最大の性能を持った強化魔法は、私のステータスを一段階も二段階も押しあげ、戦闘系上級職を超えるステータスを短期間だが実現させる。
そして、高まった力を存分に振るい、怪物の文字通り魔の手から逃れ数十メテル離れた場所まで移動しておく。
移動する最中に、背後から物凄い破砕音が聞こえてきたが、やはりあの炎の蛇の呪縛から抜け出て、そのまま私がたっていた地面を砕いたのだろう。
あれだけの威力、おそらく強化魔法を使っていたとしても、一撃で死んでいた………。もしよしんば死ななくても、重傷であったことは間違いない。
助かった。という思いを息とともに吐き出しながら、助けてくれた蛇の主を見やる。
そこにいたのは当然桜火。彼女も私を助ける事ができたからか、ほっとしたような表情をしている。
救援に来てくれた彼女を見て、「来てくれたか」という安堵とともに、「彼女だけか」という落胆も心の内に抱いてしまう。彼女も彼女で戦いの果てに此処まで来てくれたのだろうに、そう思ってしまう自分の型式通りの思考回路に苛立ちを覚える。やはり、私では彼女たちのようには………いや、まだ始まったばかりだ。
悪いこと、変なことを、この状況で考えるのはよくないことだな。
思考を変えよう。
敵は強大な怪物である〈UBM〉。
性能の型にはめるとしたら、おそらく相手は伝説級上位か古代伝説級下位といったところか。伝説級の性能はミックに聞いたことがあるし、古代伝説級の性能に関しても二カ月近く続いてきたデンドロに流れる情報から類推するにある程度の性能を思い浮かべる事ができる。
形式の型にはめるとしたら、おそらく純粋性能型。もしかしたらと、他に〈UBM〉らしい理不尽なスキルを保有しているかどうかと観察してみていたが、あの怪物の防御能力の高さは特殊なスキルによる無効化・遮断ではなく、単純なまでの
硬さをたたき出す、手品の種もわかっている。
種がわかった理由は私も同様の手法を使ったからであり、あの怪物に流れる力を魔力を感じる事ができる幾つかのスキルを使いながら観察していたからだ。
種の名は、地属性魔法。あれは単純に、膨大な魔力を用いて、あの怪物自身の鉄の身体を純粋に強化しているからだ。方向性としては
膨大な溢れるほどの魔力を湯水のように浪費し、それを
問題はあの魔力を捻出している方法。私はあれがそんなに膨大な魔力を保有しているとは思えない。なにせ、いままでにあの怪物が使用しただろう魔力総量を簡単に算出すれば、私たちとの戦闘開始時点からすでに50万近く以上の魔力を吐き出している。伝説級や古代伝説級の特化ステータスなら、それぐらい持っていてもおかしくはないが、だからと言って常時無意味に吐き出し続けるほどではないし、そんなモンスターをわざわざ造るか?という疑問もある。
百万では全然足りない。一千万あってやっと通常の戦闘をこなせるといった程度か。そんなの割に合わない。モンスター製造において、魔力を千増やすのもそれなりのコストがかかるだろうに、一千万なんてそんなの噂に聞く神話級以上の性能がいる。
だから、その計算を変化させる式が存在する。
魔力を生み出し、吐き出し続け、無尽蔵かつ無限の永久機関たる心臓部が。魔力を生産するスキルというのは、
ただ………常時制限なしで魔力を生み出す私のと違って、おそらくあいつのはコストまたは条件が存在する。あの怪物の行動および名前から類推するに、『星を喰らう』というものが。
私たち生物が、食事からエネルギーをとりだすのと同様に、おそらくあの怪物は食事から魔力を取り出すのだろう。
………問題はそれが判って、さてどうするか?だな。
持久戦は私たちに不利であり、そして利点も存在する。
いくらでも戦えるあの怪物と、基本的に衰退していくだけの私たち。
孤立無援の怪物と、待てば助けが来るであろう私たち。
どちらを取るべきか………いや、此処は待とう。
このまま全員が助けに来てくれるなら、場合によっては私にとって最良の勝利が得られる。まあ、全員の戦力がどれくらいあるかによるが。
そうときまれば、
「桜火ちゃん☆無理はしなくていいからね! 今は踊り続けながら敵の妨害をよろしくね☆。 アンジェラは☆緊急時以外は金も銀も使わなくていいよー!」
戦い方を変える。二人にいって、耐久戦に切り替える。
二人も私の提案を受け入れてくれた。
桜火は敵への攻撃ではなく、敵の足を転ばせたり相手の身体にひっかけたりに戦い方を変更し、スキルは使わずに基本的な踊りと炎を纏った蛇腹剣のみで戦い始め。
アンジェラは時折、散発的に使用していた《ゴールド・ラッシュ》の使用を止め、彼女が持つ拘束弾などの特殊武器に切り替え始めた。
私も妨害用の魔法を幾つか準備する。こういうときは海属性の魔法をもっと使えればとも思えるが、私は天属性メインだったからな。一応地属性もいくつかスキルを上げていて満足に使えるので、少し楽ができるが。
怪物はいまだに動き続けているが、それでも対処は出来ている。
これならおそらく後、数分は持ちこたえられるだろう。
だが、私には魔力という限界があり、同様にアンジェラの弾薬の在庫や、桜火の体力という問題もある。
限界が来るまでに、何か手をうたないとな。
◇◇◇
「――彼方に星の息吹を! 《アース・ウォール》」
壁を造る。
迷宮を素材として、怪物を阻む盾とする。
並大抵の相手ならこれで止まってくれるんだが……、そんな幻想は今は抱かない。魔法を発動させた後、岩の壁を目隠しにしながら、横に移動する。
そして横に移動し始めた数瞬後に、怪物が岩の壁を捕食しながら破ってきた。やはり幻想だったな。
再び、魔法を《詠唱》しようとし、
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■―――――」
声にならない咆哮を、怪物が発した。
「っつ。こりゃやばい!」
「なんですか、これー!!」
アンジェラと桜火が戸惑いの声を上げる。
最初に戦い始めてから、もう30分近くがたつ。
あの
戦いがハマッていたおかげで、わたしが《アース・ウォール》に使う分のMPをたびたび【MPポーション】で補充する以外は、とくに消費するものもなく作業ゲーが成功していた。
あとは、他の仲間がどれだけ早く来てくれるか、ミスってしまえば即死の状況とはいえ、8分近く同じ行動を取り続ける事に飽きが少しずつ来ていたが、その矢先に突然の豹変が起こった。
怪物が咆哮を上げ、巨大な顔面の真下にある胴と言うにはすこし小さめの本体の装甲がずれ、左右に開いてその中から光る球体が現れた。
腹の中に現れたあれは
一部の〈UBM〉には、ただHPを削るだけではなかなか死なず、コアを破壊しなければいけないタイプも存在すると聞いている。
だがしかし、なぜわざわざそんなものを露出するのか………
そう思っていた私の前で、その光る球体が輝き始める。
輝きは次第に大きく、強くなっていきながら、怪物は天井を見上げながら低く重く唸り続けている。
あれがなんなのかわからないが。どちらにせよいいものではなさそうだな。
「アンジェラ☆あのきらきら輝くボールを☆砕いちゃってください! 桜火は私と一緒☆あれの妨害しようね!」
みんなに指示を出してから、私も妨害用の呪文を唱え始める。
「――暗く、黒く、昏く」
同時にアンジェラも地面に現れた黄金の波紋から、拳銃を取り出しそれを敵の心臓部に向けて連射する。できれば単発火力の大きいスナイパーライフルなんかの方が良かったが、ここで使わなかったということは、品切れなんだろうな。
今だ動かない怪物の腹の中に存在する球体に向けて、アンジェラが拳銃を黄金に輝かせて、6発の銃弾を放つ。
放たれた銃弾は問題なく球体に命中する………が、これでは火力不足か。
目に見えるダメージは無い。あの怪物の上にうかぶHPゲージは減らず、あの球体に傷も付かない。一応あれでもそこらの下級モンスターならば一発で倒すことができる威力はあるんだが。元々武器としての威力が低い拳銃に、持続型の《ゴールド・ラッシュ》を付与していたせいで、二つが組み合わさって威力がそこまで高くないものに仕上がっている。
あの球体は弱点ではあるんだろうが、それでも数万オーバーの
もしアンジェラがもつ武器の中でももっとも火力の高い武器による金銀コンボを使えば貫けるかもしれないが………、それは考えても意味がないことか。
「全く効いちゃいないねぇ! どうするのさキャロル?」
「――あれ☆ほんとに硬いね。桜火ちゃん☆の攻撃も効いていなさそうだしね!」
桜火も踊り続けながら攻撃し続けているが、効いたように見えない。おそらくすでに与えるダメージは1万を超えているだろうに。
どれだけEND高いんだか。あれで無理だと、ミックでも【竜腕】の時間内に削りきれるかどうかわからんぞ。
とはいえ、戦い続けることに変わりはない。一人では無理でも複数の〈マスター〉の力を合わせればいいし、私を含めて一人でなんとか出来るのもいる。
諦める意味はない。
戦い続ける為に詠唱を続けようとする私をあざ笑うかのように、怪物の腹の内からもれでる光は強くなり続けそして咆哮とともに解き放たれる。
「■■■■■■―――」
腹の内から放たれたのは、5つの光弾。
それをみて、「なんて無駄な」と思った。あの光の弾丸は魔力を込めてつくられたものだ。
それもありあまる魔力を無駄に込められている。術式なんて関係なく、そもそも発動する機関さえも持たず、魔力生成機関から造られる魔力を無理矢理に押し出すことで、飛ばされている。
魔法でさえなく、ただの魔力の塊である魔弾。
もしあれに使われている魔力を私が使用して、似たような結果の魔法を発動したとするならば、おそらくあの10倍の威力で100を超える光の弾丸を造ることができるだろうに。
「キャロぅ! あたしはあれの迎撃で構わないさねぇ!?」
「――構わないよ☆ あれすっごい無駄な気するけど☆それでも結構なダメージはありそうだしね☆」
アンジェラは「了解」と頷くと、再び拳銃を二つ取りだして、
魔弾は無駄に込められた魔力量に比例するかのように、動きは遅い。アンジェラの腕で討ち損じる事はないだろう。
しかし……あれでは威力が足りない。一発の魔弾を撃ち落とすのに排出する、薬莢の数は8を超えている。
アンジェラは二丁拳銃を黄金色に輝かせて、魔弾の迎撃にでる。これで魔弾を迎撃するのに排出する薬莢の数は2つになった。まだ等倍ではないが、それでも手数を減らせることはDPSにもつながる。いまだ時折吐き出し続ける魔弾は、特有の軌道を持って私たちに襲いかかるが、それをすべてアンジェラが迎撃し、かつ迎撃する必要のない時は、怪物に銃弾を浴びせている。
ダメージはやはりそれほどではないな。拳銃で〈UBM〉に致命的なダメージを与えられるとは思っていなかったが。
いまもなお、桜火が踊り続けながら敵の装甲に向けて、蛇腹剣を突撃させ続けているが、敵の突進を止めさせる以上の成果は出せていない。出せるとしたらあと1時間後当たりだろう。
それにしても………使う機会がないな。あの二人だけだと、すこしばかり望んだ状況にはならないかもしれない………選択ミスったかな?
そう思い始めた私の視界の端に、プラスワンが現れる。それは私の待ち望んでいた援軍。すこしばかり満身創痍な気がしないでもないとはいえ、彼の参戦は私にとっても喜ばしい限りだ。
彼は杖代わりとしていた槍を《投槍》し、その槍は怪物の腹に当たり爆発する。
「――は? どういう意味だ?!?」
「ブルーノさん!」
桜火が自分の知人の登場に喜んでいる中、私は詠唱こそ途切れさせはしなかったが、RPがはがれてしまうほど一人困惑する。
怪物の腹への攻撃なんて、すでにアンジェラも桜火もしていることだ。
私はしていないが、攻撃スキルなんて使えない以上、試す価値もない。
二人があの怪物の腹へと攻撃を仕掛けた時、その攻撃によって
だが、ブルーノが仕掛けた攻撃のみ、その攻撃は爆発を誘引した。
二つの違いはなんだろう、と考えるが答えは出ない。もう少し情報があればいいのだが。
だが、まあ………何とかなりそうだな。
ブルーノは槍を手に、怪物の前に立って戦い始めた。
彼の〈エンブリオ〉だと聞いている、犬のガードナーがいないのは気になる。もしかしたらコストにしてしまったのか?
だとしたら今の彼のステータスは脆弱な通常のティアンと同レベルと言う事になる。
決して戦えるとは思えないのだが……何とか戦えてしまっている。……なるほど、ミックが決闘仲間の中で一番うまいと言っていた意味がわかったぞ。
このままでも大丈夫だとは思うが、
「ブルーノ☆そのまま敵の攻撃を引きつけるの頑張ってね!」
一応指示は出しておく。
ブルーノは「おう」という軽い返事をした後、槍を強く握り締め敵の攻撃をいなし、かわし、上手にさばいている。
これならば問題ないな……
そう思った私の前で、再び変化が起こる。
それは怪物の変化。怪物の腹からもれでる光が次第に強くなっていき、そしてそこに赤い色が混じっていく。
「■■■■■■■■■■■■――――」
そしてその色が臨界に達した時、怪物は再び咆哮を上げたのだった。
To be continued