閣下改竄   作:アルカンシェル07

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(=○π○=)<………とりあえず、ゲッテンデメルグの前には書き終わったな……



第24話 迷宮の怪物・破 集まる七色

第24話 迷宮の怪物・破 集まる七色

 

□【賢者】キャロル・キャロライナ・キャロライン

 

――怪物が咆哮する。

 

 あの大きく醜い口から放たれたものではない。

 あいつの全身からほとばしる駆動音のようなものだろう。

 いや、確かに一度はあれを口から放たれた咆哮だと錯覚してしまったが、よく見て聞いていれば、その違いがわかる。身体のきしみ、身体を通る魔力の奔流、そう言ったものがうめき声となって周囲を響かせている。

 それにもう一つ察したものがある。あの口は、喋るだなんてそんな高尚な行為を行うための物じゃない。あれは敵を喰らい、貪るための搾取機関にすぎないからだ。

 

 「って、そんなことを考えている場合じゃないですよねー☆」

 

 あの怪物の咆哮のやりかたなんて今はどうでもいい。それより大事なのは、どうしてそんな行為をおこなったのか。

 そこにどんな意味があるのか、だ。

 あの行為によって変化したのは三つ。

 怪物の色と、怪物の内の核らしきモノの光、そして怪物が時折放っていた蒼雷。

 怪物の色はもともとのメタリックな銀色から、黒みを帯びた黒鉄(くろがね)へと変化し。

 怪物の内の光を放ち続けていた核は、放ち続けていた光が小さくなっていき、やがて光を放たないただの球体になり。

 怪物が纏っていた蒼雷は、なりを潜め、漆黒に変色した肉体に青白い線になっている。

 どういった変化だろうか。一応、あいつの能力からして、変化のパターンは何通りか思い浮かべる事は出来るが………

 もし、最悪のパターンだった場合、詰みかねない。今だここに集まっていない勝機をつかむためにも、種明かしぐらいはしておくとするか………

 

 「アンジェラ! ゴールド・ラッシュの在庫はまだあるよね☆とりあえず余裕は取りながら、何発かお願いね!」

 

 怪物の腹の光は収まっている。あれならもう光弾は放てないだろう。

 実際にあいつは黒くなってから光を放っていない。

 ………というか、黒くなったと思ったら、しばらく動いていないんだがな。

 あの変化を行うのに、魔力(ちから)をすべて使い果たしたわけでもないだろうに、沈黙を続ける理由は一体何だ?

 沈黙を続けてくれるなら、楽でしかない。いくら相手がどれだけの硬さ(END)を誇ろうと、ただの置物相手なら他の手立てを考える余裕が生まれるし、対応も簡単だ。

 悲しいのは………あれが、どう見ても嵐の前の静けさにしか見えないと言う事か。

 だが、そうだとしても、ここで削れるならそれなりには削っておきたいし、敵の能力の見極めにも利用ができるかもしれない。

 頼んだぞ、A・D・A(アンジェラ)

 

 「おうさ! 《シルバー・バレット》起動、《モード・バースト》装填(セット)。さあ、いくさね《ゴールド・ラッシュ》起動ゥ! 《ダブル・ポイント・ショット》!」

 

 破裂音がなる。回数は合計、都度12回。

 アンジェラは両手に持つ拳銃を、連続速射(ラピッド・ファイア)によって火花をともらせる。

 そこから放たれた銃弾は、六槍という絶技となって動かず不動を保っていた怪物にぶつかり………そして、はじかれる。

 その光景に対し、「無駄だった」と思う事はない。たしかに、アンジェラの攻撃が効かなかったことは、銃弾・拳銃の無駄遣いだっただろう。だが結果(リターン)が得られたなら、それは決して無駄ではない。

 結果は変わらず弾かれた、だが変化を知ることはできた。それは攻撃がたやすくはじかれたこと。

 双銃による銃弾を重ね合わせて貫通力を高める《ダブル・ポイント・ショット》による攻撃は硬さへの対抗力が高い。ダメージこそさほど伸びないが、敵の装甲を貫くだけならアンジェラの手札の中でも最大の組み合わせだった。

 しかし、それが通用しないとなると……通用しなくなったとするならば、ますますまずい状況になっている。

 先ほどまでだったらこの組み合わせでも多少はダメージを与えられていたんだがな………、もっともあの光を放つ球体はあれでもダメージを与える事も傷をつける事さえもできなかったが。

 

 「………まったく、対してダメージを与えているわけでもないのに☆性能かわるなんて、ゲームバランス狂いすぎだっていうんですよ☆ イベント戦闘っていうなら、もうすこしクリア条件わかりやすくして☆ほしいんかな?」

 

 「今はそんなことを言っている場合じゃないんだけどねぇ? それでいったいどうするさね、キャロル。私たちの攻撃が全然通用しないんだけど、なんか手はあるんだろうね? 私の“兵団”も。あんたの“虹”もどっちもクールタイムが重なって使用不可能っていう状況だしね」

 

 節約のため《ゴールド・ラッシュ》を使わず、ただの拳銃の状態のままで連射をしながら私の横にまで歩いてきていたアンジェラと軽口をかわす。

 私とアンジェラ。どっちも昼の狩りで派手にやりすぎたせいで、私たちがこの怪物の討伐で使える手札はない。

 もしも私の“虹”が使えるのならば、こんな戦闘なんてとっとと終わらせて………いや、こんな皇都の地下で気楽に使えないが。場合によっては地上が一面焼け野原になってしまうしな。

 まあ、それは今は考えるべきではないな。今考えるべきは、私たちの手札で、あの怪物をどうにかするべき切り札を見出し、それを効率よく効果的に場に出すこと。

 

 「喰らってくださいなのです! 《ゴールド・ラッシュ》《狂乱の舞》!」

 

 桜火が攻める。

 紅蓮の炎が、《ゴールド・ラッシュ》の影響によって黄金の炎へと変化し、長蛇となった【ネフシュタン】に纏わりつき、黄金のアギトを怪物に突き立てる。何度も何度も、何度も何度も。

 だが、怪物の頭上に浮かぶHPは一向に減らない。全く効いていない。

 戦い始めてから25分はもうとっくに経過している。

 すでに性能は限界に到達しているだろう。彼女のレベルから考えて、あれ以上の火力増加は見込めない。

 彼女が持つであろう諸々の補正も考えれば、トータル攻撃力は50,000にギリギリ届かないだろうが………本来ならそれでも十分すぎる威力。

 しかしそれでも届いていない。

 あの怪物が誇る今の硬さ(END)は五万を超えている、ということだろう。あれが黒くなる前は、彼女の攻撃はそれなりに通用していたが、それがとうとう通用しなくなってしまった。

 怪物のHPバーを見る限り、相手の残りHPは残り9割………すこしずつ削れて行っていたのが幸いだが、それでも今だ多い。

 5万………いや、場合によってはそれを容易く上回るかもしれない硬さ(END)をもつかもしれない。

 その護りを抜ける人間(マスター)なんて、私は私自身しか知らない。

 私以外の〈マスター〉の全てを知っているわけではない。各々隠していることはあるし、自分自身しかしらない細かい詳細もあるだろう。

 だが、その内の一人。いまこちらに悠々と近づき歩いてくる彼に、あの怪物の護りは抜けないだろう。おそらく彼もそれをわかっているからこそ、アンジェラや桜火のように攻撃をおこなわずに、私と話すためにここに来たのだろう。

 

 「………たしか、ブルーノだったですよね☆ どう思いますかー」

 「状況は最悪だな。わしは〈エンブリオ〉がない所為で力を発揮しきれない。それでも元々わし自身がもつ技術で、並みのティアン程度は動けるだろうが………あれを相手にそれでどうにかなるとは思えんな。どうすればいいとおもう?」

 「なるほど☆やっぱり思っていた通り、普通のティアン並みの力しかないんだね☆ まあ、それならそれで計算しやすくていいですが☆!」

 

 並みの〈マスター〉ならば〈エンブリオ〉を奪われた時点で無力に落ちる。

 だが、彼はその技量をもって、ティアンとおなじように戦う事ができるのなら、戦力として数えられる。もっとも彼の力(ティアンレベル)ではあの護りを超えられない。まあ、それは大多数にもいえることだが。

 攻撃役は任せられない。だから、彼に与える役目は……

 

 「いまは☆このままでいいよ。あれが動きだした時に………って、噂話はするもんじゃないね☆! ブルーノは回避タンクお願いね☆」

 「うん? ああ、なるほどな。さすがにあのまま倒されてくれはしないか………」

 「っつ、まずいねぇ!」

 

 みれば怪物が細かく振動している。

 腹の光も再び輝きを増し、怪物が目を覚ます。

 

 「やれやれ、お姫様がキスしたってわけでもないのに、なんで怪物が目を覚ましてるんだろうねぇ」

 「余裕だね☆まあ、深刻に考えるよりは、いいけど………それより、逃げますよ?!」

  

 雑談として話していた前半と違い、後半の「逃げる」というワードは大きく叫び、今もなお戦い続けている桜火に告げる。

 隣にいたアンジェラとブルーノもその言葉に驚いたようだが、桜火はそのなかでも最も驚きそして納得がいかないようだった。

 足を止めず、踊り続けながら、手を振り、蛇腹剣の〈エンブリオ〉を動かし続け、そして戦い続けながら、私の発した言葉に対して異論を返す。

 

 「ちょっと待ってくださいなのです。ここは最期まで戦いましょう?! このまま戦い続ければ…………」

 「このまま戦い続ければ☆みんな死んじゃうね! 私たちのだれもが、あれに対抗するすべを持たないんだから☆。ここで持たせることもできなくはないけど、それでも無意味に危険地帯を歩きまわる必要性はないよ」

 

 ふざけながら(ロールプレイしながら)も真剣に危険性を伝える。いや、最後の方は失敗していたかもしれないが。

 私の言葉に桜火は動きを一瞬止める。私の言ったことが正しいと思ったから、図星を指されたからだろう。だが、今は動きを止めていい場面じゃない。

 まずいと感じた私はアンジェラの方を見て意思を伝える。お互い付き合いも長く、彼女も状況を判断できる人間だ、アイコンタクト(それだけ)で意思疎通ができる。

 アンジェラは私の意思を感じて動き出す。彼女はアイテムボックスから一つのアイテムを取り出し、それを怪物に向けて投げ入れる。彼女の〈エンブリオ〉による強化の範囲にそのアイテムは入っていない。だが、それでもアンジェラの就いているジョブには、そのアイテムの効果………爆発力の強化を行えるパッシブスキルも存在する。

 狙っていたわけではないかもしれないが投げられた爆弾は、動き出そうとした怪物の口の中へ見事に入り込み、あの怪物が口の中に入ってきたモノを食べようとし、その爆弾は決められた爆破余裕を待たずして爆破する。

 

 「VUMOOOOOOOO」

 「今だよ☆みんなこっちについてきてね☆!」

 「……しかたなしか、あいわかったぞ!」

 「うーーー、すっっっつごい、くやしいのですー」

 「やれやれ………果ての見えない逃避行ってわけかい、がらじゃないんだけどねぇ」

 

 口の中で起きた爆発によって、多少なりともダメージを受けたのか、怪物はその場でうずくまっている。

 ダメージによる怪物の停滞に加えて、爆煙が目隠し代わりにもなっている。あれなら多少なりとも時間は稼げるだろう。今の内になるべく距離は取っておきたい。

 アイテムボックスから懐中時計を取り出し、時間を確認する。現時刻は日本で言う所の丑三つ時……午前2時になろうとしている。

 私たちがパーティーを終えたのが、大体夜の10時近くだったはず………ずいぶん時間がたっているな。これだけ時間がたっているなら、私やアンジェラの切り札もあと3~4時間たてば再使用可能になるはずだが………

 もし、あいつ(・・・)もなんの手立ても持っていなかったら、(皇都)のティアンや〈マスター〉の力を借りるか、私が全力をだせるように地上を目指すべきだな。

 迷宮になっているせいで、交通網が少しごちゃごちゃになっているが、この程度ならまだ元の地形から推測可能な範囲だ。

 最短で地上までいくのなら、おそらくわき道を無視してこのまま道なりに進めばいい。だが―――すこしでも保険はかけておくべきだな。

 

 「みんな☆こっちだよ!」

 

 私はみんなに合図して、左の道……わき道(・・・)へと向かう。

 他の人間……迷宮の構造を多少なりとも知るアンジェラを含めて、私のとった行動をとがめたり疑問に思った者は誰一人としていなかった。私としても、いちいち得意げに解説する気もないから、私の言う通りに進んでくれるのはまったく問題はない。

 そうして私たちが角を曲がり終え、先に進もうとしたその時、

 

 「■■■■■■■■■■■■■■■ーーーーーーーー!!!!」

 

 再び怪物の咆哮が迷宮内に轟く。

 後ろを振り返って確認するまでもない、あの怪物が動きだした。

 後ろから破砕音が聞こえる。一度ではない。何度も何度も。壊さなければ先に進めないバーサーカーは、ただ私たちを喰らうため(ころすため)に自らを省みず、迷宮を砕き喰らいながら追いかけてくる。

 猪突猛進なんて、やさしいものじゃない。ぶつかって身体の骨が砕けて死ぬなんて言う、生易しい殺し方(・・・・・・・)を許すつもりはないだろう。

 あれが与えるとしたら、それは身体が塵芥のように消し飛び、生きていた痕跡など残すことを許さない、残酷な死。

 そんなものは、

 

 「そんなものは、絶対☆拒否だね!」

 

 死に方一つで、ゲーム内で何かが変わるわけでもないが、それでも死ぬときはまともな形がいいと考えてしまう。まあ、どっちみちどんな死でも拒否することには変わりないが。

 

 「? どうしたんだいキャロ?」

 「……なんでも☆ないよー」

 「そうかい……? まあ、いいさ。それより、これからどうすんだい? あんたの事だからただ逃げ回るってわけでもないんだろう? もしそうだったら、他の連中はともかく、あんたがダウンしちまうしね、ひ弱だからさ」

 

 おのれアンジェラ。ゲーム内では、そっちのほうが体力(ステータス)あるからっていじりおって。現実では大差ないじゃないか。

 実際、魔法使いな私のステータスより、純戦闘職の二人(桜火とブルーノ)はいうまでもなく、アンジェラも戦闘職と生産職を両立しているだけあって、それなりにスタミナがある。

 このまま、走り続ければ最初にダウンするのは私だろうが、だからといってそれでいいわけでもないのだぞ!?

 

 「心配はいらないよ☆ 確かにこのまま逃げきるだけになる可能性も☆ゼロじゃないけど……そうならないように考えてはいるからね☆!」

 「それは一体どういう意味……」

 

 私の言葉に、アンジェラが意味を考えようとする。

 だが、そんな時間は無いし、そんなことをせずとも答え合わせまではすぐだ。

 私は目の前のT字路を睨む。おそらく、他の連中は右か左かどちらにわかれるのだろうかと考えているのだろう。

 だが、私の答えは――

 

 「――アンジェラ。目の前の壁を砕け!」

 

 アンジェラが言おうとした先の言葉を打ち切り、私の声をかぶせる。

 今もなお、後ろから追ってくる怪物から逃れる為に走っている最中だ、目の前のT字路の壁にぶつかる刻限は、次第に短くなっていく。考える時間は無いし、迷う時間はもっとない。

 アンジェラも同意見に至ったのだろう。意味はわからず、意図はしれずだろうが、それでも私の言う通りに目の前の壁を壊すべく、アイテムボックスからパイルバンカーを取りだす。

 アンジェラがローガンに渡していたものの下位互換。威力は低く、そして反動もすくなく軽い、お手軽な破砕装置。

 薄い家の壁を砕くときに用いられる、性能的にはそこまででもない一品だが、アンジェラの力を加えれば性能は一段階以上アップする。

 

 「砕け! 《ゴールド・ラッシュ》!」

 

 音が近い。もうすでに雷は纏っていないだろうに、こちらにむかってくる時に怪物が出す音は雷が落ちるときのようだ。そしてそれが次第に近づいてきている。

 いくらあの怪物のAGIが低目と言っても、私たちよりは高いのだろう。AGIの差がそこまで大きくないことが唯一の救いか。

 怪物が近づくなか、戦闘を走っていた私を追い抜き、アンジェラが手に持つパイルバンカーを壁にぶつけ、そして引き金を引いた。

 彼女の就く【工兵】のいくつかのスキルと、〈エンブリオ〉によって加わった一撃強化のスキルが加わり、射出された杭は分厚い石の壁を容易く砕く。

 そうして、私たちは砕けたT字路の壁の先に広がるもう一本の大きな通路へと、足を踏み入れた。

 

 「敵が近いね☆ みんな、ここで☆応戦するよ!」

 「っここは! なるほど、こんなとこにつながっていたってわけかい!」

 

 杖を構えて、逃げる為にしばらく唱えてなかった呪文を詠唱しなおす。

 同時にアンジェラも私の意図を理解し、地面に手をつき泉から2丁の銃を取り出し構える。

 他の二人も、ここで戦うことになるということ、そしてもう逃げきれないと言う事を悟り、各々の武器を構える。

 しかし、二人の顔に浮かぶのは「このままで大丈夫なのだろうか?」という疑問。

 目的地に着いたものの、このままでは先ほどまでと同じ、焼き直しに過ぎない。私たちの手札は何一つとして相手に有効でない以上、このままではじり貧になってしまうという危惧を抱くのは当然だろう。

 実際に私も、現時点で有効な手立てを求めて此処に来たわけではなかった。ただ、いくつかの可能性に期待したから、ここで一度迎撃するという選択肢を取ったにすぎない。場合によっては、これが完全な悪手になってしまうと言う可能性も0ではなかった。

 しかし―――少なくとも目的の一つを達成できた以上は、確率0%でも悪手でもない。

 私は通路に入ってきてからこちらを睨みながら向かってくる怪物を見つめる。いや、正確には怪物を見つめていたわけじゃない。私が見ていたのは怪物の向こう側、怪物を中心点として私たちの逆側にいる、私以外のだれもが気付いていない一人の(仲間)

 その男はいつもの双剣ではなく、大斧を振り上げて、警戒していなかった怪物の背後を、おそらくは奇襲を成功させる可能性を上げるスキルを新しく得て(・・・・・)、一撃を喰らわす。

 

 「VUWAAAAA」

 「なっ、ミック!」

 「ミックさん!」

 

 大斧の一撃によって、怪物を揺らしたミックは、だが奇襲を成功させた喜びより、舌打ちをして悔しがる様を見せる。おそらくは、《看破》あたりでダメージを全然与えられていないことが見えたからだろう。

 【竜腕】こそしていないものの、それでも【アルヴィニオン】による4本の腕をつけた状態で行った一撃でもダメージを喰らわないか………桜火の時間全開の攻撃でも全然効いていなかったからな。

 

 「ミック☆【竜腕】は? どうしたのかなー?」

 「悪りぃけど、もうつかっちまったよ。2対1で戦う羽目になってな。あんなのはとっとと終わらせた方がいいと思ったんだが………まさか〈マスター〉二人より、やっかいなものがあったなんてなぁ」

 

 笑っている場合か!?

 全く、たとえあの怪物がいなかったとしても、超級職のティアンという厄介な相手がいるだろうに………

 私もミックの実力はよく知っている。ミックが切り札を切ったという事は、使わなければいけないようなよほど(・・・)な相手だったのだろう。

 それをとやかく言えないが、だがもうすこしこいつは物事を考えてほしいんだがな……っと、そんなことを考えている場合じゃないな。

 戦況を確認してみれば、今は怪物と三人が戦っている。

 桜火は再び踊り始めながら、炎の蛇腹剣を縦横無尽に這わせ。

 ブルーノは槍を手に、〈エンブリオ〉無しで怪物のまえにたち、敵のヘイトを集め。

 アンジェラは再び両手に持った2丁拳銃を、素のままで撃ちまくっている。

 敵の攻撃に対して、怪物はやみくもに動き回り喰らおうとしている。私のことなどすでに眼中になく、目の前のブルーノを喰らおうと口を開き突進するが、ブルーノは素人目から見ても無駄がなさそうな動きで避けながら、機をみて攻撃をしたりスキルによってヘイトを集めている。

 あれなら、もうすこし大丈夫だろう。アンジェラにアイコンタクトによって、すこしだけ「時間稼ぎを頼む」と伝える。

 今は私が戦闘に加わるより、あらたな情報源(ミック)を有効に活用するべきだ。

 

 「ミック、状況はだいたいわかるよね☆? こまかくは言わないよ☆あれのステータスと思ったことわかったことの所感を教えてほしいな☆」

 「んー、まあなんであんなのと対峙しているのかは解らねぇが………【星喰餓機獣スターヴ】、伝説級の〈UBM〉っぽいな。ステータスはオール5000。ああ、LUKは少し違うな、たった20しかないし………」

 「………は!?」

 

 私は仮面(ペルソナ)を被らない素の反応を返してしまった。

 それほどに、ミックの言葉は私にとって衝撃だった。

 ステータスがオール5000。それはつまり、MPもそしてENDさえも5000という数値だということ。

 それはあり得ない。身体のステータスを上げているだろう魔法の出力もだし、あいつのENDの数値はもっとおかしい。アンジェラや桜火の切り札による攻撃を、たった5000程度で無傷に近いダメージにすることなど理屈に合わない。

 ミックがこの状況でうそをつくなんて考えられないが、それを考えてしまうほどミックが明かした事実は衝撃的で………そして、私の思い違いを知らされる結果だった。

 

 「ミック☆それは事実なんですよねー? ってことは、あいつはたった5000程度のENDで☆アンジェラや桜火の切り札や………ミックの奇襲を防いだってことかー☆」

 「……そういえばそうだな。いくら【竜腕】を使わなかったからと言って、あの一撃でほとんどダメージ喰らわないなんて、いくらなんでもおかしい」

 「最初は☆あの怪物のENDが数万以上だと考えていたんだけどねー☆ でも、違ったみたい……ってことは、純粋性能型にみせかけた特殊な防御方法(無効スキル)持った、スキル特化型だったわけだー☆」

 

 全く、数時間前の私を殴り飛ばしたいね。見当違いの考察を長々と疑いもせずに続けていたなんて。

 ………まあ、いい。それを開帳しなかった時点で、誰も知りえない秘密に落とし込むことができる。

 今大事なのは、あれにたいしてどうするかだしな。

 

 「それで、どうすんだ? あいつらも頑張ってるけど、ほとんどダメージ受けてないし……俺が加わってもあまり変わらなそうだな。ほんとに意味わからないぐらい硬いなあれ、ENDはそこまで高くないはずなんだけどな」

 「とりあえず☆もうすこし戦い続けようか! 少しずつでもダメージを与えられているんだったら、戦い続ける事も無駄じゃないしね! 合流してない4人+αがなんかあるかもしれないし☆………レオンや上級職ティアン(ジャックさん)に関しては☆絶望的だけど、他の人は何かしらありそうだしねー☆」

 

 特にあの奈落の底でミックたちがお世話になったという、超級職の男は戦力として数えやすい。もしかしたら、状況を一変させる方法を何かしら持っているかもしれない。

 それまでは………

 

 「戦い続けるしかないねー☆ ハァ……」

 

 

 「――我は秘法に手を伸ばす。 《グランド・ホールダー》」

 

 戦い始めてさらに1時間近くが経過する。

 お互いに無理をしないように、もしダメージを受けた場合やMP切れの場合は一度退いて回復するようにしている。だが、それも長くは続きそうにない。

 もともと私やアンジェラはモンスター討伐の帰りで、アイテムのほとんど……特にMPポーションを大量に使い果たし、そして補充できていない。私のもっていたMPポーションはすでにすべてなくなり、今持っているMPを必死にやりくりしている。いや、私の場合は多少貯金(・・)があるからまだ余裕があるが。

 それでもMPを無駄遣いできず、発動させる魔法は選ぶ必要がある。

 そして、私がMPポーションを持っていないのと同様に、他のみんなもいろいろと危うい状況になっている。

 

 「ちぃ! キャロゥどうすんだい?! 私もそろそろ泉の底が見えてきそうなんだけどさぁ!」

 

 私と同様に戦い帰りのアンジェラもやばい。場合によっては私以上に。

 アンジェラからの悲鳴が聞こえた通り、どうやらそろそろ彼女の武器湖に貯蔵していた分がなくなりかけているようだ。

 武器だけでなく、銃弾もそろそろやばいのだろう。少し前から撃つペースをかなり抑えてきている。

 今の彼女の保有数がどれくらいあるのかはわからないが、あまり長くいられないことはたしかのようだ。

 他の面子にも目を向ける。

 

 まずは桜火。被ダメージはそこまで多くなく、彼女が持っていたポーションで事足りている。武器の消耗も彼女の武器の特性を考えれば、問題はない。

 しかし、彼女が大丈夫かと問われれば、「そうではない」と答えざるを得ない。

 原因は体力(HP)ではなく、彼女の精神(こころ)。前の連戦でもそうだったが、終わりの見えない戦いをずっとし続ける事に、彼女は飽きそして疲弊している。

 少し前からささいなミスが目立ち始め、踊りに精彩さが欠けていく

 このまま同じ戦いを続けるのはもう無理だろう。

 

 残りの二人、前衛で頑張ってくれているミックとブルーノは私たちの中でもまだ余裕がある方だ。

 前衛で敵のヘイトを貰い回避盾じみた役割を買ってもらいながら、時折攻撃を交えて怪物と渡り合っている。

 二人とも前衛で戦っているだけあって、被ダメがかさみ交代で回復に努めているが、それもそう長くは持たないだろう。二人の持つ回復アイテムの残り残量はわからないが、おそらくそう多くはない。防御もしくは攻撃時に武器が傷つくことによって、武器を何度か交換しているのも含め、長期戦は不可能だろう。たとえ私たちの中でも余裕がある方だと言っても、いくらでも戦えるというわけではないからだ。

 

 「……さて、そろそろ潮時かなー☆」

 

 できれば保険を考えて、もう少しここで戦っていたかったが、だからといって無理をして死んでしまっては元も子もない。

 できれば朝までここで頑張っておきたかったが、無理だったのなら仕方がない。

 この深夜の時間帯で皇都(うえ)の人間がどれだけ起きているか、どれだけ戦える人間が多いかは分らないが、なんとかできることを期待しよう。多少の犠牲が出るかもしれないが、それでも国の中枢なんだ特筆できるティアン戦力の一人や二人はいるだろう。

 そうときまれば、話は早い。あとはただ逃げるだけだ。

 

 「ミック☆ブルーノ! そのまま戦い続けながら聞いていてねー☆ 私たちはこれから逃げるから☆敵の注意を引きながら後退戦に移ってねー☆」

 

 いまもなお、戦い続けている二人の前衛にむけて、逃げる意思を伝える。

 こちらから見える二人の背中が、微妙に反応してみたのが見えた。ちゃんと聞こえたようだ。

 細かくは指示をしなくても、前衛戦闘に長けた二人ならなんとかうまくやってくれるだろう。

 それに指示を出さなくてはいけないのは、二人だけではない。

 

 「桜火ちゃんは☆〈エンブリオ〉使って、うまく相手の足止めしてね☆! 今まで通りだけど、踊れないだろうから☆威力の期待できない攻撃はもういらないからそのつもりでね―☆」

 

 桜火に指示を出しながら、こっちだと案内するように駆けだす。

 私の指示に対してなにかいいたげな表情をこちらに向けた桜火だったが、それも一瞬で私の指示に従うと、アンジェラともども私のあとについてくる。

 

 「アンジェラは、この地下通路を崩落させる積りで☆攻撃してね☆! 大丈夫☆私たちが通る道は☆ただの住宅街しかないから、犠牲になるとしたら何体かのNPCだけ(・・・・・・・・・)だから気にしなくていいよ☆! 崩落しない可能性も高いしね☆!」

 

 幸い此処から皇都の外へと続く唯一の地下通路は、すべて住宅街しか通らない。重要NPCもいないはずだし、だから犠牲になっても困らない(・・・・・・・・・・・)

 私たちが全員生き延びて、かつドライフ皇国に重大な被害を出さないための簡単かつ無駄のない解決法(・・・・・・・・・・・・)

 それでもできれば被害は少なくしたいと、朝になるのを待っていたが、それももう待てない。朝になれば、多少の騒音で逃げることができるNPCもいただろうが、夜中のこの時間帯で崩落の予兆に気付くことは難しいだろうし、避難も無理だろう。

 だが、仕方がない。

 通常時ならともかく、この段階で他の犠牲を避けてまで、安全性を捨てなくていいだろう。

私は、この合理性にみんなも頷くと信じて、

 

「だめだよキャロル。そんなことしちゃいけない。僕たち全員生き残って、皇女を助けてこの夜を明けたいけど、だからといってティアンの犠牲を許容しちゃいけない」

 

この場にいなかった、人間に否定される。

その声は、よく聞きなれた仲間のもの。

この大通路から伸びる細い通路から現れた、男の声。彼は――

 

 「……レ…オン?」

 「別に通路を壊さなくちゃいけないってわけじゃないんだろ? だったら、アンジェラには敵を攻撃してもらえばいい。見たところ二人の攻撃がきいていなそうだけど、それでも多少の攻撃の反動で足を遅らせる事くらいはできるんじゃないかな?」

 「レオン! 一体いつこっちに………そっちは大丈夫だったのかい!?」

 

 アンジェラがレオンに安全確認をしながら、二人でこの状況(戦闘中)で談笑するのをみながら、軽く溜息を吐く。

 「こうなったか」という思い。安全策をとるなら、私の言った通りにした方がいいというのはレオンもわかっているだろうに、それでも反対をした。私が、他の人間(桜火とブルーノ)に内緒にしたい力をしっていてなお。

 レオンがこの世界のティアン(NPC)を人間と同じように思っているのは知っていたが、必要とはいえ犠牲が起きることを許容できないか。

 レオンの言葉を無視すると言う選択肢はない。あれはあれで私たちのパーティーの要だし、レオンの言葉でNPCが犠牲になるのに反対しようかどうか迷っていたアンジェラ達が、完全に反対に回ってしまった。これではもう私の策を通すことはできないだろう。

 それに実際、私の策は次善の為の念の為だったわけだしな。

 

 「……んー、わかったよレオン。よし☆! そうときまったら、みんな逃げるよー」

 「あはは、ごめんねキャロル。これで全滅したら、僕の所為だし。それじゃみんな頑張って逃げようか、《エリア・リフレッシュ》」

 

 レオンの握った杖から、オレンジ色の光が周囲に放たれる。たしか、肉体的な疲労を回復する魔法だったはず、これから走るとなったら便利だな。

 それにレオンが杖の先についていた球体を、黄金のワシに変えて周囲にAGIアップのバフを与えている。早く走れるようになって、走るハードルが低くなり、私は安心したぞ。

 

 「それじゃあ☆みんな! 逃げようか!」

 

 

 そして、私たちは走りだしてから、数十分という持久走を行いながら、いまもなお出口へ向けて走り続けていた。

 

 私は時折妨害用の魔法を唱えて、怪物の足止めをして。

 レオンはAGIのバフをかけながら、回復魔法でHPや疲労を回復させ。

 アンジェラはレオンの提案通りに、効かないながらも敵に反動が出やすい攻撃を繰り返し。

 キャロルは走りながら〈エンブリオ〉の剣を、上手に動かして敵をからめ捕ったりし。

 ブルーノは敵が踏み出す先に攻撃を加えて足止めをするという、どこぞの格闘漫画じみた方法で敵の注意を引き。

 ミックは6本の剣と高まったステータスを使い、敵から真正面にぶつかることで足止めを行う。

 

 私たちの力がうまくかみ合い、いまだ怪物に先手は取らせていない。

 

 「キャロ! あとどれだけ走ればいいんだい!?」

 「あと☆もう少しだよ! 次の角を曲がったら、そのまま☆まっすぐ行けば、そこが出口(ゴール)だよ☆ あと1キロメートルってところかな?」

 

 そう後少し。

 それで外に出る事は出来る。外に出た後は、戦いの音とかをきいて誰かしら〈マスター〉なりが出てくるだろう。出口は隠されているとはいえ、皇都からそこまで離れていない。だから、誰かが助けに来ることを疑ってはいなかった。

 

 

 だが………それは一種のフラグというやつだったのだろう。

 

 「VUMOOOOOOU!!!」

 

 怪物が咆哮する。それは私があの怪物とであってから何度も聞いた声であり、そしてこのチェイスが始まってからも幾度も聞いた声であり、そして聞きなれて油断してしまった怪物の変化の声。

 

 「キャロ!!」

 

 ミックが慌てた声を発する。

 いくら怪物の声に聞きなれたと言っても、自分の友人の慌てた声には反応する。

 だが、少し遅かった。もし、怪物の声で反応していたら、すこしは変わったかもしれないが、数秒遅れてはっせられたミックの声で気付いた時には………あまりにも遅かった。

 

 「「なっ!」」

 

 私を含めて何人かの驚きの声が重なる。誰と誰が発したかはわからない。声が重なり合って人を判別できなくなっていたし、なによりそんなことを気にかける余裕すらない。

 驚いたのは、目の前に迫ってきていた死。怪物はミックたちが今もなお抑えているが、それとは別のだが怪物が関係することは間違いないだろう死。

 迫ってきていた死は腕。

後にミックに聞いた話では、怪物が追いかけてくる途中、いきなり自分で自分の腕を噛み捥いだらしい。突然の事で、ミックたちがその意味に気がつかず、そしてそのまま怪物は顔を振るのと同時に、腕を投げつけたらしい。その時に同時に腕に光を集めながら。

 

「避けろ!!」

 

驚いていた私たちに、ミックが避けろと指示を出す。

実際にあれが直撃すれば、戦闘職の桜火はともかくとして、私やレオンのようなやわい人間は簡単に死んでしまうだろう。

人を一人殺すに足るだけの威力を持っているこの攻撃を、「避けろ」とミックが行ったことは、決して間違いではなかった。

 

 ――だが、その指示は間違ってはいなかったが、正解ではなかった。

 

 私たちはミックの指示通りにそれを避ける。全員すぐ避けれたというわけではなかったが、それでも桜火が振った〈エンブリオ〉によって、全員腕から逃れる事ができ、

 

 そして、私はその攻撃の危険性と、本当にしなければならなかった対処法を思い知らされる。

 

 

 起きたのは、爆発。

 投げられた腕が、私たちを通り過ぎながら、光の残滓………腕から零れ落ちる魔力を攻撃の軌跡に残しながら、目の前の通路の上部にぶつかる。

 それは、私たちが逃げる為に通らなけらばならなかった、通路の天井。それが爆発によって崩れ落ち、そして――崩落する。

 

 「「なっ!」」

 

 また再び声が混じり合う。だが、今回は驚きではなく………それもあるだろうが、なにより絶望によって。

 これで、外に出る事ができなくなった。

 これで、いままでの徒労が無駄になってしまった。

 これで、先ほど避けたはずの崩落を結果的に許してしまった。

 このあとの状況もわかる。驚き、絶望感を感じながらも頭の中から必死に、この皇都の地下通路の図を思い浮かべる。

 そして、同じことを思ったのだろう。そんな私にレオンが声をかけてきた。

 

 「………キャロル。この通路の上はどうなってるのかな? それとここ以外に、街中以外に出れる場所ってあるかな?」

 「………一つ目は安心して☆ この上は外壁の外側だからまず人はいないよー☆ そして二つ目は残念☆ ここ以外にそんなとこはないね。だから私たちは選ばなくちゃ☆街中で怪物(こいつ)が暴れるのを許容するか、頑張ってこの崩落した地面を通れるようにするか、それともこいつを倒すか。さあどうするかな☆?」

 

 頑張って、ロールプレイする。私も、この状況に混乱と、徒労と、絶望感をもっているが、だからといってこんなとこで諦めたら、意味がない。私の知る(目指す)魔法少女の一人は、こんな状況でもきっと「絶対、大丈夫だよ」とかいうに決まっているのだから。

 だから、頭を回す。

 この状況で、いちばん何とかできそうなのは私くらいだろう。この怪物を倒すことも、この崩落した通路に風穴をあける事も不可能ではない。

 だが、まだ少し時間が足りない。私が望む威力を出すには、一つでは足りず、おそらく2つは必要になる。だが、もっとも使いやすい《青》は昼での戦いでエンプティ状態だ。

 《青》を使うために、あともう数時間戦い続けてくれと、言えない。それは、周囲の状況を見れば、言う事はできなくなる。

 もうみんな満身創痍だ。特に桜火はいろいろと限界かもしれない。

 

 「足りないかもしれない☆だけど、できるだけやってみるよ☆」

 

 だから、私は切り札を切る。

 “虹”は使えない。魔力があまりにも足りない。

 今使えるのは“赤”だけだ。しかも、私の〈エンブリオ〉の反応から見るに、あまりにも薄い(・・)

 だが、それでも状況を変える為に、切らなければならない。

 もし、これで倒せなくても、罅の一つでも入って、あの怪物を倒すきっかけになればいい。

 

 「みんな☆よく聞いてね! 今から私の魔法を使うから、それまで私の護衛お願いね☆」

 

 反応は聴かずに、準備を進める。

 

 「《赤色の蒐集連環(レッド・コレクター)》起動。“星の光よ、我が元に集い来たりて”」

 

 手にもった|杖〈エンブリオ〉を敵に向ける。

 同時に杖の石突きの先に四つの赤色の円環の魔法陣が連なって、浮かび上がる。

 赤色の魔法陣を吸入口として、魔力を蒐める。

 これが私の〈エンブリオ〉のスキルの一つ、魔力蒐集。

 自分を中心として、誰の物でもない魔力(リソース)を蒐めるスキルだ。しかし、この誰の物でもないというのが曲者で、基本的に使い終わった魔力は無くなるために、なかなか使いどころが少ないスキルだ。

 もっとも時間をかけなければいけない他のスキルと違い、このスキルはいくらでもつかうことができるのが利点ではあるが。

 

 「魔力充填、問題はなし……いや、少々すくないか? ………続行可能、続けます」

 

 〈エンブリオ〉に貯まっていく、魔力を見ながらやはり少ないと思いながらも、それをやめることはしない。

 基本的に私の〈エンブリオ〉は一撃必殺。ここで使わなかった分の余分なリソースを次に持ち越せない以上、たまっていく魔力を無駄にする中止という手段をとることはできない。

 おそらくはなにかしらの影響………もしかしたら目の前の怪物によって、周囲の魔力を食い散らかされているのかもしれない。

 そのことに、なにかしらのひらめきが出かかるが、それよりも次の手だと頭を進める。

 

 「――(かぜ)は炎に、宇宙(そら)を埋め尽くすは全て光」

 

使う魔法は、私が使う中でも希少な、即興ではない魔法詠唱文を決めているスキル。

始めに使う魔法は、天属性。

杖の先に極小の風球を7つ生み出す。

風の球はやがて回転を早め、熱を持ち、そして炎へと変える。

風の外殻によって、炎を漏らさず、中で熱を高め続け、そして白く輝かせる。

 

「――(ちり)は星に、原始(はじまり)が紡ぐは七環の天体図」

 

 次に使う魔法は、地属性。

 風によって球体の中に閉じ込められた塵や砂などの鉱物を、炎と魔法によって精錬する。

 精錬するのは可燃物。

 杖の先に広がるのは、塵と炎が閉じ込められた、七つの球体。それがまるで天体図のように私の杖を太陽として、ぐるぐると回り続ける。

 

 「――(あめ)は命に、混沌(じごく)の日々に安寧を」

 

 次に使うのは海属性。

 炎と塵によって、いまにも破裂しそうな魔法(ほし)を、破裂しないように威力を減衰させる。

 ただ、減衰するわけではない。もっと効果的に。もっと強烈に。

 さらなる火力を求めて、くみ上げ続ける魔法に、一時的にストッパーを噛ませているだけにすぎない。

 それはただの一時的な安寧(げんそう)

 

 「――(ぜん)は一に、神意(すべて)は此処に集約せり」

 

 全ての魔法を同時に扱う。

 風をまとめ、炎の温度を上げ、塵の量を増やし、可燃性を上げ、時がくるまで抑え続け、球体の完成度を上げ続ける。

 これを限界まで続ける。

 私が操作可能な球体の数の最大数は、私の好きな数字と同じく7つ。

 これを私と〈エンブリオ〉がもつ魔力量の限り、まわし続ける。

 そして、此処に一つの魔法とする。

 最後の魔法は、解放の魔法。無属性でどこにも属さない、ただのありふれた魔法を起爆剤とする。

 風の抑え、海の制限、それらをまるで今にも崩れそうなジェンガから、さいごの柱を取り除くように、たわいのない魔法で、最大限の効果を発揮させる。

 

 「――そして、終焉より始まる、開闢の光を(集いし七色の輝きを)

 

 魔法が一段落し、敵を見据える。

 私の魔法が出来上がるのを見て、ミックとブルーノが怪物から離れる。

 怪物はいまさら私に気がついたのか、脅威を排除しようと私に向かって突撃してくる。

 だが、遅い。もうすでに魔法は完成している。

 

 「第一魔法開帳――《Seven Colors & Seven Stars》」

 

 此処に私の作成した、オリジナル魔法の一つを解き放つ。

 解き放たれた7つの球体は怪物に向けて発射され、そして怪物に当たり爆発する。

 一つ一つが上級職の奥義に匹敵する大魔法。

 これならば――

 

 「やったか!」

 

 その光景に、ミックが離れながらフラグ臭い言葉を言いながら、ガッツポーズをしているのが、爆煙がたちこめる端に見えた。

 

 「いや☆だけど、さすがに………。……やっぱり☆フラグだったかー」

 「なっ!」

 

 私の目の前、爆炎が晴れた先には、変わらぬままの怪物がたっていた。

 あの魔法を喰らって、どうして!?

 そう思ったのは一瞬、すぐに理由は察せられた。確かにあの魔法は私のお気に入りでかつ、私の持つ魔法の中でもおとなしめの使いやすいもの。

 だから、あれの威力は私の持つ魔法の中でも低いし、さっきまでもっていた魔力保有量が低すぎたため、威力を十分に保てなかったのだろう。

 簡単に見積もって、威力は《クリムゾン・スフィア》の1.2倍位か。

 それでは低すぎて(・・・・)、あれにダメージを与える事は出来なかったのだろう。

 一応、あの怪物の表面が煤けていて、HPが数%削れているが、それでは気休めにならない。

 

 もう私に打つ手はない――そんなことを思った私に向かって怪物が向かってくる。

 すでに私に脅威はないだろうに、先ほどの続きか、ダメージを喰らったお返しか。

 理由はわからないが、怪物はこちらに向かってきていた。

 ミックもブルーノも、どっちも先ほどの攻撃範囲から逃れる為に、怪物から離れていて私を守ることはできない。

 桜火は私がヘイトを取ってしまったことに気付いていなく、レオンとアンジェラは打つ手がない。

救いの手はない。

 

 「あ」

 

 怪物が近づいてくる。刻一刻と、死の間際だからだろう、なんとなく遅くなった気がする周囲の風景と、目の前に迫って来る怪物の口を見つめる。

 その自分を喰らおうとする怪物(悪魔)に、最後の絶望()を感じ、

 

 「抑えろ、“悪魔共”!」

 

 その怪物を数十の悪魔が取り押さえた。

 それは最後の〈マスター〉。

 それは最後の色。ここに七人の〈マスター〉(七つの色)そろった(集まった)

 

 それは紛れもない、希望の(ピース)

 

To be continued

 




余談1:キャロの魔法

(=○π○=)<魔法の詳細設定がでてきたために、考え直さなくてはならなくなった魔法の一つ。
 
(=○π○=)<最初はただ、七属性の魔法の属性弾を発射するだけの魔法だった。

(=○π○=)<考えるのが大変だった(作者の頭の出来の所為で)
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