閣下改竄   作:アルカンシェル07

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第7話 純竜

 

第七話 純竜

 

□〈ヴァニリア村〉 【悪魔戦士】ローガン・ゴールドランス

 

 その異変は突然だった。

 時刻は朝の5時近く。

 空が白み始めて、太陽が見えてくるかという時間帯。

 今日も一日いい日でありますように、と願うそんな村人の思いを嘲け哂うかのように森から多数のモンスターがあふれ出した。

 用意されていた会議場で眠っていた俺だが、あせる村の人に叩き起こされ、食事や準備を惜しんで外に飛び出しその光景を目にした。

 それは数十体からなるモンスターの群れ。

 千や万に遥かに届かずともここに居るのは下級の〈マスター〉と戦闘能力を持たないティアン数十人のみ、数十のモンスターの群れははっきりいって脅威である。

この脅威は決して通常の物ではない、いままでに森から出てきたモンスターの数は1度に2・3体が関の山だったというのに、いきなりこの数が出てくるというのははっきりいって異常事態だろう。

 だがこの光景に物怖じなどしてはいられない、ただ黙って見て居ればそこに立っているのは村が全滅するという絶望の未来なのだから。

意を決して戦おうと前線に赴いてみれば、すでに数人の村人が鍬や銛なんかを持ってモンスターと戦い始めている。

 俺もすぐさま《チーム》を3回連続で唱えて、18体の悪魔をだしその戦線に加わることにした。

 

 

 それから約1時間後、あふれ出したモンスターをやっとのことで倒し終えた俺たちは傷を負ったティアンたちの治療をしながら今回のことについて話し合っていた。ちなみにルンペルシュティルツヒェンはまたモンスターの群れが襲ってくることを警戒して内包形態のままになっている。

 

 「ふむ、これは一体どういうことなのかの?今までにこんなことはなかったのじゃが」

 「おい、坊主どもお前ら昨日なんかしたんじゃないのか!」

 『なっ!この男主様に向かってなんという事を』

 

 一人の村の男性がそんなことを言いながら俺に詰め寄る。

 確かに異変が起きたのは俺が来た日の次の日のことだ。

 そう思われても仕方のないことかもしれないけど、だが違う。

 

 「ハッ、本当にそう思っているのか?俺たちが請け負ったのはモンスターの一掃で、昨日はそれ以外はしてはいないさ。確かに俺たちがモンスターを何体も倒していたせいで、モンスターが結託して襲って来た可能性も無いわけではない。だが今回は違うだろう」

 「なんでそんなことが言いきれるんだ!」

 「簡単なことだ。モンスターが徒党を組んでいない(・・・・・・・・・・・・・・・)。いくらモンスターとはいえ、狩りをするための知能はあるんだ。包囲をしたり隙を窺ったり、他のモンスターを助けるなんてのはそこらのモンスターたちでもしている。なのに、今日のモンスターたちはただ一直線にこっちに向かってくるだけで、それ以外はなにもしなかった。これは結託して襲ってくるモンスターの動きではない」

 『さすが主様です。男の無理な主張を理路整然と弾丸の如く論破するその姿、このルンペルシュティルツヒェン見惚れてしまいました』

 

 シュテル少しうるさい。それと弾丸で論破はやめてくれ、俺はそこまでやっていない。

 俺の発言を聞いて考え込んだ村長がこちらに向いて疑問を投げかけてくる。

 

 「ふむ、お主ならこの動きはどう見る?」

 「とりあえず、考えられる理由としては2つ。1つ目はモンスターたちを統率する強力なモンスターの存在。2つ目はモンスターたちの住処を脅かす強力なモンスターの存在」

 

 そう言いながら指を立てて説明をする。

 1つ目の理由は人界の【覇王】のように冷徹で冷酷それでいて強大な王がいる場合は、ああいった特攻的な手段をとることはありえる。違う性格に関してはとりあえず考慮しない、軍師のような存在ならもっと違った方法をとるはずだし。

 2つ目はモンスターたちの住処に強力なモンスターが住み着き、それが先住のモンスターたちと友好的でない場合。まあ友好的なモンスターというのも想像しにくいが、それはともかくとして強力なモンスターをどうにかすることもできず、それの近くに居ることもできないばあい、とる手段は逃げるという選択肢のみだろう。

 ちなみに他の可能性に関しては2つまで考えたが切り捨てている。

 内容としては、モンスターの許容量を超えた増殖と食糧がなくなったことによる飢餓の行進。

 だが、昨日は結構倒してモンスターの総数をかなり減らすことができたはずで、あの状態で大増殖による暴走がおこりえるとは思えない。また飢餓による理由についても、昨日簡単に探索をしたかぎり、結構食糧となる物については残っていたのでこれもあり得ない。

 よって先にあげた2つの可能性のみを追う事ができる。もちろん、俺の思いつかないそれ以外の理由があった場合もあるが。

 

 「なるほどの、ということは強力なモンスターが住み着いているのはほぼ確定と思っていいわけかの?」

 「おそらくそうだろう。それに強力なモンスターと一口にいってはいるが、どの程度の強さかはわからないからな。もし仮にこれが俺に手が出せるレベルではなく、村に害意をもたらす思考をしている場合、この村から立ち去るということも検討しておいた方がいい」

 

 そう本心から忠告しておく。

 もしここにいる強力なモンスターがたとえば神話級のUBM等の場合、俺には手が出せないし出してその勘気に触れてしまったら、俺はデスペナになりこの村は消滅するだろう。

 今の俺はまだまだ弱小の〈マスター〉だ、現時点で手が出せない不可侵領域はあまりにも広い。いつかはこの領域を0にまでしてみせると思うが、今はその時ではないしそんなことができるはずもない。

 だから覚悟しておく必要がある、逃げることを。

 

「っなぁ!おまえはこの村にモンスターをすべて倒すために来たんだろ、それなのになんで倒せないんだよ。ちゃんと報酬分働けよな」

 「よさぬか、ディルグ。儂らがギルドに頼んだ依頼は弱いモンスターの一掃、それのみに限定したおかげで安い依頼料でこの僻地に来てもらえたのじゃ。決して強力なモンスター相手への決死の戦闘を依頼したわけではないし、そんな大金を払う余裕はないというのがこの村の一致した認識だったはずじゃ」

 「いやでも、なぁ」

 『主様、もう帰ってしまいましょう。村の男はどうも主様に対しての礼儀がなっていません、こんな村を守る必要はないでしょう!』

 

 シュテルの言葉もわかるな、よくもまあ俺たちのヘイトをのきなみ稼ぐなあの男は。ここまでやる気がそがれるとどうかしようかとも思うぞ。まあしないけどな、さすがにこの段階で放り出して皇都に戻るのは目覚めが悪いし、なるべくなら最初のクエストは成功で終わらせたい。

 それに対して村長はいい人だったんだな。最初は結構失礼な態度かとも思ったんだが、偏屈なだけだったのかもしれんな。この感想も失礼だろうけど。

 村長とディルグとかいう男はあーだこーだと二人で話しているが、堂々巡りであまり話が進んでないな。

 さてどうしようかここで考え続けてもはじまらないし、まあ提案はさせてもらおうかな?

 

 「さてそっちの話は終わりでいいのかな?ひとつ、まあひとつじゃないかもしれないが提案をさせてもらおうか」

 

 そう言い一区切りをつけて他の人が話を聞くかどうかを確認する。

 全員、村長やディルグとかいう男も黙ったので、自分の目の前に人差し指を立てて説明をするポーズをする。

 

 「よしいいな。で、提案なんだがこれから俺とシュテルで森の異変を調査する。それで強力なモンスターを見つけて倒せそうなら俺たちで受けたクエストの範囲内で倒す。倒せそうにない場合、俺が皇都に向かって倒せる人員の募集か村人の保護のいずれかを依頼する。もし何も見つけられなかったら、見つかるまで最大1週間までここにとどまってモンスターを一掃しよう。その場合依頼料はそのままでいい、まあ寝るところと食事は用意してもらいたいがな。これでどうだ」

 

 そう言い周りの反応をうかがう。ディルグはこの提案に対して特に異論はなさそうだが、村長はどうだろうか?そう思いながら答えを待つ。

 

 「ふむ、いたしかたないか。反対する村人もおらぬようじゃし、お主に調査を任せよう。儂らはここで防衛をしながらいつでも移動できるように準備をしておくとしよう。とはいえ儂はお主が異変を解決して戻って来るのを待っておるがな」

 

そんな事を言って俺に託すと決定してた。

 

 『そんなことを言われたら頑張らないわけにはいかないな。シュテル、準備はいいな。これから向かうのは死地かもしれないが、だからといって引くわけにはいかん』

 『もちろんです主様。主様が行くのであればどのような死地であれ、ことごとくを改竄してみせましょう』

 

 そう心の中で会話をして、俺たちは身を翻して森へ向けて足を踏み入れた。

 もう話す必要はないと村長たちと言葉を交わさずに足を進めていく。

 

 

 「ギャピュウ」

 

 モンスターが変な鳴き声を上げながら光の塵となって消えていく。

 これで森に入って30分程が経過して、5度目のモンスターとの戦闘になる。

 もっとも、出てくるのは弱いモンスターが2・3体で昨日倒してきたモンスターとさほど変わらず、昨日と同じように《チーム》を繰り出して速効で倒す。

 これだけなら異変も何もなくただいつも通りの日常の風景なのかもしれない、だが違う。

 およそ10分前から断続的に響いてくる音が日常の一コマであることを否定している。

 最初はかすかに立ったものが、1秒ごとにどんどん大きく、そして近づいている。

 これは間違いなく、巨大なモンスターの足音(・・・・・・・・・・・)。

 

 『主様の推察が当たっていましたね、喜んでいいのやら苦々しく思っていいのか反応に困ってしまいますね』

 『これは苦々しく思っていいだろう。全く、俺も外れればいいのにと思っていたというのに当たってしまうとはな。それにもう一つ最悪な推測ができる。モンスターを倒すでもなく、食べ物を貪るでもなく、村に対し一直線に歩いて行くという事は、こいつは村に対して害意をなす気があるということに他ならない。つまりこのまま放っておいてはおけない』

 

 音が出る方に向かって歩いて行きながら、ステータスを開きポイントとスキルを確認する。

 現在のポイントは積もり積もって3690ポイント存在する。倍加を含めればそのポイント数は7000を超える。 相手がどれほどなのか分らないからこれだけあっても安心は全くできないが。

 スキルは増えていないが、その代わり《旅団》スキルのスキルレベルが3に上がっている。これなら同時に20体まで枠内に入れて召喚できるだろう。

 木の根っこなんかの障害物や腐葉土などの悪い足場を進み、ついにその脅威が目の前に現れる。

 

 一目みて思ったのはデカイだった。

 俺の身長が相手の膝ほどしかなく、顔は木の葉っぱの所まで優に届いている。

 身体は黄土色の鱗におおわれ、腹は膨れているものの筋肉質であることがうかがえるほどに局所に筋肉が着いているのが見える。

 手や足に備わっている爪は硬く鋭利であることが誰から見ても想像でき、その威力は俺を蘇生可能時間など悠長な間を持たせず一瞬で死に至らしめることができると分かる。

 尻尾は長く太くそいつが道を進むたびに地面をこすり、足跡とともに太い一本の轍を形作っている。

 ところどころに傷があり、頭に生えている角の一本が半ばで折られているのが、何者かに敗れてまたは接戦を強いられた手負いの獣であるという証だろう。

 それは翼こそないものの、まさに昔から続く何回も新作が続いているあのロールプレイングゲームに出てくる竜の姿そのものである。

 その二足でそびえたつ威風をみて一瞬驚き、そして俺のはるか頭上に存在するそのモンスターの名前をみてさらに驚く。

 

 「【グランド・ドラゴン】だと?!」

 

 驚くのも無理はない。

 それはある種を示す名前の一つ。

 亜竜(デミ)ではなく純粋な地竜種の純竜。それが俺たちの前に立ちふさがっている、村に絶望をもたらさんとする絶対強者の名。

 

 この〈Infinite dendrogram〉の世界には強さを示す区分がいくつか存在する。

 絶対的な強さを持つUBMの位階を示す5つの段階。

 逸話級・伝説級・古代伝説級・神話級そして超級。

 神話級や超級のUBMは〈超級〉といえど勝てるかどうかわからない規格外であり、古代伝説級もかみ合わなければ〈超級〉でも負ける可能性がある。

 逸話級・伝説級も十分に強敵であり油断など出来るはずもない。

 そしてこの5つの区分にはそれぞれ強さの目安が存在する。

 逸話級は上級の〈マスター〉のパーティーと同程度。

 伝説級は準超級。すなわち上級エンブリオと超級職をもつ〈マスター〉と同程度。

 古代伝説級は準超級複数人によるパーティーと同程度。

 神話級は〈超級〉と同程度。

 超級は〈超級〉複数人と同程度。

 そう基本的には言われている。もちろん古代伝説級を下級の〈マスター〉が討伐したりとイレギュラーはいくらでも存在するが。

 

 そしてそれよりひとつ下位の強さを示す2つの区分が存在する。

 それが亜竜級と純竜級。

 それぞれ亜竜と純竜と同程度の強さを持つモンスターの区分として用いられるものであり、こちらでも強さの目安が存在する。

 亜竜級はティアンの下級職6人パーティーと同程度。

 純竜級はティアンの上級職6人パーティーと同程度。

 あくまでティアン換算であり、ジョブと〈エンブリオ〉次第ではレベル0で亜竜級を倒したりすることも可能と言えば可能である。

 ただしけっして容易なことではない。いくら格上を倒すことができるといっても、自身より圧倒的に強い存在であることに変わりはないのだから。

 

 俺の目の前に存在するその純竜もまぎれも無く圧倒的な格上である。

 だからといって引くわけにはいかない。

 別に俺が目の前の悲劇を見過ごせないなんていう、お人よしなわけではない。

 純竜は強力だが、まだ倒せる相手である。これが神話級なんかであれば、クエスト失敗を覚悟で引いていただろう。だが倒せる可能性があるのにわざわざ引いてやる必要なんてない。

だから俺はこいつに挑んで倒してやろう。そう思い、勝つための方法を模索する。

まず俺が堂々と目の前に出て行くのはNGだ。

鑑定なんかのスキルをとっていないため、相手のステータスを看破することはかなわないが、俺とのステータスの差は歴然である。何せそこらのティアンにもステータスで負けるからな。

ここでなにより重要なのはAGI。AGIが高ければ高いほど、この世界を遅く感じ取ることができ、早く動けるようになる。逆に言うとAGIがほとんどないと言っていい状態の俺は相手の攻撃を知覚できず、動きは遅い。どこぞの環境破壊王のように相手の攻撃の初動を感知してカウンターを仕掛けるなんて芸当ができるほど技術は高くない。認識できず避けることができない以上、相手がこちらに対して攻撃をした瞬間、俺の敗北は決定的である。

だから隠れながら適宜悪魔たちを召喚していくのが最善の策であるだろう。

 

「まずは試しだ。“地獄より来たれ、三位一体の小さき悪魔”《コール・デヴィル・チーム》」

 

 グランド・ドラゴンに悟られないように小さな声で召喚の文言を唱える。

 今回は試しという事で、いつも通りポイント合計数と召喚数を倍加させて発動させた基本的なセットにしている。

 俺の近くから泡が6つでてきてはじけると、6体の悪魔が出てくる。

 ただし悪魔たちをこのまま進ませたりはしない。そうしたら俺がここに居るという事をあの純竜に教えてしまう。それだけはなるべく避けたい。

 悪魔たちに森の中を進ませて、グランド・ドラゴンの四方いや六方から襲わせる。とりあえずは難しい指示を出さずに、特攻をさせて《チーム》がどれくらいできるのか見てみるとしよう。

 「行け」

 

 指示を出し、右腕を振って悪魔たちに行動を開始させる。

 号令のあと2分がたち悪魔たちがすべて配置についたとして、そしておれは初撃奇襲をさせる。

 

 「GURUAAAAAAAA」

 

 想定していない周囲からの悪魔たちの攻撃にグランド・ドラゴンが吼えるが、効いていない。

 《チーム》による悪魔の拳では体当たりでは蹴りでは、相手のHPを1mmも削れていなかった。これはまず間違いなく悪魔たちのSTRに対して相手のENDが高すぎるため、ダメージを受けるレベルのダメージをたたきだすことは出来なかった。

 STRを倍加するか?とも思ったが、おそらくそれでは相手のENDに届くことは出来ないし、焼き石に水だろう。

すなわち《チーム》ではあのグランド・ドラゴンを倒せない。

俺たちが今まで何度も使って来ていた、悪魔召喚のスキルが無意味に終わってしまったことに対してすこし絶望しかけるが、まだ諦めることは出かない。

 

なぜなら、希望があるから。まだこの状況を打開することができる2つの希望がある。

 1つ目の希望は相手のHP。眼に見える要素を計算して生まれる希望。

 先ほどの《チーム》による攻撃で相手のHPを全くと言っていいほどに削れなかったというのに、既に相手のHPの半分ほどが削られている(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)。

 最初はあの純竜の名前に驚いてHPが半分になっていることを見過ごしてしまっていたが、悪魔たちに襲わせる少し前に様子をうかがっていてようやく気付くことができた。

 これの理由は推測でしか考えられないが、あの純竜の体中にある傷が原因なんだろう。

 なんであんな傷ができたのかは分からないが、あれの所為でHPが少なくなっていると考えるべきだろう。

 2つ目の希望は新しいスキル。使えなかったスキルの可能性に賭ける計算外の希望。

 そのスキルは昨日の夜にレベルアップとともに覚えたスキルである。

 その名称は《コール・デヴィル・ボムトルーパー》。

 

『《コール・デヴィル・ボムトルーパー》 :消費ポイント『1000』

 【ボムトルーパー】(平均ステータスは別途参照)を3体召喚し、10分間使役する』

 

 言うまでも無く重いスキルだ。この重さゆえに朝起きてからの雑魚との連戦で使うことが出来ず、一度も試すことができなかったスキル。

 《チーム》の10倍のポイントを要求されるというのに、スキルの説明が【レッサー・デビル】から【ボム・デビル】に置き換わっただけというもの。だが間違いなくこのスキルは《コール・デヴィル・チーム》の上位スキルである。

 その理由は【ボム・デビル】の詳細である。HPとLUCそしてAGI以外のすべてのステータスが100であり、HPが300でLUCは10そしてAGIは300を超える。ステータスが【レッサー・デビル】の倍であり、さらにAGIは《ビギナースカウト》のそれより早い。そして何より【レッサー・デビル】が持たなかったスキルを一つ保有している。

 それが《接触自爆》のスキル。《ボムトルーパー》にふさわしい自爆の為のスキル。

 効果としては相手に接触している場合、自爆できるというもの。必ず自爆しなくてもかまわないという利点もあり、非常に使えるスキルだ。

 いくらなんでもステータスがあの純竜を超えるという事はないだろう。だがもしかしたら《ボムトルーパー》の自爆スキルなら通用するかもしれない。

 

 『さて、やるかシュテル。一度も使ったことが無いがここはこの可能性に賭ける。倍加指定。ボムトルーパー・N』

 『はい、問題ありません。ポイント合計数および《コール・デヴィル・ボムトルーパー》召喚数倍加セット完了です』

 

 ルンペルシュティルツヒェンの返答を聞き、俺は召喚を実行する。

 

 「さあ行くぞ、“地獄より来たれ、身を賭して散る儚き悪魔”《コール・デヴィル・ボムトルーパー》」

 

それと同時に黒い泡が俺の近くに現れる。その泡がはじけてでてきたのは6体の悪魔。

《チーム》により呼び出される悪魔と異なり、それより一回り大きく腹が膨れており時折腹を中心として身体中が赤く点滅している。まるでメルトダウンの臨界に達している怪獣王のようだ。

 グランド・ドラゴンの方を見てみると暴れている。どうやら六方から悪魔を襲撃させたのが逆鱗に触れたらしい。まあいきなり襲われて嬉しいなんて思うのがそうそういるわけないか。

 念のため《ボムトルーパー》の中から1体を選び出して、その1体のみを待機させて残りの5体をばらけさせてから特攻させる。その間にこちらも少し移動しておくが。

 少し移動して20秒くらいたった時、物陰から1体の《ボムトルーパー》が飛び出し暴れていて視野が狭くなっていたグランド・ドラゴンの右横腹に突撃し、爆発する。

 

 「GUAAAAAAAA!!」

「いまだ!」

 

 その光景を見て待機させている1体を除いてすべての《ボムトルーパー》に特攻させて次々と爆発させる。

グランド・ドラゴンを覆い隠すほどに立ち上った爆煙のせいで状況が良く分からないが、ここは次の一手を進めるために、追加で新しい《ボムトルーパー》を召喚する。

 

「“地獄より来たれ、身を賭して散る儚き悪魔”《コール・デヴィル・ボムトルーパー》」

 

これにより合計で7体の《ボムトルーパー》を使役することになる。

その内3体を作戦の為の仕込みで別行動をさせるために指示を出し、次に何の指示を出そうかと思案しながらグランド・ドラゴンの方を見ると同時に、顔を覆っていた爆煙が途切れグランド・ドラゴンの視界が元に戻り、俺と視線があってしまった。

 

「しまっ」

『主様っ!!』

 

グランド・ドラゴンはにやりという風に顔を少し歪めると、いままで自分を悪魔に襲わせてきた俺に対して数十メテルあった距離を一瞬のうちに移動し、煤に汚れてはいるがまだ健在している右腕を振り攻撃をする。

俺は見つかると同時に後ろに向かって飛びのきながら、まだ移動させてなかった4体の《ボムトルーパー》たちに自爆を命令する。この距離では俺もただでは済まないとは思うが、そんなことを考えている時間はない。

 

 「間にあえ、自爆しろっ!」

 

 後ろに飛びのいた数瞬後、俺の耳元をかすめるようにして何かが高速でとおる破裂音を聞き、さらにその数瞬後、俺の後方で大爆発が起こった。

 

 「ぐわぁっ」

 「GUWAAAAAA」

 『主様!』

 

 空中に飛びのいていた俺は大爆発からなる爆風を耐えることなど出来ず、爆風に押され数十メテルの距離を一気に飛ばされた。

 爆風と爆発の熱とそして地面を転がる反動でHPががりがり削れているが回復などしている暇はない、そんなことをしていたらあの純竜に詰められてすぐさまこのHPを全損させられてしまうだろう。残りのHPが5にまで減っていることを確認しながら、俺は新しい悪魔を召喚する。

 

「っぐ“地獄より…来たれ、身を賭して散る儚き悪魔”!《コール・デヴィル・ボムトルーパー》」

 

そして黒い泡の中から6体の《ボムトルーパー》が召喚される。

前回と異なり、今回は足もと付近で自爆させたため、相手の顔とHPが良く見てとれる。

HPはすでにのこり数cmにまで減っている。前回のHPの減りと併せて考えれば、あと《ボムトルーパー》2体ほどを自爆させればこちらが勝てるだろう。あれだけ足もとで爆発させまくったんだ、足はまず間違いなく負傷しているはず、負傷していれば移動速度も格段に落ちるだろう。次はまず間違いなく、あの純竜の移動速度をとらえ切れる。回避は出来ないかもしれないが、向かって来たあのグランド・ドラゴンにカウンターで数体の《ボムトルーパー》を自爆させてくればそれで終わるのだ、その必要はない。

グランド・ドラゴンの顔を見てみると苦々しげに顔が歪んでいるような気がする。

おそらくあの純竜もこの状況を理解しているのだろう。だがここであっちに逡巡の時間など与えさせはしない。挑発してこの状況を動かしてやろう。

 

「さあ、こいよ【グランド・ドラゴン】。その時が貴様の最後だ」

 

グランド・ドラゴンはなぜと思う。「どうしてこうなった」と。

ここは自身に敵対する者などいないはずの理想郷であったはずだ。

周りに居るのはモンスターにしろ人間にしろ、自分よりはるかに弱い群れでしかない。

それは自身の目の前に居る悪魔を使役するこの少年も例外ではない。

少年は自身より圧倒的に弱く、使役する悪魔も弱い群れでしかない。

たとえ傷ついてHPが半分になっていたとしても本来なら苦も無く殺せるはずの存在。

だが、今倒れようと居ているのは自身だった。

あちらもHPが尽きかけているが、悪魔たちを召喚させてしまった以上それは優位に立てる状況ではない。

少年が挑発してくる。その挑発に乗って、突っ込んで行ったらその時点で自身は終わりだろう。

だがまた逃げるというのも自身のプライドを刺激する。自身は〈厳冬山脈〉において生存競争に負けて逃げのびた敗者だ。しかも今回は自身と互角の敵対者ではなく自身より劣るはずの弱者。

 どうするか?と悩む。そしてとった行動は……

 

「逃げただとっ!」

『そんな、こんな土壇場で逃げるなんて!』

 

そうあのグランド・ドラゴンはこちらに向かってこないで、背を向けて村とは逆方向に走って行った。

いくら傷ついているとはいっても、俺のAGIではどうしようもないし、いまから《ボムトルーパー》に追撃させても初動の差と少しのAGIの差で追いつくのは不可能だろう。

いまからではあの純竜相手にはどうしようもなく、このまま逃げられてしまうだろう。

 

『やりましたね主様。さすが読み通りです(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)』

「ああ、仕込んだ甲斐があったよ」

 

そう、いまからではだが。

 

 

■■ 【グランド・ドラゴン】

 

『よし、逃げられた』

 

そう安堵する。

自分のプライドを覆いに削られた結果ではあるが、命には代えられない。

別の土地で休息をとったあとはこんどこそあの村と、あの少年を殺してやろうと思いながら走り続ける。

そう思いながらあの場所から数百メテル離れた所にある藪の中を突っ切ろうと足を進めようとした時、その藪の中から3体の悪魔、あの少年が使役していた爆発する悪魔が現れてた。

 

『っなぁっ!』

 

驚きながら遠く数百メテルに座りながらポーションを飲み捨てながら、獲物が罠にはまった成果を確認するあの少年と眼が合う。

 

『まさか、はめられた(・・・・・)だと!』

 

自身があの少年の思惑通りに動いていたという事実に苛立ちながら、諦めずに逃げようと動く。

奇襲や近場での爆発の為正確には解らないが、あの爆発する悪魔のスピードは自分の半分程度だったはず。足が爆発のせいで痛み本来のスピードを出せないが、まだあの悪魔たちより早いはずだ。

驚き振り向いたことで少しばかり距離を詰められているが、それくらいなら逃げ切れる。

そう思い痛む足を無視して遮二無二で逃げる。

だがそんな思いとは裏腹に悪魔は想定外の速さでこちらに近づく。まるでAGIが倍になったかのように(・・・・・・・・・・・・・)。

逃げることなど出来ず、回避もできず、悪魔の接触を許してしまい。

 

「GURAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA」

 

爆発を起こし、自身のHPを刈り取っていくのを感じ取りながら純竜は思う。

 

『ああ、一体どうすればこんなことにならずに済んだのだろう』

 

HPが0になり、光の塵になりながら最後までそんな思いを抱き続けていた。

 

To be continued

 




(=○π○=)<でてきてすぐやられる系ボス
(=○π○=)<もう少し戦闘を長くできるといいんだけどねー
(=○π○=)<ちなみにボムトルーパーは普通のティアンにとっては使えないスキル
(=○π○=)<言うまでも無く思いコストが原因。そこをなんとかできるルンペルシュティルツヒェンはやっぱり優秀。
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