挟み結ぶ鉄鋏使い   作:葵・Rain

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後悔求める力

 自分が生まれ落ちた土地、自分が知らない土地、自分がいた土地、自分が覚えていない土地。記憶をなくした優頼にはわからなかった。

 それが幼少期の出来事。

 自分が何者で、どこにいたのか、何をしていたのか、家族はいたのか。

 すべてが不安で、それこそ子供用に毎日泣いていた。いくら、構ってくれる人がいたからと言っても自分はいつも不安だった。何かが違うとしかわからないまま、過ごしていてた。それがあったせいか、優頼はここ準バハムート級航空戦艦武蔵で住むことになった。

 子供一人で武蔵で暮らすとか、正気の沙汰ではなかった。だけど、―――一人で暮らすとかはしていた気がすると思っている。

 そう思ってしまう優頼。

 場面が変わり、武蔵の地に足を着けた優頼の姿が見えた。軽装ながら羽織っているのは鉄華団のマークが描かれた緑色のコート。だが、その花はまだ白いままだった。―――三河にいたのは一年ぐらいか?と思っている。

 階段の上にいたのは青ジャージを着た一人女性。

 

『待っていたわよ君が橘・優頼だね。私はオリオトライ・真喜子よ。担任じゃないけどよろしく!』

 

 若い頃のオリオトライの案内の元、自分の部屋に入った。生活するのに最小限の物しかなかったため買い物しに行く時だった。優頼はある店の前にいた。いつも世話になっている青雷亭(ブルーサンダー)で出会った。そこで遊ぶ三人の少年と少女に。

 

『お前どこから来たんだ?』

 

 イタズラ坊主のような笑顔がいい少年が話しかけてきた。最初は戸惑っていたが、意を決して話した。

 

『橘・優頼、三河からここ武蔵で住むことになった』

『三河から?仕事とか何か?あ、私はホライゾン。ホライゾン・アリアダスト。こっちが』

『俺は葵・トーリ!好きなように呼んでくれ!』

『私は葵・喜美。トーリの姉よ』

『ううん、親はいない。今日から初等部の寮で暮らすことになった』

『そうなの?なら、遊ばない!』

『いいよ』

 

 優頼はその場を離れようとしたが、それを引き留めたのはトーリ。

 

『まあ待てよ。俺たちが買い物手伝うよ!』

『俺は買い物とは言っていない』

『橘くんだけなんでしょう?』

『そうだけど。それなりのことはできるし』

『なら、うちで食べて行かない?』

『そうだぜ!なら、さっさと済まそうぜ!かーちゃんに買い物を頼まれるからわかるぜ!』

『……ならお願いするよ』

『『『Jud!』』』

 

 これがトーリと喜美、ホライゾンとの最初の出会いだった。

 その日から優頼には多くの仲間ができた。三人の共通の友達浅間智、人狼とのハーフネイト・ミトツダイラ、色々残念な忍者点蔵・クロスユナイト、拷問官志望の半竜キヨナリ・ウルキアガ、紹介ができないほどまだいるが優頼には始めてできた友達。

 ―――こいつらに会ったのはその時だっけな。忘れていたわけではないが。

 そして場面はあの日になっていた。忘れていけない葵・トーリ()後悔(始まり)。どの人物よりも強くどの仲間よりも王を守れる力を欲した者たち(馬鹿の仲間)

 それは事件は起きないじゃないかと思うほど晴れ晴れしていた。その日優頼は自分を拾った人物、松平・元信公のパレードを見に来ていた。そして近況報告もしようと考えていた。聞きなれた声が聴こえたので振り向くとホライゾンを追いかけているトーリを見つけた。ホライゾンは目を赤くし泣いていた。トーリは必死に追いかけている。優頼はそんな二人が気になって追いかけた。トーリはホライゾンを泣かすことは絶対にしないことは周知の事実。

 その時だった。目の前で大きな影が二人を襲ったのは。優頼は二人を助けようと飛び出した。だが、間に合わなかった。そこには血を流す二人の姿だった。

 

『あ、あ、ああああああああ!?また、助けられなかったのか?』

 

 また、助けられなかった。それは一度も助けたことがない優頼が言う言葉としては不適切なものだった。

 二人の周りに大人たちが駆け寄り、三河へ運んだ。

 優頼その場で泣くことしかできなかった。キューっと目の前に一体の生物が現れた。ライオンみたいだが鬣が星のようになっているマウスがいた。そのマウスの案内の下、優頼は覚束ない足取りで歩いて行った。どれくらい歩いたのだろうか武蔵を離れ三河の森の中にいた。マウスはそこに止まり、また泣いた。優頼は暗くなった目でそこを見ると光っている草を見つけた。マウスは地面に右足で器用に薬草と書いた。優頼の目に再び光が宿った。急いで集めて三河の病院へ持っていった。病院に着くとそこで気を失ってしまった。

 三度優頼はブエルの傍にいた。ブエルの近くには元信がいた。ただしホログラムみたいな存在として。元信はしゃべりだした。

 

『そうか、どうも手が付かないわけだ。このシステムはもしかしたら救えるかもしれない。だが、その前に私はやることがある。なら、私がするべきことは決まった!誰が救うのかわからないが、そのための教材を準備しよう。そして、供えようではないか!来るべき、君と君の主人が戦うために。私は先に行く!さらばだ、異世界から来た少年橘いや優頼、ガンダムブエル!』

 

 その場には半壊されたブエルがいた。

 優頼はゆっくりと近づき触った。撫でるように傷ついたその体を労わるように撫でた。

 

「いつもいつもそばにいたのはお前だったのか。ありがとう。だけどさ、お前から見せてもらった記憶は覚えていない。だけど、その世界で俺は守りたいもののために死んでいったんだな。

 なあ、もう一度俺に力を貸してくれないか?もう後悔はさせたくない相手がいる。もう悲しませたくない人がいる。もう一度俺にいや、俺のすべてを持っていっていい。力を寄越せよブエル!!」

 

 緑色の粒子がブエルから溢れて風のように吹き荒れていた。その目は紅く輝いていた。

 辺りが光り輝き、優頼はその世界から消え去った。

 目が覚めると、ベットの上に寝かされていた。傍に掛けているコートを取り、部屋を出た。今何が起きているのかわからなかったため、ネシンバラに連絡した。

 

「ネシンバラ、今どうなっている?」

『起きたのかい。では、簡潔に説明する。今武蔵は大罪武装の所持と三河の消滅のため聖連の管理下に一時的に置かれている。消滅した三河の責任を三葉ことホライゾン・アリアダストが自害すること。そして、僕たち元総長連合及び元生徒会が相対戦を行っている。今、こちらを試そうとしている三河警護艦艦長本多・二代と葵くんの姉さんが戦っている』

「了解。今、そちらに向かう」

『来ない方がいいけど、言っても来るんでしょう?』

「もちろん、それに『ピ、ピ、ピ、ピ、ピ!』やっぱいけなくなった!だけど、あいつが勝つのはわかる」

『自信があるんだね』

「これでも付き合いは長いからな。切るぜ、あともう少しで動かせるから、頼むぜ指揮官殿」

『ふっ、ああ完璧な戦略のもと、武蔵の完全勝利を導くよ!』

 

 通神を切り、ブエルが格納されている機関部へ向かった。

 

「おせぇぞ!」

「今行く!」

 

 数人の機関士がいそいで組み立てをしていた。優頼もその作業に入った。

 ホライゾン・アリアダスト処刑まで半刻を過ぎていた。


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