東方想伝録   作:司馬懿 雄也

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今回は早めに出せました。
言うて戦闘回なのでね笑


VS ニコラス XIV Temperance.

 

 

節制、欲望におぼれて度が過ぎないよう、適度につつしむこと。

ヒトはあらゆる欲望に溺れながら生きている。

「欲を捨てる」という言葉があるが、それは簡単に出来ることでは無い、自分の中では欲を捨てていると思っていても、頭の片隅、心の奥底には欲に溺れている。

今目の前で真の力を見せたニコラスの能力はそのあらゆる欲を強制的に低下させる能力。

それを行う事で対象は弱り、そこを叩いてくる。

厄介な能力だが、発動条件が厳しいので、かなり神経を使わないと不利になってしまう。

こちらも神経は使うが、間合いを取れば何も恐れることは無い、恐らく国山より弱いだろう。

そのニコラスは俺に真っ先に走り続け、握っている短刀を上から振り下ろした。

俺は身体を横に傾けて、回避した……が

 

 

「ッ!?」

 

 

その瞬間俺の全身が一気に重くなった。

重くなったというより重力を操られたとかではなく、一気にだるくなりすぎて重力に押し潰されそうな感覚だ…!

おかしい…確かにやつの攻撃は回避している、なのに何故この前の…いやそれ以上だ。

俺はこの気持ち悪い感覚を何とか押し殺して刀で短刀を弾くと、距離を取って霊夢から貰った栄養剤と痛み止めを口に含んだ。

ニコラスから肉眼でも分かるような禍々しい霊力…なるほどあれがXIV.Temperance(節制)か、あの霊力に触れるだけで倍増された奴の能力が俺自身にかかるという事か、ならばやり方は決まっている。

国山の時は木が沢山あったが今回は草原、また違うやり方だが、既に策は練ってある。

 

 

「どうした?もうおしまいか?」

 

 

霊力をばら撒きながらゆっくりと歩いてくるニコラスは表情ひとつ変えず短刀を構える。

 

 

「ハッ…それはこっちのセリフ…だ!」

 

 

ニコラスが距離を詰めたと同時に光は刀を使って地面を払うと、砂煙を起こした。

飛んでくる砂煙にニコラスは短刀で晴らすと、光の姿が無かった。

ニコラスは左右を見渡して、ため息をつくと躊躇う事無く回転しながら後ろを切りつけた。

同時に金属音が鳴った。

弾くと、光は足元を払ってバランスを崩させると、上に飛んで刀を振り下ろしたが、片手を軸に持ち直したニコラスはそのまま逆さになり、足で受け止めた。

光は少し驚いた顔をするが、直ぐに後ろに飛んで地を蹴ると、正面から切ると見せかけて下から振り上げるように切りつけた。

しかし、それを読んでいたのかニコラスは上手く受け流すとニコラスに見せた光の背中に短刀を振り下ろすが、光は何とか体を回転させて受け止めた。

 

 

「面白い小細工だな、恐らく国山も同様の手口で負けたんだろうな」

 

 

そう言いながらニコラスは霊力を強めると、明らかに光は顔をしかめた。

 

 

「くっ…!」

 

「だが、徐々に弱っているお前とこのXIV.Temperanceによって強くなった俺とでは比べるに値しない!」

 

 

ニコラスは更に霊力を強めると耐えられなくなった光を弾き飛ばした。

そのまま後ろに倒れた光を馬乗りにすると短刀を振り下ろすが刀で受け止める、しかしもう片方の腕で光の顔面を殴った。

 

 

「グハッ」

 

「お前を倒せば俺は上に立てる!無駄な足掻きはやめろ!」

 

 

何度も何度も、光の顔が傷だらけになっても殴りつづけた。

その時のニコラスの表情は節制とは程遠いものだった。

 

 

「お前を殺して、次は…そうだな…あのメイドから直々に始末してやろう…あいつのせいでここまで俺は追い込まれたそれ相応の罰は与えないとな…もちろんその周りにいる仲間もな!」

 

「………っ!」

 

 

光はニコラスの拳を頭を動かして避けると隙をついて横に転がって距離を取った。

 

 

「はぁ…はぁ…なかなかキツいの食らっちまったな…」

 

「もう一度言う、もうお前は終わりだ。疲れが溜まって思うような行動もできないどっちみちお前は死ぬ」

 

「それは…どうかな」

 

 

もう一度薬を口に含むと再び地を蹴った。

ニコラスは構えるとゆっくりと歩いてくる。

先に光が刀で地面を払い、砂煙を起こして身を隠す。

ニコラスは砂煙を晴らすと、光が目の前から切りつけた。

それを短刀で受け流し、切りつける、それを光は体を捻って回避すると、ニコラスの顔を片手で掴もうとするが、それを払われる。

ならばと一旦後ろに下がって構えると、走り出して刀を振ると見せかけて足でニコラスの短刀を土台に飛ぶと、そのまま落下するスピードに任せて刀を振った。

流石のニコラスもこれには無理があったのか受け止めるのではなく、その場から回避した。

落下した衝撃で砂煙が倍発生して、視界が悪くなった。

これには自力でも晴らすことは出来ず、自然に晴れるのを待つしか無かった。

しかし、それがニコラスにとって都合の悪い事だった。

 

 

「悪いが、こちとらお前みたいなやつに殺されるのも癪なんでな!」

 

「なにっ!?」

 

 

視界が悪くなった事を好機に光が背後から襲ってきた。

反応に遅れたニコラスは短刀で受け止めるも手から離してしまった。

 

 

「しまっーーー」

 

「おおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

 

光はガラ空きになったニコラスの腹部に拳をくい込ませた。

 

 

「ガハッ!」

 

 

胃液が逆流しそうになったが、なんとか抑えて後ろに下がった。

 

 

「……ようやく……1発お見舞い出来たぞ……」

 

「…どうやらお前を少し舐めていたようだ」

 

「ハッ…それはどうも」

 

「だが、もうお前は()()()()

 

 

ニコラスはニヤリと笑うと立ち上がり、右手を光に向けると、突然光が膝をついた。

 

 

「ぐぁ……?」

 

「俺の近くで能力を食らいすぎたようだな!お仲間から貰った薬すらも効かなくなってしまうくらいに!」

 

「く……!この野郎……!!」

 

「この能力は無敵だ!ノロノロと長期戦に持ち込まずに俺を殺せばよかったものを!はははは!!!やはり俺の勝利だ!死ねぇ!!!」

 

 

ニコラスは高らかに笑い、そのまま短刀を振り下ろしたーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……がそれは甲高い金属音と共にニコラスの攻撃は防がれてしまった。

 

 

「……は?」

 

「俺の勝ち…?()()()()()()()()()()()()()()()()()!!」

 

 

その瞬間先程のことが嘘のように光が立ち上がった。

ニコラスは短刀に力を入れて押し倒そうとしたが、光の力に押し負けて弾かれてしまう。

 

 

「馬鹿な!?お前にはそんな力は出せないはず!なぜ抗える!?」

 

「それができるんだよ()()()()でな」

 

「何…?」

 

 

光はそう言うと口の中ある薬を見せた。

 

 

「俺の能力は想いを力に変える、そしてこの薬はお前の能力を最低限抑える為に用意された物、その二つが合わされば何度でも俺は立ち上がる……だが生憎にも俺は人間だ、その行為にも限界はある今でも俺の身体は疲労が蓄積してもう立つだけでも精一杯…だがそれはお前を()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

 

光は口の中にある薬を飲み込むと、再び構えた。

 

 

「もしもどちらか片方が欠けてたら今頃俺は完全に負けてただろう……だが、この能力が俺を強くする!!……来いよ、あの方とやらに俺の首差し出すんだろ?だったらその能力で俺を殺してみろやぁ!!」

 

「……うわあああああああああぁぁぁ!!!!!!」

 

 

ニコラスは霊力を大幅に向上させると、地を蹴って走り出した。

 

 

「俺のこの一撃でお前を無惨な姿にしてやるぅ!!!!」

 

 

 

そして、短刀を振り下ろし、光に渾身の一撃を与える前に…

 

 

「そこだぁぁぁぁ!!!」

 

 

光の一太刀がニコラスの身体を切り裂いた。

 

 

「ば…か…なぁ……」

 

 

血まみれになったニコラスはそのまま光の粒となって消え、同時に光も体力に限界が来て膝を着くとゆっくりと地に伏せた。

 

 

 

 

 

広がる草原に静寂だけが残された。


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