丑満時 静夜を下した俺達は永遠亭に向かった後、それぞれ帰宅した。
幸い腹部の傷は開いておらず、再入院とはならなかった。
ただし絶対安静と釘を刺されたので大人しくすることにした。
気になっていたパチュリーの様子だが、永遠亭に着いた時には完全回復していた。
やはり魔法使いなだけに回復力は伊達じゃないな、そして咲夜さんと平田はあれだけの爆風を受けただけあって骨折していた。
2人も入院とまでは行かなかったが、しばらくの間安静するよう命じられた。
紅魔館に戻り早速レミリアにそれを報告し即刻咲夜さんに休暇命令を出した。
そしてその夜、光の自室にノックが響いた。
扉を開けると、右腕にギブスを付けた咲夜が立っていた。
「こんな夜にすいません、少しお話がしたくて」
「奇遇ですね、俺も丁度話したいと思っていたところです」
光は咲夜を部屋に入れると、椅子を用意して咲夜が座るとそれに対面するように座った。
「あの…今更なんですが、先日は私が取り乱して光さんを傷つけてしまい申し訳ありませんでした」
「気にしないでください、あの状況なら疑われて当然です……それより丑満時 静夜は元々紅魔館の執事長をやっていたんですねレミリアから聞きました」
「はい、私と静夜さんは幼くしてお嬢様の従者になりました。光さんもそれはお嬢様から聞いていますよね?」
「そうですね、咲夜さんが過去に酷い扱いを受けていた事、それを聞いて丑満時 静夜が咲夜さんに寄り添っていた事も…あの時何があったんですか?」
「……まずは私の過去から話しましょう、私は当時自身の能力で里の者から忌み嫌われていました、1度も危害を加えた覚えもないのに、能力者だと知っただけで『化け物』『悪魔』…と」
「………」
「特に男の人達からは言葉だけではなく殴ったり石を投げてきたり、挙句の果てには弱った私に漬け込んで、奴隷として売ろうと…!悪魔はどちらだと心の底から思いました」
「……聞いてるだけで胸糞悪い奴らですね」
「以降私は二度と他人を信じないと決めました特に男性には、そんな時ですお嬢様に出会ったのは、最初は高貴な方ですが、まだ見た目が幼く一人で歩いていたので
「いや、ちょっと待ってください咲夜さん貴女、レミリア殺そうとしてたんですか!?」
「お恥ずかしい話ですが…当時は一人で生きてましたし金品を盗もうと企んでました」
「レミリアの口からも聞いてないぞそれ…」
「そして光さんも知っての通りまだ幼くお嬢様が吸血鬼だということも知らなかった私は見事に敗れ、手を差し伸べられました」
「他の人にはすぐ打ち解けられたけど、丑満時 静夜とは最初犬猿の仲だったと聞きましたよ?」
「そうですね、この館に迎え入れられた直後同じく拾われた静夜さんを見て私は男達にされた事を頭に浮かべてしまい、静夜さんを殺しかけました」
「そこまでしたんですか!?レミリアといい丑満時 静夜といい…初っ端から派手にやらかしてますね〜…」
「う……返す言葉もないです」
「その後咲夜さんがメイド長に任命されたと同時に執事長になったんですよね」
「静夜さんはそんな私をずっと気にかけてくれました、私にとって暗闇に一筋の光を灯してくれた大切な人でした」
「でもそんな丑満時 静夜はどうしてあのように豹変してしまったんですか?レミリアからは謎の男に連れられて闇の中へ消えたと聞きましたが」
「当時静夜さんは能力者の子でありながら能力を持たない普通の人間でした、それを気にしていたのでしょうか静夜さんは誰よりも努力し、誰よりも苦労していました、時には敵に1人で立ち向かい、命を粗末に扱おうとしたり…」
「何とかしようという気持ちは奴にもあったんですね」
「その通りです、私もそんな静夜さんを見て大きな刺激を受けました、だけど静夜さんが変わってしまったのは恐らくお嬢様が異変を計画したあの赤い霧の異変……」
「やはり皆能力者だった中一人だけ違かったのを気にして?」
「そうですね私は安全な場所に避難してくださいと言いましたけど彼は戦おうとしていました…でも戦ったところで敗北するのは理解していました」
「そこに例の謎の男が現れたと」
「はい…私含め静夜さん以外の方々は誰もその男を見た訳ではありませんが、恐らくその人が静夜さんに能力を発現させたのだと思います」
「例え普通の人間でも能力者の子ですしね」
「それからお嬢様と妹様が霊夢と魔理沙に敗北した直後に静夜さんが立ちはだかりました、私も霊夢に敗北してその戦いを見る事しか出来ませんでしたが、その時の表情は何がなんでも守ってみせるという強い意志を感じました。でも相手は幻想郷の中でも最強クラスの能力者です負けるのは目に見えていました」
「その守りたいという
「恐らく…敗北した事で過去に戦闘で亡くなった父親と照らし合わせた事で静夜さんの心が砕けたのだと思います」
「奴はよく『復讐』を口にしていましたね、相当幻想郷に恨みを持っていたんだな…」
「それから私達紅魔館は幻想郷で暮らすことになりました、食材の買い出し等は静夜さんに任せていて私はずっと館で引きこもってましたから今のままじゃいけないと人里に顔を出すようになって交友関係を広げました。皆さん良い人達で安心しました……なのに」
咲夜さんは俯くと身体を震わせて、頬からは涙が流れていた。
「咲夜さん!?」
「私は…それで変われたと思い込んでいました……っ……この数ヶ月光さんと共に過ごしていたはずなのに……無差別に光さんを殺そうと……本気で……っ……こんなの……私に酷い扱いをしてきた奴らと同じじゃないですか……!」
「そんな事ありません…!咲夜さんはちゃんと変われてます」
「え……?」
「みんな時を重ねれば変わるんです。それはいい意味でも悪い意味でも、咲夜さんは他人を信じなかったけどレミリアと出会ってメイド長として変われたんですよ、そしてそれを俺にくれたんです」
「私が……光さんに……?」
「覚えてますか?俺が紅魔館に住むことになった日、咲夜さんは俺に変われと言ったんです。最初はとりあえず努力するか程度にしか感じてませんでしたが今は違う、紅魔館の皆を守りたいとそう思えるんです。その証拠に丑満時 静夜を倒した時に発現した新しいスペルカード、あれは咲夜さんの想いを貰ったからなんです。それは紛れもない俺が咲夜さんを信じているから」
「………!」
「まぁ紅魔館のみんなってだけで小さな一歩なんですけどね」
「………ふふ」
大粒の涙を流していた咲夜は左腕で拭い、光の方を向くと。
「ありがとう……ございます……!」
……と満面の笑顔でそう言った。
「………!」
しかし、光は目を見開いた。
それはドキッとしたではなく、脳裏に焼き付いている
「……光さん?」
「俺は……俺は……!」
「どうしたんですか!?光さん!」
呼吸が荒くなり、汗が止まらなかった。
また、この笑顔を…守れなかったら…俺は……。
そんな中視界に心配そうに見つめている咲夜さんの顔が見えた。
このままだと、どうにかなりそうだ。
暴走する前に…咲夜さんから離れないと……。
「……すいません、今日はお開きにしませんか?」
「え、あ…はい……」
そう答えると咲夜は心配した表情で部屋を出た。
光は自分の両手を見て震えている事を知るとそれを強く握った。
「……俺は何も変わってなんかいない、一歩も進めてねぇよ……」
・・・・・・・・・・・・・
一方その頃妖怪の山にて、静まった夜風に当たっていた射命丸文ともう一人招かねざる影が立っていた
「……取材するには少々リスクが必要のようですね」
「ほぉ?気配を消したつもりだったがそう甘くはなかったか」
「貴方が幻想郷に入る時点からバレバレでしたよ?そんなドス黒い霊力を放っているのに」
「ハハハ!ならもっと早く教えてくれてもいいじゃないか」
「そこまで私はお人好しではないですからね……何が目的だ」
「目的?俺達は最初から変わってないさ
「なら…今ここでお前を始末する」
「やれるものならやってみろ」
その夜、妖怪の山から爆発音が聞こえた。