時は遡って、光が永遠亭を出た後にまで至る。
光を見送った咲夜は膝を崩したままボーッとしていた。
しかし少しづつ時間が経ち、冷静になってくるに連れて咲夜の顔が段々真っ赤になり、両手で顔を覆った。
「(やってしまったああああああああああああ!!!……死んで欲しくないって気持ちも好きっていう気持ちも本心なのだけれど…まだ付き合ったわけじゃないのに勢いあまって…キ……キスしちゃったぁ……)」
咲夜は先程起きた出来事を思い返し、更に顔を真っ赤にした。
負傷や悪夢によって心身ともに弱り切っていたとはいえ異性の人間に心の内を明かすのは相当な勇気が必要、それどころか口付けまでしたときた。
一歩間違えれば嫌われる行為だ、咲夜はそれを大きく恥じた。
「これからあの人とどう接すればいいのよぉ…」
「咲夜…!ついにやったのね!私嬉しいわ!」
「ひゃあぁ!お、おおおおおお嬢様!?いつからいらしたのですか!?」
すると背後からまるで成長した娘を見て感動したような表情をしているレミリアと呆れ顔の永琳が立っていた。
「普通あんな大声で泣かれたら何事かと思うわよ、慌てて見に来たと思ったら他人の病院で何してるのよ貴女達は…」
「うぅ…返す言葉もないです…」
「そんなことより咲夜!どうだったの!?光からなんて言われたの!?」
レミリアは目をキラキラ輝かせながら咲夜に迫った。
それに対して咲夜は少し悲しそうな表情をした。
「残念ですが今はその気持ちに答えられないって言われてしまいました…だけど、彼は言ってくれました「私の為に必ず生きて帰る」って…それが嬉しくてつい…口付けを……嫌われちゃいましたよね…流石に」
それを聞いたレミリアは鳩が豆鉄砲を食らったような顔をした。
一方その後ろにいた永琳はため息をついて頭を抱えた。
「それって……
もう結婚じゃない!!!!」
「…はい?」
「貴女の為に生きて帰るなんてカップルどころか夫婦の会話よ!!!……あなた達ねぇ…もう少し段取りを…」
「えっと…お嬢様…それは一体どういう…?」
「貴女達の会話が完全に戦いに行く夫と寂しくて引き止めてしまう妻の会話だってレミリアは言いたいのよ、貴女の為に生きて帰るだなんて…普通友達とかの関係じゃ発しない言葉よ?」
「それって…つまり…?」
「彼はその気持ちに答えられないとか言ってるけど、本当は光も貴女と同じ気持ちなのよ」
「そう……なのでしょうか……」
「とにかく、こんな廊下のど真ん中で腰抜かしてないで自分のベッドに行きなさいその後はいくらでも惚気話してもいいから」
「分かりました…すみません…」
咲夜はレミリアに付き添ってもらいながら病室のベッドへと戻った。
しかし咲夜の表情は未だ暗いままだった。
「……聞かせてちょうだい、何があったの?」
「お嬢様には本当に敵いません…実は…」
咲夜は気を失っている間に見た悪夢の事を話した。
光が自分達を傷つけた相手を倒すために戦いに行ったこと、そして最悪結末を迎えてしまったことも。
「そういう事だったのね」
「申し訳ございません…本当はお嬢様にも話すつもりだったのですが…程なくして光さんが出ようとしていたので…」
「大丈夫よ、分かってる、そんな夢を見た直後に同じような光景を見たら誰だって焦るわ、ましてや好きな人だったらね」
「あぅ……」
「咲夜も乙女ねぇ…私達が出会う前の事とか静夜の事があったからもうそんな感情なんてとっくに無いと思ってたけれど…余計な心配だったわね」
「私もです…もうこんな感情抱かないと思ってました…それほどまでに私にとって光さんはかけがえのない存在なんだと思います」
「やっぱりあの時、
レミリアは微笑みながらそう言うと、咲夜は「はい!」と満面の笑みで答えた。
・・・・・・・・・・
あれからどれくらい時間が経ったのだろう。
明るかった空もオレンジ色に染まっており、日が暮れようとしていた。
咲夜は光の帰りを待つ為に、ただただ窓の外を眺め続けていた。
レミリアはその間、咲夜の傍で同じく光の帰りを待っていた。
そして…。
「永琳!永琳!!!早く来てくれ!」
「これは…」
「光さん……?」
永遠亭の玄関の扉が思いっきり開けられた音がしたと共に暗上の焦った声が聞こえた。
その声に急いで向かった永琳のなんとも言えない声が聞こえ、咲夜は光に何かあったのだと察するには時間は要さなかった。
ベッドから飛び出した咲夜は病室の扉を開けて玄関の方へ向かった。
そして咲夜が見た光景は焦った表情の暗上とその傍らには意識が無い血まみれの光が居た。
「あ……あぁ……」
咲夜はあの悪夢を思い出したのかその場で立ち尽くした。
永琳は暗上にそのまま治療室へ連れて行くよう指示し、鈴仙に医療器具の準備をさせた。
咲夜は光の元へ向かおうとしたが、あまりのショックに下半身に力が入らなかった。
どうしようもない状況にただ俯くしかなかった。
「嫌だ…嫌だよ…光さん…」
「まったく…ハエみたいな声出されてすごく不愉快よ」
そんな咲夜を見て呆れ返ったのか背後から霊夢が現れた。
「霊夢…」
「安心しなさい、永琳なら何がなんでも死なせないわ」
「でも…」
「約束したのでしょう?ならあいつが目覚めるのを信じなさい」
「……そうね、ごめんなさい早とちりしてしまったわ」
その意気よと霊夢は言うとようやく咲夜の表情が和らいだ。
程なくして治療室から永琳が出てきた。
「永琳、光の状態は?」
「強力な力を使った事による反動でかなりダメージを受けたみたいだけど…命に別状は無かったわ、少し経てば目覚めるはずよ」
「………」
咲夜はその言葉を聞いて膝から崩れ落ちた。
彼は約束通り
「よかった……本当によかった……」
「とりあえず処置は完了したから、傍に居てあげて」
「ほら!いつまでも座ってないでさっさと行きなさい!」
霊夢に背中を押された咲夜はすごい速さで治療室へと向かった。
そして、ベッドの上で治療を受けた光とその傍で包帯を巻かれた暗上が座っていた。
「咲夜さん来てくれたのか、安心してくれ!光ならもうすぐ目覚めるはずだ」
咲夜は安堵の表情で暗上の反対側の椅子に腰掛けると、光が目覚めるのを待った。
程なくして光が目を覚ました。
「咲夜…さん…?」
「……おかえりなさい、光さん」
「……ただいま」
・・・・・・・・・・・・
その後永琳に診察されて、結論から言うと
恐らくスペルカード『想集六連斬』が原因だろう。
金山との一騎打ちの時にかなりの時間を有したから、それがかえって身体に影響を及ぼした。
強力な技である程その分反動も大きいのは能力者としてよくある話だ、やはりこのスペルカードはここぞという時に使うべきだな。
光は右手にあるスペルカードを見ながら今後の使用方法について考えていた。
すると病室の扉をノックする音が聞こえた。
「咲夜です、光さん居ますか?」
「居ますよ、入ってください」
失礼しますと言って扉を開けた咲夜は目元が腫れていた。
あれだけ泣いたのだから当然と言えば当然か。
咲夜は黙ったままベッドのそばにある椅子に腰かけると深呼吸をして意を決して口を開いた。
「申し訳ございませんでした光さん、あの時の私は身勝手すぎました」
「ど、どうしたんですか突然!?」
「まだ光さんからちゃんとした返事も貰っていないにも関わらず…その…口付けを…したので!……不愉快な思いをしたはずなので…」
「あ、あぁ〜…」
光は咲夜に告白された時の事を思い出した。
正直咲夜からいきなりキスされたのは驚いたが、不愉快な思いはこれっぽっちも無かった。
そもそもこうなったのは光自身が曖昧な返事をした挙句変な約束をしたのが原因だ。
光が全部悪い、うん。
「だからその…本当に申し訳ございませんでした!」
「ちょ、ちょっと待ってください咲夜さん!俺は一ミリも不愉快な思いはしてませんよ!」
「え?」
「正直あのような形でファーストキスを奪われたのはビックリしましたが、それは俺が中途半端な返事をしたのが原因ですし、咲夜さんは謝る必要はありませんよ」
「ですが…」
「それに金山との戦いをしていく中で俺は気付いたんです」
光は徐にひとつのスペルカードを取り出すとそれを見せた。
「このスペルカードは丑満時 静夜との戦いで発現したスペルカードなのですが、実はその後別のタロットカード使いと戦った時に一度不発したんです、それがあって以降は二度と使うことはありませんでした…ですが」
光はスペルカードを持つ手とは逆に咲夜の手を握ると目を合わせて微笑んだ。
「咲夜さんのお陰で…咲夜さんという存在がこのスペルカードを再び発動することが出来ました、咲夜さんの想いが俺に力をくれたんです。正直俺は好きという感情が分かりませんでしたが、
「……!」
「だから…改めて俺から言わせてください…
「……っ……うぅ……」
その言葉に咲夜は大粒の涙を流した。
だが、光は戸惑う事も驚く事もしなかった。
何故なら彼女の涙は歓喜に満ち溢れていたから。
「こちらこそ……よろしくお願いします……光さん、約束を守ってくれてありがとう……私も……貴方が好き……大好きです…!」
「………へへ」
咲夜の言葉を聞いた光は優しく抱き締めた。
この日、星空が彼らを祝福していた。
これまでも、これからも光は武器を取り幻想郷に降り掛かる脅威と戦い続ける。
という訳で初投稿してからちょうど6年が経過したこの日に、二人が付き合うという奇跡的な展開まで持ってこれました。
いや〜長かった。
出会ってすぐ付き合うのもどうかと思ったのでここら辺がいいタイミングかなーと思いました。
これからも駄文駄作の不定期更新ですが読んでいただけると幸いです。